説明

接合部接着分子C(JAM−C)結合化合物とその利用方法

本発明は、神経膠腫を治療するための、接合部接着分子C(JAM-C)又は-B(JAM-B)に特異的に結合する化合物の使用に関する。より詳しく述べると、本発明は、神経膠腫、特に星細胞腫の治療のための、JAM-B又はJAM-C拮抗薬の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌、特に脳腫瘍の治療に関する。より詳しく述べると、本発明は、例えば、JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する抗体や拮抗薬などのJAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する化合物を用いた神経膠腫の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
神経膠腫
脳の主要な細胞型は、ニューロン、中枢神経系(CNS)においてニューロンの軸索の周りでミエリン鞘を形成する細胞であるところの乏突起膠細胞、及びニューロンと乏突起膠細胞の機能の両方をサポートする細胞である星細胞である。乏突起膠細胞と星細胞は、脳室系の内側を覆う上衣細胞と共に、(CNSの特殊化した結合組織である神経膠を構成する。
【0003】
神経膠腫は、支配的な膠細胞分化を示す腫瘍であり、1年あたり一般の人々の100,000人に5〜10人の発生率を有する、原発性脳腫瘍の最も頻度が高いサブタイプである。かなりの大多数の神経膠腫は、散発性起源のものであるが、いくつかの遺伝病が、神経線維腫症タイプ1型(NF1腫瘍サプレッサ遺伝子の突然変異を特徴とする家族性の症候群)、リー-フラウメニ(TP53遺伝子における遺伝的生殖細胞突然変異)、及びターコット症候群(APC遺伝子の遺伝性突然変異に関係しているポリポーシス癌を特徴とする家族性症候群)のようにそれらの発現に対する増強された素因に関連した。神経膠腫の重症度は、脳の基本的な役割と、それが神経学的な破壊によって引き起こされ得る損傷を鑑みて、完全に明らかであると思われる。さらには、主に、正常な脳構造物内に拡散し、悪性腫瘍に向かって進行するこれらの腫瘍の高い性向のため、いわゆる良性型さえ、実際には、ほとんどの場合、致命的である。そのため、神経膠腫は、ヒト悪性腫瘍の中で最も破壊的であると考えられ、そして、外科手術、放射線照射、及び化学療法を含めた治療法の進歩にもかかわらず、これらの疾患を患っている患者の予後は、多くの場合、不良である。
【0004】
神経膠腫の診断につながる臨床徴候には、吐き気、嘔吐、及び頭痛を引き起こす血液脳関門の漏出及び浮腫、並びに進行性の神経学的及び認知障害につながる頭蓋内圧の上昇、発作が含まれる。磁気共鳴画像法(MRI)は、その時、腫瘍塊の位置と特徴を特定するために有用である。神経膠腫タイプの分類と格付けは、腫瘍サンプルの組織学的検査の後に可能であり、腫瘍細胞の分化の仮定上の系列に基づいている。世界保健機構(WHO)分類法によると、神経膠腫には、主に、上衣細胞(上衣腫)、乏突起膠細胞(乏突起神経膠腫)、様々な膠細胞の混合(混合膠腫、例えば、乏突起星細胞腫)、及び星細胞(星細胞腫)によって構成された腫瘍が含まれる。
【0005】
星細胞腫
分類と組織病理
神経膠腫の中で、最も一般的であるのは、星細胞のような細胞で構成され、且つ、多くの場合、大脳に生じるところの星細胞腫である。小児では、それらは、小脳、脳幹、及び視神経十字において主に生じる。星細胞腫には、極めて多様な固有の挙動と予後を有する腫瘍が含まれる。それらは、通常、主に組織病理学的パラメーターに基づいて、4つのグレード(表1を参照のこと)に分類される。
【0006】
WHOグレードI星細胞腫(毛様細胞性星細胞腫)は、小児においてより頻度が高く、通例、低増殖能を有し、多くの場合、外科手術によって治癒する。
【0007】
WHOグレードII星細胞腫(びまん性星細胞腫)は、単離された腫瘍細胞が原発性腫瘍から非常に離れた場所において多くの場合観察される、正常な脳組織に浸潤する十分に規定されていない腫瘍である。それらは、中程度の細胞充実性と散発性の核異型性を示す。グレードII星細胞腫を患っているほとんどの患者が、6〜8年以内により高いグレードの腫瘍を再発するだろう。
【0008】
WHOグレードIII星細胞腫(退形成星細胞腫)は、それらのより高い細胞充実性、増強された有糸分裂活性、及び核多形性(退形成)によってグレードII腫瘍と区別される。何人かの長期生存者にもかかわらず、グレードIII星細胞腫を患う患者の生存期間の中央値は、3年前後である。
【0009】
WHOグレードIV星細胞腫(又は、神経膠芽腫)は、成人の大脳半球で優先的に生じ、非常に重篤な腫瘍である。退形成星細胞腫と比べて、それらは、内皮細胞増殖と壊死のさらなる存在を特徴とする。それらは、低グレードの星細胞腫(二次性神経膠芽腫)又はde novo(原発性神経膠芽腫)の病歴の後に発現することがある。予後は、併用治療(照射法と化学療法)のある程度の進歩にもかかわらず、1年前後の生存期間の中央値を示し、両方のタイプ共に不良である。
【0010】
【表1】

【0011】
原発性及び二次性神経膠芽腫
先に触れたように、神経膠芽腫の2つのサブタイプは、それらの臨床的特徴に基づいて識別される:原発性神経膠芽腫は、通常、これまでに存在した病巣のいずれの痕跡もなしに、高齢者において非常に急速に発現し、そして、二次性神経膠芽腫は、これまでに診断された低いグレードの星細胞腫の悪性の憎悪に由来し、且つ、若年患者においてより頻度が高い。組織学的に、これらの2つの腫瘍タイプは区別がつかず、且つ、臨床成果もまた同様であるが、遺伝的にそれらは異なっている。
【0012】
二次性神経膠芽腫
それらの初期相における、低グレードの星細胞腫としての二次性神経膠芽腫は、遺伝子の突然変異(65%)及び染色体(17p13)上のヘテロ接合性の消失(LOH)を伴った、TP53遺伝子座の頻繁な破壊(グレードII星細胞腫の60%超)を特徴とする。p53経路の破壊は、G1/SとG2/Mチェックポイントにおける細胞周期進行を制御すること、及びDNA損傷を含めたいくつかの細胞外刺激に対応したアポトーシスによる腫瘍抑制因子であるp53機能としての2つの重要な細胞過程を取り壊す。そのため、無機能性p53経路は、星細胞腫に対して成長利点、及び遺伝的不安定性を与えるが、それだけでは、星細胞腫の開始に十分でない。
【0013】
それらの開始に必要であると思われる低グレード星細胞腫に見られる追加的な遺伝子変化は、それらの生存のための成長因子から星細胞腫細胞を独立させるための受容体チロシンキナーゼ(RTKs)の活性化にかかわる。RTKsシグナル伝達の重要なメディエーターは、c-Src非受容体チロシンキナーゼである。c-Srcは、それらの対応する増殖因子の結合によって活性化されたRTKsに直接的に関連し、そして、それは、RTKsによって活性化された複数の経路の刺激における相乗作用及び協同によって同時に活性化される。
【0014】
原発性神経膠芽腫
原発性神経膠芽腫は、二次性神経膠芽腫と同じ遺伝経路、すなわち、p53、RTK-Ras、RB、及びAKT経路の脱調節を示すが、それらは異なった作用機序を使用する。
【0015】
原発性神経膠芽腫では、p53経路は、TP53遺伝子の直接的な突然変異によって妨害されるのではなく、むしろMDM2遺伝子の増幅と過剰発現(それぞれ10%と50%)、及びp19の消失(40%)によって妨害される。MDM2は、直接的なタンパク質‐タンパク質結合を通じたユビキチン介在性分解のためにそれを標的とするp53転写活性の負の調節因子として機能する。さらに、MDM2転写は、p53によって引き起こされており、これにより、両方のタンパク質の活性を調節する負のフィードバック・ループを確立している。P19は、MDM2に直接結合することによってp53分解を妨げる。p19は、選択的リーディング・フレーム(ARF、p19の別名)によってp16と同じCDKN2A遺伝子内にコードされている。これは、同時に2つの経路:p53及びRB経路を妨害するので、染色体9p21上のCDKN2A遺伝子座のLOHが原発性神経膠芽腫においてなぜ非常に頻度が高い(~40%)かがわかることがある。神経膠腫原性の2つの重要な経路の同時脱調節が、初代神経膠芽腫の非常に急速な発現の理由の1つであるかどうかが、まだ解明されていない。
【0016】
血管新生と神経膠腫の抗血管形成療法
神経膠腫は、ヒト癌の中で最も血管が発達する。血管新生の過程、すなわち、以前から存在するものの発芽、又は内皮細胞祖先の取り込みによる新しい血管の形成が、腫瘍が発現するために重要である。酸素と栄養物の供給がなければ、癌細胞は、無差別な成長、生存、及び侵襲を含めた、あらゆるそれらの悪性活性を維持することができない。そのため、新生血管の活性な製造の誘導は、腫瘍進行中の重要ステップである。
【0017】
神経膠腫では、血管新生の制御は妨害されている。広範な低酸素圧領域の発生と、その後の壊死をもたらす腫瘍内への適当な酸素供給ができない十分に機能的でない血管構造が存在することも多い。腫瘍内の低酸素領域の存在は、低酸素症が新生血管の形成を刺激し、そして、構造上及び機能的な異常を考慮すると、それらは十分な酸素供給を提供できずに、その結果、新たな低酸素症が引き起こされる悪循環の起源にある。
【0018】
抗血管形成療法は、神経膠腫の治療のために提案された(Tuettenberg et al., 2006)。しかしながら、神経膠腫の成長を阻害しながらの、血管新生の阻害は、神経膠腫の生体内侵襲の顕著な増加につながり(Lamszus et al., 2003)、これにより、そのようなアプローチの適用性を制限している点に留意のこと。そのため、神経膠腫の抗血管形成療法を、神経膠腫の拡散を阻害する治療法と組み合わせることが提案された(Lamszus et al., 2005)。
【0019】
拡散
神経膠腫と星細胞腫の致死率を説明する主な理由の1つが、そのような腫瘍の拡散特性である。星細胞腫は、CNSの外側でめったに転移しないが、その拡大に関係なく、外科切除後に残っている浸潤細胞は、脳内のいたる所に必然的に拡散し、患者の死亡を著しく助長する再発に通じるだろう。すでに数十年間前に、神経外科医は、根治的切除である大脳半球切除でさえ、星細胞腫再発を予防し、そして、患者の生存を改善することができないことを認識した。星細胞腫細胞は、コア病巣から遠く離れたところ(数センチメートル)で見つかり、且つ、間葉系と規定されるインテグリン依存性機構の遊走により単一細胞として主に広がる。それらは、通常、3つの主たる解剖学的構造:(i)通常、脳梁の有髄線維束;(ii)血管の反管腔側の表面;及び(iii)脳実質の末梢にて脳軟膜下の星細胞足突起によって形成された構造である浅膠境界膜、に従って脳の至るところを侵襲する。これらの優先傾向の理由はまだ明らかになっていないが、しかし、神経膠腫細胞の遊走を助ける基質の組成物には、関連性がある可能性が非常に高い。
【0020】
神経膠腫細胞の侵襲は、いくつかの細胞過程の活性化を必要とする。最初に、細胞は、細胞外マトリックスへの接着を必要とする。膜タンパク質の細胞外環境及び細胞骨格との同時の連結が、細胞に牽引力と運動性に必須な力を提供するので、このステップは重要である。2番目に、細胞は、それらの接合点を中断することによって、隣接細胞から離れなければならない。3番目に、動くためにスペースを作り出すために、細胞は、細胞外マトリックス(ECM)を局所的に分解しなければならない。これは、神経膠腫細胞による活性プロテアーゼの放出によって達成される。4番目に、細胞骨格の全体の再配列が、細胞が突起、葉状仮足、及び糸状仮足を伸長するため、遊走の向きに接着を確立するため、そして、最終的にその細胞体を引っ込めるために必要である。これらのすべての細胞行動が、数々の分子によって調整される;ECMとの相互作用は焦点接着を確立するインテグリンによって主に媒介され、隣接細胞からの細胞脱離はカドヘリン細胞‐細胞接合の破壊を必要とし、ECMの分解はメタロプロテイナーゼ(MMP)とウロキナーゼ‐プラスミノーゲン・タンパク質分解系によって達成され、そして、細胞骨格の再配列はRhoファミリー低分子量GTPアーゼによって制御されている。
【0021】
米国(US)では、1年に15,000人の患者が神経膠芽腫により死亡する。生存期間の中央値は、15カ月を超えない。神経膠腫、特に退形成星細胞腫及び神経膠芽腫の予後不良、そして、効果的な治療の利用不可能性であることを考慮すると、これにより、上述の障害の治療用新薬の標的及び化合物が必要である。具体的には、神経膠腫、特に退形成星細胞腫と神経膠芽腫の成長を阻害する化合物が必要である。神経膠腫、特に退形成星細胞腫と神経膠芽腫の拡散を阻害又は低減する化合物が必要である。神経膠腫を治療するための新しい治療薬は、脳血液関門を越えることができなければならない。さらに、正常な脳組織との交差性が重篤な副作用を有する神経毒性につながることがあるので、神経膠腫を治療するための新しい標的と化合物は非常に特異的でなければならない(Gerber and Laterra, 2007)。
【0022】
モノクローナル抗体は、乳癌及び結腸癌、並びに他の悪性腫瘍の標準的治療法になったが、それらは、抗体療法に対して独特な難題を突きつける神経膠腫の治療において、実験的に使用されるだけであった(Gerber and Laterra, 2007)。特に、脳血液関門は、このバリアを通常越えない高分子量化合物のような、神経膠腫及び他の脳の腫瘍の治療のための抗体又は他のタンパク質などの高分子量化合物の良好な適用のための重大な問題であると考えられる(Pardridge, 2006)。抗癌抗体であるトラスツズマブは、例えば、乳癌患者の脳転移に通じる脳血液関門を越えることができない(Lai et al., 2004;Bended et al., 2003)。全身的に提供された抗腫瘍抗体が治療効果をもたないのに対して、脳内に局所的に投与された時に有効であるので、神経膠腫を治療するための抗体などの高分子物質の局所デリバリーが、治療法の柱である(Sampson et at., 2000)。
【0023】
接合部接着分子(JAM)
一般的な特徴
接合部接着分子(JAM)は、免疫グロブリン・スーパーファミリー(IgSf)クラスの接着分子に属するタンパク質のファミリーである。それらは、通例、細胞‐細胞接触の部位に局限されていて、且つ、タイトジャンクションにおいて特に豊富であり、細胞極性を維持し、細胞内空間の向こう側への分子の拡散を予防する障壁として働き、そして、原形質膜の基底外側の先端領域に沿った特殊な細胞構造である。
【0024】
いくつかのヒト及びマウス接合部接着分子(JAM)が、別々の研究室にいて同時にクローンニングされ、そして、アミノ酸及び核酸配列が発表された。これは、それらの命名法に混乱をもたらし、それを完全な見直しの対象にした(Muller, 2003;Mandell and Parkos, 2005)。表2に記載の現在の命名法が、本明細書中で使用される。
【0025】
【表2】

