説明

接合光学素子の製造方法

【課題】光学素子の変形を抑制できる接合光学素子製造方法
【解決手段】接合光学素子の製造方法は、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを樹脂を含む接合剤95で接合することにより接合レンズ90を製造する方法であって、下基材レンズ92に接合剤95を塗布する塗布段階と、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを対向させた状態で、上基材レンズ91および下基材レンズ92を、外力を加えない状態よりも互いの中央部分が離れるように変形させる変形段階と、変形を保って、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを近接させる近接段階と、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを近接させた状態で、接合剤95を硬化させる硬化段階とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の接合レンズの製造方法では、接合剤が塗布された一方のレンズを規正爪によって保持するとともに、他方のレンズを真空吸着する。この後、これらのレンズを互いに接近させた後、レンズとレンズとの間の接合剤を紫外線または熱等により硬化させてレンズ同士を接合する。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開平4−249136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の技術では、光学部材同士を接合する時に使用する熱、紫外線、接合剤の収縮等により、接合された光学部材が大きく変形するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、一の光学基材と他の光学基材とを樹脂で接合することにより接合光学素子を製造する方法であって、前記一の光学基材および前記他の光学基材の少なくとも一方に樹脂を塗布する塗布段階と、前記一の光学基材と前記他の光学基材とを対向させた状態で、前記一の光学基材および前記他の光学基材の少なくとも一方を、外力を加えない状態よりも互いの中央部分が離れるように変形させる変形段階と、前記変形を保って、前記一の光学基材と前記他の光学基材とを近接させる近接段階と、前記一の光学基材と前記他の光学基材とを近接させた状態で、前記樹脂を硬化させる硬化段階とを備える接合光学素子の製造方法である。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】レンズ接合装置の全体構成図である。
【図2】接合レンズの製造方法の変形段階を示す。
【図3】接合レンズの製造方法の近接段階及び硬化段階を示す。
【図4】製造された接合レンズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、レンズ接合装置の全体構成図である。図1に矢印で示す上下左右をレンズ接合装置の上下左右方向とする。
【0009】
図1に示すように、レンズ接合装置1は、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを樹脂で接合して接合レンズを製造する。レンズ接合装置1は、接合部2と、光干渉部3と、撮像素子4と、制御部5とを備える。
【0010】
接合部2は、上部本体11と、下部本体12と、昇降機構13と、吸引部14と、位置決め機構15と、紫外線照射部16とを備える。
【0011】
上部本体11は、上円筒部21と、上水平部22とを備える。上部本体11は、上基材レンズ91を真空吸引して保持する。
【0012】
上円筒部21は、上面が塞がれた中空部23が形成された円筒形状を有する。上円筒部21の下面には、上基材レンズ91を真空吸引するために、上基材レンズ91の直径よりも小さい開口が形成される。上円筒部21の上端部近傍の側面には、上排気口24が形成される。上円筒部21は、紫外線を透過可能な材料からなる。上円筒部21の下部には、中空部23の真空度を保つためのシーリング25が設けられる。
【0013】
上水平部22は、水平方向に延びる板状または梁状であり、上円筒部21の下端部の左右の側面に連結される。上水平部22には、上部本体11を上下方向にガイドする一対のガイド孔26、27が形成される。ガイド孔26は、上円筒部21を挟みガイド孔27の反対側に配置される。ガイド孔26、27は、上水平部22を上下方向に貫通している。上水平部22の左側端部には、ネジ孔28が形成される。ネジ孔28は、昇降機構13から上部本体11へと上下方向の駆動力を伝達する。左側の上水平部22の中央部には、位置決め機構15の移動を規制するための上押圧突起29が形成される。
