説明

接着剤組成物、接合方法、接合体及び接合体の製造方法

【課題】高い接着性で速やかに接合部を硬化させることができ、接合部の優れた耐久性を実現する接着剤組成物及びそれを用いた接合方法、製造方法を目的とする。
【解決手段】(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液とを含むことを特徴とする二液型の接着剤組成物及びそれを用いた接合方法、製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接合方法、それらを用いて得られる接合体及びその接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で短時間で硬化する接着剤に対する要求は、生産ライン効率の向上、低コスト化の観点から増大傾向にある。常温速硬化型接着剤としてよく知られるものには、二液速硬化型エポキシ接着剤、瞬間接着剤、嫌気性接着剤、非嫌気性アクリル接着剤等がある。
【0003】
二液速硬化型エポキシ接着剤は、主剤と硬化剤を計量、混合して使用するものであり、計量、混合が十分に行われないと著しい強度低下を生じる恐れがあった。また、計量、混合が十分に行われていても剥離強度、衝撃強度が低いという問題があった。
【0004】
一方、瞬間接着剤は優れた作業性を有しているが、一般に剥離強度、衝撃強度が低く、耐熱性、耐湿性に劣るため、使用範囲が著しく限定されるという問題があった。
【0005】
他方、嫌気性接着剤は、接着剤を接着する材料間で圧着して空気を遮断することにより硬化する接着剤であるため、当然、はみ出し部分など空気に接触する部分は硬化しない。従って、多孔質な被着体や被着体間のバランスが悪い場合、十分に硬化せず、接着不良を生じるという問題があった。
【0006】
これに対し、一般に、第二世代アクリル接着剤(SGA)と呼ばれる非嫌気性アクリル系接着剤は、二液性ではあるが二液の正確な計量を必要とせず、極めてラフな計量、混合により常温で数分から数十分で硬化するという優れた作業性を有し、しかも高い剥離強度、衝撃強度を有し、はみ出し部分の硬化も良好であるため広く用いられるようになってきた。
【0007】
しかしながら、生産ライン効率の向上、低コスト化の観点より、常温で数分から数十分の硬化時間を有するアクリル系接着剤について、更なる硬化時間の短時間化への要求が増大している。
【0008】
例えば、特許文献1の接着剤は、ウレタンアクリレート、アクリル酸エステルモノマー、芳香族パーエステル、有機酸、遷移金属からなり、45秒のセットタイムで硬化する旨が記載されている。
【0009】
また、特許文献2の接着剤は、特定のウレタンアクリレート、アクリル酸エステルモノマー、パーオキシエステルとレドックス系形成する化合物からなる促進剤よりなり、1分以内の速いセットタイムで硬化する旨が記載されている。
【0010】
特許文献3の接着剤組成物は、クロロスルホン酸化ポリエチレンと特定のアクリル系モノマーを特定比率で混合した組成物、クメンハイドロパーオキサイド、アルデヒド−アミン縮合物、遷移金属の酸化性有機化合物からなり、数秒の硬化時間で硬化する旨が記載されている。
【0011】
特許文献4、特許文献5には、アクリル系モノマーにパーオキシエステルとアミン−アルデヒドの反応縮合物、銅の塩、芳香族水酸基含有化合物を使用すると速硬性のアクリル系接着剤が得られる旨が記載されている。
【0012】
【特許文献1】米国特許第4348503号明細書
【特許文献2】特開昭60−199085号公報
【特許文献3】特開昭55−065277号公報
【特許文献4】特開平03−134080号公報
【特許文献5】特開平03−134081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1〜5に開示される接着剤組成物は何れも、例えば高温高湿条件下における強度低下などの改善点を有していた。また、特許文献4や特許文献5の接着剤組成物では、初期接着性は良好である一方、高温高湿条件下では強度低下を生じるため、更なる改善が望まれていた。
【0014】
更に、上記特許文献1〜5に開示される接着剤組成物は、金属鋼板に対し界面破壊を生じ、被着体に対して強固な接着性が得られないという点においても更なる改善が望まれていた。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、高い接着性と高速硬化性を有すると共に、高温高湿条件下などでの耐久性にも優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる接着剤組成物が、高い接着性と高速硬化性を有すると共に、高温高湿条件下などでの耐久性にも優れていることを見出し、本発明に至った。
【0017】
即ち、本発明によれば、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液とを含むことを特徴とする二液型の接着剤組成物が提供される。
【0018】
この接着剤組成物は、特定の成分を組み合わせることにより、高い接着性で速やかに接合部を硬化させることができ、接合部の優れた耐久性を実現することができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記の接着剤組成物により複数の被着面又は被着体が接合されてなる接合体が提供される。この接合体は、特定の組成の接着剤組成物で接合されることにより、優れた接着性及び耐久性の接合部を有する。
【0020】
また、本発明によれば、二つの被着面又は被着体の接合方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を、上記の被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を、上記の被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、上記の二つの被着面又は被着体を合わせて接合する工程とを含む接合方法が提供される。
【0021】
