説明

接着剤組成物

【課題】ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を維持できる一方、不要になったときには被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、プロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物、及び、光カチオン重合開始剤を含有する接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を維持できる一方、不要になったときには被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤に求められる性能はその用途により様々であるが、用途によっては、必要な間だけ強固に被着体に接着して固定できる一方で、使用後には容易に剥がせることが要求されることがある。
例えば、電子材料の製造方法においては、SUS等の金属板、ガラス板、シリコンウエハ等の支持板上に、接着剤を用いて電子部品や配線を固定し、アルカリエッチングやメッキ等の加工を加えた後、200℃以上の温度をかけてハンダを溶融して導電接続を行うハンダリフロー工程を行う。これらの一連の工程においては、電子部品や配線がずれないように高い接着強度が求められる。一方、一連の工程が完了した後には、糊残りすることなく支持板から電子材料を剥離することが求められる。
【0003】
高接着易剥離性の接着剤としては、例えば特許文献1には、接着剤中に熱膨張性マイクロカプセル等の発泡剤を配合した接着剤が開示されている。このような接着剤を加熱すると、発泡剤により接着剤の全体が発泡して、被着体との接着面積が低減することから、容易に剥離することができる。しかしながら、このような発泡型の易剥離性接着剤では、ハンダリフロー工程における加熱の際に発泡して、剥離してしまうという問題があった。
【0004】
特許文献2には、硬化型の接着剤中にアゾ化合物、アジド化合物等の気体発生剤を配合した接着剤が開示されている。このような接着剤に紫外線を照射したり加熱したりすると、接着剤が硬化するとともに、気体発生剤から発生した気体が被着体との接着面に放出され、接着面の少なくとも一部を剥がすことから、容易に剥離することができる。しかしながら、特許文献2に記載された接着剤も、ハンダリフロー工程における加熱の際に気体発生剤から気体が発生してしまい、剥離してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−131507号公報
【特許文献2】特開2003−231867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を維持できる一方、不要になったときには被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、プロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物、及び、光カチオン重合開始剤を含有する接着剤組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、プロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物、及び、光カチオン重合開始剤を含有する接着剤組成物は、ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を発揮できる一方、温水中に浸漬するだけで糊残りすることなく容易に剥離することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の接着剤組成物は、接着成分として、エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物(本明細書中、カチオン重合性化合物(A)ともいう)とプロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物(本明細書中、カチオン重合性化合物(B)ともいう)とを含有する。これらのカチオン重合性化合物は、エチレングリコール骨格又はプロピレングリコール骨格を有することから、いずれも親水性が高い。このような親水性が高いカチオン重合性化合物を2種類併用することにより、高温環境下でも高い接着力を維持できる一方、不要になったときには温水中に浸漬するだけで、被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる。
【0010】
上記カチオン重合性化合物(A)は、本発明の接着剤組成物に高温環境下でも高い接着力を付与するために必須の成分である。
上記カチオン重合性化合物(A)におけるカチオン重合性反応基は特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基、脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
上記カチオン重合性化合物(A)は特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
上記一般式(1)中、nは整数を表す。
上記一般式(1)においてnは特に限定されないが、現時点においては22を超える市販品が存在しないことから、実質的な上限は22である。nの好ましい範囲は5〜15である。nが15を超えると、接着剤組成物を調製しにくくなることがあり、また、接着剤組成物の温水中での剥離性が低下することがある。これは、nが15を超えると、ポリエチレングリコール鎖の結晶性が高くなるためと考えられる。nのより好ましい上限は13である。
【0013】
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂は、例えば、デナコールEX−810(n=1)、デナコールEX−850(n=2)、デナコールEX−821(n=4)、デナコールEX−830(n=9)、デナコールEX−841(n=13)、デナコールEX−861(n=22)等がナガセケムテックス社より市販されており、エポライト40E(n=1)、エポライト100E(n=2)、エポライト200E(n=4)、エポライト400E(n=9)等が共栄社化学社より市販されている。
【0014】
上記カチオン重合性化合物(B)は、本発明の接着剤組成物に温水中で剥離する性能を付与するために必須の成分である。
上記カチオン重合性化合物(B)におけるカチオン重合性反応基は特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
