説明

接合部補強構造

【課題】この発明は、木製の軸部材を傷つけることなく、例えば、既設の木造軸組み構造物の接合部であっても、容易に補強することのできる接合部補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】木製の軸部材110同士を交差させて接合する接合部100を補強する接合部補強金物1であって、各軸部材110における外周部の一部を囲繞する鋼製の鋼製補強部材10と、接合部100の隅角部内側において鋼製補強部材10同士を接続する隅角部プレート20とで構成し、鋼製補強部材10を、複数のコの字鋼製カバー11を組付けて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造軸組み構造物における梁や柱を接合した接合部を補強する接合部補強構造に関し、さらに詳しくは、木製の軸部材を傷つけることなく、簡単に補強することのできる接合部補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
阪神大震災以降、建築基準法が改定され、木造軸組み構造物もこれまで以上の耐震性が必要となり、さまざまな補強構造が提案されている。例えば、特許文献1に記載の木造軸組み構造物の免震構造では、木造軸部材の挿入固定を許容する接合金物で柱や梁による接合部を構成している。
【0003】
これにより、従来の木造軸組み構造物と比べて、容易に施工できるとともに、接合部における免振性を有するとされている。しかし、この免震構造では、接合金物に挿入した軸部材を、接合金物ごとボルトを貫通させ、接合金物と軸部材とを固定するため、補強のために貫通させたボルトによって軸部材の強度が低下するといった問題があった。例えば、ボルトを貫通させるための断面欠損を考慮した軸部材を用いることのできる新設の木造軸組み構造物であれば問題はないが、このような断面欠損を考慮していない軸部材が用いられている既設の木造軸組み構造物において、ボルトを貫通させるための貫通孔は構造上大きな影響を与えると考えられる。
【0004】
また、現建築基準法より昔に建築した現存する既設の木造軸組み構造物は、新設の構造物に比べて耐震性が低く、耐震性の向上は急務であり、簡単に施工によって確実に補強できる補強構造が望まれている。しかし、上述の特許文献1の免震構造は、そもそも柱や梁を構成する軸部材を接合金物で接合するため、既に軸部材が接合されている既設構造物に用いることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−356915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、木製の軸部材を傷つけることなく、例えば、既設の木造軸組み構造物の接合部であっても、容易に補強することのできる接合部補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、木製の軸部材同士を交差させて接合する接合部を補強する接合部補強構造であって、各軸部材における外周部の一部を囲繞する鋼製の鋼製補強部材と、前記接合部の隅角部内側において前記鋼製補強部材同士を接続する接続補強部材とで構成し、前記鋼製補強部材を、複数の鋼製部品を組付けて構成したことを特徴とする。
【0008】
上記木製の軸部材は、柱や梁等を構成するたとえば三寸や四寸の木製の角材であり、軸組や線材ともいう。
上記接合部は、例えば、ほぞとほぞ穴とによる仕口とすることができる。
【0009】
この発明の構成により、木製の軸部材を傷つけることなく、容易に接合部を補強することができる。
詳しくは、鋼製補強部材は各軸部材における外周部の一部を囲繞し、接続補強部材は接合部の隅角部内側において鋼製補強部材同士を接続する構成であるため、鋼製補強部材や接続補強部材を接合部に装着して補強することができる。したがって、容易に接合部を補強することができる。
【0010】
また、この発明の構成により、例えば、既設の木造軸組み構造物の接合部であっても、木製の軸部材を傷つけることなく、容易に補強することができる。
詳しくは、複数の鋼製部品を組付けて鋼製補強部材を構成しているため、軸部材同士が接続された既設木造軸組み構造物の接合部であっても、例えば軸部材を貫通させるようなボルト等を用いることなく、各軸部材における鋼製補強部材を装着する箇所に鋼製部品を組付けることで、簡単に、各軸部材における外周部の一部を囲繞する態様で鋼製補強部材を装着することができる。したがって、木製の軸部材を傷つけることなく、容易に接合部を補強することができる。
【0011】
このように、この発明の構成により、新設、既設を問わず木造軸組み構造物において軸部材を傷つけることなく、容易に接合部を補強することができる。したがって、接合部を補強することにより、木造軸組み構造物の耐震性を向上することができる。