【0014】
下部本体12は、下円筒部31と、下水平部32と、一対のガイド軸33及びガイド軸34とを備えて。下部本体12は、下基材レンズ92を真空吸引して保持する。
【0015】
下円筒部31は、上下面が開口された中空部35が形成された円筒形状を有する。下円筒部31は、上円筒部21の略真下に配置されている。下円筒部31の上面の開口の直径は、下基材レンズ92を真空吸引することを目的として、下基材レンズ92の直径よりも小さい。下円筒部31の下面の開口は、後述する光干渉部3の参照部材65によって塞がれる。下円筒部31の下端部近傍の側面には、下排気口36が形成される。下円筒部31の上部には、中空部35の真空度を保つためのシーリング37が設けられる。
【0016】
下水平部32は、水平方向に延びる板状または梁状であって、下円筒部31の上端部の左右の側面に連結されている。左側の下水平部32の中央部には、位置決め機構15の移動を規制する下押圧突起38が形成される。
【0017】
一対のガイド軸33及びガイド軸34は、下水平部32の上面に固定される。ガイド軸33は、下円筒部31を挟みガイド軸34の反対側に配置される。ガイド軸33及びガイド軸34は、ガイド孔26、27に摺動可能に挿入されており、これにより上部本体11を上下方向にガイドする。
【0018】
昇降機構13は、昇降モータ41と、ボールネジ42とを備える。昇降モータ41は、下水平部32の左端部に固定される。昇降モータ41は、ボールネジ42の下端部に設けられ、ボールネジ42を回転駆動させる。ボールネジ42の上端部は、上部本体11の上水平部22のネジ孔28に螺合される。これにより、ボールネジ42が昇降モータ41により回転駆動されると、この回転駆動が、ネジ孔28を介して、上部本体11に上下方向の駆動力として伝達される。これにより、昇降機構13は、上部本体11を下部本体12に対して上下方向に移動させる。
【0019】
吸引部14は、真空ポンプ45と、吸引管46と、上圧力調整器47と、下圧力調整器48とを備える。真空ポンプ45は、吸引管46を介して、上円筒部21及び下円筒部31の空気を排気する。吸引管46の一端部は、真空ポンプ45に接続される。吸引管46の他端部は分岐して、上円筒部21の上排気口24及び下円筒部31の下排気口36に接続される。これにより、吸引管46は、真空ポンプ45と上円筒部21の中空部23及び下円筒部31の中空部35とを繋ぐ。上圧力調整器47は、吸引管46の分岐点と上円筒部21との間に設置される。そして、上圧力調整器47は、上円筒部21の中空部23の圧力を調整する。下圧力調整器48は、吸引管46の分岐点と下円筒部31との間に設置される。そして、下圧力調整器48は、下円筒部31の中空部35の圧力を調整する。これにより、吸引部14は、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形に対応させて、上基材レンズ91及び下基材レンズ92を真空吸引する。
【0020】
位置決め機構15は、上押圧部材51と、上基準突起52と、下押圧部材53と、下基準突起54とを備える。位置決め機構15は、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の水平方向の位置決めをして固定する。
【0021】
上押圧部材51は、弾性部材を有する。上押圧部材51は、上水平部22の下面であって、上押圧突起29と上円筒部21との間に配置されている。上基準突起52は、上水平部22の下面であって、上円筒部21を挟み上押圧部材51と反対側に固定されている。上押圧部材51は、上基材レンズ91を上基準突起52へと押圧する。上押圧部材51の弾性部材の弾性力により、上基材レンズ91は水平方向に位置決めされて固定される。
【0022】
下押圧部材53及び下基準突起54は、設置される箇所が下水平部32の上面である以外は、上押圧部材51及び上基準突起52と略同様の構成である。下押圧部材53は、下基材レンズ92を下基準突起54へと押圧する。下押圧部材53の弾性部材の弾性力により、下基材レンズ92は水平方向に位置決めされて固定される。
【0023】
紫外線照射部16は、紫外線81を透過可能な上円筒部21の上方に配置される。紫外線照射部16は、下基材レンズ92の上面に塗布された紫外線硬化樹脂を含む接合剤95に紫外線81を照射する。
【0024】
