説明

接着剤組成物および接着フィルム

【課題】溶剤に対する高い耐性を有し、かつ所望のタイミングにおいて溶剤に対する溶解性が向上する接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の接着剤組成物は、ポリビニルエーテル、上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂、および酸発生剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物および接着フィルムに関する。より詳細には、本発明は、半導体ウェハーなどの半導体製品または光学系製品などの研削といった加工の工程において、製造中の製品に対してシートまたは保護基板を一時的に固定するための、接着剤組成物および接着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器およびICカードなどの高機能化にともない、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化、薄型化および高集積化に対する要求が高まっている。また、CSP(chip size package)およびMCP(multi-chip package)に代表される、複数のチップをワンパッケージ化する集積回路に対しても、その薄型化が求められている。薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを150μm以下にまで薄くする必要がある。さらに、CSPおよびMCPにおいては100μm以下、ICカードにおいては50μm以下にチップを薄化加工する必要がある。ここで、一つの半導体パッケージ内に複数の半導体チップを搭載するシステム・イン・パッケージ(SiP)は、搭載されるチップを小型化し、薄型化し、かつ高集積化することによって、電子機器の高性能化、小型化および軽量化を実現する上で非常に重要な技術である。
【0003】
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術によって配線する手法が用いられている。また、このような薄型化および高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、かつチップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
【0004】
薄型のチップは、例えば、高純度シリコン単結晶などをスライスしてウェハーとした後、ウェハー表面にICなどの所定の回路パターンをエッチング形成して集積回路を組み込み、得られた半導体ウェハーの裏面を研削機によって研削し、かつ所定の厚さに研削した後の半導体ウェハーをダイシングしてチップ化することによって製造される。このとき、上記所定の厚さは、100〜600μm程度である。さらに、貫通電極を形成する場合のチップは、厚さ50〜100μm程度にまで研削される。
【0005】
半導体チップの製造において、半導体ウェハー自体が肉薄なために脆いだけでなく、回路パターンに凹凸があるので、研削工程またはダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、研削工程においては、生じた研磨屑の除去、または研磨時に発生する熱を逃がすことを目的として、精製水を半導体ウェハー裏面に流しながら研削処理する。このとき、洗浄など用いる精製水によって回路パターン面が汚染されることを防ぐ必要がある。そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止するために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業が行われている。
【0006】
上述の例以外に、貫通電極の形成などの裏面配線における高温プロセスを伴う工程は、半導体ウェハーを接着固定した状態において行われる。高温プロセスを伴う工程において好適に使用され得る接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−243815号公報(2000年9月8日公開)
【特許文献2】特開2008−133405号公報(2008年6月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、裏面配線におけるリソグラフィーに使用するバックリンス(溶剤)に対する耐性、裏面配線後の接着剤を半導体ウェハーに損傷(クラック)を与えずに除去すること、および高温プロセスにおける耐熱性を考慮すると、特許文献1および2の接着剤組成物が必ずしも好適であるとは言えない。例えば、特許文献1には、ポジ型化学増幅レジストを接着剤として使用することが記載されているが、具体的な接着剤の組成については記載がない。このため、上記条件を同時に満たし得るか否かが不明であった。また、特許文献2の接着剤組成物は、アクリル系の接着剤組成物であって、このような組成物では、上記条件を同時に満たすことができなかった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶剤に対する高い耐性を有し、かつ所望のタイミングにおいて溶剤に対する溶解性が向上する接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、ポリビニルエーテル、上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂、および酸発生剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の接着剤組成物は、ポリビニルエーテル、および上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂を含有しているので、適当な処理によって上記重合体がポリビニルエーテルと反応して、溶剤への溶解から保護される。また、適当な処理によって酸発生剤から発生する酸がポリビニルエーテルによる上記重合体の保護を取り除くので、溶剤への溶解性が再び向上する。よって、本発明の接着剤組成物は、溶剤を使用する種々の処理工程において溶解せず、かつ処理工程の後に容易に除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔接着剤組成物〕
本発明に係る接着剤組成物の一実施形態について以下に説明する。
【0013】
本発明の接着剤組成物は、ポリビニルエーテル、上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂、および酸発生剤を含有する。
【0014】
本発明の接着剤組成物は、接着剤として用いるのであれば、具体的な用途は特に限定されない。本実施形態では、ウエハサポートシステムのために、本発明の接着剤組成物を用いて、半導体ウェハーをサポートプレートに対して一時的に接着する用途を例に挙げて説明する。
【0015】
<樹脂成分>
