説明

接触冷感に優れた繊維

【課題】湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、風合いや肌触りに優れる接触冷感に優れた繊維、及び、該接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地、衣料及び肌着を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する接触冷感に優れた繊維であって、芯鞘構造を有し、可染性樹脂を含有する芯部と、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する鞘部とからなり、前記鞘部における無機フィラーの平均粒子径が0.20〜3.00μm、前記鞘部における熱可塑性エラストマーの含有量が15重量%以上であり、前記鞘部の厚さが20μm以下である接触冷感に優れた繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、風合いや肌触りに優れる接触冷感に優れた繊維、及び、該接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地、衣料及び肌着に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、夏季用の肌着として、着用時にヒヤリとした感覚を惹起し、清涼感を与える接触冷感に優れた繊維を用いたものが研究されている。
このような接触冷感に優れた繊維を得る方法としては、従来は、例えば、繊維の吸水性を向上させたり、繊維の熱伝導性を向上させたりする方法等が行われていた。
【0003】
吸水性を向上させた繊維としては、例えば、カルボキシル基や水酸基等の親水性基を導入した樹脂からなる繊維等が挙げられる。
熱伝導性を向上させた繊維としては、例えば、熱伝導性の高いフィラーを練り込んだ樹脂からなる繊維や表面にメッキ処理を施した繊維等が挙げられる。
しかし、このような繊維を用いた場合、確かに理論的には接触冷感が得られることが期待できるものの、実際にヒトによる官能試験を行うと、ほとんど未処理のものと変わるところがなく、接触冷感を実感できることはなかった。
【0004】
特許文献1には、吸水性ポリマーを内包した多孔質無機粉末粒子を繊維に把持させてなる接触冷感作用を備えた繊維が開示されている。この繊維は確かに実感できるレベルの接触冷感を有する。しかしながら、充分な接触冷感を得るためには大量の多孔質無機粉末粒子を含有させる必要があり、その結果、風合いや肌触りに悪影響が出て肌着等に用いることはできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、官能レベルで充分な接触冷感を実感でき、風合いや肌触りに優れ、肌着等に好適に用いることができる接触冷感に優れた繊維、及び、該接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地、衣料及び肌着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する接触冷感に優れた繊維であって、芯鞘構造を有し、可染性樹脂を含有する芯部と、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する鞘部とからなり、前記鞘部における無機フィラーの平均粒子径が0.20〜3.00μm、前記鞘部における熱可塑性エラストマーの含有量が15重量%以上であり、前記鞘部の厚さが20μm以下である接触冷感に優れた繊維である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱可塑性エラストマーを紡糸して得た繊維は、衣料に用いた場合、接触冷感に優れていることを見出した。しかしながら、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を衣料に用いた場合、接触冷感には優れるものの、汗等によって湿潤した際、べとついたり、肌触りが悪くなったりして、特に肌着等の皮膚に直接触れる衣料に用いた場合に不快感が生じるという新たな問題が発生した。そこで、本発明者らは、更に鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマーを含有する繊維に、無機フィラーを添加することにより、衣料に使用した場合、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、優れた風合いや肌触りを付与できることから、特に肌着等の衣料に好適に使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
上記熱可塑性エラストマーとしては特に限定されないが、ポリアミド系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーが好適である。
【0010】
上記ポリアミド系エラストマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリエステルアミド共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
これらのポリアミド系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)、UBEナイロン(宇部興産社製)、グリロンELX、グリルアミドELY(以上、エムス昭和電工社製)、ダイアミド、ベスタミド(以上、ダイセル・デクサ社製)等が挙げられる。
【0011】
上記ポリエステル系エラストマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
これらのポリエステル系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、グリラックス(大日本インキ化学工業社製)、ヌーベラン(帝人化成社製)、ペルプレン(東洋紡績社製)、ハイトレル(東レ・デュポン社製)、プリマロイ(三菱化学社製)等が挙げられる。
【0012】
これらの熱可塑性エラストマーのなかでも、下記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体は、極めて優れた接触冷感を与える繊維が得られること、紡糸性に優れること、及び、比重が軽く軽い生地、衣料、肌着等を作製できる繊維が得られることから特に好適である。このようなポリエーテルブロックアミド共重合体のうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)等が挙げられる。
【0013】
【化1】

【0014】
式(1)中、PAはポリアミドを表し、PEはポリエーテルを表す。
【0015】
本発明の接触冷感に優れた繊維に含まれる樹脂成分としては、上記熱可塑性エラストマー単独であってもよいが、樹脂成分として熱可塑性エラストマーのみを含有する繊維は、一般に、べたつき感があり紡糸も困難となる場合があることから、上記熱可塑性エラストマー以外の他の樹脂と併用してもよい。
【0016】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、更に無機フィラーを含有する。