光干渉部3は、レーザ61と、発散レンズ62と、ビームスプリッター63と、コリメータレンズ64と、参照部材65とを備える。光干渉部3は、参照部材65の参照面66と下基材レンズ92の下面である被検面93との間で光を干渉させる。以下の説明において、上流及び下流は、レーザ61から出射されて、参照部材65または下基材レンズ92によって反射される前の光の進行方向の上流及び下流を示す。
【0025】
レーザ61の一例は、約633nmの波長のレーザ光を照射可能なHe−Neレーザである。レーザ61は、He−Neレーザに限定するものではないが、紫外線以外のレーザ光を照射可能なレーザが好ましい。これにより、硬化用の紫外線との干渉を避けることができる。
【0026】
発散レンズ62は、レーザ61の下流側であって、レーザ61とビームスプリッター63との間に配置される。発散レンズ62は、点状のレーザ光を発散させて広げることにより、後述する参照部材65の上面である参照面66及び下基材レンズ92の下面である被検面93の略全面に光を照射する。
【0027】
ビームスプリッター63は、発散レンズ62の下流側であって、発散レンズ62とコリメータレンズ64との間に配置される。ビームスプリッター63は、上方向に進行する光の一部を透過して、下方向に進行する光の一部を右方向へと反射する。これにより、レーザ61から照射された光82は、ビームスプリッター63を透過して、参照面66及び被検面93に達する。また、参照面66及び被検面93によって反射された光83、84は、ビームスプリッター63により反射されて、撮像素子4に達する。
【0028】
コリメータレンズ64は、ビームスプリッター63の下流側であって、ビームスプリッター63と参照部材65との間に配置される。コリメータレンズ64は、ビームスプリッター63から進行する光82を平行光に変換するとともに、参照面66及び被検面93によって反射された光83、84をビームスプリッター63へと集光する。
【0029】
参照部材65は、コリメータレンズ64の下流側であって、コリメータレンズ64と下基材レンズ92との間に配置される。参照部材65は、光を透過可能な材料からなる。参照部材65を構成する材料の屈折率は、下基材レンズ92を構成する材料の屈折率と等しいことが好ましい。これにより、下基材レンズ92の被検面93の反射率と参照面66の反射率とを等しくして、参照面66によって反射される光量と下基材レンズ92の被検面93によって反射される光量とを略等しくする。
【0030】
参照部材65は、略円柱形状を有し、上基材レンズ91及び下基材レンズ92よりも厚い。参照部材65は、下円筒部31の下面の開口を塞ぐように設けられる。参照部材65の上面は、下基材レンズ92の面形状を観察するための参照面66として機能する。
【0031】
参照面66は、接合前において外力を加えない状態での下基材レンズ92の被検面93の面形状と等しい形状を有する。また、参照面66が被検面93と平行になるように、参照部材65は配置される。
【0032】
参照部材65は、コリメータレンズ64から進行する平行光である光82の一部を参照面66によって反射し、残りの光82を透過する。透過した光82は、下基材レンズ92の被検面93によって反射される。参照面66によって反射された光83と被検面93によって反射された光84の干渉によって、下基材レンズ92の反り等の面形状の変形が制御部5によって観察及び検出される。
【0033】
撮像素子4は、ビームスプリッター63によって反射される光83、84の進行方向側に配置されている。撮像素子4は、参照面66及び被検面93によって反射された光83、84を撮像して電気的な信号に変換する。撮像素子4は、その信号を制御部5へと出力する。
【0034】
制御部5は、撮像素子4、紫外線照射部16、昇降モータ41、真空ポンプ45、上圧力調整器47、下圧力調整器48、および、レーザ61と電気的な信号を送受信可能に接続される。これにより、制御部5は、真空ポンプ45を駆動して、上基材レンズ91及び下基材レンズ92を真空吸引する。制御部5は、昇降モータ41を駆動して、上部本体11を上下駆動させる。制御部5は、接合時に、紫外線照射部16を起動して、紫外線81を照射する。制御部5は、レーザ61を起動して、参照面66及び被検面93にレーザ光である光82を照射する。制御部5は、参照面66によって反射された光83及び被検面93によって反射された光84を撮像した撮像素子4から送られる電気的な信号を受信する。これにより、制御部5は、参照面66と被検面93との間での光の干渉の有無または干渉縞の間隔を判定して、下基材レンズ92の面形状の変形を観察する。更に、制御部5は、下基材レンズ92の面形状の変形に基づいて、上圧力調整器47及び下圧力調整器48を制御して、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形を調整する。
【0035】