「樹脂」は、ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する繰り返し単位を含む重合体を1種類以上含む。「樹脂」は、必要に応じて、ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する繰り返し単位を含まない重合体を1種類以上含んでもよい。
【0016】
本明細書において、後述する「樹脂を構成する繰返し単位の総数に占める(ポリビニルエーテルと反応可能な)官能基を有する繰り返し単位(または芳香環を有する化学構造)」の割合は、樹脂を構成する前記した全重合体に含まれる繰返し単位の総数に占める(ポリビニルエーテルと反応可能な)官能基を有する繰り返し単位(または芳香環を有する化学構造)」の割合を指す。
【0017】
本明細書において、「溶剤」は有機溶剤および無機溶剤の両方を含む。したがって、単に「溶剤」と記載せずに、「有機溶剤」または「無機溶剤」と記載する場合には、どちらか一方のみを意味する。
【0018】
(ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する繰り返し単位)
本発明の接着剤組成物は、ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する繰り返し単位を含む重合体を樹脂成分として含有する。本明細書において当該繰り返し単位は、反応によってポリビニルエーテルが上述のような官能基に架橋される繰り返し単位であれば、特に限定されない。
【0019】
本発明に係る接着剤組成物は、上記繰り返し単位を含む重合体を樹脂成分として有しているので、反応によって後述のポリビニルエーテルが上記官能基により架橋されて当該重合体が安定化する(重合体の分子量が増大する)。よって、当該接着剤組成物の溶剤に対する溶解性が非常に低くなる。よって、溶剤を用いるプロセスにおいて溶解することなく、被接着物をフィルムなどの支持体に貼り付けた状態を維持できる。さらに、架橋しているポリビニルエーテルは、後述の酸発生剤から生じた酸の作用によって、上記繰り返し単位から取り除かれる(繰り返し単位が脱保護される)。よって、溶剤に対する耐性が必要なプロセスを終えたとき、例えば、光の照射および/または加熱によって酸発生剤から酸を発生させれば、溶剤に対する溶解性が向上する。
【0020】
以上のように、本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて溶剤に対して不溶化または可溶化されるので、溶剤を使用する種々のプロセスに好適に使用可能であり、かつ被接着物からの除去が容易である。また、本発明に係る接着剤組成物は、有機溶剤に対する耐性に特に優れている。
【0021】
ここで、上記重合体の一部の繰り返し単位は、ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有していれば、他の部分には種々の構造を採用し得る。従って、接着剤組成物が、溶剤に対する溶解性以外の好ましい性質(例えば、高い耐熱性および接着強度)を有するような、種々の構造を有する重合体の繰り返し単位を選択可能である。
【0022】
ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する繰り返し単位の例として、一般式(1):
【0023】
【化1】

【0024】
(Rはポリビニルエーテルと反応可能な官能基を表し;Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し;Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し;R’は存在しないか、または炭素数1〜5のアルキレン基を表し;nは1〜5の整数であり;nは0または1〜2の整数である)
によって示される繰り返し単位が挙げられる。
【0025】
としては、例えば、水酸基またはカルボキシル基が好ましい。
【0026】
のアルキル基およびRは、炭素数1〜5のアルキル基である。当該アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソプロピル基、およびネオペンチル基などの直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。これらのうちメチル基が好ましい。
【0027】
は1〜5の整数、好ましくは1または2、最も好ましくは1である。−R’Rの結合位置は、フェニル基のo−位、m−位およびp−位のいずれでもよいが、ポリビニルエーテルとの反応が容易であることから、p−位であることが好ましい。
【0028】
は、0または1〜2の整数、好ましくは0または1、より好ましくは0である。nが1の場合、Rの位置はフェニル基のo−位、m−位またはp−位の何れかであり得る。nが2または3の場合、Rの位置は任意の位置から選択され得る。またこの場合、Rは同じであるか、または異なり得る。
【0029】
上述のように、ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基は、例えば、ヒドロキシル基またはカルボキシル基である。上記官能基がヒドロキシル基またはカルボキシル基の場合、当該官能基とポリビニルエーテルのビニル基との間にアセタール結合が形成される。上記官能基が水酸基である場合の当該官能基とポリビニルエーテルとの反応の一例を以下に説明する。以下の例においては、本発明の接着剤組成物の有機溶剤に対する溶解性が可変するような、繰り返し単位およびポリビニルエーテルの具体例を挙げて説明する。
【0030】
本発明の接着剤組成物において、以下の式(2):
【0031】
【化2】

【0032】
によって示される反応の一例によって、重合体に含まれる繰り返し単位がポリビニルエーテルによって架橋され、かつ酸および水の作用によってアセタール結合が分解して当該架橋が外れる。アセタール結合の分解時に要する水は、例えば、大気中の水分などである。なお、ここでは、繰り返し単位の例としてヒドロキシスチレン、およびポリビニルエーテルの例としてシクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルを挙げている。しかし、繰り返し単位としては、本項目において説明されるすべての繰り返し単位が採用可能であり、かつポリビニルエーテルとしては、後述の<ポリビニルエーテル>の項に説明されるすべてのポリビニルエーテルが採用可能である。
【0033】
式(2)の(a)に示されるように、ヒドロキシスチレンが有する水酸基とシクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルの端にあるビニル基とが、酸性条件下において熱を加えられることによって架橋される。そして、ヒドロキシスチレンを含む重合体が安定化する(重合体の分子量が増加する)。これによって、接着剤組成物は有機溶剤に不溶になる。
【0034】
式(2)の(b)に示されるように、適当な処理(光の照射および加熱など)により酸発生剤から生じた酸の作用によって、ヒドロキシスチレン同士を架橋していたアセタール保護基が1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびアセトアルデヒドに分解される。これによって、アセタール保護基を有するヒドロキシスチレンから、元のヒドロキシスチレンに戻る。すなわち、接着剤組成物は有機溶剤に可溶になる。