【0026】
ファミリーのメンバーJAM-A、JAM-B、及びJAM-Cの間で、31〜36%のアミノ酸同一性を有する類似したタンパク質構造、及び40〜45kDaの範囲にある分子量を共有する。JAMは、1つがVH型の膜遠位、1つがC2型の膜近位である2つの細胞外免疫グロブリン・ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質ドメインを特徴とする。細胞外ドメインは、いくつかの推定上のN-グリコシル化部位を含んでいる。
【0027】
加えて、VH型Igドメインは、JAM-Aのシス二量体化を媒介し、対向している細胞から出ているJAM-A二量体との間でトランス・ホモタイプの会合を媒介する。シス二量体化モチーフは、二量体化するJAM-B及びJAM-Cで保存されていて、同様にトランス相互作用している(Lamagna et al., 2005b)。
【0028】
細胞質ドメインは、潜在的なチロシン、並びにセリン/スレオニン・リン酸化部位を含んでいて、そして、II型PDZ結合モチーフの存在を特徴とする。PDZ結合モチーフは、多くの場合、タンパク質‐タンパク質相互作用を媒介する足場タンパク質において見られ、そのような構造と同定された最初のタンパク質は、PSD-95、Discs-large A、及びZonula Occiudens-1であり、よってPDZという名称になった。最近、I型PDZ結合モチーフを含む別のサブファミリーを代表するさらなるJAMタンパク質が説明された。これらのJAMには、コクサッキー(Coxsackie)及びアデノウイルス受容体(CAR)、内皮細胞選択性接着分子(ESAM)、及びJAM-4が含まれる。しかしながら、様々のタイプのPDZ結合モチーフの存在は、それらが様々なセットの細胞内パートナー分子と相互作用し、そして、異なった機能を発揮することがあることを示唆している。JAM-A、JAM-B、及びJAM-Cには、組織及び細胞分布、細胞内及び細胞外の分子パートナー、そして、機能の異なったパターンがある。
【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
JAM-B
JAM-B発現は、マウス及びヒトの両方の内皮細胞とリンパ内皮細胞において示されている。JAM-B発現は、炎症部位及び腫瘍病巣のヒト内皮細胞上で検出された。脳では、ノーザンブロット分析で、JAM-B mRNAの弱い発現が明らかになったが、分析はタンパク質レベルで実施されなかったので、脳においてJAM-Bを発現する細胞型は特定されなかった(Palmeri et al., 2000)。
【0032】
JAM-Bの細胞局在化は、他のファミリー・メンバーのものと異なっているように思える。JAM-Bは、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)上皮細胞におけるJAM-Bの異所性発現によって実証されるように、タイトジャンクション構造内に位置するように現れるのではなく、むしろ原形質膜上により拡散的にばらまかれている。
【0033】
JAM-Bは、同種親和性トランス相互作用、及びJAM-Cとの異種親和性会合の両方を確立することができる。これらの異種親和性結合は、白血球及び血小板上のJAM-Cと、内皮細胞上のJAM-Bの相互作用を媒介するように見える。JAM-Bはまた、インテグリンα4β1と相互作用し、そして、この結合は先立つJAM-Cの関与を必要とするように思える。
【0034】
JAM-C
JAM-C発現は、マウス及びヒトの内皮細胞とリンパ内皮細胞の両方において、並びにいくつかのヒト白血球及び血小板において観察された。加えて、JAM-Cは、ヒト腸管上皮とマウス精子細胞において見られた。ヒト脳では、ノーザンブロット分析によって、JAM-C mRNAがいくつかの領域で発現されたが、タンパク質の発現と、JAM-Cを発現する細胞型の調査は全く実施されなかった(Arrate et al., 2001)。
【0035】
JAM-Cは、共焦分析によってタイトジャンクションに局限され、そして、公知のタイトジャンクション・タンパク質であるオクルジンと共同分布する(Aurrand-Lions et al., 2001a)。しかしながら、腸のヒト上皮JAM-Cは、接着斑構造内の細胞の側底膜において検出され(Zen et al., 2004)、JAM-Cの細胞型に特異的な細胞内局所化の存在と、その結果として、このタンパク質に関する潜在的な異なった機能を示唆している。
【0036】
JAM-Cは、ホモタイプの、及びより高い親和性で、JAM-Bとヘテロタイプのトランス相互作用に寄与する(Lamagna et al., 2005b)。加えて、JAM-Cの他のリガンドには、がインテグリンαMβ2(MAC-1、CD11b/CD18)及びαXβ2(p150/95、CD11c/CD18)(Chavakis et al., 2004;Santoso et al., 2002;Zen et al., 2004)、並びにCAR(Mirza et al., 2006)が含まれる。
【0037】
これまで、JAM-Cは、白血球トラフィッキング、血管新生、及び細胞極性に関係していた。抗JAM-C抗体が、試験管内においてリンパ球のトランス‐内皮遊走を遮断すること(Johnson-Leger et at., 2002a)、並びにJAM-Cが、αMβ2に依存する様式により、試験管内及び生体内における好中球のトランス‐内皮遊走を促進することが示された。
【0038】
血管新生におけるJAM-Cの役割は、試験管内と生体内の両方で実証された(Imhof and Aurrand-Lions, 2000;Imhof and Aurrand-Lions, 2005;Lamagna et al., 2005a)。具体的には、JAM-Cに対する抗体は、大動脈環アッセイにおいて、血管の試験管内における成長を遮断することを示した。加えて、抗JAM-Cは、大動脈環アッセイにおいて、血管の試験管内における成長を遮断することを示した。加えて、抗JAM-C抗体は、Lewis肺癌(LLC)マウス腫瘍モデルの腫瘍関連血管新生の生体内における増殖を阻止し、そして、低減した(Lamagna et al., 2005a)。抗JAM-C抗体が生体内において内皮細胞の増殖とアポトーシスに対して効果がなかったので、腫瘍関連血管新生の低減は腫瘍ベッドへのマクロファージの動員の減少に起因すると考えられた。
【0039】
WO 2006/084078は、マウス抗ヒトJAM-C抗体であるPACA4とLUCA14を用いた異なった腫瘍組織の免疫組織化学染色に関して報告している。染色パターンは、PACA4とLUCA14を用いて試験した腫瘍組織の一貫した陽性染色のない不均一なものであった。種々の正常及び腫瘍細胞株もまた、PACA4とLUCA14を用いてJAM-C発現について試験された。多くの神経膠腫由来細胞株は、PACA4によってのみ弱く陽性に又は陽性に染色された。しかしながら、非腫瘍脳組織;すなわち、星細胞に関する染色パターンは報告されなかった。これにより、JAM-Cが、神経膠腫を治療するための好適な標的になるために、高度、且つ、特異的に星細胞腫又は神経膠芽腫で発現されているかどうか不明瞭なままである。さらに、抗JAM-C抗体、又はJAM-Cに特異的に結合する他の高分子量化合物が、全身投与されたときに神経膠腫又は他の脳腫瘍の治療に有効になるように脳血液関門を越えるかどうか不明瞭なままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
驚いたことに、JAM-Cが神経膠腫腫瘍細胞において特異的に発現されているのに対して、非腫瘍星細胞では基本的に存在していないが、本発明者により今回見出された。
【0041】
驚いたことに、JAM-Bが神経膠腫腫瘍細胞において特異的に発現されているのに対して、非腫瘍星細胞では基本的に存在していないこともまた、発明者によって見出された。
【0042】
驚いたことに、JAM-Cに特異的に結合する化合物が、血管新生の阻害とは無関係に、神経膠腫の成長を阻害することもまた、本発明者によって見出された。
【0043】
驚いたことに、JAM-Cに特異的に結合する化合物が、全身投与された場合に、生体内において神経膠腫の成長を阻害することもまた、本発明者によって見出された。
【0044】
さらに、JAM-Cに特異的に結合する抗体を用いた治療後に、生体内において有害な副作用は観察されなかった。
【0045】
よりいっそう驚いたことに、JAM-Cに特異的に結合する抗体が、神経膠腫の拡散を阻害することが、本発明者によって見出された。JAM-Cに特異的に結合する抗体が抗血管形成性であり、且つ、抗血管形成性化合物が神経膠腫の増強された拡散に通じることが知られていたので、これは完全に予期していなかった。
【0046】
その結果、JAM-Cに対する抗体(例えば、モノクローナル抗体D33)などのJAM-Cに特異的に結合する化合物が、神経膠腫拡散の阻害のための併用治療を必要とせずに神経膠腫を治療するために使用できることが、本発明者によって見出された。
【課題を解決するための手段】
【0047】
本発明の1つの側面は、神経膠腫を治療するための、JAM-Cに特異的に結合する化合物の使用である。
【0048】
本発明の別の側面は、神経膠腫を治療するための、JAM-Bに特異的に結合する化合物の使用である。
【0049】
本発明の別の側面は、神経膠腫の増殖、又は神経膠腫の拡散を阻害するための、JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの使用に関する。
【0050】
本発明の別の側面は、神経膠腫を治療するための、JAM-Bに特異的に結合する化合物と、JAM-Cに特異的に結合する化合物を組み合わせた状態での使用である。
【0051】
本発明の別の側面は、JAM-Cに特異的に結合し、且つ、受付番号第06092701号でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるラット・モノクローナル抗体D33である。
【0052】
本発明の別の側面は、抗体D33を産生するところの、受付番号第06092701号でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ヒト神経膠腫におけるJAM-C発現。A.神経膠腫細胞株におけるヒトJAM-Cに関するRT-PCR法。レーン1、6、8:それぞれ、星細胞腫(グレードIII)Ge182、Ge299、Ge328、レーン2、3、4、5、9:それぞれ、神経膠芽腫Ge224、Ge242、Ge258、Ge285、Ge360、レーン7:乏突起星細胞腫Ge314。B.Ge258ヒト神経膠芽腫細胞におけるJAM-C発現の細胞蛍光アッセイ。ヒストグラムは、抗JAM-Cモノクローナル抗体(白抜きの曲線)とアイソタイプ対照抗体(灰色塗りの曲線)を用いて得られた特徴を示す。C.Ge258ヒト神経膠芽腫細胞におけるヒトJAM-Cの免疫沈降反応。レーン1:免疫前のウサギ血清、レーン2:ポリクローナル抗ヒトJAM-C。
【図2】ヒト星細胞腫におけるJAM-Cの不均一な発現。A.Ge258神経膠芽腫は、腫瘍細胞の大多数において強いJAM-C発現を示す。B.Ge280星細胞腫(グレードIII)の単一の単離された腫瘍細胞は、(矢印によって示した)高レベルのJAM-Cを発現し、その矢印が陽性の血管を示している。C. JAM-Cに対する強い免疫反応性が、正常脳との腫瘍辺縁にて検出されるところのGe305神経膠芽腫。矢印は、陽性の血管を指し示す(T:腫瘍、N:正常脳)。D.Ge299星細胞腫(グレードIII)は、すべての腫瘍細胞上で一定のJAM-C発現を示す。矢印は染色された血管を指し示す(倍率:A 20×、B 20×、C 20×、D 20×)。
【図3】細胞‐細胞接触部位及び腫瘍内におけるJAM-C発現の不均一性。A.Ge262星細胞腫(グレードII)は、細胞‐細胞接触の地点における高レベルのJAM-C発現を示す。B.Ge258神経膠芽腫は、JAM-C発現に関して陰性の細胞と混ざり合った、高レベルのJAM-Cを発現する細胞を示す。(倍率:A 40×、B 40×)。
【図4】ヒト非腫瘍脳(てんかん生検検体)において、JAM-Cは、血管内皮細胞及び乏突起膠細胞によって優先的に発現される。A.血管は強いJAM-C染色を示す。B.内皮細胞接触の地点における高レベルのJAM-C発現。C.乏突起膠細胞は、ニューロンとの相互作用部位においてJAM-Cの強い発現を示す。D.高倍率での、ニューロンとの接触点における乏突起膠細胞上でのJAM-C発現(矢印で示す)(倍率:A 20×、B 40×、C 40×、D 63×)。
【図5】ヒト神経膠腫におけるJAM-Bの発現。A.神経膠腫細胞株におけるヒトJAM-Bに関するRT-PCR法。レーン1、3、7:それぞれ、星細胞腫(グレードIII)Ge182、Ge328、及びGe299、レーン2、4、5、6:それぞれ、神経膠芽腫Ge258及びGe360、Ge224及びGe242、レーン8:乏突起星細胞腫Ge314。B.Ge258ヒト神経膠芽腫細胞におけるJAM-B発現の細胞蛍光分析。ヒストグラムは、抗JAM-Bポリクローナル抗体(白抜きの曲線)とアイソタイプ対照抗体(灰色塗りの曲線)を用いて得た特徴を示す。C.正常なヒト脳(てんかん生検検体)(レーン1)、Ge258ヒト神経膠芽腫生検検体(レーン2)、及びGe258ヒト神経膠芽腫細胞株(レーン3)におけるヒトJAM-Bのウエスタンブロット。
【図6】免疫組織化学(IHC)によって評価されたヒト星細胞腫における不均一なJAM-B発現。A.Ge299星細胞腫(グレードIII)は、すべての腫瘍細胞においてJAM-Bの強い発現を示す。B.Ge242巨細胞神経膠芽腫。JAM-B発現に関する腫瘍内不均一性が観察される。C.より高い倍率のGe242神経膠芽腫は、巨大な巨細胞におけるJAM-Bの膜発現を示す。D.JAM-Bの不均一な発現を有するGe394神経膠芽腫。E.Ge258神経膠芽腫においてJAM-Bを発現する血管(倍率:A 40×、B 10×、C 40×、D 20×、E 40×)。
【図7】免疫組織化学によって検出される非腫瘍ヒト脳の乏突起膠細胞と血管上のJAM-B発現。A.非腫瘍ヒト脳(Ge258神経膠芽腫生検検体に隣接する正常脳組織)の乏突起膠細胞におけるJAM-Bの発現。矢印は、神経細胞の近くの強い陽性の乏突起膠細胞を指し示す。矢印は陽性の毛細管を指し示す。B.Ge258神経膠芽腫生検検体に隣接した正常脳組織における血管(矢印によって指し示す)上のJAM-Bの発現(倍率:A 40×、B 40×)。
【図8】GL261マウス神経膠腫モデルは、ヒト神経膠芽腫の組織病理学的特徴を明らかにする。A.GL261細胞は、ヒト神経膠芽腫で通常観察される不均一な様式で星細胞に関するGFAPマーカーを発現する。B.C57BL/6マウス脳に定位的に移植されたGL261細胞によって際立った血管新生が誘発された。腫瘍関連血管(PECAM-1染色によって強調されている)は、正常なマウス脳と比較して、密度とサイズの上昇を示す(Cを参照のこと)(Tは腫瘍塊を示し、Nは周囲の正常脳を示す)。C.正常なC57BL/6マウス脳の血管新生。血管(PECAM-1染色によって強調されている)は、GL261腫瘍によって誘発されたもの比べて、より小さいサイズをもち、そして、より低い密度を示す(Bを参照のこと)。D.C57BL/6マウスの皮下におけるGL261腫瘍成長に関連した広域壊死。PECAM-1染色によって強調された血管の周りで生き残っている腫瘍細胞の島が分かる。E.C57BL/6マウスの脳内で成長するGL261腫瘍に関連した広域壊死。Dのように、血管の周りで生き残っている腫瘍細胞は、PECAM-1染色によって強調された。(倍率:A 10×、B 2.5×、C 2.5×、D 5×、E 5×)。
【図9】GL261マウス神経膠腫におけるJAM-Cの発現。A.GL261神経膠腫細胞におけるJAM-C発現の細胞蛍光分析。ヒストグラムは、抗JAM-Cモノクローナル抗体(白抜きの曲線)とアイソタイプ対照抗体(灰色塗りの曲線)を用いて得られた染色の特徴を明らかにする。B.GL261マウス神経膠腫細胞におけるマウスJAM-Cの免疫沈降反応。レーン1:免疫前のウサギ血清、レーン2:ポリクローナル抗マウスJAM-C、C及びD.GL261細胞を定位的に移植したC57BL/6マウス脳におけるマウスJAM-Cに関する免疫組織化学。C57BL/6マウス脳内で増殖した神経膠腫(破線によって表される)が、高レベルのJAM-Cを発現するGL261腫瘍細胞の大部分を示した。(倍率:C 20×、D 40×)。
【図10】C57BL/6正常マウス脳におけるJAM-Cの発現。A.脳室の内側を覆うすべての上衣細胞が、JAM-Cを強く発現する。矢印は、染色した血管内皮細胞を指し示す。B.高い倍率の、上衣細胞に対するJAM-C免疫染色。C.JAM-C染色した血管が矢印によって指し示される。D.低倍率のマウス脳は、小さい血管(矢印)と、脳室系の内側を覆う上衣細胞の層全体における強いJAM-C染色を明らかにする。海馬は、歯状回(DG及び矢印)と小脳の一部(C)でそれと分かる(H)(倍率:A 10×、B 20×、C 10×、D 2.5×)。
【図11】マウスGL261神経膠腫におけるJAM-Bの発現。A.GL261マウス神経膠腫細胞におけるJAM-B発現の細胞蛍光分析。ヒストグラムは、抗JAM-Bモノクローナル抗体(白抜きの曲線)とアイソタイプ対照抗体(灰色塗りの曲線)を用いて得られた特徴を明らかにする。B.GL261細胞におけるマウスJAM-Bの免疫沈降反応。レーン1:免疫前のウサギ血清、レーン2:モノクローナル・アイソタイプ対照、レーン3:ポリクローナル抗JAM-B抗体、レーン4:モノクローナル抗JAM-B抗体。C.、D.、及びE.GL261細胞を定位的に移植したC57BL/6マウスの脳におけるJAM-Bに関する免疫組織化学。JAM-Bは、それらの群(C及びD)において強いレベルでGL261細胞(C、D、E)の大部分の表面で発現される。高レベルのJAM-Bを発現する血管が、Cの中で矢印で示されている(倍率:C、D、E 20×)。
【図12】野生型マウス脳におけるJAM-Bの発現。A.JAM-Bは、血管内皮細胞によって高レベルで発現される。B.JAM-Bは、上衣細胞(矢印によって指し示す)によって強く発現される。C.より高い倍率のBは、脳室に沿った上衣細胞(矢印によって指し示す)上で高レベルのJAM-B発現を明らかにする。D.低レベルのJAM-B発現は、JAM-Bが不存在である構造の周りに存在しているように見える(矢印はそれらの2つを指し示す)。
【図13】抗JAM-CブロッキングD33抗体は、皮下GL261神経膠腫の増殖と、腫瘍関連血管新生に効果がある。A.GL261細胞を皮下注射し、そして、PBS、アイソタイプ対照抗体、又は抗JAM-C抗体で処置したマウスにおける経時的な平均腫瘍体積。グラフは、17匹のマウス(PBS)、16匹のマウス(アイソタイプ対照9B5抗体)、及び16匹のマウス(抗JAM-C D33抗体)の総数の2つの別々の実験に関するデータを表す。バーは、平均±SEMを表す。B.平均腫瘍重量。バーは、平均±SEMを表す。C.腫瘍関連血管新生の定量化。グラフは、PBS、アイソタイプ対照9B5、又は抗JAM-C D33抗体で処置されたマウス内で増殖した腫瘍(1処置あたり7匹)から成る群の血管新生の程度を明らかにする。バーは、平均±SDを表す。
【図14】GL261細胞を定位的に移植し、そして、PBS、アイソタイプ対照抗体9B5、又は抗JAM-C抗体D33で処置されたC57BL/6マウスの脳の肉眼的外観。大きな腫瘍塊が、PBS及び9B5処置マウスにおいて腫瘍移植部位(左半球)にて目に見えるのに対して、D33処置マウスにおいて、それらは検出できなかった。
【図15】抗JAM-CブロッキングD33抗体は、脳内のGL261神経膠腫の増殖を阻害する。アイソタイプ対照9B5(3匹のマウス)又は抗JAM-C D33抗体(3匹のマウス)で処置されたマウスの脳内で増殖したGL261神経膠腫のMRI画像。画像は、腫瘍細胞移植後4、11、及び18日目に取得され、そして、18日目に抗JAM-C抗体で処置されたマウスにおいて腫瘍サイズの有意な減少が明らかになった。
【図16】抗JAM-C D33抗体処置は、同所性GL261神経膠腫の増殖を有意に低減する。抗JAM-C D33抗体で処置されたマウス内で増殖したGL261神経膠腫の脳内腫瘍体積は、アイソタイプ対照9B5抗体で処置されたマウスのものに比べて、有意に小さかった(p=<0.001)。腫瘍体積は、腫瘍細胞移植後18日目に得られたMRI画像から計算し、そして、9B5又はD33抗体で処置された、それぞれ、6匹及び5匹のマウスから得られた値を表す。バーは、平均±SDを表す。
【図17】抗JAM-C D33抗体は、脳内のGL261神経膠腫増殖を阻害し、腫瘍関連血管新生を低減し、そして、腫瘍形状に影響を及ぼす。A.抗JAM-C D33抗体で処置されたマウス内で増殖したGL261神経膠腫の腫瘍領域は、9B5アイソタイプ対照抗体で処置されたマウスのものに比べて、有意に小さい(p=0.049)。バーは、平均±SEMを表す。B.抗JAM-C D33抗体療法は、腫瘍切片上のPECAM-1染色された表面のパーセンテージによって計算されるGL261神経膠腫関連血管新生を低減する傾向を明らかにする。バーは、平均±SEMを表す。C.抗JAM-C D33抗体で処置されたマウス内で増殖したGL261神経膠腫は、腫瘍領域の長さ/幅の比によって測定されるように、有意に丸い形状を明らかにした(p=0.001)。バーは、平均±SEMを表す。D.抗JAM-C D33抗体又は9B5アイソタイプ対照抗体で処置されたマウスの脳で増殖したGL261神経膠腫の形状の代表的な画像。腫瘍領域は、破線によって輪郭が描かれている(画像は、4×の倍率にてNicon Scanを用いて得た)。すべてのデータを、1処置あたり3匹のマウスの分析から得た。
【図18】GL261細胞におけるRNA干渉によるJAM-C発現の阻害。A.分解のためのJAM-C mRNAを標的とするために使用したRNAi233標的配列を示すマウスJAM-C mRNAの略図。B.及びC.マウスJAM-C mRNAのためのshRNA233標的配列(Aを参照のこと)の発現を可能にするpSuper.gfp/neoベクターをトランスフェクトしたGL261細胞(B)とGL261-233細胞(C)におけるJAM-C発現のフローサイトメトリー分析。GL261-233(C)細胞におけるJAM-Cタンパク質の発現(白抜きの曲線)のレベルは、母GL261(B)細胞と比べて、非常に低減される。灰色塗りの曲線は、アイソタイプ対照抗体の特徴を明らかにする。
【図19】GL261-233細胞におけるJAM-C発現のレスキュー。A.233RNAi標的配列を明らかにするマウスJAM-C mRNAと、RNAi耐性JAM-C mRNAを作り出すために導入された2つのサイレント点突然変異の略図。B.及びC.GL261-233RC(B)とGL261-233R(C)細胞におけるJAM-C発現のフローサイトメトリー分析。GL261-233R細胞におけるJAM-Cタンパク質の発現(白抜きの曲線)のレベルは、母GL261-233細胞(7%の細胞がJAM-Cを発現する)と類似したJAM-C発現のレベルを示す対照GL261-233RC(B)細胞と比較して、完全にレスキューされた(98.8%の細胞がJAM-Cを発現する)(図19C)。灰色塗りの曲線は、アイソタイプ対照抗体の特徴を明らかにする。D.GL261-233RC(レーン1)とGL261-233R(レーン2)細胞におけるマウスJAM-C mRNAのリアルタイムPCR法。y軸は、mRNAの相対量を示す。JAM-C mRNAのレベルは、GL261-233RC細胞と比較して、GL261-233Rにおいて222倍高かった(p<0.0001)。バーは、平均±SDを表す。E.及びF.免疫蛍光によって検出されるGL261-233R(E)とGL261-233RC(F)細胞におけるJAM-C発現。G.、H.、I.、J.細胞膜の異なった部位におけるGL261-233R細胞のJAM-C発現。JAM-Cの強い発現は、細胞‐細胞接触の部位にて検出され(G及びJ、矢印で指し示した)、細胞表面上の制限された地点において検出され(H、矢印で指し示した)、そして、細胞‐細胞接着に寄与しない部位の細胞膜上に分布した(I)(倍率:E及びF 40×;G、H、I 63×;J 100×)。
【図20】リアルタイムPCR法によって検出される、GL261-233RC(レーン1)細胞と比べて、GL261-233R(レーン2)のマイクロアレイ解析によって上方制御された遺伝子に関するmRNAの相対量。A.RapGEF2(倍率変化:1.36;p<0.001)。B.PAK3(倍率変化:1.66;p<0.0001)。C.Fos(倍率変化:1.53;p<0.0001)。D.FosL2、(倍率変化:2.28;p<0.001)。E.PVR(倍率変化:1.55;p<0.01)。F.AFAP(倍率変化:5.67;p<0.0001)。G.GAPDH(制御遺伝子)。H.チューブリン2(制御遺伝子)。バーは、平均±SDを表す。
【図21】リアルタイムPCR法によって検出される、GL261-233RC(レーン1)細胞と比べて、GL261-233R(レーン2)のマイクロアレイ解析によって上方制御されるか、又は下方制御された遺伝子に関するmRNAの相対量。A.BDNF(倍率変化:1.35;p<0.01)。B.Tspan6(倍率変化:1.41;p<0.001)。C.Ptgfrn(倍率変化:2.39;p<0.0001)。D.VLDLR(倍率変化:0.25;p<0.0001)。制御遺伝子は、図21に明らかにされている。バーは、平均±SDを表す。
【図22】JAM-Cの過剰発現と、神経膠腫細胞におけるJAM-Bとのそのトランス相互作用は、c-Src癌原遺伝子を活性化する。A.GL261-233RC JAM-Cノックダウン細胞の表面に結合する可溶性JAM-Bのフローサイトメトリー分析。ヒストグラムは、sJAM-B-Fcキメラと二次抗ヒトFc抗体(白抜きの曲線)を一緒に、及び二次抗ヒトFc抗体のみ(灰色塗りの曲線)を細胞とインキューベートすることによって得られた特徴を明らかにする。B.GL261-233R JAM-Cレスキューした細胞の表面に結合する可溶性JAM-Bのフローサイトメトリー分析。ヒストグラムは、sJAM-B-Fcキメラと二次抗ヒトFc抗体(白抜きの曲線)と一緒に、及び二次抗ヒトFc抗体のみ(灰色塗りの曲線)と細胞をインキューベートすることによって得られた特徴を明らかにする。C.GL261-233R(黒いバー)及びGL261-233RC(白いバー)細胞、並びにsJAM-B-Fcキメラ・タンパク質に晒した同じ細胞におけるc-Srcタンパク質と活性なリン酸化c-Srcの総レベルの定量化。GL261-233R細胞は、GL261-233RC細胞と比べて、c-Srcタンパク質、及び活性なリン酸化c-Srcの有意に高いレベルを明らかにした。sJAM-Bタンパク質へのGL261-233RC及びGL261-233R細胞の暴露は、c-Srcタンパク質レベルの増大を引き起こすが、JAM-C過剰発現GL261-233R細胞における有意に高い程度までであった。sJAM-Bタンパク質は、GL261-233RC細胞においてリン酸化c-Srcタンパク質レベルの増大を引き起こす。バーは、平均±SDを表す。(星印1つ:p=0.02;星印2つ:p=0.005;星印3つ:p<0.001)。
【図23】神経膠腫細胞におけるJAM-C機能のモデル。神経膠腫細胞の膜上のJAM-C(白色、水玉模様の球状構造)は、複数の付着接触:対向する細胞の表面のJAM-Bとトランスで(明灰色の球状構造)、インテグリンとシスで(暗灰色の平行六面体)、及びRTKsとシスで(白/黒の平行六面体)を確立する。これらの多重相互作用、及びそれらの細胞外マトリックス・リガンドへのインテグリンの結合の結果、並びに増殖因子によるRTKs刺激は、細胞膜にてc-Src非受容体チロシンキナーゼの動員と活性化をもたらす。C-Srcは、細胞生存、増殖、血管新生の誘導、及び運動能/侵襲の増強をもたらす重要な細胞内経路を活性化する。
【図24】カラーCCD画像の定量化画像処理ステップ1:画像は、(ピクセルの色相、彩度、及び明度によって規定される)HSI色空間において色の閾値に分類する。閾値の間隔は、以下のとおり選択された:色相に関して159〜217、彩度に関して10〜255、及び明度に関して109〜255。閾値分類領域は、中央画像を明らかにする。閾値分類領域の要素は、サイズに関してふるいわけされた。特定のサイズをもつ要素だけが、正しい画像に現れるように維持された。
【図25】カラーCCD画像の定量化画像処理ステップ2:1つの腫瘍領域の定義。維持された個々の要素は、左の画像で示された距離地図を構築するのに使用された。この地図では、ピクセルの色が、最も近い腫瘍要素への距離を表す。この地図は、図の真ん中の部分に示されている腫瘍要素のすぐ隣に位置する領域を区切るのに使用された。後者は、腫瘍の最も大きくて最も代表的な部分だけを維持するように加工された。進行中の画像に関してこの部分は、右側に示されている。この部分の面積が、脳内の腫瘍領域の統計的分析に使用された総腫瘍領域に相当する値であり、図17に示された。
【図26】カラーCCD画像の定量化画像処理ステップ3:得られた総腫瘍領域は、血管によって表された表面のパーセンテージについて分析された。血管は、HSI色空間における色の閾値分類を用いて単離された。閾値間隔は以下のとおり選択された:色相に関して0〜79、彩度に関して10〜137、及び明度に関して0〜242。閾値分類された領域は、左の画像の中でマゼンタで示されている。選択された血管は、図の右側部分に別個に示されている。血管の総面積は、腫瘍の総面積に対するPECAM-1染色された面積のパーセンテージの統計的分析に使用された。
【図27】カラーCCD画像の定量化画像処理ステップ4:2つの値:長さと幅が、腫瘍の形態を特徴づけするために使用された。長さは腫瘍の輪郭を貫く最も長い弦の長さと規定される。言い換えれば、長さは、腫瘍に属している2つの最も離れた地点の間の距離である。図では、パラメーターは、オレンジの線の長さとして計測される。幅は、最も長い弦に対して垂直な腫瘍輪郭のカリパス幅である。図では、このパラメーターは、シアンの線に相当し、そして、オレンジの線に沿って計測された腫瘍の最も長い幅を表す。長さと横の両方がそれぞれの腫瘍領域について計測され、そして、長さ/幅の比が、腫瘍の形状を規定するために使用された。
【図28】JAM-Cブロッキング抗体D33の抗体の結合特性は、BIAcore 2000機器による表面プラズモン共鳴アッセイによって測定された。JAM-Cブロッキング抗体D33が、異なった濃度(1=666.5nM;2=333.3nM;3=66.66nM;4=33.33nM、及び5=6.666nM)で分析物として使用され、そして、155共鳴ユニット(RUs)のJAM-Cでコーティングしたチップ上と、基準としてのコーティングを施していないチップ上に流した。
【図29】JAM-Cブロッキング抗体D33を用いた表面プラズモン共鳴アッセイの生データは、1:1ラングミュア適合モデルに従って分析された。分析は、チップ上のJAM-C抗原に対するD33抗体の親和性を提供する。1:1相互作用に基づいて、ka、kb、及びKD定数が計算できる。
【図30】JAM-Cブロッキング抗体D33を用いた表面プラズモン共鳴アッセイの生データは、抗体の二価特性を考慮した二価適合モデルに従って分析された。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の第1の側面は、神経膠腫を治療するための、JAM-Cに特異的に結合する化合物の使用に関する。
【0055】
本発明の第1の側面の第1の態様は、神経膠腫を治療するための、JAM-Cに特異的に結合する化合物の使用である。
【0056】
本発明の第1の側面の第2の態様は、本発明の第1の側面の第1の態様に記載の使用であって、前記化合物が、JAM-Cの拮抗薬である前記使用である。
【0057】
本発明の第1の側面の第3の態様は、本発明の第1の側面の第2の態様に記載の使用であって、前記拮抗薬がJAM-BとJAM-Cの相互作用を阻害する前記使用である。
【0058】
本発明の第1の側面の第4の態様は、本発明の第1の側面の第1、第2、又は第3の態様に記載の使用であって、前記化合物が、JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントである前記使用である。
【0059】
本発明の第1の側面の第5の態様は、本発明の第1の側面の第4の態様に記載の使用であって、JAM-Cに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントがアビディティー効果を示す前記使用である。
【0060】
本発明の第1の側面の第6の態様は、本発明の第1の側面の第4の態様に記載の使用であって、JAM-Cに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントが、分析物として固相結合JAM-C及び前述の抗JAM-C抗体を使用した表面プラズモン共鳴によって測定される、≧10-4s-1、好ましくは≧10-2s-1、そして、より好ましくは≧5×10-2s-1の解離定数kdを有する前記使用である。
【0061】
本発明の第1の側面の第7の態様は、本発明の第1の側面の第4又は第5の態様に記載の使用であって、前記抗体が、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるラット・モノクローナル抗体D33であるか;又はそのヒト化若しくは霊長類化変異体であるか;あるいは、その抗原結合領域を含んで成るフラグメントである前記使用である。
【0062】
本発明の第1の側面の第8の態様は、本発明の第1の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、又は第7の態様に記載の使用であって、前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントが、毒物、放射性核種、若しくはサイトカインなどの細胞毒性物質に連結される前記使用である。
【0063】
本発明の第1の側面の第9の態様は、本発明の第1の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、又は第8の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が、星細胞腫である前記使用である。
【0064】
本発明の第1の側面の第10の態様は、本発明の第1の側面の第9の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、グレードI、グレードII、又はグレードIIIのものである前記使用である。
【0065】
本発明の第1の側面の第11の態様は、本発明の第1の側面の第9の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、神経膠芽腫である前記使用である。
【0066】
本発明の第1の側面の第12の態様は、本発明の第1の側面の第11の態様に記載の使用であって、前記神経膠芽腫が、Fos、FosL2、PAK3、Tspan6、PVR、BDNF、RapGEF2、Ptgfrn、AFAP、及びEps8から成る群から選択される遺伝子の中の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のmRNA発現が、非腫瘍星細胞のmRNA発現と比べて上方制御されることを特徴とする前記使用である。
【0067】
