説明

接合代を有する塗膜付金属板の製造方法

【課題】意匠性の低下を防止し、構造上の自由度を向上し、かつ、接合を適用することが可能な塗膜付金属板を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属板上に、所望のパターンの離型層を形成する工程と、
前記離型層が形成されてなる前記金属板上に塗膜を形成する工程と、
前記離型層ごと前記塗膜を剥離することによって、前記金属板を前記パターンに沿って露出させ被接合部材を接合するための接合代を形成する工程と、
を含む、接合代を有する塗膜付金属板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜付金属板の製造方法に関する。より詳しくは、被接合部材との接合力を強化する工夫を施してなる、塗膜付金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、建材、家庭用電気製品、雑貨などの分野において汎用されている予め塗装されている金属板(塗膜付金属板)においては、塗膜が絶縁物であるために、単純には溶接ができなかったり、熱によって塗膜が溶解してしまったりする欠点がある。そこで、一般的には、塗膜付金属板の接合方法として、接着剤によって接着接合する方法などが提案されている。
【0003】
しかしながら、平坦な塗膜面を接着剤によって単純に接着するだけであるため、強い応力がかかったり、接着部分が経時劣化したりすると、接着剤と塗膜が剥離したり金属板から塗膜自体が剥離したりして、接着部分が破断するとの問題があった。
【0004】
かかる問題を解決する方法として、塗膜付金属板に穴を開け、接着剤を挟みこむことで、穴から接着剤を反対側に押し出し、リベット状の接着面を形成する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−001650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1においては、接着剤により単純に接着する方法と比べれば、接合強度は、向上する。
【0007】
しかしながら、必ず穴を開ける必要があるため、例えば人の目に触れるような部分(例えば、自動車のドア)にかかる技術を施すとなると、見栄えが悪くなり意匠性が低下する。また、必ず穴を開ける必要があるため、構造上の制約が発生する。そして、そもそも、塗膜付金属板を単純に溶接することができれば、接合力は十分に確保できるため、接着剤による接着接合やリベットを用いる機械的接合を行う必要がないが、塗膜付金属板において、かような技術は未だ存在しない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、意匠性の低下を防止し、構造上の自由度を向上し、かつ、接合を適用することが可能な塗膜付金属板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、金属板上において被接合部材と接合する部分に塗膜の剥離を容易にせしめる離型層を形成し、塗装後、離型層ごと塗膜を剥離した、接合代を有する塗膜付金属板を提供することによって、前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗膜付金属板における塗膜を容易に剥離することができ、剥離された部分が被接合部材と強固に接合しうる接合代として機能する。そして、接合代においては、塗膜が存在しないため、金属板に直接接着剤などを塗布することができる。また、塗膜が存在しないため、溶接を単純に行うことができる。
【0011】
そうであるため、意匠性の低下を防止し、構造上の自由度を向上し、かつ、接合の適用可能な抜本的な塗膜付金属板を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、接合代を有する塗膜付金属板を、被接合部材に接合することによって、塗膜付金属板を含む接合体を製造する形態を概略的に示した図である。
【図2】図2は、接合代を有する塗膜付金属板を製造する工程と、前記塗膜付金属板の接合代に、被接合部材を接合する工程と、を含む、塗膜付金属板を含む接合体の製造フローである。
【図3】図3は、所望のパターンの離型層が形成されてなる金属板を模式的に表した断面図である。
【図4】図4は、金属板のうち離型層を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成された形態を示す断面図である。
