掘削装置及びドリルビットユニット
【課題】機構がシンプルで安価であり、更に軽量でありながら安定した掘削性能を発揮する、新規且つ有用な掘削装置と、これに用いるドリルビットユニットを提供する。
【解決手段】遊星歯車機構を用いて、モータの回転方向に対して逆転するドリルビットを積層した。モータの回転に伴って、ドリルビットに発生する、動摩擦に起因する回転反力を相殺することで、掘削装置の土台となるやぐらが回転することを防ぎ、安定性を向上することができる。
【解決手段】遊星歯車機構を用いて、モータの回転方向に対して逆転するドリルビットを積層した。モータの回転に伴って、ドリルビットに発生する、動摩擦に起因する回転反力を相殺することで、掘削装置の土台となるやぐらが回転することを防ぎ、安定性を向上することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削装置及びこれに用いるドリルビットユニットに適用して好適な技術に関する。
より詳細には、小型でありながら安定した掘削性能を発揮する、掘削装置及びドリルビットユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
地質調査は、建築物を建立したり、未開の地を調査する等の目的で実施される、重要な調査である。その方法は、所定の掘削機械を用いて地面を掘り進め、地質を調べる。地質調査の手法には、標準貫入試験(JIS A 1219)やスウェーデン式サウンディング試験(JIS A 1221)が周知である。
なお、本発明に関係すると思われる先行技術文献を非特許文献1に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】水野昇幸,吉田和哉:月・惑星掘削探査ロボットのプロトタイプ開発,計測自動制御学会東北支部,第199回研究集会,資料番号199-3,(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
標準貫入試験は、地盤の工学的性質(N値)を直接的に得られるため、広く実施されているが、その反面、調査費用が数十万円と高額であることが欠点である。更に、軟弱地盤では採取したデータの誤差が大きくなってしまい、調査に適さない、という欠点もある。こういった見地から、安価でありながら容易に地質調査を実施できる手法或は装置の登場が望まれている。
【0005】
ところで、地質調査のニーズは地球上に限られない。将来、人類が宇宙に進出するためには、先ずその場所の調査が必須であり、その調査には地質調査も当然含まれる。地球から最も近い天体は月であり、月の地質調査についても研究が進んでいる。非特許文献1は、この月の地質調査に用いられる掘削機械の技術内容を開示している。
【0006】
周知のように月には大気がない。故に、月は地球と違って、宇宙空間から飛来する微粒子や隕石等の落下物が大気と摩擦して燃え尽きる、という現象が生じない。このため、月面はレゴリスと呼ばれる、宇宙から飛来する微粒子等に起因する砂で覆われていることが知られている。このような月面で地質調査を行う、ということは、地球で言えば砂漠のような軟弱地盤で地質調査を行う、という行為に近いことが想像できる。
更に、月面調査を行うに当たっては、先ずは無人調査を実施することとなるが、宇宙船等を打ち上げるためのロケットは極めて高額である。特に、打ち上げる物体の重さは、ロケットの推進能力を大きく左右する。従って、ロケットに乗せて月面に降ろす調査機械は、できる限り軽量であることが求められる。
【0007】
通常、掘削機械にはモータで駆動するドリルが設けられ、ドリルが地面を掘り進める。掘削機械が軽量であると、掘削機械が安定しないので、ドリルが地面を掘れずに、掘削機械自体がドリルを中心に回ってしまう、という事故を生じる虞がある。
非特許文献1は、このような事故の発生を防ぐため、モータに加わる回転反力を相殺する、三つのドリルビットを備えたドリルビットユニットが開示されている。しかし、三つのドリルビットを備える、という設計は、ドリルビットユニット自体が大型になってしまい、軽量化が難しい。更に、三つのドリルビットを備える、ということは、それだけ部品点数が多いので、装置のコストが上昇する。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、機構がシンプルで安価であり、更に軽量でありながら安定した掘削性能を発揮する、新規且つ有用な掘削装置と、これに用いるドリルビットユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の掘削装置は、モータと、地面に置かれてモータを上下動させるやぐらと、モータの回転軸を取り囲み、モータに固定される固定管と、回転軸に直結される下部ドリルビットと、下部ドリルビットと逆方向に回転する上部ドリルビットとを有する。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明のドリルビットユニットは、モータの回転軸によって直接回転駆動される下部ドリルビットと、回転軸によって直接回転駆動される太陽歯車と、太陽歯車に接触して回転駆動される複数の遊星歯車と、複数の遊星歯車の回転軸を把持する回転軸把持部と、モータの本体と回転軸把持部に固着されて回転軸把持部の回転を阻止する固定管と、遊星歯車に接触して回転駆動される外輪歯車を備える上部ドリルビットとを有する。
【0011】
遊星歯車機構を用いて、モータの回転方向に対して逆転するドリルビットを積層した。モータの回転に伴って、ドリルビットに発生する、動摩擦に起因する回転反力を相殺することで、掘削装置の土台となるやぐらが回転することを防ぎ、安定性を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機構がシンプルで安価であり、更に軽量でありながら安定した掘削性能を発揮する、新規且つ有用な掘削装置と、これに用いるドリルビットユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の例である、掘削装置の全体構成図である。
【図2】モータとドリルビットユニットを拡大した図である。
【図3】ドリルビットユニットの原理を示す概略図である。
【図4】ドリルビットユニットを分解した状態の図である。
【図5】下側ドリルビットの外観図である。
【図6】上側ドリルビットの外観図である。
【図7】ドリルビットユニットの断面図である。
【図8】上側ドリルビットの底面を示す概略図である。
【図9】下側ドリルビット及び上側ドリルビットに加わる力と、下側ドリルビット及び上側ドリルビットの大きさを決定するための概念図である。