上記カチオン重合性化合物(B)は特に限定されず、例えば、下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
上記一般式(2)中、mは整数を表す。
上記一般式(2)においてmは特に限定されないが、現時点においては11を超える市販品が存在しないことから、実質的な上限は11である。mが11を超えると、接着剤組成物を調製しにくくなることがあり、また、接着剤組成物が常温で固体となることがある。mの好ましい範囲は2〜11、より好ましい範囲は3〜11である。
【0017】
上記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂は、例えば、デナコールEX−911(m=1)、デナコールEX−941(m=2)、デナコールEX−920(m=3)、デナコールEX−931(m=11)等がナガセケムテックス社より市販されており、エポライト70P(m=1)、エポライト200P(m=3)、エポライト400P(m=7)等が共栄社化学社より市販されている。
【0018】
上記カチオン重合性化合物(A)100重量部に対する上記カチオン重合性化合物(B)の配合量の好ましい下限は30重量部、好ましい上限は5000重量部である。上記カチオン重合性化合物(B)の配合量が30重量部未満であると、得られる接着剤組成物を温水に浸漬しても剥離までに要する時間が極端に長時間となることがある。上記カチオン重合性化合物(B)の配合量が5000重量部を超えると、得られる接着剤組成物が硬化しにくくなり、接着力が低下することがある。上記カチオン重合性化合物(A)100重量部に対する上記カチオン重合性化合物(B)の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は2000重量部であり、更に好ましい下限は100重量部、更に好ましい上限は1500重量部である。
【0019】
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有する。
本発明の接着剤組成物が上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有することにより、本発明の接着剤組成物を用いてガラス板、シリコンウエハ等の支持板上に半導体基板を接合した場合、温水中に浸漬して剥離する際に接着剤組成物は支持板側に固着し、半導体基板側に糊残りすることなく容易に剥離することができる。この理由は次のように推測される。
本発明の接着剤組成物は、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有するため、その硬化物は構造中にシリコーン骨格を有する。このため、例えば、カチオン重合性反応基を持たないシリコーン化合物を単独で接着剤組成物中に添加する場合と比較して、支持板に対する硬化物全体としての密着性が高くなり、温水中に浸漬して剥離する際には半導体基板側よりも支持板側に固着しやすく、半導体基板側に糊残りすることなく容易に剥離することができる。
【0020】
また、本発明の接着剤組成物は、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有するため、その硬化物は構造中にシリコーン骨格を有し、耐熱性にも優れる。このため、本発明の接着剤組成物を用いてガラス板、シリコンウエハ等の支持板上に半導体基板を接合した場合、本発明の接着剤組成物の硬化物は、ハンダリフロー等における高温環境下でも熱分解が抑制され、例えば、温水中に浸漬しても剥離することのできない分解物が半導体基板に付着してしまう等の問題を防止することができる。
【0021】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物におけるカチオン重合性反応基は特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0022】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物は特に限定されないが、本発明の接着剤組成物を厚み100μmの硬化物としたとき、当該硬化物の可視光波長600nmでの光線透過率が20%以上となるように上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を選択することが好ましい。上記硬化物の可視光波長600nmでの光線透過率が20%未満となるようなカチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を用いると、得られる接着剤組成物に光を照射しても、光の散乱により硬化反応が充分に進行しないことがあり、また、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性が悪くなり、得られる接着剤組成物に強い光を照射しても、シリコーン骨格を硬化物全体に存在させることができず、支持板に対する密着性が低下することがある。
【0023】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物として、具体的には、エポキシ基を有するシリコーン化合物が好ましい。
上記エポキシ基を有するシリコーン化合物は特に限定されず、側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物であってもよく、末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物であってもよい。
【0024】
上記側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物は特に限定されないが、下記一般式(3)で表される構造単位を有するシリコーン化合物が好ましい。
SiO2/2 (3)
一般式(3)中、Rはエポキシ基含有基を表し、Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜8の炭化水素基又はそのフッ素化物を表す。
【0025】
上記エポキシ基含有基は特に限定されないが、グリシジル基含有基が好ましく、また、エポキシシクロヘキシル基含有基ではないことが好ましい。
上記グリシジル基含有基は特に限定されず、例えば、2,3−エポキシプロピル基、3,4−エポキシブチル基、4,5−エポキシペンチル基、2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等が挙げられる。
【0026】
上記直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜8の炭化水素基は特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、イソへキシル基等が挙げられる。