この接合方法によると、特定の成分を組み合わせた接着剤組成物を使用することにより、高い接着性で速やかに接合部を硬化させることができ、接合部の優れた耐久性を実現することができる。
【0022】
また、本発明によれば、二つの被着面又は被着体を接合してなる接合体の製造方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を、上記の被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を、上記の被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、上記の二つの被着面又は被着体を合わせて接合し、上記の接合体を得る工程とを含む製造方法が提供される。
【0023】
この製造方法によると、特定の成分を組み合わせた接着剤組成物を使用することにより、高い接着性で速やかに接合部を硬化させることができ、接合部の耐久性の優れた接合体の製造が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、特定の成分を組み合わせた接着剤組成物を使用することにより、高い接着性で速やかに接合部を硬化させることができ、接合部の優れた耐久性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
〔用語の説明〕
本明細書における「接着」もしくは「接合」とは、ある構造体と別の構造体とを結合した状態に固定することを意味する。当然のことながら、同一の構造体中の別々の部分同士を結合させる場合も、本明細書における「接着」もしくは「接合」に含まれる。この時、結合させる構造体を「被着体」、被着物中の結合させる面を「被着面」と称し、被着面もしくは被着体同士が結合している部分を、「接合部」と称する。
【0026】
また、本明細書における「接着剤組成物」とは、その組成物を介して、ある構造と別の構造とを結合した状態に固定する用途、すなわち上記の「接着」もしくは「接合」用途に用いられる組成物を意味する。
【0027】
また、本明細書における「二液型の接着剤組成物」とは、上記の組成の二液を実質的な接着成分として有する接着剤組成物を意味するものであり、例えば、本発明の目的を損なわない範囲で更に他の第三液を更に含む接着剤組成物や、あるいは、第一液又は第二液の各成分を、被着面にそれぞれ連続的に塗布することにより、塗布面において実質的に第一液あるいは第二液を構成する態様も、本明細書における「二液型の接着剤組成物」に含まれる。
【0028】
また、本明細書における「接合体」とは、ある被着体とある被着体とが結合した状態で固定された構造体を意味する。当然のことながら、同一の構造体中の、異なる被着面同士が結合した構造体も、本明細書における「接合体」に含まれる。
【0029】
また、本明細書におけるそれぞれの数値範囲については、「〜」で示された上限値および下限値をそれぞれ含むものとする。
【0030】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0031】
〔接着剤組成物〕
本発明のある実施形態は、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液とを含むことを特徴とする二液型の接着剤組成物である。
【0032】
本接着剤組成物は、以下に示す各成分を適切に組み合わせることによって、高い接着性、高速硬化性(好ましくは秒単位の高速硬化性)、優れた貯蔵安定性および接合部の優れた耐久性を可能にした。
【0033】
以下に、本実施形態に係る組成物を構成する各成分について説明する。
【0034】
〔(A)成分:ニトリルブタジエンラバー〕
(A)ニトリルブタジエンラバー(あるいは、NBR、ニトリルブタジエンゴムもしくはニトリルゴム)成分は、アクリルニトリルと1,3−ブタジエンとを構成単位として有し、常温でゴム状弾性を有するポリマー(高分子)であり、ブタジエンとアクリルニトリルとを共重合することにより得ることができる。他の成分と組み合わせてこの成分を含有することにより、高い接着性と共に接合部の優れた耐久性、特に高温高湿条件下での耐久性を実現することができる。
【0035】
(A)ニトリルブタジエンラバー成分中のアクリルニトリル(AN)単位の含有量は、ニトリルブタジエンラバーの5〜30質量%である。アクリルニトリル単位の含有量が5質量%以上のニトリルブタジエンラバーを用いることで十分な耐久性の向上が観察され、更に30質量%以下の含有量のものを用いることで、銅などの金属を被着対象とした際の、被着体の酸化などの腐食反応を防止し、更に高い接着性を達成することができる。アクリルニトリル単位の含有量の下限は好ましくは10質量%以上であり、10%質量以上のアクリルニトリル単位の含有量のニトリルブタジエンラバーを使用すると、耐湿性、耐熱性などの点で更に優れた耐久性を達成することができる。アクリルニトリル単位の含有量の上限は好ましくは25%以下であり、25%質量以下のアクリルニトリル単位の含有量のニトリルブタジエンラバーを使用すると、被着対象に与える悪影響を更に大きく低減し、高い接着性を実現することができる。より好ましくは、アクリルニトリル単位の含有量の上限は20%以下である。
【0036】
(A)ニトリルブタジエンラバー成分の添加量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が自由に設定することができるが、好ましくは、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分100質量部に対して1〜25質量部であり、より好ましくは、更に5質量部以上であるか、あるいは更に15質量部以下である。1質量部以上添加すると、大きく耐久性が向上し、5質量部以上添加すると、更なる耐久性の向上が観察されると共に、常温での密着性などの使用時の作業面でも有利となる。25質量部以下に添加量を抑えると、金属などの被着対象に与える腐食などの悪影響を大きく抑えることができ、15質量部以下に添加量を制限すると、更に高い接着性が実現できると共に、適切な粘度を実現することで、使用時の作業面でも有利となる。
【0037】
