説明

探傷方法及び探傷装置

【課題】磁束密度の変化を、ファラデー効果を利用して偏光面の回転角の変化として検出することにより、磁性体である被探傷部材の傷を検出する場合において、磁束密度の測定領域を高分解能化して高精度の探傷を実現し得る探傷装置を提供する。
【解決手段】磁性体である被探傷部材2に渦電流を流すための交番磁界を発生するコイル1と、被探傷部材2の表面と相対向する端面に反射膜を有して前記コイル1の内周部の中心に配設した磁気光学素子3と、光源5からの光を前記反射膜に向けサーキュレータ9を介して前記磁気光学素子3に入射させる光ファイバ4と、反射膜で反射した反射光をサーキュレータ9を介して検光子10に入射させる光ファイバ4と、前記検光子10の出力光を電気信号に変換する光電変換素子11と、この光電変換素子11の出力信号を処理して前記反射光の偏向面の回転角に基づき前記被探傷部材2の傷を検出する演算処理装置12とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は探傷方法及び探傷装置に関し、特にコイルが発生する交番磁界により磁性体である被探傷部材に渦電流を発生させ、傷の存在により乱れる前記渦電流に起因する磁束密度の変化に基づき前記被探傷部材の非破壊検査を行う場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
電力設備の部品(例えば火力発電設備のガスタービン翼)に用いられる金属材料の表面乃至内部の傷を検知する探傷方法として渦電流探傷法が知られている。この渦電流探傷法は、コイルが発生する交番磁界により被探傷部材に渦電流を発生させ、その傷の存在により乱れる前記渦電流に起因する磁束密度の変化を検知することで所定の探傷を行うものである。
【0003】
かかる探傷法を、その原理を示す図20に基づきさらに詳細に説明する。同図(a)に示すように、先ずコイル01に電流02を流すことにより磁束03を発生させる。次に、図20(b)に示すように、コイル01を磁性体である被探傷部材04に接近させることによりこの被探傷部材04に渦電流05を発生させる。この結果、図20(c)に示すように、渦電流05による磁束06が発生する。このとき、図20(d)に示すように、被探傷部材04に傷07が発生していると渦電流05が乱され、結果として渦電流05による磁束06が変化する。かかる磁束06の変化により被探傷部材04の傷07を検出する。
【0004】
ところが、近年、探傷精度のさらなる向上が望まれており、従来技術に係る渦電流探傷法の精度では、特に傷の位置の特定の際の精度において不十分なものとなってしまっていた。
【0005】
一方、磁束密度の変化を、ファラデー効果(磁化した結晶中を直線偏光が透過したときに、偏光面が回転する現象)を利用して偏光面の回転角の変化として検出することにより、磁性体である被探傷部材の傷を検出する探傷方法が提案されている。例えば、特開平2−189457号公報に開示する探傷方法である。
【0006】
この探傷方法は、図21及び図22に示すように、磁性体からなる被検査材料011の被検査面012を含む部分に磁化手段013で磁界を与え、この状態で被検査材料011とこれに近接して配置されたファラデー素子016を内蔵するセンサ部015との何れか一方を移動する。同時に、ファラデー素子016内に光Lを入射させ、このファラデー素子016から出射する光Lの光強度を測定することによって被検査材料011からの漏洩磁束Aの変動を検知し、上記被検査材料011の欠陥部014を検出する。ここで、センサ部015は、ファラデー素子016とともに偏光子017、検光子018及びミラー019と一つの筐体の内部に一体的に収納してある。
【0007】
かくして、光発信機020から出射した光Lが入力用光ファイバ021を介して偏光子017に至り、ファラデー素子016、検光子018及びミラー019を介してセンサ部015の外部に至り、出射用光ファイバ022を介して光受信機023に入射される。光受信機023に入射された光Lは電気信号θに変換され、演算部024で所定の処理をした後、この処理結果がX−Yレコーダ等の表示部025に表示される。
【0008】
ところが、かかる探傷方法では、偏光子017を介してファラデー素子016に入射した光Lがファラデー素子016を横断して検光子018に入射するようになっているので、ファラデー素子016に入射してから出射するまでの全域で光Lが磁界の影響を受けてしまい、その分磁束密度の測定領域が広がり、分解能が劣るものとなってしまう。
【0009】
なお、本発明に関連のある公知技術としては、上記公開特許公報とともに、次の特許文献を挙げることができる(特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平2−189457号公報
