説明

接合部材の製造方法

【課題】シリカを主成分とする部材の接合において、接合部に、接合剤等の不要な物質を残留させたり、接合面を荒らしたりすることなく、高い密着力で、耐熱衝撃性にも優れた接合状態で接合された接合部材を製造する方法を提供する。
【解決手段】接合面を酸またはアルカリ水溶液に浸漬して、親水化処理する工程、接合面を、クロロシラン、シランカップリング剤およびシラザンのうちのいずれかから選ばれたシラン化合物溶液の接合剤に浸漬して、接合部が空気に触れることなく仮接合させる工程、仮接合部材を前記接合剤の溶液中から取り出して、加圧・加熱下で本接合する工程とを経ることにより、接合部材を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のガラス等からなる部材を接合した接合部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗体解析や化学反応場の極小化の目的で、微細流路を有するバイオチップやマイクロ化学チップが盛んに用いられている。これらのバイオチップ等は、ガラス基板に微細流路となる溝を形成して、ガラス板を貼り合わせて作製される。
また、各種光学素子においても、異種のガラス部材同士を接合させて用いることが一般的に行われている。
【0003】
従来、ガラス部材同士の接合方法としては、ガラス基板を徐冷点以上に加熱する融着法(例えば、特許文献1参照)や、フッ化水素酸を用いる方法、アルカリ溶液を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、有機系接着剤を用いる方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
また、特許文献4には、マイクロ化学チップの製造に、シリコンアルコキシド化合物(アルコキシシラン)の溶液を用いることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第4000076号公報
【特許文献2】特許第3266041号公報
【特許文献3】特開2005−22935号公報
【特許文献4】特開2005−139016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱融着法によるガラス部材の接合は、ガラス部材をガラス徐冷点以上に加熱しなければならず、ガラス部材表面に歪みが生じ、ガラスの光学特性が変化するという課題を有していた。
【0006】
また、フッ化水素酸を用いる方法は、フッ化水素酸は、腐食性が強く、危険性が高い薬剤であるため、操作の安全性が確保できるような設備が必要となり、簡便な方法であると言い難い。また、ガラス部材が多成分系ガラスである場合、フッ化水素酸のガラス成分に対する反応性の違いから、接合面に凹凸やヘイズ(目視での曇り)を生じやすい。
【0007】
アルカリ溶液を用いる場合にも、多成分系ガラスでは、アルカリ薬剤のガラス成分に対する反応性の違いからか、接合面に凹凸やヘイズが生じやすい。また、接合部に残留した溶液によって、接合面にヘイズが生じたり、白化したりする場合もあった。
特に、電子部品や光学部品、分析器材等のガラス部材は、製品性能等の点で、残留アルカリの影響を受けやすいことから、アルカリ溶液の使用は好ましくない。
【0008】
また、シリコーン樹脂等の有機系接着剤を接合面に塗布して接合する方法は、マイクロ化学チップの微細流路内への接着剤の侵入を防止することが困難であり、微細流路を閉塞させることなく、確保することが難しい。
さらに、電子部品や光学部品、分析器材等の場合には、レーザや高温等の環境下、接合部で剥離や劣化を生じやすく、また、接着剤に起因するガスが発生し、これらのガラス部材を使用した機器等に悪影響を及ぼすこととなる。
【0009】
また、上記特許文献4には、アルコキシシランがガラス部材の接合に有効であることが記載されているが、加水分解性・ポットライフ(部分的に早い縮合生成物の発生)・溶液の安定性に問題があり、縮合生成物により接合不良を生じることがある。
そこで、本発明者らは、上記技術的課題に対して、アルコキシシラン以外の加水分解基を持つシラン化合物が、ガラス部材の接合に有効であることに着目し、ガラス等の部材を接合する方法において、シラン化合物を用いることを検討した結果、アルコキシシラン以外のガラス部材の接合に好適なシラン化合物の接合剤を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、シリカを主成分とする部材の接合において、接合部に、接合剤等の不要な物質を残留させたり、接合面を荒らしたりすることなく、高い密着力で、耐熱衝撃性にも優れた接合状態で接合された接合部材を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る接合部材の製造方法は、接合面の主成分がシリカである部材同士が接合された接合部材の製造方法において、クロロシラン、シランカップリング剤およびシラザンのうちのいずれかから選ばれたシラン化合物溶液を接合剤として用いて接合することを特徴とする。