上記無機フィラーを含有することにより、繊維の表面に微小の凹凸が形成され、繊維表面が改質されることから、熱可塑性エラストマーの特性である湿潤時のべたつき感を防止することができるとともに、衣料に用いた場合に皮膚に触れた際の肌触りや、脱衣時の肌離れ性を大幅に向上させることが可能となる。更に、繊維のべたつきを低減できることから、原糸を作製する際の紡糸性を改善することができる。
なお、本発明の接触冷感に優れた繊維では、接触冷感性を付与するためではなく、湿潤時のべたつき感を防止すること等を目的として、無機フィラーを添加することから、大量の無機フィラーを添加する必要がなく、衣料等に用いた場合であっても、風合いや肌触りに悪影響が生じることがない。
【0017】
上記無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸バリウム、塩基性炭酸マグネシウム等の炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化鉄、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、フェライト粉末、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、窒化アルミニウム、窒化珪素、サチンホワイト、焼成ケイソウ土等のケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、無定形シリカ、非晶質合成シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、クレイ、ハイドロタルサイト、アルミノ珪酸塩、タルク、パイロフィライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等のスメクタイト、バーミキュライト、金雲母、黒雲母、チンワルド雲母、白雲母、パラゴナイト、セラドナイト、海緑石等のマイカ、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、ペナンタイト、スドーアイト、ドンバサイト、クリントナイト、マーガライト、スーライト、アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル、メサイト、クロンステダイト、バーチェリン、グリーナライト、ガーニエライト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト等のカオリン、デラミカオリン、焼成カオリン、セピオライト、パリゴルスカイト、イモゴライト、アロフェン、ヒシンゲライト、ペンウィサイト、活性白土、ベントナイト、セリサイト等の鉱物質顔料等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
これらのなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカが好ましい。
また、上記無機フィラーの形状としては、特に限定されず、球状、針状、板状等の定型物又は非定型物が挙げられる。
【0018】
上記無機フィラーの平均粒子径の好ましい下限は0.20μm、好ましい上限は3.00μmである。0.20μm未満であると、湿潤時のベトツキ等の不快感を改善する効果が不充分となることがあり、3.00μmを超えると、衣料とした場合に風合いや肌触りが損なわれたり、繊維の強度が低下したりすることがある。
【0019】
上記無機フィラーの含有量の好ましい下限は2重量%、好ましい上限は30重量%である。更に好ましい上限は7重量%である。2重量%未満であると、湿潤時のベトツキ等の不快感を改善する効果が不充分となることがあり、30重量%を超えると、繊維の強度が低下することがある。また、紡糸性が悪くなることがある。
【0020】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、上記熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する繊維のみからなるものであってもよいが、本発明の目的を阻害しない範囲で、肌触り等の肌着に必要な要件を改善する目的として、他の繊維と交編したものを用いてもよい。このような他の繊維としては特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド系樹脂等;ポリエステル、綿、レーヨン等が挙げられる。
【0021】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、qmax値の好ましい下限が0.20J/sec/cmである。qmax値が0.20J/sec/cm未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じない。より好ましい下限は0.21J/sec/cm、更に好ましい下限は0.22J/sec/cmである。
なお、本明細書において、qmax値は、一定面積、一定質量の熱板に所定の熱を蓄え、これが試料表面に接触した直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱流量のピーク値である。qmax値は、着衣したときに試料に奪われる体温をシミュレートしていると考えられ、qmax値が大きいほど着衣時に奪われる体温が大きく、接触冷感が高いと考えられる。
【0022】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、熱伝導率の好ましい下限が1×10−3℃/W・mである。熱伝導率も接触冷感に対応する重要なパラメータの1つであると考えられる。熱伝導率が1×10−3℃/W・m未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じないことがある。
なお、本明細書において、熱伝導率は、試料台の上に置いた試料の上に熱板を重ね、熱板の温度を所定の温度に安定させた後の熱損失速度を測定して、下記式(2)により算出することができる。
熱伝導率(W/cm/℃)=W・D/A/ΔT (2)
W:熱流量(J/sec)
D:試料の厚さ(cm)
A:熱板面積(cm
ΔT:試料台と熱板との温度差(℃)
【0023】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、湿潤滑り開始角度の好ましい下限が20°、好ましい上限が25°である。20°未満であると、風合いや肌触りが悪くなることがあり、25°を超えると、肌着等に用いた場合に肌離れ性が低下することがある。なお、上記湿潤滑り開始角度は、JIS P 8147に準じ、傾斜法による滑り開始角度を測定することにより求めるこができる。
【0024】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、湿潤滑り抵抗値の好ましい下限が1.28CN/cm、好ましい上限が1.58CN/cmである。1.28CN/cm未満であると、風合いや肌触りが悪くなることがあり1.58CN/cmを超えると、湿潤時における肌離れ性が低下することがある。なお、上記湿潤滑り抵抗値は、湿潤時の静摩擦抵抗値のことであり、JIS P 8147に準じ、傾斜法により測定することができる。