【0012】
この発明の態様として、前記鋼製補強部材と、前記軸部材との間に緩衝材を介在させることができる。
上記緩衝材は、ゴム製シート、あるいは弾性を有する塗料等による被膜等で構成することができる。
【0013】
この発明の構成により、さらに、確実に木製の軸部材を傷つけることなく、容易に補強することができる。詳しくは、地震動や風等の外力によって、木製の軸部材を組み付けた木造軸組み構造物はわずかに撓む。このとき、鋼製補強部材や接続補強部材に比べて変形性が高い木製の軸部材が一旦弾性変形し、その外力を吸収することができる。
【0014】
このように、外力に対して変形する木製の軸部材と、接続補強部材で剛結された鋼製補強部材との間に緩衝材を介在させることで、接合部補強構造で補強した接合部であっても、木製の軸部材が有効に、外力に対して変形して外力を吸収するとともに、例えば、変形しない鋼製補強部材が変形する木製の軸部材に食い込んで傷つける等の不具合を防止することができる。
【0015】
また、この発明の態様として、外力による前記接合部を支点とした前記木製の軸部材同士の変形による前記鋼製補強部材の相対移動を許容し、所定量より大きな相対移動を規制する相対移動規制手段を備えることができる。
【0016】
上記外力は、木製の軸部材を組みつけて構成した木造軸組み構造物に対して、外部から作用する地震や風等の外力、或いは、木造軸組み構造物の内部から作用する振動や、温度・湿度等による変形等に起因する外力、或いはこれらが共に作用した場合の外力とすることができる。
【0017】
上記所定量は、木製の軸部材を組み付けた木造軸組み構造物が、例えば、倒壊や使用不可能となる惧れがあるような木製の軸部材同士の変形となる鋼製補強部材の相対移動のように、木製の軸部材の変形の弾性範囲の上限を基準として安全率を有する所定量とすることができる。
【0018】
この発明の構成により、木造軸組み構造物における木製の軸部材自体が有する変形性能を有効に活用しながら、軸部材の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部を補強することができる。
【0019】
また、この発明の態様として、前記接続補強部材と、前記鋼製補強部材とを、前記接続補強部材及び前記鋼製補強部材に備えたボルト孔を連通するボルトで接続し、前記相対移動規制手段を、許容する鋼製補強部材の相対移動に応じた長孔形状のボルト孔で構成することができる。
【0020】
この発明の構成により、簡易な構造でありながら、木製の軸部材自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部を補強することができる。詳しくは、長孔に対してボルトが遊嵌するため、ボルトの遊び分では接続補強部材及び鋼製補強部材による補強を作用させずに木製の軸部材の変形性能を活かすことができる。これに対し、長孔に対するボルトの遊び分を超える変形が木製の軸部材に作用する場合、長孔とボルトとによって、接続補強部材及び鋼製補強部材は変形方向において拘束され、接合部を補強することができる。
【0021】
また、この発明の態様として、前記長孔形状のボルト孔を、前記接続補強部材及び前記鋼製補強部材に備え、前記接続補強部材のボルト孔と、前記鋼製補強部材のボルト孔の長孔方向を交差させることができる。
上記長孔方向は、長孔形状における長軸方向とすることができる。
【0022】
これにより、変形が振動する外力に対しても、簡易な構造でありながら、木製の軸部材自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部を補強することができる。
【0023】
詳しくは、地震動のように外力が振動する場合、木製の軸部材の変形による鋼製補強部材同士の相対移動は、接続補強部材の接続方向における圧縮方向と引張り方向の両方向に生じる。このように、両方向における鋼製補強部材同士の相対移動において、接続補強部材のボルト孔と、鋼製補強部材のボルト孔の長孔方向を交差させることによって、接続補強部材の接続方向における平面上の二次元方向のいずれの方向の圧縮・引っ張りに確実に対応することができる。したがって、ボルト接続する長孔形状のボルト孔における長孔方向を交差させるという簡易な構造でありながら、確実に、所定量の相対移動の許容と規制とを実現することができる。
【0024】
また、この発明の態様として、前記接続補強部材を、前記鋼製補強部材同士を接続する接続方向の一部が重なり合うラップ部分を有する複数の接続部品で構成し、前記接続部品同士を、前記ラップ部分においてそれぞれに備えた接続ボルト孔を連通する接続ボルトで接続し、前記相対移動規制手段を、許容する前記鋼製補強部材の相対移動に応じた長孔形状で形成した前記接続ボルト孔で構成することができる。
