説明

揚げ物衣用組成物および揚げ物

【課題】揚げ物製造時の作業性と衣のサクサク感などの食感や衣の形状などの外観の向上を両立し、かつ常温、チルドまたは冷凍保存後の電子レンジ調理などの再加熱についても製造直後の食感を保持できる、経時変化耐性に優れた揚げ物類を提供する。
【解決手段】澱粉を圧縮処理して得られた圧縮処理澱粉を含有する揚げ物衣用組成物、およびこれを使用した揚げ物食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用衣組成物および揚げ物食品に関するものであり、詳しくは、澱粉を圧縮処理して得られた圧縮処理澱粉を含有する揚げ物衣用組成物およびそれを衣とする揚げ物に関する。本発明は、圧縮処理澱粉を使用することにより、揚げ物類を調理する際の歩留まり、バッター粘度安定性の向上を両立させ、衣のサクサク感などの食感と、ボリューム感、天ぷら衣の形状などの外観を向上させ、かつ常温、チルドまたは冷凍で保存した後の電子レンジ調理などの再加熱によって製造直後の食感などを再現できる、経時変化耐性に優れた揚げ物衣用組成物を提供するものである。また、本発明は、特に、天ぷらの製造に有用な揚げ物衣用組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
具材に、小麦粉を主成分とする衣用組成物を水で溶いて調製したバッターを付けた後もしくは粉末状の衣用組成物を付着させた後、油ちょうすることにより作られる天ぷら、唐揚げ、フリッター、コロッケ、トンカツ、フライなどの揚げ物食品においては、衣のサクサク感、衣液の安定性、天ぷら衣の形状、油ちょう後の経時変化などに優れた揚げ物とすることが求められてきた。
【0003】
例えば、天ぷらの衣の食感については、ドライでサクサクした食感が一般的に好まれる。しかし、そのように調理するためには、冷水を使いグルテンの粘りを極力出さずに天ぷら粉を混ぜるなど、技術を要することが知られている。揚げ物の衣の食感は、揚げたてのときには比較的良好であるが、油ちょう後の時間が経過するに伴って、具材の水分が衣に移行するなどの理由からサクサク感がなくなって劣化する傾向がある。
【0004】
また、揚げ物を業務用として工場や店舗の調理場で大量に製造する場合、大量のバッターを一度に調製し長い時間をかけて使うことが多いので、時間が経過するに従って粘度が変化し、バッターの成分の一部が沈殿したり、保水力が低下するなどして濃度にムラが発生して、具材にバッターが適度な厚さで均一に付着しにくくなり、得られた揚げ物の衣の食感や外観が低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記のように大量にバッターを調製する際には、加水量を増加させることで歩留りを向上させることが望まれる。しかし、加水量を増加させると、経時的な粘度変化がさらに大きくなる傾向にある。
【0006】
一方で、揚げ物食品類では衣のボリューム感や天ぷら衣の形状などの外観も重要であり、そのような衣を得るために、例えば、天ぷらを揚げる際には、天ぷらのバッターを揚げ種に振り掛けて衣のボリューム感や花散りなどの外観を向上させることが知られている。しかしながら、サクサクした食感と、前述した衣のボリューム感、花散りなどの良好な外観が同時に得られる揚げ物衣用組成物について未だ満足できるものが得られていなかった。
また、から揚げなどの場合、加水してバッターを調製し揚げ物の衣とする方法以外にも粉末状で揚げ種に付着させて衣とする方法があるが、いずれにおいても衣と揚げ物全体の歩留り向上や衣のサクサク感は、天ぷらと同様に求められている。
【0007】
このような揚げ物の製造における現状を改善するために、各種の試みがなされてきた。例えば、油ちょうした際の衣の食感が軽くてサクみがあり、この食感の経時的変化が少なく、電子レンジで再加熱してもこの食感の劣化の少ないフライ食品を提供できるバッター用組成物粉として、バッター用組成物粉中に、沃素価が91以下の食用油脂と、有機酸モノグリセリドとを含有させ、組成物粉中における全食用油脂の含量を15〜25質量%とし、かつ前記沃素価が91以下の食用油脂の含量を2〜25質量%とするように、特定の食用油脂を使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、揚げ物のサクサク感などを出すために、穀粉や澱粉をα化処理して使用する技術が多く提案されている。