【図10】本発明のもう一つの実施形態の、ドリルビットユニットの外観斜視図及び上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図10を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の例である、掘削装置の全体構成図である。
掘削装置101は、やぐら103と、モータ104と、モータ104を載置する載置台105と、モータ104によって回転されるドリルビットユニット108と、ドリルビットユニット108とモータ104の間に介在する固定管107を備える。
地面102の上に組み上げられたやぐら103は、モータ104を載置する載置台105が上下に移動できるためのレール106を備えている。
モータ104は載置台105に組みつけられている。図示しないモータ104の駆動軸(図示せず、図2にて後述)は固定管107に収納されている。固定管107はモータ104と共に載置台105に組みつけられており、モータ104が回転しても回転しない。固定管107はモータ104の回転駆動力に対しても回転しないことが求められるので、アルミニウム或は鉄等の金属や、アクリル等の合成樹脂等の、硬質の材質で構成される。
【0016】
なお、これ以降説明する各部の材料は、基本的に硬質の材質が用いられる。ゴムやビニール等の、弾性或は塑性を備える必要はない。その材質は、ある程度の硬ささえ備わっていれば、金属であってもなくても構わない。従って、後述する各部の材料と材質は、それに縛られるものではない。
更に、モータ104は電動モータに限られない。例えばエンジン等の、回転駆動力を発生する動力源であればよい。
【0017】
モータ104の駆動軸は、固定管107の先に取り付けられているドリルビットユニット108を回転駆動する。
モータ104がドリルビットユニット108を回転駆動させた状態で、載置台105が徐々に下がると、地面102がドリルビットユニット108によって削られ、地面102に穴が開く。そして、ドリルビットユニット108は載置台105の移動と共に地面102を掘り進む。
なお、載置台105を上下動させる機構については、発明の趣旨から外れるので詳細を省略する。所定の自動駆動機構を設けても、手動であってもよい。
【0018】
図2は、モータ104とドリルビットユニット108を拡大した図である。
略円錐形状のドリルビットユニット108は、底面に平行な面で分割された二つのドリルビットを備える。一つは、円錐のふもと側に該当する上側ドリルビット202である。もう一つは、円錐の頂上側に該当する下側ドリルビット203である。
下側ドリルビット203は、モータ104の駆動軸204に直結されている。つまり、モータ104の回転駆動力と回転方向がそのまま伝達される。
上側ドリルビット202は、その内部に後述する遊星歯車機構を内蔵しており、モータ104の回転方向と逆方向に回転駆動される。
このため、図示を省略しているが、下側ドリルビット203の表面に設けられている、地面102を掘削するための刃の方向と、上側ドリルビット202の表面に設けられている、地面102を掘削するための刃の方向は、逆である。なお、刃の方向については、図4、図5及び図6で後述する。
【0019】
図3は、ドリルビットユニット108の原理を示す概略図である。なお、概略図である関係上、固定管107の表示を省略している。
図3で、駆動軸204が矢印A301に示すように時計回り逆方向に回転すると、その回転力及び回転方向がそのまま下側ドリルビット203に伝達され、下側ドリルビット203も矢印A302に示すように時計回り逆方向に回転する。
【0020】
一方、駆動軸204には上側ドリルビット202に該当する箇所に太陽歯車303が固定されている。太陽歯車303が矢印A301に示すように時計回り逆方向に回転すると、太陽歯車303の周りに配置されている遊星歯車304a、304b、304c及び304dが、太陽歯車303によって時計回り方向に回転する。ここで、図示を省略しているが、全ての遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は円盤によって固定されている。更にその円盤は固定管107に組みつけられている。このため、遊星歯車304a、304b、304c及び304dは、自転はするけれども公転はしない。したがって、遊星歯車304a、304b、304c及び304dの回転駆動力は、上側ドリルビット202の内側に設けられた外輪歯車202aを駆動する。すると、上側ドリルビット202は、矢印A305に示すように時計回り方向に回転駆動される。
【0021】
本実施形態の上側ドリルビット202に組み込まれている遊星歯車機構は、自動車のギア等で用いられる遊星歯車機構とは異なり、太陽歯車303の駆動方向に対して逆の回転方向に外輪歯車202aを回転駆動させるための、回転方向反転機構として用いている。回転方向を逆転させるために、遊星歯車304a、304b、304c及び304dを公転させない部材が必要になる。これが、図示しない円盤と、固定管107である。これらの詳細は図7で後述する。
【0022】
図4は、ドリルビットユニット108を分解した状態の図である。
駆動軸204は真鍮の棒であり、その先端は下側ドリルビット203を固定するためにねじ切りされている。
固定管107には遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸を固定するための第一円盤402と第二円盤403が固定されている。そして、第二円盤403には固定管107を固定するための固定筒404が設けられている。
【0023】
上側ドリルビット202の内側は、第一円盤402、第二円盤403、そして第一円盤402と第二円盤403に挟まれる遊星歯車304a、304b、304c及び304dを収納する円筒形状のギア室405が設けられている。ギア室405の側壁には、外輪歯車202aが形成されている。
上側ドリルビット202の底面には、ギア室405に第一円盤402、第二円盤403及び遊星歯車304a、304b、304c及び304dを収納するための蓋407が設けられている。蓋407の中心には、固定筒404が貫通する穴407aが設けられている。この穴407aは、上側ドリルビット202の回転を妨げないように、固定筒404の直径よりも大きく設けられている。
【0024】
図5(a)、(b)及び(c)は、下側ドリルビット203の外観図である。
図5(a)は、下側ドリルビット203の外観斜視図である。先端から見ると、時計回り方向に刃203aが設けられている。
図5(b)は、下側ドリルビット203を真横から見た図である。