接合面の主成分のシリカと同種の金属成分であるケイ素を含有する上記のような加水分解基を有するシラン化合物溶液を接合剤として用いることにより、不純物金属を含むことなく、高い密着性で接合された接合部材を得ることができる。
【0012】
前記接合剤のシラン化合物溶液は、強固な化学結合により接合させるため、前記シラン化合物が加水分解された状態で用いられることが不可欠である。
【0013】
また、本発明に係る接合部材の製造方法は、前記接合面を酸またはアルカリ水溶液に浸漬して、親水化処理する工程と、前記親水化処理を施した接合面を前記接合剤に浸漬して、接合部が空気に触れることなく仮接合する工程と、前記仮接合した接合部材を接合剤の溶液中から取り出して、加圧・加熱下で本接合する工程とを備えていることが好ましい。
上記工程を経ることにより、接合面全体において均一かつ高い密着性で接合された接合部材を得ることができる。
【0014】
上記製造方法は、前記部材の少なくとも一方が、ガラスである場合に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリカを主成分とする部材を接合する際、接合部に、接合剤等の不要な物質を残留させたり、接合面を荒らしたりすることなく、簡便に接合することができる。
また、本発明により得られた接合部材は、均一かつ高い密着力で接合し、耐熱衝撃性にも優れた接合状態を有している。
したがって、本発明に係る製造方法は、微細流路を有するバイオチップやマイクロ化学チップ、各種光学素子等の作製にも好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る接合部材の製造方法においては、接合面の主成分がシリカである部材同士を、シラン化合物溶液を接合剤として用いて接合する。
ここで、シラン化合物とは、有機ケイ素化合物の単量体(モノマー)の総称を指す。このシラン化合物のうち、加水分解により、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成し得る化合物の構造式は、RaSiX4-a(ここで、a=0〜3の整数、R=H,CH3,C66,Cn2n+1等の有機官能基、X=Cl,OCH3,OC25等の加水分解性基)で表される。
ガラス等のシリカを主成分とする部材等の接合において、上記のようなシラン化合物を用いれば、前記シラン化合物が加水分解されてシラノールとなり、一部がオリゴマーになり、部材の接合面に水素結合的に吸着する。次いで、乾燥処理により、脱水縮合反応を行い、強固に化学結合(一部は水素結合が残る)させることにより、密着性の高い接合状態が得られると考えられる。
【0017】
上記のような接合に用いることができる代表的なシラン化合物としては、クロロシラン、アルコキシシラン、シランカップリング剤、シラザン、シロキサン等が挙げられる。これらのうち、本発明においては、クロロシラン、シランカップリング剤、シラザンを用いる。
このように、接合面の主成分のシリカと同種の金属成分であるケイ素を含有するシラン化合物溶液を用いることにより、不純物金属を含むことなく、高い密着性で接合された接合部材を得ることができる。
【0018】
接合させる部材のシリカを主成分とする接合面の材質としては、ガラス、セラミックス等が挙げられる。本発明においては、少なくとも一方がガラスであることが好ましく、ガラスとしては、例えば、ソーダライムシリカガラス、アルミノケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。
なお、接合面の主成分がシリカであればよく、部材の接合面以外の部分は、主成分がシリカでなくてもよい。
【0019】
本発明に係る接合においては、接合面の親水化処理工程、接合剤溶液中への浸漬・仮接合工程、加圧・加熱下での本接合工程を経ることにより、部材同士を接合させる。
前記シラン化合物を用いてガラス部材等を接合する場合、該部材の接合面の親水化処理が不可欠である。
前記親水化処理は、接合面全体における均一な接合のために重要な前処理であり、接合面を酸またはアルカリ水溶液に浸漬することにより行うが、部材にダメージを与えたり、部材の接合面を荒らしたりしない条件で行う。
具体的には、硫酸と過酸化水素水との混合液、アンモニアと過酸化水素水との混合液、硫酸とクロム酸の混合液、硫酸、塩酸、硝酸等に浸漬させたり、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液に浸漬させたりすることにより行うことができる。
なお、前記接合面は、親水化処理前に、予め、クリーニングしておくことが好ましい。前記クリーニングは、乾式および湿式のいずれでも有効である。