【図5】図5は、離型層が形成されてなる金属板上に塗膜が形成された形態を模式的に表した断面図である。
【図6】図6は、金属板のうち離型層を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成したものに塗膜が形成された形態を模式的に表した断面図である。
【図7】図7は、離型層が形成されてなる金属板上に、電着層、中塗層、上塗層、クリア層がこの順で積層されてなる塗膜を模式的に表す断面図である。
【図8】図8は、離型層が形成されてなる金属板上に塗膜が形成されたものに粘着テープが接着された形態を模式的に表した断面図である。
【図9】図9は、金属板のうち離型層を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成したものに塗膜が形成されたものに粘着テープが接着された形態を模式的に表した断面図である。
【図10】図10は、塗膜付金属板から離型層ごと塗膜が剥離され、接合代を有する塗膜付金属板が製造される形態を模式的に表した断面図である。
【図11】図11は、塗膜付金属板から離型層ごと塗膜が剥離され、接合代を有する塗膜付金属板が製造される形態を模式的に表した断面図である。
【図12】図12は、接合代を有する塗膜付金属板上に、接着剤が全体に亘って塗布されてなる形態を模式的に表した断面図である。
【図13】図13は、接着剤が全体に亘って塗布された接合代を有する塗膜付金属板と、接着剤が全体に亘って塗布された接合代を有する塗膜付金属板とを、接着剤を介して接合する形態を断面図で示したものである。
【図14】図14は、接着剤が全体に亘って塗布された接合代を有する塗膜付金属板と、金属板とを、接着剤を介して接合する形態を断面図で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1は、金属板上に、所望のパターンの離型層を形成する工程と、前記離型層が形成されてなる前記金属板上に塗膜を形成する工程と、前記離型層ごと前記塗膜を剥離することによって、前記金属板を前記パターンに沿って露出させ被接合部材を接合するための接合代を形成する工程と、を含む、接合代を有する塗膜付金属板の製造方法である。
【0014】
また、本発明の第2は、本発明の第1の方法によって接合代を有する塗膜付金属板を製造する工程と、前記塗膜付金属板の接合代に、被接合部材を接合する工程と、を含む、塗膜付金属板を含む接合体の製造方法である。
【0015】
上記の通り、塗膜付金属板を接合する際の問題は従来から指摘されており、その問題を解決するために特許文献1のような技術が存在する。その他に、例えば、塗膜に対して接着性の良い接着剤の開発なども行われている。しかしながら、塗膜が複数層で形成されてなる場合では、そのうちの強度の低い層が基点となって剥離したり、凝集破壊を起こしたりすることがあり、接合強度が十分でないとの問題があった。
【0016】
本発明者らは、かかる問題を解決すべく鋭意研究を行った。その過程の中で、この問題が生じるそもそもの原因(つまり、塗膜自体)に着目した。
【0017】
すなわち、塗膜付金属板における塗膜の存在に起因するのであるから、塗膜付金属板の利点を生かしながらも、接合部分のみにおいては、塗膜付金属板でない形態にせしめることによって上記問題を解決することができないかを検討した。
【0018】
塗膜付金属板は塗膜が付いていることが前提である。ただ、その当然の前提を敢えて打ち崩し、塗膜付金属板から、金属板上において被接合部材と接合する部分を予測し、その部分の塗膜の剥離し、被接合部材と強固に接合しうる金属板を露出させることによって、上記問題を解決することできることを見出した。
【0019】
すなわち、金属板上に塗膜の剥離を容易にする離型層を形成し、離型層ごと塗膜を剥離することによって、金属板を露出させ、被接合部材を接合するための接合代を形成することによって、抜本的に前記問題が解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【0020】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一具体例に過ぎないため、かかる具体例に本発明が限定されないのは言うまでもない。また、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。
【0021】