【特許文献2】特開平6−294773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑み、磁束密度の変化を、ファラデー効果を利用して偏光面の回転角の変化として検出することにより、磁性体である被探傷部材の傷を検出する場合において、磁束密度の測定領域を高分解能化して高精度の探傷を実現し得る探傷方法及び探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、次の知見を基礎とするものである。
【0013】
(1) 磁性体である被探傷部材の傷に起因して発生する磁束密度変化の計算例を示す。図1に示すようなコイル1に印加する交流電圧の周波数を500kHz、電流値を1AT、コイル1と被探傷部材2との間の距離が0.5mmとした場合、コイル1から発生する磁束の磁束密度Bは4.1739Gで、被探傷部材2に形成した深さdが0.2mmの傷による磁束密度変化ΔBは10mGとなる。以下、同様の計算を繰り返すことによって、傷の深さdに対応させて磁束密度変化ΔBの値を求めることができる。
【0014】
これは、一定の条件の下で、予め傷の深さdと磁束密度変化ΔBとの関係を求めておき、これをデータベースとして記憶しておけば、このデータベースを参照して計測データと比較することにより傷の深さdを求めることができることを示唆している。
【0015】
このとき、コイル1が形成する内周円の中心位置に磁気光学素子3を占位させておけばこの磁気光学素子3に入射する光は、ファラデー効果によりその偏波面が回転する。したがって、コア径が小さな光ファイバ4で光を磁気光学素子3に入射するとともに、この磁気光学素子3の端面で反射した反射光を取り出して偏波面の回転量を検出してやれば磁束密度の変化を高分解能で検出することができる。このときの分解能は、光ファイバ4の径に依存するからである。ちなみに、かかる用途に好適なシングルモード光ファイバにはコア径が10μmのものが存在する。
【0016】
(2) 図2は種類が異なる各種の傷を被探傷部材に形成した場合の探傷の様子を概念的に示す説明図である。同図に示すように、被探傷部材2aは貫通傷、被探傷部材2bは表面からの亀裂、被探傷部材2cは裏面からの亀裂を形成したものである。また、図3乃至図5は、順に被探傷部材2a乃至2cを探傷した結果を示す特性図である。すなわち、光ファイバ4を介して検出した、磁束による偏波面の回転を、これを表す電圧信号として検出したものであり、各図はコイル1及び磁気光学素子3を被探傷部材2a、2b、2cの表面に沿って移動しつつ各部の磁界を計測したものである。ここで、位相とはコイル1が発生する磁界と、磁気光学素子3が検出する磁界とを表す電圧信号同士の位相差である。
【0017】
図3乃至図5を参照すれば、各傷の性状により得られる信号形状に差異が認められ、傷は出力電圧の最大値近傍に存在していることが分かる。
【0018】
このことは、かかるデータを集積することにより傷の状態を特定するデータベースを構築し得ることを示唆している。
【0019】
(3) 図6は磁気光学素子3の感度を調べたもので、傷のない被探傷部材2にコイル1で磁界を発生させ、測定可能な磁界を求めた際の特性を示す図である。ここで、印加磁束密度は4G、印加電圧の周波数は100kHz、分解能帯域幅は10Hz、平均化は20回とした。かかる条件で計測すると、信号強度は−45.75dBm、雑音は−105.81dBm、SNRは60.16dBとなり、雑音平衡磁界は4G/1007=4.04mGが得られた。すなわち、1.4mG以上であれば計測が可能である。これは、上記(1)における計算結果の10mGの傷を十分測定可能であることを示唆している。
【0020】
かかる知見に基づく本発明の第1の態様は、
コイルが発生する交番磁界により磁性体である被探傷部材に渦電流を発生させる一方、前記渦電流が形成する磁界中に配設した磁気光学素子に光ファイバを用いて入射させた光を前記磁気光学素子の端面で反射させて取り出し、前記被探傷部材の傷による磁束密度の変化をファラデー効果による前記反射光の偏光面の回転角に基づき検出することにより前記被探傷部材の探傷を行うようにしたことを特徴とする探傷方法である。
【0021】
本発明の第2の態様は、
磁性体である被探傷部材に渦電流を流すための交番磁界を発生するコイルと、
一端面に反射膜を設けて前記コイルの近傍部分に配設した磁気光学素子と、
光源からの光を前記反射膜に向けて前記磁気光学素子に入射させる入射用光ファイバと、
前記反射膜で反射した反射光を検光子に入射させる出射用光ファイバと、
前記検光子の出力光を電気信号に変換する光電変換素子と、
この光電変換素子の出力信号を処理して前記反射光の偏光面の回転角に基づき前記被探傷部材の傷を検出する演算処理手段とを有することを特徴とする探傷装置である。