本発明の第1の側面の第13の態様は、本発明の第1の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、又は第12の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が拡散した前記使用である。
【0068】
本発明の第1の側面の第14の態様は、本発明の第1の側面の第13の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が転移した前記使用である。
【0069】
本発明の第1の側面の第15の態様は、本発明の第1の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、又は第14の態様に記載の使用であって、前記化合物が全身投与される前記方法である。
【0070】
本発明はまた、神経膠腫患者の治療方法であって、JAM-Cに特異的に結合する化合物の有効量を患者に投与し、それにより神経膠腫が改善するステップを含んで成る前記方法に関する。
【0071】
好ましい態様において、前記神経膠腫患者は、ヒトであるか、又はイヌ若しくはネコのような家畜である。前記患者は、星細胞腫を患っていると考えられる。星細胞腫は、これだけに制限されることなく、毛様細胞性星細胞腫(グレードI)、びまん性星細胞腫(グレードII)、退形成星細胞腫(グレードIII)、及び神経膠芽腫(グレードIV)を含めたあらゆるグレードのものであるかもしれない。
【0072】
本発明はまた、先に記載の方法のいずれか1つに記載の神経膠腫患者の治療方法であって、JAM-Cに特異的に結合する化合物、又は抗JAM-C抗体を全身に投与する前記方法に関する。
【0073】
これにより、当該発明の第2の側面は、神経膠腫の増殖又は神経膠腫の拡散の阻害のための、JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの使用に関する。
【0074】
本発明の第2の側面の第1の態様は、神経膠腫の増殖の阻害のための、JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの使用である。
【0075】
本発明の第2の側面の第2の態様は、神経膠腫の拡散の阻害のための、JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの使用である。
【0076】
本発明の第2の側面の第3の態様は、本発明の第2の側面の第1又は第2の態様に記載の使用であって、前記抗体が、JAM-BとJAM-Cの相互作用を阻害する前記使用である。
【0077】
本発明の第2の側面の第4の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、又は第3の態様に記載の使用であって、JAM-Cに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントがアビディティー効果を示す前記使用である。
【0078】
本発明の第2の側面の第5の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、又は第3の態様に記載の使用であって、JAM-Cに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントが、分析物として固相結合JAM-C及び前述の抗JAM-C抗体を使用した表面プラズモン共鳴によって測定される、≧10-4s-1、好ましくは≧10-2s-1、そして、より好ましくは≧5×10-2s-1の解離定数kdを有する前記使用である。
【0079】
本発明の第2の側面の第6の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、第3、又は第4の態様に記載の使用であって、前記抗体が、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるラット・モノクローナル抗体D33であるか;又はそのヒト化若しくは霊長類化変異体であるか;あるいは、その抗原結合領域を含んで成るフラグメントである前記使用である。
【0080】
本発明の第2の側面の第7の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、第3、第4、第5、又は第6の態様に記載の使用であって、前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントが、毒物、放射性核種、若しくはサイトカインなどの細胞毒性物質に連結される前記使用である。
【0081】
本発明の第2の側面の第8の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、又は第7の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が、星細胞腫である前記使用である。
【0082】
本発明の第2の側面の第9の態様は、本発明の第2の側面の第8の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、グレードI、グレードII、又はグレードIIIのものである前記使用である。
【0083】
本発明の第2の側面の第10の態様は、本発明の第2の側面の第8の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、神経膠芽腫である前記使用である。
【0084】
本発明の第2の側面の第11の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、又は第10の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が拡散した前記使用である。
【0085】
本発明の第2の側面の第12の態様は、本発明の第2の側面の第11の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が転移した前記使用である。
【0086】
本発明の第2の側面の第13の態様は、本発明の第2の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、又は第12の態様に記載の使用であって、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが全身投与された前記使用である。
【0087】
本発明の第3の側面は、神経膠腫を治療するための、JAM-Bに特異的に結合する化合物の使用に関する。
【0088】
本発明の第3の側面の第1の態様は、神経膠腫を治療するための、JAM-Bに特異的に結合する化合物の使用である。
【0089】
本発明の第3の側面の第2の態様は、本発明の第3の側面の第1の態様に記載の使用であって、前記化合物が、JAM-Bの拮抗薬である前記使用である。
【0090】
本発明の第3の側面の第3の態様は、本発明の第3の側面の第2の態様に記載の使用であって、前記拮抗薬がJAM-CとJAM-Bの相互作用を阻害する前記使用である。
【0091】
本発明の第3の側面の第4の態様は、本発明の第3の側面の第1、第2、又は第3の態様に記載の使用であって、前記化合物が、JAM-Bに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントである前記使用である。
【0092】
本発明の第3の側面の第5の態様は、本発明の第3の側面の第4の態様に記載の使用であって、JAM-Bに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントがアビディティー効果を示す前記使用である。
【0093】
本発明の第3の側面の第6の態様は、本発明の第3の側面の第4の態様に記載の使用であって、JAM-Bに特異的に結合する前記の抗体又はその抗原結合フラグメントが、分析物として固相結合JAM-B及び前述の抗JAM-B抗体を使用した表面プラズモン共鳴によって測定される、≧10-4s-1、好ましくは≧10-2s-1、そして、より好ましくは≧5×10-2s-1の解離定数kdを有する前記使用である。
【0094】
本発明の第3の側面の第7の態様は、本発明の第3の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、又は第7の態様に記載の使用であって、前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントが、毒物、放射性核種、若しくはサイトカインなどの細胞毒性物質に連結される前記使用である。
【0095】
本発明の第3の側面の第8の態様は、本発明の第3の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、又は第7の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が、星細胞腫である前記使用である。
【0096】
本発明の第3の側面の第9の態様は、本発明の第3の側面の第8の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、グレードI、グレードII、又はグレードIIIのものである前記使用である。
【0097】
本発明の第3の側面の第10の態様は、本発明の第3の側面の第8の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、神経膠芽腫である前記使用である。
【0098】
本発明の第3の側面の第11の態様は、本発明の第3の側面の第10の態様に記載の使用であって、前記神経膠芽腫が、Fos、FosL2、PAK3、Tspan6、PVR、BDNF、RapGEF2、Ptgfrn、AFAP、及びEps8から成る群から選択される遺伝子の中の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のmRNA発現が、非腫瘍星細胞のmRNA発現と比べて上方制御されることを特徴とする前記使用である。
【0099】
本発明の第3の側面の第12の態様は、本発明の第3の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、又は第11の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が拡散した前記使用である。
【0100】
本発明の第3の側面の第13の態様は、本発明の第3の側面の第12の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が転移した前記使用である。
【0101】
本発明の第3の側面の第14の態様は、本発明の第3の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、又は第13の態様に記載の使用であって、前記化合物が全身投与される前記方法である。
【0102】
本発明はまた、神経膠腫患者の治療方法であって、JAM-Bに特異的に結合する化合物の有効量を患者に投与し、それにより神経膠腫が改善するステップを含んで成る前記方法に関する。
【0103】
好ましい態様において、前記神経膠腫患者は、ヒトであるか、又はイヌ若しくはネコのような家畜である。前記患者は、星細胞腫を患っていると考えられる。星細胞腫は、これだけに制限されることなく、毛様細胞性星細胞腫(グレードI)、びまん性星細胞腫(グレードII)、退形成星細胞腫(グレードIII)、及び神経膠芽腫(グレードIV)を含めたあらゆるグレードのものであるかもしれない。
【0104】
本発明はまた、先に記載の方法のいずれか1つに記載の神経膠腫患者の治療方法であって、JAM-Cに特異的に結合する化合物、又は抗JAM-C抗体を全身に投与する前記方法に関する。
【0105】
本発明の第4の側面は、本発明の第1、第2、又は第3の側面のいずれかの態様に記載の使用であって、JAM-Bに特異的に結合する化合物とJAM-Cに特異的に結合する化合物が組み合わせて使用される前記使用である。
【0106】
本発明の第4の側面の第1の態様は、神経膠腫の治療のための、JAM-B特異的に結合する化合物と、JAM-Cに特異的に結合する化合物を組み合わせた状態での使用である。
【0107】
本発明の第4の側面の第2の態様は、本発明の第4の側面の第1の態様に記載の使用であって、前記化合物の少なくとも1種類が、JAM-Bの拮抗薬、又はJAM-Cの拮抗薬であるところの前記使用である。
【0108】
本発明の第4の側面の第3の態様は、本発明の第4の側面の第2の態様に記載の使用であって、1つの化合物がJAM-Bの拮抗薬であり、且つ、1つの化合物がJAM-Cの拮抗薬であるところの前記使用である。
【0109】
本発明の第4の側面の第4の態様は、本発明の第4の側面の第2又は第3の態様に記載の使用であって、前記の少なくとも1種類の拮抗薬が、JAM-BとJAM-Cの相互作用を阻害する前記使用である。
【0110】
本発明の第4の側面の第5の態様は、本発明の第4の側面の第1、第2、第3、又は第4の態様に記載の使用であって、前記化合物の少なくとも1種類が、JAM-B若しくはJAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントであるところの前記方法である。
【0111】
本発明の第4の側面の第6の態様は、本発明の第4の側面の第1、第2、第3、第4、又は第5の態様に記載の使用であって、前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントの少なくとも1つが、毒素、放射性核種、又はサイトカインなどの細胞毒性物質に連結されてい前記使用である。
【0112】
本発明の第4の側面の第7の態様は、本発明の第4の側面の第1、第2、第3、第4、第5、又は第6の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が星細胞腫であるところの前記使用である。
【0113】
本発明の第4の側面の第8の態様は、本発明の第4の側面の第7の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、グレードI、グレードII、又はグレードIIIのものであるところの前記使用である。
【0114】
本発明の第4の側面の第9の態様は、本発明の第4の側面の第7の態様に記載の使用であって、前記星細胞腫が、神経膠芽腫であるところの前記使用である。
【0115】
本発明の第4の側面の第10の態様は、本発明の第4の側面の第9の態様に記載の使用であって、前記神経膠芽腫が、Fos、FosL2、PAK3、Tspan6、PVR、BDNF、RapGEF2、Ptgfrn、AFAP、及びEps8から成る群から選択される遺伝子の中の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のmRNA発現が、非腫瘍星細胞のmRNA発現と比べて上方制御されることを特徴とする前記使用である。
【0116】
本発明の第4の側面の第11の態様は、本発明の第4の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、又は第10の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が拡散した前記使用である。
【0117】
本発明の第4の側面の第12の態様は、本発明の第4の側面の第11の態様に記載の使用であって、前記神経膠腫が転移した前記使用である。
【0118】
本発明の第4の側面の第13の態様は、本発明の第4の側面の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、又は第12の態様に記載の使用であって、前記化合物の少なくとも1種類が全身投与される前記使用である。
【0119】
本発明の第5の側面は、JAM-Cに特異的に結合し、且つ、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるラット・モノクローナル抗体D33である。
【0120】
本発明の第5の側面の第1の態様は、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたラット・モノクローナル抗体D33である。
【0121】
本発明の第5の側面の第2の態様は、抗体D33を産生する、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株である。
【0122】
本発明の第5の側面の第3の態様は、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたラット・モノクローナル抗体D33の抗原結合領域を含んで成る抗体である。
【0123】
本発明の第5の側面の第4の態様は、受入番号第06092701号の下でヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたラット・モノクローナル抗体D33のヒト化又は霊長類化形態である。ヒト化抗体では、齧歯動物の抗体配列の少なくとも一部が、ヒトの対応する抗体からの配列と置き換えられる。例えば、モノクローナル抗体D33の定常領域は、ヒト免疫グロブリン分子からの配列と置き換えられることがある。霊長類化抗体において、齧歯動物の抗体配列は、同様の様式で好適な霊長類動物の抗体配列と置き換えられる。
【0124】
第5の側面の第5の態様において、本発明は、モノクローナル抗体D33の抗原結合領域を含んで成る組み換え抗体であって、ヒト免疫系における発現又は適合性を最適化するために修飾されたものを提供する。例えば、本発明の抗体は、一本鎖抗体であることがある。そのような抗体は、細菌細胞により大量に産生され、そして、単一のポリペプチドとして効率的に精製されることがある。
【0125】
本発明の第5の側面の第6の態様は、医薬品としての使用のための、本発明の第5の側面の第1、第3、第4、又は第5の態様に記載の抗体である。
【0126】
本発明の第5の側面の第7の態様は、任意に、医薬として許容される担体又は賦形剤と共に、本発明の第5の側面の第1、第3、第4、又は第5の態様に記載の抗体を含んで成る医薬組成物である。
【0127】
「拮抗薬」又は「拮抗薬」という用語は、本明細書中に使用される場合、標的分子の結合パートナー(リガンド)であって、上述の標的分子の少なくとも1つの生物学的活性を阻害又は低減するものを指す。
【0128】
「(単数又は複数の)JAM-Cの拮抗薬」という用語は、本明細書中に使用される場合、JAM-Cに結合し、そして、JAM-Cの少なくとも1つの生物学的活性を阻害する化合物を指す。
【0129】
「(単数又は複数の)JAM-Bの拮抗薬」という用語は、類似の様式で本明細書中に使用される。JAM-Cの生物学的活性は、当該技術分野で知られていて、そして、これだけに制限されることなく、JAM-Cへの同種結合と、JAM-Bへの異種結合が含まれる。JAM-Bの生物学的活性は、当該技術分野で知られていて、そして、これだけに制限されることなく、JAM-Bへの同種結合と、JAM-Cへの異種結合が含まれる。「JAM-B又はJAM-Cの拮抗薬」は、例えば、それぞれJAM-B若しくはJAM-Cの少なくとも1つの生物学的活性を阻害するタンパク質、例えば、抗体、あるいは、当該技術分野で知られているリポカリン(「anticalins」)、フィブロネクチン(「adnectins」、トリネクチン(trinectins))、クニッツ・ドメイン、C型レクチン、トランスフェリン、γ-クリスタリン、システインを持たないもの(cysteine-nots)、アンキリン反復(「DARPins」)、又はプロテインA(「affibodies」)からの、タンパク質骨格に基づく10個を超えるアミノ酸を含んで成る他のタンパク質又はポリペプチド化合物などである(Tomlinson, 2004;Mosavi et al., 2004;Gill and Damle, 2006;Nilsson and Tolmachev, 2007;Binz et al., 2004)。「JAM-B又はJAM-Cの拮抗薬」にはまた、それぞれ、JAM-B又はJAM-Cの少なくとも1つの生物学的活性を阻害する低分子量化合物、例えば、10個を超えるアミノ酸を含んで成るポリペプチドを除くが、10個未満のアミノ酸を含んで成るペプチド及び環状ペプチドを含む有機分子、並びにペプチド模倣薬なども含まれる。ペプチド模倣薬は、タンパク質‐タンパク質相互作用部位において見出されたアミノ酸配列に基づき、そして、当該技術分野で知られている化合物である(Sillerud and Larson, 2005)。
【0130】
腫瘍(例えば、神経膠腫)の「拡散(spreading)」というの用語は、本明細書中に使用される場合、(a)臓器(例えば、脳)のある部分から別の部分への腫瘍(例えば、神経膠腫)の移動を指し、それは浸潤又は侵襲とも呼ばれ、及び(b)ある臓器から、それに直接つながっていない別の臓器への腫瘍(例えば、神経膠腫)の移動を指し、それは転移癌とも呼ばれる。腫瘍(例えば、神経膠腫)の拡散は、例えば、原発性腫瘍から1ヶ所以上の二次部位(例えば、脳内)へ、又は二次部位から1ヶ所以上の三次部位(例えば、脳内)へ起こる可能性がある。
【0131】
「(単数又は複数の)抗体」という用語は、本明細書中に使用される場合、モノクローナル又はポリクローナル抗体を指す。免疫グロブリンという用語は、抗体と同じ意味で使用される。「(単数又は複数の)抗体」という用語には、本明細書中に使用される場合、これだけに制限されることなく、当該技術分野で知られている組み換え技術によって産生される組み換え抗体が含まれる。「(単数又は複数の)抗体」には、あらゆる種の抗体、具体的には、哺乳類種の抗体;例えば、ヒト抗体など;ヒト以外の霊長類動物の抗体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、赤毛猿、又はカニクイザルからのもの;齧歯動物の抗体、例えば、マウス、ラット、又はウサギからのもの;ヤギ又はウマの抗体;並びにラクダ科の動物の抗体;又は鳥類の種のもの、例えば、ニワトリ抗体など、あるいは、魚類の種のもの、例えば、鮫の抗体などが含まれる。
【0132】
「(単数又は複数の)抗体」という用語はまた、少なくとも1本の重鎖、及び/又は軽鎖抗体配列の第1の部分が、第1の種からであり、重鎖、及び/又は軽鎖抗体配列の第2の部分が、第2の種からである「キメラ」抗体を指す。本明細書中で着目のキメラ抗体には、ヒト以外の霊長類動物(例えば、ヒヒ、赤毛猿、又はカニクイザルなどの旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列と、ヒト定常領域配列を含んで成る「霊長類化」抗体が含まれる。
【0133】
「ヒト化」抗体は、ヒト以外の抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性、及び活性を有するヒト以外の種、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、又はヒト以外の霊長類動物などの超可変領域[又は相補性決定領域(CDR)](ドナー抗体)からの残基によって置き換えられているヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDRの外側;すなわち、フレームワーク領域(FR)内のヒト(レシピエント)抗体の残基は、相当するヒト以外の残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含んで成ることがある。これらの変更は、抗体の能力をさらに洗練する。ヒト化は、ヒトにおけるヒト以外の抗体の免疫原性を低下させ、これにより、ヒト疾病の治療への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体、及びそれらを作り出すいくつかの異なった技術が当該技術分野で周知である(Hwang et al., 2005a;Damschroder et al., 2007;Lazar et al., 2007;Nishibori et al., 2006;Tsurushita et al., 2005;Dall’Acqua et al., 2005;Hwang et al., 2005b;Kashmiri et al., 2005;Gonzales et al,, 2004;Lo, 2004;O’Brien and Jones, 2003)。
【0134】
「(単数又は複数)抗体」という用語はまた、ヒト化に代わるものとして産生されるヒト抗体を指す。例えば、免疫化によって内因性マウス抗体の産生がないときにヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作り出すことが可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合欠失が、内因性抗体産生の完全阻害をもたらすことが記載されていた。そのような生殖系列突然変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、特定の抗原を用いた、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子を保有するトランスジェニック動物の免疫化による上述の抗原に対する特異性を有するヒト抗体の産生をもたらすだろう。そのようなトランスジェニック動物を作り出す技術、及びそのようなトランスジェニック動物からヒト抗体を単離し、産生する技術は、当該技術分野で知られている(Lonberg, 2005;Green, 1999;Kellermann and Green, 2002;Nicholson et al., 1999)。あるいは、トランスジェニック動物;例えば、マウスにおいて、マウス抗体の可変領域をコードする免疫グロブリン遺伝子だけが、対応するヒト可変免疫グロブリン遺伝子配列と置き換えられる。抗体定常領域をコードするマウス生殖系列免疫グロブリン遺伝子は、変更されないままである。このように、生体内における抗原投与による改良された抗体応答に通じることがある、トランスジェニック・マウスの免疫系抗体エフェクター機能と、その結果として、B細胞発生は、基本的に変わりがない。着目の特定の抗体をコードする遺伝子がそのようなトランスジェニック動物から単離された時点で、完全なヒト抗体を得るために、定常領域をコードする遺伝子を、ヒト定常域遺伝子と置き換える。試験管内においてヒト抗体の抗体フラグメントを得るための他の方法は、ファージ・ディスプレイ又はリボソーム・ディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づき、ここで、少なくとも一部が人工的に作り出されたか、又はドナーの免疫グロブリンの可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーである、組み換えDNAライブラリが使用される。ヒト抗体を作り出すためのファージ及びリボソーム・ディスプレイ技術は、当該技術分野で周知である(Winter et al., 1994;Hoogenboom, 2002;Kretzschmar and von Ruden, 2002;Groves and Osbourn, 2005;Dufneret al., 2006)。
【0135】
ヒト抗体はまた、生体外において着目の抗原で免疫され、それに続いて、その後に最適なヒト抗体に関してスクリーニングできるハイブリドーマを産生するために融合される分離ヒトB細胞から産生されることがある(Grasso et al., 2004;Li et al., 2006)。
【0136】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書中に使用される場合、多くの個々の抗体分子の組成物を指し、ここで、それぞれの個々の抗体分子は、少なくとも重鎖及び軽鎖の一次アミノ酸配列において同一である。多くの場合において、「モノクローナル抗体」は、多くの細胞によって産生され、且つ、上述の細胞において免疫グロブリン遺伝子の同一の組み合わせによってコードされる。通常「モノクローナル抗体」は、単一の祖先B細胞に由来する抗体遺伝子を抱えている細胞によって産生される。
【0137】
対照的に「(単数又は複数の)ポリクローナル抗体」は、複数の個々の抗体分子の組成物を指し、ここで、上記の個々の抗体分子は、重鎖又は軽鎖の一次アミノ酸配列が同一でない。多くの場合において、「ポリクローナル抗体」は、同じ抗原に結合するが、必ずしも抗原の同じ部位;すなわち、抗原決定基(エピトープ)に結合するわけではない。通例、「ポリクローナル抗体」は、多くの細胞によって産生されて、且つ、上述の細胞の抗体遺伝子の少なくとも2つの異なった組み合わせによってコードされる。
【0138】
「(単数又は複数の)抗体フラグメント」という用語は、本明細書中に使用される場合、好ましくはその抗原結合領域を含んで成る、2本の完全な重鎖、及び2本の完全な軽鎖から成る完全な抗体の一部を指す。本発明の抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、と同様に2、及びFvとscFvフラグメント;並びに二重特異性抗体;三重特異性抗体;四重特異性抗体;ミニボディー(minibodies);ドメイン抗体;一本鎖抗体;抗体フラグメント若しくは抗体から形成した二重特異性、三重特異性、四重特異性、若しくは多特異性抗体が含まれる。先に規定される抗体フラグメントは、当該技術分野で知られている(Holliger and Hudson, 2005)。
【0139】
本明細書中に使用される場合、「抗原結合ドメイン」という用語は、抗体産生細胞(例えば、B細胞又はハイブリドーマ細胞)において再配列を受ける抗体可変領域を指し、そして、抗体の標的抗原、この場合JAM-Cと直接相互作用する。これにより、モノクローナル抗体D33の抗原結合領域を含んで成る抗体は、あらゆるアイソタイプを含んで成ることがある。例えば、本発明の抗体は、IgA、IgM、IgE、又はIgG抗体であることがある。さらに、抗体という用語にはまた、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体、又は抗体パラトープ・ペプチドなどの抗体フラグメントが含まれる。現在の発明における使用のための抗体は、動物において産生されて、腹水液として採取されることがある。しかしながら、好ましい態様において、モノクローナル抗体D33の抗原結合領域を含んで成る抗体は、哺乳動物細胞(例えば、バイオリアクター内で)において、又は、昆虫、酵母、若しくは細菌細胞において産生される。
【0140】
抗体のパパイン分解で、それぞれ単一の抗原結合部位、及び名称が容易に結晶化する能力を反映している残留「Fc」フラグメントを持つ、「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントを生じる。ペプシン処理で、2つの抗原結合部位を持ち、且つ、それでも抗原を架橋できるF(ab’)2フラグメントを生み出す。
【0141】
本明細書中では、用語「Fc領域」は、天然配列Fc領域と変異定常領域を含めた免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するのに使用される。Fcフラグメントは、CH2、CH3、及びヒンジ部の一部から成る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は異なることがあるが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys-226の位置のアミノ酸残基からか又はPro-230から、そのカルボキシル末端までの範囲に規定される。ヒトIgG分子では、Fcフラグメントは、Cys-226に対するヒンジ部N末端のパパイン切断によってに生み出される。そのため、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域は、226位のアミノ酸残基からC末端までの範囲として規定される。先の番号付けは、後に免疫グロブリンEUと同定される(Edeiman et al., 1969)骨髄腫タンパク質の配列のそれに基づいたカバット(Kabat, 1988)に従った。
【0142】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含んで成る最小限の抗体フラグメントである。この領域は、密な、非共有結合的に会合状態の1本の重鎖及び1本の軽鎖の可変ドメインの二量体から成る。「scFV」分子において、重鎖可変ドメインは、リンカーを介して軽鎖可変ドメインに共有結合する。この立体配置では、それぞれの可変ドメインの3つの超可変領域が、VH-VL二量体の表面で抗原結合部位を規定するために相互作用する。まとめて、6つの超可変領域が、抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な超可変領域を3つだけ含んで成る半分のFv)であっても、完全な結合部位と比べて低親和性ではあるが、抗原を認識し、そして、結合する能力がある。
【0143】
Fabフラグメントはまた、軽鎖の定常ドメインと、重鎖の1番目の定常ドメイン(CH1)を含んで成る。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端のいくつかの残基の付加によってFabフラグメントと異なっている。Fab’-SHは、定常ドメインの(単数又は複数の)システイン残基が、少なくとも1つの遊離チオール基を担持するところのFab’の本明細書中の名称である。元々、F(ab’)2抗体フラグメントは、それらの間のヒンジ・システインを持つFab′フラグメント対として生み出された。抗体フラグメントの他の化学的結合もまた、知られている。
【0144】
「アビディティー効果」という用語は、第2分子に対する第1分子の多価結合に関する、同じ第2分子に対する同じ第1分子の単価結合と比較した場合の、親和性の増大を指す。抗体は、アビディティー効果を示すことがある;すなわち、y形の抗体の両腕が標的抗原に結合する(二価結合)ときには、y形の抗体の片腕だけが標的抗原に結合する(一価結合)ときと比較して、親和性がより高い。JAM-Cに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの「アビディティー効果」は、例えば、神経膠腫細胞株(例えば、ヒト神経膠腫細胞株U-251、BT-325、U-373、A-172、M059K、M059J、LN-18、若しくはHs683)に対して、JAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその二価抗原結合フラグメントの(二価)結合親和性を計測し、同じ神経膠腫細胞株に対する上述の抗体の一価抗原結合フラグメント、又はその二価抗原結合フラグメントの(一価)結合親和力を計測し、そして、結合親和力を比較し、ここで、二価結合親和性が一価結合親和性より高い場合に、JAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントがアビディティー効果を示すことによって測定される。
【0145】
(存在しているなら)それらの「重鎖」の定常ドメインのアミノ酸配列によって、抗体は異なったクラスに配属される。完全な抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、IgMが存在し、そして、これらのうちのいくつかがさらに、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分類されることがある。抗体の異なったクラスに相当する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。異なったクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置は、当該技術分野で周知である。