図1は、接合代を有する塗膜付金属板Aを、被接合部材Bに接合することによって、塗膜付金属板を含む接合体Cを製造する形態を概略的に示した図である。
【0022】
接合代を有する塗膜付金属板Aは、金属板11と、前記金属板11上に形成されてなる塗膜12と、金属板11が露出した被接合部材を接合するための接合代13と、から構成されてなる。
【0023】
被接合部材Bは、接合代を有する塗膜付金属板Aと同様に、金属板11と、前記金属板11上に形成されてなる塗膜12と、金属板11が露出した被接合部材を接合するための接合代13とから構成されてなる。被接合部材Bが、このように、接合代を有する塗膜付金属板Aと同様の形態であると、塗膜付金属板同士を接合する際に両者の接着性が向上するという点で好ましい。
【0024】
塗膜付金属板を含む接合体Cは、接合代を有する塗膜付金属板Aと、被接合部材Bとを接着剤14を用いて接合することによって、製造することができる。なお、接着剤14は、粘性を有するため、接合代13が埋まるような形態で、塗膜付金属板を含む接合体Cが製造される。
【0025】
続いて、図2において、接合代を有する塗膜付金属板を製造する工程と、前記塗膜付金属板の接合代に、被接合部材を接合する工程と、を含む、塗膜付金属板を含む接合体の製造フローを概略的に説明する。無論、下記の形態に制限されないのは言うまでもない。
【0026】
(1)離型層形成
本実施形態においては、成形するために切り出した自動車のドアのブランク材(金属板11)上に、所望のパターンの離型層21を形成する。図3に、所望のパターンの離型層が形成されてなる金属板を模式的に表した断面図を示す。
【0027】
金属板11としては特に制限はないが、例えば自動車に用いる場合、鋼板であることが好ましい。金属板11の厚さとしても特に制限はないが、0.6〜1.6mm程度であると好ましい。
【0028】
離型層21は、被接合部材を接合するための接合代を形成するために供される。すなわち、離型層21を形成することによって、離型層21ごと塗膜を剥離することができる。そうすることによって、金属板11を露出させることができ、その金属板11が露出した部分が、被接合部材を接合するための接合代となる。なお、作業性を考慮すると、成形を施す前に離型層を形成することが好ましい。
【0029】
ここで、離型層21の所望のパターンは、接合代をどの位置に設けるかによって、適宜設定することができる。ただ、成形する前であり、かつ、離型層が形成された部位は成形時に伸びやプレス型との摩擦が変わるため、接合する部分(すなわち接合代)がどの位置になるかをどのように予測するかが問題となる。この問題は、予め成形シミュレーションを実施したり、試験的な成形(試し打ち)をしたりすることによって、解決することができる。成形シミュレーションによれば、所望のパターンを有する金属板において、どの部位がどのくらい絞られるか、どの部位がどの部位に変形するかということを導き出すことができる。また、試験的な成形を行えば、成形時における離型層が形成された部位の摩擦や伸びを実際に確認できる。
【0030】
離型層21としては、塗膜付金属板から塗膜を容易に剥離することができるものであれば特に制限はない。例えば、金属板上にレーザーを照射する、あるいは、薬品塗布して加熱するなどの方法によって、金属板に酸化被膜を形成し、その酸化被膜を離型層とすることができる。離型層が酸化被膜である場合、驚くほど容易に、かつ、きれいに塗膜を剥離することができる点で好ましい。この効果は、金属板が鋼板である場合、特に顕著である。また、離型剤、マスキング剤、マスキングテープなどを離型層として用いてもよい。
【0031】
離型層21の幅や厚さについても、離型層ごと塗膜を容易に剥離することができ、かつ、接合代として十分に機能しうれば特に制限はない。離型層の幅が、接合代の幅となるため、離型層の幅を決定するに際し、接合代についても考慮に入れるとよい。
【0032】
接合代として十分に機能しうる幅に関しては、接合する方法(例えば、接着剤の種類など)や形成される離型層の面積(体積)によっても異なるが、どれほどの力が接合代にかかるかを想定することによって決定することができる。つまり、塗膜付金属板および被接合部材の接合力と、想定される力(要求される力)との兼ね合いで、離型層の幅(接合代の幅)を決めることができる。例えば、一般的な自動車のドアを想定した際、金属板の厚さが0.6〜1.6mm程度である場合、離型層の幅は10mm程度で、厚さが2μm程度であると好ましい。無論、当業者であれば適宜変更をすることができる。