こうした技術の例として、α化米粉および澱粉の配合比が5〜50:50〜95であるバッター用組成物であって、地下系澱粉(馬鈴薯)と地上系澱粉(ハイアミロースコンスターチ)を30〜90:10〜70の重量比による配合物とすること(特許文献2参照)や、α化度が12.5〜30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1〜10Pa・s以下である揚げ物用湿熱処理小麦粉(特許文献3参照)、さらに、油ちょう後の揚げ物を長期間冷凍しても、クリスピー感があり、衣の曳きが少なく、口溶けの良好な揚げ物の製造を可能にするものとして、オクテニルコハク酸澱粉1〜5質量部、α−化架橋澱粉1〜23質量部、バッター用粉0〜21質量部を水75〜90部に分散した分散液100部に対して、油脂を5〜25質量部添加してなる揚げ物用バッター(特許文献4参照)などを挙げることができる。
【0009】
近年、揚げ物類の冷凍品の流通量が増加し、電子レンジで冷凍品を解凍して利用する機会が多くなっていることから、油ちょう後の食感が、クリスピーかつソフトで、衣が軽く、口どけの良い食感であり、更に、長時間経過した場合や冷凍した場合に、電子レンジなどで再加熱しても揚げたての食感を維持している揚げ物衣用組成物が提案されている。例えば、米澱粉に代表される小粒子澱粉を原料とする、膨潤度が0.5〜5.0mlである架橋澱粉を含有する揚げ物衣用組成物(特許文献5参照)、麦粉に対して酸処理澱粉、湿熱処理澱粉、架橋処理済α化澱粉のうち少なくとも1種類が配合され、これにゲル化剤として多糖類、マグネシウム塩またはカルシウム塩を配合した揚げ物衣用組成物(特許文献6参照)および、上記特許文献2、3などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−142699号公報
【特許文献2】特開2001−275598号公報
【特許文献3】特開2008−67675号公報
【特許文献4】特開2005−81号公報
【特許文献5】特開2006−129788号公報
【特許文献6】特開平7−303457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記の従来技術の問題点を解決することを目標にして、鋭意検討を積み重ねた結果本発明に到達したものであり、従来の衣用組成物を用いては得られなかった、バッターの歩留り向上と調製後に時間が経過したバッター粘度の安定性向上を両立させ、これを用いて油ちょうした場合、油ちょう後の時間が経過した場合における衣の食感などの品質においても充分満足できる揚げ物食品が得られる新しい技術を見出したのである。
【0012】
例えば、揚げ物衣用組成物でバッター調製時に歩留を上げようとすると、加水量を増加させるために吸水する素材を加えるのが一般的であり、従来、α化澱粉、α化小麦粉、部分α化澱粉などのα化した澱粉類の使用がなされていた。しかしながら、これらを配合した揚げ物衣用組成物では、吸水、サクサク感は得られるものの、バッターの粘度安定性が低下し、衣付き、天ぷらの花散りの形状(外観)、時間経過後の品質(食感)で満足のいくものが得られていないのが現状である。特に、バッターの歩留りと粘度安定性の両立において、問題のある材料が多かった。
このように澱粉類においてはα化することにより吸水性が向上し加水量は増加するが、その分だけ時間経過後の粘度が不安定になり、揚げ物の品質に影響を及ぼすこととなる。
【0013】
本発明の目的は、従来の問題点が解消された揚げ物衣用組成物および揚げ物、例えば、揚げ物衣用組成物に最適な圧縮処理澱粉、該澱粉を用いた揚げ物用ミックス、具体的には、天ぷら粉および天ぷらを提供することである。また、本発明の目的は、揚げ物を調理する際の歩留まり、作業性を改善し、衣のサクサク感の向上とボリューム感、天ぷら衣の形状などの外観の向上を両立し、かつ常温、チルドまたは冷凍で保存した後の電子レンジ調理などによる再加熱についても製造直後の食感などを保持できる、すなわち経時変化耐性に優れた揚げ物を得ることである。また、本発明の目的は、唐揚げ、フリッター、コロッケ、カツ、またはフライなどの揚げ物衣用組成物(揚げ物用ミックス、バッター)、揚げ物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の揚げ物衣用組成物は、圧縮処理澱粉を使用することを特徴とするものである。