次に、接合する上基材レンズ91、下基材レンズ92、機能性樹脂94及び接合用の接合剤95を例示する。上基材レンズ91及び下基材レンズ92は、光を透過可能なガラスからなる。上基材レンズ91及び下基材レンズ92の直径は、20mm〜100mm、好ましくは23mm〜28mmである。上基材レンズ91及び下基材レンズ92の厚みは2mm〜3mmである。下基材レンズ92の下面は、下基材レンズ92の変形を観察するための被検面93としても機能する。被検面93は、参照面66によって反射された光82と干渉させるための光83を反射する。機能性樹脂94は、光学的な機能を有する樹脂からなる。また、機能性樹脂94は上基材レンズ91に形成する際、その表面に回折格子形状を形成することで、回折によるレンズ機能を持たせるようにしても良い。接合剤95は、機能性樹脂94とは異なる屈折率を有する紫外線硬化樹脂を含む材料からなる。接合剤95は、紫外線81が照射されると、硬化するとともに収縮する。これにより、外力を加えない状態で上基材レンズ91及び下基材レンズ92を接合剤95により接合すると、上基材レンズ91及び下基材レンズ92は、接合剤95の収縮により、その中央部が内側に突出するように変形する。
【0036】
図2は、接合レンズの製造方法の変形段階を示す。図3は、接合レンズの製造方法の近接段階及び硬化段階を示す。図4は、製造された接合レンズを示す。この製造方法は、上基材レンズ91と下基材レンズ92とを樹脂を含む接合剤95によって接合することにより接合レンズ90を製造する。
【0037】
まず、塗布段階において、上基材レンズ91の下面に機能性樹脂94を塗布するとともに、下基材レンズ92の上面に接合剤95を塗布する。
【0038】
次に、図1に示すように、固定段階において、シーリング25を介して、上円筒部21の下面の開口部に上基材レンズ91を配置した後、上押圧部材51によって上基材レンズ91を上基準突起52へと押圧する。また、シーリング37を介して、下円筒部31の上面の開口部に下基材レンズ92を配置した後、下押圧部材53によって下基材レンズ92を下基準突起54へと押圧する。これにより、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の位置決めが完了する。この結果、上基材レンズ91及び下基材レンズ92が、外力を与えない状態で、互いに離間して対向した状態で固定される。
【0039】
次に、変形段階において、制御部5は、真空ポンプ45を起動する。これにより、上円筒部21の中空部23及び下円筒部31の中空部35の気体が吸引管46を介して排気される。この結果、上基材レンズ91の下基材レンズ92に対向する裏面、および、下基材レンズ92の下基材レンズ92に対向する裏面が負圧になる。また、制御部5は、上圧力調整器47及び下圧力調整器48を制御して、上円筒部21の中空部23及び下円筒部31の中空部35を所定の圧力に設定する。これにより、図2に示すように、上基材レンズ91の中央部は上方に所定量移動する。また、下基材レンズ92の中央部は、下方に所定量移動する。この所定量は、接合剤95の硬化収縮によって接合後に接合レンズ90が目的の形状となるように、実験的に予め求めておくことが好ましい。この結果、上基材レンズ91及び下基材レンズ92は、外力を加えない状態よりも、互いの中央部分が離れるように変形する。
【0040】
次に、近接段階において、制御部5は、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形を保った状態で、昇降モータ41を駆動して、ボールネジ42を回転駆動させる。これにより、ボールネジ42が螺合されている上水平部22を有する上部本体11が、上基材レンズ91とともに下方へと移動する。この結果、図3に示すように、上基材レンズ91が下基材レンズ92へと近接して、上基材レンズ91に塗布された機能性樹脂94と下基材レンズ92に塗布された接合剤95とが密着する。
【0041】
次に、硬化段階において、制御部5は、上基材レンズ91及び下基材レンズ92を近接させた状態で、紫外線照射部16を起動する。これにより、紫外線81が、紫外線照射部16から照射される。この紫外線81は、上円筒部21の上面、上基材レンズ91及び機能性樹脂94を順に透過した後、接合剤95に照射される。これにより、紫外線硬化樹脂からなる接合剤95が、徐々に硬化する。
【0042】