【0146】
抗体のFc領域が、補体依存性細胞傷害作用(CDC);抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(ADCC);食作用と細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御に通じる補体成分C1qの結合を含めた「エフェクター機能」を媒介することは周知である。
【0147】
エフェクター機能に関して、例えば、その拮抗薬又は抗体の抗原依存性細胞媒介細胞傷害作用(ADCC)、及び/又は補体依存性細胞傷害作用(CDC)を高めるように、本発明の拮抗薬又は抗体を修飾することは望ましいことがある。それは、当該技術分野で知られているように、抗体拮抗薬又は抗体のFc領域内に1つ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成されることがある。あるいは、又はさらに、(単数又は複数の)システイン残基が、Fc領域内に挿入され、その結果、この領域内の鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にすることがある。これにより生み出されたホモ二量体抗体は、改善された内在化能力、及び/又は高い相補体媒介性細胞殺滅、及び抗体依存性細胞障害作用(ADCC)を有することがある。
【0148】
Gクラス(IgG)の免疫グロブリンの血清中半減期を維持するのにFc領域が重要であることもまた、認識された(Ward and Ghetie, 1995)。研究によって、IgGの血清中半減期が、Fcの新生児Fcレセプター(FcRn)への結合によって媒介されることがわかった。FcRnは、膜貫通鎖と可溶性β鎖(β2-ミクログロブリン)から成るヘテロ二量体である。FcRnのα1及びα2ドメインは、Fc領域のCH2及びCH3ドメインと相互作用する。FcRnと相互作用するヒトIgGのFcフラグメント上の部位が、マッピングされた(Kim et al., 1999;Vaughn et al., 1997)。
【0149】
FcRn結合のための親和性と、免疫グロブリンの血清中半減期の相関関係は、当該技術分野で周知である(Datta-Mannan et al., 2007b)。重大なことには、そのような相関関係は、それらの野生型の親分子と比べて、FcRnに対してより高い親和性を有する改変抗体まで拡大された。突然変異誘発試験に基づく多くの刊行物及び特許が、この相関関係を支持する(Ward and Ghetie, 1995;Ghetie et al., 1997;Dall'Acqua et al., 2002;Hinton et al., 2004;Hinton et al., 2006;Shields et al., 2001;Datta-Mannan et al., 2007a;Kamei et al., 2005)。
【0150】
Fc領域はまた、治療用タンパク質の経口又は肺デリバリーを達成するのに使用できる。Fc融合タンパク質は、これらの経路を介して首尾よく提供された(Bitonti and Dumont, 2006;Bitonti et al., 2004;Low et al., 2005;Dumont et al., 2005)。
【0151】
「天然配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含んで成る。天然配列ヒトFc領域には、天然配列ヒトIgG1Fc領域(非A及びAアロタイプ);天然配列ヒトIgG2Fc領域;天然配列ヒトIgG3Fc領域;天然配列ヒトIgG4Fc領域;並びに上記のいずれかの自然発生変異株が含まれる。「変異Fc領域」は、天然配列のものと異なるアミノ酸配列を含んで成る。
【0152】
本発明による拮抗薬又は抗体は、任意に、例えば、細胞毒性物質(例えば、ジフテリア毒素、メイタンシン、マイタンシノイド、ドキソルビシン、カリケアマイシン、オゾガマイシン、オーリスタチン(auristatin)、オーリスタチンの誘導体(例えば、モノメチル・オーリスタチン)、シュードモナス外毒素、リシン、リシンA鎖、ブラン、アブリン、ヤドリギ・レクチン、モデッシン、ヤマゴボウ抗ウイルス・タンパク質、PAP、サポリン、ブリョジン1、ボーガニン(bouganin)、ゲロニン、又はα-サルシンなどの毒素);放射性核種(例えば、スカンジウム-47、銅-64、銅-67、ガリウム-67、イットリウム90、イットリウム-91、パラジウム-103、ロジウム-105、インジウム-111、スズ-117m、ヨウ素-125、ヨウ素-131、サマリウム-153、ジスプロシウム-166、ホルミウム-166、イッテルビウム-175、レニウム-186、レニウム-188、ルテチウム-177、イリジウム-192、オスミウム-194、金-198、又はビスマス-213)、又はサイトカイン(例えば、IL-2若しくはTNF)などの別の作用物質に結合させる。本発明による拮抗薬又は抗体はまた、例えば、化学療法薬、治療用ポリペプチド、ナノ粒子、リポソーム、又は治療用核酸などの治療薬、あるいは、例えば、酵素、放射性核種、又は蛍光発色団などの造影剤に結合させることがある。1つの態様において、本発明による拮抗薬又は抗体は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)鎖などの抗体の血清半減期を延長する分子に結合させるか、又は連結される。
【0153】
結合は、通常、共有結合を通して達成されるだろう。通常、非ペプチド作用物質は、そのアミノ酸側鎖、炭水化物鎖、又は化学修飾によってJAM-B又はJAM-C拮抗薬又は抗体上に導入された官能基を通した、JAM-B又はJAM-C拮抗薬又は抗体への結合を可能にするリンカーの付加によって修飾される。例えば、薬物は、リジン残基のε-アミノ基を通して、遊離のα-アミノ基を通して、システイン残基へのジスルフィド交換によって、又はSchiff塩基連結を通じた様々な求核試薬を含む薬物の付加を可能にする過ヨウ素酸を用いた炭水化物鎖内の1,2-ジオールの酸化によって、取り付けられることがある。タンパク質変性剤には、アミン反応試薬(例えば、反応性エステル、イソチオシアナート、アルデヒド、及びハロゲン化スルホニル)、チオール反応試薬(例えば、ハロアセチル誘導体とマレイミド)、並びにカルボン酸及びアルデヒド反応試薬が含まれる。JAM-B又はJAM-C拮抗薬又は抗体は、二機能性架橋剤の使用により、ペプチド作用物質に共有結合によりつなげられ得る。ヘテロ二機能性試薬は、より一般的に使用され、2つの異なった反応部分(例えば、アミン反応性に加えて、チオール、ヨードアセトアミド、又はマレイミド)の使用を通じて、2つの異なったタンパク質の管理された連結を可能にする。そのような連結剤の使用は、当該技術分野で周知である。また、ペプチド・リンカーも利用できる。代替手段において、JAM-B又はJAM-C拮抗薬又は抗体は、融合ポリペプチドの調製によりペプチド部分に連結できる。
【0154】
さらなる二機能性タンパク質カップリング試薬の例には、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(例えば、ジメチルアジプイミダートHCLなど)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジル・スベラート)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアナート(例えば、トリエン2,6-ジイソシアナートなど)、及びビス-活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)が含まれる。
【0155】
あるいは、拮抗薬又は抗体、及び作用物質を含んで成る融合タンパク質は、例えば、組み換え技術又はペプチド合成によって作られることがある。拮抗薬又は抗体の他の変更が、本明細書中に想定される。例えば、拮抗薬又は抗体は、様々な非タンパク質高分子、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体の中の1つに連結されることがある。
【0156】
本発明はまた、JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する拮抗薬又は抗体が、血液脳関門を通じた上記拮抗薬又は抗体の受容体媒介輸送を達成するために(例えば、融合タンパク質の状態で)ペプチド又はタンパク質に連結されることも想定する。そのようなペプチド及びタンパク質の例は、インスリン、トランスフェリン、インスリン様増殖因子、及びレプチンである。
【0157】
JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する拮抗薬又は抗体はまた、当該技術分野で知られているように、免疫リポソームを得るためにリポソームと結合させることがある(Kontermann, 2006)。そのような免疫リポソームは、先に記載したように、細胞毒性作用物質(例えば、毒素、放射性核種、又はサイトカイン)を含んで成ることがある。
【0158】
本発明に従って使用される拮抗薬又は抗体の医薬製剤は、所望の純度を有する拮抗薬又は抗体を、任意の医薬として許容される担体、賦形剤、又は安定化剤と混合することによって、凍結乾燥製剤又は水性溶液の形態で保存用に調製される。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、利用される投薬量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、そして、例えば、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸とメチオニンを含めた抗酸化剤;保存料(例えば、オクタデシルジメチルベンジル・アンモニウム・クロライド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;例えば、メチル又はプロピル・パラベンなどのアルキル・パラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基以下の)ペプチド;例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;例えば、ポリビニールピロリドンなどの親水性重合体;例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含めた単糖、二糖、及び他の炭水化物;例えば、EDTAなどのキレート剤;例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;例えば、ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属複合体(例えば、Zn‐タンパク質複合体);及び/又は、例えば、TWEEN、PLURONICS、又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含んでいる。
【0159】
本発明の方法と使用は、第2の治療薬の投与;すなわち、JAM-B及びJAM-Cに特異的に結合する化合物、及び、例えば、抗CD20抗体[例えば、リツキシマブ、イブリツモマブ、オファツムマブ、オクレリツマブ、hA20(IMMU-106)];EGF-R経路の活性又は活性化を阻害する化合物(例えば、セツキシマブパナチムマブ(panatimumab)、ザルツムマブ(zalutumumab)、ニモツズマブ(nimotuzumab)、マツズマブ(matuzumab)、トラスツズマブ、ペルツズマブ(pertuzumab)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、EKB-569、HKI-272、CI-1033、バンデタニブ(vandetanib)、又はB1BW2992);
【0160】
チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ソラフェニブ(sorafenib)、スチニブ(sutinib)、イマチニブ、ダサチニブ(dasatinib)、バラチニブ(valatinib)、ソニチニブ(sonitinib)、オフィマチニブ(ofimatinib)、AEE788);血管新生阻害剤、例えば、サリドマイド、レナリドマイド(lenalidomide)、VEGF、又はVEGF-R(例えば、VEGF-R1、VEGF-R2)拮抗薬(例えば、ベバシズマブ、VEGF-trap、ペガプタニブ(pegaptanib)、バンデタニブ(vandetanib)、バタラニブ(vatalanib)、セジラニブ(cediranib)、ラニビズマブ(ranibizumab)、アフリベルセプト(aflibercept)、エンザスタウリン(enzastaurin)、セジラニブ(cediranib)、SU-4984、SU-5402、PD-173074)、FGF(例えば、FGF1、FGF2、FGF-3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF84、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23)、又は、FGF-R(例えば、FGF-R1、FGF-R2、FGF-R3、FGF-R4)拮抗薬など;
【0161】
IL-8拮抗薬(例えば、MDX018/HuMax-Inflamなどの抗IL-8抗体);プロカルバジン;メクロールエサミン;シクロホスファミド;カンプトテシン;カルムスチン;イホスファミド;メルファラン;クロラムブシル;ブスルファン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;ドキソルビシン;ブレオマイシン;プリコマイシン(plicomycin);マイトマイシン;タモキシフェン;ラロキシフェン;エストロゲン受容体結合剤;パクリタキセル;ゲムシタビン;ナベルビン(navelbine);ファルネシル・トランスフェラーゼ阻害剤(例えば、ロナファルニブ(lonafarnib)、チピファルニブ(tipifarnib));
【0162】
mTOR(ラパマイシンの哺乳類標的)の阻害剤(例えば、シロリムス(sirolimus);テミロリムス(temirolimus);エベロリムス(everolimus)、デホロリムス(deforolimus));インテグリン阻害剤(例えば、そのすべてがαvβ3インテグリンを遮断するシレンギチド(cilengitide)、モノクローナル抗体CNTO95、及びエタラシズマブ(etaracizumab)、又はα5β1インテグリンを遮断するモノクローナル抗体ボロシキシマブ(volociximab));ポリオウイルス受容体の阻害剤(PVR/CD155/Necl-5);
【0163】
細胞骨格の阻害剤(例えば、タキソール、エロイテロビン、コルシミド(colcimid)、ノコダゾール、ジスコデルモリド(discodermolide)、エピチロン(epithilone)、イキサベピロン(ixabepilone)、エポチロンB、セマドチン(cemadotin)、ドラスチン(dolastin)、リゾキシン(rhizoxin)、コンブレタスタチン(combretastatin)、マイタンスム(maytansme)、モノメチルアウリスタチンE(monomethylauristatin E)、他のアウリスタチン誘導体、エキストラムスチン(extramustine)、シトカイアシン(cytochaiasin)、ビンクリスチン又はコルヒチン(colchicin);
【0164】
タンパク質ジスルフィド・イソメラーゼの阻害剤;MMP阻害剤;c-SRC阻害剤(例えば、AP22408、AZD0530、AZM475271、BMS-354825、CGP77675、17-AAG、PP2、SKI-606、SU6656、アニリノキナゾリン、PD173952、PD173955、テルフェニルキノン、又はUCS15A);トランスプラチニウム;5-フルオロウラシル;カペシタビン;テガフール-ウラシル;ボルテゾミブ(bortezomib);ゲムシタビン;メトトレキサート;
【0165】
テモゾロミド(temozolomide);ニトロソウレア;シスプラチン;カルボプラチン;サトラプラチン(satraplatin);ビンクリスチン;ビンブラスチン;ビンデシン;ベンダムスチン(bendamustine);エクテイナシジン-743;ネトロプシン;ポドフィロトキシン;エトポシド;テニポシド;レキシトロプシン(lexitropsin);エンジイン;ズオカルマイシン(duocarmycine);イリノテカン;オキシプラチン(oxiplatin);エドテカリン(edotecarin)、又トポイソメラーゼI又はIIの阻害剤(例えば、トポテカン)を用いた併用療法をさらに想定する。
【0166】
本発明の他の態様において、先に記載したように、神経膠腫の治療に有用な材料を含む製品を提供する。1つの側面において、製品は、(a)JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する拮抗薬(例えば、抗体)、任意に医薬として許容される担体又は希釈剤を含んで成る容器、並びに(b)ヒト対象における神経膠腫を処置するための教示を含む添付文書、を含む。前記添付文書は、容器上にあるか、又はそれに付随する。好適な容器には、ボトル、バイアル、シリンジなどが含まれる。前記容器は、例えば、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されることがある。前記容器は、処置神経膠腫を治療するために有効な組成物を保持するか、若しくは入れてあり、且つ、無菌の投与口を持っていることがある(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能な栓を持った静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであることがある)。組成物中の少なくとも1種類の活性物質が、JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する拮抗薬又は抗体である。ラベル又は添付文書が、拮抗薬若しくは抗体、及び提供されているいずれかの他の医薬品の投薬量と間隔に関する明確な手引きを伴う、例えば、星細胞腫を含めた神経膠腫を患っているヒトの治療にふさわしいヒト対象を治療するために組成物が使用されることを示す。前記製品は、例えば、注射のための静菌性水、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、及び/又はデキストロース溶液などの医薬として許容される希釈剤バッファーをさらに含んで成る追加の容器を含んで成ることがある。前記製品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含めた、商業上、及び使用者の見地から望ましいその他の材料をさらに含むことがある。
【0167】
前記製品は、本明細書中では、任意に、第2の医薬品を含んで成る容器をさらに含んで成り、ここで、JAM-B又はJAM-Cに特異的に結合する拮抗薬又は抗体が第1の医薬品であり、そして、その品物が、有効量の第2の医薬品を用いて対象を治療するための添付文書による教示をさらに含んで成る。第2の医薬品は、例えば、抗CD20抗体[例えば、リツキシマブ、イブリツモマブ、オファツムマブ、オクレリツマブ、hA20(IMMU-106)]などの別のモノクローナル抗体;
【0168】
EGF-R経路の活性又は活性化を阻害する化合物(例えば、セツキシマブパナチムマブ(panatimumab)、ザルツムマブ(zalutumumab)、ニモツズマブ(nimotuzumab)、マツズマブ(matuzumab)、トラスツズマブ、ペルツズマブ(pertuzumab)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、EKB-569、HKI-272、CI-1033、バンデタニブ(vandetanib)、又はB1BW2992);チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ソラフェニブ(sorafenib)、スチニブ(sutinib)、イマチニブ、ダサチニブ(dasatinib)、バラチニブ(valatinib)、ソニチニブ(sonitinib)、オフィマチニブ(ofimatinib)、AEE788);
【0169】
血管新生阻害剤、例えば、サリドマイド、レナリドマイド(lenalidomide)、VEGF、又はVEGF-R(例えば、VEGF-R1、VEGF-R2)拮抗薬(例えば、ベバシズマブ、VEGF-trap、ペガプタニブ(pegaptanib)、バンデタニブ(vandetanib)、バタラニブ(vatalanib)、セジラニブ(cediranib)、ラニビズマブ(ranibizumab)、アフリベルセプト(aflibercept)、エンザスタウリン(enzastaurin)、セジラニブ(cediranib)、SU-4984、SU-5402、PD-173074)、FGF(例えば、FGF1、FGF2、FGF-3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF84、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23)、又は、FGF-R(例えば、FGF-R1、FGF-R2、FGF-R3、FGF-R4)拮抗薬など;
【0170】
IL-8拮抗薬(例えば、MDX018/HuMax-Inflamなどの抗IL-8抗体);プロカルバジン;メクロールエサミン;シクロホスファミド;カンプトテシン;カルムスチン;イホスファミド;メルファラン;クロラムブシル;ブスルファン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;ドキソルビシン;ブレオマイシン;プリコマイシン(plicomycin);マイトマイシン;タモキシフェン;ラロキシフェン;エストロゲン受容体結合剤;パクリタキセル;ゲムシタビン;ナベルビン(navelbine);ファルネシル・トランスフェラーゼ阻害剤(例えば、ロナファルニブ(lonafarnib)、チピファルニブ(tipifarnib));
【0171】
mTOR(ラパマイシンの哺乳類標的)の阻害剤(例えば、シロリムス(sirolimus);テミロリムス(temirolimus);エベロリムス(everolimus)、デホロリムス(deforolimus));インテグリン阻害剤(例えば、そのすべてがαvβ3インテグリンを遮断するシレンギチド(cilengitide)、モノクローナル抗体CNTO95、及びエタラシズマブ(etaracizumab)、又はα5β1インテグリンを遮断するモノクローナル抗体ボロシキシマブ(volociximab));
【0172】
ポリオウイルス受容体の阻害剤(PVR/CD155/Necl-5);細胞骨格の阻害剤(例えば、タキソール、エロイテロビン、コルシミド(colcimid)、ノコダゾール、ジスコデルモリド(discodermolide)、エピチロン(epithilone)、イキサベピロン(ixabepilone)、エポチロンB、セマドチン(cemadotin)、ドラスチン(dolastin)、リゾキシン(rhizoxin)、コンブレタスタチン(combretastatin)、マイタンスム(maytansme)、モノメチルアウリスタチンE(monomethylauristatin E)、他のアウリスタチン誘導体、エキストラムスチン(extramustine)、シトカイアシン(cytochaiasin)、ビンクリスチン又はコルヒチン(colchicin);
【0173】
タンパク質ジスルフィド・イソメラーゼの阻害剤;MMP阻害剤;c-SRC阻害剤(例えば、AP22408、AZD0530、AZM475271、BMS-354825、CGP77675、17-AAG、PP2、SKI-606、SU6656、アニリノキナゾリン、PD173952、PD173955、テルフェニルキノン、又はUCS15A);トランスプラチニウム;5-フルオロウラシル;カペシタビン;テガフール-ウラシル;ボルテゾミブ(bortezomib);ゲムシタビン;メトトレキサート;
【0174】
テモゾロミド(temozolomide);ニトロソウレア;シスプラチン;カルボプラチン;サトラプラチン(satraplatin);ビンクリスチン;ビンブラスチン;ビンデシン;ベンダムスチン(bendamustine);エクテイナシジン-743;ネトロプシン;ポドフィロトキシン;エトポシド;テニポシド;レキシトロプシン(lexitropsin);エンジイン;ズオカルマイシン(duocarmycine);イリノテカン;オキシプラチン(oxiplatin);エドテカリン(edotecarin)、又トポイソメラーゼI又はIIの阻害剤(例えば、トポテカン)であることがある。
【0175】
個人に対する、JAM-C又はJAM-Bに特異的に結合する化合物、例えば、JAM-C若しくはJAM-Bに特異的に結合する抗体、又は本発明による医薬組成物などの想定された全身的又は局所的投与に従った方法及び使用。本発明の抗体の1つの非常に有利な側面は、組織内に拡散するそれらの能力である。例えば、抗体は、血液脳関門を横断し、その結果、様々な全身経路を介した投与方法を可能にすることがある。
【0176】
例えば、全身投与は、消化管(経腸投与)を通じた、又は他の経路(非経口投与)を通じた投与によって達成される。例えば、非経口適用経路は、静脈内、動脈内、皮下、経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、経鼻、頭蓋内、くも膜下腔内、心臓内、骨内、又は経粘膜経路である。経腸投与経路は、例えば、経口、直腸、舌下、又は口腔経路である。
【0177】
局部投与は、例えば、局所、硬膜外、経皮、吸入、経鼻、関節内、経腟、耳介、又は硝子体内経路を通して達成される。局部投与はまた、脳内又は腫瘍内注入によって達成される。
【0178】
本発明の医薬組成物はまた、予定された速度でのポリペプチドの長期投与のために、好ましくは、正確な投薬量の単回投与に好適な単位投与形態の、蓄積注射、浸潤ポンプ、等を含めた、徐放又は制御放出剤形によっても投与される。
【0179】
非経口投与は、ボーラス注射によるか、又は長い時間をかけた潅流によって可能である。非経口投与のための調製剤には、当該技術分野で知られている助剤又は賦形剤を含むかもしれず、日常的な方法に従って調製される、無菌の水性、又は非水性溶液、懸濁液、又は乳濁液が含まれる。加えて、適切な油性注射懸濁液としての活性化合物の懸濁液が、投与されることがある。好適な親油性溶媒又はビヒクルには、脂肪油、例えば、ゴマ油、又は合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル若しくはトリグリセリドが含まれる。懸濁液の粘性を高める物質を含むことがある水性注射懸濁液には、例えば、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランが含まれる。任意に、懸濁液はまた、安定化剤を含むことがある。医薬組成物には、注射による投与に好適な溶液が含まれ、そして、賦形剤と一緒に、約0.01〜99.99パーセント、好ましくは約20〜75パーセントの活性化合物が含まれる。医薬組成物の最適な用量は、投与経路、患者の病態及び特徴(性別、年齢、体重、健康、体格)、症状の程度、併用治療、治療の頻度、並びに所望の効果に従って適切に選択されることがある。確立された用量域の調節と操作は、十分に当業者の能力の範囲内にある。あらゆる他の治療的に有効な投与経路、例えば、上皮又は内皮組織を通した吸収が、使用され得る。加えて、本発明によるタンパク質は、例えば、医薬として許容される界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤、及びビヒクルなどの生理活性物質の他の成分と共に投与され得る。
【0180】
非経口(例えば、静脈、皮下、筋肉内)投与のために、有効成分は、溶液、懸濁液、乳濁液として処方されるか、又は医薬として許容される非経口ビヒクル(例えば、水、生理的食塩水、デキストロース溶液)、及び等張(例えば、マンニトール)又は化学的安定性(例えば、保存料とバッファー)を維持する添加物と関連した凍結乾燥粉末として処方される。製剤は、一般的に使用される技術によって滅菌される。
【0181】
有効成分の治療的有効量は、これだけに制限されることなく、投与経路、患者の臨床症状、患者における有効成分の薬物動態を含む多可変関数になるだろう。
【0182】
「治療的有効量」は、例えば、神経膠腫、例えば、星細胞腫などに罹患している患者などの前述のポリペプチドを用いた治療を必要としている患者に投与されるときの、本発明のいずれかの態様によるポリペプチドの量であって、治療的有効量の前述のポリペプチドを与えられなかった患者と比較して、患者の障害の改善をもたらす前述のポリペプチドのである。障害の改善は、当該技術分野で知られている方法である、血液、尿、滑液若しくは脳脊髄液、又は他の体液から得られる検査室パラメーターの測定、患者の機能状態、疼痛、又は障害の測定を含めた方法によって計測される;前記方法にはまた、磁気共鳴画像法(MRI)又はX線検査などの画像化が含まれる。
【0183】
個人への、単回又は複数回用量として投与される投薬量は、本発明のいずれかの態様によるポリペプチドの薬物動態学的特性、投与経路、患者の病態及び特徴(性別、年齢、体重、健康、体格)、症状の程度、併用治療、治療の頻度、並びに所望の効果を含めた、様々な要素によって変化するだろう。確立した用量域の調節と操作、並びに試験管内及び生体内における個人の前述のポリペプチドの効果の測定方法は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0184】
本発明は、0.01〜100mg/kg若しくは0.01〜10mg/kg体重、0.1〜5mg/kg体重、1〜10mg/kg体重、1〜3mg/kg体重、2mg/kg体重、又は5mg/kg体重の範囲内の量の本発明のいずれかの態様による化合物、拮抗薬、又は抗体の使用を想定する。
【0185】
本発明は、同様の用量にて、又は回ごとに増加する若しくは減少する用量にて、患者への、毎日、1日おき、1週間に3回、1週間に1回、隔週、1カ月に1回、6週間毎、隔月、1年に3回、1年に2回、1年に1回の本発明のいずれかの態様による化合物、拮抗薬、又は抗体の投与をさらに想定する。
【0186】
2回目の又はその後の投与は、個人に投与された初回の若しくは前回の用量に比べて、同じであるか、少ないか、又は多い投薬量にて実施され得る。好ましい態様において、本発明のいずれかの態様による化合物、拮抗薬、又は抗体は、初回用量、そして、1回以上のそれに続くより高い用量にて投与される。
【0187】
本発明の方法、使用、及び/又は組成物との関連において議論した態様は、本明細書中に記載したあらゆる他の方法又は組成物に関しても利用されることがある。これにより、1つの方法又は組成物に関係するある態様はまた、同様に、本発明の他の方法及び組成物にも適用されることがある。
【0188】
本明細書中に使用される場合、「a」又は「an」は、1以上を意味することがある。請求項の中に使用される場合、単語「含んで成る」と併用されると、単語「a」又は「an」は、1以上を意味することがある。
【0189】
請求項における「or」というの用語使用は、代替手段だけを指すことが明らかに示されない限り、又は代替手段が互いに排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、開示は、代替手段のみを指す定義、及び「及び/又は」を支持する。本明細書中に使用される場合、「他の」は、少なくとも2番目以降のものを意味することがある。
【0190】
本発明の他の対象、特徴、及び利点は、以降の詳述から明らかになるだろう。しかしながら、本発明の好ましい態様を示している一方で、詳述と具体例が例示としてのみ与えられることは、本発明の趣旨と範囲の中の様々な変化と変更が当業者にとってこの詳述から明らかになるので、理解されるべきである。
【実施例】
【0191】
実施例1:ヒト神経膠腫におけるJAM-C及びJAM-Bの発現
結果
JAM-C
RT-PCR分析によって、我々は、まず、異なる悪性グレードの一連のヒト星細胞腫/神経膠腫細胞株におけるJAM-C mRNA発現について観察した(図1A)。分析したすべての神経膠腫細胞株が、JAM-C mRNAを発現した。次に、腫瘍細胞によるJAM-Cタンパク質の発現を、選択された神経膠腫細胞株のフローサイトメトリー分析(FACS)と免疫沈降反応によって確認した(図1BとC)。
【0192】
そして、JAM-C発現を、異なった悪性度(N=21)の一連のヒト星細胞腫/神経膠腫において免疫組織化学によって評価した(図2)。
【0193】
予想されるとおり、JAM-C発現は、内皮細胞間接合点の地点における先に記載のJAM-C局所に対応したパターンの、内皮細胞接触の地点において高レベルで、すべての腫瘍血管(図2BとD)において検出された。加えて、JAM-Cはまた、神経膠腫腫瘍細胞によっても発現されるのがわかった。星細胞腫におけるJAM-C発現は、単一の分離細胞において高レベルのJAM-Cを発現する低及び高グレードの星細胞腫の場合(図2B)、及び発現が腫瘍細胞の大部分において非常に高い場合(図2A)があり、不均一であった。
【0194】
最も強いレベルのJAM-C発現は、細胞‐細胞接触の部位で観察され(図3A)、そして、低レベルは、細胞膜の上により一様に分布した(図2D)。興味深いことに、JAM-Cの強い発現が、腫瘍塊と正常脳組織との境界で観察されたある事例において(図2C)、その領域は腫瘍の侵襲的な最前線に相当していた。さらに、JAM-C発現の高い不均一性はまた、JAM-C発現が完全にないと思われた腫瘍細胞と混ざり合った高度にJAM-Cを発現する腫瘍細胞により、同じ腫瘍サンプルの異なった領域でも観察された(図3B)。
【0195】
神経膠腫腫瘍細胞によるJAM-Cタンパク質の予期しなかった発現は、正常なヒト脳におけるJAM-C発現のパターンを分析するように我々に促した。我々は、非腫瘍星細胞におけるJAM-Cの発現を調査するために非腫瘍ヒト脳サンプルの利用可能性の利益を得た。てんかんの外科手術から得られた非腫瘍脳組織において、我々は血管における予想されたJAM-C染色を観察した(図4A)。内皮細胞におけるJAM-C発現のパターンは、先に記載の内皮細胞間の細胞間接合(cell junctions)におけるその局在が非常に示唆的であった(図4B)。加えて、JAM-Cはまた、神経細胞体との細胞間接合点の乏突起膠細胞においても検出された(図4B)。非腫瘍星細胞は、JAM-Cを発現するように見えなかった。しかしながら、これは正常ヒト脳の大規模な分析でないので、星細胞によるいくつかのJAM-C発現レベルが正常ヒト脳の特定の構造に存在した可能性を排除することはできない。
【0196】
全体的に見て、これらの知見は、星細胞腫細胞が、もしかすると、それらの悪性の挙動のための特定の利点の獲得の観点からJAM-Cの発現を異常に上方制御することを示唆した。
【0197】
【表5】