本発明の圧縮処理とは、例えば、円筒形のロール間で澱粉に直接圧力をかけて圧縮することで、澱粉粒の一部を変形させ、または一部にダメージを与えるものの、一部に粒子形状がほとんど変化しない澱粉粒が残る状態であり、これらの澱粉粒が混在する粒子形状を呈するように処理するものである。円筒形のロール間で澱粉を連続的に供給して圧縮すると、帯状またはフレーク状の圧縮処理澱粉が得られる。このような帯状またはフレーク状の圧縮処理澱粉は適当な大きさに砕いて使用することができるが、実用的には、これを粉砕して粉末化した圧縮処理澱粉を用いることが好適である。
この圧縮処理澱粉は、原料澱粉をそのままで加水することなく、または適度に加水してから圧縮処理することにより製造されること、また、特に、外部からの加熱、乾燥工程を必要とすることなく製造できることが特徴である。本発明者らはこの圧縮処理澱粉を揚げ物衣用組成物に配合することにより、また、この組成物を衣液(バッター)または衣用粉として用いて揚げ物食品を製造することにより、優れた品質の揚げ物ができることを見出した。
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段からなる揚げ物衣用組成物から構成される。
(1)澱粉を圧縮処理して得られた圧縮処理澱粉を含有することを特徴とする揚げ物衣用組成物。
(2)圧縮処理澱粉が、澱粉からなる粉末原料に対してロール間で圧縮力を付与することにより製造されたことを特徴とする(1)に記載の揚げ物衣用組成物。
(3)揚げ物衣用組成物が、少なくとも圧縮処理澱粉と、穀粉類及び/または圧縮処理澱粉以外の澱粉類とを混合して得られる揚げ物用ミックスであることを特徴とする(1)または(2)に記載の揚げ物衣用組成物。
【0016】
(4)圧縮処理澱粉の含有量が、揚げ物衣用組成物の全量中で2.0〜30.0重量%であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の揚げ物衣用組成物。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の揚げ物衣用組成物を衣として有することを特徴とする揚げ物。
(6)揚げ物が、天ぷら、唐揚げ、フリッター、コロッケ、カツ、またはフライである(5)に記載の揚げ物。
【発明の効果】
【0017】
本発明により次の効果が奏される。
(1)揚げ物を調理する際の歩留まり、バッターの粘度安定性の向上により、揚げ物製造における作業性を改善し、衣のサクサク感の向上とボリューム感、花散りなどの外観の向上が両立できる。
(2)常温、チルドまたは冷凍保存後の電子レンジ調理などの再加熱についても製造直後の食感などを保持でき、経時変化耐性に優れた揚げ物類が得られる。
(3)油ちょう後の衣の食感が良好で、この食感の経時変化の少ない揚げ物が得られる。
(4)加水量を増加させ、かつ、加水した揚げ物衣用組成物(バッター)の粘度の経時変化が少なく、工場または店舗での使用に適している。
(5)天ぷら、フリッター、唐揚げ、コロッケ、トンカツ、フライなど、広範囲な種類の揚げ物食品に適用できる。
(6)揚げ物食品の製造工程が簡便となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の圧縮処理澱粉(原料:馬鈴薯澱粉)の粒子形状の特徴を示す顕微鏡観察写真である。
【図2】馬鈴薯澱粉、圧縮馬鈴薯澱粉またはα化馬鈴薯澱粉を使用した揚げ物衣用組成物からなる衣液の粘度の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、揚げ物衣用組成物、および揚げ物に関し、詳しくは、外観および食感が良好であり、経時変化耐性の向上した揚げ物が得られる揚げ物衣用組成物および揚げ物食品に関する。本発明の揚げ物衣用組成物は、圧縮処理澱粉を含有していることにより、調理する際の歩留りやバッター粘度安定性の向上は勿論のこと、油ちょう(フライ)調理した揚げ物は非常にサクサクした食感でかつ衣のボリュームと花散りなど優れた外観を有し、更に、常温、チルドまたは冷凍保存後の電子レンジでの再加熱調理においても、良好な食感を有する経時変化耐性に優れた揚げ物を製造することができる。