(A)ニトリルブタジエンラバー成分は、これに限定されるものではないが、(B)の重合可能な(メタ)アクリル系組成物に溶解もしくは分散可能なものが好ましい。また、許容される相溶性であれば、1種又は2種以上のニトリルブタジエンラバーを使用することも可能である。
【0038】
(A)ニトリルブタジエンラバー成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、ブタジエンおよびアクリロニトリル以外の第三のモノマー(例えば、イソプレン、スチレン、メタアクリル酸など)が導入されていてもよい。好ましくは他の構成単位の含有量は、ブタジエンラバーの10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0039】
更に、(A)ニトリルブタジエンラバー成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、部分的に水素化又は加硫などの修飾を受けていてもよい。
【0040】
〔(B)成分:重合可能な(メタ)アクリル系組成物〕
(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分としては、重合、特にラジカル重合可能な(メタ)アクリル系組成物であれば、特に限定されず使用することができる。ここで、(メタ)アクリル系組成物とは、メタアクリル酸、メタアクリル酸エステル又はアクリル酸エステルの何れか(以下、〜(メタ)アクリレートのように記す)のうちの、1種又は2種以上からなる組成物を総記するものである。この成分を含有することにより、組成物に接着剤としての機能が賦与されると共に、他の成分と組み合わせて含有することで、高い接着性と共に、接合部の優れた耐久性、保持力を実現することができる。
【0041】
そのような重合可能な(メタ)アクリル系組成物には、これに限定されるものではないが、例えば、メタアクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロトリエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルオキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変成テトラフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変成アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキシ変成アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキシド変成アクリレート、ノニルフェノールポリプロピレンオキシド変成アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ポリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(大阪有機化学社製、「ビスコート#540」)、ポリエステル(メタ)アクリレート(東亜合成社製、「アロニックスM−6100」、共栄化学社製、「エポキシエステル3000M」)、ウレタンアクリレート(東亞合成社製、「アロニックスM−1100」)、ポリエチレングリコールウレタン変成ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールウレタン変成ジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート(東亞合成社製、「アロニックスM−5710」)、ポリブタジエンジメタクリレート(日本曹達社製、「TE−2000」)、アクリルニトリルブタジェンメタクリレート(宇部興産社製、「HyCAr VTBNX」)、ベンジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、トルエンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が含まれる。
【0042】
(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分は、好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートであり、これらを使用することで、接合部の高温高湿条件下での高い耐久性、高い保持率を示すことができる。
【0043】
〔(C)成分:有機過酸化物〕
(C)有機過酸化物成分としては、本発明の目的を損なわない範囲で任意の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物は重合開始剤として機能し、樹脂組成物を硬化させる。このような有機過酸化物には、これに限定されるものではないが、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシフタレート、クメンハイドロパーオキサイド等が含まれる。高速硬化を示すという観点からは、t−ブチルパーオキシベンゾエートが好ましく、更に、高速硬化と貯蔵安定性という観点からは、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0044】
(C)有機過酸化物成分の添加量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が設定することができるが、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、更に0.5質量部以上、あるいは更に8質量部以下がより好ましく、更に1質量部以上、あるいは更に7質量部以下が更により好ましい。(C)有機過酸化物成分を0.1〜10質量部添加すると、十分な硬化能が得られ、安定した接着剤組成物が得られる。(C)有機過酸化物成分を0.5質量部以上添加すると、更に高速な硬化が達成され、1質量部以上添加すると、十分な高速硬化が達成される。また、8質量部以下に添加量を抑えると高い貯蔵安定性が達成され、7質量部以下に添加量を抑えると、十分な貯蔵安定性が達成される。