図5(c)は、下側ドリルビット203の底面図である。下側ドリルビット203には四つの刃203aが設けられている。中心には駆動軸204を固定する穴203bが設けられている。
【0025】
図6(a)及び(b)は、上側ドリルビット202の外観図である。
図6(a)は、上側ドリルビット202の外観斜視図である。図5(a)に示した下側ドリルビット203と比較すると判るように、下側ドリルビット203とは逆方向の刃202aが四つ設けられている。つまり、下側ドリルビット203の先端側から見ると、時計回り逆方向に刃202aが設けられている。
図6(b)は、上側ドリルビット202を真上から見た図である。中心には、駆動軸204とは逆方向に回転するため、駆動軸204の回転を妨げないように、駆動軸204より大きい穴202bが設けられている。
【0026】
図7は、ドリルビットユニット108の断面図である。
前述の通り、固定管107には遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸を固定するための第一円盤402と第二円盤403が固定されている。そして、第二円盤403には固定管107を固定するための固定筒404が設けられている。したがって、固定管107、固定筒404、第一円盤402及び第二円盤403はモータ104が回転しても回転しない。
また、前述の通り、上側ドリルビット202の内側に設けられている円筒形状のギア室405には、第一円盤402、第二円盤403、そして第一円盤402と第二円盤403に挟まれる遊星歯車304a、304b、304c及び304dが収納されている。この遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は第一円盤402と第二円盤403によって固定されているので、モータ104が回転しても公転せず、自転のみする。
【0027】
図8は、上側ドリルビット202の底面を示す概略図である。なお、第二円盤403は点線で示している。
モータ104が回転しても、固定管107及び固定筒404に固定されている第二円盤403は回らない。そして、遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は、第二円盤403によって固定されている。もし、第二円盤403が存在しないと、遊星歯車304a、304b、304c及び304dは太陽歯車303と外輪歯車202aとの間の空間を自由に公転する。しかし、第二円盤403によって公転が妨げられるため、太陽歯車303の回転力は直接遊星歯車304a、304b、304c及び304dが自転する力となって、回転方向が反転されて外輪歯車202aに伝達する。
【0028】
図9は、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202に加わる力と、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202の大きさを決定するための概念図である。
本実施形態のドリルビットユニット108は、地面102と下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202との間に発生する、動摩擦の影響を受ける。従来技術では、単一のドリルビットだけで構成されていたが、モータ104が回転し、ドリルビットが地面102と接触する際に発生する回転反力が、掘削動作を阻害していた。この回転反力は、ドリルビットと地面102との間の動摩擦に起因する。この動摩擦力を基に、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202に加わるモーメントを相殺する、最適な大きさの比を考える。
【0029】
一般に、ドリルビットの表面にかかる土圧の計算方法は数種類存在するが、ここではランキン土圧を用いることにする。ランキン土圧では垂直方向、水平方向の土圧σv、σhをそれぞれ深さz、砂の密度γ、静止土圧係数K0を用いて表すことができる。式(1)に土圧の垂直方向成分σv、式(2)に土圧の水平方向成分σhを示す。
【0030】
【数1】
【0031】
この二つの力の合成力のドリル表面に対する垂直成分をドリルに加わる土圧Fとする。表面動摩擦係数をμ’とすると、ドリルが回転した際に表面から接線方向に加わる摩擦力はμ’Fとなる。摩擦力μ’Fにドリルビットの半径rをかけたものがドリルの軸周りのモーメントとなる。半径rはr=xtanθと表すことができる。半径rの点における動摩擦力を積分することにより、ドリルの表面全体が受ける動摩擦力を求めることが出来る。
【0032】
下側ドリルビット203の表面全体が砂との摩擦によって受ける力をTp、上側ドリルビット202の表面全体が砂との摩擦によって受ける力をTrとすると、それぞれを式(3)、式(4)のように表すことができる。
【0033】
【数2】
【0034】
摩擦力による回転反力が互いに打ち消されるためには、Tp=Trとなればよい。このとき、Hとhの関係はH=(√2)*hとなる。これより、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比は、以下のようになる。
【0035】
【数3】
【0036】
つまり、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比((H−h):h)は、ドリルビットを構成する円錐の高さや傘の角度には依存せず、一定の高さの割合で分割することができる。更に、周知のように動摩擦力は速度に依存しないので、摩擦力のみを考えた場合、遊星歯車機構によって生じる上側ドリルビット202と下側ドリルビット203の回転速度の違いは、回転反力に影響しない。したがって、遊星歯車機構を用いることにより上側ドリルビット202の回転速度が遅くなっても、上側ドリルビット202が動摩擦状態を維持している限り、動摩擦力を相殺する性能、転じてドリルビットユニット108の掘削性能には殆ど影響しない。
【0037】
実際には、実験をしてみると回転反力を完全には打ち消すには至っていない。この回転反力は、遊星歯車機構の遊星歯車304a、304b、304c及び304dの、公転しようとする力が回転反力となって固定管107に加わることに起因する。そこで、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との大きさの比((H−h):h)は、(√2)−1:1よりも上側ドリルビット202の高さを高く設計すると、良好な回転反力相殺効果を得られるものと期待できる。
【0038】