【0033】
(2)成形
続いて、前記離型層が形成されてなる前記金属板を成形する。塗膜を形成する前に成形することによって、成形に伴う塗膜の割れを防ぐことができる点で好ましい。無論、塗膜を形成した後に、前記塗膜が形成されてなる前記金属板を成形してもよいが、その場合は曲げても割れない特殊な塗料を用いればよい。
【0034】
成形の方法は、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて行うことができるが、図2に示すようにプレス成形をすることが好ましい。プレス成形を行う際、必要に応じ、従来公知の工程(例えば、不要な部分の切断(切断工程)、角を曲げたりする(曲げ工程))を適宜行うとよい。
【0035】
また、実際の接合体を想定して成形する際に、離型層を剥離しやすくするような工夫を、金属板に施してもよい。図4は、金属板11のうち離型層21を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成された形態を示す断面図である。かかる凸部を成形することによって、その部分が基点(きっかけ)となって離型層が剥離しやすくなる点で好ましい。
【0036】
(3)成形品
続いて、上記の離型層が形成されてなる金属板の成形を行うことによって、成形品を製造する。
【0037】
(4)塗装
続いて、上記の離型層が形成されてなる金属板(成形品)上に塗膜を形成する。
【0038】
本実施形態においては、接合(組み立て)を行う前に、塗装を行うことができる点、従来に比して非常に有利と言える。すなわち、従来、特に自動車の分野においては、塗膜付金属板同士を接合する際に生じる接合強度の問題を理由として、組み立てを行う前に成形品に塗装を施すことが困難であった。その一方で、組み立てされた接合体は、一般的に袋構造などの複雑な形状を有しているため、塗装をする場合、塗装むらが生じるなどの問題があった。
【0039】
本実施形態においては、金属板を予め塗装した塗膜付金属板を用いるため、そもそも塗装むらが防止でき、意匠性に優れた接合体を提供することができる。そして、本実施形態の塗膜付金属板は、被接合部材と強固に接合しうる接合代を有しているため(金属板に直接接着剤などを塗布することができ、また、溶接を単純に行うことができるため)、前記の接合強度の問題をも解決した画期的なものと言える。
【0040】
本実施形態において、塗装の方法としても特に制限はされず、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて、適切な塗装を行うことができる。
【0041】
図5は、離型層21が形成されてなる金属板11上に塗膜12が形成された形態を模式的に表した断面図である。また、図6は、図5の形態の変形例であって、金属板11のうち離型層21を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成したものに塗膜12が形成された形態を模式的に表した断面図である。
【0042】
塗膜12は、金属板11との接着性や意匠性を向上させるとの観点で、複数層積層されたものであってもよい。図7は、塗膜が複数層積層された形態を示すものであって、離型層21が形成されてなる金属板11上に、電着層12a、中塗層12b、上塗層12c、クリア層12dがこの順で積層されてなる塗膜12を模式的に表す断面図である。必要に応じ、上塗層12cとクリア層12dの間にパール層を設けてなる構成であってもよい(図示せず)。
【0043】
従来のように、塗膜に接着剤を塗布して塗膜付金属板同士を接合すると、特に、図7に示すように塗膜が複数層で形成されてなる場合では、そのうちの強度の低い層(発明者らの実験によると中塗層12bと上塗層12cとの間)が基点となって剥離したり、凝集破壊を起こしたりすることがあった。中塗層12bと上塗層12cとの間が問題であれば、中塗層12bを形成しないとの考えもある。しかしながら、意匠性が低下したりする問題や、今度は、クリア層12dと中塗層12bとの接合強度の問題も生じる可能性がある。また、塗膜12が絶縁物であるために、単純には溶接ができなかったり、熱によって塗膜が溶解してしまったりする欠点がある。
【0044】