【0045】
〔(D)成分:アミン構造を有する塩基性化合物〕
本実施形態における接着組成物は、付加的な成分として、(D)アミン構造を有する塩基性化合物成分を更に含有することができる。好ましい接着組成物の一例としては、上記の第一液が、(D)アミン構造を有する塩基性化合物を更に含有することを特徴とする上記の接着剤組成物を挙げることができ、この接着組成物を用いると更なる高速硬化が実現される。(D)アミン構造を有する塩基性化合物成分としては、本発明の目的を損なわない範囲で任意のアミン構造を含んでなる塩基性化合物を使用することができる。高速硬化を助成することのできるアミン構造を有する塩基性化合物としては、例えば、第一級アミン構造もしくは第二級アミン構造を含んでなる塩基性化合物を挙げることができる。
【0046】
アミン構造を有する塩基性化合物の例には、これに限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール、フェノチアジン、サッカリン、1−アセチル−2−フェニルヒドラジン、ポリエチレンイミン、変性ポリエチレンイミン(日本触媒社製)、N,N,−ジメチルアニリン、変性ジヒドロピリジン、2−メチルイミダゾール、2−ヒドロキシエチルパラトルイジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、2,2−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、アンモニア、アルキリデンマロン酸エステル、δ−イミノマロン酸エステル、エチルアザン、フェニルアミン、ベンジルアミン、1−ベンゾフラン−2−アミン、4−キノリルアミン、ペンタン−1,2,5−トリアミン、ベンゼン−1,2,4,5−テトラアミン、ビス(2−クロロエチル)アミン、ブチル(エチル)メチルアミン、(2−クロロエチル)(プロピル)アミン、ヘキサン−1−イミン、イソプロピリデンアミン、エタン−1,2−ジイミン、カルボジイミド、o−アセチルヒドロキシルアミン、o−カルボキシヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン−o−スルホン酸、o−ヒドロキシアニリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、カテコールアミン、インドールアミン、ポリアクリルアミン、ジシクロヘキシルカルボジイミド、アセチルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、2−フェニルヒドラジン−1−カルボアルデヒド、2,2,2−トリフルオロ−N‘−フェニルアセトヒドラジド、1−クロトノイル−2−フェニルヒドラジン、1−(2−カルボキシアクリロイル)−2−フェニルヒドラジン、1−カルバモイル−2−フェニルヒドラジン、1,4−ジフェニルチオセミカルバジド、2,4−ジフェニルチオセミカルバジド、N,N‘−ジアセチルチオ尿素、2−チオキソイミダゾリジン−4−オン、1−アセチル−2−チオヒダントイン等が含まれる。上記のアミン構造を有する塩基性化合物の中では、サッカリン、フェノチアジンが特に好ましい。これらは(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分への溶解性が高く、これらを使用することで極めて高速に硬化が促進されるためである。また、上記の塩基性化合物は種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
(D)アミン構造を有する塩基性化合物成分の添加量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が設定することができるが、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分100質量部に対して0.01〜30質量部が好ましく、更に0.1質量部以上、あるいは更に20質量部以下がより好ましく、更に1質量部以上、あるいは更に10質量部以下が更により好ましい。これらの数値範囲内で添加することにより、本接着組成物の高い接着性と耐久性を保ちつつ、更なる高速硬化を達成することができる。
【0048】
〔(E)成分:アミンとアルデヒドの反応縮合物〕
(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分とは、任意のアミン(アルキルアミンおよびアリールアミン)と任意のアルデヒドを縮合して得られた縮合体であり、単一の構造のもののみならず、縮合反応の結果得られる混合物もしくは複合物をも含む。アミンとアルデヒドの反応縮合物としては、例えば、カルボン酸あるいは無機酸の共存下にアミン1モルに対して少なくとも1モル、好ましくは1.5〜3モルのアルデヒドを40〜70℃で反応させることで得られるアミン複合混合物が挙げられる。上記カルボン酸あるいは無機酸の一例としては、プロピオン酸、あるいは、リン酸、酢酸が用いられ、アミンとアルデヒドの一例としては、例えば、ブチルアミンもしくはアニリンとブチルアルデヒドが用いられる。
【0049】
(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分は、液状であることが望ましく、溶剤、特に揮発性溶剤に溶解又は分散させて第二液とすることにより、硬化促進剤としてより優れた作用を発揮する。適する溶剤としては、これに限定されるものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエン、塩化メチレン、トリクロロエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルスルホキシド、ベンゼン、クロロホルムなどが挙げられる。
【0050】