前述の、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比の式は、動摩擦力に起因する回転反力を相殺するための式である。この式に基づいてドリルビットユニット108を設計すると、計算上、残る回転反力は遊星歯車機構そのものを駆動する力に起因する。以上のことを考慮すると、やぐら103が回転反力に耐えられずに回ってしまう事故を防ぐために、やぐら103は、この回転反力に耐え得るに必要な剛性を備えていればよいことが判る。つまり、本実施形態のドリルビットユニット108を採用すれば、やぐら103が地面102に固定されるために必要な重量を軽くでき、剛性も小さく済み、また地面102を把持する仕組み等も簡略化できる。
勿論、遊星歯車機構自体に起因する回転反力も相殺する設計にすれば、やぐら103の、地面102との固定を維持する仕組みも極限まで簡素化できるだろう。
【0039】
本実施形態には、以下のような応用例が考えられる。
(1)本実施形態のドリルビットユニット108は、円錐形に限られない。一例を図10に示す。
図10(a)及び(b)は、本発明のもう一つの実施形態の、ドリルビットユニットの外観斜視図及び上面図である。図10に示すように、平坦な円盤状に形成することもできる。
【0040】
(2)本実施形態では、上側ドリルビット202にモータ104の回転方向と反対方向の回転力を与えるために、遊星歯車機構を採用した。回転力を反転させる機構としては、この他に周知の差動歯車機構等も利用可能である。
【0041】
(3)本実施形態のドリルビットユニット108が正常に稼動するためには、動摩擦が上側ドリルビット202と下側ドリルビット203とでバランスしていることが前提条件である。つまり、掘削作業の際、掘削している地面102の中に極めて硬い層に接触した等の、何らかの原因で一旦ドリルビットユニット108の回転が止まってしまうと、再度ドリルビットユニット108の回転駆動を再開する際、動摩擦のバランスが崩れてしまう。つまり、静止摩擦の状態から回転駆動を開始するので、回転反力の相殺がうまく行われない虞がある。
このような事故を防ぐ工夫として、ドリルビットユニット108の回転が止まってしまった場合には、一旦ドリルビットユニット108を引き上げて、空転状態で回転駆動を再開してから、再度掘削を進めるとよい。
以上より、載置台105を上下動させる機構に、モータ104の回転速度を監視し、回転が止まったら載置台105を引き上げ、再度下げる、という制御動作を与えると、より安定した掘削性能が期待できる。
【0042】
(4)固定管107は、必ずしも硬質の金属管でなければならない訳ではない。固定管107の役割は、駆動軸204の回転に対し、第一円盤402及び第二円盤403を固定し、遊星歯車304a、304b、304c及び304dを公転させないための、ストッパである。つまり、固定管107は、駆動軸204に起因する捩れ力に抗することができればよい。つまり、捩れなければ、固定管107は曲がってもよい。勿論、固定管107が自由に屈曲する構成を採る場合は、駆動軸204も同様に屈曲できる必要がある。
固定管107と駆動軸204が協調して屈曲可能になれば、地面を掘削する際に硬い箇所を回避して掘り進めることが可能になる。
【0043】
(5)モータ104を、ドリルビットユニット108が形成する穴に収まる位に小型にすると、モータ104とドリルビットユニット108を、掘り進める穴に納めることができる。この場合、載置台105を設けない代わりに、穴に入るモータ104に加わる回転反力を抑止する機構を、やぐら103に設けることが考えられる。
【0044】
本実施形態においては、掘削装置101とこれに用いるドリルビットユニット108を開示した。
モータ104の回転に伴い、地面102とドリルビットとの間で生じる、動摩擦力に起因する回転反力を、モータ104と逆方向に回転する上側ドリルビット202を併せることで、回転反力を相殺した。回転反力が相殺されることで、モータ104に加わる回転反力は極小になり、やぐら103の安定性が向上する。すなわち、安定した掘削能力を発揮できる。
【0045】
この安定した掘削能力は、地面102が柔らかく不安定である場合に極めて有効である。特に、月面ではレゴリスと呼ばれる、宇宙から飛来する微粒子等に起因する砂で覆われているので、掘削装置101を安定させるためにも、回転反力はできるだけ少ない方が好ましい。更に、月面探査は大掛かりで重い機材を搬出させることが極めて困難である。このため、掘削装置101はできるだけ軽量且つ小型であること、更にモータ104はトルクが稼げないので、低トルク且つ高速回転で掘削することが望まれる。
本実施形態のドリルビットユニット108は、回転反力を相殺する機構がドリルビット内部で完結するので、機構部分を極めて小型に形成することが容易に実現できる。また、小型且つ軽量であるが故に、高速回転に適している。
【0046】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0047】
101…掘削装置、103…やぐら、104…モータ、105…載置台、108…ドリルビットユニット、107…固定管、102…地面、106…レール、202…上側ドリルビット、202a…外輪歯車、203…下側ドリルビット、204…駆動軸、303…太陽歯車、304a、304b、304c、304d…遊星歯車、402…第一円盤、403…第二円盤、404…固定筒、405…ギア室、407…蓋
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削装置及びこれに用いるドリルビットユニットに適用して好適な技術に関する。
より詳細には、小型でありながら安定した掘削性能を発揮する、掘削装置及びドリルビットユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
地質調査は、建築物を建立したり、未開の地を調査する等の目的で実施される、重要な調査である。その方法は、所定の掘削機械を用いて地面を掘り進め、地質を調べる。地質調査の手法には、標準貫入試験(JIS A 1219)やスウェーデン式サウンディング試験(JIS A 1221)が周知である。
なお、本発明に関係すると思われる先行技術文献を非特許文献1に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】水野昇幸,吉田和哉:月・惑星掘削探査ロボットのプロトタイプ開発,計測自動制御学会東北支部,第199回研究集会,資料番号199-3,(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