また、制御部5は、近接段階後の硬化段階中に、接合剤95に紫外線81を照射する方向の下流側から下基材レンズ92の面形状を観察する観察段階を実行する。観察段階では、制御部5は光干渉部3のレーザ61を起動する。これにより、レーザ光である光82がレーザ61から照射される。光82は、発散レンズ62によって広げられた後、ビームスプリッター63に達して透過する。この後、光82はコリメータレンズ64を透過して平行光に変換される。次に、光82は参照部材65に達する。光82の一部は参照部材65の参照面66によって反射される。残りの光82は、下基材レンズ92に達して、被検面93によって反射される。ここで、参照部材65の屈折率と下基材レンズ92の屈折率は略等しいので、参照面66の反射率と被検面93の反射率は略等しい。従って、参照面66によって反射された光83と被検面93によって反射された光84は、略同じ強度となる。
【0043】
この後、参照面66によって反射された光83と被検面93によって反射された光84は、コリメータレンズ64によって集光されて、ビームスプリッター63によって撮像素子4へと反射される。撮像素子4に達した光83、84は、撮像素子4によって電気信号である画像データに変換されて、制御部5へと出力される。
【0044】
制御部5では、画像データを解析して、参照面66に反射された光83と被検面93に反射された光84との干渉により、下基材レンズ92の面形状を観察する。そして、制御部5では、観察結果に基づいて、上圧力調整器47及び下圧力調整器48を調整することにより、反り等の上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形を低減する。
【0045】
例えば、図1から図3に示すように、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の互いに向かい合う面が平行である場合には、貼り合わせ後の下基材レンズ92の被検面93の面形状は、接合前において外力を加えない状態での下基材レンズ92の被検面93の面形状と等しくなることが好ましい。すなわち、この場合には、貼り合わせ後の下基材レンズ92の被検面93の面形状は、参照面66の面形状と等しくなることが好ましい。よって制御部5は、被検面93によって反射された光83と参照面66によって反射された光84との間の干渉縞の間隔が広がるように、より好ましくはなくなるように、上圧力調整器47及び下圧力調整器48を制御して、上円筒部21の中空部23及び下円筒部31の中空部35の気圧を調整する。これにより、下基材レンズ92の被検面93が、目的の形状である参照部材65の参照面66と略平行になる。尚、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形が反りの場合、その反りが1μm以下、好ましくは0.9μm以下となるように、上円筒部21の中空部23及び下円筒部31の中空部35の気圧を調整することが好ましい。
【0046】
この後、接合剤95が完全に硬化した後、上基材レンズ91及び下基材レンズ92が接合された接合レンズ90を取り出す。これにより、図4に示すように、反りが低減された接合レンズ90が完成する。
【0047】
上述した実施形態では、吸引部14によって、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の中央部が外側に突出するように変形させることができる。これにより、接合剤95の硬化収縮により中央部が内側に突出する上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形を低減することができる。更には、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形に対して吸引部14によって対応することにより、昇降機構13を固定することができる。この結果、接合中の上基材レンズ91及び下基材レンズ92の位置ずれ等を抑制できる。
【0048】
上述した実施形態では、光干渉部3によって光83、84を干渉させることにより、接合段階中に、制御部5は、下基材レンズ92の面形状を観察することができる。これにより、硬化収縮による接合中の上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形に対応させて、制御部5は吸引部14の上圧力調整器47及び下圧力調整器48を制御して、中空部23及び中空部35の圧力を調整できる。この結果、レンズ接合装置1は、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の変形に接合中に且つ柔軟に対応できる。
【0049】
上述した実施形態では、参照部材65の参照面66を、外力が加わっていない状態の下基材レンズ92の被検面93と同じ形状に形成している。これにより、下基材レンズ92の被検面93を参照面66と平行にすると、参照面66及び被検面93に反射された光83、84の干渉縞がなくなる。この結果、制御部5は、下基材レンズ92の面形状が、外力が作用していない状態の面形状であることを容易に判定できる。