また、上記と同様に(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分を溶解又は分散させる成分(溶剤)として、(メタ)アクリル系組成物および可塑剤が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル系組成物とは、メタアクリル酸エステル又はアクリル酸エステルの何れか(以下、〜(メタ)アクリレートのように記す)のうちの、1種又は2種以上からなる組成物を総記するものである。これらの成分は、接着剤組成物の系内に有機溶剤を使用しない、あるいは、接着剤硬化物に柔軟性、耐熱性を付与するなどの更なる効果を有する。
【0051】
上記の、アミンとアルデヒドの反応縮合物を溶解又は分散させる成分には、これに限定されるものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロトリエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルオキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変成テトラフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変成アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキシ変成アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキシド変成アクリレート、ノニルフェノールポリプロピレンオキシド変成アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ポリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(大阪有機化学社製、「ビスコート#540」)、ポリエステル(メタ)アクリレート(東亜合成社製、「アロニックスM−6100」、共栄化学社製、「エポキシエステル3000M」)、ウレタンアクリレート(東亞合成社製、「アロニックスM−1100」)、ポリエチレングリコールウレタン変成ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールウレタン変成ジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート(東亞合成社製、「アロニックスM−5710」)、ポリブタジエンジメタクリレート(日本曹達社製、「TE−2000」)、アクリルニトリルブタジェンメタクリレート(宇部興産社製、「HyCAr VTBNX」)、ベンジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、トルエンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。更に可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートなどのフタル酸エステル、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネートなどの脂肪酸二塩基酸エステル、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(ブチルエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどの正リン酸エステル、メチルアセチルリシノレートなどのリシノール酸などのエステル、グリセリルトリアセテート、2−エチルヘキシルアセテートなどの酢酸エステル、N−ブチルベンゼンスルホンアミドなどのスルホンアミド等が含まれる。
【0052】
硬化性組成物の柔軟性および耐熱性の観点からは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(2−エチルヘキシル)アジペートを使用することが特に好ましい。
【0053】
また、上記の成分は、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0054】
(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分の配合量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が自由に設定することができるが、第二液全体に対して、0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは、更に0.5質量%以上、あるいは更に40質量%以下である。上記溶剤についても、好ましくは、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分の配合量が上記比率となるように使用される。(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分を0.05質量%以上配合することで硬化が促進され、0.5質量%以上を配合することで、より高速な硬化と、接着組成物の柔軟性、接着強さがもたらされる。また、40質量%以下に配合量を抑えることで、接着組成物の耐久性の面で有利となる。
【0055】
〔(F)成分:銅を含む還元剤〕
(F)銅を含む還元剤成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、任意の銅を含む還元剤を使用することができる。このような還元剤は、上記の(C)有機過酸化物と反応し、ラジカルを発生するため、重合反応の開始において重要である。そのような銅を含む還元剤には、これに限定されるものではないが、例えば、酢酸銅、ナフテン酸銅、オクチル酸銅、アセチルアセトン銅錯体、硫酸銅、酸化銅などが含まれる。(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物成分との共存により安定な銅触媒を形成するという観点からは、ナフテン酸銅およびオクチル酸銅が特に好ましい。
【0056】