【0198】
JAM-B
JAM-B mRNAの発現を、まず、別々の悪性グレードの一連のヒト星細胞腫/神経膠腫細胞株におけるRT-PCR分析によって調査した(図5A)。JAM-B mRNAの発現は、JAM-Cより不均一であった。少数の神経膠芽腫細胞株が、JAM-Bを発現せず、そして、他のものは弱い発現を示した(図5A)。そして、腫瘍細胞によるJAM-Bタンパク質の発現を、選択された神経膠腫細胞株のFACS分析と免疫沈降反応によって確認した(図5BとC)。Ge258神経膠芽腫細胞株では、腫瘍細胞の表面上のJAM-Bタンパク質のレベルが、JAM-Cのものより低かった(図5B)。ウェスタンブロット分析によって、我々は、2つのわずかに異なった分子量バンドを検出した(図1C)。これらの2つの明らかに異なるタンパク質の形態が、JAM-Bのグリコシル化反応の2つの異なった状態を表すことがある。これは、JAMファミリーの他のメンバー、具体的にはJAM-Aに関して、既に記載された。さらに、ウエスタンブロット分析は、正常ヒト脳サンプル(てんかん生検検体)の中のJAM-Bタンパク質の存在を明らかにした。
【0199】
そして、JAM-Bタンパク質の発現を、異なった悪性グレード(N=19)の一連のヒト星細胞腫/神経膠腫による免疫組織化学によって分析した(図6)及び(表5)。予想されるように、我々は、血管上のJAM-B発現を見つけた(図6E)。内皮細胞によるJAM-B発現のパターンは、JAM-Cのものと異なるように見えた(図4AとB)。JAM-Bは、内皮細胞膜上に一様に分布し、且つ、細胞-細胞間接合の部位にて不存在であった(図6E)。これは、JAM-Bが細胞膜上で拡散的に分布したMDCK細胞において異所的に発現した先の報告と一致している。血管内皮細胞に加えて、JAM-Bの予期しなかった発現はまた、異なった悪性度の腫瘍において、神経膠腫腫瘍細胞の表面で観察された(図6)。
【0200】
腫瘍細胞におけるJAM-Bの発現のパターンは、細胞膜上のその一様な分布、及び細胞‐細胞接触の部位における発現増加の不存在に関してJAM-Cのものと異なっていた(図6)。しかしながら、JAM-Cに関して観察したことと同様に、腫瘍細胞の表面においてJAM-Bが完全に不存在である領域(図6BとD)、及びそれが顕著に発現された領域(図6BとD)により、腫瘍間の不均一性は検出された(図6B、C、及びD)。これらの知見は、JAM-Cと同様であること、神経膠腫細胞もまた、JAM-Bを異常に発現するかもしれないことを示唆した。
【0201】
この仮説を確認するために、我々は、非腫瘍星細胞におけるJAM-Bの発現を調査するために、非腫瘍ヒト脳生検検体の利用可能性の利益を得た。非腫瘍ヒト脳サンプル(Ge258神経膠芽腫に隣接した正常組織)において、我々は、血管内皮細胞上のJAM-Bの期待された発現(図7AとB)、及び乏突起膠細胞の細胞体上の強いJAM-B発現を観察した(図7A)。それは乏突起膠細胞‐ニューロン接触の地点に制限されなかったが、それが乏突起膠細胞の膜の全体に高レベルでかなり存在していたので、乏突起膠細胞におけるJAM-B発現のパターンは、JAM-Cのものと大きく異なっていた(図4B)。同様に、JAM-Bは、JAM-Cに関して観察されるように、血管内皮細胞の膜上に均一に分布し、内皮の細胞‐細胞接触に制限されなかった(図7B)。非腫瘍星細胞は、JAM-Bを発現するように見えなかった。しかしながら、JAM-Cにおいて言及されるように、これは正常ヒト脳の大規模な分析ではないので、我々が、JAM-Bが特定の脳構造の星細胞においていくつかのレベルで発現される可能性を排除することはできない。
【0202】
全体的に見て、これらの知見は、星細胞腫瘍細胞が、JAM-Bタンパク質の発現を異常に上方制御し、そして、JAM-Cに関して観察されたように、それらの膜上の高レベルのタンパク質が、それらの悪性表現型のために特定の利得を表すかもしれないことを示唆している。
【0203】
実施例2:GL261マウス神経膠腫におけるJAM-C及びJAM-Bの発現
結果
JAM-C
神経膠腫発生と進行におけるJAM-Cと、あるいはJAM-Bの役割を調査するために、我々は、ヒト神経膠腫のGL261マウス・モデルを選んだ。GL261細胞は、元々、同種同系C57BL/6マウスにおける3-メチルクロルアントラン(3-methylcholantrane)の脳内注射によって誘導された腫瘍に由来する(Ausman et al., 1970)。我々は非常に高い増殖速度、正常脳組織における侵襲性、及び星細胞マーカーGFAPの不均一な発現だけでなく(図8A)、ヒト神経膠芽腫の独特の組織病理学的特徴:際立った血管新生と壊死(図8B、C、D、及びE)も観察できなかったので、GL261細胞はヒト神経膠芽腫の主要な特徴について要約する。
【0204】
我々は、まず、FACS分析と免疫沈降反応によってGL261マウス神経膠腫細胞におけるJAM-C発現を分析した。JAM-Cタンパク質は、GL261マウス神経膠腫細胞の表面上で高度に発現されていた(図9AとB)。さらに、GL261細胞を同種同系C57BL/6マウスの脳内に定位的に移植したとき、それらは、細胞膜における高レベルのJAM-Cタンパク質の発現、及び正常な周囲のマウス脳組織と比べて、異常な上方制御を示した(図9CとD)。正常なマウス脳において、JAM-Cは、血管内皮細胞(図10AとC)、及び脳室系に沿ったすべて上衣細胞(図10A、B、及びD)において検出された。星細胞は、JAM-C発現を示さなかった。
【0205】
これらのデータは、異なった悪性グレードのいくつかのヒト星細胞腫で観察されるように、GL261マウス神経膠腫細胞が異常な高レベルのJAM-Cタンパク質を発現することを示した。そのため、ヒト神経膠芽腫のそれを高度に連想させる生物学的特徴、及び非常に高いJAM-C発現レベルのおかげで、GL261神経膠腫は、この腫瘍の発現及び進行についてのこのタンパク質の役割の調査のための理想的なモデルを提供する。
【0206】
JAM-B
GL261マウス神経膠腫細胞におけるJAM-B発現を、FACS分析と免疫沈降反応によって検出した(図11AとB)。JAM-Bタンパク質は、GL261マウス神経膠腫細胞の表面上で発現されていたが、JAM-Cに比べて低レベルであった。
【0207】
そして、この発現パターンは、GL261マウス神経膠腫細胞を定位的に移植したC57BL/6マウスに由来する脳の免疫組織化学によって確認された。JAM-Bタンパク質の発現は、大部分の腫瘍細胞の膜において低レベルにて、いくつかの群のGL261細胞において強いレベルにて見出された(図11CとE)。
【0208】
正常なマウス脳組織において、JAM-Bは、血管上(図12A)及び脳室の内側を覆う上衣細胞(図12BとC)において高レベルにて検出され、そして、恐らく、膠細胞の細胞区画の全体において(図12D)均一な低レベルで検出された。これは、低レベルのJAM-B免疫反応性が、JAM-Bが完全に不存在だと思われた正常なマウス脳の構造を囲むように見えた観察によって示唆された(図12B、C、及びD)。そのような構造の正体は解明されないままであるが、それらは脳梁(図12C)及び有髄線維束(図12D)を表すかもしれない。
【0209】
全体的に見て、これらの知見は、マウスGL261神経膠腫において、JAM-Bタンパク質が、腫瘍細胞集団のサブセットにおいて特に高レベルで、大多数の腫瘍細胞の膜上において発現されたことを示唆した。
【0210】
実施例3:抗JAM-C抗体は、異所性神経膠腫の増殖と血管形成に対してわずかな阻害活性しかもたない
生体内におけるGL261神経膠腫発現に関してJAM-C発現の関連性を調査するために、我々は、まず、C57BL/6同系マウスにGL261細胞を皮下注射し、そして、抗JAM-CブロッキングD33抗体、アイソタイプ対照9B5抗体、又はPBSの腹腔内注射を用いてそれらを治療した。
【0211】
結果
D33抗JAM-C抗体を用いたマウスの処置は、アイソタイプ対照の9B5抗体又はPBSと比較して、長期にわたって皮下腫瘍増殖を適度に低減した(図13A)。これは、アイソタイプ対照9B5抗体又はPBS処置と比べて、抗JAM-C D33抗体処置を受けたマウスにおける屠殺時点の低減した腫瘍重量がもたらされる(図13B)。別のモノクローナル抗JAM-C抗体(H33)は、最近、生体内においてマウスLewis肺癌に関連している血管新生を低減することが明らかにされたので(Lamagna et al., 2005a)、我々は、類似効果が皮下GL261神経膠腫の増殖において観察された低減に寄与するかどうか分析しようと考えた。そのため、腫瘍血管新生の程度を分析するために、腫瘍血管を、抗PECAM-1モノクローナル抗体(GC51)によって染色し、そして、凍結切片の腫瘍領域全体に対する染色された表面のパーセンテージを定量化した。抗JAM-CブロッキングD33抗体を用いた処置は、アイソタイプ対照9B5抗体又はPBS処置と比べて、腫瘍関連血管新生を部分的に低減した(図13C)。血管新生阻害の程度は、H33抗JAM-Cモノクローナル抗体について以前に記載されたものと非常に類似していて、D33とH33抗JAM-C抗体が同様の機構を通じて作用するかもしれないことを示唆している。しかしながら、生体内における腫瘍関連血管新生に対する同様の阻害効果にもかかわらず、生体内における皮下GL261神経膠腫の増殖を、有意に阻害しなかった。
【0212】
そのため、これらの結果は、GL261神経膠腫の生体内における異所性の増殖が、抗JAM-C D33ブロッキング抗体によって部分的に損なわれ、これが腫瘍関連血管新生の阻害を通じて起こったかもしれず、そして、阻害GL261神経膠腫増殖におけるD33抗JAM-C抗体の不完全な有効性がこの腫瘍タイプの特異性にあるかもしれないことを示唆している。特に、D33抗JAM-C抗体の抗血管形成効果は、非常に攻撃的なGL261細胞の増殖を阻害するのに十分でなかったかもしれない。あるいは、これらの知見は、神経膠腫細胞によって発現されたJAM-Cが、その自然環境内における腫瘍の増殖に重要であるかもしれず、そして、GL261神経膠腫の同所性増殖に対するJAM-Cの標的化が異なった転帰を得る可能性を示唆するかもしれない。
【0213】
実施例4:抗JAM-C抗体は、GL261神経膠腫の同所性増殖と拡散を有意に阻害する
この最後の仮説を試験するために、我々は、脳内のGL261神経膠腫に対する抗JAM-CブロッキングD33抗体処置の効果を調査すると決めた。このために、GL261細胞をC57BL/6マウスの脳内に定位的に移植し、次に、それにブロッキング抗JAM-C D33抗体、アイソタイプ対照の9B5抗体、又はPBSのいずれかの腹腔内注射を与えた。腫瘍細胞移植後20日目の屠殺の時点で、抗JAM-C D33抗体で処置したマウスに由来する脳の肉眼的外観は、アイソタイプ対照9B5抗体又はPBSを用いて処置されたマウスのものと比べて、神経膠腫増殖阻害が著しく示唆に富むものであった(図14)。そのため、脳内の腫瘍の増殖を観察し、そして、定量化するために、、我々は、C57BL/6マウスの脳内にGL261神経膠腫細胞を定位的に移植し、(先に記載したとおり)それらを抗JAM-C D33抗体又はアイソタイプ対照9B5抗体で処置し、そして、腫瘍細胞移植後4、11、及び18日目に磁気共鳴画像法(MRI)で脳を分析した(図15)。GL261細胞移植後4日目では、我々は、分析したマウスすべての脳で腫瘍細胞をほとんど検出できなかった。移植後11日目では、すべての腫瘍で、抗JAM-CブロッキングD33抗体、及びアイソタイプ対照9B5抗体処置マウスの間のサイズの有意な違いはなかった。GL261細胞移植後18日目では、腫瘍サイズは、アイソタイプ対照9B5抗体で処置したマウスと比べて、抗JAM-CブロッキングD33抗体により有意に小さかった(図15)。すべての腫瘍体積の定量化が、抗JAM-CブロッキングD33抗体をで処置したマウスにおける細胞移植後18日目でのGL261脳内腫瘍増殖の非常に有意な阻害を明らかにした(図16)。
【0214】
抗JAM-C D33抗体が同所性GL261神経膠腫の増殖の阻害を媒介した機構を調査するために、我々は、まず、皮下増殖腫瘍に関して観察されるように、血管新生の阻害が抗JAM-C D33抗体の推定される作用機構であるかどうか分析した。我々は、そのため、GL261神経膠腫細胞を定位的に移植し、抗JAM-C D33抗体又はアイソタイプ対照9B5抗体処置のいずれかを受けたマウスに由来する脳の凍結切片上の血管のPECAM-1染色を実施した。そして、PECAM-1で染色された面積のパーセンテージを、各切片の総腫瘍領域に対して定量化した(図17B)。
【0215】
結果
皮下増殖GL261神経膠腫に関して観察されるように、抗JAM-C D33抗体を用いた処置は、アイソタイプ対照9B5抗体処置と比べて、同所的に増殖したGL261神経膠腫の腫瘍関連血管新生を低減したが、これは有意水準に達しなかった。加えて、腫瘍領域の定量化は、アイソタイプ対照9B5処置と比べて、抗JAM-C D33抗体を受けたマウスにおける脳内GL261神経膠腫の増殖の有意な阻害を明らかにした(図17A)。さらに、我々は、抗JAM-C D33抗体又はアイソタイプ対照9B5抗体で処置したマウスにおいて増殖したGL261神経膠腫の間で著しく異なった腫瘍形状を観察した(図17CとD)。抗JAM-C D33抗体で処置したGL261神経膠腫は、長距離の腫瘍播種の徴候のない丸い形を示した(図17D)。対照的に、アイソタイプ対照9B5抗体で処置したGL261神経膠腫は、中心病巣から長距離移動した腫瘍細胞によりさらに播種性の様式で拡散された(図17D)。腫瘍形状のこれらの相違点は、抗JAM-C D33抗体が腫瘍増殖を阻害し、及び関連血管新生を低減するだけでなく、GL261神経膠腫細胞が正常脳組織内に拡散する能力にも影響する可能性を示唆した。
【0216】
全体的に見て、これらの結果は、抗JAM-CブロッキングD33抗体が、正常脳組織内へのGL261神経膠腫細胞の拡散と、腫瘍の同所性増殖を強力に阻害したことを示した。抗JAM-C D33処置により得られた皮下GL261神経膠腫の増殖のわずかな低減と比べて、これらの最後の知見は、次の2つの仮説によって主に説明されるかもしれない。
【0217】
1つ目、皮下(106)と比べて、脳内において少数の移植GL261細胞(2×104)のため、抗JAM-C D33抗体処置は、脳内増殖腫瘍に対してより効果的であったのかもしれない。神経膠腫のGL261マウス・モデルは、ヒト神経膠芽腫で観察されるように非常に攻撃的である。このことは、2×104細胞位の少なさでも、たった20日間だけで脳半球全体に達するまで広がる腫瘍になるので、マウス脳内に移植できる細胞数を制限する。多くの場合、頭蓋外の腫瘍増殖もまた、観察され、この神経膠腫腫瘍モデルの印象的な攻撃性を強調している。その一方、皮下増殖したGL261細胞は、脳内に比べて、高濃度で注射された場合に、計測可能な腫瘍を生じた。これらの観察は、抗JAM-C D33抗体の腫瘍抵抗性効果が腫瘍関連血管新生の阻害によるのであれば、前記抗体が、より少ない数の移植腫瘍細胞から生じた腫瘍に対してより顕著な効果を有したかもしれないことを暗示している。
【0218】
2つ目、脳では、抗JAM-C D33抗体は、皮下増殖腫瘍でのように、腫瘍関連血管新生を低減するだけではなく、腫瘍拡散に対する効果によって証明されるように、他の機構を通じても作用したかもしれず、神経膠腫において発現されたJAM-Cが、その自然環境内へのその展開に関係しているかもしれないことを示唆している。この場合、神経膠腫細胞上のJAM-Cは、脳環境の構成要素、及び神経膠腫の発現の促進に重要なトリガー・シグナルである分子と相互作用、及び/又はクロストークするかもしれない。この関係で、抗JAM-C D33抗体はまた、血管新生の阻害に加えて、神経膠腫の拡大のための重要なシグナルを遮断するかもしれない。
【0219】
実施例5:RNA干渉によるGL261マウス神経膠腫細胞におけるJAM-C発現の阻害
神経膠腫細胞によるJAM-Cの発現が、特にそれらの自然環境における、並びにこれが達成できるそれらの潜在的な機構における悪性表現型の獲得、及び/又は進行のための利点を示すことができるかどうか調査するために、我々は、JAM-Cを示差的に発現する2種類の細胞株を産生するのにGL261細胞を使用した。一方の細胞株では、JAM-C発現はノックダウンされており(GL261-233RC)、もう一方では、それは高度に発現された(GL261-233R)。これらの2種類の細胞株が、遺伝子発現、及び生体外における機能解析、並びに腫瘍の発現と生物学に関する神経膠腫発現JAM-Cの関連性の生体内における研究のために非常に有用なツールである。それらを作り出すために、我々は、まず、GL261細胞におけるJAM-C発現をRNA干渉(RNAi)によって阻害した。このために、我々は、細胞RNAi機構によって低分子干渉RNA(siRNAs)を生じるように続いて加工される低分子ヘアピン型RNA(shRNA)配列の発現を可能にするpSuper.gfp/neoベクターを使用した。siRNAsは、分解のために、それらが相補的である特異的mRNAを標的とする。
【0220】
そのため、マウスJAM-C mRNAのための別々RNAi標的配列を含むいくつかのpSuper.gfp/neoベクター構築物を作り出し、そして、GL261細胞内に安定的にトランスフェクトした(図18A)。そして、得られた細胞株を、FACS分析によってJAM-C発現について分析した。これらの細胞株の1つであるGL261-233では、腫瘍細胞の表面上のJAM-Cタンパク質の発現は、母GL261細胞株と比べて、有意に減少した(図18BとC)。
【0221】
次に、このJAM-CノックダウンGL261-233細胞株から、我々は他の2種類の安定細胞株:JAM-Cレスキュー細胞株(a JAM-C rescued cell line)(GL261-233R)及び対応するレスキュー対照細胞株(GL261-233RC)を誘導した(図19)。
【0222】
233RNAi標的配列に2つのサイレント点突然変異を保有するマウスJAM-C cDNAを含むpcDNA3発現ベクターをGL261-233R細胞株にトランスフェクトすることによってGL261-233細胞を得た(図19A)。このようにして、細胞は、内因性RNAi感応性、且つ、外因性突然変異RNAi耐性JAM-C mRNAを発現した。GL261-233RC細胞株を、見せかけのpcDNA3ベクターをGL261-233細胞にトランスフトすることによって得た。
【0223】
結果
FACS分析で、GL261-233Rは高レベルのJAM-Cタンパク質の再発現を示したが、その一方で、GL261-233RC細胞は母GL261-233細胞のように、JAM-Cノックダウンのままに見えた(図19BとC)。これらの2種類の細胞株の間のJAM-C発現のレベルの有意な差をまた、リアルタイムのPCR法によってRNAレベルでも観察した。この分析は、GL261-233RCとGL261-233R細胞の間のJAM-C mRNA値における222倍の変化を明らかにした(図19D)。前記2種類の細胞株におけるJAM-C発現の免疫蛍光分析は、GL261-233R細胞の膜上における高レベルのJAM-Cタンパク質の存在を確認したのに対して、それはGL261-233RC細胞においてほとんど検出されなかった(図19EとF)。加えて、我々は、細胞‐細胞接触の部位(図19GとJ)、及び細胞表面上の制限された地点(図19H)を含めた細胞膜上の異なった部位にてJAM-Cを観察できた。
【0224】
実施例6:JAM-Cを示差的に発現するGL261細胞の遺伝子発現分析
神経膠腫細胞によって発現されたJAM-Cが、癌の表現型の達成、及びこれがそれを通じて達成され得る機構に貢献するかどうか明らかにするために、我々は、まず、神経膠腫細胞におけるJAM-Cの示差的発現からもたらされる遺伝子発現パターンを分析した。このために、GL261-233RとGL261-233RC細胞株を、まず、Affymetrixマイクロアレイによって比較した。
【0225】
結果
この分析は、JAM-CノックダウンGL261-233RC対照細胞と比較して、JAM-C GL261-233Rレスキュー細胞において上方制御された49個の遺伝子、及び下方制御された15の遺伝子を明らかにした。これらの示差的に発現された遺伝子は、以下に記載の数タイプのタンパク質ファミリーと細胞経路に属した(表6)。
【0226】
GL261-233R細胞で上方制御された転写因子
転写調節因子の中で、2つの癌原遺伝子、FBJ骨肉腫癌原遺伝子(c-Fos)とFos様抗原2(FosL2)が、GL261-233R細胞で上方制御された。
【0227】
GL261-233R細胞で上方制御されたプロテインキナーゼ
GL261-233R細胞で上方制御されたプロテインキナーゼには、p21-活性化キナーゼ3(Pak3)、Rhoファミリー低分子量GTPアーゼのカスケードで重要なエフェクターであるPAKタンパク質ファミリーの脳特異的アイソフォームが含まれる。
【0228】
GL261-233R細胞で上方制御又は下方制御される膜受容体
GL261-233R細胞で上方制御された膜受容体の中で、我々は、ポリオウイルス受容体(PVR)、IgSf分子、及びテトラスパニン6(Tspan6)、いくつかのシグナル伝達過程に参加する膜クラスタを形成するタンパク質のラージ・ファミリーのメンバーを見つ出した。Tspan6のリガンド、プロスタグランジンF2受容体の負の調節因子(Ptgfrn)もまた、GL261-233R細胞で上方制御された。
【0229】
膜輸送体の超低密度リポタンパク質受容体(VLDLR)は、GL261-233R細胞で有意に下方制御された。この受容体は、uPA‐プラスミン・タンパク質分解系の異化を促進し、そのため、細胞表面において活性プロテアーゼの量を減少させる。
【0230】
GL261-233R細胞で上方制御された増殖因子
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、GL261-233R細胞において発現が増強されることが知られている増殖因子である。BDNFは、RTK受容体であるチロシンキナーゼ受容体B(TrKB)を通じて神経系において細胞の生存、増殖、及び細胞骨格の再形成を調製する主要なニューロトロフィンである。
【0231】
Rhoファミリータンパク質
GL261-233R細胞において、我々は、Rapグアニン・ヌクレオチド交換因子2(RapGEF2)の発現増強を検出し、それは、導入部で触れたように、Rho低分子量GTPアーゼの正の調節因子のGEFファミリーのメンバーの中の1つである。
【0232】
細胞骨格関連タンパク質
いくつかの細胞骨格関連遺伝子、特に、アクチンフィラメント組織に直接影響を与える細胞シグナルに応答するSrcファミリーキナーゼの活性化因子であるアクチンフィラメント関連タンパク質(AFAP)が、JAM-C発現GL261-233R細胞において上方制御された。
【0233】
重要なことには、JAM-A及びJAM-B mRNAレベルは、GL261-233RCとGL261-233R細胞の間で異なることはなく(データ未掲載)、RNAiサイレンシング・ベクターの特異性を示している。
【0234】
【表6】