【0022】
本発明の第3の態様は、
上記第2の態様に記載する探傷装置において、
入射用光ファイバと出射用光ファイバとを1本の光ファイバで形成するとともにその光路の途中にサーキュレータを介在させ、光源からサーキュレータを介して磁気光学素子に光を入射させるとともに、この磁気光学素子からの反射光をサーキュレータを介して検光子に入射させるようにしたことを特徴とする探傷装置である。
【0023】
本発明の第4の態様は、
上記第2又は第3の態様に記載する探傷装置において、
前記光ファイバの出力光が前記検光子の位置で直線偏光となるように調整した偏光子を光ファイバで形成する光路の途中に配設したことを特徴とする探傷装置である。
【0024】
本発明の第5の態様は、
上記第2又は第3の態様に記載する探傷装置において、
前記光ファイバを偏波保持ファイバで形成したことを特徴とする探傷装置である。
【0025】
本発明の第6の態様は、
上記第2乃至第5の態様のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記反射光を前記出射用光ファイバの入射端面に集光させるように前記反射膜で形成する反射面を曲面としたことを特徴とする探傷装置である。
【0026】
本発明の第7の態様は、
磁性体である被探傷部材に渦電流を流すための交番磁界を発生するコイルと、
一端面に反射膜を設けて前記コイルの近傍部分に配設した磁気光学素子と、
光源からの光を前記反射膜に向けて前記磁気光学素子に入射させる2系統の入射用光ファイバと、
前記反射膜で反射した反射光をそれぞれ検光子に入射させる2系統の出射用光ファイバと、
前記各検光子の出力光をそれぞれ電気信号に変換する光電変換素子と、
各光電変換素子の出力信号を処理して前記各反射光の偏光面の回転角に基づき前記被探傷部材の傷を検出する演算処理手段とを有することを特徴とする探傷装置である。
【0027】
本発明の第8の態様は、
上記第7の態様に記載する探傷装置において、
各入射用光ファイバと各出射用光ファイバとを1本づつの光ファイバで形成するとともに各光路の途中にサーキュレータを介在させ、光源から各サーキュレータを介して前記磁気光学素子に光を入射させるとともに、この磁気光学素子からの反射光を各サーキュレータを介して各検光子に入射させるようにしたことを特徴とする探傷装置である。
【0028】
本発明の第9の態様は、
上記第7又は第8の態様に記載する探傷装置において、
前記各光ファイバの出力光が前記各検光子の位置で直線偏光となるように調整した偏光子を各光ファイバで形成する各光路の途中に配設したことを特徴とする探傷装置である。
【0029】
本発明の第10の態様は、
上記第7又は第8の態様に記載する探傷装置において、
前記各光ファイバを偏波保持ファイバで形成したことを特徴とする探傷装置である。
【0030】
本発明の第11の態様は、
上記第7乃至第10の態様のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記各反射光を前記各出射用光ファイバの入射端面にそれぞれ集光させるように前記反射膜で形成する反射面を曲面としたことを特徴とする探傷装置である。
【0031】
本発明の第12の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子を、前記コイルの内周部の中心に配設したことを特徴とする探傷装置である。
【0032】
本発明の第13の態様は、
上記第2乃至第11の態様のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子を、前記コイルの周面に接して配設したことを特徴とする探傷装置である。
【0033】
本発明の第14の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子を、前記コイルの内周面から中心までの距離の3分の1の位置に配設したことを特徴とする探傷装置である。
【0034】
本発明の第15の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルの外周部にも複数の磁気光学素子を配設し、これらの磁気光学素子を配設した部位の探傷もそれぞれ同時に行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置である。
【0035】
本発明の第16の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルの内周部に複数の磁気光学素子を配設し、各磁気光学素子を配設した部位の探傷をそれぞれ同時に行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置である。
【0036】