【0025】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、上記熱可塑性エラストマーと他の樹脂とからなる複合繊維として用いてもよく、特に、芯鞘構造を有し、可染性樹脂を含有する芯部と、熱可塑性エラストマー樹脂を含有する鞘部とからなり、鞘部の厚さが20μm以下のもの(以下、芯鞘型複合繊維ともいう)とすることが好ましい。
【0026】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、このように染色可能な樹脂を芯部とし、鞘部には、接触冷感性を有し、柔軟性に優れる熱可塑性エラストマーを用いることにより、接触冷感性といった熱可塑性エラストマーの優れた性能を確保しつつ、染色性が良好な芯鞘構造を有する繊維とすることができる。
【0027】
一般に、熱可塑性エラストマーは、染色を行うために必要な染着座席を有さないか、又は、染着座席を有していたとしても非常に少ないため、酸性染料やカチオン染料を用いて染色を行うことは困難であった。このような問題に対して、特開2003−247177号公報には、分散染料を用いてポリウレタン等の熱可塑性エラストマーを染色する方法が開示されている。また、熱可塑性エラストマー系樹脂中に染着座席を導入することによって可染化する方法、熱可塑性エラストマー系樹脂のペレットに無機系顔料等を含有させて原着することによって着色化する方法、熱可塑性エラストマー系樹脂としてのポリアミド系エラストマー樹脂にポリアミド系樹脂をブレンドすることによって可染化する方法等、様々な方法が検討されている。しかしながら、いずれの方法によってもこのような染色の問題を充分に解決することはできなかった。
【0028】
これに対して、上記芯鞘型複合繊維を用いて染色を行った場合、染料は、染着座席をほとんど持たない熱可塑性エラストマーを含有する鞘部を通過して、可染性樹脂を含有する芯部が染色される。これにより、上記芯鞘型複合繊維を用いて染色を行った場合は、酸性染料やカチオン染料等の染料によっても好適に染色を行うことが可能となり、熱可塑性エラストマーを単独で用いた繊維と比較して、更に、優れた染色性を発揮することが可能となる。
【0029】
上記芯鞘型複合繊維は、芯部に可染性樹脂を含有することが好ましい。
上記可染性樹脂としては、染色が可能で、繊維として用いることができるものであれば特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、PET、PBT、PTT等のポリエステル系樹脂、その他レーヨン、アクリル等が挙げられる。これらのなかでは、ポリアミド系樹脂が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記芯鞘型複合繊維は、芯部における上記可染性樹脂の含有量は使用する樹脂によっても異なるが、好ましい下限が5重量%である。5重量%未満であると、染色性が低下することがある。
【0031】
上記芯鞘型複合繊維は、芯部に上記可染性樹脂のほかに、必要に応じて、各種添加剤を含有していてもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、抗酸化剤、防腐剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、艶消剤、耐光剤、滑剤、香料、可塑剤、界面活性剤、難燃剤等が挙げられる。
【0032】
上記芯鞘型複合繊維は、鞘部に上記熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有することが好ましい。
上記芯鞘型複合繊維において、鞘部における上記熱可塑性エラストマーの含有量は使用する樹脂によっても異なるが、好ましい下限が15重量%である。15重量%未満であると、接触冷感性が低下することがある。
【0033】
上記芯鞘型複合繊維は、鞘部に上記熱可塑性エラストマーのほかに、必要に応じて、各種添加剤を含有していてもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、抗酸化剤、防腐剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、艶消剤、耐光剤、滑剤、香料、可塑剤、界面活性剤、難燃剤等が挙げられる。
【0034】
上記芯鞘型複合繊維の形状としては特に限定されず、例えば、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合の断面形状が真円のものであってもよく、楕円等であってもよい。また、上記芯部と鞘部とが同心円状に形成された同心芯鞘型構造を有する繊維であってもよく、上記芯部と鞘部とが偏心的に形成された偏心芯鞘型構造を有する繊維であってもよい。更に、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合に芯部が複数存在するような構造であってもよい。
【0035】
上記芯鞘型複合繊維において、上記鞘部の厚さの上限は20μmであることが好ましい。20μmを超えると、染色時に染料が鞘部を通過しにくくなり、染色性が不充分となることがある。また、上記鞘部の厚さの好ましい下限は2μmである。2μm未満であると、鞘部が薄すぎて、接触冷感効果を発揮できないことがある。
【0036】
上記芯鞘型複合繊維の上記芯部と鞘部とが同心円状に形成された同心芯鞘型構造を有する場合、芯部の直径と鞘部の厚さの比(芯部/鞘部)の好ましい下限は5/20、好ましい上限は46/2である。5/20未満であると、鞘部の割合が大きく、染色性が不充分となることがあり、46/2を超えると、接触冷感性や柔軟性が低下することがある。
【0037】
上記芯鞘型複合繊維は、qmax値の好ましい下限が0.17J/sec/cmである。qmax値が0.17J/sec/cm未満であると、ポリエステルやナイロンと同等レベルであり、官能試験を行っても大半の人が優れた接触冷感を感じないことがある。より好ましい下限は0.18J/sec/cm、更に好ましい下限は0.19J/sec/cmである。
【0038】
上記芯鞘型複合繊維は、上記熱伝導率の好ましい下限が0.9×10−3℃/W・mである。熱伝導率が0.9×10−3℃/W・m未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じないことがある。
【0039】
本発明の接触冷感に優れた繊維を製造する方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する樹脂ペレットを作製した後、得られた樹脂ペレットを用いて溶融紡糸を行うことにより作製する方法等、従来公知の方法を用いることができる。
また、上記芯鞘型複合繊維は、例えば、可染性樹脂、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する樹脂ペレットを複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸する方法等により製造することができる。
【0040】
本発明の接触冷感に優れた繊維は、編物、織物、不織布等の生地として用いることができる。このような本発明の接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地もまた、本発明の1つである。