【0035】
また、本発明に係る接着剤組成物において、上述した繰り返し単位の例のように、上記重合体が芳香環を有していることが好ましい。重合体に芳香環が含まれていると、接着剤組成物の耐熱性が向上する。よって、溶剤を使用し、かつ高温処理を含むプロセスにより適した接着剤組成物を提供することができる。この芳香環は、上記官能基を有する繰り返し単位に含まれているか、または当該繰り返し単位以外の繰り返し単位に含まれ得る。
【0036】
また、本発明に係る接着剤組成物において、樹脂を構成する繰り返し単位の総モル数に占める上記官能基を有する繰り返し単位の割合が、10%以上であることが好ましい。このような範囲内に上記官能基を有する繰り返し単位が樹脂に含まれていれば、ポリビニルエーテルによって樹脂が十分に保護されるので、溶剤に対する耐性がより向上する。
【0037】
ポリビニルエーテルと反応可能な官能基を有する繰り返し単位は、上述のような化学構造から選択された1種類、または2種類以上の組み合わせを意味する。上記繰り返し単位が2種類以上含まれる場合、当該繰り返し単位は、樹脂を構成する1種類の重合体に含まれるか、または種々の組み合わせにおいて、樹脂を構成する2種類以上の重合体に含まれる。
【0038】
(樹脂に含まれる他の成分)
樹脂は、ポリビニルエーテルと反応可能な官能基を有する繰り返し単位の他に、ポリビニルエーテルと反応可能な官能基とポリビニルエーテルとの間の反応を妨げない限り、当業者に公知の種々の化学構造を繰り返し単位として含み得る。なお、この化学構造は、ポリビニルエーテルと反応可能な官能基を有する繰り返し単位を含む重合体に含まれているか、または当該重合体以外の重合体に含まれていてもよい。樹脂に含まれる他の成分は、例えば、接着剤組成物の耐熱性、柔軟性、接着強度、または溶剤への溶解性を向上させる化合物から、用途に応じて選択される。このうち、接着剤組成物の耐熱性を向上させるので、例えば、芳香環を有する化学構造が好ましい。よって、芳香環を有するスチレン構造について、樹脂に含まれる他の繰り返し単位の一例として以下に説明する。
【0039】
本明細書において、スチレン構造は、エチレン性の2重結合が開裂して重合体化する樹脂に含まれる、繰り返し単位を意味する。スチレン構造は、フェニル基における水素原子が炭素数1〜5のアルキルによって置換され得る。すなわち、スチレン構造は、以下の一般式(3):
【0040】
【化3】

【0041】
(R、Rおよびnは一般式(1)と同じ定義である)
によって示される化合物である。
【0042】
スチレンは、上述のような化合物から選択された1種類、または2種類以上の組み合わせを意味する。上記繰り返し単位が2種類以上含まれる場合、当該繰り返し単位は、樹脂を構成する1種類の重合体に含まれるか、または種々の組み合わせにおいて、樹脂を構成する2種類以上の重合体に含まれる。
【0043】
芳香環を有する化学構造の樹脂における含有量は、樹脂を構成する繰り返し単位の総モル数に占めるスチレンの割合が、10%以上、90%以上、好ましくは10%以上、50%以上、より好ましくは10以上、30%以下の範囲内であり得る。当該範囲内において芳香環を有する化学構造が樹脂に含有されていれば、接着剤組成物の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0044】
<ポリビニルエーテル>
本発明に係る接着剤組成物は、ポリビニルエーテルを含有する。当該ポリビニルエーテルに含まれる2つ以上のビニル基は、樹脂に必須に含まれる上記繰り返し単位が有する官能基と反応可能である。当該ビニル基と当該官能基とは、種々の処理によって反応可能であり、例えば、熱によって反応可能であることが好ましい。
【0045】
本発明に係るポリビニルエーテルは、以下の式(4)または(5):
【0046】
【化4】

【0047】
(Rは炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し;Rは水素原子、または炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基を表し;Rは水素原子、または炭素数1〜7の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基を表し;Aはc価の有機基を表し;Bは−CO−O−、−NHCO−または−NHCONH−を表し;cは2〜8の整数を表し;dは0または1〜10の整数を表す)
によって示される化合物である。
【0048】
A(c価の有機基)としては、例えば、好ましくは炭素数1〜50、特に炭素数1〜40の置換もしくは非置換のアルキレン基、炭素数6〜50、特に炭素数6〜40の置換もしくは非置換のアリーレン基、当該アルキレン基とアリーレン基とが結合した基、およびこれらの基における炭素原子と結合している水素原子が脱離した3〜8価の基などの炭化水素基、ならびに2〜8価のヘテロ環基および当該ヘテロ環基と当該炭化水素基とが結合した基などが挙げられる。上記アルキレン基およびアリーレン基において、O、NH、N(CH)、SまたはSOなどのヘテロ原子が介在し得る。上記置換のアルキレン基における置換基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基およびフッ素原子である。
【0049】
Aの例としては、以下の化5〜化8によって示される基が挙げられる。
【0050】
【化5】

【0051】
【化6】

【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
式(4)に示される化合物の例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,2−プロパンジオールジビニルエーテル、1,3−プロパンジオールジビニルエーテル、1,3−ブタンジオールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、テトラメチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ソルビトールテトラビニルエーテル、ソルビトールペンタビニルエーテル、エチレングリコールジエチレンビニルエーテル、トリエチレングリコールジエチレンビニルエーテル、エチレングリコールジプロピレンビニルエーテル、トリエチレングリコールジエチレンビニルエーテル、トリメチロールプロパントリエチレンビニルエーテル、トリメチロールプロパンジエチレンビニルエーテル、ペンタエリスリトールジエチレンビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリエチレンビニルエーテル、およびペンタエリスリトールテトラエチレンビニルエーテルが挙げられ得る。
【0055】