本実施形態によれば、離型層21ごと塗膜12を剥離することで、接着力が有意に強い金属板11を露出させることができるため、被接合部材を接合する際に、接合強度の問題なく塗膜付金属板を含む接合体を製造することができる。また、本実施形態によれば、金属板11が露出するため(塗膜12が剥離されているため)、露出された金属板11(接合代)で容易に溶接を適用することができる。
【0045】
(5)剥離
続いて、塗膜付金属板から離型層21ごと塗膜12を剥離することによって、金属板11を離型層21のパターンに沿って露出させ、被接合部材を接合するための接合代を形成する。塗膜付金属板から離型層21ごと塗膜12を剥離するためには、例えば粘着テープを離型層21上に形成された塗膜12の全体を覆うように接着した後、その粘着テープを引き上げればよい。本実施形態においては、塗膜12の下部に離型層21が存在するが、離型層21と金属板11との間が、一番接合力の弱い部分となるため、驚くほど容易に、塗膜付金属板から塗膜12を剥離することができる。
【0046】
図8は、離型層21が形成されてなる金属板11上に塗膜12が形成されたものに粘着テープ31が接着された形態を模式的に表した断面図である。図9は、図8の形態の変形例であって、金属板11のうち離型層21を形成した部位の少なくとも一部が突出して凸部が形成したものに塗膜12が形成されたものに粘着テープ31が接着された形態を模式的に表した断面図である。図9に示す変形例においては、粘着テープ31を引き上げる部分が予め凸部形状であるため、非常に容易に粘着テープの引き上げを行うことができる点で好ましい。
【0047】
図8において、粘着テープ31を引き上げると、図10に示すように、塗膜付金属板から離型層21ごと塗膜12が剥離され、接合代13を有する塗膜付金属板Aを容易に製造することができる。また、図9において、粘着テープ31を引き上げると、図11に示すように、塗膜付金属板から離型層21ごと塗膜12が剥離され、接合代13を有する塗膜付金属板Aを容易に製造することができる。
【0048】
なお、離型層21が酸化被膜である場合、図10および図11に示すように、金属板11のうち離型層(酸化被膜)21が形成されていた跡(酸化被膜跡21a)が残る。この場合、酸化被膜跡21aを含めて、接合代13と称する。離型層21が離型剤やマスキング剤のような場合は、酸化被膜跡21aのような跡は残らない。ただし、離型剤やマスキング剤が、金属板上に多少残存する虞もあるため、それらを拭き取るなどをしておくと、後に、被接合部材と接合する際に、接合力が強化されて好ましい。離型層21が、酸化被膜である場合、拭き取りの作業等の必要性がなく、接合力が強いとの点でも好ましい。
【0049】
上記説明した通り、塗膜付金属板から離型層21ごと塗膜12を剥離することによって、金属板11を離型層21のパターンに沿って露出させ、被接合部材を接合するための接合代13を形成することができる。接合代13においては、塗膜12が存在しないため、金属板11に直接接着剤などを塗布することができる。また、塗膜12が存在しないため、溶接を単純に行うことができる。そうであるため、意匠性の低下を防止し、構造上の自由度を向上し、かつ、接合の適用可能な抜本的な塗膜付金属板を製造する方法を提供することができる。
【0050】
(6)接合
最後に、(1)〜(5)において製造された接合代を有する塗膜付金属板を、被接合部材に接合し、塗膜付金属板を含む接合体を製造する。
【0051】
上記説明した通り、本実施形態においては、塗膜付金属板の利点(組み立て前に塗装を施すことができるため、塗装むらが生じず、意匠性に優れる)を生かしながらも、「接合部分のみ」においては、塗膜付金属板でない形態にせしめて、接合力を強化する。かようにして、本実施形態における課題を解決することができる。
【0052】
図12は、接合代13を有する塗膜付金属板A上に、接着剤14が全体に亘って塗布されてなる形態を模式的に表した断面図である。接合代13を有する塗膜付金属板A上に全体に亘って接着剤14を塗布することで、不要な隙間がなくなり、金属板11の錆びの防止に繋がる。なお、塗膜12上に直接接着剤14が塗布されてなる部位もあるため、かかる部位の強度が問題となるとも考えられるが、接合の強度は、接合代13の部分によって決まるため、問題とならない。
【0053】
接着剤14としても従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて使用することができるが、金属板11に対して接合力が強いものであると好ましい。
【0054】