【0027】
上記側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物は、上記一般式(3)で表される構造単位以外の構造単位を有してもよい。
上記一般式(3)で表される構造単位以外の構造単位として、例えば、下記一般式(4)で表される構造単位、下記一般式(5)で表される構造単位等が挙げられる。なお、下記一般式(4)で表される構造単位及び下記一般式(5)で表される構造単位は、上記側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物に単独で含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
SiO2/2 (4)
SiO3/2 (5)
一般式(4)及び(5)中、R〜Rはそれぞれ、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜8の炭化水素基又はそのフッ素化物を表し、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
上記末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物は特に限定されず、例えば、上記一般式(4)で表される構造単位又は上記一般式(5)で表される構造単位を単独で又は2種以上有する化合物の末端にエポキシ基含有基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0029】
上記エポキシ基を有するシリコーン化合物のエポキシ当量は特に限定されないが、好ましい下限が100、好ましい上限が5000である。上記エポキシ当量が100未満であると、得られる接着剤組成物の硬化物には、上記エポキシ基を有するシリコーン化合物が充分に取り込まれず、構造中のシリコーン骨格の割合が低下し、支持板に対する密着性が低下することがある。上記エポキシ当量が5000を超えると、上記エポキシ基を有するシリコーン化合物と、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性が悪くなり、得られる接着剤組成物の硬化物の光線透過率が小さくなりすぎることがある。上記エポキシ基を有するシリコーン化合物のエポキシ当量は、より好ましい下限が150、より好ましい上限が1000である。
【0030】
上記エポキシ基を有するシリコーン化合物を合成する方法は特に限定されず、例えば、SiH基を有するシリコーン樹脂と、エポキシ基含有基を有するビニル化合物とのハイドロシリレーション反応により、シリコーン樹脂にエポキシ基含有基を導入する方法、シロキサン化合物と、エポキシ基含有基を有するシロキサン化合物とを縮合反応させる方法等が挙げられる。
上記エポキシ基含有基を有するシロキサン化合物として、具体的には、例えば、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン、2,3−エポキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン等のジアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2,3−エポキシプロピルトリメトキシシラン、2,3−エポキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン等が挙げられる。
【0031】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の分子量は特に限定されないが、好ましい下限が300、好ましい上限が5000である。上記分子量が300未満であると、得られる接着剤組成物の硬化物は、支持板に対する密着性が低下することがある。上記分子量が5000を超えると、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性が悪くなり、得られる接着剤組成物中で上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物が層分離したり、得られる接着剤組成物の硬化物の光線透過率が小さくなりすぎたりすることがある。
【0032】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の市販品は特に限定されず、例えば、信越化学工業社製の商品名「X−22−343」、「KF−101」等の側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物、信越化学工業社製の商品名「X−22−163」等の両末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0033】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の配合量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が100重量部である。上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の配合量が0.1重量部未満であると、得られる接着剤組成物の硬化物は、構造中のシリコーン骨格の割合が低下し、支持板に対する密着性が低下することがある。上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の配合量が100重量部を超えると、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)の配合量が相対的に低下し、得られる接着剤組成物の接着力又は温水中で剥離する性能が低下することがあり、また、各配合成分の相溶性が低下し、得られる接着剤組成物をフィルム化する際に良好なフィルム物性が得られないことがある。上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の配合量は、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、より好ましい下限が2重量部、より好ましい上限が70重量部である。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、光カチオン重合開始剤を含有する。
上記光カチオン重合開始剤は、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生する化合物であれば特に限定されず、イオン性光酸発生型であっても、非イオン性光酸発生型であってもよい。