また、式(5)によって示される化合物は、Bが−CO−O−の場合に、多価カルボン酸とハロゲン化アルキルビニルエーテルとの反応により製造することができる。Bが−CO−O−の場合に、式(5)によって示される化合物の例としては、テレフタル酸ジエチレンビニルエーテル、フタル酸ジエチレンビニルエーテル、イソフタル酸ジエチレンビニルエーテル、フタル酸ジプロピレンビニルエーテル、テレフタル酸ジプロピレンビニルエーテル、イソフタル酸ジプロピレンビニルエーテル、マレイン酸ジエチレンビニルエーテル、フマル酸ジエチレンビニルエーテル、およびイタコン酸ジエチレンビニルエーテルが挙げられる。
【0056】
上記ポリビニルエーテルは、ジビニルエーテルまたはトリビニルエーテルであることが好ましい。
【0057】
接着剤組成物におけるポリビニルエーテルの含有量は、ポリビニルエーテルがジビニルエーテルである場合に、樹脂100質量部に対するポリビニルエーテルの割合が3重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、5重量部以上、20重量部以下であることがより好ましい。接着剤組成物におけるポリビニルエーテルの含有量が上記範囲内であれば、接着剤組成物は、溶剤に対する耐性がさらに向上する。
【0058】
接着剤組成物におけるポリビニルエーテルの含有量は、ポリビニルエーテルがトリビニルエーテルである場合に、樹脂100質量部に対するポリビニルエーテルの割合が1重量部以上、30重量部以下であることが好ましく、3重量部以上、25重量部以下であることがより好ましい。接着剤組成物におけるポリビニルエーテルの含有量が上記範囲内であれば、接着剤組成物は、溶剤に対する耐性がさらに向上する。
【0059】
上述したポリビニルエーテルは、1種または2種以上の組み合わせとして使用し得る。
【0060】
<酸発生剤>
本発明に係る接着剤組成物は、酸発生剤をさらに含有している。上記酸発生剤は、特に限定されないが、酸を発生する当業者に公知の化合物である。上記酸発生剤としては、光の照射によって酸を発生する光酸発生剤、または加熱によって酸を発生する熱酸発生剤が好ましい。なかでも光酸発生剤がより好ましい。
【0061】
ここで、本発明に係る接着剤組成物において、樹脂100質量部に対する酸発生剤の割合は、0.1質量部以上、20質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上、10質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上、10質量部以下であることが最も好ましい。接着剤組成物に含まれる酸発生剤の割合がこのような範囲内にあれば、酸を発生させるための処理(例えば、露光)を短時間に行うことができ、かつ高温による酸発生剤の分解をより確実に防止することができる。
【0062】
酸発生剤の例としては、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルスルホニルジアゾメタン類またはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ならびにジスルホン系酸発生剤などが挙げられ得る。これらの酸発生剤のうち、オニウム塩系酸発生剤は分解温度が高く高温プロセスに適している。よって、オニウム塩系酸発生剤の詳細を、酸発生剤の一例として以下に説明する。
【0063】
オニウム塩系酸発生剤は、例えば、一般式(6)または(7):
【0064】
【化9】

【0065】
(R〜R、R11〜R12は、それぞれ独立して、アリール基またはアルキル基を表し;R〜Rのうち何れか2つが相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよく;R10は、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはアルケニル基を表し;R〜Rのうち少なくとも1つはアリール基を表し、R11〜R12のうち少なくとも1つはアリール基を表す)
によって表される化合物である。
【0066】
なお、R〜Rのうち少なくとも1つはアリール基を表す。R〜Rのうち、2つ以上がアリール基であることが好ましく、R〜Rのすべてがアリール基であることが最も好ましい。
【0067】
〜Rのアリール基は、特に限定されないが、例えば炭素数6〜20のアリール基である。当該アリール基は、その水素原子の一部もしくは全部がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子または水酸基などに置換されるか、または非置換である。また、アリール基としては、安価に合成可能なことから、炭素数6〜10のアリール基が好ましい。このようなアリール基の例としては、フェニル基およびナフチル基が挙げられる。
【0068】
上記アリール基の水素原子が置換され得るアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基またはtert−ブチル基がより好ましい。上記アリール基の水素原子が置換され得るアルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基またはtert−ブトキシ基がより好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が最も好ましい。上記アリール基の水素原子が置換され得るハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0069】
〜Rのアルキル基は、特に限定されないが、例えば炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基などである。これらのアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ノニル基またはデカニル基などである。これらのうち安価に合成可能なことから、メチル基が好ましい。
【0070】
〜Rのうち何れか2つが相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成する場合、当該環は、硫黄原子を含めて3〜10員環を形成していることが好ましく、5〜7員環を形成していることがより好ましい。上記環は、例えば、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、9H−チオキサンテン、チオキサントン、チアントレン、フェノキサチイン、テトラヒドロチオフェニウム、またはテトラヒドロチオピラニウムである。また、R〜Rのうち何れか2つが相互に結合して式中の硫黄原子と共に環を形成する場合、当該環を形成しない残りの1つは、アリール基であることが好ましい。当該アリール基の定義は、上述したR〜Rのアリール基の定義と同じである。
【0071】
10は、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはアルケニル基を表す。R10におけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基であり得る。上記直鎖状または分岐鎖状のアルキル基は、炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数1〜8であることがより好ましく、炭素数1〜4であることが最も好ましい。上記環状のアルキル基は、炭素数4〜15であることが好ましく、炭素数4〜10であることがより好ましく、炭素数6〜10であることが最も好ましい。