本発明の第17の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
内周部にそれぞれ前記磁気光学素子が配設されたコイルを2個有し、各コイルが発生する磁束が相互に重畳されるように各コイルに相互に逆方向の電流を供給するとともに、前記コイルの一方と他方との間に、他の磁気光学素子を配設して前記重畳された磁束による偏光面の回転角に基づく探傷を行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置である。
【0037】
本発明の第18の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子が、前記被探傷部材の面と平行成分の磁界変化を検出し得るよう前記平行方向に光を入射するとともにこの平行方向と直角な面に形成された反射膜で前記平行方向に前記光を反射させるように構成したことを特徴とする探傷装置である。
【0038】
本発明の第19の態様は、
上記第2乃至第11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルを矩形に成形するとともに、このコイルの直線部分に近接させて前記磁気光学素子を配設したことを特徴とする探傷装置である。
【発明の効果】
【0039】
上記構成の本発明によれば、偏光面の回転に基づくファラデー効果を利用した探傷の際の分解能は、光ファイバのコア径により規定されるが、この光ファイバの径は10μm程度のものが存在する。したがって、μmオーダの領域で被探傷部材の傷を探傷することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0041】
<第1の実施の形態>
図7は本発明の第1の実施の形態に係る探傷装置を概念的に示す説明図である。同図に示すように、コイル1は、磁性体である被探傷部材2に渦電流を流すための交番磁界を発生する。このコイル1は、例えば内径が0.5〜20mmで、印加電圧の周波数が1kHz〜5MHz、印加磁束密度が1G〜100Gのものを用いる。
【0042】
磁気光学素子3は被探傷部材2の表面と相対向する端面に反射膜を有して前記コイル1が形成する磁界中に置かれるよう、その内周部の中心に配設してあり、光ファイバ4を介して入射させる入射光の偏光面を回転させた反射光を光ファイバ4を介して出射するように構成してある。すなわち、前記入射光はファラデー効果により磁界の強さに応じて偏光面が回転するようになっており、したがって前記反射光における偏光面の回転角に基づき被探傷部材2の傷に起因する磁束の変化を表す探傷信号を形成し得る。
【0043】
ここで、光ファイバ4はシングルモード光ファイバを好適に適用し得るが、このシングルモード光ファイバの端部のコア径を拡大したTEC光ファイバ(商品名)であればさらに好ましい。開口(NA)が小さく、その分反射光を効率良く入射させることができるからである。また、磁気光学素子3はフローティングゾーン法又は液相エピタキシーで作成することができる。組成は、例えば次のものを用いる。
【0044】
3−xCeFe5−y12,A3−xBiFe5−y12
【0045】
ここで、Aは希土類元素、Bは13族元素である。また、組成比x,yは次の範囲になる。
【0046】
x=0〜3、y=0〜3
【0047】
磁気光学素子3の端面3aは、図8に示すように、前記反射光を光ファイバ4の入射端面に集光させるように反射膜14の反射面を曲面としてある。この反射膜14は金属膜(例えば金)又は誘電体多層膜(SiO/Ta多層膜)で好適に形成することができる。
【0048】
このように端面3aを曲面にすることで反射光を光ファイバに集光させる。例えば、600μm角の磁気光学素子3の結晶を、コア30μm、NA0.033のTEC光ファイバ(商品名)に接続するとき、片道で8.9μm広がるため、直径1.01mmの曲面にすることで集光する。
【0049】
光源5は探傷用の光を発生するもので、例えば波長が1.55、1.3、0.8μm、出力が1〜4mWのレーザダイオードで好適に構成し得る。
【0050】
光アンプ6は、光源5が出射した光を増幅するもので、必要に応じて設ければ良い。λ/2板7、λ/4板8は、光ファイバ4を伝送される光の偏光状態を調節するもので、光ファイバ4を伝送中に種々の原因、例えば光ファイバ4の振動等で乱れる偏光状態を調整し、検光子10に入射する光が直線偏光になるようにするためのものである。
【0051】
サーキュレータ9は光源5の光を磁気光学素子3に向けて案内するとともに、磁気光学素子3で反射した反射光を検光子10に向けて案内するものである。したがって、本実施の形態の如く、サーキュレータ9を光路の途中に介在させれば、磁気光学素子3に光を入射させる光路と磁気光学素子3で反射した光を導出する光路とを兼用することができる。すなわち、光ファイバ4が1本で済む。