図13は、接着剤14が全体に亘って塗布された接合代13を有する塗膜付金属板Aと、接着剤14が全体に亘って塗布された接合代13を有する塗膜付金属板Bとを、接着剤14を介して接合する形態を断面図で示したものである(なお、接合代13を有する塗膜付金属板Bが、本明細書における「被接合部材」に相当する)。この形態においては、両者に接着剤を塗布してなるので、接合力の観点で、好適である。また、塗膜付金属板同士を接合する際に、強固な接合力を確保できるとの点で好ましい。無論、図1に示したように、いずれか一方にのみ接着剤を塗布して、接着剤を介するように両者を接合してもよい。この形態は、作業性を考慮した際に、好適である。さらには、図14に示すように被接合部材Bは、塗膜を有さず、金属板11のみからなる形態であってもよい。かかる形態においては、接合代13を有する塗膜付金属板を、塗装を施す必要がない被接合部材と接合する点で、好ましい。
【0055】
図示はしていないが、接合代を使って溶接をすることによって、被接合部材と接合することができる。溶接の方法としても特に制限はなく、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせて適用することができるが、自動車や薄板板金の分野においては、スポット溶接が好ましい。
【0056】
上記の通り、剥離された部分が被接合部材と強固に接合しうる接合代として機能する。そして、接合代においては、塗膜が存在しないため、金属板に直接接着剤などを塗布することができる。また、塗膜が存在しないため、溶接を単純に行うことができる。
そうであるため、意匠性の低下を防止し、構造上の自由度を向上し、かつ、接合の適用可能な塗膜付金属板と披接合部剤とを接合して、接合体を製造する方法を提供することができる。
【0057】
また、本実施形態の接合代を有する塗膜付金属板を被接合部材に接合して塗膜付金属板を含む接合体を製造する際に、人の目に触れない部分などにおいては、さらにリベットやボルトを用いる機械的接合を行ってもよい。かかる機械的接合を行うことによって、さらに接合を強化することができる点で好ましい。ただし、本実施形態において特に優れた点は、意匠性が要求される部位や、構造上の自由が利かない部位であっても、塗膜付金属板同士を、接着剤を用いて接合したり、溶接したりすることができる点である点を最後に付言しておく。
【符号の説明】
【0058】
A 接合代を有する塗膜付金属板A、
B 被接合部材、
C 塗膜付金属板を含む接合体C、
11 金属板、
12 塗膜、
13 接合代、
14 接着剤、
21 離型層、
21a 酸化被膜跡、
31 粘着テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に、所望のパターンの離型層を形成する工程と、
前記離型層が形成されてなる前記金属板上に塗膜を形成する工程と、
前記離型層ごと前記塗膜を剥離することによって、前記金属板を前記パターンに沿って露出させ被接合部材を接合するための接合代を形成する工程と、
を含む、接合代を有する塗膜付金属板の製造方法。
【請求項2】
前記離型層が、前記金属板を酸化することによって形成される酸化皮膜または離型剤から形成されてなる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜を形成する前に、前記離型層が形成されてなる前記金属板を成形する成形工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜を形成した後に、前記塗膜が形成されてなる前記金属板を成形する成形工程をさらに有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属板を成形する工程において、前記金属板のうち前記離型層を形成した部位の少なくとも一部を突出させて凸部を形成する、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって接合代を有する塗膜付金属板を製造する工程と、
前記塗膜付金属板の接合代に、被接合部材を接合する工程と、
を含む、塗膜付金属板を含む接合体の製造方法。
【請求項7】
接着剤または溶接によって前記金属板と前記被接合部材とを接合する、請求項6に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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