なお、本発明において、揚げ物とは、天ぷらのほか、フリッター、から揚げや、パン粉付け揚げ物類であるコロッケ、カツ、各種のフライなどを挙げることができる。また、本発明の揚げ物衣用組成物の使用方法としては、加水してバッターを調製し揚げ物の衣とする方法(天ぷらの衣、唐揚げの水溶き衣、パン粉付け前の衣またはパン粉を含む衣など)が好適であるが、粉状のまま揚げ種に付着させて衣とする方法(唐揚げのまぶし粉、揚げ物全般の打ち粉)も可能である。本発明の揚げ物衣用組成物は、これらの使用における形態(例えばバッター状に調製された形態)を含むものである。
【0020】
以下に、本発明の揚げ物衣用組成物について説明するが、揚げ物の代表例として、主に天ぷらについて説明を行う。天ぷら以外の揚げ物、例えば、唐揚げ、フライなどについても同様に本発明の揚げ物衣用組成物を適用できることは言うまでもない。
本発明の揚げ物衣用組成物を天ぷら用に適用するには、上記圧縮処理澱粉の他には、例えば、天ぷら粉に従来用いられている原材料や添加物、例えば、小麦粉などの穀粉類;本発明の圧縮処理澱粉以外の澱粉類;大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;動植物油脂、粉末油脂などの油脂類;食物繊維、デキストリンなどの糖類;山芋粉、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などを適宜含有させることができる。天ぷら以外の揚げ物に適用する場合も同様に、上記圧縮処理澱粉の他には穀粉類、その他の副原料を適宜含有させることができる。
【0021】
本発明の揚げ物衣用組成物を揚げ物に適用する時の簡便性のため、少なくとも圧縮処理澱粉と、穀粉類および/または圧縮処理澱粉以外の澱粉類とを混合して得られる揚げ物用ミックスとして流通させる形態も好適なものとして挙げられる。揚げ物衣用組成物中の圧縮処理澱粉の含有量は、特に限定されないが、揚げ物組成物全量中で圧縮処理澱粉の含有量(重量割合)が2.0〜30.0重量%であることが例示される。さらに好適には、2.0〜15.0重量%が挙げられる。特に加水してバッターを調製し揚げ物衣とする使用方法において、加水前の揚げ物衣用組成物中の圧縮処理澱粉を前記の含有量とすることが好適である。
【0022】
また、本発明の揚げ物用組成物は、揚げ種から出る水分等を揚げ物内に留めるため、揚げ物全体の歩留りが向上し、揚げ種のジューシー感を保持しながら、衣のサクサク感は損なわれないという優れた特徴も有する。この特徴から、揚げ種の物性に影響を及ぼす素材(例えば、食肉を軟化させる酵素など)が配合される場合においても、圧縮処理澱粉と組み合わされることで、好適な揚げ物用組成物とすることができる。
【0023】
〔圧縮処理澱粉の製造〕
圧縮処理澱粉の製造には、一対の円筒形ロールで構成されるロール形圧縮装置が使用できる。装置の一例としては、圧接する一対の円筒形ロール間で澱粉からなる粉末原料を圧縮するため、円筒形ロールは油圧シリンダによりロール間の圧縮力を制御する機構を備える装置が挙げられる。圧接する一対のロールは、互いに逆方向に回転し、粉末原料をロール間に引き込み、圧縮し、排出する。そしてロール間に粉末原料を連続的に供給する搬送用のスクリューを有する粉末原料用のホッパーが配設され、圧縮処理後は、圧縮処理澱粉を搬送する機構や、シート状またはフレーク状の圧縮処理澱粉を粉砕する機構が配設された装置が挙げられる。
圧縮処理澱粉の製造には、例えば、前記のような構成の円筒形ロールからなる圧縮装置であって、澱粉に所定の圧縮力を付与することができるものであれば特に限定されることなく使用でき、市販の汎用的な圧縮造粒機のロールを平滑なものに取り替えて使用することも可能である。
本発明では、原料澱粉を加圧して圧縮し、短時間で澱粉の粒子の一部に形状変化を生じさせ、揚げ物衣用組成物の原材料として有用な圧縮処理澱粉とするものである。圧縮処理において、特段の外部からの加熱処理や乾燥処理を必要としない。このような圧縮処理は、澱粉粒の一部を変形させ、または一部にダメージを与えるものの、一部にほとんど形状が変化しない澱粉粒が残る処理であり、本発明の圧縮処理澱粉はこれらの澱粉粒が混在している粒子形状を呈することを特徴とする。また、圧縮処理を長時間連続的に行うと円筒形ロールやその他の装置構成部分で発熱して圧縮澱粉の品質に影響を及ぼすことがあるので、このような場合は冷却して発熱を抑える機構を適用する。
【0024】