【0050】
上述した実施形態では、参照部材65及び下基材レンズ92を同じ屈折率の材料によって構成している。これにより、参照部材65の参照面66によって反射される光83と下基材レンズ92の被検面93によって反射される光84の強度を略等しくすることができる。この結果、干渉縞をより容易に観察することができる。
【0051】
上述した実施形態では、参照部材65を下基材レンズ92よりも厚く構成している。これにより、同じ負圧に接している下基材レンズ92が変形しても、参照部材65の変形を抑制できる。
【0052】
なお、上述した実施形態では、両方の上基材レンズ91及び下基材レンズ92を吸引部14によって吸引したが、一方の上基材レンズ91または下基材レンズ92のみを吸引部14によって吸引するように構成してもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、下基材レンズ92の面形状を観察するように構成したが、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の両方の面形状を観察可能に構成してもよい。更に、上述した実施形態では、基材はそれぞれレンズと称しているが、必ずしもレンズ形状を有した基材でなくても良い。
【0054】
また、上述した実施形態では、参照部材65の参照面66を、外力を加えていない状態での下基材レンズ92の被検面93と同じ形状にしたが、参照面66を、接合後における下基材レンズ92の目標とすべき面形状にしてもよい。この場合にも、硬化段階中に、吸引部14の吸引により変形させた状態の下基材レンズ92の形状を観察し、干渉縞がなくなるように吸引部14を制御する。これにより、上基材レンズ91及び下基材レンズ92の互いに向かい合う面が平行でない場合であっても、結合後に目標とする下基材レンズ92の面形状を確実に得ることができる。
【0055】
さらに別例として、参照面66を、変形段階および近接段階であって硬化段階前において、下基材レンズ92を変形させるときに目標とすべき形状にしてもよい。この場合、目標とすべき形状は、結合の実験データに基づいて決めてもよい。この場合には、変形段階および近接段階であって硬化段階前に、吸引部14の吸引により変形させた状態の下基材レンズ92の形状を観察し、干渉縞がなくなるように吸引部14を制御する。これにより、紫外線照射後の下基材レンズ92の形状観察を省略できるので、観察中に光干渉部3または撮像素子4へ紫外線が入射することを抑制できる。
【0056】
さらに別例として、参照面66を平板等の任意の形状にしてもよい。この場合には、観察時点に応じて目標とすべき下基材レンズ92の形状と当該参照面66との間に発生する望ましい干渉縞を実験等により予め求めておく。そして、当該観察時点において観察された干渉縞が望ましい干渉縞に一致するように、吸引部14を制御する。これにより、参照面66が任意の形状であっても結合後に目標とする下基材レンズ92の面形状を確実に得ることができる。よって、例えば結合後に目標とする面形状が異なる複数種類の下基材レンズ92に対しても、一の参照面66で対応することができる。
【0057】
上述した実施形態において、不要な面によって反射された光を遮断する遮光部材を設けてもよい。例えば、下基材レンズ92の上面、参照部材65の下面等によって反射された光を遮断するために、参照部材65と撮像素子4との間の光の経路上に、特定の光を遮断する遮光部材を配置することができる。
【0058】
上述した実施形態において、紫外線を遮蔽する紫外線遮蔽部材を、下基材レンズ92と撮像素子4との間の光の経路上に配置してもよい。これにより、接合剤95を硬化させるための紫外線81が、撮像素子4に入射することを抑制できる。
【0059】
上述した実施形態において、ビームスプリッター63と参照部材65との間に1/2波長板として機能する光学部品を配置するとともに、ビームスプリッター63に偏光ビームスプリッターを適用してもよい。これにより、反射されてビームスプリッター63に戻る光の偏光方向を、ビームスプリッター63を透過する光の偏光方向から90°回転させることができるので、光をより効率よく活用することができる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0061】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0062】
1 レンズ接合装置
2 接合部
3 光干渉部
4 撮像素子
5 制御部
11 上部本体
12 下部本体
13 昇降機構