標準貫入試験は、地盤の工学的性質(N値)を直接的に得られるため、広く実施されているが、その反面、調査費用が数十万円と高額であることが欠点である。更に、軟弱地盤では採取したデータの誤差が大きくなってしまい、調査に適さない、という欠点もある。こういった見地から、安価でありながら容易に地質調査を実施できる手法或は装置の登場が望まれている。
【0005】
ところで、地質調査のニーズは地球上に限られない。将来、人類が宇宙に進出するためには、先ずその場所の調査が必須であり、その調査には地質調査も当然含まれる。地球から最も近い天体は月であり、月の地質調査についても研究が進んでいる。非特許文献1は、この月の地質調査に用いられる掘削機械の技術内容を開示している。
【0006】
周知のように月には大気がない。故に、月は地球と違って、宇宙空間から飛来する微粒子や隕石等の落下物が大気と摩擦して燃え尽きる、という現象が生じない。このため、月面はレゴリスと呼ばれる、宇宙から飛来する微粒子等に起因する砂で覆われていることが知られている。このような月面で地質調査を行う、ということは、地球で言えば砂漠のような軟弱地盤で地質調査を行う、という行為に近いことが想像できる。
更に、月面調査を行うに当たっては、先ずは無人調査を実施することとなるが、宇宙船等を打ち上げるためのロケットは極めて高額である。特に、打ち上げる物体の重さは、ロケットの推進能力を大きく左右する。従って、ロケットに乗せて月面に降ろす調査機械は、できる限り軽量であることが求められる。
【0007】
通常、掘削機械にはモータで駆動するドリルが設けられ、ドリルが地面を掘り進める。掘削機械が軽量であると、掘削機械が安定しないので、ドリルが地面を掘れずに、掘削機械自体がドリルを中心に回ってしまう、という事故を生じる虞がある。
非特許文献1は、このような事故の発生を防ぐため、モータに加わる回転反力を相殺する、三つのドリルビットを備えたドリルビットユニットが開示されている。しかし、三つのドリルビットを備える、という設計は、ドリルビットユニット自体が大型になってしまい、軽量化が難しい。更に、三つのドリルビットを備える、ということは、それだけ部品点数が多いので、装置のコストが上昇する。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、機構がシンプルで安価であり、更に軽量でありながら安定した掘削性能を発揮する、新規且つ有用な掘削装置と、これに用いるドリルビットユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の掘削装置は、モータと、地面に置かれてモータを上下動させるやぐらと、モータの回転軸を取り囲み、モータに固定される固定管と、回転軸に直結される下部ドリルビットと、下部ドリルビットと逆方向に回転する上部ドリルビットとを有する。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明のドリルビットユニットは、モータの回転軸によって直接回転駆動される下部ドリルビットと、回転軸によって直接回転駆動される太陽歯車と、太陽歯車に接触して回転駆動される複数の遊星歯車と、複数の遊星歯車の回転軸を把持する回転軸把持部と、モータの本体と回転軸把持部に固着されて回転軸把持部の回転を阻止する固定管と、遊星歯車に接触して回転駆動される外輪歯車を備える上部ドリルビットとを有する。
【0011】
遊星歯車機構を用いて、モータの回転方向に対して逆転するドリルビットを積層した。モータの回転に伴って、ドリルビットに発生する、動摩擦に起因する回転反力を相殺することで、掘削装置の土台となるやぐらが回転することを防ぎ、安定性を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機構がシンプルで安価であり、更に軽量でありながら安定した掘削性能を発揮する、新規且つ有用な掘削装置と、これに用いるドリルビットユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の例である、掘削装置の全体構成図である。
【図2】モータとドリルビットユニットを拡大した図である。
【図3】ドリルビットユニットの原理を示す概略図である。
【図4】ドリルビットユニットを分解した状態の図である。
【図5】下側ドリルビットの外観図である。
【図6】上側ドリルビットの外観図である。
【図7】ドリルビットユニットの断面図である。
【図8】上側ドリルビットの底面を示す概略図である。
【図9】下側ドリルビット及び上側ドリルビットに加わる力と、下側ドリルビット及び上側ドリルビットの大きさを決定するための概念図である。
【図10】本発明のもう一つの実施形態の、ドリルビットユニットの外観斜視図及び上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図10を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の例である、掘削装置の全体構成図である。
掘削装置101は、やぐら103と、モータ104と、モータ104を載置する載置台105と、モータ104によって回転されるドリルビットユニット108と、ドリルビットユニット108とモータ104の間に介在する固定管107を備える。
地面102の上に組み上げられたやぐら103は、モータ104を載置する載置台105が上下に移動できるためのレール106を備えている。
モータ104は載置台105に組みつけられている。図示しないモータ104の駆動軸(図示せず、図2にて後述)は固定管107に収納されている。固定管107はモータ104と共に載置台105に組みつけられており、モータ104が回転しても回転しない。固定管107はモータ104の回転駆動力に対しても回転しないことが求められるので、アルミニウム或は鉄等の金属や、アクリル等の合成樹脂等の、硬質の材質で構成される。
【0016】
なお、これ以降説明する各部の材料は、基本的に硬質の材質が用いられる。ゴムやビニール等の、弾性或は塑性を備える必要はない。その材質は、ある程度の硬ささえ備わっていれば、金属であってもなくても構わない。従って、後述する各部の材料と材質は、それに縛られるものではない。
更に、モータ104は電動モータに限られない。例えばエンジン等の、回転駆動力を発生する動力源であればよい。
【0017】
モータ104の駆動軸は、固定管107の先に取り付けられているドリルビットユニット108を回転駆動する。