(F)銅を含む還元剤成分の添加量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が設定することができるが、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分100質量部に対して0.05〜10質量部以下が好ましく、更に0.1質量部以上、あるいは更に8質量部以下がより好ましく、更に0.5質量部以上、あるいは更に5質量部以下が最も好ましい。0.05質量部以上の添加量で確実な硬化効果を奏することができ、0.1質量部以上の添加量では、より大きな硬化速度、1質量部以上の添加量では、更に大きな硬化速度が達成される。10質量部以下に添加量を抑えると、未反応の還元剤が残る虞が減少し、8質量部以下に添加量を抑えると、より高い密着性がもたらされ、5質量部以下に添加量を抑えると、高い接着強度を達成することができる。
【0057】
上記の(A)成分、(B)成分および(C)成分、更に任意によって(D)成分を含有する液を第一液とし、上記の(E)成分および(F)成分を第二液とする時に、これら二液を含む接着剤組成物は、上記の第一液と第二液とを接触させることにより、速やかに、短時間で硬化することができる。
【0058】
本実施形態における接着剤組成物を用いて二つの被着体を接合する場合、本接着剤組成物の硬化速度は極めて速いため、第一液を一方の被着体に塗布し、第二液を他方の被着体に塗布し、各被着体の塗布面を合わせて接合する方法が望ましい。更に、第二液が揮発性溶剤を含有する場合は、第二液を被着体に塗布した後、これを揮散させた後で、接合してもよい。
【0059】
〔(G)成分:光重合開始剤〕
また、本発明の更なる実施形態は、上記の第一液が、(G)光重合開始剤を更に含有することを特徴とする上記の接着剤組成物である。
【0060】
例えば、第一液を一方の被着体に塗布し、第二液を他方の被着体に塗布し、各被着体の塗布面を合わせて接合する場合などにおいて、第一液と第二液の接触が適切に行われなかったはみ出し部などが生じる場合、第一液に光重合開始剤を添加しておくことにより、接合後にはみ出し部に紫外線照射することで確実に硬化させることが可能となる。
【0061】
上記の(G)光重合開始剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物を光重合させ得る任意の薬剤を使用することができる。そのような光重合開始剤には、これに限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ベンゾイル安息香酸、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、カンファーキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキサイド等が含まれる。
【0062】
(G)光重合開始剤成分の添加量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で当業者が設定することができるが、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物成分100質量部に対して0.01〜10質量部以下が好ましく、更に0.1質量部以上、あるいは更に5質量部以下がより好ましく、更に0.5質量部以上、あるいは更に3質量部以下が最も好ましい。これらの範囲の光重合開始剤を添加することにより、紫外線照射による硬化をより確実に行うことが可能となる。
【0063】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、上記の接着剤組成物は、以下の付加的な成分を更に含んでもよい。
【0064】
〔密着性付与剤〕
例えば、本発明の更なる実施形態は、上記の第一液が、密着性付与剤を更に含有することを特徴とする上記の接着剤組成物である。第一液を一方の被着体に塗布し、第二液を他方の被着体に塗布し、各被着体の塗布面を合わせて接合する場合などにおいて、第一液に密着性付与剤を添加しておくことにより、被着体への密着性向上させることで第一液と第二液の接触をより適切に行い、はみ出し部などが生じることを防ぐことが可能となる。
【0065】
上記の密着性付与剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、接着剤、特に二剤型の接着剤に用いられる密着性付与剤であれば、任意の薬剤を使用することができる。そのような密着性付与剤には、これに限定されるものではないが、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ユレイドプロピルトリエトキシシラン、ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル、メタクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェート、メタクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェートモノエチルアミンハーフソルト等が含まれる。金属被着対象への接着性という観点からは、特にメタクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェートおよびメタクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェートモノエチルアミンハーフソルトが好ましい。
【0066】
〔無機充填剤〕
例えば、本発明の更なる実施形態は、上記の第一液が、無機充填剤を更に含有することを特徴とする上記の接着剤組成物である。無機充填剤を含有することで更なる剛性および低硬化収縮性の付与が可能となる。
【0067】
上記の無機充填剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる任意の無機充填剤を使用することができる。そのような無機充填剤には、これに限定されるものではないが、例えば、石英、石英ガラス、溶融シリカ、球状シリカ等のシリカ粉や、球状アルミナ、破砕アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の酸化物類、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物類、炭化珪素等の炭化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物類、銅、銀、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属類や合金類、ダイヤモンド、カーボン等の炭素系充填材などが含まれる。