【0235】
これらの遺伝子のmRNA値の増加又は減少の倍率変化はそれほど高くなく、膜タンパク質としてのJAM-Cが直接的に遺伝子転写を調節しそうにないという事実を考慮に入れると驚くことではない。しかしながら、GL261-233RC及びGL261-233R細胞株において示差的に発現される遺伝子のセットは、神経膠腫細胞の膜上のJAM-C発現が、主にプロテインキナーゼの活性化を通じて、神経膠腫の発現と進行に関連しているかもしれない細胞内シグナルのカスケードを引き起こすかもしれないことを強く示唆している。特に、それらのすべての発現がこのシグナル伝達カスケードの活性化によって引き起こされているので、RAPGEF2及びPAK3の上方制御が、Rhoファミリー低分子量GTPアーゼ経路、及びにFosの活性化を示唆し、FosL2及びPVRが、MAPK-ERK経路の活性化を示唆した。加えて、AFAP遺伝子の上方制御は、c-Src非受容体チロシンキナーゼがJAM-C過剰発現神経膠腫細胞において活性化されるかもしれないことを示唆した。そのうえ、c-Src活性化は、その他の先に触れた細胞内シグナル・カスケードに対して上流の事象であるだろう。
【0236】
全体的に見て、高レベルのJAM-Cを発現する神経膠腫細胞において上方制御された遺伝子のセットは、JAM-Cが神経膠腫の悪性の挙動に顕著に寄与するかもしれないことを示唆した。特に、c-Srcの活性化は、細胞の運動性と侵襲を含めたいくつかの細胞過程の刺激につながるだろう。
【0237】
神経膠腫細胞の悪性度に対するJAM-C発現の意義についての我々のマイクロアレイ・データと仮説の妥当性を確認するために、我々は、まず、リアルタイムPCR法によってGL261-233R細胞における異なった遺伝子の上方制御と下方制御を確認した。それぞれ2種類のGL261-233RとGL261-233RC細胞株に関する5つの異なったRNAサンプルを、定量的PCRを実施するのに使用した。図20及び図21に示したように、すべての遺伝子が、マイクロアレイ解析によると示差的に発現され、リアルタイムPCR法によると発現の類似パターンを示した。さらに、これらの遺伝子の中で、AFAP遺伝子のmRNA値は、マイクロアレイ解析(倍率変化:1.97)によるのと比べて、リアルタイムPCR法(倍率変化:5.67)によって検出されるように、GL261-233RCに比べて、GL261-233R細胞株において有意に高かった。これらの結果は、神経膠腫細胞の膜上の高レベルのJAM-C発現が、神経膠腫発現に重要ないくつかの細胞挙動に影響する活性c-Src癌原遺伝子によって媒介される細胞内シグナルのカスケードを引き起こすかもしれないという仮説を裏付けた。
【0238】
実施例7:神経膠腫細胞におけるJAM-Cの過剰発現は、c-SRC 癌原遺伝子を活性化する
v-SRCニワトリ肉腫ウイルスの細胞対応物であるc-Src癌原遺伝子は、Lyn、Fyn、LcK、HcK、Fgr、Blk、及びYesを含めた非受容体チロシンキナーゼのファミリーの典型である。c-Srcキナーゼ活性は、特異的なチロシン残基におけるリン酸化を含んで成るいくつかの機構によって調節されている。具体的には、(ヒト・タンパク質では)チロシン419又は(マウス・タンパク質では)チロシン408が、c-Srcが細胞膜に動員されるとき、自己リン酸化され、そして、それが、完全なc-Srcキナーゼと形質転換活性に不可欠である。
【0239】
細胞膜へのc-Srcの動員は、細胞‐細胞外マトリックス接触、及び細胞‐細胞接触の部位における接着分子による、直接的なタンパク質‐タンパク質結合を通じて、活性なRTKsによって引き起こされる。そのため、我々は、我々のGL261-233R細胞において、細胞膜でのJAM-Cレベルの上昇が、同種親和性、及び/又は異種親和性JAM-C接着相互作用を高め、これにより、c-Srcの動員と活性化を引き起こすことができると仮定した。いくつかの可能性を想定できた。1つ目に、GL261-233R隣接細胞の表面上の豊富なJAM-Cを考えると、JAM-Cは、同種親和性トランス相互作用に寄与できる。2つ目に、JAM-Cは、例えば、その相同体であるJAM-B、又は(GL261-233R細胞における上方制御されたPVRを含めた)同じIgSfの他のメンバーと共に、異種親和性トランス相互作用を確立するかもしれない。3つ目に、これは、内皮細胞において、その相同体であるJAM-Aタンパク質とαvβ3インテグリンに関して既に明らかにされ、且つ、マイクロアレイ解析が、GL261-233R細胞における数種類のインテグリンのmRNA発現を明らかにしたので、JAM-Cは、もしかするとインテグリンとシス会合を確立するかもしれない。最終的に、これらのすべてのタイプのタンパク質‐タンパク質接続が、総c-Srcタンパク質レベル、及び/又はその活性化の状況のいずれかを増強するかもしれない。
【0240】
この仮説を試験するために、我々は、ELISAによってGL261-233RC及びGL261-233R細胞の総c-Srcタンパク質量と、活性化チロシン408におけるリン酸化の程度を分析した。
【0241】
結果
高レベルのJAM-Cを発現するGL261-233R細胞は、GL261-233RC JAM-Cノックダウン細胞と比較して、有意に高いレベルの総c-Srcタンパク質を示した(図22)。さらに、活性なリン酸化c-Srcタンパク質の量もまた、GL261-233RC細胞と比較して、GL261-233R細胞で有意に高かった(図22)。これらの知見は、神経膠腫細胞の表面での高いJAM-C発現が、c-Src癌原遺伝子の高いレベルとキナーゼ活性をもたらすことを示唆した。我々の発現解析で、JAM-Cだけでなく、その相同体タンパク質であるJAM-Bもまた、ヒト及びマウス起源の両方の神経膠腫細胞において非常に、そして、異常に発現されたことを実証したので、我々は、JAM-CとJAM-Bの間のトランス相互作用はまた、増強されたc-Srcレベル、及び/又は活性をもたらすかもしれないという点において、この発現増加が理由の少なくとも一部を満足するかもしれないと考えた。そのため、キメラ可溶性JAM-Bタンパク質に晒した後に、総c-Srcタンパク質、及び408チロシン・リン酸化c-Srcタンパク質の量を、GL261-233RCとGL261-233R細胞において分析した。可溶性JAM-Bは、GL261-233RCとGL261-233R細胞の両方で総c-Srcタンパク質のレベルを増強したが、これらの後者において非常に高い程度まで増強した。そのうえ、可溶性JAM-Bはまた、活性なリン酸化cSrcのレベルを増大させたが、この場合、有意の増大は、GL261-233RC細胞だけで観察された。これは、GL261-233R細胞に存在しているリン酸化c-Srcのレベルは飽和状態にあるかもしれず、そのため、可溶性JAM-Bによるさらなる増大が、バックグラウンド・レベルのJAM-Cを発現するGL261233RC細胞で起こるだけである可能性があることを示唆している。
【0242】
全体的に見て、これらの知見は、神経膠腫細胞の膜上で発現された高レベルのJAM-Cが、高いc-Srcのタンパク質量と活性化をもたらすことを示唆している。理論的に、これは細胞を並べて置くときのJAM-Cの同種親和性トランス相互作用、インテグリンとのJAM-Cのシス-相互作用、又は我々がGL261神経膠腫細胞によって発現されることを実証したJAM-BとJAM-Cのトランス相互作用の結果であるかもしれない。GL261-233RC細胞におけるc-Srcタンパク質レベルと活性化の増大、及びGL261-233R細胞におけるc-Srcタンパク質レベルの増大によって実証されるように、この最後の機構は寄与している可能性がある。
【0243】
実施例8:表面プラズモン共鳴法によるJAM-C結合抗体D33の結合特性の測定
表面プラズモン共鳴法分析評価を、BlAcore2000機器によりCMSセンサーチップ(Biacore AB)を使用することで実施し、そして、動力学的パラメーターを、製造業者のBIAevaluation 4.1ソフトウェアを用いて測定した。チップ表面のフローセル3と4を、まず、0.1MのN-ヒドロキシスクシンイミドと0.4MのN-エチル-N’-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの1:1混合物50μlの投入によって活性化した。
【0244】
可溶性flagタグ付与組み換えヒトJAM-Cタンパク質(QEMEV配列まで)を、BOSC細胞により産生させ、そして、抗flagカラムを通して精製した。(1μg/mlの濃度にて)精製した組み換えヒトflagタグ付与JAM-Cを、CM5センサーチップのフローセル4上に、25℃にて酢酸ナトリウムpH5.0中、20μl/分の流速で固定した。チップ上の残った活性基を、1Mのエタノールアミン-HCl pH8.5でブロッキングした。固定化は、ヒトflagタグ付与JAM-Cに関して155共鳴ユニット(RUs)が得られた。
【0245】
モノクローナル抗体D33を、20μl/分の流速にて、50μlのHBS-EPバッファー[0.01MのHEPES(pH7.4)、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20]中、1〜100μg/ml(6.67〜667nM)の範囲にわたる濃度で投入した。サンプルを150秒間、投入し、100秒間、解離させ、pH1.5にて10mMのグリシンを使用して60秒間、再生し、そして、次の投入前に約1分間、安定させた。分析物は、ブランク・フローセルを同時に通過させ、そして、このベースラインを、実験用フローセルから差し引いた。モノクローナル抗体D33は、ブランク・フローセルと相互作用しないことがわかった。
【0246】
結果を、表7〜9に示す。対照細胞からのそれぞれの応答値の差し引きの後に、結合及び解離速度定数を、大域データ分析(図28)を使用しながら結合及び解離曲線の同時ka/kd計算によって決定した。1:1ラングミュア・モデル(図29)と二価モデル(図30)(BIAevaluation 4.1 BIAcore AB)を使用した計算を実施した。
【0247】
結果
A)1:1ラングミュア・フィット
【0248】
【表7】