圧縮処理前の澱粉からなる粉末原料の水分含量は、澱粉の原料種類、圧縮処理澱粉の必要とする特性などに応じて選択されるが、12〜25重量%の範囲内が好適であり、さらに好適には15〜25重量%である。市販の澱粉に加水することなく、また、適宜加水した粉末原料に加圧処理して圧縮処理澱粉とする。例えば、市販の馬鈴薯澱粉などは一般的に水分が15重量%を超える程度であり、このような澱粉では加水せずに圧縮処理することが好適である。例えば、コーンスターチなど15%に満たない澱粉では、加水して水分含量を15〜25重量%の範囲に調整することにより更に優れた揚げ物衣用組成物の原料が調製できる。
本発明で原料とする澱粉の種類は特に限定されず、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ(ハイアミローススターチを含む)、サゴ澱粉、甘薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉などが挙げられる。このうち、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ(ハイアミローススターチを含む)は、圧縮処理に適する好ましい原料として例示される。
【0025】
本発明で用いる圧縮処理澱粉の製造には、圧縮圧(ロールの単位幅当りの荷重)を0.5〜3.0t/cmの範囲内で澱粉を加圧することが好適であり、1.0〜2.5t/cm の範囲とすることがさらに好適である。圧縮圧が大きすぎると、澱粉の粒子形状の変化が一部のものに留まらず、ダメージを受けた粒子が多くなり、本発明の効果が得られなくなる。
【0026】
〔揚げ物組成物を使用して製造した揚げ物〕
本発明の揚げ物組成物を使用した揚げ物、例えば天ぷらは、圧縮処理澱粉を用いる以外は常法により製造することができる。例えば、本発明の揚げ物衣用組成物をてんぷら用ミックスとして、これに加水することで適切なバッター粘度に調整し、必要に応じて揚げ種に打ち粉を行った後、この衣液を付けて熱した油で揚げればよい。この適切なバッター粘度とは、配合や求める食感によって異なるが、概して700〜1,500mPa・s程度である。
【0027】
以下に、具体的な実施例、試験例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
〔澱粉の圧縮処理〕
原料に馬鈴薯澱粉を使用し、加水せずに、一対の円筒形ロールからなる圧縮機を用いて圧縮圧0.5〜3.0t/cmで試験区1〜6の圧縮処理澱粉を製造した。(圧縮処理後、軽く粉砕したものを試験区とした使用した。)
〔揚げ物組成物の評価試験〕
表1に記載した基本配合を用い、澱粉として、(1)無処理の馬鈴薯澱粉(無処理区)、(2)圧縮処理馬鈴薯澱粉(試験区1〜6)、(3)α化馬鈴薯澱粉(「F800」敷島スターチ(株)製、ドラムドライヤにて製造したα化澱粉)(α化澱粉区)、を用いた揚げ物衣用組成物を調製し評価試験を実施した。無処理区は揚げ物衣用組成物100g当たり160重量%加水でバッターとし、試験区1〜6およびα化澱粉区は無処理区と同程度の粘度となるように加水した衣液として評価した。各試験区のバッターをエビに付着させ、175℃、2分30秒フライした後、2時間放置し、その食感および外観を8名のパネラーにより官能評価した。評価結果を表2に示す。
【0029】
〔評価基準〕
歩留の評価:歩留りは、加水量を指標に評価した。
◎無処理区と比較して加水量がとても多い(歩留りがとても高くなる)
○無処理澱粉と比較して加水量が多い(歩留りが高くなる)
△無処理澱粉と比較して加水量がやや多い(歩留りがやや高くなる)
×無処理澱粉と加水量が同等(歩留りは変らない)
粘度安定性:加水してバッターを調製し3時間放置後の状態を指標に評価した。
(揚げ種への衣付着性、離水の状態により評価)
◎α化澱粉と比較して安定性がとても高い
○α化澱粉と比較して安定性が高い
△α化澱粉と比較して安定性がやや高い
×α化澱粉と同等
天ぷらの食感:官能評価(フライしてから3時間放置後の状態を評価)
◎サクサク感が強く、食感が優れている
○サクサク感があり、食感が良い
△サクサク感がやや劣る
×サクサク感が劣る
天ぷらの外観:官能評価(フライしてから3時間放置後の状態を評価)
◎花散り、ボリューム感が強く、外観が優れている
○花散り、ボリューム感があり、外観が良い
△花散り、ボリューム感がやや劣る
×花散り、ボリューム感が劣る
【0030】