【0025】
この発明の構成により、簡易な構造でありながら、木製の軸部材自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部を補強することができる。詳しくは、長孔に対してボルトが遊嵌するため、ボルトの遊び分では接続補強部材及び鋼製補強部材による補強を作用させずに木製の軸部材の変形性能を活かすことができる。これに対し、長孔に対するボルトの遊び分を超える変形が木製の軸部材に作用する場合、長孔とボルトによって接続補強部材及び鋼製補強部材は変形方向において拘束され、接合部を補強することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、木製の軸部材を傷つけることなく、例えば、既設の木造軸組み構造物の接合部であっても、容易に補強することのできる接合部補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】接合部補強金物を装着した接合部の斜視図。
【図2】接合部補強金物を装着した接合部のA−A断面図。
【図3】接合部補強金物の組付けを説明する斜視図。
【図4】接合部補強金物の組付けを説明する斜視図。
【図5】接合部補強金物の変形許容について説明する説明図。
【図6】帯状隅角部プレートを備えた接合部補強金物についての斜視図。
【図7】扇状隅角部プレートを備えた接合部補強金物についての説明図。
【図8】楔隅角部プレートを備えた接合部補強金物についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の一実施の形態を以下図面に基づいて詳述する。
図1は接合部補強金物1を装着した状態の接合部100の斜視図を示し、図2は同状態の接合部100のA−A(図1)断面図を示している。
【0029】
図3,4は、接合部100に接合部補強金物1の組付けに関して説明する斜視図を示している。詳しくは、図3は、接合部100を構成する軸部材110に鋼製補強部材10を組付けする状態の斜視図を示している。これに対し、図4は軸部材110に組付けられた鋼製補強部材10に隅角部プレート20を装着する状態の斜視図を示している。
【0030】
図5は接合部補強金物1の変形許容について説明する説明図を示している。詳しくは、接合部100において、隅角部プレート20の上半分は、鋼製補強部材10の固定リブ12の厚み内側における断面図を示し、下半分は、隅角部プレート20の厚み内側における断面図を示している。
【0031】
接合部補強金物1は、図1,4に示すように、柱部材120と梁部材130,140とを接合した接合部100に装着されている。なお、梁部材130,140は、先端に形成されたほぞ(図示省略)を、柱部材120に形成されたほぞ孔(図示省略)に挿入して接合している。
【0032】
接合部補強金物1は、各軸部材110(柱部材120、梁部材130,140)に装着した鋼製補強部材10と、隣り合う鋼製補強部材10同士の隅角部内側に配置した隅角部プレート20とを、ボルト15で接合して構成している。
【0033】
鋼製補強部材10は、図2,3に示すように、鋼板をコの字型に折り曲げて形成した断面コの字型のコの字鋼製カバー11をコの字の内側同士が対向するように、軸部材110の外側を囲繞して構成している。詳しくは、コの字鋼製カバー11は、軸部材110の外形に応じた平面部11aと、平面部11aの両側に配置し、直交方向の側面部11bとで構成している。なお、側面部11bは、平面部11aの約半分の長さで形成している。
【0034】
また、コの字鋼製カバー11の外面には、長手方向を合わせ、各面に立設した固定リブ12を備えている。なお、平面部11aの固定リブ12は、後述する隅角部プレート20の厚みに応じた間隔で2枚平行に配置され、側面部11bの固定リブ12は、平面部11aとは反対側の縁部から隅角部プレート20の半分の厚み分控えた位置に立設している。
【0035】
固定リブ12は、ボルト15の挿通を許容するボルト孔13を形成している。なお、ボルト孔13は、図5a部拡大図に示すように、固定リブ12の短手方向に長い長孔形状で形成している。また、本実施例では、固定リブ12にそれぞれ2つのボルト孔13を形成しているが、これに限定されず、3つ以上のボルト孔13を形成してもよい。
【0036】
また、コの字鋼製カバー11の内面には、弾性を有するゴムシート14を貼付している。なお、ゴムシート14は、コの字鋼製カバー11内面に貼付せずとも、軸部材110に巻き付けて、その外側からコの字鋼製カバー11を装着してもよい。
【0037】