【0035】
上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は特に限定されず、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。これらのイオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤の市販品は特に限定されず、例えば、旭電化工業社製の商品名「アデカオプトマーSP150」、「アデカオプトマーSP170」等の「アデカオプトマー」シリーズ、ゼネラルエレクトロニクス社製の商品名「UVE−1014」、サートマー社製の商品名「CD−1012」、サンアプロ社製の商品名「CPI−100P」等が挙げられる。
【0037】
上記非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は特に限定されず、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドホスホナート等が挙げられる。これらの非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記光カチオン重合開始剤の配合量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記光カチオン重合開始剤の配合量が0.1重量部未満であると、カチオン重合反応が充分に進行しなかったり、反応が遅くなったりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、カチオン重合反応が速くなりすぎて、作業性が低下したり不均一な硬化物となったりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の配合量は、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、より好ましい下限が0.3重量部、より好ましい上限が5重量部である。
【0039】
上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と上記光カチオン重合開始剤との組み合わせは、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物95.2重量%と上記光カチオン重合開始剤4.8重量%との混合物について、光DSC装置を用いて紫外線を照射しながら観察した発熱量が40J/g以上となるような組み合わせであることが好ましい。
上記発熱量がこのような範囲を満たす場合、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と上記光カチオン重合開始剤とは、比較的高い速硬化性を発現することのできる組み合わせであるといえる。従って、上記発熱量が上記範囲を満たすことにより、得られる接着剤組成物は速硬化性に優れ、具体的には、例えば、紫外線照射後5時間以内に充分な接着力を発現することができる。
上記発熱量が40J/g未満であると、得られる接着剤組成物は、速硬化性が低下することがある。上記発熱量は65J/g以上となることがより好ましい。
【0040】
また、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物95.2重量%と上記光カチオン重合開始剤4.8重量%との混合物について、光DSC装置を用いて紫外線を照射しながら観察した発熱量の上限は特に限定されないが、1000J/g以下となることが好ましい。
【0041】
本明細書中、光DSC装置を用いて紫外線を照射しながら観察した発熱量とは、光DSC装置を用いて試料に紫外線を照射して得られた発熱曲線から求められる発熱量を意味する。光DSC装置として、例えば、光DSC装置(TAインスツルメント社製のDSC装置Q100、冷凍機RSC、光DSC用アダプターPCA、ウシオ電機社製のスポットライト照射器SP3、ライトガイドAF−12NQ−X)等が挙げられる。
なお、図1及び2に、光DSC装置を用いて、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と光カチオン重合開始剤との混合物に紫外線を照射して得られた発熱曲線の一例を示す。図1及び2においては、斜線部分の面積が、光DSC装置を用いて紫外線を照射しながら観察した発熱量に相当する。図1のように発熱ピーク時間(発熱曲線がピークに達する時間)が短く発熱量(斜線部分の面積)が大きい場合には、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と上記光カチオン重合開始剤との光反応速度が速く、発熱曲線が一定値を示すまでの時間も短い。一方、図2のように発熱ピーク時間(発熱曲線がピークに達する時間)が長く発熱量(斜線部分の面積)が小さい場合には、上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と上記光カチオン重合開始剤との光反応速度が遅く、発熱曲線が一定値を示すまでに時間がかかる。
【0042】
本発明の接着剤組成物は、更に、架橋剤としてのラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物、及び、光ラジカル重合開始剤を含有してもよい。
【0043】
上記光ラジカル重合開始剤を含有することにより、得られる接着剤組成物においては、光照射により速やかにラジカル重合が開始される。これにより、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物のラジカル重合性反応基同士が重合して、カチオン重合性反応基を側鎖として有する重合体が形成される。一方、光照射により上記光カチオン重合開始剤も活性化するが、カチオン重合は、上記カチオン重合性化合物(A)におけるエチレングリコール骨格及び上記カチオン重合性化合物(B)におけるプロピレングリコール骨格の存在によって反応が遅延されるため非常に緩やかに進行する。
このため、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物、及び、上記光ラジカル重合開始剤を含有することにより、得られる接着剤組成物においては、まず、ラジカル重合により、カチオン重合性反応基を側鎖として有する重合体が充分に形成された後、当該カチオン重合性反応基と、上記カチオン重合性化合物(A)、上記カチオン重合性化合物(B)及び上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物とが反応して、非常に大きな網目状構造体が形成される。