〔圧縮処理澱粉の澱粉粒子形状〕
無処理の馬鈴薯澱粉、圧縮圧2.0t/cmで処理した圧縮処理馬鈴薯澱粉、α化馬鈴薯澱粉の粒子形状を光学顕微鏡により観察した(図1)。尚、澱粉の粒子のうちの一部が変化している状態を示す参考数値として、損傷澱粉量を測定した。損傷澱粉量はAACC76-31法に従って測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
試験の結果、無処理の澱粉では粘度安定性は高いが歩留は低く、α化澱粉(ドラムドライヤで製造)では歩留は向上するものの粘度安定性が低下する。一方、本発明の圧縮処理澱粉によると、歩留の向上と粘度安定性がともに向上し、しかも得られる揚げ物の食感、外観の点で優れることが示された。
また、図1に示すように圧縮処理すると、澱粉粒の一部に変形またはダメージを受けた粒子が存在し、変形のない粒子と混在している状態となることが観察された。
【実施例2】
【0034】
[バッター粘度の経時変化]
(1)無処理の馬鈴薯澱粉、(2)圧縮圧2.0t/cmで処理した圧縮処理馬鈴薯澱粉、(3)α化馬鈴薯澱粉(「F800」敷島スターチ(株)製、ドラムドライヤにて製造したα化澱粉)を配合した揚げ物衣用組成物(表1の基本配合)により調製したバッター粘度の経時変化を確認した。
揚げ物組成物に加水し、B型粘度計(12rpm、NO.2、20℃)による測定でバッター粘度が700〜1,500mPa・sになるように調整し、この時の加水量を確認した。次に、この時の加水量に基づき揚げ物組成物に加水し、40回ハンドホイッパーにて攪拌し、B型粘度計(12rpm、NO.2、20℃)で1分後の測定値を初発とし、30分、60分、120分間隔で粘度測定を行なった。その結果を、図2に示した。
無処理の馬鈴薯澱粉と比較して、α化馬鈴薯澱粉は120分後には粘度が1/10ほどに低下したのに対し、圧縮処理馬鈴薯澱粉では無処理の澱粉とほぼ同じ粘度を維持し、優れた粘度安定性を示すことが、測定結果によっても判明した。
【実施例3】
【0035】
原料澱粉にコーンスターチ(水分13%)を使用し、加水して水分を18%に調整後、一対の円筒形ロールからなる圧縮機により圧縮圧2.0t/cmで圧縮処理澱粉を製造した(試験区7)。また、原料にタピオカ澱粉(水分14%)を加水して水分17%に調製後、コーンスターチと同様の処理により圧縮処理澱粉を得た(試験区8)。なお、加水による水分調整をせずに圧縮処理した場合は、所定の圧力がかかりにくく、圧縮処理の調整が困難であった。
前記表1に記載した基本配合を用い、得られた圧縮処理澱粉(試験区7、8)と各々の原料澱粉(無処理)、コーンスターチのα化澱粉(「PCS」三和澱粉工業(株)、スプレードライヤにより製造された部分α化澱粉)とした揚げ物組成物の評価試験を実施した。評価は、実施例1の〔揚げ物組成物の評価試験〕と同様の基準によりに実施した。評価結果を表3および表4に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【実施例4】
【0038】
圧縮圧2.0t/cmで処理した圧縮処理馬鈴薯澱粉を使用し、前記表1の基本配合の澱粉部分を増減させ、圧縮処理澱粉の添加量が0〜30.0重量%となるように揚げ物衣用組成物を調製した(小麦粉の増減で配合率を調製)。添加量は、揚げ物組成物全量(全重量)中に占める圧縮処理澱粉の添加量(重量%)で示した。圧縮処理澱粉無添加の揚げ物組成物に180重量%加水してバッターを調製し、このバッターと同等の粘度となるように、圧縮処理馬鈴薯澱粉を添加した揚げ物衣用組成物の加水量を調整し、バッターとした。この時のバッターの歩留、粘度安定性、および、175℃、2分30秒フライ後、3時間放置した天ぷらの食感、外観を8名のパネラーによりで評価した。評価基準は、実施例1の評価基準を参考に、圧縮処理澱粉無添加(小麦粉のみ)を比較区とし(評価×)、それと比較してやや良い場合に△、良い場合に○、非常に良い場合に◎とした。評価結果を表5に示す。
この試験により、圧縮処理澱粉の天ぷら粉への添加量は、2.0〜30.0重量%が好適であり、2.0〜15.0重量%が更に好適であることがわかった。
【0039】
【表5】

【実施例5】
【0040】
〔製造した揚げ物の貯蔵耐性〕