本発明の接触冷感に優れた生地は、本発明の接触冷感に優れた繊維のみからなるものであってもよいが、本発明の目的を阻害しない範囲で、肌触り等の肌着等に必要な要件を改善する目的で、他の繊維と交編してもかまわない。このような他の繊維としては特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド系樹脂等;ポリエステル、綿、レーヨン等が挙げられる。
【0041】
本発明の接触冷感に優れた繊維や本発明の接触冷感に優れた生地を用いて衣料とすることにより、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、風合いや肌触りに優れた衣料とすることができる。このような接触冷感に優れた衣料もまた、本発明の1つである。
本発明の接触冷感に優れた衣料は、熱可塑性エラストマーを含有することから、着用時にヒヤリとした冷感を惹起させ、清涼感を与えることができる。また、無機フィラーを含有することにより、湿潤時のベトツキ感がなく、肌触りや風合いにも優れており、肌着等にも好適に用いることができる。
【0042】
本発明の接触冷感に優れた衣料としては、接触冷感に優れた繊維を全体的に使用したものを用いてもよいが、特に、リバーシブル構造の編地からなる涼感に優れた衣料であって、総ループ数の30〜70%が接触冷感に優れた繊維からなるループであり、かつ、接触冷感に優れた繊維からなるループが、肌側にのみ配置されているもの(以下、涼感衣料ともいう)を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の接触冷感に優れた衣料は、リバーシブル構造の編地からなる衣料において、接触冷感に優れた繊維からなるループ数の割合を一定の範囲とし、このような接触冷感に優れた繊維からなるループを直接肌と接する肌側にのみ配置することによって、高い発汗によって起こる不快感の防止効果を有する衣料とすることができる。
【0044】
近年、夏季や運動等の発汗時に着用する肌着としての機能を高めた衣料が種々開発され、提案されており、このような機能性衣料としては、例えば、ポリエステル等の疎水性繊維からなる衣料が提案されている。また、疎水性繊維に綿を併用することにより通気性を高める方法、布の構造をメッシュ構造としたり、天竺編や経編の変化組織による鹿の子編を施したりすることにより通気性を高める方法が検討されており、特開2003−155669号公報には、布を構成する疎水性繊維の表面に親水性化学物質を付着することによって改質した布が開示されている。しかしながら、このような疎水性繊維からなる衣料では、効率的に産熱を発散させることはできるものの、発汗により肌や衣服が湿潤した場合、濡れ感による不快感を感じることに加え、生地が肌へ貼り付きやすくなるために動き難くなるという問題が生じていた。
【0045】
これに対して、上記涼感衣料は、このようなリバーシブル構造の編地からなる場合に、接触冷感に優れた繊維からなるループ数の割合を所定の範囲内とすることで、着用時にヒヤリとした感覚や、清涼感を与えつつ、発汗時の濡れ感による不快感や、肌離れ性の悪化による生地の肌への貼り付きを防止することができる。また、接触冷感に優れた繊維からなるループを肌側にのみ配置することで、接触冷感に優れた繊維と肌とが直接接触して、更に清涼感、接触冷感に優れた衣料とすることができる。
【0046】
上記涼感衣料は、接触冷感に優れた繊維からなるループの割合の好ましい下限は総ループ数の30%、好ましい上限は70%である。30%未満であると、清涼感、接触冷感を惹起させる効果が不充分となることがあり、70%を超えると、発汗時に、濡れ感による不快感を感じることに加え、生地が肌へ貼り付きやすくなるために動き難くなることがある。より好ましい下限は33%、より好ましい上限は67%である。
また、上記涼感衣料の肌側が接触冷感に優れた繊維からなるループのみで構成されている場合は、接触冷感に優れた繊維からなるループの割合の好ましい下限は総ループ数の50%、好ましい上限は70%であり、肌側が接触冷感に優れた繊維と疎水性繊維とから構成されている場合は、接触冷感に優れた繊維からなるループの割合の好ましい下限は30%、好ましい上限は50%である。
なお、上記涼感衣料において、上記接触冷感に優れた繊維は、qmax値が0.07J/m/sec以上であることが好ましい。
【0047】
上記涼感衣料は、上記熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有することが好ましい。
この場合、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維のなかでも、ハードセグメントがポリアミド12でありソフトセグメントがポリエチレングリコールであるポリアミド系エラストマーAと、ハードセグメントがポリアミド12でありソフトセグメントがポリテトラメチレングリコールであるポリアミド系エラストマーBとの混合樹脂を含有する繊維は、極めて優れた接触冷感を与え、かつ、吸放湿特性と拡散特性にも優れることから好適である。
また、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維としては、ポリエーテルブロックアミド共重合体であるペバックス1014SA01(アトフィナ・ジャパン社製)の含有量が60重量%以上の繊維、多孔質化され、表面に親水化処理が施された繊維、ポリエステルやナイロン等の合成繊維に酸化チタン等の無機物を1〜5重量%添加して接触冷感性を高めた繊維等が好ましい。
【0048】
上記涼感衣料において、上記接触冷感に優れた繊維は、生地厚をできるだけ薄くしたい場合等には適宜、他の繊維を併用してもよい。この場合、上記接触冷感に優れた繊維における上記熱可塑性エラストマーの含有量の好ましい下限は50重量%である。50重量%未満であると、充分な接触冷感を発揮できないことがある。
【0049】
上記涼感衣料において、上記接触冷感に優れた繊維からなるループは、肌側にのみ配置されていることが好ましい。このような配置とすることで、上記涼感衣料を着用した場合は、主として接触冷感に優れた繊維からなるループが肌と接触して、接触冷感や清涼感を惹起させることができ、後述する疎水性繊維からなるループが外側に配置されることで、皮膚から発せられた熱や水分の拡散性や蒸散性を向上させることが可能となる。
【0050】
上記涼感衣料において、上記接触冷感に優れた繊維のループ以外のループは、疎水性繊維からなるループであることが好ましい。
上記涼感衣料において、上述のように、上記接触冷感に優れた繊維からなるループが肌側にのみ配置されることから、疎水性繊維からなるループは、主に外側に配置されることとなる。これにより、汗の蒸散を促進され、効率よく産熱を発散させることができる。
【0051】
本明細書において、疎水性繊維とは、公定水分率が5.0%以下の化学繊維のことをいい、具体的には例えば、ポリプロピレン(公定水分率:0%)、ポリエステル(0.4%)、アクリル樹脂(2.0%)、ナイロン(4.5%)、ビニロン(5.0%)等からなる繊維が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、公定水分率とは、20℃、65%RHでの水分率のことをいう。
【0052】
