説明

採便管

【課題】比較的水分量の多い軟便から比較的水分量の少ない硬便まで幅広い状態の便を効率的に採取可能とするための新規な採便体形状を提案する。
【解決手段】一端12が開口するとともに他端11が閉塞していて培地を収容可能である略筒形の容器10と、容器開口端に着脱可能に装着されるキャップ20と、キャップに一体的に固定された採便体30とを有してなる採便管において、採便体の表面に複数条の凹溝35が軸方向に対して所定角度傾斜した方向にスパイラル状に形成されている。これにより、採便体を便に直線的に差し込み/引き抜く動作によって、硬い便であっても効率的に凹溝内に便を採取し保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体としての便を採取するために使用される採便管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、培地を収容し得る略筒形の容器と、容器の開口端部に着脱可能に装着されるキャップと、キャップに棒体を介して一体的に固定されたスプーン形、綿捧形、スポイト形、スティック形等の採便体とを有してなる採便管が広く市販および使用されている。使用に際しては、採便体付きのキャップを容器から取り外し、採便体を便に数回抜き差しして検体を採取した後、容器内のキャリー・ブレア培地(便中の微生物を増殖も死滅もさせずに便採取時の状態を保持する培地)中に埋没させて空気から遮断し、キャップを締めて容器を密封する。このようにして容器に収容された検体は、所定の検査機関に輸送される。検査機関は、容器からキャップを外し、採便体に付着している検体を検査用の培地に塗沫する。自動塗沫機が用いられることもある。
【0003】
このような採便管は下記特許文献1〜4などに記載されている。
【特許文献1】実公平6−48413号公報
【特許文献2】特許第3336302号公報
【特許文献3】特許第3895692号公報
【特許文献4】特開2002−148257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような採便管において、採便体の形状をどのように設計するかは、比較的水分量の多い軟便から比較的水分量の少ない硬便まで幅広い状態の便を効率的に採取可能とするために重要である。
【0005】
従来の採便体の形状は表面に微小凹凸面としているもの(特許文献4の図6参照)が主流であるが、同特許文献に記載されているように、便の保持量が少なく、特に硬便のときに検査に十分な量を保持することができないことが多かった。スプーン状に形成した採便体(特許文献4の図5参照)も知られているが、同特許文献に記載されているように、軟便の採取が困難であった。
【0006】
このような事情に鑑みて特許文献4では、採便体に便採取穴を形成してここに軟便を表面張力で保持することを提案しているが、この採便体形状は軟便を保持するには有効であるとしても、便採取穴を有することによって採便体全体の外周面が相対的に小面積となることから硬便の保持量が少ないという欠点を抱えている。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、採便管において、比較的水分量の多い軟便から比較的水分量の少ない硬便まで幅広い状態の便を効率的に採取可能とするための新規な採便体形状を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1にかかる本発明は、一端が開口するとともに他端が閉塞していて培地を収容可能である略筒形の容器と、容器開口端に着脱可能に装着されるキャップと、キャップに一体的に固定された採便体とを有してなる採便管において、該採便体の表面に複数条の凹溝が形成されていることを特徴とする採便管である。
【0009】
請求項2は、請求項1の採便管において、採便体の表面に形成される複数条の凹溝が採便体の軸方向に略平行に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3は、請求項1の採便管において、採便体の表面に形成される複数条の凹溝が採便体の軸方向に対して所定角度傾斜した方向にスパイラル状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4は、請求項1の採便管において、採便体の先端部が平滑表面を有し、該平滑表面先端部を除く採便体の表面および凹溝の内部は微細凹凸を有する梨地状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、採便体の表面に複数条の凹溝が形成されているので、比較的水分量の多い軟便から比較的水分量の少ない硬便まで幅広い状態の便をこの凹溝内に確実に採取することができ、しかも該凹溝の容積および本数に応じて定められる略一定且つ十分な量の便を保持可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態による採便管について添付図面を参照して説明すると、この採便管は、培地を収容し得る略円筒形状の容器10と、容器10の開口端を密封するべく着脱可能に装着されるキャップ20と、キャップ20に一体的に固定された採便体30とを有して構成されている。
