説明

探傷装置

【課題】従来の探傷装置は、一定の外径を有する被探傷部材の探傷を行うことを前提としているので、外径が異なる複数の被探傷部材の探傷を行う場合に探傷が正常に行われているか否かを確認できず、探傷の信頼性が低下している。
【解決手段】本発明による探傷装置は、スクレーパ3の上流側に媒質液9を追加供給して、表面波探傷プローブ2で受信されるスクレーパ3での反射波11cが大きくなるようにスクレーパ3の上流側端面13に溜まる媒質液9の量を増やす液追加供給部12がスクレーパ3に設けられる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車軸や圧延ロール等の被探傷部材に生じている傷を探知するための探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の探傷装置としては、例えば下記の特許文献1,2等に示されている探傷装置が用いられている。すなわち、従来の探傷装置では、被探傷部材の外周面との間に所定のギャップを形成するように表面波探傷プローブが配置され、このギャップに供給された例えば水や油等の媒質液を介して表面波探傷プローブが被探傷部材の外周面に接触される。そして、表面波探傷プローブが被探傷部材の回転方向に沿う上流に向けて探傷用超音波を発信し、被探傷部材の外周面又は内部に生じた傷によって反射された反射波を受信することで、被探傷部材の傷が探知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−276547号公報
【特許文献2】特開2000−214138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の探傷装置は、一定の外径を有する被探傷部材の探傷を行うことを前提としている。すなわち、従来の探傷装置は、複数の被探傷部材の探傷を順に行う場合でも、被探傷部材の外周面と表面波探傷プローブとの間のギャップが常に一定となり、一定量の媒質液さえギャップに供給すれば、この媒質液を介して表面波探傷プローブが被探傷部材の外周面に確実に接触されることを前提としている。
【0005】
一方で、例えば多品種の鋼板を製造する製造所等では、様々な外径を有する被探傷部材の探傷を一台の探傷装置で行わなければならないことがある。被探傷部材の外径が変わると、外周面の曲率の違いから、外周面と表面波探傷プローブとの間のギャップの大きさも変わってしまう。この場合、一定量の媒質液をギャップに供給したとしても、媒質液を介して被探傷部材の外周面に表面波探傷プローブが接触しないこともある。
【0006】
すなわち、上記のような従来の探傷装置では、一定の外径を有する被探傷部材の探傷を行うことを前提としているので、外径が異なる複数の被探傷部材の探傷を行う場合に探傷が正常に行われているか否かを確認できず、探傷の信頼性が低下している。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、外径が異なる複数の被探傷部材の探傷を行う場合でも探傷が正常に行われているか否かを確認でき、探傷の信頼性を向上できる探傷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る探傷装置は、回転する円筒又は円柱形状の被探傷部材に生じている傷を探知するための探傷装置であって、被探傷部材の探傷領域の一端を形成するとともに、被探傷部材の外周面との間に所定のギャップを形成するように配置され、ギャップに供給された媒質液を介して被探傷部材の外周面に接触されるとともに、探傷領域に向けて探傷用超音波を発信して反射波を受信する表面波探傷プローブと、被探傷部材の回転方向に沿う表面波探傷プローブの上流に配置されるとともに探傷領域の他端を形成し、被探傷部材の回転に応じて媒質液を掻くスクレーパとを備え、スクレーパには、被探傷部材の回転方向に沿うスクレーパの上流側に媒質液を追加供給して、表面波探傷プローブで受信されるスクレーパでの反射波が大きくなるようにスクレーパの上流側端面に溜まる媒質液の量を増やす液追加供給部が設けられている。
また、表面波探傷プローブには、スクレーパでの反射波が表面波探傷プローブによって受信されたか否かに基づいて、探傷用超音波による探傷が正常に行われているか否かを判定する判定部が接続されている。