上記涼感衣料は、必要に応じて、接触冷感に優れた繊維、疎水性繊維以外の繊維、例えば、綿、麻等からなる天然繊維や、レーヨン、アセテート等の半合成繊維等を含有してもよい。
【0053】
図1は、上記涼感衣料の一例を模式的に示したものである。なお、図1(a)は、上記涼感衣料を肌側から見た場合の平面図であり、図1(b)は、外側を上、肌側を下とした場合の断面図である。
図1に示すように、涼感衣料11は、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分12と、疎水性繊維によって編成された部分13とから構成され、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分12は、線状で互い違いに矩形部を有する形状となっている。なお、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分とは、接触冷感に優れた繊維からなるループを有する部分のことであり、疎水性繊維によって編成された部分とは、接触冷感に優れた繊維からなるループを有さず、疎水性繊維からなるループのみを有する部分のことをいう。
また、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分12は、肌側(下側)のみに配置されており、上記涼感衣料を着用した場合は、主として接触冷感に優れた繊維によって編成された部分12が肌と接触するような構成となっている。
【0054】
図2は、上記涼感衣料の別の一例であり、図2(a)は、肌側から見た場合の平面図であり、図2(b)は、外側を上、肌側を下とした場合の断面図である。
図2に示すように、涼感衣料21は、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分22と、疎水性繊維によって編成された部分23とから構成されている。また、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分22は、肌側(下側)のみに配置されており、上記涼感衣料を着用した場合は、主として接触冷感に優れた繊維によって編成された部分22が肌と接触するような構成となっている。
【0055】
図3は、上記涼感衣料を着用した場合の皮膚から発せられた熱、水蒸気の流れを示す模式図である。
図3に示すように、皮膚から発せられた熱、水蒸気は、まず、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分12を通過し、このとき接触冷感に優れた繊維によって吸熱、吸水される。そして、接触冷感に優れた繊維によって吸熱、吸水されなかった熱及び水分は、疎水性繊維によって編成された部分13を通過することで、拡散された後、外部に放熱、蒸散される。なお、図3では、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分と疎水性繊維によって編成された部分の両方を有する箇所のみを図示したが、疎水性繊維によって編成された部分のみからなる箇所では、皮膚から発せられた熱、水蒸気は、拡散した後、外部に放熱、蒸散されることとなる。
上記涼感衣料では、接触冷感に優れた繊維によって編成された部分と疎水性繊維によって編成された部分の両方を有する箇所の割合が適度な範囲となることから、着用時にヒヤリとした感覚や、清涼感を与えつつ、発汗時の濡れ感による不快感や肌離れ性の悪化による生地の肌への貼り付きを防止することができる。
【0056】
上記涼感衣料は、通気度の好ましい下限が200cm/cm/sec、好ましい上限が500cm/cm/secである。200cm/cm/sec未満であると、通気性が悪く、皮膚から発せられた熱の発散や汗の蒸散が阻害されることがあり、500cm/cm/secを超えると、熱や水分の移動が、衣料を通じて充分に行われず、逆に外気の進入を受けることがある。
なお、上記通気度は、フラジール型通気度試験機等を用い、JIS L 1096 A法に準拠した方法によって測定することができる。
【0057】
上記涼感衣料は、目付の好ましい下限は90g/m、好ましい上限は200g/mである。90g/m未満であると、熱や水分が移動しにくくなり、涼感効果が低下することがあり、200g/mを超えると、重量や熱伝達抵抗の増加により、涼感性が低下することがある。
【0058】
上記リバーシブル構造の編地は、フライス編機等を用いて、ループを編成する際の編針の量を調整することにより製造することができる。具体的には例えば、接触冷感に優れた繊維からなるループを編成し得る編針の数を30〜70%として編成する方法により製造することができる。
【0059】
本発明の接触冷感に優れた衣料を製造する方法としては特に限定されず、例えば、本発明の接触冷感に優れた繊維を用いて編み立てを行うことにより、衣料を作製する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
また、上記涼感衣料は、例えば、上述のようにして得られたリバーシブル構造の編地を用い、縫製、裁断等を行う等の従来公知の方法を用いることによって製造することができる。
【0060】
本発明の接触冷感に優れた繊維、又は、本発明の接触冷感に優れた生地を用いて接触冷感に優れた肌着を製造することができる。また、本発明の接触冷感に優れた衣料を肌着として用いることができる。
このようにして得られる接触冷感に優れた肌着もまた、本発明の一つである。
【0061】
本発明の接触冷感に優れた肌着は、熱可塑性エラストマーを含有することから、着用時にヒヤリとした冷感を惹起させ、清涼感を与えることができる。また、無機フィラーを含有することにより、湿潤時のベトツキ感がなく、肌触りや風合いにも優れている。本発明の接触冷感に優れた肌着は、皮膚に直接接することから特に優れた効果が得られる。
【0062】
本発明の接触冷感に優れた繊維、又は、本発明の接触冷感に優れた生地を用いることによって、本発明の接触冷感に優れた肌着の他にも、ストッキング、手袋、フェイスマスク、マフラー等を製造することができる。これらは皮膚に直接接することから特に優れた効果が得られる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、風合いや肌触りに優れる接触冷感に優れた繊維、及び、該接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地、衣料及び肌着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は、本発明の接触冷感に優れた衣料の一例を示した模式図である。(b)は、本発明の接触冷感に優れた衣料の一例を示した模式図である。
【図2】(a)は、本発明の接触冷感に優れた衣料の一例を示した模式図である。(b)は、本発明の接触冷感に優れた衣料の一例を示した模式図である。
【図3】涼感衣料を着用した場合の皮膚から発せられた熱、水蒸気の流れを示す模式図である。
【図4】実施例14で編成したリバーシブル構造の編地を示す組織図である。
【図5】実施例15で編成したリバーシブル構造の編地を示す組織図である。
【図6】実施例にて行った、人工気象室における評価結果を示すグラフである。
【図7】実施例にて行った、官能評価1の結果を示すグラフである。