隅角部プレート20は、正面視略二等辺直角三角形の鋼板であり、斜辺20aにおける固定リブ12の対応位置に、ボルト15の挿通を許容するボルト孔21を備え、直角の頂点部分に、内向きに凹状の円弧切り欠き22を形成している。なお、ボルト孔21は、図5b部拡大図に示すように、隅角部プレート20の斜辺20aと平行な方向に長い長孔形状で形成している。
【0038】
次に、上述のように構成した接合部補強金物1の組立方法について、図3,4とともに説明する。
まず、図3に示すように、内面にゴムシート14を貼付した2つのコの字鋼製カバー11を対向させて、接合部100の各軸部材110の所定箇所の外側から挟み込む態様で装着する。そして、接合部100における隅角部内側において、対向させたコの字鋼製カバー11の固定リブ12の間に、隅角部プレート20を挿着し、固定リブ12のボルト孔13の中心と、隅角部プレート20のボルト孔21の中心とを合わせ、ボルト15を貫通して固定する。
【0039】
これにより、ボルト孔13とボルト孔21において、ボルト15は両方向に隙間のある遊嵌状態となる。また、固定リブ12を介した鋼製補強部材10と隅角部プレート20との接続では、軸部材110の近づく方向(図5における矢印a方向)の変形に対応して、斜辺20aとコの字鋼製カバー11の表面との間に適宜の隙間をとって固定している。
【0040】
これを、接合部100を構成するすべての軸部材110及び隅角部に対して行って接合部補強金物1を完成させる。このように、接合部補強金物1における鋼製補強部材10は、軸部材110に対して、長手方向に拘束されずに固定された状態となる。なお、接合部補強金物1では、鋼製補強部材10と隅角部プレート20とを固定するボルト15で、コの字鋼製カバー11同士の固定も行ったが、鋼製補強部材10と隅角部プレート20とを固定するボルト15とは別に、コの字鋼製カバー11同士を固定する固定リブとボルトを備えてもよい。
【0041】
このようにして組み立てた接合部補強金物1の補強作用について説明する。
接合部補強金物1は、鋼製補強部材10のボルト孔13及び隅角部プレート20のボルト孔21がボルト15に対して遊嵌しており、ボルト孔13とボルト孔21の長孔方向が直交しているため、接合部100において、軸部材110が近づく方向(矢印a方向)に変形した場合、図5のa部拡大図−1及びb部拡大図−1に示すように、隅角部プレート20に対して軸部材110が近づく方向にボルト15が相対移動し、所定量分移動すると、ボルト15によってボルト孔13,21の位置が規制される。
【0042】
したがって、このボルト孔13,21の長孔形状に応じた所定量を超える軸部材110の変形は接合部補強金物1によって規制され、鋼製補強部材10と隅角部プレート20とが軸部材110の近づく方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1によって補強されることとなる。
【0043】
逆に、接合部100において、軸部材110が遠ざかる方向(矢印b方向)に変形した場合、図5のa部拡大図−2及びb部拡大図−2に示すように、隅角部プレート20に対して軸部材110が遠ざかる方向にボルト15が相対移動し、所定量分移動すると、ボルト15によってボルト孔13,21の位置が規制される。
【0044】
したがって、この所定量を超える軸部材110の変形は接合部補強金物1によって規制され、鋼製補強部材10と隅角部プレート20とが軸部材110の遠ざかる方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1によって補強されることとなる。
【0045】
また、軸部材110の変形量が所定量を超え、鋼製補強部材10が所定方向において拘束された状態となった際にでも、コの字鋼製カバー11の内面にはゴムシート14を備えているため、ゴムシート14の緩衝作用により、例えば、鋼製補強部材10が軸部材110に食い込むことのように、所定方向において拘束された状態の鋼製補強部材10によって軸部材110が傷つくことを防止できる。
【0046】
このように、木製の軸部材110同士を交差させて接合する接合部100を補強する接合部補強金物1は、各軸部材110における外周部の一部を囲繞する鋼製の鋼製補強部材10と、前記接合部100の隅角部内側において前記鋼製補強部材10同士を接続する隅角部プレート20とで構成し、前記鋼製補強部材10を、2つのコの字鋼製カバー11を組付けて構成したため、木製の軸部材110を傷つけることなく、容易に接合部100を補強することができる。
【0047】
詳しくは、鋼製補強部材10は各軸部材110における外周部の一部を囲繞し、隅角部プレート20は接合部100の隅角部内側において鋼製補強部材10同士を接続する構成であるため、鋼製補強部材10や隅角部プレート20を、接合部100に装着して補強することができる。したがって、木製の軸部材110を傷つけることなく、容易に接合部100を補強することができる。