モータ104がドリルビットユニット108を回転駆動させた状態で、載置台105が徐々に下がると、地面102がドリルビットユニット108によって削られ、地面102に穴が開く。そして、ドリルビットユニット108は載置台105の移動と共に地面102を掘り進む。
なお、載置台105を上下動させる機構については、発明の趣旨から外れるので詳細を省略する。所定の自動駆動機構を設けても、手動であってもよい。
【0018】
図2は、モータ104とドリルビットユニット108を拡大した図である。
略円錐形状のドリルビットユニット108は、底面に平行な面で分割された二つのドリルビットを備える。一つは、円錐のふもと側に該当する上側ドリルビット202である。もう一つは、円錐の頂上側に該当する下側ドリルビット203である。
下側ドリルビット203は、モータ104の駆動軸204に直結されている。つまり、モータ104の回転駆動力と回転方向がそのまま伝達される。
上側ドリルビット202は、その内部に後述する遊星歯車機構を内蔵しており、モータ104の回転方向と逆方向に回転駆動される。
このため、図示を省略しているが、下側ドリルビット203の表面に設けられている、地面102を掘削するための刃の方向と、上側ドリルビット202の表面に設けられている、地面102を掘削するための刃の方向は、逆である。なお、刃の方向については、図4、図5及び図6で後述する。
【0019】
図3は、ドリルビットユニット108の原理を示す概略図である。なお、概略図である関係上、固定管107の表示を省略している。
図3で、駆動軸204が矢印A301に示すように時計回り逆方向に回転すると、その回転力及び回転方向がそのまま下側ドリルビット203に伝達され、下側ドリルビット203も矢印A302に示すように時計回り逆方向に回転する。
【0020】
一方、駆動軸204には上側ドリルビット202に該当する箇所に太陽歯車303が固定されている。太陽歯車303が矢印A301に示すように時計回り逆方向に回転すると、太陽歯車303の周りに配置されている遊星歯車304a、304b、304c及び304dが、太陽歯車303によって時計回り方向に回転する。ここで、図示を省略しているが、全ての遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は円盤によって固定されている。更にその円盤は固定管107に組みつけられている。このため、遊星歯車304a、304b、304c及び304dは、自転はするけれども公転はしない。したがって、遊星歯車304a、304b、304c及び304dの回転駆動力は、上側ドリルビット202の内側に設けられた外輪歯車202aを駆動する。すると、上側ドリルビット202は、矢印A305に示すように時計回り方向に回転駆動される。
【0021】
本実施形態の上側ドリルビット202に組み込まれている遊星歯車機構は、自動車のギア等で用いられる遊星歯車機構とは異なり、太陽歯車303の駆動方向に対して逆の回転方向に外輪歯車202aを回転駆動させるための、回転方向反転機構として用いている。回転方向を逆転させるために、遊星歯車304a、304b、304c及び304dを公転させない部材が必要になる。これが、図示しない円盤と、固定管107である。これらの詳細は図7で後述する。
【0022】
図4は、ドリルビットユニット108を分解した状態の図である。
駆動軸204は真鍮の棒であり、その先端は下側ドリルビット203を固定するためにねじ切りされている。
固定管107には遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸を固定するための第一円盤402と第二円盤403が固定されている。そして、第二円盤403には固定管107を固定するための固定筒404が設けられている。
【0023】
上側ドリルビット202の内側は、第一円盤402、第二円盤403、そして第一円盤402と第二円盤403に挟まれる遊星歯車304a、304b、304c及び304dを収納する円筒形状のギア室405が設けられている。ギア室405の側壁には、外輪歯車202aが形成されている。
上側ドリルビット202の底面には、ギア室405に第一円盤402、第二円盤403及び遊星歯車304a、304b、304c及び304dを収納するための蓋407が設けられている。蓋407の中心には、固定筒404が貫通する穴407aが設けられている。この穴407aは、上側ドリルビット202の回転を妨げないように、固定筒404の直径よりも大きく設けられている。
【0024】
図5(a)、(b)及び(c)は、下側ドリルビット203の外観図である。
図5(a)は、下側ドリルビット203の外観斜視図である。先端から見ると、時計回り方向に刃203aが設けられている。
図5(b)は、下側ドリルビット203を真横から見た図である。
図5(c)は、下側ドリルビット203の底面図である。下側ドリルビット203には四つの刃203aが設けられている。中心には駆動軸204を固定する穴203bが設けられている。
【0025】
図6(a)及び(b)は、上側ドリルビット202の外観図である。
図6(a)は、上側ドリルビット202の外観斜視図である。図5(a)に示した下側ドリルビット203と比較すると判るように、下側ドリルビット203とは逆方向の刃202aが四つ設けられている。つまり、下側ドリルビット203の先端側から見ると、時計回り逆方向に刃202aが設けられている。
図6(b)は、上側ドリルビット202を真上から見た図である。中心には、駆動軸204とは逆方向に回転するため、駆動軸204の回転を妨げないように、駆動軸204より大きい穴202bが設けられている。
【0026】
図7は、ドリルビットユニット108の断面図である。
前述の通り、固定管107には遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸を固定するための第一円盤402と第二円盤403が固定されている。そして、第二円盤403には固定管107を固定するための固定筒404が設けられている。したがって、固定管107、固定筒404、第一円盤402及び第二円盤403はモータ104が回転しても回転しない。
また、前述の通り、上側ドリルビット202の内側に設けられている円筒形状のギア室405には、第一円盤402、第二円盤403、そして第一円盤402と第二円盤403に挟まれる遊星歯車304a、304b、304c及び304dが収納されている。この遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は第一円盤402と第二円盤403によって固定されているので、モータ104が回転しても公転せず、自転のみする。
【0027】
図8は、上側ドリルビット202の底面を示す概略図である。なお、第二円盤403は点線で示している。