【図8】実施例にて行った、官能評価2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)98重量%に対し、酸化チタン(堺化学工業社製、「D918」、平均粒子径0.26μm)2重量%を添加した後、溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0067】
(実施例2)
ポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)の添加量を96重量%、酸化チタン(堺化学工業社製、「D918」、平均粒子径0.26μm)の添加量を4重量%とした以外は実施例1と同様にして生地を作製した。
【0068】
(実施例3)
ポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)の添加量を94重量%、酸化チタン(堺化学工業社製、「D918」、平均粒子径0.26μm)の添加量を6重量%とした以外は実施例1と同様にして生地を作製した。
【0069】
(実施例4)
熱可塑性ポリエステル系エラストマーであるポリエーテルエステル共重合体(東レ・デュポン社製、「ハイトレル 8171」)98重量%に対し、酸化チタン(堺化学工業社製、「D918」、平均粒子径0.26μm)2重量%を添加した後、ペレタイザーを用いて溶融混合し、樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0070】
(実施例5)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)98重量%に対し、硫酸バリウム(堺化学工業社製、「B−30NC」、平均粒子径0.3μm)2重量%を添加した後、ペレタイザーを用いて溶融混合し、樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0071】
(実施例6)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)98重量%に対し、酸化亜鉛(荘ケミカル本社製、「微細亜鉛華」、平均粒子径0.3μm)2重量%を添加した後、ペレタイザーを用いて溶融混合し、樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0072】
(実施例7)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)98重量%に対し、シリカ粒子(トクヤマ社製、「エクセリカSH−03」、平均粒子径0.2μm)2重量%を添加した後、溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0073】
(実施例8)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)70重量%に対し、フェライト粉末(平均粒子径0.88μm)30重量%を添加した後、溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。
次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0074】
(比較例1)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)のペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。得られた原糸を用い編み立てを行い、生地を作製した。
【0075】
(評価)
実施例1〜8及び比較例1で得られた生地について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0076】
(1)湿潤滑り開始角度の測定
傾斜法による滑り開始角度をJIS P 8147に準拠する方法により測定した。
具体的には、滑り台の上昇速度:2°/秒、おもり:93.37gとし、滑り台を傾け、湿った試験片を取り付けたおもりが動きはじめた瞬間の傾斜角度を測定した。
【0077】
(2)湿潤滑り抵抗値の測定
傾斜法による滑り開始角度をJIS P 8147に準拠する方法により測定した。
具体的には、滑り台の上昇速度:2°/秒、おもり:93.37gとし、滑り台を傾け、湿った試験片を取り付けたおもりが動きはじめた瞬間の静摩擦抵抗値を測定した。
【0078】
(3)qmax値の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に32.5℃の温度に温められた貯熱板を接触圧0.098N/cmで重ねた直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱量のピーク値を測定した。測定には、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いた。
【0079】
(4)熱伝導率の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に熱板を接触圧0.059N/cmで重ね、熱板の温度を32.5℃の温度に調節し安定させた。熱板の温度が所定温度に安定した時の熱損失速度をサーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いて測定し、この値から熱伝導率を測定した。
【0080】
(5)紡糸性
実施例及び比較例に用いた樹脂ペレットを24時間連続溶融紡糸したときの押出工程、延伸工程、熱セット工程でのフィラメントの切れ回数をカウントし、以下の基準により評価を行った。
◎:フィラメント切れ回数が0回
○:フィラメント切れ回数が1〜3回
△:フィラメント切れ回数が4回以上
【0081】
(6)官能試験
10人の被験者について、各生地を触った瞬間の接触冷感、及び、各生地を肌に滑らせた時の生地の肌離れ性について官能試験を行い、以下の基準で評価した。また、◎の場合を3点、〇の場合を2点、△の場合を1点、×の場合を0点として、10人についての合計を求め、これを評価点とした。
◎:冷たく、且つ、乾燥時、湿潤時供に生地の肌離れ性は良い
○:冷たいが、乾燥時、湿潤時供に生地の肌離れ性は普通
△:冷たいが、湿潤時の生地の肌離れ性が悪い
×:冷たいが、肌離れ性が悪い
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、実施例1〜8で作製した熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する原糸を用いた生地は、qmax値及び熱伝導率が高いことから、接触冷感に優れ、かつ、湿潤滑り抵抗値が高すぎないことから、衣料として用いた場合、湿潤時の肌離れ性が良好なものとなることが判った。
一方、比較例1で作製した原糸を用いた生地は、qmax値及び熱伝導率が高いことから、接触冷感に優れるが、湿潤滑り抵抗値が高すぎることから、衣料として用いた場合、湿潤時の肌離れ性がわるくなることが判った。
【0084】