【0048】
また、接合部補強金物1は、例えば、既設の木造軸組み構造物の接合部100であっても、木製の軸部材110を傷つけることなく、容易に補強することができる。
詳しくは、複数のコの字鋼製カバー11を組付けて鋼製補強部材10を構成しているため、軸部材110同士が接続された既設木造軸組み構造物の接合部100であっても、軸部材110を貫通させるような貫通ボルト等を用いることなく、各軸部材110における鋼製補強部材10を装着する箇所にコの字鋼製カバー11を組付けることで、簡単に、各軸部材110における外周部の一部を囲繞する態様で鋼製補強部材10を装着することができる。
【0049】
このように、接合部補強金物1は、木造軸組み構造物の新設、既設を問わず、軸部材110を傷つけることなく、容易に接合部100を補強することができる。したがって、接合部100を補強することにより、木造軸組み構造物の耐震性を向上することができる。
【0050】
また、接合部補強金物1は、鋼製補強部材10と、軸部材110との間にゴムシート14を介在させているため、確実に木製の軸部材110を傷つけることなく、容易に補強することができる。詳しくは、地震動や風等の外力によって、木製の軸部材110を組み付けた木造軸組み構造物がわずかに撓んでも、鋼製補強部材10や隅角部プレート20に比べて変形性が高い木製の軸部材110が一旦弾性変形し、その外力を吸収することができる。
【0051】
このように、外力に対して変形する木製の軸部材110と、隅角部プレート20で剛結された鋼製補強部材10との間にゴムシート14を介在させることで、接合部補強金物1で補強した接合部100であっても、木製の軸部材110が有効に、外力に対して変形して外力を吸収するとともに、例えば、変形しない鋼製補強部材10が変形する木製の軸部材110に食い込んで傷つける等の不具合を防止することができる。
【0052】
また、外力による接合部100を支点とした木製の軸部材110同士の変形による鋼製補強部材10の相対移動を許容し、所定量より大きな相対移動を規制するように、隅角部プレート20と鋼製補強部材10とを、隅角部プレート20及び鋼製補強部材10に備えたボルト孔13,21を連通するボルト15で接続し、ボルト孔13,21とを長孔形状で形成したため、木造軸組み構造物における、木製の軸部材110自体が有する変形性能を有効に活用しながら、軸部材110の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部100を補強することができる。
【0053】
詳しくは、長孔に対してボルト15が遊嵌するため、ボルト15の遊び分では隅角部プレート20及び鋼製補強部材10による補強を作用させずに木製の軸部材110の変形性能を活かすことができる。これに対し、長孔形状のボルト孔13,21に対するボルト15の遊び分を超える変形が木製の軸部材110に作用する場合、長孔形状のボルト孔13,21とボルト15によって、隅角部プレート20及び鋼製補強部材10は木製の軸部材110の変形方向において拘束され、接合部100を補強することができる。
【0054】
また、長孔形状のボルト孔13,21の長孔方向を交差させているため、軸部材110の変形が振動するような外力に対しても、簡易な構造でありながら、木製の軸部材110自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材110の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部100を補強することができる。
【0055】
詳しくは、地震動のように外力が振動する場合、木製の軸部材110の変形による鋼製補強部材10同士の相対移動は、隅角部プレート20の接続方向における圧縮方向(図5矢印a方向)と引張り方向(図5矢印b方向)の両方向に生じる。このように、両方向における鋼製補強部材10同士の相対移動において、隅角部プレート20のボルト孔21と、鋼製補強部材10のボルト孔13の長孔方向を交差させることによって、隅角部プレート20の接続方向における平面上の二次元方向のいずれの方向の圧縮・引っ張りに確実に対応することができる。したがって、ボルト15で接続する長孔形状のボルト孔13,21における長孔方向を交差させるという簡易な構造でありながら、確実に、所定量の相対移動の許容と規制とを実現することができる。
【0056】
また、鋼製補強部材10は、軸部材110に対して、断面コの字型のコの字鋼製カバー11を対向させて、固定リブ12によってボルト15で固定しているため、例えば、鋼製補強部材10を固定するための軸部材110を貫通する貫通ボルトを用いることがなく、軸部材110を傷つけずに鋼製補強部材10を装着することができる。