【0052】
検光子10は被探傷部材2の傷による磁束密度の変化が最大になる角度(透過光に対して45度)に設定してある。すなわち、図9に示すように、被探傷部材2が無傷のとき45度とし、この45度を中心とする直線部分を利用するように調整してある。
【0053】
光電変換素子11は、検光子10を透過した光をその強度を表す電気信号に変換するもので、フォトダイオードで好適に構成することができる。
【0054】
演算処理装置12は光電変換素子11の出力信号を処理して前記反射光の偏向面の回転角に基づく被探傷部材2の傷を検出するものである。具体的な構成は種々のものが考えられるが、特定の周波数の信号のレベルを検出するスペクトラムアナライザ乃至ロックインアンプの機能を最低限度有するものであれば良い。ここで、各種の傷に対してその性状(貫通傷、表面からの亀裂、裏面からの亀裂等)に関するデータベース、傷の深さと信号レベルとの相関関係を表すデータベースを構築しておき、これらのデータベースを前記信号の処理の際に参照することにより傷の性状及び傷の深さ等のデータも得ることができる。
【0055】
表示装置13は演算処理装置12が処理したデータを可視化して表示する。例えば、傷の位置、形状等である。
【0056】
かかる探傷装置において、光源5から出射する光は、光アンプ6、λ/2板7、λ/4板8、サーキュレータ9を介して磁気光学素子3に入射するとともに、磁気光学素子3の反射膜14(図8参照)で反射されて検光子10に至る。このとき、検光子10を透過する偏光は、磁気光学素子3が置かれた磁界の影響を受け、その磁束密度に応じて偏波面が回転する。したがって、被探傷部材2の傷により磁界が乱された場合、それは偏波面の回転角の変化として反映される。この結果、検光子10の出力光を光電変換素子11で変換して得る電気信号は被探傷部材2の傷の情報を含む信号となる。この電気信号を適正に処理することで探傷情報を得ることができる。
【0057】
このとき、探傷の分解能は、光ファイバ4のコア径に依存する。すなわち、μmオーダまで小さくすることができる。
【0058】
<第2の実施の形態>
図10は本発明の第2の実施の形態に係る探傷装置を概念的に示す説明図である。同図に示すように、本形態に係る探傷装置は、入射用の光ファイバ15と出射用の光ファイバ16とを独立に設けたものである。このためサーキュレータ9(図7参照)は不要になる。
【0059】
他の構成は図7に示す第1の実施の形態と同様である。そこで、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
かかる、本実施の形態によれば、磁気光学素子3に対する光の入射光路及び反射光の出射光路が異なるだけで、第1の実施の形態と同様の作用、効果を得る。
【0061】
<第3の実施の形態>
図11は本発明の第3の実施の形態に係る探傷装置を概念的に示す説明図である。同図に示すように、本形態に係る探傷装置は、磁気光学素子3の異なる2点の磁界密度を同構成の2つの光系統で検出するようにしたものである。すなわち、図7に示す光源5、光アンプ6、λ/2板7、λ/4板8、サーキュレータ9、光ファイバ4、検光子10及び光電変換素子11と同構成の光系統である光源35、光アンプ36、λ/2板37、λ/4板38、サーキュレータ39、光ファイバ34、検光子40及び光電変換素子41を有しており、磁気光学素子3の異なる2点で反射した反射光を演算処理装置12に供給するようになっている。
【0062】
他の構成は図7に示す第1の実施の形態と同様である。そこで、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
かかる、本形態によれば、同一磁気光学素子3の異なる2つの部分を用いて、例えば図12に示すように、被探傷部材2(図11参照)の状態に起因する磁束密度の変化を検出することができる。すなわち、被探傷部材2に対して同一の磁気光学素子3の位置を相対的に移動させることにより、磁気光学素子3の異なる2つの位置で被探傷部材2の同一箇所の磁界の乱れを検出することができる。その後、両位置での検出値の差に基づく特性図を得る。図12に示す特性のピーク間の距離で傷の幅を、ピーク間の真中の位置で傷の位置を正確に検出することができる。このときの検出精度は図7に示す第1の実施の形態の場合よりも勿論向上する。第1の実施の形態の場合、特性の一つのピークで検出しているので、特にピーク近傍の変化率が小さい場合等、本形態の場合よりも幅を持った値となるからである。
【0064】
また、一方の光系統で検出した特性のピーク値から、同位置で検出した他方の光系統による検出値を差し引くことでノイズ成分を除去して正確なピーク値を求めることができる。したがって、前記ピーク値に基づく傷の深さも正確に検出することができる。