近年、揚げ物食品が店頭で販売されたり、冷凍品が流通し販売されることが多くなり、揚げ物食品を家庭内で電子レンジによる加熱、解凍する機会が増加した。揚げ物衣用組成物においても量販店や工場生産での使用に適したものでなければならない。そこで、本発明の揚げ物衣用組成物について、チルド製品および冷凍製品の貯蔵耐性について検討した。
(チルド製品)
試験区4の圧縮処理澱粉を使用したバッターを試験区、比較区を無処理の馬鈴薯澱粉を使用したバッターとし、それぞれをエビに付着させ、175℃、2分30秒フライ後、10℃で1日チルド保存した。チルド保存した天ぷらをレンジアップした時の食感(サクサク感、油っぽさ)を8名のパネラーで比較評価した。その結果、本発明の揚げ物衣用組成物を使用した試験区は比較区よりもサクサクした食感、油っぽさが低い点で、比較区と同等以上のチルド貯蔵耐性を有していることがわかった。
【0041】
(冷凍製品)
上述の(チルド)試験と同様にして、冷凍保存耐性についても検討した。本発明の揚げ物衣用組成物を使用して、フライ後、−30℃で5日間冷凍保存した天ぷらをレンジアップし、比較区と対比して評価した結果、本発明の揚げ物衣用組成物を使用して製造した天ぷらは、冷凍保存耐性を有していることが判明した。
【実施例6】
【0042】
市販の天ぷら粉(昭和天ぷら粉 昭和産業(株)製)100重量%に対し、本発明の圧縮処理馬鈴薯澱粉(試験区4)を10重量%添加した揚げ物衣用組成物を調製した。市販の天ぷら粉に160重量%加水し、これと同等の粘度となるように圧縮処理馬鈴薯澱粉を添加したバッターを調製し(この時の加水は210重量%)、エビに付着させ、175℃、2分30秒フライ後、3時間放置し8名のパネラーで比較評価した。
その結果、市販の天ぷら粉に少量の圧縮処理澱粉を添加することによっても、歩留、食感、外観、粘度安定性のいずれにおいても向上効果を示した。
【実施例7】
【0043】
〔から揚げ〕
一般的な配合の唐揚げ粉(配合率:小麦粉50重量%、馬鈴薯澱粉30%、塩7%、粉末醤油6%、香辛料4%、砂糖3%)100重量%に対し、前記配合の馬鈴薯澱粉のうち8重量%を試験区4の圧縮処理馬鈴薯澱粉に置き換えた揚げ物衣用組成物を調製した(馬鈴薯澱粉22%、圧縮処理馬鈴薯澱粉8%)。圧縮澱粉無添加の唐揚げ粉と圧縮処理澱粉を添加した揚げ物衣用組成物を同重量の鶏肉にまぶした後、175℃、2分30秒フライし、3分後に8名のパネラーで比較評価した。
その結果、揚げ物の歩留りと、食感では特に肉のジューシー感に関して、本発明の圧縮処理澱粉を添加した揚げ物衣用組成物を使用した唐揚げにおいて、優れた効果を示した。
【実施例8】
【0044】
〔から揚げ(揚げ物用組成物に食肉を軟化させる酵素を配合する場合)〕
本発明の揚げ物衣組成物をから揚げ粉として使用した試験を行った。揚げ物用組成物の配合に、圧縮処理澱粉と食肉を軟化する酵素を添加したまたは添加していないから揚げ衣用組成物(本発明品)と、生澱粉に酵素を添加または添加していないから揚げ粉(従来品)を調製してから揚げを作成し両者を対比した。調製したから揚げ粉の配合を表6に示す。
本発明のから揚げ粉を食肉に付着させるには、一口大などの適当な大きさに切った具材、例えば、鶏肉片にから揚げ粉を振り掛けてまぶす方法や、適量の水に溶解させて肉を漬け込み必要によって時々混ぜ合わせるなどの従来の方法のなかから任意の方法を採択することができる。から揚げ粉を食肉片と接触させておく所要時間は食肉の種類、大きさ等の要因に依存するが、通常3〜30分間で充分である。また、から揚げ製造の調理方法としては、食用油中でのフライ、または食用油を塗布してオーブントースターで焼くなどの方法を使用することができる。食用油中でフライする場合、通常、フライ温度は160〜180℃に設定され、フライ時間は、から揚げ粉をまぶし付けた食肉片の大きさに依存するが、約30gの場合は3分間が望ましい。
本実施例では、約30gの鶏肉にから揚げ粉を5分間の接触により付着させた後、175℃で約3分間油調した。
【0045】
[から揚げ粉の調製]
薄力小麦粉500重量部、馬鈴薯澱粉250重量部、圧縮処理馬鈴薯澱粉100重量部、粉糖30重量部、食塩50重量部、粉末醤油40重量部、生姜粉末10重量部、ガーリック粉末5重量部、複合調味料5重量部、パパイン酵素製剤10重量部(試験区毎の詳細な配合は表6記載のとおり)をミキサーで混合することによって、圧縮処理澱粉を含有するから揚げ粉を調製した。試験区10および12で使用した圧縮処理澱粉は、本試験で使用した馬鈴薯澱粉を原料に、実施例1の試験区4と同一の条件で圧縮処理したものである。