【0057】
また、鋼製補強部材10は軸部材110に対して長手方向に拘束していないため、軸部材110が変形した場合であっても、軸部材110が変形した際の長手方向の負荷が鋼製補強部材10を介して作用しても、軸部材110に負荷が伝達することを防止できる。
【0058】
なお、隅角部プレート20の両側のボルト孔13とボルト孔21とが長孔形状で形成されたが、隅角部プレート20の一方のボルト孔13とボルト孔21とを長孔形状で形成し、他方のボルト孔13とボルト孔21とをボルト15が遊嵌しない通常の円孔形状で形成してもよい。
【0059】
なお、上記説明において、鋼製補強部材10を軸部材110における接合部100近傍に装着したが、図6に示すように、軸部材110において接合部100から離れた位置に鋼製補強部材10を装着してもよい。この場合、二等辺直角三角形状に形成した隅角部プレート20の代わりに、帯状の帯状隅角部プレート20’で鋼製補強部材10同士を接続すればよい。これにより、上記隅角部プレート20で鋼製補強部材10を接続した接合部補強金物1と同様の効果を得ることができるとともに、軸部材110における接合部100近傍に鋼製補強部材10を装着できないような場合であっても、簡単に鋼製補強部材10を装着することができる。
【0060】
また、鋼製補強部材10と隅角部プレート20とを用いた接合部補強金物1を接合部100近傍に装着するとともに、鋼製補強部材10と帯状隅角部プレート20’を用いた接合部補強金物1とを接合部100から離れた位置に装着して、接合部100に対する二重の補強効果を得ることもできる。
【0061】
次に、隅角部プレート20の代わりに、二枚の扇状の扇プレート31を用い、その一部を重ね合わせたラップ部32を構成する扇状隅角部プレート30を用いた接合部補強金物1aについて、図7とともに説明する。
【0062】
なお、図7(a)は接合部補強金物1aにおける扇状隅角部プレート30で鋼製補強部材10を接続したひとつの部分の正面図を示し、図7(b)は同部分の側面図を示し、図7(c)は同部分の背面図を示している。
【0063】
また、図7におけるa部拡大図−1は、図7(a)におけるa部において軸部材110が近づく方向(矢印a方向)に変形した場合の拡大図を示し、図7におけるa部拡大図−2は、図7(a)におけるa部において軸部材110が遠ざかる方向(矢印b方向)に変形した場合の拡大図を示している。
【0064】
接合部補強金物1aは、鋼製補強部材10と、扇状隅角部プレート30と、鋼製補強部材10及び扇状隅角部プレート30を接続するボルト15とで構成している。なお、鋼製補強部材10とボルト15は、上述の接合部補強金物1における鋼製補強部材10とボルト15と同じであるため、説明を省略する。
【0065】
接合部補強金物1における隅角部プレート20の代わりの扇状隅角部プレート30は、中心角が45°以上である55°程度で構成した扇形の扇プレート31の2枚を、隅角部中央付近でおよそ10°の角度でラップさせ、そのラップ部33に中央付近に、ボルト15を貫通を許容するボルト孔33をそれぞれに形成している。ボルト孔33は、ボルト15に対して、略円弧状の長孔形状で形成している。なお、固定リブ12を介した鋼製補強部材10と扇プレート31との接続は、ボルトと、ボルトが遊嵌しないボルト孔を用いて接続されている。
【0066】
このように構成された接合部補強金物1aは、扇状隅角部プレート30のラップ部分32において、ボルト15とボルト孔33とが遊嵌しているため、軸部材110が近づく方向(矢印a方向)に変形した場合、図7のa部拡大図−1に示すように、軸部材110が近づく方向にボルト15がボルト孔33内を相対移動し、所定量分移動するとボルト15によってボルト孔33の位置が規制される。
【0067】
したがって、この所定量を超える軸部材110の変形は接合部補強金物1aによって規制され、鋼製補強部材10と扇状隅角部プレート30とが軸部材110の近づく方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1aによって補強されることとなる。
【0068】
逆に、接合部100において、軸部材110が遠ざかる方向(矢印b方向)に変形した場合、図7のa部拡大図−2に示すように、軸部材110が遠ざかる方向にボルト15がボルト孔33内を相対移動し、所定量分移動するとボルト15によってボルト孔33の位置が規制される。
【0069】
したがって、この所定量を超える軸部材110の変形は接合部補強金物1aによって規制され、鋼製補強部材10と扇状隅角部プレート30とが軸部材110の遠ざかる方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1によって補強されることとなる。