【0020】
上記のような親水化処理により、前記接合面に水酸基が付与され、この接合面同士を貼り合わせることにより、水素結合による結合力が生じることとなる。
したがって、親水化処理を施した後、水のみでも、接合可能な場合もあるが、接合面の表面粗さの程度によっては、十分な接合力が得られないことがある。
このような場合は、接合面に、水素結合を生じる水酸基をより多く付与することにより、接合力を高めることができる。さらに、水酸基を付与することにより、接合時間の短縮化、加圧・加熱下での本接合後の接合の持続性の向上、耐熱特性の向上等を図ることもできる。
本発明においては、このような観点から、親水化処理後、さらに水酸基を付与するために、接合面の主成分のシリカと同種の金属成分であるケイ素を含有するシラン化合物溶液を接合剤として用いる。
【0021】
前記シラン化合物によるガラス部材等の接合では、接合剤溶液において、シラン化合物が十分に加水分解していることが重要である。
加水分解が不十分な場合、接合不良の可能性が高くなるのみならず、接合後の密着力不足や熱衝撃による剥離が生じる場合がある。
本発明において用いる上記シラン化合物の接合剤溶液は、シリコンアルコキシド化合物よりも、加水分解性およびポットライフに優れており、接合時における作業効率に優れ、取り扱い容易である。
なお、接合剤溶液は、通常、水溶液とするが、シラン化合物の溶解性に応じて、アルコール等の混合溶液としてもよい。また、溶液の加水分解性およびポットライフの確保の観点から、必要に応じて、酸やアルカリの添加により、適宜pH調整を行ってもよい。
【0022】
前記接合剤溶液中に、十分な親水化処理を施した前記部材の接合面を浸漬させ、位置合わせ治具等を用いて、気泡等の脱泡、防塵処理をし、加圧して仮接合する。
この仮接合は、接合面へのゴミ付着、気泡混入を防ぐため、接合部が空気に触れないように、溶液中で行う。
前記接合剤溶液中のシラン化合物は、加水分解され、部材同士の界面において、一部が縮合してオリゴマーとなり、部材の接合面に水素結合的に縮合すると考えられる。
【0023】
この仮接合品を前記溶液から取り出し、プレス機にセットし、所定の加圧、温度、時間にて、本接合する。
この段階で、部材同士の界面における接合剤溶液は、乾燥され、脱水重縮合により、強固な化学結合と一部に残存する水素結合とにより、部材同士が高い密着性で接合すると推定される。
【0024】
部材同士の間の接合層の厚さは、分子レベルにする必要があるため、接合面の平坦度と均一な加圧が重要となる。より厳密に行うためには、具体的には、接合面の研磨、平坦度測定、精密減圧等を行い、加熱プレスシステム等を用いることが好ましい。
【0025】
本接合においては、良好な接着状態を得る観点から、温度は室温〜155℃の範囲内、加圧は1MPa以下で行うことが好ましい。
接合時の温度や圧力が高すぎると、部材表面に凹凸を生じることとなるため、好ましくない。
【0026】
上記のような本発明に係る接合部材の製造方法によれば、ガラス部材の場合、接着面において、接合剤による光透過性の低下等を招くことなく、透明性を維持したまま優れた密着強度で接合した部材を得ることができる。
【0027】
また、本発明は、石英ガラス・ホウケイ酸ガラス・ソーダガラス・シリカ系コバールガラス等のシリカ系の異種ガラス同士の接合にも適用することができる。
例えば、真空部品等において用いられる金属コバールと石英ガラスの接合部材においては、気密性等の観点から、接着剤を使用することができず、従来は、金属コバールと石英ガラスとの間に、熱膨張係数が異なる複数のガラス層を熱熱膨張係数が漸次傾斜するような状態で5〜7層熱融着させて接合させていた。
このような場合にも、本発明によれば、金属コバールに熱融着させたガラス層と石英ガラスとを熱融着によらずに接合させることができるため、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0028】
また、光学部品においても、異種のレンズ(ガラス)を接合して用いる場合があり、熱膨張係数の異なる部材の場合、熱融着させることはできないため、従来は、UV接着剤が一般的に使用されていたが、UV接着剤の使用は、紫外領域の透過性を損なうため好ましくない。
これに対して、本発明によれば、検出計セル、反射膜、光学測定装置、各種光学素子等においても、光学特性を損なうことなく接合することができるという利点を有している。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
(接合剤の加水分解)
下記a)〜e)の接合剤溶液を調製した。
a)1%メチルトリクロロシラン溶液
メチルトリクロロシランの2%エタノール溶液を水で2倍に希釈して撹拌した。
b)1%シランカップリング剤溶液
KBE−903(信越化学工業株式会社製;3−アミノプロピルトリエトキシシラン)を水で希釈して撹拌した。