また、判定部は、表面波探傷プローブが探傷用超音波を発信してからスクレーパで反射された反射波が表面波探傷プローブで受信されるまでの反射時間を記憶しており、探傷用超音波の発信から反射時間が経過した際に反射波が受信された場合に、スクレーパでの反射波が表面波探傷プローブによって受信されたことを検出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の探傷装置によれば、スクレーパの上流側に媒質液を追加供給して、表面波探傷プローブで受信されるスクレーパでの反射波が大きくなるようにスクレーパの上流側端面に溜まる媒質液の量を増やす液追加供給部がスクレーパに設けられているので、表面波探傷プローブとスクレーパとの間の探傷領域を探傷用超音波が正常に往復すれば、信頼性の高いスクレーパでの反射波を表面波探傷プローブで受信できる。これにより、外径が異なる複数の被探傷部材の探傷を行う場合でも、スクレーパでの反射波が受信されるか否かに基づいて探傷が正常に行われているか否かを確認でき、探傷の信頼性を向上できる。
また、判定部は、スクレーパでの反射波が表面波探傷プローブによって受信されたか否かに基づいて、探傷用超音波による探傷が正常に行われているか否かを判定するので、探傷が正常に行われているか否かをより確実に確認でき、探傷の信頼性をさらに向上できる。
また、判定部は、探傷用超音波の発信から反射時間が経過した際に反射波が受信された場合に、スクレーパからの反射波が表面波探傷プローブによって受信されたことを検出するので、傷による反射波とスクレーパでの反射波とをより確実に判別でき、探傷の信頼性をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1による探傷装置を示す構成図である。
【図2】図1のスクレーパを示す正面図である。
【図3】図1の表面波探傷プローブによって受信される反射波を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による探傷装置を示す構成図であり、図2は図1のスクレーパ3を示す正面図である。図において、被探傷部材1は、例えば圧延ロールや車軸等の円筒又は円柱形状の部材であり、外周面1a又は内部に傷が生じているか否かが検査される部材である。この被探傷部材1は、図示しない駆動装置によって回転可能に支持されており、被探傷部材1の外周位置には、表面波探傷プローブ2とスクレーパ3とが配置されている。表面波探傷プローブ2は、被探傷部材1の探傷が行われる探傷領域4の一端を形成している。スクレーパ3は、被探傷部材1の回転方向5に沿う表面波探傷プローブ2の上流に配置され、探傷領域4の他端を形成している。すなわち、探傷領域4は、回転方向5に沿う表面波探傷プローブ2の上流かつスクレーパ3の下流に位置する被探傷部材1の外周面1a及び内部の領域である。なお、回転方向5に沿う上流とは、回転方向5と逆の方向に向かって離れた位置を示し、回転方向5に沿う下流とは、回転方向5に向かって離れた位置を示す。
【0012】
表面波探傷プローブ2は、被探傷部材1の外周面1aとの間に所定のギャップ6を形成するように配置されている。具体的には、表面波探傷プローブ2は、アーム7によって吊り下げられており、表面波探傷プローブ2の下部に取付けられたローラ8が外周面1a上を転動するように配置されている。詳細には示さないが、表面波探傷プローブ2は、例えば水や油等の媒質液9をギャップ6に供給する周知の媒質液供給部を含んでおり、ギャップ6に供給された媒質液9を介して被探傷部材1の外周面1aに接触されている。また、表面波探傷プローブ2は、探傷領域4に向けて探傷用超音波10を発信する。後に図を用いて説明するが、探傷用超音波10は、表面波探傷プローブ2直下の被探傷部材1の外周面1a、探傷領域4内の傷、及びスクレーパ3で反射される。探傷用超音波10の反射波11は、表面波探傷プローブ2によって受信される。
【0013】
スクレーパ3は、例えばシリコンゴム等の可撓性を有する素材から構成された板状の部材であり、外周面1aに当接されている。スクレーパ3は、被探傷部材1の回転に応じて媒質液9を掻く部材である。すなわち、スクレーパ3は、被探傷部材1が一周された後でも外周面1aに残っている媒質液9が探傷領域4に進入することを防ぐものである。
【0014】
図1及び図2に示すように、スクレーパ3には、被探傷部材1の回転方向5に沿うスクレーパ3の上流側に媒質液9を追加供給する液追加供給部12が設けられている。具体的には、液追加供給部12は、媒質液9を吐出するための下部開口12aがスクレーパ3の上流側端面13に隣接されるとともに上流側端面13の幅方向13aに沿う中央に位置するように、スクレーパ3に設けられている。後述するように、この液追加供給部12は、表面波探傷プローブ2で受信されるスクレーパ3での反射波11が大きくなるようにスクレーパ3の上流側端面13に溜まる媒質液9の量を増やすためのものである。
【0015】