【0014】
容器10はポリプロピレン等のプラスチック材料から一体成形され、その一端11が半球面状に閉塞され、他端12が開口している。容器10は長手軸方向に3つの部分から構成されており、長手軸方向の略中央において外周が略六角形に形成された膨大部13を挟んで、その閉塞端11側の部分14と、開口端12側の部分15とを有している。
【0015】
閉塞端側部分14と開口端側部分15はいずれも略円筒形状を有するが、閉塞端側部分14の方が開口端側部分15よりもわずかに大きな外径を有し、それらの内径は略同一である。
【0016】
閉塞端11側の部分14および開口端12側の部分15はいずれも平滑な外周面を有するように図示されているが、閉塞端側部分14の外周面には、その全般または所定長さ領域に亘って、リング状などの凹凸を形成して滑り止め加工を施すことができる。好適な一実施形態においては、閉塞端側部分14において六角形状膨大部13に近接した所定長さ領域に亘る外周面および開口端側部分15の外周面全般に滑り止め加工が施される。また、図示されていないが、開口端側部分15の外周面には、たとえば長手軸方向に所定の間隔を隔てて環設された2つの凸条環などを設けることにより、キャップ20との密栓状態を確保するように設計することができる。これらは当業界において既に公知である(たとえば前記特許文献3)ので、詳細な説明を省略する。
【0017】
略円筒形状の容器10の開口端12は側面視において斜めに切除されている。さらに、この切除部分の下方部に連続して、膨大部13に向けて所定の幅寸法で所定の軸方向長さにわたって切り欠きされて延長溝部16を形成している。延長溝部16の開口幅は、採便体30の最大径と略同一寸法とされている。
【0018】
キャップ20はポリプロピレン等のプラスチック材料から一体成形され、図示されていないが、その外周面にはリング状などの凹凸を形成して滑り止め加工を施すことができる。キャップ外周面の滑り止め加工についても、当業界において既に公知である(たとえば前記特許文献3)ので、詳細な説明を省略する。
【0019】
キャップ20は概して円筒形状の本体21を有し、その一端が平坦な頭頂面22で閉塞され、他端23は開口している。キャップ開口端23の内径は、容器10の開口端側部分15の外径と略同一であり、密栓状態を形成および維持することが可能である。前述のように容器10の開口端側部分15に凸状環を設けたり、その他任意の手段を採用することによって密栓状態の形成および維持を容易且つ確実に行えるようにすることが好ましい。このような手段は当業界に周知慣用であり、且つ、本発明の主題に直接関連しないので、これ以上の説明を割愛する。
【0020】
キャップ20には細長い棒体24が同心状に設けられて軸方向に延長している。棒体24の先端には採便体30が一体成形されており、棒体24の基端部にはキャップに対する嵌合構造部が一体成形されている。この嵌合構造部は本発明の手段に直接関連しないので詳細を割愛するが、たとえば所定の外径を有する棒状部を基端部の末端側に有するとともに、該棒状部に隣接してそれよりも大径のストッパ部とを有するものとして形成し、該棒状部を、ストッパ部が突き当たるまで、キャップ20の頭頂面22の内側に形成した円筒形の嵌合部に挿入嵌合することにより、キャップ20と棒体24とを一体化することができる。この手法は一例であり、接着、接合、溶接、一体成形その他任意の手法を用いてキャップ20と棒体24とを一体化することができる。
【0021】
棒体24の先端に一体成形された採便体30は、棒体24と略同径の一端31から側面視略円弧状に徐々に大きな外径を有するように形成された基端部32と、基端部32から先端方向に連続して徐々に小さな外径を有するように形成された先細形状の主体部33と、主体部33の先端に形成された略半球状の先端部34の3つの部分を有する。主体部33の表面には棒体24の軸方向に対して所定方向に傾斜した凹溝35が複数条スパイラル状に形成されている。凹溝35の基端側には基端部32の表面との境界となる段差35aが形成され、その先端側には先端部34の表面との境界となる段差35bが形成される。また、凹溝35の溝幅両側には主体部33の表面(凹溝35以外の部分)36との境界となる縁壁35c,35dが形成される。先端部35は平滑な表面を有するが、それ以外の部分(基端部32および主体部33(凹溝35の溝内部も含む))はサンドブラストなどで微細凹凸を有する梨地状に形成されている。このような梨地状表面とすることは、塗抹の際に便を含む液体成分を塗抹部分(平滑半球状先端部34)に対して塗抹に必要十分な少量ずつ供給する上で有効である。
【0022】
この採便管は、ガンマ線照射等による滅菌処理を施した後、容器10に所定のキャリー・ブレア培地を収容させた状態で提供される。使用に際しては、棒体24および採便体30と一体化されたキャップ20を容器10から取り外し、採便体30を便に差し込んで検体を採便体30に付着させる。この実施形態の採便管によれば、採便体30の先細形状主体部33の表面に軸方向に対して傾斜した方向に凹溝35が形成されているので、便の採取に際して、採便体31を便に直線的に差し込むことにより、硬い便の場合は、差し込み方向の後方となる縁壁35cに掻き取られながら凹溝35内に収容され、且つ、基端側の段差35aで止まって凹溝35内に保持される。そして、その後に採便体31を引き抜いても、凹溝35の内面が微細凹凸を有する梨地状とされていることによって保持効果が高められていることに加えて、凹溝35内に捕捉された便は縁壁35dおよび先端側段差35bによって凹溝35から離脱することなく保持される。このようにして簡単で直線的な差し込み/引き抜き操作によって効率的な採便が可能となる。水分の多い軟便の場合も、同様にして、凹溝35内に確実に採取・保持することができる。