【0072】
10におけるハロゲン化アルキル基は、例えば上記直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基における水素原子の一部または全部がハロゲン原子に置換されているアルキル基である。当該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などが挙げられ、中でもフッ素原子が好ましい。ハロゲン化アルキル基において、当該ハロゲン化アルキル基に含まれるハロゲン原子および水素原子の総数に対するハロゲン原子の総数の割合(ハロゲン化率(%))としては、10%以上、100%以下が好ましく、50以上、100%以下がより好ましく、100%が最も好ましい。酸の強度が強くなるので、ハロゲン化アルキル基のうち、上記ハロゲン化率が高いものほど好ましい。
【0073】
10におけるアリール基は、炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0074】
10におけるアルケニル基は、炭素数2〜10のアルケニル基であることが好ましい。
【0075】
10において、「置換または非置換の」は、上記直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはアルケニル基における水素原子の一部または全部が置換基(水素原子以外の他の原子または基)に置換された状態であり得ることを意味する。R10における置換基の数は1つ以上であり得る。当該置換基は、例えば、ハロゲン原子、ヘテロ原子、またはアルキル基などである。当該ハロゲン原子またはアルキル基の定義は、上述したハロゲン化アルキル基におけるハロゲン原子またはアルキル基の定義と同じである。当該ヘテロ原子は、例えば、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子などである。
【0076】
式(6)および(7)によって表されるオニウム塩系酸発生剤の例としては、ジフェニルヨードニウムのトリフルオロメタンスルホネートまたはノナフルオロブタンスルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムのトリフルオロメタンスルホネートまたはノナフルオロブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、トリ(4−メチルフェニル)スルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、ジメチル(4−ヒドロキシナフチル)スルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、モノフェニルジメチルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;ジフェニルモノメチルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、(4−メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、トリ(4−tert−ブチル)フェニルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、ジフェニル(1−(4−メトキシ)ナフチル)スルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート、ジ(1−ナフチル)フェニルスルホニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−フェニルテトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(4−メチルフェニル)テトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(4−メトキシナフタレン−1−イル)テトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(4−エトキシナフタレン−1−イル)テトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(4−n−ブトキシナフタレン−1−イル)テトラヒドロチオフェニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−フェニルテトラヒドロチオピラニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;1−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオピラニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネート;ならびに1−(4−メチルフェニル)テトラヒドロチオピラニウムのトリフルオロメタンスルホネート、そのヘプタフルオロプロパンスルホネートまたはそのノナフルオロブタンスルホネートなどが挙げられる。
【0077】
また、これらのオニウム塩のアニオン部をメタンスルホネート、n−プロパンスルホネート、n−ブタンスルホネートまたはn−オクタンスルホネートなどのアルキルスルホネートに置き換えたオニウム塩を、酸発生剤として使用し得る。
【0078】
さらに、オニウム塩系酸発生剤は、式(6)または(7)のアニオン部が一般式(8a)または(8b):
【0079】
【化10】

【0080】
(X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換された炭素数2〜6のアルキレン基を表し;Y”およびZ”は、それぞれ独立して、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1〜10のアルキル基を表す)
によって表されるアニオン部に置き換えられた化合物であり得る(カチオン部は式(6)または(7)のカチオン部と同じである)。
【0081】
X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である。当該アルキレン基の炭素数は2〜6、好ましくは3〜5、最も好ましくは3である。Y”、Z”は、それぞれ独立して、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。当該アルキル基の炭素数は1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜3である。
【0082】