【0249】
【表8】

【0250】
B)二価フィット
【0251】
【表9】

【0252】
固相JAM-C、及び分析物としてモノクローナル抗体D33を使用した表面プラズモン共鳴法で測定されるモノクローナル抗体D33の解離定数kdは、約10-2s-1〜5×10-2s-1である。
【0253】
実施例で得られた結果の概要
ここで、我々は、JAM-C及びJAM-Bが神経膠腫腫瘍細胞によって異常に発現されることを実証した。いくつかの腫瘍が、JAM-C、及び/又はJAM-Bの広範な過剰発現を示したが、それらの膜上に高いレベルのJAM-C又はJAM-Bを発現する腫瘍細胞、及びタンパク質を発現しないように見える腫瘍細胞による、腫瘍内の不均一性もまた観察された。非常に高い遺伝的不安定性が単一の腫瘍の中の異なったクローン集団の存在をもたらすことを示すこの不均一性は、神経膠腫の固有の性質を反映するのかもしれない。しかしながら、JAM-C及びJAM-B発現の腫瘍内の不均一性はまた、JAM-C及びJAM-Bが特異的な細胞過程を活性化する単一の腫瘍細胞によって上方制御される可能性があることも示唆するかもしれない。例えば、導入部で議論されたように、神経膠腫細胞は、既に悪性腫瘍の初期段階において単独細胞として移行し、そして、侵襲する。これは、これらの単離細胞が、接着、細胞骨格再構築、及び細胞外マトリックス分解といった細胞過程を活性化しなければならないことを暗示する。そのため、単一の神経膠腫細胞でのJAM-C又はJAM-Bの上方調節は、それらの細胞が腫瘍のより全体的な関係で達成する特異的な機能を反映するかもしれない。腫瘍グレードとの相関関係が全く見つけられず、JAM-C及びJAM-Bの上方制御が腫瘍発現中の早期に起こるかもしれないことを示唆した。
【0254】
その生体内における発現のための神経膠腫によるJAM-C発現の重要性を、GL261マウス神経膠腫モデルを使用して調査した。我々は、ヒト神経膠芽腫の代表的特徴を示すGL261細胞が、それらの膜上に高レベルのJAM-Cを発現することを実証した。抗JAM-C抗体処置は、腫瘍関連血管新生の部分的阻害の結果である可能性が最も高い、GL261神経膠腫の異所的な増殖に対する部分的な阻害効果を有する。対照的に、抗JAM-C抗体処置は、GL261神経膠腫の同所的な増殖に対して非常に有意な阻害効果を有した。この場合、我々は、皮下増殖腫瘍のように、腫瘍関連血管新生の阻害について観察したが、加えて、抗JAM-C抗体で処置したマウスの脳の異なった腫瘍形状によって検出されるように、正常脳組織における腫瘍の拡散が影響を受けた。これは、脳では、抗JAM-C抗体が、腫瘍関連血管新生だけではなく、他の細胞過程、特に神経膠腫の拡散にも影響したことを示唆する。
【0255】
我々は、次に、JAM-Cを示差的に発現するGL261神経膠腫細胞の遺伝子発現解析によって、神経膠腫細胞の表面上のこのタンパク質の過剰発現が、腫瘍発現に重要なシグナル伝達カスケードのエフェクターである一連の遺伝子を上方制御することを実証した。具体的には、我々は、MEK-ERK経路(Fos、FosL2、及びPVR)への遺伝子下流、及びRhoファミリー低分子量GTPアーゼ経路(RAPGEF2、PAK3)のエフェクターの上方制御を検出した。
【0256】
これらのカスケードの重要な分子の上流が、c-Src癌原遺伝子である。実際に、我々は、神経膠腫細胞によるJAM-Cの過剰発現が、c-Srcタンパク質レベル及び活性化の増大を引き起こすことを実証した。加えて、c-Srcの活性化が付着接触の結果として起こり得る事象であるので、我々は、神経膠腫細胞の表面上のJAM-Cと、可溶性JAM-Bの間の接着相互作用がc-Srcタンパク質レベルの増大を引き起こしすことを明らかにし、両分子の上方制御が神経膠腫の悪性度に有意に寄与するかもしれないことを示した。
【0257】
全体的に見て、これらの知見は、いくつかの重要な生物学的疑問を引き起こす。具体的には、我々のヒト神経膠腫におけるJAM-Cの発現解析は、JAM-Cが細胞‐細胞接触の部位に、及び細胞膜全体に局限されるかもしれないことを示唆する。そのため、JAM-Cの細胞分布がどのように調節されるか、そして、何が異なる細胞内の局在化の生物学的意味であるかは明確でない。
【0258】
加えて、我々の知見は、神経膠腫細胞の表面上の高レベルのJAM-Cが癌の表現型の達成のために顕著な利点を表すかもしれないことを示唆する。これは、JAM-Cが神経膠腫細胞の挙動に対して、そして、もしかすると、例えば、腫瘍関連血管新生の誘導によって、それらの細胞外環境に対してどのように影響を及ぼすのかという疑問を生じる。
【0259】
さらに、我々の結果は、神経膠腫腫瘍細胞、及び/又は内皮細胞によって発現されたJAM-Cが、神経膠腫の関連血管新生に重要であるかもしれないことを示唆する。これは、神経膠腫細胞によって発現されたJAM-Cが、新生血管形成の過程に影響するのか、及びどのように影響するのか、そして、内皮細胞によって発現されたJAM-Cが、この過程の調整でどのように機能するのかといった疑問を生じる。
【0260】
最終的に、我々のデータは、腫瘍が皮下又は脳内で増殖しているときに、抗JAM-C抗体によるJAM-Cの標的化が、神経膠腫増殖阻害に異なった転帰があることを明らかにする。これは、神経膠腫細胞によって発現されたJAM-Cが、異なった環境状況でどのように作用するか、及びそれが腫瘍の発現に影響するこれらの様々な状況によってもたらされる重要な合図を細胞にどのように移すかといった疑問を生じる。
【0261】
いくつかの仮説が、これらの複数の問題に答えるために考案され得る。
【0262】
JAM-Cの細胞内局所化
JAM-Cの細胞内分布の分析を、JAM-Cを異所的に発現するMDCK細胞において実施した。これらの細胞では、共焦顕微鏡解析によって、JAM-Cが、オクルジン又はZO-1と一緒にタイトジャンクションに同時局在することを明らかにした(Aurrand-Lions et al., 2001 a)。この分布は、タイトジャンクション形成、及び細胞極性の維持におけるJAM-C機能と一致している。しかしながら、小腸上皮細胞において、JAM-Cが接着斑構造内のデスモプラキンと共に共局在化することが明らかなり、これらの細胞では、JAM-Cがタイトジャンクション形成及び細胞極性と異なった機能に寄与するかもしれないことを示唆している。これまで腫瘍細胞についてJAM-Cの発現と細胞内局所化に関する分析が全く報告されていないで、正常及び形質転換悪性細胞におけるJAM-Cの細胞分布が同様であるかどうか知られていない。
【0263】
ここで、我々は、免疫組織化学及び免疫蛍光によって、細胞‐細胞接触及び細胞膜全体の両方の部位にて神経膠腫細胞におけるJAM-C発現について観察した。我々のデータは、共焦顕微鏡解析によるさらなる確認を必要とするが、神経膠腫腫瘍細胞において、JAM-Cが異なった細胞内局在を有するかもしれないことを示唆する。これが神経膠腫細胞、又は一般的な癌細胞の特性を反映するかどうか、そして、それがこれらの細胞におけるJAM-Cの特定の機能に結び付けられるかどうかが明らかになっていない。しかしながら、我々は、癌細胞における特定のシグナル伝達経路の活性化は、JAM-Cがタイトジャンクション形成又は細胞極性の維持とは異なる機能を担うかもしれない、タイトジャンクションから細胞膜の他の部位へのJAM-Cの再分布を引き起こすかもしれないと仮定できる。
【0264】
JAM-Cセリン・リン酸化がその膜局所化を調節するという指摘は既に存在している。我々は、プロテインキナーゼ又はホスファターゼを活性化する細胞内シグナルを引き起こす刺激が、特異的なアミノ酸残基におけるJAM-Cリン酸化の状況を変更し、そして、それをタイトジャンクションから置き換えるかもしれないと仮定する。炎症誘発性サイトカインであるTNFαとIFNα、及びVEGFが、内皮細胞の膜上で、それぞれJAM-A及びJAM-Cの再分布を引き起こすことが知られている。加えて、乳房癌細胞転移に関係する肝細胞増殖因子(HGF)が、JAM-Aを含めたタイトジャンクション・タンパク質の発現を調節することによってこれらの細胞のタイトジャンクションを崩壊させ、そして、ZO-1のチロシン・リン酸化を引き起こすことを明らかにした。これは、サイトカイン又は増殖因子の下流を誘発するシグナルが、JAM-C細胞内局所の変化を引き起こすかもしれないことを示唆する。
【0265】
タイトジャンクションにおけるJAM-C局所を通じた別の機構は、細胞内結合パートナーの変化によって潜在的に調節されるかもしれない。具体的には、細胞質タイトジャンクション・タンパク質AF6は、タイトジャンクション・タンパク質ZO-1、又はRas及びRhoファミリー低分子量GTPアーゼ・タンパク質Rap-1のいずれかによって競合的に占有され得る結合部位を保有するJAM-Aと相互作用する。これは、タイトジャンクションの完全性を、Ras若しくはRap-1を活性化するシグナルによって混乱させうること、並びにそれらがAF6に結合するのを促進することを示唆する。これは、タイトジャンクション構造からZO-1及び潜在的JAM-Aを放出するだろう。JAM-Cが、AF6及びJAM-Aと同じ様式の機能と結び付き得るかどうか知られていないが、JAMファミリー・メンバーの間の高い相同性が、これが起こるかもしれないことを示唆する。
【0266】
増殖因子とRhoファミリー低分子量GTPアーゼによるJAM-C細胞分布の潜在的な調整は、興味深く、そして、神経膠腫において活性化される細胞内経路が、細胞内のこのタンパク質の局在に顕著に影響を及ぼすかもしれないことを強く示唆する。
【0267】
全体的に見て、我々は、遺伝的異常を通じた腫瘍発現に重要な経路の構成的活性化が、もしかするとタイトジャンクションの完全性を妨げるかもしれないことを支持できる。このように、腫瘍細胞は、運動性や侵襲に必要である隣接細胞から取り外すだけでなく、例えば、細胞の接着、播種、及び血管新生の刺激などの癌発生及び進行に寄与する機能のためにJAM-Cを利用可能にする。
【0268】
神経膠腫腫瘍細胞に対するJAM-C作用の機構
これまで、接着分子であるJAM-Cは、ヒト癌において徹底的な調査の対象でなかった。悪性細胞におけるその発現又は見込まれる機能に関して利用可能な決定的なデータが存在しない。ここで、我々は、神経膠腫細胞におけるJAM-C発現の異常な上方制御について観察し、そして、腫瘍細胞自体のいくつかの悪性機能、及びその拡大に必要なその環境の変化の誘導に関する顕著な関連の徴候を提供した。JAM-Cがそれを通じて神経膠腫の生態にこのような影響を与えるかもしれない、いくつかの機構が仮定できる。
【0269】
JAM-Cが、ホモタイプのトランス相互作用により、及びヘテロタイプのトランス相互作用によりJAM-Bと会合することは、十分に認められている。加えて、JAM-Cと白血球インテグリンとのヘテロタイプのトランス相互作用、及びJAM-Aとインテグリンαvβ3とのヘテロタイプのシス相互作用が報告された。そのため、我々は、神経膠腫細胞によるJAM-Cの過剰発現が、いわゆる、対向する神経膠腫細胞上のJAM-C‐JAM-C及びJAM-C‐JAM-B、並びに神経膠腫細胞のの表面上のJAM-Cとインテグリンの間の複数の付着接触につながるかもしれないと仮定する。これらの付着接触の結果は、JAM-Cを過剰発現する神経膠腫細胞の細胞膜における癌原遺伝子であるc-Srcの動員と活性化であるだろう。これは、アクチンフィラメント関連タンパク質(AFAP)によって少なくとも一部が媒介されるだろう。AFAPは、最初、c-Srcの結合パートナーとして同定された。加えて、AFAPは、いくつかのタンパク質結合モジュールを含んでいて、そして、より大きなシグナル伝達複合体の構築のためのプラットフォームとして直接的に機能するアクチンフィラメントと相互作用する。AFAPは、その立体構造を変更する細胞シグナルに対応してc-Srcを活性化する。
【0270】
神経膠腫細胞によるc-Srcの活性化の結果は、多様なものであり、そして、神経膠腫の悪性挙動に強い影響を持っている可能性がある。
【0271】
非常に高レベルのc-Srcは、星細胞腫を含めた様々なヒト癌で報告された(Takenaka et al., 1985)。加えて、c-Src活性は、予後不良が予測できる(Aligayer et al., 2002)。増殖因子、インテグリン凝集、及び粘着性の細胞‐細胞接触によって得られるもの含めた細胞刺激の大アレイ(a large array)は、そのSH2ドメインを通じてc-Srcによって結合するシグナル伝達分子のリン酸化につながる。この結合は、c-Srcの立体構造及びリン酸化状態を変え、その結果、その活性化を引き起こす。活性状態において、c-Srcは、次に、細胞の生存、増殖、血管新生、及び侵襲を含んで成るさまざまな細胞過程の刺激をもたらす、構造的及びシグナル伝達タンパク質に関連する可能性がある。図23で示されるように、c-Srcは、神経膠腫発生、そして進行の間に異常に刺激される経路、いわゆる、Ras-Raf-MEK-ERK、PI3K-AKT、及びRho低分子量GTPアーゼ経路、の主要な上流活性化因子である。神経膠腫発現と進行のためのc-Src活性化の重要性を、v-Src遺伝子の発現、細胞c-Srcのウイルス性の構成的に活性な対応物を星細胞に対して標的化したトランスジェニック・マウス・モデルを用いて実証した。前記マウスの大部分が、星細胞の異形成変化を示し、そして、それらの15%が、さらに神経膠芽腫に進行した星細胞腫を発現したこと。加えて、発明者は、腫瘍性病巣におけるv-SrcとVEGFの同時局在した発現を観察した。これらのデータは、c-Src活性化が、星細胞腫の進行に顕著に寄与することを示している。さらに、他の発明者は、c-Src欠損マウスにおける神経膠腫の同所性の播種が顕著に低下することを観察し、それは、c-Srcが脳内の神経膠腫の拡散に関連しているかもしれないことを示唆している。
【0272】
全体的に見て、これらのデータは、神経膠腫細胞におけるJAM-Cの過剰発現、そして、結果として生じるc-Srcの活性化が、他の手段を通じて、例えば、RTKsの活性化を通じて、神経膠腫細胞によって既に活性化されているシグナルの同じカスケードの亢進においてその原因に当たることを暗示する。これは、神経膠腫細胞の悪性挙動に対するJAM-Cの顕著な寄与をもたらす。具体的には、我々の知見は、神経膠腫細胞によるJAM-C過剰発現の結果として生じるc-Srcの高いレベル及びキナーゼ活性が、高グレードの星細胞腫の2つの主要な悪性の特徴である、脳におけるそれらの侵襲特性、及び潜在的に血管新生の刺激に顕著に寄与することを強く示唆する。加えて、実験的に実証されるとおり、神経膠腫細胞におけるJAM-Bの過剰発現は、対向する細胞のJAM-Cと相互作用し、それにより、悪性過程のこれらのカスケードを増強することによって、c-Srcレベルをさらに増大させる。
【0273】
JAM-Cが脳における神経膠腫細胞の侵襲に寄与するかもしれない機構は、隣接細胞におけるJAM-CとJAM-Bとの相互作用だけではなく、神経膠腫細胞表面上のJAM-Cとインテグリンのシス会合に潜在的に寄与するかもしれない。実際、内皮細胞上のJAM-Aとインテグリンαvβ3のシス相互作用は、ビトロネクチンにおいてそれらの遊走に関連していることが既に実証された。加えて、JAM-C過剰発現神経膠腫細胞において発現が増大する、IgSf分子であるPVRはまた、遊走細胞のリーディングエッジにおいてインテグリンαvβ3と同時局在し、そして、ビトロネクチンにおいて神経膠腫の侵襲に大いに寄与している。インテグリンαvβ3は、神経膠腫腫瘍細胞において、特に進行性腫瘍端において、高度に発現される。実際、このインテグリンは、ECM上の腫瘍細胞の接着と遊走を促進することによるだけではなく、遊走細胞のリーディングエッジにてプロテアーゼの局在と活性化を調節することによっても細胞侵襲の過程に寄与する。そのため、インテグリンαvβ3とJAM-Cの相互作用は、想定でき、そして、神経膠腫細胞の侵襲に大きな影響を持っているだろう。
【0274】
JAM-Cがインテグリン・シグナル伝達に加わるかもしれない兆候は、Tspan6、Ptgfrn、及びEps8がJAM-C過剰発現神経膠腫細胞において上方制御される我々の観察から見えてくる。
【0275】
Tspan6は、それら自身のファミリーの他のメンバー、様々なインテグリン、及び他の接着分子と共同して同時に会合することによって細胞表面の大クラスタを形成する、テトラスパニン膜貫通タンパク質のファミリーに属する。これらのクラスタは、細胞骨格タンパクを含めたシグナル伝達分子とのテトラスパニンの細胞内会合によって多数の細胞外刺激を細胞に移す組織化プラットフォーム(organising platforms)として機能する。テトラスパニンは、接着強化と遊走のようなインテグリン依存性活性を調節することが明らかになった。数個のテトラスパニンが、さまざまな腫瘍型の進行と転移に関連した。Ptgfrnは、IgSfタンパク質ファミリーに属するテトラスパニン分子のパートナーの1つである。JAM-Cがテトラスパニン・クラスタに関与することが可能であるかもしれず、そして、これがJAM-Cとインテグリン・シグナル伝達との協力を容易にするかもしれない。
【0276】
インテグリン・シグナル伝達とのつながり及び相乗作用はまた、上皮増殖因子基質8(Eps8)のJAM-C過剰発現神経膠腫細胞における上方制御によっても示唆される。Eps8は、細胞増殖と悪性腫瘍にかかわるEGF-R媒介リン酸化の標的である。インテグリン凝集、リガンド結合、及びEGF刺激によって起こったEps8の蓄積が明らかになった。この研究において、発明者は、Eps8レベルの増大が、MAPK-ERK経路を通したRTKsとインテグリン・シグナル伝達との相乗的な協調の結果がであると実証した。JAM-C過剰発現神経膠腫細胞におけるEps8の上方制御は、JAM-Cが、インテグリン・シグナルのカスケード、及びRTKsとのクロストークに関与するかもしれないことを示すかもしれない。我々の遺伝子発現解析は、試験管内における培養細胞において実施されたので、インテグリン細胞外マトリックス・リガンドが存在する生体内において、このカスケードが、著しくさらに活性化される可能性がある。
【0277】
JAM-C過剰発現神経膠腫細胞における遺伝子発現解析は、FosとFosL2のmRNAレベルの増大を明らかにした。これは、潜在的に、JAM-Cが神経膠腫細胞の悪性表現型を増大させる他の様式であるかもしれない。cFosとFosL2は、Junタンパク質との二量化によってAP-1転写因子を形成する癌原遺伝子である。AP-1は、標的遺伝子のプロモーターに特異的な応答要素を認識する。AP-1誘導遺伝子は、サイクリンなどの細胞増殖の重要な調節物質、MMP及びuPA/uPARを含めたアポトーシス又は侵襲の重要な調節物質、並びにVEGFなどの血管新生の重要な調節物質を含んで成る。複数の発癌性シグナル伝達経路が、AP-1転写因子に集まる。c-Fosの形質転換活性は、様々な癌において認識され、そして、Fosファミリー・メンバーの高い発現は、腫瘍進行における重要なステップと思われる。発癌性形質転換の無力な誘発にもかかわらず、FosL2は、Ras-及びSrc-形質転換マウス及びニワトリ線維芽細胞において豊富であり、そして、それは、形質転換状態の維持と進行に機能することが示唆された。JAM-C過剰発現神経膠腫細胞におけるFosとFosL2の上方制御のレベルは、マイクロアレイとリアルタイムPCR分析によって検出されるように、それほど高くなかったが、我々は、同じ細胞がそれらの適切な細胞外マトリックス・リガンドを見つけることができる生体内において、Fos及びFosL2発現につながる細胞内シグナルの強さ及び持続は、著しく高められるかもしれないと仮定する。Fos及びFosL2発現は、MAPK-ERK経路の下流で生じ得る。先に触れたように、それらは、それらの細胞外マトリックス・リガンドと、それらの増殖因子によるRTKsの刺激と関連して会合したインテグリンによって相乗的に活性化され得る。そのため、インテグリンとRTKsの間のクロストークにおけるJAM-Cの潜在的な関連性は、先に議論したとおり、生体内環境、及び増強したレベルのFosファミリー・メンバーの発現における、それらのシグナルの著しい活性化をもたらすかもしれない。Fosタンパク質は、腫瘍過程にかかわる標的遺伝子のそれらの広い範囲のおかげで、神経膠腫の悪性度を潜在的に高める。
【0278】
腫瘍関連血管新生の抗JANI-C抗体阻害の機構
我々のデータは、抗JAM-C抗体が、有意なレベルに達することなく、皮下又は脳内で増殖したGL261マウス神経膠腫の両方に関連している血管新生を低減したことを明らかにした。同様の知見は、マウスLewis肺癌に関連する生体内における新生血管形成を低減した別の抗JAM-C抗体で報告された(Aurrand-Lions et al., 2001 a;Lamagna et al., 2005a)。発明者は、腫瘍塊へのマクロファージ動員の障害に対するこの抗血管形成効果の結果と考えた。マクロファージは、血管新生の過程を著しく促進するさまざまな血管新生促進因子を分泌する。我々の神経膠腫モデルでは、腫瘍ベッドへの単球/マクロファージ集団の動員が、抗JAM-C抗体を用いた処置によって影響を受けることは、起こり得る。確かに、これは、更なる研究を必要とする注目中の話題である。しかしながら、抗JAM-C抗体を用いて神経膠腫細胞と内皮細胞の両方におけるJAM-Cの標的化は、他のいくつかの機構によって血管新生を阻害するかもしれない。
【0279】
神経膠腫細胞によるJAM-Cの過剰発現を通したc-Srcの活性化は、腫瘍細胞によるVEGFの産生に対して直接的な影響をもたらす。c-Src活性化は、VEGFのプロモーター上でHIF-1との複合体を形成するSTAT3の活性化による、低酸素誘発VEGF合成に必要であることが明らかになった。結腸癌細胞におけるc-Srcの阻害は、VEGF発現と腫瘍の増殖を阻害した。さらに、c-Srcが、神経膠腫の強力な発癌性及び血管新生促進因子(proangiogenic factor)であるインターロイキン8(IL-8)の発現を調節することを明らかにした。従って、c-Srcキナーゼ活性の薬理学的阻害は、VEGF及びIL-8発現、並びに血管新生を阻害した。これらの所見は、腫瘍細胞による血管新生因子の産生のためのc-Srcの重要さと、腫瘍発現のためのc-Srcターゲッティングの関連性を強調する。生体内における付着接触を用いて神経膠腫細胞によって過剰発現されたJAM-Cが、特に腫瘍の低酸素性領域において、c-Srcの活性化を介してVEGF産生を刺激することによって増強された血管新生を引き起こすことは可能である。この場合、抗JAM-C抗体は、神経膠腫細胞においてc-SrcのJAM-C媒介活性化を遮断することによってVEGFの生体内における発現を低減するかもしれない。
【0280】
その一方で、抗JAM-C抗体を用いた内皮細胞によって発現されたJAM-Cの標的化はまた、同様の機構によって血管新生にも影響を及ぼすかもしれない。実際、キナーゼ不活性c-Srcを発現する内皮細胞は、血管新生にとって基本的な2つの過程である、拡散及び管様の構造の形成ができなかった。さらに、いくつかのc-Src阻害剤が、内皮細胞の発芽とVEGF誘発性透過を遮断することを実証した。このような関係においては、内皮細胞のJAM-Cに向けられた抗JAM-C抗体は、c-Src活性化のJAM-C誘導を妨げ、その結果、c-Src媒介血管形成過程を遮断するだろう。
【0281】
導入部で議論したように、近年の蓄積される徴候は、血管新生刺激の過程におけるVEGFA/EGF-R-2とインテグリンの間のクロストークの存在を示唆している。我々は、内皮細胞におけるJAM-Cが、このクロストークに参加するかもしれないと推測する。JAM-Cがインテグリン・シグナル伝達に関係するかもしれないという先に触れた兆候はまた、内皮細胞によって発現されたJAM-Cにも適用できる。潜在的に、血管新生刺激下、JAM-Cは、VEGF-R-2と協力するインテグリンによってで誘発され、そして、維持されているシグナル伝達カスケードによる血管新生及び相乗作用に重要なインテグリンと会合するかもしれない。インテグリンαvβ3とJAM-Aのシス会合は、既に報告され、そして、bFGFによってMAPK-ERK経路に伝送されるシグナルの変換の際のJAM-Aが担う重大な役割が、内皮細胞の増殖と遊走に必要であることもまた明らかになった。そのため、VEGF及びインテグリン・シグナル伝達におけるJAM-Cの関与が支持され得る。この場合、内皮細胞において発現されたJAM-Cのターゲッティングによる抗JAM-C抗体は、VEGFのc-Src媒介発現を予防するだけではなく、JAM-C、インテグリン、及びVEGF-R-2の間の重要な相互作用を妨げ、その結果、血管新生関連細胞過程に重要なそれらの細胞内シグナルを阻害するだろう。
【0282】
異所的及び同所的に増殖した神経膠腫に対する抗JAM-C抗体の示差的な抗腫瘍効果の機構
我々の知見は、JAM-Cを過剰発現するGL261マウス神経膠腫の増殖が、その腫瘍がその自然環境の中で拡散されるとき、抗JAM-C抗体によって著しく損なわれることを明らかにした。GL261マウス神経膠腫が皮下の非天然環境において増殖したとき、増殖障害はそれほど顕著ではなかった。これらの結果は、JAM-Cが、それらの増殖に強い影響を及ぼす環境刺激を神経膠腫細胞に移す重要なメディエーターであることを示唆する。
【0283】
いくつかの機構は、異所的に増殖した神経膠腫と比較して、同所的に増殖した神経膠腫において抗JAM-C抗体によって発揮されるより顕著な腫瘍抵抗効果が説明されるかもしれない。
【0284】
脳の特定の環境は、それらの拡大を促進し得る、神経膠腫細胞への正の刺激を伝達するかもしれない。神経膠腫細胞の表面上で発現されるJAM-Cは、付着接触による細胞外区画と、そして、シグナル伝達分子の動員による細胞内区画と通信するその能力を通じて周囲の脳の環境に由来する正の合図の伝達に関与するかもしれない。この場合、脳内でのGL261神経膠腫の増殖は、皮下と比べて、より顕著であるだろうし、且つ、抗JAM-C抗体の作用は、同じ環境刺激が不存在だろう場合に、皮下に比べて、より顕著であるだろう。特に、抗JAM-C抗体が、脳のGL261神経膠腫細胞の通常の拡散を阻害した知見は、腫瘍細胞によって発現されたJAM-Cが脳における細胞遊走と侵襲の過程に関与することを示唆する。細胞運動性と侵襲は、インテグリンによって主に媒介される細胞と細胞外マトリックスの間の付着接触の確立を暗示する。加えて、対応するリガンドとの会合によるインテグリン・シグナル伝達は、c-Srcによって媒介され、それは、細胞遊走に必要なシグナルだけではなく、細胞増殖と生存のための正の刺激も変換する(図23)。JAM-Cは、特定の脳の細胞外マトリックス成分との接着に関与しているインテグリンと協力、及び相乗作用相乗作用することが可能である。この点について、インテグリンαvβ3とαvβ5を遮断するペプチドが、神経膠芽腫の同所性モデルに対して劇的な阻害効果を有した一方で、それは、皮下の同じ腫瘍の増殖に対して効力がなかったことが分かった(MacDonald et al., 2001)。発明者は、微小環境、特に異なった臓器の腫瘍細胞によって特異的に産生及び蓄積されたECM組成物及びECM成分は、神経膠腫挙動に重要であるかもしれないことを示唆した。
【0285】
脳内に存在する他のIgSf分子とのJAM-C相互作用はまた、可能であるかもしれず、そして、インテグリンによって活性化された同じシグナル伝達カスケードを維持するかもしれない。先に議論したように、これは、IgSf分子であるポリオウイルス受容体(PVR/CD155)について説明された。この仮説によると、抗JAM-C抗体は、JAM-Cが、脳内で発現される接着分子、及び脳のECM構成要素との結合に関与するインテグリンと会合するのを遮断するだろう。
【0286】
異所的に増殖した腫瘍と比較して、同所的に増殖したGL261神経膠腫の抗JAM-C抗体処置の示差的な転帰のための別の可能性は、BDNFシグナル伝達におけるJAM-Cの関与であるだろう。我々は、神経膠腫細胞によるJAM-C過剰発現の結果としてのBDNFの上方制御を検出した。BDNFは、ニューロトロフィンのファミリーに属し、RTK受容体であるTRKBを通じて、神経系の発現中及び成人のニューロンの増殖、生存、及び分化を促進するために作用する。これらの効果は、PI3K-AKT経路のBDNF/TRKB誘導の結果の少なくとも一部であるように思える。加えて、BDNFには自己分泌機能があり、それによって、外因性BDNFが内因性BDNFの発現を誘発することを明らかにした。BDNFは、神経細胞において、それらの生存を調節するためにc-Fos癌遺伝子によって誘発される。BDNFとそのTRKB受容体は、ヒト癌、特に攻撃的な挙動をもつものにおいて過剰発現されることが明らかになった。加えて、BDNFを経由したPI3K-AKT経路のTRKB媒介活性化は、上皮細胞をアノイキスに対して抵抗性にし、そして、それらに高度な侵襲及び発癌能力を与える強力な生存促進シグナルを生じることが明らかになった。同様の知見は、BDNFとTRKBが腫瘍細胞の生存を促進したミエローマ細胞に関して報告された。BDNFは、内皮細胞によって発現され、低酸素により増強され、そして、それは、内皮細胞の生存の亢進と、VEGF-R-2発現の上方制御によって血管新生を引き起こす。JAMCを過剰発現する神経膠腫細胞において、BDNFがc-Fosによって上方制御されること、且つ、周囲の正常脳のBDNFの高いレベルが、神経膠腫細胞の生存を促進する自己分泌ループを引き起こすことが可能である。加えて、神経膠腫細胞によって分泌されるBDNFは、内皮細胞において傍分泌様式で作用することによって血管新生を刺激するかもしれない。そのため、脳では、抗JAM-C抗体が、神経膠腫細胞に生存と血管新生特性を与える重要なシグナルを遮断するだろう。
【0287】
全体的に見て、JAM-Cが発現した神経膠腫との関連において重要な活性を発揮するかもしれない機構を、図23で図式化する。神経膠腫細胞の膜上のJAM-Cは、周囲の脳環境と、癌発生のための主要な過程を調節する細胞内シグナルの複合ネットワークの間の接点における基本的な分子であるかもしれない。それ自身のファミリーの他のメンバー、例えば、JAM-Bとの、神経膠腫の増殖の刺激に重要な脳のECMリガンド及びRTKsに結合するインテグリンとの様々な付着接触における潜在的な関与は、JAM-Cを脳におけるそれらの拡大のために、神経膠腫細胞に様々な利点を提供する中心的分子にするだろう。JAM-Cから神経膠腫細胞にこれらの複数の利得を伝送を媒介する重要なパートナーは、c-Srcであるだろう。JAM-Cによるc-Srcの活性化は、発癌に、そして、特に神経膠腫発生に重要なものに関係する細胞内シグナルに対するその多面的効果によって神経膠腫細胞の攻撃性に強い影響を及ぼすだろう。このような関係においては、抗JAM-C抗体は、神経膠腫細胞とその自然環境の間の、JAM-Cによって媒介される重要な連絡を妨害するので、脳における神経膠腫の発現に劇的な効果を持っているだろう。
【0288】
結論及び見解
記載した研究は、接着分子であるJAM-C及びJAM-Bがヒト神経膠腫において異常に過剰発現され、そして、この上方制御がその自然環境:脳における神経膠腫の悪性に関連しているという証拠を提供した。抗JAM-C抗体は、脳において増殖しているヒト神経膠腫のマウス・モデルの増殖及び侵襲を強力に阻害したが、皮下における腫瘍の増殖に対してはそれほど有効でなかった。実際、JAM-Cを示差的に発現するマウス神経膠腫細胞の遺伝子発現解析によって、我々は、神経膠腫細胞の表面上の高レベルのタンパク質が、ヒト神経膠腫によって活性化される主要な遺伝経路:MAPK-ERK及びRhoファミリー低分子量GTPアーゼ経路の成分である遺伝子の上方制御に関連することを実証した。これは、ヒト神経膠腫において異常に刺激されるいくつかの細胞経路及び過程の主要な上流調節物質であるc-Src非受容体チロシンキナーゼのレベルの増大及び活性化を媒介したJAM-Cを通じて神経膠腫細胞によって達成される。c-Srcの活性化は、我々がJAM-Bに関して実験的に明らかにしたように、JAM-Cと他の接着分子の間の複数の接着相互作用の結果であるようだ。
【0289】
材料と方法
細胞培養と抗体
ヒト神経膠腫細胞株を、37℃にて0.1%のコラゲナーゼ(Roche Diagnostics Ltd、Rotkreuz, Switzerland)及び0.01%のDNAse(Roche Diagnostics Ltd、Rotkreuz, Switzerland)を用いた消化によって神経膠腫生検検体から確立した。GL261マウス神経膠腫細胞は、Geza Safranyからの寛大な寄贈品であった。ヒト及びマウス神経膠腫細胞の両方を、4.5g/lのグルコース、10%のPCS、及び抗生物質(すべてInvitrogen製)を含むDMEM中で培養した。すべての抗ヒト及び抗マウスJAM-C及びJAM-Bウサギ・ポリクローナル抗体を、VH-C2ドメインを含む組み換え可溶性JAM-C又はJAM-Bタンパク質でウサギを免疫することによって得た。抗体を、Covaiab、Lyon, Franceによって製造した。マウスJAM-Cに対するラット・モノクローナル抗体H36及びD33はまた、ヒトJAM-Cとも交差反応し、そして、それは以前に記載した(Aurrand-Lions et al., 2001 a;Aurrand-Lions et al., 2001 b;Johnson-Leger et al., 2002b)。アイソタイプ対照として使用されるラットIgG2a抗ヒトCD44(Hermes, 9B5)モノクローナル抗体は、以前に記載した(Lamagna et al., 2005a)。マウスPECAM-1に対するラット・モノクローナル抗体(GC51)は、(同書中に)以前に記載し、そして、ラットIgG2bアイソタイプ対照抗体は、BD Pharmingen、San Diego, CAから購入した。マウスJAM-Bに対するラット・モノクローナル抗体J3を、VH-C2ドメインを含む組み換えJAM-B分子でラットを免疫することによって入手した。FACS分析に使用されるヤギ抗ラットPE結合抗体を、Southern Biotechnology(Birmingham, USA)から購入した。マウスJAM-Cに関する免疫組織化学に使用されるHRPと結合したロバ抗ウサギを、Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USAから購入した。組み換えマウスJAM-B/Fcキメラ抗体を、R&D、MN, USAから購入した。
【0290】
RT-PCR法
全RNAを、RNeasyキット(Qiagen)を使用することで細胞から抽出した。cDNAを、オリゴ(dT)及びSuperscript II逆転写酵素(Invitrogen)を利用して0.5〜1μgの全RNAから得た。ヒトJAM-Cに関するRT-PCRを、プライマー5’ CTG GGG AAG ACA TCC CTG AAG 3’(順方向)及び5’ AGT GCG GAT GTA GTT AAC TCC 3’(逆方向)を使用することで実施した。3分間の最初の変性の後に、94℃にて45秒間、58℃にて45秒間、そして、72℃にて1分間の35サイクルが続いた。10分間の最終的な伸長を、72℃にて実施した。ヒトα-アクチンに関するRT-PCRを、プライマー:5’ TGA CGG GGT CAC CCA CAC TGT GCC CAT CTA 3’(順方向)及び5’ CTA GAA GCA TTT GCG GTG GAC GAT GGA GGG 3’(逆方向)を用いて実施した。1分間の最初の変性の後に、94℃にて30秒間、、58℃にて30秒間、そして、72℃にて30秒間の30サイクルを実施し、それに続いて、72℃にて2分間の最終的な伸長を実施した。ヒトJAM-Bに関するRT-PCRを、プライマー:5’ AGT AGT CAC AGC AGT AGA GTA C 3’(順方向)及び5’ ACT TAT GTT GAG ATC ATC TAC TTG 3’(逆方向)を用いてJAM-Cのように実施した。
【0291】
フローサイトメトリー
ヒトJAM-C発現の分析のために、Ge258ヒト神経膠芽腫を、氷上で5μg/mlの抗JAM-Cモノクローナル抗体H36又はアイソタイプ適合対照抗体と一緒にインキューベートした。PBS、0.2%のPCS、及び0.01%のアジ化合物で洗浄した後に、細胞を、ヤギ抗ラットFITC結合抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USA)と一緒にインキューベートした。
【0292】
ヒトJAM-B発現の分析のために、Ge258ヒト神経膠芽腫を、氷上で、5μg/mlのヤギ抗JAM-B抗体(RD Systems、Minneapolis, MM, USA)又はアイソタイプ適合対照抗体と一緒にインキューベートした。PBS、0.2%のPCS、及び0.01%のアジ化合物で洗浄した後に、細胞を、マウス抗ヤギFITC結合抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USA)と一緒にインキューベートした。
【0293】
マウスJAM-C発現の分析のために、GL261、GL261-233、GL261-233RC、及びGL261-233Rマウス神経膠腫細胞を、氷上で、5μg/mlのラット・モノクローナル抗JAM-C H36抗体又はアイソタイプ適合対照抗体(BD Pharmingen、San Diego, CA)と一緒にインキューベートした。PBS、0.2%のFCS、及び0.01%のアジ化合物で洗浄した後に、細胞を、ヤギ抗ラットPE複合抗体(Southern Biotechnology、Birmingham, AL, USA)と一緒にインキューベートした。
【0294】
マウスJAM-B発現の分析のために、GL261細胞を、氷上で、5μg/mlのJ3ラット・モノクローナル抗JAM-B抗体又はアイソタイプ適合対照抗体(BD Pharmingen、San Diego, CA)と一緒にインキューベートした。PBS、0.2%のFCS、及び0.01%のアジ化合物で洗浄した後に、細胞を、ヤギ抗ラットFITC複合抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USA)と一緒にインキューベートした。
【0295】
GL261-233RC及びGL261-233R細胞の表面に結合する可溶性キメラJAM-B/Fcの分析のために、細胞を、20μg/mlのキメラJAM-B/Fc抗体と、20μg/mlの終濃度のヤギ抗ヒトPE複合抗体の混合物と一緒に、氷上で25分間インキューベートした(Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USA)。次に、細胞を、PBS、0.2%のFCS、及び0.01%のアジ化合物で洗浄し、そして、分析した。
【0296】
すべての分析を、FACScan(Becton Dickinson、Palo Alto, CA)を使用して実施した。
【0297】
免疫沈降反応とウエスタンブロッティング
マウス及びヒトJAM-Cの免疫沈降反応を、それぞれ、ポリクローナル・ウサギ抗JAM-C 501及び720を用いて、溶解のために50mMのTris-HClバッファー、pH7.4、150mMのNaCl、0.5%のNP40、プロテアーゼ・インヒビター混合物(Roche Diagnostics Ltd、Rotkreuz, Switzerland)を使用して実施した。SDS-PAGE、そして、免疫沈降のニトロセルロース膜移行の後に、ビオチニル化タンパク質を、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Jackson Irnmunoresearch, Inc.、West Grove, PA, USA)及びECL(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて見えるようにした。
【0298】
ポリクローナル抗ヒトJAM-B/VE-JAM抗体(R&D Systems、MN, USA)を用いたウエスタンブロッティングのために、細胞を、プロテアーゼ・インヒビターカクテル(Roche Diagnostics Ltd、Rotkreuz, Switzerland)を含む50mMのTris、50のNaCl、0.5%のNonidet P40を用いて溶解した。タンパク質濃度を、BCAキット(Biorad)を使用して測定した。次に、50μgのタンパク質を、SDS-PAGEにかけ、そして、Protanニトロセルロース・フィルター(Whatman Schleicher & Schueil pic、Middlesex, TW8 9BW, UK)に移した。その膜を、次に、5%の脱脂粉乳でブロッキングし、1/1000希釈のヤギ抗ヒトJAM-B/VE-JAM抗体(R&D Systems、MN, USA)と一緒に4℃にて一晩インキューベートした。PBS-Tween 0.1%で洗浄した後に、1/10000希釈のロバ抗ヤギHRP複合二次抗体(Jackson Irnmunoresearch, Inc.、West Grove, PA, USA)と一緒に室温にて1時間のインキュベーションを実施した。洗浄後に、検出を、化学発光ECL(商標)ウエスタンブロッティング分析システム(Amersham Biosciences, General Electric Company、CT, USA)を使用して実施した。
【0299】
免疫組織化学
ポリクローナル抗ヒトJAM-C抗体720を用いたヒト脳腫瘍の免疫組織化学のために、凍結切片を、アセトン/メタノール(1:1)で−20℃にて5分間、固定し、その後、20〜30分間乾燥させた。次に、切片を、PBS 1×中で水和し、次に、内在性ペルオキシダーゼ活性を阻害するためにPBS/0.3%のH2O2中、10分間インキューベートし、そして、PBS 1×/BSA 3%、Tween 0.5%、10%のヒト血清、10%の通常ヤギ血清中、室温にて15分間ブロッキングした。1/250希釈の一次抗体との1時間30分間のインキュベーションの後に、切片を、洗浄し、そして、ウサギEnVision+システム-HRP(Dako、Denmark)を30分間かけて加えた。PBSとそれに続いて酢酸ナトリウム0.1M pH4.8で洗浄した後に、染色を、AEC(3-アミノ-9-エチルカルバゾール、BioGenex、Ca, USA)で明らかにし、そして、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0300】
ポリクローナル抗ヒトJAM-BA/VE-JAM抗体(R&D Systems, MN, USA)を用いたヒト脳腫瘍の免疫組織化学のために、凍結切片を、20分間未満、乾燥させ、次に、4%のホルムアルデヒド溶液(Merck)中、室温にて15分固定した。それらを、Tris-Tweenバッファー(Dako、Denmark)中で洗浄し、次に、ペルオキシダーゼ・ブロッキング試薬(Dako、Denmark)中で5分間インキューベートし、そして、15分間洗浄した。10%のヒト血清、10%の正常ウサギ血清(Dako、Denmark)中、30分間のインキュベーションを実施した後で、0.3μg/mlの終濃度にて1時間をかけて一次抗体を加えた。洗浄後に、切片を、ウサギ抗ヤギ・ビオチン(Dako、Denmark)と一緒に30分間インキューベートし、その後、ストレプトアビジン及びビオチニル化ペルオキシダーゼ複合体(Dako、Denmark)と一緒にインキューベートした。染色を、約2分間かけて、3,3-ジアミノベンジジン(DAB+、Dako、Denmark)で明らかにし、そして、ヘマルンで対比染色した。
【0301】
マウスJAM-Cの免疫組織化学のために、凍結切片を、最長で20分間乾燥させ、アセトン/メタノール(1:3)中、−20℃にて5分間固定し、Tris-Tweenバッファー(Dako、Denmark)中で洗浄し、ペルオキシダーゼ・ブロッキング試薬(Dako、Denmark)中でインキューベートし、そして、15分間洗浄した。次に、ウサギ・ポリクローナル抗JAM-C抗体501又はウサギの免疫前血清(負の対照)を1/250希釈にて加え、そして、室温にて1時間インキューベートした。洗浄後に、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ウサギ抗体(Jackson Irnmunoresearch Laboratories, Inc.、West Grove, PA, USA)を加え、そして、染色を、DAB+(Dako、Denmark)によって明らかにした。
【0302】
マウスJAM-Bの免疫組織化学のために、凍結切片を、最長で20分間乾燥させ、アセトン中で固定し、Tris-Tweenバッファー(Dako、Denmark)中で洗浄し、ペルオキシダーゼ・ブロッキング試薬(Dako、Denmark)中でインキューベートし、そして、15分間洗浄した。次に、ウサギ抗マウスJAM-B 829又は対応するウサギの免疫前血清(負の対照)を、1/300希釈にて加え、そして、室温にて1時間インキューベートした。洗浄後に、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ウサギ抗体(Jackson Immunoresearch Laboratory, Inc.、West Grove, PA, USA)を加え、そして、染色を、3,3-ジアミノベンジジン(Dako、Denmark)によって明らかにした。
【0303】
マウス皮下及び脳内腫瘍の両方における血管密度の定量化のための免疫組織化学を、モノクローナル抗PECAM-1(GC51)抗体を用いて実施した。凍結切片を、最長で20分間乾燥させ、アセトン中で−20℃にて5分間固定し、TBS 1×(Tris緩衝化生理的食塩水)中で水和し、ペルオキシダーゼ・ブロッキング試薬(Dako、Denmark)中でインキューベートした。そして、通常ヤギ血清(Dako、Denmark)との15分間のインキュベーションを実施した後で、0.5μg/mlの終濃度にて抗PECAM-1抗体と一緒に室温にて1時間インキュベーションを実施した。洗浄後に、ヤギ抗ラット西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗体(Invitrogen、CA, USA)を、室温にて30分間かけて加え、そして、染色を、DAB+(Dako、Denmark)を用いて明らかにした。
【0304】
腫瘍グラフト
C57BL/6マウスは、Elevage Janvier(Le Genest St Isle, France)由来であった。皮下移植のために、PBS中、106個の腫瘍細胞を、6〜12週齢の雌マウスの右脇腹に注射した。マウスを、PBS、又はそれぞれ、皮下又は脳内に移植したマウスのための150μg若しくは200μgの抗体(D33及び9B5)を含むPBSのどちらかを用いた1日おきに実施される腹腔内注射により処置した。皮下腫瘍体積を、カリパスを使用して計測し、そして、(長さ×幅2)/2として計算した。脳における移植は、注射の後に等しくゆっくりと針を抜去する、1μl/分にて注射される2mlのメチルセルロース中、2×104個の細胞を使用して、先に記載するとおり、定位固定装置を用いて11週齢の雌マウスに対して実施した(Walker et al., 2000)。脳内の腫瘍体積を、連続MRI画像で計算した。すべての動物処置が、施設倫理委員会、及び州の獣医局によって承認された。
【0305】
磁気共鳴画像法
MRIを、臨床1.5T(Philips Intera)ユニットを使用して実施した。マウスを、全身麻酔(50%のケタラールと8%のロンパムを含む0.9%のNaCl)時に、特別に開発した小動物ホルダ(参考文献)内に入れた。専用表面コイルを使用して、前頭面のT1及びT2強調画像を、最初に得て、それに続いて、(5μl/gマウス体重のi.p.注射によって投与された)Gd-DTPAの適用を伴ってT1強調前頭画像を得た。画像を、後処置のために外部ワークステーションに出力した。
【0306】
血管密度、腫瘍面積、及び腫瘍形状の定量化
皮下腫瘍に関して、PECAM-1抗体で染色した4つの完全な凍結切片の画像を、AxiocamカラーCCDカメラを備えたZeiss Axiophot 1顕微鏡を用いて取得し、そして、記録した画像を、AxioVisionソフトウェアを通してPentium(登録商標) IIIコンピュータで処置した。脳内増殖腫瘍に関して、画像のためにPECAM-1抗体で染色した7〜8個の完全な脳凍結切片の画像を、サンプルの自動走査及び得られた画像のつなぎ合わせを備えたNicon Scan顕微鏡を用いて取得した。
【0307】
画像を、MetaMorph Image Analysis software(Molecular Devices、Union City, CA, USA)で処理した。それらの画像に適用した定量化画像処理アルゴリズムは、以下に記載したいくつかのステップで構成される。
【0308】
まず、腫瘍領域を分離するために、画像を、HSI色空間(ピクセルの色相、彩度、及び明度で、規定される)により色閾値分類した。閾値間隔は、以下のとおり選択される:色相に関して159〜217、彩度に関して10〜255、及び明度に関して109〜255。閾値分類領域を、図24(中央の画像)に示す。
【0309】
同じ閾値を全画像に使用し、これにより、比較のための統計的な基準を提供する。加工の次のステップは、サイズに関して閾値分類した領域要素をフィルターにかけた。図24(右側の画像)に示されているように、特定のサイズを有する要素だけを維持した。
【0310】
次の加工段階は、腫瘍の1つの領域の定義であった。維持した個々の要素を、図25(左側の画像)に示した距離地図を構築するのに使用した。この地図では、ピクセルの色は、最も近い腫瘍要素との距離を表す。この地図を、図の中央部分に示される腫瘍要素のすぐ近くに位置する領域を区切るために使用した。後者を、腫瘍の最も大きく、最も代表的な部分だけを維持するために加工した。最新の画像に関するこの部分を、右側に示す。この部分の面積は、脳内の腫瘍領域の統計的分析に使用される総腫瘍領域に相当する値であり、そして、図17に示される。そして、得られた総腫瘍面積を、血管によって表される表面のパーセンテージについて分析した。血管を、HSI色空間による色閾値分類を用いて分離した。閾値間隔は、以下のとおり選択される:色相に関して0〜79、彩度に関して10〜137、及び明度に関して0〜242。閾値分類領域は、図26(左側の画像)においてマゼンタで示されている。選択された血管は、図の右側の部分に別々に示されている。血管の総面積を、腫瘍の総面積に対するPECAM-1染色された表面のパーセンテージの統計的分析のために使用した。2つの値:長さと幅を、腫瘍の形態を特徴づけるのに使用した。長さは腫瘍の輪郭を貫く最も長い弦の長さと規定される。言い換えれば、長さは、腫瘍に属している2つの最も離れた地点の間の距離である。先の図27では、パラメーターは、オレンジの線の長さとして計測される。幅は、最も長い弦に対して垂直な腫瘍輪郭のカリパス幅である。図27では、このパラメーターは、シアンの線に相当し、そして、オレンジの線に沿って計測された腫瘍の最も長い幅を表す。長さと横の両方がそれぞれの腫瘍領域について計測され、そして、長さ/幅の比が、腫瘍の形状を規定するために使用された。
【0311】
RNAiベクターの構造とトランスフェクション
pSuper gfp/neoベクターを、Oligoengine Inc.、Seattle, USA購入した。pSuper.gfp/neo-233ベクターを構築するために、+233位にて始まるマウスJAM-C mRNA転写物から得られた19-ntのRNAi標的配列を含む1組のオリゴヌクレオチドを設計した。順方向のオリゴヌクレオチドは、5′末端にBglII制限部位、ヘアピン型を生じるように設計された9-ntのスペーサ配列によって隔てられたセンス及びアンチセンス方向の両方の19-ntのRNAi標的配列(太字)、及び3末端の終結シグナルとして連続した5つのチミジンを含む。逆方向のオリゴヌクレオチドは、5’末端にHindIII制限部位を含んでいた。
【0312】
【化1】