【0044】
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物、及び、光ラジカル重合開始剤を含有することにより、得られる接着剤組成物の硬化物は非常に大きな網目状構造を有することができるため、柔軟性が極めて高い。このような接着剤組成物を用いて支持板上に半導体基板を接合した場合、当該接着剤組成物の硬化物は、ハンダリフロー等における高温環境下でも半導体基板の変形に対する追従性が高く、半導体基板が支持板から剥離してしまう等の問題を防止することができる。
【0045】
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物におけるラジカル重合性反応基は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル等が挙げられる。
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物におけるカチオン重合性反応基は特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基等の環状エーテル基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等が挙げられる。
【0046】
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性に優れることから、ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基とがエーテル骨格を介して結合している化合物が好ましい。
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物として、より具体的には、例えば、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。なお、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルとしては、それぞれ、商品名「VEEA」及び「VEEM」として日本触媒社より市販されている化合物を使用することもできる。
【0047】
また、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物は、例えば、ラジカル重合性反応基を有する化合物と、カチオン重合性反応基を有する化合物との反応等によって合成されてもよい。このような反応として、例えば、(メタ)アクリル酸クロライドとジエチレングリコールモノビニルエーテルとの反応、(メタ)アクリル酸クロライドと2−ヒドロキシエチルビニルエーテルとの反応等が挙げられる。
【0048】
上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物の配合量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物の配合量が上記範囲を外れると、接着剤組成物の硬化物は、前述したような非常に大きな網目状構造体を形成しにくくなることがあり、充分に柔軟とならず、ハンダリフロー等における高温環境下で半導体基板の剥離等が生じることがある。上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物の配合量は、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、より好ましい下限が0.5重量部、より好ましい上限が5重量部である。
【0049】
上記光ラジカル重合開始剤は特に限定されず、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾイン類、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、N,N−ジメチルアミノアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン等のアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−アミノアントラキノン等のアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類等が挙げられる。なかでも、BASF社製の商品名「IRGACURE907」が好ましい。
【0050】
上記光ラジカル重合開始剤の配合量は特に限定はされないが、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が5重量部である。上記光ラジカル重合開始剤の配合量が0.01重量部未満であると、ラジカル重合反応が充分に進行しなかったり、反応が遅くなったりすることがある。上記光ラジカル重合開始剤の配合量が5重量部を超えると、当該光ラジカル開始剤の分解物が不純物となり、アウトガスの原因となることがある。上記光ラジカル重合開始剤の配合量は、上記カチオン重合性化合物(A)と上記カチオン重合性化合物(B)との合計100重量部に対して、より好ましい下限が0.05重量部、より好ましい上限が2重量部である。
【0051】
なお、本発明の接着剤組成物においては、必要に応じて熱ラジカル重合開始剤が併用されてもよい。上記熱ラジカル重合開始剤は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロペン)二塩酸塩、2−tert−ブチルアゾ−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)二水和物、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等のアゾ化合物、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシオクトエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキシド類、キュメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキシド類、メチルエチルケトンパーオキサイド、カリウムパーサルフェイト、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジアルキルパーオキシド類又はパーオキシジカーボネート類、過酸化水素等が挙げられる。
【0052】