X”のアルキレン基、またはY”およびZ”のアルキル基の炭素数は、溶媒に対する溶解性の高さなどの観点から、上述の範囲内において小さいほど好ましい。また、X”のアルキレン基、またはY”およびZ”のアルキル基において、フッ素原子に置換されている水素原子の数が大きいほど、酸の強度が強くなり、かつ200nm以下の高エネルギー光または電子線に対する透過性が向上するので好ましい。当該アルキレン基またはアルキル基におけるフッ素原子の割合(フッ素化率(%))は、好ましくは70以上、100%以下、より好ましくは90以上、100%以下、最も好ましく100%である。全ての水素原子がフッ素原子に置換された(フッ素化率100%の)アルキレン基またはアルキル基は、パーフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキル基である。
【0083】
さらに、オニウム塩系酸発生剤は、一般式(9a)または(9b):
【0084】
【化11】

【0085】
(R21〜R26は、それぞれ独立して、アルキル基、アセチル基、アルコキシ基、カルボキシ基、水酸基またはヒドロキシアルキル基を表し;n21〜n25は、それぞれ独立して、0〜3の整数であり;n26は0〜2の整数である)
によって表されるアニオン部を有するスルホニウム塩であり得る。
【0086】
21〜R26において、アルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、このうち直鎖または分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、またはtert−ブチル基が最も好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、このうち直鎖または分岐鎖状のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が最も好ましい。ヒドロキシアルキル基は、上記アルキル基における1つ以上の水素原子がヒドロキシ基に置換されていることが好ましい。ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、またはヒドロキシプロピル基などが挙げられる。
【0087】
21〜n26が2以上の整数である場合、複数のR21〜R26のそれぞれは、同じかまたは異なる。n21は、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1、最も好ましくは0である。n22およびn23は、好ましくはそれぞれ独立して0または1、より好ましくは0である。n24は、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1である。n25は、好ましくは0または1、より好ましくは0である。n26は、好ましくは0または1、より好ましくは1である。
【0088】
なお、本発明に係る接着剤組成物は、上述のようなオニウム塩系酸発生剤および公知の酸発生剤のうち何れか1種、または2種以上の組み合わせを本発明に係る酸発生剤として含有し得る。
【0089】
<接着剤組成物における他の成分>
本発明に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性を有する添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤などの当該分野において慣用されているものをさらに添加することができる。さらに、接着剤組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、有機溶剤を用いて希釈することによって、粘度を調整してもよい。有機溶剤としては、接着剤組成物に含まれる他の成分を溶解し、均一な溶液化できるものであればよい。よって、本発明に使用し得る有機溶剤は、従来公知のあらゆる有機溶剤から1種または2種以上を必要に応じて選択すればよい。
【0090】
有機溶剤の例としては、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、または2−ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、またはジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;エステル結合(エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテートなど)する化合物、またはエーテル結合(上記多価アルコール類または上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、またはモノブチルエーテルなどのモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル)を有する化合物などの多価アルコール類の誘導体(これらのうちプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンなどの環式エーテル類、または乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、もしくはエトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;ならびにアニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、またはメシチレンなどの芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
【0091】
これらの有機溶剤は単独の溶剤、または2種以上の混合溶剤として使用し得る。
【0092】
これらのうち、単独で使用する場合の有機溶剤としては、PGMEA、PGME、またはELが好ましい。
【0093】
有機溶剤の使用量は、接着剤組成物を塗布することを所望する膜厚に応じて適宜選択されるものであって、接着剤組成物が半導体ウェハーなどの支持体上に塗布可能な濃度になる範囲内にあればよく、特に限定されない。一般的には、接着剤組成物の固形分濃度が1質量%以上、55質量%以下、好ましくは25質量%以上、45質量%以下の範囲内になる量として用いられる。
【0094】
〔(共)重合反応〕
樹脂の調製に(共)重合反応を利用する場合は、公知の方法によって行えばよく、その方法は特に限定されない。例えば、既存の攪拌装置を用いて単量体組成物を攪拌することによって、本発明に係る接着剤組成物を得ることができる。
【0095】
(共)重合反応における温度条件は、適宜設定すればよく、限定されないが、好ましくは60℃以上、150℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上、120℃以下である。
【0096】
また、(共)重合反応において、必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては、上述の有機溶剤が挙げられるが、特に、PGMEAがより好ましい。
【0097】