【0023】
このようにして採便体30に便を採取した後、この採便体30および棒体24を容器10に収容し、キャップ20で容器開口端12を密封する。これにより、採便体30の凹溝35内に捕捉された検体は容器10中に収容したキャリー・ブレア培地中に埋没して空気から遮断されるので、検体中の微生物が増殖も死滅もされずに採便時の状態で保持される。
【0024】
前述のように、容器開口端12は側面視略円弧状に切除されていてその開口面積が大幅に増大されているので、検体を付着した採便体30を容器10に収容しようとする作業を円滑に行うことができる。すなわち、容器10を容器開口端12における側面視略円弧状切除による開口16を上に向けた状態にして保持し、この開口16に向けて、検体を付着した採便体30を斜め上方から近付け、円筒形部分15の内側面に当てて該内側面をガイド面として徐々に容器内に収容させることができるので、検体が容器開口端12の縁部に当たって付着するような不衛生な事態を招くことがない。また、容器開口端12は側面視略円筒状に切除されたなだらかな端縁形状を有しているので、採便体30が容器10に滑らかに入りやすく、装着作業がきわめて容易である。
【0025】
さらに、このようにして容器10に収容され、容器内においてキャリー・ブレア培地中で保存された検体を所定の検査機関において塗抹検査する際も、キャップ20を容器開口端12から引き抜くときに、容器開口端12における開口16を上に向けた状態にして、円筒形部分15の内側面を受け皿のようにして扱うことにより、水分の多い状態の軟便であっても、採便体30に付着した検体が容器の外に落滴することを防止することができる。
【0026】
また、硬い便の場合は採便体30の凹溝35内にへばりついた状態で採取されることになるが、容器内においてキャリー・ブレア培地中で保存されることによって流動性が高められた状態となるので、塗抹性能が良好となる。
【0027】
以上に本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において広く変形態様を取り得る。たとえば、図示実施形態では採便体30表面の凹溝31がスパイラル状の傾斜溝として形成されているが、棒体24の軸方向に略平行な凹溝として形成されたものであっても良い。軸方向の凹溝の場合は、採便時に、採便体30を回転させながら差し込み/引き抜くと、便を効率的に凹溝内に採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態による採便管を示す分解斜視図である。
【図2】この採便管におけるキャップ先端部を拡大して示す平面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 容器
11 閉塞端
12 開口端
13 膨大部
14 閉塞端側部分
15 開口端側部分
16 延長溝部
20 キャップ
21 本体
22 頭頂面
23 開口端
24 棒体
30 採便体
31 一端
32 基端部
33 主体部
34 先端部
35 凹溝
35a,35b 段差
35c,35d 縁壁
36 平滑表面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口するとともに他端が閉塞していて培地を収容可能である略筒形の容器と、容器開口端に着脱可能に装着されるキャップと、キャップに一体的に固定された採便体とを有してなる採便管において、該採便体の表面に複数条の凹溝が形成されていることを特徴とする採便管。
【請求項2】
採便体の表面に形成される複数条の凹溝が採便体の軸方向に略平行に形成されていることを特徴とする請求項1記載の採便管。
【請求項3】
採便体の表面に形成される複数条の凹溝が採便体の軸方向に対して所定角度傾斜した方向にスパイラル状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の採便管。
【請求項4】
採便体の先端部が平滑表面を有し、該平滑表面先端部を除く採便体の表面および凹溝の内部は微細凹凸を有する梨地状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の採便管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−276311(P2009−276311A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130351(P2008−130351)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000128418)株式会社エルメックス (6)
【Fターム(参考)】