c)1%ヘキサメチルシラザン溶液
ヘキサメチルシラザンの2%エタノール溶液を水で2倍に希釈して撹拌した。
d)1%テトラエトキシシラン溶液
テトラエトキシシランを水で希釈し、エタノールを1%添加し、撹拌した。
e)1%テトラメトキシシラン溶液
テトラメトキシシランを水で希釈し、メタノールを1%添加し、撹拌した。
【0030】
(接合剤溶液のpH調整)
上記により調製した各接合剤溶液について、1%水酸化カリウム水溶液または1%硫酸を用いて、pH調整を行った接合剤溶液も用意した。
(親水化処理)
直径30mm、厚さ1mmの円板状ガラス2枚を、H2SO4−H22(3:1)に30分間浸漬させた後、水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬させることにより、親水化処理を行った。
(接合)
前記親水化処理を施した円板状ガラス2枚を、上記の各接合剤溶液に15分間浸漬させて、仮接合し、溶液から取り出した。
前記仮接合したガラスを1MPa、120℃で3時間加圧・加熱処理して本接合した。
【0031】
上記各接合剤を用いて接合したガラスについて、各種接合評価を行った。
ガラスの接合面に対する濡れ性は、いずれの接合剤溶液も良好であった。
また、接合面の観察においては、アルカリ接合の場合、接合面の溶液残により、ガラスが白変する場合があったが、接合剤溶液a〜eについては、いずれも、接合部に残留異物は認められず、接合した部材の光学特性に変化は見られなかった。
また、ガラスの接合部においては、−10Pa・m3/sec台でHeリークテストにおいて、いずれも、リークはなかった。
【0032】
その他の評価結果を表1,2にまとめて示す。なお、表2に、10%水酸化カリウム溶液を用いて、65℃で12時間加圧して接合した場合(アルカリ接合)、水のみで接合した場合についても、参考として併記する。
表1において、加水分解性は、100%加水分解する時間により評価し、◎:1時間以内、○:48時間以内、×:48時間以上でも100%加水分解しないものとした。
ポットライフの評価は、100%加水分解後、◎:3週間経過後も接合状態の変化なし、○:3日以内は接合可能とした。
接合状態の評価は、目視により接合不良の有無を判定し、◎:良好、○:おおむね良好(端部未着箇所あり)とした。
耐熱衝撃については、−20℃から100℃に昇温した場合の接合部の剥離の有無により判定し、◎:剥離なし、○:ほぼ剥離なし、△:剥離する場合ありとした。
接合強度(引っ張り強度)は、◎:0.5N/mm2以上、△:0.5N/mm2未満とした。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
上記評価結果から、本発明に係るシラン化合物の接合剤溶液を用いた接合においては、接合部に残留異物が観察されることなく、良好な接合状態が得られ、接合部の耐熱衝撃性、接合強度にも優れていることが認められた。
また、本発明に係るシラン化合物の接合剤溶液は、加水分解性、ポットライフも、接合剤として使用する上では十分なものであった。
これに対して、シリコンアルコキシド化合物であるテトラエトキシシランおよびテトラメトキシシランは、加水分解性が悪く、長時間撹拌後、ゲル状物を生じ、使用時にろ過を要する等、作業効率の点においても、劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面の主成分がシリカである部材同士が接合された接合部材の製造方法において、クロロシラン、シランカップリング剤およびシラザンのうちのいずれかから選ばれたシラン化合物溶液を接合剤として用いて接合することを特徴とする接合部材の製造方法。
【請求項2】
前記接合剤のシラン化合物溶液は、前記シラン化合物が加水分解された状態で用いられることを特徴とする請求項1記載の接合部材の製造方法。
【請求項3】
前記接合面を酸またはアルカリ水溶液に浸漬して、親水化処理する工程と、前記親水化処理を施した接合面を前記接合剤に浸漬して、接合部が空気に触れることなく仮接合する工程と、前記仮接合した接合部材を接合剤の溶液中から取り出して、加圧・加熱下で本接合する工程とを備えていることを特徴とする請求項1または2記載の接合部材の製造方法。
【請求項4】
前記部材の少なくとも一方がガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接合部材の製造方法。

【公開番号】特開2010−37162(P2010−37162A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203331(P2008−203331)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(509248718)TSS株式会社 (4)
【Fターム(参考)】