【0065】
<他の実施の形態>
図11に示す第3の実施の形態では、図7に示す第1の実施の形態における光系統と同様の光系統を一系統追加したが、図10に示す第2の実施の形態における光系統を2系統とした実施の形態も考えられる。本形態においても第3の実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0066】
<実施例>
上記各実施の形態では、コイル1及び磁気光学素子3が1個であり、また磁気光学素子3はコイル1の内周の中央に位置するように配設してあるが、コイル1と磁気光学素子3との相対的な位置関係及びこれらの数に関しては種々の態様が考えられる。そこで、いくつかの代表的な態様を実施例として説明しておく。
【0067】
第1の実施例
図13に示すように、磁気光学素子3は、コイル1の内周面に接して配設してある。この位置はコイル1に最近接しているので、比較的大きな磁束密度の変化を検出し得ると同時に、磁気光学素子3をコイル1の内周面に接着すれば良いので、その位置合わせを容易に行うことができる。なお、磁気光学素子3はコイル1の外周面に接していても良く、この場合でも同様の作用効果を得ることができる。ちなみに、コイル1による渦電流はコイル1の真下が最も大きいが、真下に磁気光学素子3を配設することはできない。コイル1が被探傷部材2の表面からリフトオフ状態となるからである。
【0068】
第2の実施例
図14に示すように、磁気光学素子3は、コイル1の内周面から中心Oまでの距離Rの3分の1の位置に配設してある。この位置は、コイル1が形成する電磁界解析の結果、コイル1の真下以外で最も渦電流が大きくなる位置であり、その分傷等による磁束密度の変化も最大になる。したがって、良好な検出精度を得ることができる。
【0069】
第3の実施例
図15に示すように、コイル1の外周部には相互に90度の位相差を設けて磁気光学素子43、44が配設してある。この場合には3箇所の探傷を同時に行うことができる。したがって、傷の伸展方向も含めた探傷を行うことができる。
【0070】
第4の実施例
図16に示すように、コイル1の内周部に複数個(図では2個)の磁気光学素子3,53を配設して同時に複数部位の探傷を行い得るようにしても良い。この場合には、探傷効率の向上に資することができる。
【0071】
第5の実施例
図17に示すように、各内周部にそれぞれ磁気光学素子3,63が配設されたコイル1,61を2個有し、各コイル1,61が発生する磁束が相互に重畳されるように各コイル1,61に相互に逆方向の電流を供給するとともに、コイル1,61の一方と他方との間に、他の磁気光学素子64を配設してある。このことにより重畳された磁束による偏光面の回転角に基づく探傷を行い得る。
【0072】
第6の実施例
図18に示すように、磁気光学素子73は、被探傷部材2(図7参照)の面と平行成分の磁界変化を検出し得るよう前記平行方向に光ファイバ4を介して光を入射するとともにこの平行方向と直角な面に形成された反射膜74で前記平行方向に光を反射させるように構成してある。本実施例によれば被探傷部材2(図7参照)の面に平行成分の磁束密度の変化のみを検出しているので、傷の存在自体を高精度に検出することができる。
【0073】
第7の実施例
図19に示すように、本実施例ではコイル81を矩形に成形するとともに、このコイル81の直線部分に近接させて磁気光学素子83を配設している。本実施例では、磁気光学素子83の近傍部分の磁束密度変化分布を小さくでき、高分解能の検出にしすることができる。
【0074】
なお、上記各実施例は第1乃至第2の実施の形態のみならず、第3の実施の形態にも同様に適用できる。2つの光系統を有する第3の実施の形態等の場合には、光ファイバ4,34の端面を各磁気光学素子3等に当接させてある。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は配管等の金属材料の表面乃至内部の傷を検知する等、磁性体で形成した被探傷部材の非破壊検査を行う産業分野及びかかる検査装置を製造する産業分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】磁界を発生するコイル、被探傷部材及び傷との関係を計算する際のこれらの関係を概念的に示す説明図である。
【図2】種類が異なる各種の傷を被探傷部材に形成した場合の探傷の様子を概念的に示す説明図である。
【図3】貫通傷を有する被探傷部材を探傷した結果を示す特性図である。
【図4】表面からの亀裂を有する被探傷部材を探傷した結果を示す特性図である。
【図5】裏面からの亀裂を有する被探傷部材を探傷した結果を示す特性図である。