また、本発明に係る接着剤組成物を得るための共重合反応において、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、および4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ化合物;ならびにデカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、コハク酸ペルオキシド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルペルオキシピバレート、および1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、これらの内の1種類を用いてもよく、必要に応じて2種類以上を混合して用いてもよい。また、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の組み合わせまたは反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0098】
〔接着フィルム〕
本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記の何れかの接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。当該接着フィルムは、接着フィルム法の過程において得られる。当該接着フィルム法とは、予め可撓性フィルムなどの一時的に基材になるフィルム上に上記の何れかの接着剤組成物を含む接着剤層を形成した後、乾燥させておき、接着フィルムを、被加工体に貼り付けて使用する方法である。
【0099】
上述の〔接着剤組成物〕の項に記載のように接着剤組成物が、ポリビニルエーテル、およびポリビニルエーテルと反応可能な官能基を有する繰り返し単位を含む樹脂を含有するので、当該接着剤組成物によって構成される接着剤層は、熱処理によって溶剤耐性が向上する。また、接着剤組成物は、酸発生剤をさらに含有するので、光の照射によって溶剤への溶解性が向上する。すなわち、本発明に係る接着フィルムは、所望のタイミングにおいて、溶剤への溶解性を自在に可変させることができる。よって、本発明に係る接着フィルムは、溶剤を使用するプロセスに好適である。
【0100】
接着フィルムは、接着剤層の接着面に保護フィルムが被覆された構成を有していてもよい。当該構成を採用した場合には、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、かつ被加工体の上に接着剤層の露出した接着面を重ねた後に、接着剤層からフィルム(可撓性フィルムなど)を剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
【0101】
ここで、上述した本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、液状のまま、半導体ウェハーなどの被加工体の上に塗布して接着剤層を形成する方法を用いてもよい。一方で、本発明に係る接着フィルムを用いれば、被加工体に対して直接に接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚均一性および表面平滑性の良好な接着剤層を形成することができる。
【0102】
本発明に係る接着フィルムの製造に使用する接着層形成用のフィルムは、フィルム上に製膜された接着剤層を当該フィルムから剥離可能であり、かつ接着剤層を保護基板やウェハーなどの被処理面上に転写できる離型フィルムであればよく、他の点に関して特に限定されない。接着層形成用の当該フィルムの例としては、膜厚15μm以上、125μm以下のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、またはポリ塩化ビニルなどを材料とする合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムは、必要に応じて、転写を容易にする離型処理を施されていることが好ましい。
【0103】
上記フィルム上に接着剤層を形成する方法は、所望する接着剤層の膜厚または均一性に応じて適宜、公知の方法から選択すればよく、特に限定されない。公知の方法の例としては、アプリケーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ロールコーター、またはカーテンフローコーターなどを用いて、フィルム上に形成される乾燥後の接着剤層の膜厚が10μm以上、1000μm以下を有するように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。特に、ロールコーターは、膜厚の均一性に優れた接着剤層の形成、および厚さの厚い膜を効率よく形成することに適しているため好ましい。
【0104】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムは、接着剤層から剥離可能なフィルムであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムなどが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンがコーティングされているか、または焼き付けられていることが好ましい。これは、接着剤層からの剥離が容易だからである。保護フィルムの厚さは、特に限定されないが15μm以上、125μm以下であることが好ましい。これは、保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保できるからである。
【0105】
接着フィルムの使用方法としては、特に限定されないが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、保護フィルムを剥離し、かつ被加工体の上に接着剤層の露出した接着面を重ねた後に、フィルム側(接着剤層の形成された面の裏面側)から加熱ローラを回転移動させることによって、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。なお、巻き取りローラなどのローラを用いてロール状にして順次、接着フィルムから剥離した保護フィルムを巻き取れば、当該保護フィルムは保存して再利用可能である。
【0106】
本発明に係る接着剤組成物は、用途に関して特に限定されないが、半導体ウェハーなどの基板に対して、半導体ウェハーの精密加工に用いる保護基板を接着する接着剤組成物として好適に使用される。本発明の接着剤組成物は、特に、半導体ウェハーなどの基板を研削して薄板化する際に、サポートプレートに当該基板を貼り付ける接着剤組成物(を含む接着剤層)として、好適に使用される(例えば、特開2005−191550号公報を参照すればよい)。
【0107】
〔剥離液〕
本発明に係る接着剤組成物を除去するための剥離液として、当該分野において一般的な剥離液を使用可能であるが、特にPGMEA、酢酸エチル、またはメチルエチルケトンを主成分とする剥離液が環境負荷および剥離性の観点から好ましく使用される。
【0108】
以下に、本発明に係る接着剤組成物の実施例を示す。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を助ける例示であって、何ら本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0109】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