ここで、表面波探傷プローブ2及びスクレーパ3は、被探傷部材1の頂点1bを挟んで被探傷部材1の回転方向5に沿う上流側と下流側とに分れて配置されている。これは、表面波探傷プローブ2の媒質液供給部から供給された媒質液9が探傷領域4に流れ込むことを防ぐとともに、スクレーパ3の上流側端面13に溜まった媒質液9が探傷領域4に流れ込むことを防ぐためである。すなわち、媒質液供給部からの媒質液9及び上流側端面13に溜まった媒質液9は、重力により、探傷領域4から遠ざかる方向へ流される。なお、被探傷部材1の頂点1bとは、鉛直線に沿う被探傷部材1の最上部である。
【0016】
表面波探傷プローブ2には、例えばマイクロコンピュータ等から構成された検知部15及び判定部16と、例えばCRTディスプレイ等から構成された表示部17が接続されている。検知部15は、表面波探傷プローブ2が受信した反射波11に基づいて、被探傷部材1の探傷領域4に生じている傷を検知する。判定部16は、スクレーパ3での反射波11が表面波探傷プローブ2によって受信されたか否かに基づいて、探傷用超音波10による探傷が正常に行われているか否かを判定する。表示部17は、表面波探傷プローブ2が受信した反射波11を表示するとともに、検知部15の検知結果及び判定部16の判定結果を表示する。
【0017】
次に、図3は、図1の表面波探傷プローブ2によって受信される反射波11を示す説明図であり、図3における横軸は時間(距離)を示し、縦軸は受信された反射波11の強度を示している。反射波11には、第1反射波11a、第2反射波11b、及び第3反射波11cが含まれる。第1反射波11aは、表面波探傷プローブ2直下の外周面1aで反射された反射波11であり、探傷用超音波10が発信された発信時T0の直後に受信される。
【0018】
第2反射波11bは、探傷領域4内の傷での反射波11であり、発信時T0からスクレーパ3で反射された反射波11が表面波探傷プローブ2で受信されるまでの反射時間T1が経過するまでの間に受信される。
【0019】
ここで、探傷用超音波10の伝導速度と表面波探傷プローブ2からスクレーパ3までの距離とは予め測定できるので、反射時間T1も予め想定できる。検知部15は、反射時間T1を記憶しており、発信時T0から反射時間T1が経過するまでの間に表面波探傷プローブ2で反射波11が受信された場合に、第2反射波11bが受信されたことを検出する。なお、検知部15は、表面波探傷プローブ2からの信号に基づいて発信時T0を検出する。また、検知部15は、所定の閾値15aを記憶しており、第2反射波11bの強度が閾値15aを超えている場合に、探傷領域4内に欠陥となる大きな傷があることを検知する。さらに、検知部15は、傷の有無を示すとともに、傷が欠陥となる大きなものか否かを示す検知結果を、表示部17を介してオペレータに報知する。
【0020】
第3反射波11cは、スクレーパ3での反射波11であり、発信時T0から反射時間T1が経過した際に受信される。この第3反射波11cは、表面波探傷プローブ2からの探傷用超音波10がスクレーパ3まで正常に伝わるとともに、そのスクレーパ3での反射波11が表面波探傷プローブ2で正常に受信された場合に受信される。すなわち、第3反射波11cは、表面波探傷プローブ2が媒質液9を介して被探傷部材1の外周面1aに接触されており、探傷用超音波10による探傷が正常に行われている場合に受信される。
【0021】
判定部16は、反射時間T1を記憶しており、発信時T0から反射時間T1が経過した際に表面波探傷プローブ2で反射波11が受信された場合に、第3反射波11cが受信されたことを検出する。なお、検知部15と同様に、判定部16も表面波探傷プローブ2からの信号に基づいて発信時T0を検出する。また、判定部16は、第3反射波11cが受信されたことを検出した場合に、探傷用超音波10による探傷が正常に行われていると判定する。さらに、判定部16は、探傷が正常に行われているか否かを示す判定結果を、表示部17を介してオペレータに報知する。
【0022】
ここで、第3反射波11cの大きさは、スクレーパ3の上流側端面13に溜まる媒質液9の量によって変化する。仮に、上流側端面13に媒質液9が溜まっていない場合には、探傷用超音波10がスクレーパ3を通過するために第3反射波11cが発生しない。また、上流側端面13に溜まっている媒質液9が少ない場合には、表面波探傷プローブ2で受信される期間が短いシャープな第3反射波11cが発生し、信頼性の観点から、探傷が正常に行われているか否かの判定に使用できない。このため、この実施の形態の探傷装置では、スクレーパ3の上流側端面13に溜まる媒質液9の量を液追加供給部12によって増やすことで、信頼性の高い第3反射波11cを表面波探傷プローブ2で受信できるようにしている。