【0313】
次に、2つのオリゴヌクレオチドを、アニーリングし、そして、Oligoengineの取扱説明書に従ってpSuper gfp/neoベクター内にクローンニングした。GL261細胞のトランスフェクションを、Fugene 6(Roche Diagnostics Ltd、Rotkreuz, Switzerland)を用いて実施した。安定したトランスフェクタントを、100μg/mlのG418(Invitrogen、CA, USA)を用いて選択する。JAM-C発現に関してGL261-233細胞をレスキューするのに使用した発現ベクターを、マウスJAM-C cDNA内の2つの保存的な点突然変異のPCR導入によって得た。2つのプライマー、5’ CAA GTG ACC CTA GGA TTG AAT GGA AGA AAA TCC AAG ATG GCC AAA CAA CGT ATG TGT 3’(順方向)及び5’ CCT CAC TCG TCC GGA TGT AGT TAA CAC CGT 3’(逆方向)を、マウスJAM-C mRNAの+240位及び+243位における、それぞれ、CからAへの、及びAからGへの置換を生じるように使用した。これらのプライマー及びAvrIIとHpaIエンドヌクレアーゼによる消化を用いて得られた688bpのPCR断片を、pcDNA3.1/Neoベクター内にクローンニングされたマウスJAM-C cDNA内の対応する野生型フラグメントを置き換えるために使用した。次に、これにより入手した新しい変異JAM-C cDNAを、pcDNA3.1/Hygroベクター内にクローンニングした。pcDNA3.1/Hygro空ベクター(Invitrogen、CA, USA)とpcDNA3.1/Hygro-JAM-Cレスキュー・ベクターの両方を、FspIエンドヌクレアーゼを用いて線状にし、そして、Lipofectamine 2000(Invitrogen、CA, USA)を用いてGL261-233細胞内にトランスフェクトした。安定的にトランスフェクトされた細胞を、200μg/mlのハイグロマイシン(Brunschwig、Basel, Switzerland)を用いて選択した。このようにして、2つの細胞株GL261-233RC(レスキュー対照)及びGL261-233R(レスキュー)を得た。
【0314】
Affymetrixの遺伝子発現解析
遺伝子発現解析のために、GL261-233RCとGL261-233R細胞を、普通培地中に蒔き、そして、48時間後、それらが約95%の集密度に達したときに、それらを全RNA抽出に使用した。全RNAを、RNeasyキット(Quiagen)を使用して抽出し、製造業者のプロトコールに従ってDNAse処理した。Affymetrix分析を、以下で記載した手順に従って、University Medical Centre(CMU)Genevaにてゲノム・プラットフォーム「Frontiers in Genetics」で実施した。
【0315】
各サンプル(1細胞株あたり3つの独立したサンプルを分析した)からの全RNA(5μg)を、5’ T7 RNAポリメラーゼ・プロモーター配列[5’ GGC CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AGG CGG(dT)24-3’]を含むオリゴ(dT)24プライマー100pmol、50mMのTris-HCl(pH8.3)、75mMのKCl、3mMのMgCl2、10mMのDTT、0.5mMのdNTPs、及び200単位のSuperScript II逆転写酵素(Invitrogen)を使用することによって、42℃にて1時間、逆転写した。次に、cDNAの2番目の鎖を、25mMのTris-HCl(pH7.5)、100mMのKCl、5mMのMgCl2、10mM(NH42SO4、0.15mMのNAD+、1mMのdNTPs、及び1.2mMのDTTを含む反応物中、40単位のエシェリキア・コリ(Escherichia coli)DNAポリメラーゼI、10単位のエシェリキア・コリDNAリガーゼ、及び2単位のRNase Hを使用することによって合成した。
【0316】
合成を、16℃にて2時間おこない、そして、EDTAを使用することによって止めた。そして、二本鎖cDNA産物を、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿によって精製した。そして、二本鎖cDNA産物を、T7 RNA ポリメラーゼによるビオチン化相補性RNA(cRNAs)の試験管内における転写に使用した(ENZO BioArray High Yield RNA transcript-labeling kit、Enzo Biochem)。cRNAsを、親和性樹脂(Qiagen RNeasy spin columns)を使用することによって精製し、そして、40mMのTris-酢酸(pH8.1)、100mMの酢酸カリウム、及び30mMの酢酸マグネシウムを含むバッファー中、94℃にて35分間インキューベートすることによってランダムに断片化して、35〜200塩基の分子を作り出した。標識cRNAサンプルを、100mMの2-N-モルホリノエタンスルホン酸(Mes)、1MのNaCl、20mMのEDTA、及び0.01%のTween20を含むハイブリダイゼーション・バッファー中、0.1mg・ml-1の超音波処置したにしん精子DNAと混合し、99℃にて5分間変性し、そして、ハイブリダイゼーション前に45℃にて5分間、平衡化した。
【0317】
ハイブリダイゼーション混合物を、次に、マウスGeneChipマイクロアレイ・カートリッジ(430 2.0アレイ)に移し、そして、ロティサリー(rotisseri)により60rpm、45℃にて16時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたアレイを、次に、すすぎ、そして、流体ステーション(a fluidics station)(Affymetrix)により染色した。アレイを、まず、洗浄バッファーA[6×SSPE(0.9MのNaC/0.06MのNaH2PO4/0.006MのEDTA)/0.01%のTween20/0.005%の消泡剤]で25℃にて10分間すすぎ、洗浄バッファーB(100mMのMes/1MのNaCl/0.05%のTween20)と一緒に50℃にて20分間インキューベートし、ストレプトアビジン‐フィコエリスリン(SAPE)(10mg/mlのSAPEと2mg/mlのBSAを含む100mMのMes/1MのNaCl/0.05%のTween20)で25℃にて10分間染色し、洗浄バッファーAで25℃にて20分間洗浄し、そして、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体で25℃にて10分間染色した。染色した後に、アレイを、SAPEで25℃にて10分間染色し、洗浄バッファーAで30℃にて30分間洗浄した。プローブ・アレイを2回スキャンし、そして、強度を、MAS 5.0(Affymetrix)を使用することによってGeneArray Scanner(Agilent Technologies、Palo Alto, CA)を用いて平均した。
【0318】
データ処理と標準化(GENECHIP)
各遺伝子の発現レベルを、以下の手順で計算した。まず、局所的なバックグランドと全体的なバックグランドを測定した。アレイを、16個のセクターに分割し、そして、局所的なバックグランドを、そのセクター内のプローブ値の最も低い2%の平均から評価した。全体的なバックグランドを、プローブ・セット値の最も低い5%の平均によって評価した。2番目に、プローブ・セットの中のプローブ値の強度を、発現値を表す単一値に凝縮した。プローブ・セットの中で、異常値として負の値又はゼロ値をもつプローブを取り除き、発現レベルを表すように残りのプローブのシグナル強度を平均した。3番目に、アブソリュート・コール(absolute calls)を、プローブ・セットの発現値、及び局所的なノイズと全体的なバックグラウンド・レベルの相違点に基づいて割り当てた。局所的なノイズ・レベルを、プローブ・セットのすべてのピクセルの標準偏差と決定した。全体的なバックグランドに2倍の局所的なノイズを加えたものを超えたシグナル値を有するプローブ・セットを「存在」と呼び;全体的なバックグランドより低い値を有するプローブ・セットを「不存在」と呼び;そして、全体的なバックグランドより高いにもかかわらず、全体的なバックグランドに2倍の局所的なノイズを加えたものより低い値を有するプローブ・セットを「境界」と呼んだ。すべてのサンプルからのデータを、80の標的にプローブ・セットの平均強度をスケーリングすることによって標準化した。さらなるデータ・フィルタリング及び分析には、GENESPRINGソフトウェア(Agilent)を使用した。
【0319】
Affymetrixマイクロアレイ・データの分析
Affymetrix分析によって得られたデータを、Ingenuity Systemソフトウェアを使用して分析した。
【0320】
リアルタイムPCR法
リアルタイムRT-PCR分析のための1本鎖cDNA鋳型を、マイクロアレイ解析に使用したのと同じRNAプールから、及び先に記載したように、独立に得、抽出した二次サンプルから合成した。cDNA合成を、SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen Life Technologies)を使用することによって実施した。リアルタイムPCR増幅に使用されるプライマーの配列は、次のものであった:マウスJAM-C用:5’ GAA CTC GGA GAG AGG CAC TC 3’(順方向)及び5’ TAG TGC CCA GAG TCG TCC TT 3’(逆方向);マウスc-Fos用:5’ GAA TGG TGA AGA CCG TGT CA 3’(順方向)及び5’ TCT TCC TCT TCA GGA GAT AGC TG 3’(逆方向);マウスFosL2用:5‘ ACG CCG AGT CCT ACT CCA G 3’(順方向)及び5’ CAG GCA TAT CTA CCC GGA AC 3’(逆方向);マウスPAK3用:5’ CCA AAT GGG AAC TAC TTG AAC AG 3’(順方向)及び5’ CCA AAT GGG AAC TAC TTG AAC AG 3’(逆方向);マウスPVR用:5’ ACG GTG GAG CAT GAA AGC 3’(順方向)及び5’ GGA CAC GTT TTC AGG TGG AT 3’(逆方向);マウスBDNF用:5’ AGT CTC CAG GAC AGC AAA GC 3’(順方向)及び5’ AAG GAT GGT CAT CAC TCT TCT CA 3’(逆方向);マウスRAPGEF2用:5’ TTT CCT TGT GCG TTG CTA TG 3’(順方向)及び5’ TGT GAA GTC TGC AGG GAG TTT 3’(逆方向);マウスTspan6用:5’ GGT TGT TTC GCT ACC TGT CG 3’(順方向)及び5’ GTG TCA GAA ACA TCG CGT ACA 3’(逆方向);マウスAFAP用:5’ GCC ATC GAA GTG AAT GCA G 3’(順方向)及び5’ CAG CCT CTT CAA CTT GTC CTC 3’(逆方向);マウスPtgfrn用:5’ TCA AAT TGT TCT GTA TCG TCA CTG 3’(順方向)及び5’ ACA TCG AAG GCC ATG TCA TC 3’(逆方向);マウスVLDLR用:5’ GGG CCA TCC TTC CTC TCT T 3’(順方向)及び5’ GCC AAT TCC TCC ACA TCA AG 3’(逆方向);マウス・チューブリン2用:5’ GCA GTG CGG CAA CCA GAT 3’(順方向)及び5’ AGT GGG ATC AAT GCC ATG CT 3’(逆方向);マウスGAPDH用:5’ TCC ATG ACA ACT TTG GCA TTG 3’(順方向)及び5’ CAG TCT TCT GGG TGG CAG TGA 3’(逆方向)。
【0321】
Taqmanアッセイを、一般的なプローブ・ライブラリ(Exiqon, Roche Diagnosticsにより商品化)を使用して実施した(Mouritzen et al, BioTechniques, p 92, sept-oct. 2004)。アンプリコンを、あらゆる場合にデフォルト・パラメーターを用いた、Rocheによってに提供されるウェブ・ベースのソフトウェア(www.roche-applied-science.com)を使用して設計した。
【0322】
アッセイを、ゲノム汚染についてRNAサンプルの標準+/−RT反応により試験した;多くの場合、増幅は全く観察されなかった、そして、残りには、+RT反応と比較して、−RTにおいて少なくとも10サイクル後に増幅があった。アンプリコン配列は、マウス・ゲノムに対して、それらがアッセイされる遺伝子に特異的であることを確実にすることをBLASTによって確認した。それぞれのTaqmanアッセイの有効性を、cDNA連続希釈で試験した(Livak and Schmittgen 2001)。FastStart TaqMan Probe Master(ROX)を使用したすべての反応に、300nMまでROXを補った。すべてのPCRを、2分間、以下の条件:50℃にて2分間、95℃にて10分間、そして、95℃にて15秒間/60℃にて1分間の40サイクルを用いてABI 7900配列検出システム(Applied Biosystems)においておこなった。
【0323】
免疫蛍光
マウスJAM-Cの免疫蛍光のために、細胞を、PBSで洗浄し、そして、4%のパラホルムを用いて室温にて15分間、固定した。細胞を、次に、PBS、0.2%のFCS、及び0.01%のアジ化合物中、洗浄し、そして、ポリクローナル抗マウスJAM-C(「526」)と一緒に1時間インキューベートした。そして、2回の洗浄の後に、細胞を、Texas Redを結び付けた抗ウサギと一緒にインキューベートした(Jackson Immunoresearch Laboratory, Inc.、West Grove, PA, USA)。3回の洗浄において、DAPIを、5分間かけて加え、そして、スライドを、Mowiol(EMD BiosciencesによるCalbiochem)を用いて封入した。
【0324】
c-Srcタンパク質レベルと活性化の分析
総c-Srcタンパク質と、活性なリン酸化-c-Srcの量を、FACE c-Src ELISA kit(Active Motif、CA, USA)を使用して定量化した。GL261-233RCとGL261-233R細胞株を、1日目に、普通培地中、平底96ウェル・プレート内に20’000細胞/ウェルにて播種した。2日目に、細胞を、氷上で30分間インキューベートし、次に、5μg/mlの終濃度にて組み換えマウスJAM-B/Fcキメラ抗体(R&D、MM, USA)と一緒に37℃にて20分間インキューベートし、次に、細胞を、製造業者の教示(接着細胞のための比色アッセイ)に従って固定し、そして、c-Src ELISAを用いて分析した。
【0325】
統計的分析
すべてのデータを、統計的有意性についてSigmaStatソフトウェアを使用して分析した。
【0326】
寄託情報
ラット・モノクローナル抗体D33を産生するハイブリドーマ細胞株CRAM-17033を、受入番号第06092701号としてヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)によって2006年9月27日付けで1977年のブダペスト条約に従い特許寄託物として受理された。
【0327】
参考文献
以下の参考文献を、それらが代表的な手続き、又は本明細書中に記載のものを補う他の詳細を提供する程度まで、明確に本明細書で援用する。
【0328】
【化2】

【0329】
【化3】

【0330】
【化4】

【0331】
【化5】

【0332】
【化6】

【0333】
【化7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経膠腫の治療のための、JAM-Cに特異的に結合する化合物の使用。
【請求項2】
前記化合物が、JAM-Cの拮抗薬である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記拮抗薬が、JAM-CのJAM-Bとの相互作用を阻害する、請求項3に記載の使用。
【請求項4】
前記化合物が、JAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
JAM-Cに特異的に結合する前記抗体、又はその抗原結合フラグメントが、神経膠腫の増殖を阻害する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
神経膠腫拡散の阻害のための、JAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントの使用。
【請求項7】
神経膠腫の治療のための、JAM-Bに特異的に結合する化合物の使用。
【請求項8】
前記化合物が、JAM-Bの拮抗薬である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記拮抗薬が、JAM-BのJAM-Cとの相互作用を阻害する、請求項の8に記載の使用。
【請求項10】
前記化合物が、JAM-Bに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントである、請求項7、8又は9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
JAM-B若しくはJAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントがアビディティー効果を示す、請求項4〜6又は10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記のJAM-B若しくはJAM-Cに特異的に結合する抗体、又はその抗原結合フラグメントが、固相結合JAM-B若しくはJAM-C、及び分析物としてそれに結合する対応する抗体を使用した表面プラズモン共鳴法によって測定される、≧10‐4s‐1、好ましくは≧10‐2s‐1、そして、より好ましくは≧5×10‐2s‐1の解離定数kdをもつ、請求項4〜6、又は10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントが、毒素、放射性核種、又はサイトカインなどの細胞毒性物質に連結される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記神経膠腫が、星細胞腫である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記星細胞腫が、グレードI、グレードII、又はグレードIIIのものである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記星細胞腫が、神経膠芽腫である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記神経膠腫が、拡散した、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記化合物、拮抗薬、抗体、又は抗体の抗原結合フラグメントを全身に投与する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
JAM-Bに特異的に結合する化合物と、JAM-Cに特異的に結合する化合物を、組み合わせて使用する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
以下の:
a)受入番号第06092701号としてヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体D33;
b)(a)の抗体の抗原結合領域を含んで成る抗体;
c)(a)の抗体のヒト化又は霊長類化抗体、
から選択されるJAM-Cに特異的に結合する抗体。
【請求項21】
抗体D33を産生する、受入番号第06092701号としてヨーロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャー(ECACC)に寄託されたハイブリドーマ細胞株。
【請求項22】
請求項20に記載の抗体を、任意に、医薬として許容される担体又は賦形剤と共に含んで成る医薬組成物。
【請求項23】
医薬品として使用するための、請求項20に記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公表番号】特表2010−504955(P2010−504955A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529791(P2009−529791)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002861
【国際公開番号】WO2008/038127
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(309025524)メルク セローノ ソシエテ アノニム (49)
【Fターム(参考)】