モータ104が回転しても、固定管107及び固定筒404に固定されている第二円盤403は回らない。そして、遊星歯車304a、304b、304c及び304dの軸は、第二円盤403によって固定されている。もし、第二円盤403が存在しないと、遊星歯車304a、304b、304c及び304dは太陽歯車303と外輪歯車202aとの間の空間を自由に公転する。しかし、第二円盤403によって公転が妨げられるため、太陽歯車303の回転力は直接遊星歯車304a、304b、304c及び304dが自転する力となって、回転方向が反転されて外輪歯車202aに伝達する。
【0028】
図9は、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202に加わる力と、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202の大きさを決定するための概念図である。
本実施形態のドリルビットユニット108は、地面102と下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202との間に発生する、動摩擦の影響を受ける。従来技術では、単一のドリルビットだけで構成されていたが、モータ104が回転し、ドリルビットが地面102と接触する際に発生する回転反力が、掘削動作を阻害していた。この回転反力は、ドリルビットと地面102との間の動摩擦に起因する。この動摩擦力を基に、下側ドリルビット203及び上側ドリルビット202に加わるモーメントを相殺する、最適な大きさの比を考える。
【0029】
一般に、ドリルビットの表面にかかる土圧の計算方法は数種類存在するが、ここではランキン土圧を用いることにする。ランキン土圧では垂直方向、水平方向の土圧σv、σhをそれぞれ深さz、砂の密度γ、静止土圧係数K0を用いて表すことができる。式(1)に土圧の垂直方向成分σv、式(2)に土圧の水平方向成分σhを示す。
【0030】
【数1】
【0031】
この二つの力の合成力のドリル表面に対する垂直成分をドリルに加わる土圧Fとする。表面動摩擦係数をμ’とすると、ドリルが回転した際に表面から接線方向に加わる摩擦力はμ’Fとなる。摩擦力μ’Fにドリルビットの半径rをかけたものがドリルの軸周りのモーメントとなる。半径rはr=xtanθと表すことができる。半径rの点における動摩擦力を積分することにより、ドリルの表面全体が受ける動摩擦力を求めることが出来る。
【0032】
下側ドリルビット203の表面全体が砂との摩擦によって受ける力をTp、上側ドリルビット202の表面全体が砂との摩擦によって受ける力をTrとすると、それぞれを式(3)、式(4)のように表すことができる。
【0033】
【数2】
【0034】
摩擦力による回転反力が互いに打ち消されるためには、Tp=Trとなればよい。このとき、Hとhの関係はH=(√2)*hとなる。これより、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比は、以下のようになる。
【0035】
【数3】
【0036】
つまり、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比((H−h):h)は、ドリルビットを構成する円錐の高さや傘の角度には依存せず、一定の高さの割合で分割することができる。更に、周知のように動摩擦力は速度に依存しないので、摩擦力のみを考えた場合、遊星歯車機構によって生じる上側ドリルビット202と下側ドリルビット203の回転速度の違いは、回転反力に影響しない。したがって、遊星歯車機構を用いることにより上側ドリルビット202の回転速度が遅くなっても、上側ドリルビット202が動摩擦状態を維持している限り、動摩擦力を相殺する性能、転じてドリルビットユニット108の掘削性能には殆ど影響しない。
【0037】
実際には、実験をしてみると回転反力を完全には打ち消すには至っていない。この回転反力は、遊星歯車機構の遊星歯車304a、304b、304c及び304dの、公転しようとする力が回転反力となって固定管107に加わることに起因する。そこで、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との大きさの比((H−h):h)は、(√2)−1:1よりも上側ドリルビット202の高さを高く設計すると、良好な回転反力相殺効果を得られるものと期待できる。
【0038】
前述の、上側ドリルビット202と下側ドリルビット203との高さの比の式は、動摩擦力に起因する回転反力を相殺するための式である。この式に基づいてドリルビットユニット108を設計すると、計算上、残る回転反力は遊星歯車機構そのものを駆動する力に起因する。以上のことを考慮すると、やぐら103が回転反力に耐えられずに回ってしまう事故を防ぐために、やぐら103は、この回転反力に耐え得るに必要な剛性を備えていればよいことが判る。つまり、本実施形態のドリルビットユニット108を採用すれば、やぐら103が地面102に固定されるために必要な重量を軽くでき、剛性も小さく済み、また地面102を把持する仕組み等も簡略化できる。
勿論、遊星歯車機構自体に起因する回転反力も相殺する設計にすれば、やぐら103の、地面102との固定を維持する仕組みも極限まで簡素化できるだろう。
【0039】
本実施形態には、以下のような応用例が考えられる。
(1)本実施形態のドリルビットユニット108は、円錐形に限られない。一例を図10に示す。
図10(a)及び(b)は、本発明のもう一つの実施形態の、ドリルビットユニットの外観斜視図及び上面図である。図10に示すように、平坦な円盤状に形成することもできる。
【0040】
(2)本実施形態では、上側ドリルビット202にモータ104の回転方向と反対方向の回転力を与えるために、遊星歯車機構を採用した。回転力を反転させる機構としては、この他に周知の差動歯車機構等も利用可能である。
【0041】
(3)本実施形態のドリルビットユニット108が正常に稼動するためには、動摩擦が上側ドリルビット202と下側ドリルビット203とでバランスしていることが前提条件である。つまり、掘削作業の際、掘削している地面102の中に極めて硬い層に接触した等の、何らかの原因で一旦ドリルビットユニット108の回転が止まってしまうと、再度ドリルビットユニット108の回転駆動を再開する際、動摩擦のバランスが崩れてしまう。つまり、静止摩擦の状態から回転駆動を開始するので、回転反力の相殺がうまく行われない虞がある。