【0068】
〔その他の成分〕
また、本実施形態における接着剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、アクリルゴム、ウレタンゴムなどの各種エラストマー、メタアクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系グラフト共重合体や、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系グラフト共重合体などのグラフト共重合体、溶剤、増量材、補強材、可塑剤、増粘剤、着色剤、難燃剤、防錆剤および界面活性剤等の添加剤を使用することができる。また、前記の添加剤は、貯蔵安定性の改良のための各種重合禁止剤、酸化防止剤なども使用可能である。
【0069】
〔接合方法〕
また、本発明の他の実施形態は、二つの被着面又は被着体の接合方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を、上記の被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を、上記の被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、上記の二つの被着面又は被着体を合わせて接合する工程とを含む接合方法である。
【0070】
上記の接合方法は、上記の接着剤組成物の特徴を反映して、極めて短時間で被着体同士を接合することが可能であり、その接着力も高く、更には、その接合部は高温高湿条件下などの耐久性においても優れ、高い保持率を有する。
【0071】
〔製造方法〕
また、本発明の他の実施形態は、二つの被着面又は被着体を接合してなる接合体の製造方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を、上記の被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を、上記の被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、上記の二つの被着面又は被着体を合わせて接合し、上記の接合体を得る工程とを含む製造方法である。
【0072】
上記の製造方法は、上記の接着剤組成物による極めて短時間での被着体同士の接合により、様々な生産ラインにおいて、生産性を向上させ、合理化に寄与することができる。また、接着性が高く、高温高湿条件下などの耐久性においても優れ、高い保持率を有する接合体を製造することができる。
【0073】
また、本発明の他の実施形態は、上記の接着剤組成物により複数の被着面又は被着体が接合されてなる接合体である。
【0074】
また、本発明の他の実施形態は、上記の接合方法により複数の被着面又は被着体が接合されてなる接合体である。
【0075】
また、本発明の他の実施形態は、上記の製造方法により製造される接合体である。
【0076】
上記の接合体は、上記の接着剤組成物で接合されることにより、接合部の接着性が高く、高温高湿条件下などの耐久性においても優れ、高い保持率を有する。
【0077】
上記形態における被着体の材質としては、これに限定されるものではないが、例えば、金属、セラミック、紙、木材、ガラス、ゴム、プラスチック、モルタル、コンクリート等が挙げられる。上記接着剤組成物は、特に金属およびセラミックに対して優れた接着特性を示すため、金属部品、セラミックス部品などに好適に使用することができる。
【0078】
なお、上述の実施形態により説明される組成物や方法等は、本発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるものであり、当業者は、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲において種々の設計的変更が可能である。
【0079】
例えば、上記実施形態の二つの被着面又は被着体に対するそれぞれの操作を、三以上の被着面又は被着体に、連続あるいは同時に行い、実質的に上記の方法を連続あるいは同時に複数回繰り返してもよく、そのような態様も二つの被着面又は被着体に対する方法に実質的に含まれ、当然ながら本発明の技術的範囲にも含まれる。
【0080】
また、例えば、第二液が揮発性溶剤を更に含有する場合などにおいて、第二液を塗布した後に、溶剤等を揮散させる工程を更に含む上記の方法も本発明の更なる実施形態となる。
【0081】
また、例えば、第一液が(G)光重合開始剤成分を更に含有する場合などにおいて、上記の二つの被着面又は被着体を合わせて接合する工程の後に、上記の被着面又は体の接合部に紫外線照射する工程を更に含む上記の方法も、本発明の更なる実施形態となる。接合後に紫外線照射することにより、はみ出し部のタックをなくし、確実に硬化させることが可能となる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
〔実施例1〜8および比較例1〜4〕
表1に示す通りに、(A)〜(D)及び(G)成分と添加剤を表1の割合で混合し、更に粘度調整のためにエラストマー(ブタジエン/メチル(メタ)アクリレート/スチレン共重合体、以下、「ブタジエン/MMA/ST共重合体」という)を加え、第一液とした。(E)成分としてn−ブチルアルデヒドアニリン、(F)成分としてナフテン酸銅(銅濃度5%)、その他希釈剤としてアセトンを表1の割合で混合し、第二液とした。
【0084】
上記の第一液と第二液とからなる接着剤組成物の固着時間および硬化体の引張せん断接着強さを下記の方法で測定した。
【0085】
(固着時間の測定)
引張せん断強度測定用試験片の一方に第一液を塗布し、第二液を他方の試験片に塗布し、第二液の揮発性溶剤を揮散させた後、各被着体の塗布面を合わせて接着し、4kgの荷重をかけても取れなくなるまでの時間を固着時間とした。