(実施例9)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)85重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)15重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が50μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ2μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0085】
(実施例10)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)65重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)35重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が50μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ5μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0086】
(実施例11)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)50重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)50重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が50μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ7μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0087】
(実施例12)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)35重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)65重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が50μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ10μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0088】
(実施例13)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)5重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)95重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が50μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ20μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0089】
以下、実施例9〜13で得られる芯鞘型複合糸が所定の芯鞘構造を有することによって、染色性に優れた生地が得られることを明確にするために、本発明の接触冷感に優れた繊維であるが、所定の芯鞘構造を有さない繊維を用いてなる生地について実験例として示す。
(実験例1)
酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1041SA01」)を用い、溶融紡糸法にて製糸を行い原糸を得た。
得られた原糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0090】
(実験例2)
芯部用樹脂として、ポリアミド樹脂であるナイロン12(「UBESTA 3014U」、宇部興産社製)3重量%、鞘部用樹脂として、酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)5重量%を練り込んだポリエーテルブロックアミド共重合体(「ペバックス 1041SA01」、アルケマ社製)97重量%を複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸法にて製糸を行い、直径が60μmの芯鞘型複合糸を得た。
なお、得られた芯鞘型複合糸の断面を電子顕微鏡を用いて撮影し、鞘部の厚みを測定したところ25μmであった。
得られた芯鞘型複合糸を用い編み立てを行い生地を得た。
【0091】
(評価)
実施例9〜13及び実験例1、2で得られた生地を酸性染料(Nylosan、クラリアントジャパン社製)を用いて染色し、以下の方法により評価を行った。結果を表2に示した。
【0092】
(1)染色性
染色を行った後の生地について、5人の被験者により目視評価でその鮮明性を比較した。その結果を総合判断して次のように4段階で評価した。
◎:鮮明性と均一性が非常によい。
○:鮮明性が良い。
△:鮮明性が劣る。
×:鮮明性が悪い。
【0093】
(2)qmax値の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に32.5℃の温度に温められた貯熱板を接触圧0.098N/cmで重ねた直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱量のピーク値を測定した。測定には、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いた。
【0094】
(3)熱伝導率の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に熱板を接触圧0.059N/cmで重ね、熱板の温度を32.5℃の温度に調節し安定させた。熱板の温度が所定温度に安定した時の熱損失速度をサーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いて測定し、この値から熱伝導率を測定した。
【0095】
【表2】

【0096】
(実施例14)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アトフィナ・ジャパン社製、「ペバックス 1041SA01」)と、無機フィラーである酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)とを含有する接触冷感に優れた繊維を肌側にのみ配置し、疎水性繊維であるポリエステル繊維(旭化成社製、テクノファイン)を主として外側に配置して、フライス編機により図4に示した組織図1に従ってリバーシブル構造の編地を編成し、これを用いてTシャツを製造した。
得られたTシャツにおいては、接触冷感に優れた繊維からなるループの数が総ループ数の50%であり、疎水性繊維からなるループの数が総ループ数の50%であった。また、Tシャツの外側は、疎水性繊維からなるループの比率が100%であり、肌側は、接触冷感に優れた繊維からなるループの比率が100%であった。更に、得られたTシャツの目付けは184g/mであった。
なお、得られたTシャツの通気度をフラジール型通気度試験機(山口科学産業社製、TEXTILE AIR PERMEABILITY TESTER)を用い、JIS L 1096 A法に準拠した方法によって測定したところ、326cm/cm/secであった。
【0097】