本発明の接着剤組成物が、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物、及び、上記光ラジカル重合開始剤を含有する場合、本発明の接着剤組成物は、更に、ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有することが好ましい。
【0053】
上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有することにより、得られる接着剤組成物においては、光照射により上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物と、上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物とが速やかに反応する。これにより、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物のみからなる重合体が形成されてしまうのを防止し、硬化物の構造中に確実にシリコーン骨格を導入することができる。
また、上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物は反応性が高いため、得られる接着剤組成物の硬化反応が充分に進行し、後工程で加熱をしなくとも良好に接合を行うことができる。
【0054】
上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物におけるラジカル重合性反応基は特に限定されず、例えば、上記ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物におけるラジカル重合性反応基と同様のラジカル重合性反応基等が挙げられる。
【0055】
上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物として、具体的には、(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物が好ましい。
【0056】
上記(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物のアクリル当量は特に限定されないが、好ましい下限が100、好ましい上限が15000である。上記アクリル当量が100未満であると、得られる接着剤組成物の硬化物には、上記(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物が充分に取り込まれず、構造中のシリコーン骨格の割合が低下し、支持板に対する密着性が低下することがある。上記アクリル当量が15000を超えると、上記(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物と、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性が悪くなり、得られる接着剤組成物の硬化物の光線透過率が小さくなりすぎることがある。上記(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物のアクリル当量は、より好ましい下限が150、より好ましい上限が10000であり、更に好ましい上限が5000、更により好ましい上限が1000である。
【0057】
上記(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物を合成する方法は特に限定されず、例えば、SiH基を有するシリコーン樹脂と、(メタ)アクリル基含有基を有するビニル化合物とのハイドロシリレーション反応により、シリコーン樹脂に(メタ)アクリル基含有基を導入する方法、シロキサン化合物と、(メタ)アクリル基含有基を有するシロキサン化合物とを縮合反応させる方法等が挙げられる。
【0058】
上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物の分子量は特に限定されないが、好ましい下限が300、好ましい上限が5000である。上記分子量が300未満であると、得られる接着剤組成物の硬化物は、支持板に対する密着性が低下することがある。上記分子量が5000を超えると、上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物と、上記カチオン重合性化合物(A)及び上記カチオン重合性化合物(B)との相溶性が悪くなり、得られる接着剤組成物中で上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物が層分離したり、得られる接着剤組成物の硬化物の光線透過率が小さくなりすぎたりすることがある。
【0059】
上記ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物の市販品は特に限定されず、例えば、信越化学工業社製の「X−22−164(アクリル当量190)」、「X−22−164AS(アクリル当量450)」、「X−22−164A(アクリル当量860)」、「X−22−164B(アクリル当量1630)」、「X−22−164C(アクリル当量2370)」、「X−22−164E(アクリル当量3900)」等の両末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物、信越化学工業社製の「X−22−174DX(アクリル当量4600)」、「X−22−2426(アクリル当量12000)」、「X−22−2475(アクリル当量420)」等の片末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物、信越化学工業製の「X−22−2445(アクリル当量1600)」、「X−22−1602(アクリル当量1600)」、「X−22−1603(アクリル当量1150)」等の両末端にアクリル基を有するシリコーン化合物、「X−22−2457」等の両末端と側鎖とにアクリル基を有するシリコーン化合物、「X−22−2458(アクリル当量470)」、「X−22−2459(アクリル当量930)」等の側鎖にアクリル基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0060】
本発明の接着剤組成物は、更に、ポリエチレングリコールを含有してもよい。ポリエチレングリコールは、本発明の接着剤組成物において可塑剤としての機能を果たす。即ち、ポリエチレングリコールを含有することにより、本発明の接着剤組成物は、より高い接着力と、温水中におけるより高い剥離性とを発揮することができる。