【0070】
このように、扇状隅角部プレート30を用いた接合部補強金物1aは、簡易な構造でありながら、木製の軸部材110自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材110の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部100を補強することができる。
【0071】
詳しくは、長孔形状のボルト孔33に対してボルト15が遊嵌するため、ボルト15の遊び分では鋼製補強部材10及び扇状隅角部プレート30による補強を作用させずに木製の軸部材110の変形性能を活かすことができる。これに対し、長孔形状のボルト孔33に対するボルト15の遊び分を超える変形が木製の軸部材110に作用する場合、長孔形状のボルト15によってボルト孔33が規制され、鋼製補強部材10及び扇状隅角部プレート30は変形方向において拘束され、接合部100を補強することができる。
【0072】
さらに続いて、隅角部プレート20や扇状隅角部プレート30の代わりに、二枚の扇状の枠側扇プレート41の間に、厚みが変化する挿入側扇プレート42を挿入させる楔隅角部プレート40を用いた接合部補強金物1bについて、図8とともに説明する。なお、図8(a)は接合部補強金物1bにおける楔隅角部プレート40で鋼製補強部材10を接続したひとつの部分の正面図を示し、図8(b)は同部分の側面図を示し、図8(c)は同部分の背面図を示している。また、図8におけるa部拡大図は、図8(b)におけるa部の拡大図を示している。
【0073】
接合部補強金物1bは、鋼製補強部材10と、楔隅角部プレート40と、鋼製補強部材10及び楔隅角部プレート40を接続するボルト15とで構成している。なお、鋼製補強部材10とボルト15は、上述の接合部補強金物1における鋼製補強部材10とボルト15と同じであるため、説明を省略する。
【0074】
接合部補強金物1における隅角部プレート20の代わりの楔隅角部プレート40は、中心角が45°以上である55°程度で構成した扇形の枠側扇プレート41の2枚を、挿入側扇プレート42の厚み分を隔てて一方の鋼製補強部材10に固定している。
【0075】
そして、他方の鋼製補強部材10に、隅角部中央付近でおよそ10°の角度でラップさせ、そのラップ部43より外側が、図8a部拡大図に示すように、厚みが他方側の軸部材110に向かって側面視楔状に厚くなる厚み増加部42aを備えた挿入側扇プレート42を固定している。
【0076】
さらに、2枚の枠側扇プレート41と挿入側扇プレート42とはラップ部分43に形成したボルト孔44においてボルト15を貫通させている。なお、ボルト孔44は、ボルト15に対して、略円弧状の長孔形状で形成している。また、固定リブ12を介した枠側扇プレート41及び挿入側扇プレート42と鋼製補強部材10との接続は、ボルトと、ボルトが遊嵌しないボルト孔を用いて接続されている。
【0077】
このように構成された接合部補強金物1bは、ボルト15とボルト孔44とが遊嵌しているため、軸部材110が近づく方向(矢印a方向)に変形した場合、図8のa部拡大図に示すように、厚み増加部42aが枠側扇プレート41の間に割り込もうと移動するが、所定量e以上移動すると厚み増加部42aが枠側扇プレート41に食い込んで枠側扇プレート41に対する挿入側扇プレート42の位置が規制される。
【0078】
したがって、この所定量eを超える軸部材110の変形は接合部補強金物1bによって規制され、鋼製補強部材10と楔隅角部プレート40が軸部材110の近づく方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1bによって補強されることとなる。
【0079】
逆に、接合部100において、軸部材110が遠ざかる方向(矢印b方向)に変形した場合は、ボルト15によってボルト孔44の位置が規制され、鋼製補強部材10と楔隅角部プレート40が軸部材110の遠ざかる方向において拘束された状態となり、接合部100は接合部補強金物1によって補強されることとなる。
【0080】
このように、楔隅角部プレート40を用いた接合部補強金物1bは、簡易な構造でありながら、木製の軸部材110自体が有する変形性能を有効に活用するとともに、軸部材110の変形性能を超えるような外力に対して確実に接合部100を補強することができる。
【0081】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の軸部材は、軸部材110,柱部材120,梁部材130,140に対応し、
以下同様に、
接合部補強構造は、接合部補強金物1,1a,1bに対応し、