(実施例15)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アトフィナ・ジャパン社製、「ペバックス 1041SA01」)と、無機フィラーである酸化チタン(「D918」、堺化学工業社製、平均粒子径0.26μm)とからなる接触冷感に優れた繊維を肌側のループを構成する繊維、ポリエステル繊維(旭化成社製、テクノファイン)を外側のループを構成する繊維として用い、フライス編機により図5に示した組織図2に従ってリバーシブル構造の編地を編成し、これを用いてTシャツを製造した。
得られたTシャツにおいては、接触冷感に優れた繊維からなるループの数が総ループ数の33.3%であり、疎水性繊維からなるループの数が総ループ数の66.7%であった。また、Tシャツの外側は、疎水性繊維からなるループの比率が100%であり、肌側は、接触冷感に優れた繊維からなるループの比率が50%、疎水性繊維からなるループの比率が50%であった。更に、得られたTシャツの目付けは152g/mであった。
なお、得られたTシャツの通気度を実施例14と同様の方法で測定したところ、397.6cm/cm/secであった。
【0098】
(比較例2)
市販されている表面を親水化されたポリエステル繊維(クラレ製、ソフィスタ)によりメッシュ状に経編されたTシャツ(ミズノ社製)を用いた。
【0099】
(比較例3)
市販されている綿により天竺編されたTシャツを用いた。
【0100】
(評価)
実施例14、15及び比較例2、3で得られたTシャツについて、以下の方法により評価を行った。
【0101】
(1)人工気象室における評価
夏季の早朝ウォーキングを想定して、28℃×65%RH環境の人工気象室内にて、実施例14及び比較例2、3で得られたTシャツを着用し椅座位安静15分した後に風速1m/secの風を正面から受けながらトレッドミルにて30分間歩行し、その後30分間椅座位安静で回復した時の衣服内の温度の変化、衣服内の湿度の変化及び酸素摂取量を測定した。この結果を図6に示した。
なお、測定は健康な成人男性6名について行い、その平均値を示した。
図6より、実施例14で製造したTシャツを着用した場合には、比較例2、3で製造したTシャツを着用した場合に比べて、衣服内の温度及び湿度の上昇が抑えられているのが判った。また、実施例14で製造したTシャツを着用した場合には、比較例2、3で製造したTシャツを着用した場合に比べて、歩行中の酸素摂取量も低く抑えられていた。これは、実施例14で製造したTシャツは、比較例2、3で製造したTシャツに比べ快適な衣服内環境をもたらしているために、運動負荷が軽減されて少ないエネルギー消費で運動が可能であったためと考えられる。
【0102】
(2)官能評価1
2004年7月に京都市内で開催されたファミリーウォーキング(京都府ウォーキング協会主催)において、実施例14及び比較例2で得られたTシャツを着用してウォーキングを行った後、普段着用しているTシャツを基準としてアンケートに回答する形で官能評価を行った。この結果を図7に示した。なお、官能評価は、成人男性9名について行い、その平均値を示した。
また、官能評価を行ったうちの2名について、直腸温と衣服内温度の測定も行った。その結果を図7に示した。
図7より、実施例14で製造したTシャツは、すべての項目において普段着用しているTシャツと比べて高評価を得、特に動き易さや肌触りに優れることが判る。一方、比較例2で製造したTシャツでは、吸汗性、発汗時の肌離れ等の点で悪い評価となった。
また、実施例14で製造したTシャツを着用した場合には、比較例2で製造したTシャツを着用した場合に比べて直腸温、衣服内温度ともに低い値を示した。
【0103】
(3)官能評価2
2004年11月に運動部に在籍する男子大学生により実施例15及び比較例2で製造したTシャツを着用しランニングを行った後、普段着用しているTシャツを基準としてアンケートに回答する形で官能評価を行った。この結果を図8に示した。なお、官能評価は、29名について行い、その平均値を示した。
図8より、13項目すべてにおいて実施例15で製造したTシャツが最高のスコアを得、その内11項目が比較例2で製造したTシャツより有意に上回る結果となった。特にベタツキ感、動き易さ、生地さばき、重量感、肌触り、着心地等の項目において実施例15で製造したTシャツの評価が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、湿潤時の不快感を防止することができ、かつ、風合いや肌触りに優れる接触冷感に優れた繊維、及び、該接触冷感に優れた繊維を用いてなる接触冷感に優れた生地、衣料及び肌着を提供することができる。
【符号の説明】
【0105】
11、21 涼感衣料
12、22 接触冷感に優れた繊維によって編成された部分
13、23 疎水性繊維によって編成された部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する接触冷感に優れた繊維であって、
芯鞘構造を有し、可染性樹脂を含有する芯部と、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する鞘部とからなり、
前記鞘部における無機フィラーの平均粒子径が0.20〜3.00μm、前記鞘部における熱可塑性エラストマーの含有量が15重量%以上であり、
前記鞘部の厚さが20μm以下である
ことを特徴とする接触冷感に優れた繊維。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーであることを特徴とする請求項1記載の接触冷感に優れた繊維。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーは、ポリエーテルブロックアミド共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の接触冷感に優れた繊維。
【請求項4】
鞘部における無機フィラーの含有量が2〜30重量%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の接触冷感に優れた繊維。
【請求項5】
熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する接触冷感に優れた繊維を用いてなる編物であって、
前記熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーであり、無機フィラーを2〜30重量%含有する
ことを特徴とする接触冷感に優れた編物。
【請求項6】
請求項1、2、3若しくは4記載の接触冷感に優れた繊維又は請求項5記載の接触冷感に優れた編物を用いてなることを特徴とする接触冷感に優れた衣料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−26073(P2012−26073A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192950(P2011−192950)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2007−528139(P2007−528139)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】