【0046】
【表6】

【0047】
[評価]
表6に示したから揚げ粉を使用し、上述の条件で鶏肉のから揚げを製造した。出来上がったから揚げの歩留りと、揚げてから10分後の食感を評価した。
歩留まりは、4回の試験の平均値であり、から揚げ重量/鶏肉原料の重量×100の値で示した。
食感については、衣のサクサク感、肉の柔らかさについて、8名のパネラーで官能評価した。評価基準は、実施例1の評価基準を参考に、試験区9を比較区とし(評価×)、それと比較してやや良い場合に△、良い場合に○、非常に良い場合に◎とした。
【0048】
[試験結果]
圧縮処理澱粉を含有するから揚げは、圧縮処理澱粉を含有しないから揚げと比較して、具材の肉質がやわらかく且つジューシーであり、衣の食感もサクサクしており、歩留まりが向上していることが判明した。また揚げ物用衣組成物中に食肉を軟化させる酵素を含有するから揚げにおいても、圧縮処理澱粉を組み合わせることで、肉質のやわらかさとジューシー感をより向上させ、そのため歩留りも向上できることが判明した。さらに、得られたから揚げを放置し、冷えてしまった後に試食したところ、圧縮処理澱粉を含有したから揚げは調理直後のものと同様に肉質と衣の食感に有意な差がみられた。この結果、衣のサクサク感と肉のやわらかさを両立させるためのから揚げ粉の原料として圧縮処理澱粉が適していることが明らかとなった。
【0049】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、澱粉を圧縮処理して得られた圧縮処理澱粉を含有することを特徴とする揚げ物衣用組成物およびこの組成物を使用した揚げ物食品に係るものであり、揚げ物類を調理する際の歩留り、粘度安定性を向上させて作業性を改善し、食感および花散りなどの外観の向上が達成され、しかも常温、チルドまたは冷凍保存した後の電子レンジ調理などの再加熱についても製造直後の状態を再現することができる、経時変化耐性に優れた揚げ物類を提供するものである。本発明で使用する圧縮処理澱粉は、原料澱粉に手を加えることなくロールによる圧縮などにより圧縮力を付与することにより簡便に製造することが可能である。そのため、店舗や工場で大量に生産される揚げ物類に本発明の揚げ物衣用組成物を利用することにより、製造原価の上昇も少なく、効率的に優れた揚げ物食品を製造することが可能となる。また、経時変化耐性に優れているため、冷凍した天ぷらなどの揚げ物の流通、消費が促進される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を圧縮処理して得られた圧縮処理澱粉を含有することを特徴とする揚げ物衣用組成物。
【請求項2】
圧縮処理澱粉が、澱粉からなる粉末原料に対して一対の円筒形ロール間で圧縮力を付与することにより製造されたことを特徴とする請求項1に記載の揚げ物衣用組成物。
【請求項3】
揚げ物衣用組成物が、少なくとも圧縮処理澱粉と、穀粉類および/または圧縮処理澱粉以外の澱粉類とを混合して得られる揚げ物用ミックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の揚げ物衣用組成物。
【請求項4】
圧縮処理澱粉の含有量が、揚げ物衣用組成物の全量中で2.0〜30.0重量%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の揚げ物衣用組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の揚げ物衣用組成物を衣として有することを特徴とする揚げ物。
【請求項6】
揚げ物が、天ぷら、唐揚げ、フリッター、コロッケ、カツ、またはフライである請求項5に記載の揚げ物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−125332(P2011−125332A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257163(P2010−257163)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【出願人】(592250975)敷島スターチ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】