<接着剤組成物の組成>
本発明の実施例および比較例の組成物として、組成の異なる複数の接着剤組成物を調製した。調製した接着剤組成物のそれぞれが有する組成を以下の表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
(各接着剤組成物における各成分の詳細)
樹脂1は、8000の重量平均分子量を有するポリ(p−ヒドロキシスチレン)である。
樹脂2は、2500の重量平均分子量を有するポリ(p−ヒドロキシスチレン)である。
樹脂3は、p−ヒドロキシスチレンおよびスチレンを80:20のモル比で含む、2500の重量平均分子量を有する樹脂である。
樹脂4は、p−ヒドロキシスチレンおよびスチレンを80:20のモル比で含む、8000の平均分子量を有する樹脂である。
樹脂5は、樹脂1のp−ヒドロキシスチレンにおける水酸基の水素原子の25モル%を、1−エトキシエチル基に置換した樹脂である。
樹脂6は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、スチレンおよびフェノキシエチルアクリレートを15:13:52:20のモル比で含む、86000の重量平均分子量を有する樹脂である。
バインダー1は、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルである。バインダー2は、メラミン系バインダーMW30HM(三和ケミカル)である。
酸発生剤は、ジナフチルフェニルスルホニウムノナフルオロ−n−ブタンスルホネートである。
溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)である。
【0113】
<接着剤組成物の評価>
実施例および比較例の上記接着剤組成物のそれぞれについて、溶剤耐性、耐熱性、柔軟性、接着強度および露光後の溶剤に対する溶解性を評価した。いずれの接着剤組成物も、半導体ウェハー上に膜厚15μmの層になる量をスピン塗布し、110℃または150℃でベークした。その後、ベアガラスを接着剤組成物の層の上において、150℃でベークしてベアガラスを貼り付けた。この状態における接着剤組成物が以下のように評価された。
【0114】
(溶剤耐性の評価)
3つの溶剤(PGMEA、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)およびN−メチルピロリドン(NMP))のそれぞれに、室温で3分間に渡って浸漬することによって、溶解しないときに溶剤耐性を「○」、そして溶解したときには溶剤耐性を「×」と評価した。
【0115】
(耐熱性の評価)
TDS測定によって、250℃における脱ガスの強度が20万以下のものを「○」、そして20万を超えるものを「×」と評価した。
【0116】
(柔軟性の評価)
目視によってクラックが生じていないものを「○」、そしてクラックが生じているものを「×」と評価した。
【0117】
(接着強度の評価)
250℃において接着強度が2kg/cm以上のものを「○」、そして2kg/cm未満のものを「×」と評価した。
【0118】
(露光後の溶剤に対する溶解性の評価)
10mW/cmの散乱光(g、hおよびi線を含む)をベアガラス側から1.5分間に渡って照射した。その後、5%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬して、5分以内に溶解するものを「○」、そして5分を超えても溶解しないものを「×」と評価した。これらの各評価は、表2に示す通りである。
【0119】
【表2】

【0120】
表2に示すように、本発明に係る実施例1〜6の接着剤組成物は、PGMEA、PGMEおよびNMPのいずれにも溶解しなかった。また、実施例1〜6の接着剤組成物は、脱ガス性、柔軟性および接着強度も良好であった。さらに、実施例1〜6の接着剤組成物は、露光後には溶剤に対して良好に溶解した。
【0121】
一方、メラミン系バインダーを有する比較例1の接着剤組成物は、溶剤耐性、脱ガス性、柔軟性および接着強度に関して良好であったが、露光しても溶剤に溶解しなかった。また、比較例2〜4の接着剤組成物は溶剤耐性がなかった。よって、露光後の溶剤に対する溶解性については調べていない。
【0122】
以上の結果から明らかなように、ポリビニルエーテル、上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂、および酸発生剤を含有する接着剤組成物は、高い溶剤耐性を有し、かつ露光によって溶剤に対する溶解性が向上する。よって、本実施例に係る接着剤組成物は、種々の溶剤を使用するプロセスにおいて好適に使用可能であり、処理後には溶剤に対する溶解性が向上して容易に除去可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、様々な製品の製造に適用される溶剤を用いたプロセスにおいて、好適な接着剤組成物および接着フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルエーテル、上記ポリビニルエーテルが有するビニル基と反応可能な官能基を有する重合体を含む樹脂、および酸発生剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記官能基がヒドロキシル基またはカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記重合体が芳香環を有することを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記樹脂を構成する繰り返し単位の総モル数に占める上記官能基を有する繰り返し単位の割合が、10%以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記ポリビニルエーテルが、ジビニルエーテルまたはトリビニルエーテルであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記樹脂100重量部に対する上記ポリビニルエーテルの割合が、1重量部以上、50重量部以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記樹脂100重量部に対する上記酸発生剤の割合が、0.1重量部以上、20重量部以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
フィルム上に、請求項1〜7の何れか1項に記載の接着剤組成物を含有する接着剤層を備えていることを特徴とする接着フィルム。

【公開番号】特開2011−12098(P2011−12098A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155054(P2009−155054)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】