14 吸引部
15 位置決め機構
16 紫外線照射部
21 上円筒部
22 上水平部
23 中空部
24 上排気口
25 シーリング
26 ガイド孔
27 ガイド孔
28 ネジ孔
29 上押圧突起
31 下円筒部
32 下水平部
33 ガイド軸
34 ガイド軸
35 中空部
36 下排気口
37 シーリング
38 下押圧突起
41 昇降モータ
42 ボールネジ
45 真空ポンプ
46 吸引管
47 上圧力調整器
48 下圧力調整器
51 上押圧部材
52 上基準突起
53 下押圧部材
54 下基準突起
61 レーザ
62 発散レンズ
63 ビームスプリッター
64 コリメータレンズ
65 参照部材
66 参照面
81 紫外線
82 光
83 光
84 光
90 接合レンズ
91 上基材レンズ
92 下基材レンズ
93 被検面
94 機能性樹脂
95 接合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の光学基材と他の光学基材とを樹脂で接合することにより接合光学素子を製造する方法であって、
前記一の光学基材および前記他の光学基材の少なくとも一方に樹脂を塗布する塗布段階と、
前記一の光学基材と前記他の光学基材とを対向させた状態で、前記一の光学基材および前記他の光学基材の少なくとも一方を、外力を加えない状態よりも互いの中央部分が離れるように変形させる変形段階と、
前記変形を保って、前記一の光学基材と前記他の光学基材とを近接させる近接段階と、
前記一の光学基材と前記他の光学基材とを近接させた状態で、前記樹脂を硬化させる硬化段階と
を備える接合光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記変形段階において、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方を、他方に対向する面の裏面を負圧にすることに変形させる請求項1に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記近接段階の後に、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方の面形状を観察する観察段階をさらに備える請求項1または2に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記硬化段階は、前記樹脂に紫外線を照射する段階を含み、
前記観察段階において、前記樹脂に紫外線を照射する方向の下流側から前記面形状を観察する請求項3に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記観察段階は、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方の一の面と、参照部材の参照面との干渉により前記面形状を観察する請求項3または4に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記参照面は、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方における、接合前であって、外力を加えない状態の前記一の面の面形状を有する請求項5に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記参照面は、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方における、接合後であって、外力を加えない状態の前記一の面の面形状を有する請求項5に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記参照面は、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方における、前記変形段階で目標とすべき変形に応じた面形状を有する請求項5に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記参照部材は、前記一の光学基材および前記他の光学基材の前記少なくとも一方の厚みよりも大きい厚みを有する請求項5から8のいずれかに記載の接合光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−40855(P2012−40855A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186660(P2010−186660)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】