【0086】
(引張せん断接着強さ)
被着体として1.6mm厚の鉄試験片(サンドブラスト処理済み)を上記塗布方法により接着し、引張試験機(引張速度10mm/分)で測定した。
【0087】
(耐湿性評価)
前記引張せん断接着強さ測定用試験片を用いて上記引張せん断接着強さ評価と同様な試験片を作製後、温度60℃、湿度90%の雰囲気中にて500時間放置し、取り出し後、23℃×50%RH雰囲気の室内にて30分以上放置後、引張せん断接着強さを測定した。
【0088】
以上の結果を、表1に示した。
【表1】

【0089】
実施例1〜8の接着剤組成物を用いて接合を行った場合、30秒以下の短い固着時間で固着することができ、その接合部は、常温での引張せん断接着強さが20MPa前後と優れ、さらに、高温高湿下放置後にも引張せん断接着強さは10MPaより高く、十分な耐久性を達成することができた。特に、(D)アミン構造を有する塩基性化合物を含有した実施例1〜5及び8の接着剤組成物においては、10秒以下もしくは15秒と更なる固着時間の短縮が観察された。
【0090】
他方、比較例1は、ニトリルブタジエンラバー成分中のアクリルニトリル単位の含有量が多過ぎるため、高温高湿下での引張せん断接着強さが10MPa以下と劣っていた。比較例2は、アミンとアルデヒドの反応縮合物成分が含まれないため、接着に極めて長い時間がかかる上に、常温での引張せん断接着強さも十分ではなかった。比較例3は、銅を含む還元剤成分が含まれないため、硬化しなかった。比較例4は、ニトリルブタジエンラバー成分が含まれないため、高温高湿下での引張せん断接着強さが10MPa以下と劣っていた。
【0091】
(実施例9および比較例5)
実施例1および比較例1の接着剤組成物を用いて銅板を接着して得た接合体について、密閉ガラス容器中にて銅板腐食試験を実施した。実施例1の接着剤組成物を用いて接着した銅板(実施例5)は変化が見られないのに対し、比較例1の接着剤組成物を用いて接着した銅板(比較例8)は銅板表面の酸化が観測された。
【0092】
(実施例10)
実施例1の接着剤組成物の第一液に光重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを1部添加し、溶解して組成物を調整した。引張せん断接着強さ測定用の鉄試験片の接着面に実施例1の第二液をはみ出さないように塗布し、もう一方の試験片に上記組成物を塗布し、組成物がはみ出すように接着した。このはみ出し部分に紫外線を照射したところ、硬化物の表面は指で触れてみてもタックは完全に無くなっていた。
【0093】
以上の結果から、本発明の接着剤組成物は、高い接着性で速やかに接合部を接着・硬化させることができ、接合部の優れた耐久性を実現することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の接着剤組成物は、常温の硬化反応が極めて速く、接着性および耐久性(耐湿性)に優れるため、いろいろな生産ラインに適用する際に、生産時間の短縮、或いは合理化が可能となり、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液とを含むことを特徴とする二液型の接着剤組成物。
【請求項2】
前記第一液が、(D)アミン構造を有する塩基性化合物を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(D)アミン構造を有する塩基性化合物が、第一級アミン構造もしくは第二級アミン構造を含んでなる塩基性化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記第一液が、(G)光重合開始剤を更に含有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物が、イソボルニル(メタ)アクリレートを更に含有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(C)有機過酸化物が、クメンハイドロパーオキサイドもしくはt−ブチルパーオキシベンゾエートであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物が、アルデヒドアニリンであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の接着剤組成物により複数の被着面又は被着体が接合されてなる接合体。
【請求項9】
二つの被着面又は被着体の接合方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を前記被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を前記被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、前記二つの被着面又は被着体を合わせて接合する工程とを含む接合方法。
【請求項10】
前記二つの被着面又は被着体を合わせて接合する工程の後に、前記被着面又は体の接合部に紫外線照射する工程を更に含む、請求項9に記載の接合方法。
【請求項11】
二つの被着面又は被着体を接合してなる接合体の製造方法であって、(A)5〜30質量%のアクリルニトリル単位を含有するニトリルブタジエンラバー、(B)重合可能な(メタ)アクリル系組成物および(C)有機過酸化物を含有する第一液を前記被着面又は被着体の一方に塗布する工程と、(E)アミンとアルデヒドの反応縮合物および(F)銅を含む還元剤を含有する第二液を前記被着面又は被着体の他方に塗布する工程と、前記二つの被着面又は被着体を合わせて接合し、前記接合体を得る工程とを含む製造方法。

【公開番号】特開2009−197160(P2009−197160A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41483(P2008−41483)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】