【0023】
このような探傷装置では、スクレーパ3の上流側に媒質液9を追加供給して、表面波探傷プローブ2で受信される第3反射波11cが大きくなるようにスクレーパ3の上流側端面13に溜まる媒質液9の量を増やす液追加供給部12がスクレーパ3に設けられているので、探傷用超音波10が探傷領域4を正常に往復すれば、信頼性の高い第3反射波11cを表面波探傷プローブで受信できる。これにより、外径が異なる複数の被探傷部材1の探傷を行う場合でも、第3反射波11cが受信されるか否かに基づいて探傷が正常に行われているか否かを確認でき、探傷の信頼性を向上できる。
【0024】
また、判定部16は、第3反射波11cが表面波探傷プローブ2によって受信されたか否かに基づいて、探傷用超音波10による探傷が正常に行われているか否かを判定するので、探傷が正常に行われているか否かをより確実に確認でき、探傷の信頼性をさらに向上できる。すなわち、オペレータによる判断の必要性を低減でき、利便性を向上できる。
【0025】
また、判定部16は、発信時T0から反射時間T1が経過した際に反射波11が受信された場合に、第3反射波11cが表面波探傷プローブ2によって受信されたことを検出するので、第2反射波11bと第3反射波11cとをより確実に判別でき、探傷の信頼性をさらに向上できる。
【0026】
なお、実施の形態では、探傷が正常に行われているか否かを判定部16が判定すると説明したが、この判定部16は省略されてもよい。すなわち、実際の現場では表示部17に表示された波形を見てオペレータが判断してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 被探傷部材
1a 外周面
1b 頂点
2 表面波探傷プローブ
3 スクレーパ
4 探傷領域
5 回転方向
6 ギャップ
9 媒質液
10 探傷用超音波
11 反射波
11a〜11c 第1〜第3反射波
12 液追加供給部
13 上流側端面
16 判定部
17 表示部
T1 反射時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する円筒又は円柱形状の被探傷部材(1)に生じている傷を探知するための探傷装置であって、
前記被探傷部材(1)の探傷領域(4)の一端を形成するとともに、前記被探傷部材(1)の外周面(1a)との間に所定のギャップ(6)を形成するように配置され、前記ギャップ(6)に供給された媒質液(9)を介して前記被探傷部材(1)の外周面(1a)に接触されるとともに、前記探傷領域(4)に向けて探傷用超音波(10)を発信して反射波(11)を受信する表面波探傷プローブ(2)と、
前記被探傷部材(1)の回転方向(5)に沿う前記表面波探傷プローブ(2)の上流に配置されるとともに前記探傷領域(4)の他端を形成し、前記被探傷部材(1)の回転に応じて前記媒質液(9)を掻くスクレーパ(3)と
を備え、
前記スクレーパ(3)には、前記被探傷部材(1)の回転方向(5)に沿う前記スクレーパ(3)の上流側に前記媒質液(9)を追加供給して、前記表面波探傷プローブ(2)で受信される前記スクレーパ(3)での反射波(11c)が大きくなるように前記スクレーパ(3)の上流側端面(13)に溜まる前記媒質液(9)の量を増やす液追加供給部(12)が設けられていることを特徴とする探傷装置。
【請求項2】
前記表面波探傷プローブ(2)には、前記スクレーパ(3)での反射波(11c)が前記表面波探傷プローブ(2)によって受信されたか否かに基づいて、前記探傷用超音波(10)による探傷が正常に行われているか否かを判定する判定部(16)が接続されていることを特徴とする請求項1記載の探傷装置。
【請求項3】
前記判定部(16)は、前記表面波探傷プローブ(2)が前記探傷用超音波(10)を発信してから前記スクレーパ(3)で反射された反射波(11c)が前記表面波探傷プローブ(2)で受信されるまでの反射時間(T1)を記憶しており、前記探傷用超音波(10)の発信から前記反射時間(T1)が経過した際に反射波(11)が受信された場合に、前記スクレーパ(3)での反射波(11c)が前記表面波探傷プローブ(2)によって受信されたことを検出することを特徴とする請求項2に記載の探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−75303(P2011−75303A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224351(P2009−224351)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】