また、上記カチオン重合性化合物(A)、上記カチオン重合性化合物(B)及び上記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物の相溶性が悪い場合には接着剤組成物が濁り、光を照射しても充分に内部にまで光が届かずに硬化不良を発生する場合がある。そのような場合にでも、ポリエチレングリコールが相溶化剤としての役割を果たし、接着剤組成物が濁るのを防止することができる。
【0061】
上記ポリエチレングリコールの重合度の好ましい下限は2、好ましい上限は50である。上記ポリエチレングリコールの重合度が2未満であると、接着剤組成物を高温に加熱したときにポリエチレングリコールが気散してしまうことがある。上記ポリエチレングリコールの重合度が50を超えると、配合した硬化性成分が硬化しないことがある。上記ポリエチレングリコールの重合度のより好ましい下限は5、より好ましい上限は30である。
【0062】
本発明の接着剤組成物は、更に必要に応じて、平均粒子径が3〜300μmの粒径の揃った粒子等の添加剤を含有してもよい。
【0063】
本発明の接着剤組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、前述のようなカチオン重合性化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物、光カチオン重合開始剤及びその他の成分を従来公知の方法により混練する方法等が挙げられる。
【0064】
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合性の接着成分と光カチオン重合開始剤とを含有しており、これらの成分によるカチオン重合は非常に緩やかに進行することから、光照射後に加熱等を行いながら貼り合わせることにより、SUS等の光を透過しない支持板であっても半導体基板等を固定することができる。また、本発明の接着剤組成物は、接着成分としてカチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有することから、本発明の接着剤組成物を用いてガラス板、シリコンウエハ等の支持板上に半導体基板を接合した場合、温水中に浸漬して剥離する際に接着剤組成物は支持板側に固着し、半導体基板側に糊残りすることなく容易に剥離することができる。更に、本発明の接着剤組成物を用いてガラス板、シリコンウエハ等の支持板上に半導体基板を接合した場合、本発明の接着剤組成物の硬化物は、ハンダリフロー等における高温環境下(200〜300℃)でも熱分解が抑制され、例えば、温水中に浸漬しても剥離することのできない分解物が半導体基板に付着してしまう等の問題を防止することができる。そして、一連の工程後に不要になったときには、温水(25〜85℃)に浸漬することにより、被着体を損傷することなく容易に剥離することができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を維持できる一方、不要になったときには被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】光DSC装置を用いて、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と光カチオン重合開始剤との混合物に紫外線を照射して得られた発熱曲線の一例を示す。
【図2】光DSC装置を用いて、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と光カチオン重合開始剤との混合物に紫外線を照射して得られた発熱曲線の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0068】
(参考例)
表1に示すカチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物1gに対し、光カチオン重合開始剤としてWPI−113(和光純薬工業社製)を0.05g加えて溶解し、試料を調製した。光DSC用アルミパンに試料1mgを加え、光DSC装置(TAインスツルメント社製のDSC装置Q100、冷凍機RSC、光DSC用アダプターPCA、ウシオ電機社製のスポットライト照射器SP3、ライトガイドAF−12NQ−X)を用いて紫外線を照射して得られた発熱曲線から、発熱ピーク時間(分)及び発熱量(J/g)を求めた。結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と光カチオン重合開始剤との組み合わせとしては、上記の参考例で求めたような発熱量が大きくなるような組み合わせ、具体的には、発熱量が40J/g以上となるような組み合わせであることが好ましい。これにより、接着剤組成物は速硬化性が向上する。
【0071】
(実施例1)
カチオン重合性化合物(A)としてデナコールEX−821(ナガセケムテックス社製、上記一般式(1)においてn=4のエポキシ樹脂)25重量部に、カチオン重合性化合物(B)としてデナコールEX−931(ナガセケムテックス社製、上記一般式(2)においてm=11のエポキシ樹脂)175重量部を配合し、更に、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物として、側鎖エポキシ基を有するシリコーン化合物X−22−343(エポキシ当量525、信越化学工業社製)50重量部と、光カチオン重合開始剤としてCPI−100P(サンアプロ社製)5重量部とを配合して、接着剤組成物を調製した。
また、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物としての側鎖エポキシ基を有するシリコーン化合物X−22−343(エポキシ当量525、信越化学工業社製)95.2重量%と、光カチオン重合開始剤としてのCPI−100P(サンアプロ社製)4.8重量%との混合物を別途用意し、光DSC装置(TAインスツルメント社製のDSC装置Q100、冷凍機RSC、光DSC用アダプターPCA、ウシオ電機社製のスポットライト照射器SP3、ライトガイドAF−12NQ−X)を用いて紫外線を照射して得られた発熱曲線から、発熱量(J/g)を求めた。
【0072】
(実施例2〜17、比較例1〜4)
各配合成分の種類及び配合量を表2、3、4又は5に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製した。また、実施例1と同様にして、発熱量(J/g)を求めた。
【0073】
(評価)
実施例及び比較例で調製した接着剤組成物について、以下の評価を行った。結果を表2、3、4又は5に示した。
【0074】
(1)接着力測定
長さ8cm、巾2cm、厚み1.5mmのスライドグラスに、0.001gの接着剤組成物を塗布し、高圧水銀灯にて積算光量1000mJ/cm(365nm)の線量を照射した。照射後、同じサイズのスライドグラスを十字に重ね合わせた。その後、更にオーブンで80℃、30分加熱し、サンプル(加熱前)を得た。このときの接着面積は4mmであった。