【図6】磁気光学素子の感度を調べたもので、傷のない被探傷部材にコイルで磁界を発生させ、測定可能な磁界を求めた際の特性を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る探傷装置を概念的に示す説明図である。
【図8】図7の磁気光学素子を抽出してその構成を詳細に示す拡大図である。
【図9】図7の検光子の特性を示す特性図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る探傷装置を概念的に示す説明図である。
【図11】1個のコイルに対して複数個の磁気光学素子を組み合わせた本発明の第3の実施の形態を概念的に示す説明図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態により得られる測定結果を示す特性図である。
【図13】本発明の第1の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図14】本発明の第2の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図15】本発明の第3の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図16】本発明の第4の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図17】本発明の第5の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図18】本発明の第6の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図19】本発明の第7の実施例に係る磁気光学素子とコイルとの関係を示す説明図である。
【図20】従来技術に係る渦電流探傷法の原理を示す説明図である。
【図21】磁束密度の変化を、ファラデー効果を利用して偏光面の回転角の変化として検出する従来技術に係る探傷方法の原理を示す説明図である。
【図22】図21に示す探傷方法を実現する探傷装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
1 コイル
2 被探傷部材
3,43,44,53,63,64,73,83 磁気光学素子
4,34 光ファイバ
5,35 光源
9,39 サーキュレータ
10,40 検光子
11,41 光電変換素子
12 演算処理装置
14,74 反射膜
15,16 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルが発生する交番磁界により磁性体である被探傷部材に渦電流を発生させる一方、前記渦電流が形成する磁界中に配設した磁気光学素子に光ファイバを用いて入射させた光を前記磁気光学素子の端面で反射させて取り出し、前記被探傷部材の傷による磁束密度の変化をファラデー効果による前記反射光の偏光面の回転角に基づき検出することにより前記被探傷部材の探傷を行うようにしたことを特徴とする探傷方法。
【請求項2】
磁性体である被探傷部材に渦電流を流すための交番磁界を発生するコイルと、
一端面に反射膜を設けて前記コイルの近傍部分に配設した磁気光学素子と、
光源からの光を前記反射膜に向けて前記磁気光学素子に入射させる入射用光ファイバと、
前記反射膜で反射した反射光を検光子に入射させる出射用光ファイバと、
前記検光子の出力光を電気信号に変換する光電変換素子と、
この光電変換素子の出力信号を処理して前記反射光の偏光面の回転角に基づき前記被探傷部材の傷を検出する演算処理手段とを有することを特徴とする探傷装置。
【請求項3】
請求項2に記載する探傷装置において、
入射用光ファイバと出射用光ファイバとを1本の光ファイバで形成するとともにその光路の途中にサーキュレータを介在させ、光源からサーキュレータを介して磁気光学素子に光を入射させるとともに、この磁気光学素子からの反射光をサーキュレータを介して検光子に入射させるようにしたことを特徴とする探傷装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載する探傷装置において、
前記光ファイバの出力光が前記検光子の位置で直線偏光となるように調整した偏光子を光ファイバで形成する光路の途中に配設したことを特徴とする探傷装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載する探傷装置において、
前記光ファイバを偏波保持ファイバで形成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記反射光を前記出射用光ファイバの入射端面に集光させるように前記反射膜で形成する反射面を曲面としたことを特徴とする探傷装置。
【請求項7】
磁性体である被探傷部材に渦電流を流すための交番磁界を発生するコイルと、