このような事故を防ぐ工夫として、ドリルビットユニット108の回転が止まってしまった場合には、一旦ドリルビットユニット108を引き上げて、空転状態で回転駆動を再開してから、再度掘削を進めるとよい。
以上より、載置台105を上下動させる機構に、モータ104の回転速度を監視し、回転が止まったら載置台105を引き上げ、再度下げる、という制御動作を与えると、より安定した掘削性能が期待できる。
【0042】
(4)固定管107は、必ずしも硬質の金属管でなければならない訳ではない。固定管107の役割は、駆動軸204の回転に対し、第一円盤402及び第二円盤403を固定し、遊星歯車304a、304b、304c及び304dを公転させないための、ストッパである。つまり、固定管107は、駆動軸204に起因する捩れ力に抗することができればよい。つまり、捩れなければ、固定管107は曲がってもよい。勿論、固定管107が自由に屈曲する構成を採る場合は、駆動軸204も同様に屈曲できる必要がある。
固定管107と駆動軸204が協調して屈曲可能になれば、地面を掘削する際に硬い箇所を回避して掘り進めることが可能になる。
【0043】
(5)モータ104を、ドリルビットユニット108が形成する穴に収まる位に小型にすると、モータ104とドリルビットユニット108を、掘り進める穴に納めることができる。この場合、載置台105を設けない代わりに、穴に入るモータ104に加わる回転反力を抑止する機構を、やぐら103に設けることが考えられる。
【0044】
本実施形態においては、掘削装置101とこれに用いるドリルビットユニット108を開示した。
モータ104の回転に伴い、地面102とドリルビットとの間で生じる、動摩擦力に起因する回転反力を、モータ104と逆方向に回転する上側ドリルビット202を併せることで、回転反力を相殺した。回転反力が相殺されることで、モータ104に加わる回転反力は極小になり、やぐら103の安定性が向上する。すなわち、安定した掘削能力を発揮できる。
【0045】
この安定した掘削能力は、地面102が柔らかく不安定である場合に極めて有効である。特に、月面ではレゴリスと呼ばれる、宇宙から飛来する微粒子等に起因する砂で覆われているので、掘削装置101を安定させるためにも、回転反力はできるだけ少ない方が好ましい。更に、月面探査は大掛かりで重い機材を搬出させることが極めて困難である。このため、掘削装置101はできるだけ軽量且つ小型であること、更にモータ104はトルクが稼げないので、低トルク且つ高速回転で掘削することが望まれる。
本実施形態のドリルビットユニット108は、回転反力を相殺する機構がドリルビット内部で完結するので、機構部分を極めて小型に形成することが容易に実現できる。また、小型且つ軽量であるが故に、高速回転に適している。
【0046】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0047】
101…掘削装置、103…やぐら、104…モータ、105…載置台、108…ドリルビットユニット、107…固定管、102…地面、106…レール、202…上側ドリルビット、202a…外輪歯車、203…下側ドリルビット、204…駆動軸、303…太陽歯車、304a、304b、304c、304d…遊星歯車、402…第一円盤、403…第二円盤、404…固定筒、405…ギア室、407…蓋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
地面に置かれて前記モータを上下動させるやぐらと、
前記モータの回転軸を取り囲み、前記モータに固定される固定管と、
前記回転軸に直結される下部ドリルビットと、
前記下部ドリルビットと逆方向に回転する上部ドリルビットと
を有する、掘削装置。
【請求項2】
前記上部ドリルビットには、前記回転軸の回転方向を反転させる機構が内蔵されている、
請求項1記載の掘削装置。
【請求項3】
前記回転方向を反転させる機構は遊星歯車機構であり、
前記遊星歯車機構を構成する遊星歯車の自転軸は、前記固定管から延在する部材によって公転が防げられている、請求項2記載の掘削装置。
【請求項4】
前記下部ドリルビット及び前記上部ドリルビットは、併せて円錐を構成する、請求項1記載の掘削装置。
【請求項5】
前記下部ドリルビットに対する前記上部ドリルビットの高さの比は(√2)−1:1以下である、請求項4記載の掘削装置。
【請求項6】
モータの回転軸によって直接回転駆動される下部ドリルビットと、
前記回転軸によって直接回転駆動される太陽歯車と、
前記太陽歯車に接触して回転駆動される複数の遊星歯車と、
前記複数の遊星歯車の回転軸を把持する回転軸把持部と、
前記モータの本体と前記回転軸把持部に固着されて前記回転軸把持部の回転を阻止する固定管と、
前記遊星歯車に接触して回転駆動される外輪歯車を備える上部ドリルビットと
を有するドリルビットユニット。
【請求項1】
モータと、
地面に置かれて前記モータを上下動させるやぐらと、
前記モータの回転軸を取り囲み、前記モータに固定される固定管と、
前記回転軸に直結される下部ドリルビットと、
前記下部ドリルビットと逆方向に回転する上部ドリルビットと
を有する、掘削装置。
【請求項2】
前記上部ドリルビットには、前記回転軸の回転方向を反転させる機構が内蔵されている、
請求項1記載の掘削装置。
【請求項3】
前記回転方向を反転させる機構は遊星歯車機構であり、
前記遊星歯車機構を構成する遊星歯車の自転軸は、前記固定管から延在する部材によって公転が防げられている、請求項2記載の掘削装置。
【請求項4】
前記下部ドリルビット及び前記上部ドリルビットは、併せて円錐を構成する、請求項1記載の掘削装置。
【請求項5】
前記下部ドリルビットに対する前記上部ドリルビットの高さの比は(√2)−1:1以下である、請求項4記載の掘削装置。
【請求項6】
モータの回転軸によって直接回転駆動される下部ドリルビットと、
前記回転軸によって直接回転駆動される太陽歯車と、
前記太陽歯車に接触して回転駆動される複数の遊星歯車と、
前記複数の遊星歯車の回転軸を把持する回転軸把持部と、
前記モータの本体と前記回転軸把持部に固着されて前記回転軸把持部の回転を阻止する固定管と、
前記遊星歯車に接触して回転駆動される外輪歯車を備える上部ドリルビットと
を有するドリルビットユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−216130(P2010−216130A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63326(P2009−63326)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]