接続補強部材は、隅角部プレート20,帯状隅角部プレート20’,扇状隅角部プレート30及び楔隅角部プレート40に対応し、
鋼製部品は、コの字鋼製カバー11に対応し、
緩衝材は、ゴムシート14に対応し、
相対移動規制手段は、ボルト15を遊嵌するボルト孔13,21,33、並びに枠側扇プレート41に挿入する挿入側扇プレート42の厚み増加部42aに対応し、
接続部品は、扇プレート31、或いは枠側扇プレート41及び挿入側扇プレート42に対応し、
接続ボルト孔は、ボルト孔33,44に対応し、
接続ボルトは、ボルト15に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0082】
例えば、上記実施例においては、柱部材120に対して4方向から梁部材130,140が接続された接合部100に接合部補強金物1を装着して補強したが、例えば、横方向の根太に柱部材120が接続された逆T字型や角部の接合部100、或いは垂木と軒桁のように、直交しない軸部材による接続部に接合部補強金物1を装着して補強してもよい。
【0083】
また、隅角部プレート20と固定リブ12との対向面、ラップ部分32における扇プレート31同士の対向面、或いはラップ部分43における枠側扇プレート41と挿入側扇プレート42との対向面に、摩擦低減塗装や摩擦増加塗装のような所望の摩擦力を得ることのできるコーティングを施してもよい。これにより、軸部材110自体の変形性能と、ボルト孔とボルトによって所定方向において拘束された状態となった鋼製補強部材10による補強作用とを、所望の状態にコントロールすることができる。
【0084】
また、ボルト15を摩擦接合可能なハイテンションボルトで構成し、ボルト15の螺合によって、軸部材110自体の変形性能と、ボルト孔とボルトとによって所定方向において拘束された状態となった鋼製補強部材10による補強作用とを、所望の状態にコントロールしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1,1a,1b…接合部補強金物
10…鋼製補強部材
11…コの字鋼製カバー
13,21,33,44……ボルト孔
14…ゴムシート
15…ボルト
20…隅角部プレート
20’…帯状隅角部プレート
30…扇状隅角部プレート
31…扇プレート
32…ラップ部分
40…楔隅角部プレート
41…枠側扇プレート
42…挿入側扇プレート
42a…厚み増加部
100…接合部
110…軸部材
120…柱部材
130,140…梁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の軸部材同士を交差させて接合する接合部を補強する接合部補強構造であって、
各軸部材における外周部の一部を囲繞する鋼製の鋼製補強部材と、
前記接合部の隅角部内側において前記鋼製補強部材同士を接続する接続補強部材とで構成し、
前記鋼製補強部材を、
複数の鋼製部品を組付けて構成した
接合部補強構造。
【請求項2】
前記鋼製補強部材と、前記軸部材との間に緩衝材を介在させた
請求項1に記載の接合部補強構造。
【請求項3】
外力による前記接合部を支点とした前記木製の軸部材同士の変形による前記鋼製補強部材の相対移動を許容し、所定量より大きな相対移動を規制する相対移動規制手段を備えた
請求項1または2に記載の接合部補強構造。
【請求項4】
前記接続補強部材と、前記鋼製補強部材とを、前記接続補強部材及び前記鋼製補強部材に備えたボルト孔を連通するボルトで接続し、
前記相対移動規制手段を、
許容する前記鋼製補強部材の相対移動に応じた長孔形状に形成した前記ボルト孔で構成した
請求項3に記載の接合部補強構造。
【請求項5】
前記長孔形状のボルト孔を、前記接続補強部材及び前記鋼製補強部材に備え、
前記接続補強部材のボルト孔と、前記鋼製補強部材のボルト孔の長孔方向を交差させた
請求項4に記載の接合部補強構造。
【請求項6】
前記接続補強部材を、
前記鋼製補強部材同士を接続する接続方向の一部が重なり合うラップ部分を有する複数の接続部品で構成し、
前記接続部品同士を、前記ラップ部分において、それぞれに備えた接続ボルト孔を連通する接続ボルトで接続し、
前記相対移動規制手段を、
許容する前記鋼製補強部材の相対移動に応じた長孔形状で形成した前記接続ボルト孔で構成した
請求項3に記載の接合部補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−184881(P2011−184881A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48814(P2010−48814)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(511066632)
【Fターム(参考)】