一端面に反射膜を設けて前記コイルの近傍部分に配設した磁気光学素子と、
光源からの光を前記反射膜に向けて前記磁気光学素子に入射させる2系統の入射用光ファイバと、
前記反射膜で反射した反射光をそれぞれ検光子に入射させる2系統の出射用光ファイバと、
前記各検光子の出力光をそれぞれ電気信号に変換する光電変換素子と、
各光電変換素子の出力信号を処理して前記各反射光の偏光面の回転角に基づき前記被探傷部材の傷を検出する演算処理手段とを有することを特徴とする探傷装置。
【請求項8】
請求項7に記載する探傷装置において、
各入射用光ファイバと各出射用光ファイバとを1本づつの光ファイバで形成するとともに各光路の途中にサーキュレータを介在させ、光源から各サーキュレータを介して前記磁気光学素子に光を入射させるとともに、この磁気光学素子からの反射光を各サーキュレータを介して各検光子に入射させるようにしたことを特徴とする探傷装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載する探傷装置において、
前記各光ファイバの出力光が前記各検光子の位置で直線偏光となるように調整した偏光子を各光ファイバで形成する各光路の途中に配設したことを特徴とする探傷装置。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載する探傷装置において、
前記各光ファイバを偏波保持ファイバで形成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記各反射光を前記各出射用光ファイバの入射端面にそれぞれ集光させるように前記反射膜で形成する反射面を曲面としたことを特徴とする探傷装置。
【請求項12】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子は、前記コイルの内周部の中心に配設したことを特徴とする探傷装置。
【請求項13】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子は、前記コイルの周面に接して配設したことを特徴とする探傷装置。
【請求項14】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子は、前記コイルの内周面から中心までの距離の3分の1の位置に配設したことを特徴とする探傷装置。
【請求項15】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルの外周部にも複数の磁気光学素子を配設し、これらの磁気光学素子を配設した部位の探傷もそれぞれ同時に行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項16】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルの内周部に複数の磁気光学素子を配設し、各磁気光学素子を配設した部位の探傷をそれぞれ同時に行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項17】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
内周部にそれぞれ前記磁気光学素子が配設されたコイルを2個有し、各コイルが発生する磁束が相互に重畳されるように各コイルに相互に逆方向の電流を供給するとともに、前記コイルの一方と他方との間に、他の磁気光学素子を配設して前記重畳された磁束による偏光面の回転角に基づく探傷を行い得るように構成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項18】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記磁気光学素子は、前記被探傷部材の面と平行成分の磁界変化を検出し得るよう前記平行方向に光を入射するとともにこの平行方向と直角な面に形成された反射膜で前記平行方向に前記光を反射させるように構成したことを特徴とする探傷装置。
【請求項19】
請求項2乃至請求項11のいずれか一つに記載する探傷装置において、
前記コイルを矩形に成形するとともに、このコイルの直線部分に近接させて前記磁気光学素子を配設したことを特徴とする探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−215018(P2006−215018A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320723(P2005−320723)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】