次いで、リフロー炉(日本アントム社製、UNI5016F)にサンプル(加熱前)を通過させて高温に曝し、サンプル(加熱後)を得た。なお、サンプルに熱電対を装着しリフロー炉での温度履歴を確認したところ、250〜260℃が3分、260〜280℃が2分、280〜283℃が1分であった。
JIS K6850に準拠して、サンプル(加熱前)及びサンプル(加熱後)の引っ張り剪断力(kgf/cm)を測定した。測定は、万能試験機にて、温度23℃、湿度55%、引っ張り速度10mm/分の条件で行った。
【0075】
(2)剥離試験
長さ7cm、巾3cm、厚み1.0mmの電極が形成されたガラスエポキシ基板に、0.2gの接着剤組成物を塗布し、高圧水銀灯にて積算光量1000mJ/cm(365nm)の線量を照射した。照射後、長さ7.5cm、巾5.3cm、厚さ1mmのスライドガラスを重ね合わせた。その後、更にオーブンで80℃、30分加熱し、サンプル(加熱前)を得た。このときの接着面積は21cmであった。
次いで、リフロー炉(日本アントム社製、UNI5016F)にサンプル(加熱前)を通過させて高温に曝し、サンプル(加熱後)を得た。なお、サンプルに熱電対を装着しリフロー炉での温度履歴を確認したところ、250〜260℃が3分、260〜280℃が2分、280〜283℃が1分であった。
2Lのビーカーに水を1.5L加え、ウォーターバスにてビーカーを80℃の温度に保った。この温水中にサンプル(加熱前)及びサンプル(加熱後)を投入し、ガラスエポキシ基板とスライドガラスとが剥離するまでの時間(分)を測定した。
【0076】
(3)耐リフロー炉試験
巾5cm、長さ8cm、厚み1.2mmのガラス基板に、0.3gの接着剤組成物を塗布し、高圧水銀灯にて積算光量1000mJ/cm(365nm)の線量を照射した。照射後、ガラスエポキシ基板を重ね合わせた。その後、更にオーブンで80℃、30分加熱し、サンプル(加熱前)を得た。このときの接着面積は21cmであった。
次いで、リフロー炉(日本アントム社製、UNI5016F)にサンプル(加熱前)を通過させて高温に曝し、サンプル(加熱後)を得た。なお、サンプルに熱電対を装着しリフロー炉での温度履歴を確認したところ、250〜260℃が3分、260〜280℃が2分、280〜283℃が1分であった。
リフロー炉投入後のサンプル(加熱後)をガラス基板側から観察し、ガラスエポキシ基板とガラス基板との浮きを観察した。ガラスエポキシ基板とガラス基板との浮きの面積が接合面積全体の5%以下であった場合を◎、5%を超えて15%に満たなかった場合を○、15%以上であった場合を×とした。
【0077】
(4)温水浸せき後の糊残り状態
上記(3)の耐リフロー炉試験におけるリフロー炉投入後のサンプル(加熱後)を、85℃の温水入りビーカーに投入した。30分浸せきすることにより、ガラス基板とガラスエポキシ基板とが剥離した後、ガラスエポキシ基板側に残った接着剤組成物の糊残り状態を観察した。糊残り面積が接合面積全体の5%以下であった場合を◎、5%を超えて15%に満たなかった場合を○、15%以上であった場合を×とした。
【0078】
(5)光線透過率
離型PETフィルムに接着剤組成物を流延し、高圧水銀灯にて積算光量5000mJ/cm(365nm)の線量を照射した。照射後、85℃、1時間加熱して、厚さ100μmの硬化物を得た。得られた硬化物について、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製)にて800nm〜400nmの透過光を測定することにより、可視光波長600nmでの光線透過率(%)を測定した。
【0079】
(6)速硬化性
接着剤組成物に紫外線照射後、2時間以内で固化した場合を◎、2時間以上5時間以内で固化した場合を○、5時間以上経過しても固化しなかった場合を×として評価した。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、ハンダリフロー等における高温環境下でも剥離を生じることなく高い接着力を維持できる一方、不要になったときには被着体を損傷することなく容易に剥がすことができる接着剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、プロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物、カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物、及び、光カチオン重合開始剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
エチレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であり、プロピレングリコール骨格を有し両末端にカチオン重合性反応基を有する化合物は、下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【化1】

一般式(1)中、nは整数を表す。
【化2】

一般式(2)中、mは整数を表す。
【請求項3】
カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物と光カチオン重合開始剤との組み合わせは、前記カチオン重合性反応基を有するシリコーン化合物95.2重量%と前記光カチオン重合開始剤4.8重量%との混合物について、光DSC装置を用いて紫外線を照射しながら観察した発熱量が40J/g以上となるような組み合わせであることを特徴とする請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
更に、ラジカル重合性反応基とカチオン重合性反応基との両方を有する化合物、及び、光ラジカル重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の接着剤組成物。
【請求項5】
更に、ラジカル重合性反応基を有するシリコーン化合物を含有することを特徴とする請求項4記載の接着剤組成物。
【請求項6】
厚み100μmの硬化物としたとき、前記硬化物の可視光波長600nmでの光線透過率が20%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46722(P2012−46722A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94324(P2011−94324)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】