説明

揮発性有機化合物の分解除去方法

【課題】高温だけでなく室温付近の低温においても、ガス中の揮発性有機化合物をオゾン及び環境リスクの少ない触媒により効率良く酸化分解して二酸化炭素に転換することができるとともに、ギ酸等の有機副生成物の生成を抑制することのできる揮発性有機化合物の処理方法を提供する。
【解決手段】酸化ジルコニウムに対して銀ナノ粒子を1.0重量%〜20重量%担持した触媒とオゾンを用いて分解し除去することを特徴とする揮発性有機化合物の分解除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業環境、あるいは住環境等の大気環境中に含まれる揮発性有機化合物(以下、「VOC」ということもある。)をオゾン及び触媒を用いて分解除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工場等からの排ガスに含まれる有機化合物による環境汚染が問題となっており、これによる人体への悪影響が指摘されている。
また、大気汚染防止法の改正、及び一部施行により揮発性有機化合物の排出基準、環境基準が設定されるとともに、PRTR法の施行により事業所からの排出ガスの行政機関への報告義務が課されている。
【0003】
このような揮発性有機化合物による環境汚染問題は、緊急性を要する社会問題となっており、今後、揮発性有機化合物の効率的な処理方法の開発、さらには揮発性有機化合物の処理技術の確立が期待されている。
【0004】
従来より、揮発性有機化合物の除去方法として燃焼法や吸着法等が用いられてきた。しかしながら、室内環境及び中小規模の事業所からの排ガスは大気圧下、室温付近の領域で排出され、その濃度も数百ppm以下と低いため、排ガス中に含まれる揮発性有機化合物の除去方法として、この燃焼法や吸着法は必ずしも効率的な除去方法ではなかった。
【0005】
一方、オゾンを酸化剤としたガス中有機化合物の処理技術は、冷蔵庫等の脱臭技術として既に実用化されており、ガス気流中の低濃度揮発性有機化合物の分解処理技術として報告されている。
【0006】
こうした分解除去方法に用いる触媒材料としては、例えば特許文献1には、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、鉛、タングステン、銅、バナジウムを活性アルミナに担持させた材料が提案されている。また、例えば特許文献2には、炭酸マンガンを触媒組成物に含有する触媒体が提案されている。また例えば特許文献3には、疎水性ゼオライトと酸化マンガンの複合酸化物を触媒として用いる揮発性有機化合物の分解除去方法が提案されている。さらに例えば非特許文献1には、酸化マンガンをシリカ、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等の担体に担持した触媒材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−30978号公報
【特許文献2】特開平5−317717号公報
【特許文献3】特開2007−222697号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Physical Chemistry, B 105, 4245−4253, (2001).
【非特許文献2】Journal Of Catalysis, 227, 304−312, (2004).
【非特許文献3】Catalysis Communications, 8 557−560, (2007).
【非特許文献4】静電気学会講演論文集’ 09, p.195−198, (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、多くの場合脱臭法として開発された経緯から、臭気程度のppm以下のオーダーでは有効と考えられていた触媒であっても、数十から数百ppmでの揮発性有機化合物の分解に用いた場合、ギ酸などの副生成物の発生が問題となっている(非特許文献2、3)。これらは二次的な環境汚染や臭気の原因になるほか、触媒機能の低下をもたらす原因物質でもある(非特許文献4)。
【0010】
一方、中長期的には、触媒を構成する材料として有害重金属の使用制限についても考慮していく必要がある。例えば、特定化学物質に係わる規則状況では、「(重)クロム酸及びその塩」、「五酸化バナジウム」、「ニッケルカルボニル」、「マンガン及びその化合物」等が挙げられており、脱臭触媒として期待される触媒の活性元素のいくつかがこれに該当している。触媒そのものに毒性が無くとも製造・廃棄時の環境中への排出、すなわち「ライフサイクルにわたる環境リスク」が懸念され、これらの物質も将来的には「環境リスク」が問われる可能性がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、高温だけでなく室温付近の低温においても、ガス中の揮発性有機化合物をオゾン及び環境リスクの少ない触媒により効率良く酸化分解して二酸化炭素に転換することができるとともに、ギ酸等の有機副生成物の生成を抑制することのできる揮発性有機化合物の分解除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、室温付近の低温でもガス気流中の揮発性有機化合物を簡便にオゾン分解除去できる方法について鋭意検討した結果、酸化ジルコニウムに銀ナノ粒子を担持した触媒を用いることにより、揮発性有機化合物を極めて効率よく分解除去できる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法は、酸化ジルコニウムに対して銀ナノ粒子を1.0重量%〜20重量%担持した触媒とオゾンを用いて揮発性有機化合物を分解し除去することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、担体である酸化ジルコニウムに対して銀ナノ粒子を1.0重量%〜20重量%担持しているので、安定して定期的な再生処理が可能となり、揮発性有機化合物をオゾンにより酸化分解して効率的に二酸化炭素に転換することができる。また、燃焼触媒で必要とされた元素であった高価な白金族系元素を必要とせず、より安価な材料を使うことができる。
【0015】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法において、前記揮発性有機化合物を温度80℃〜150℃において分解除去することが好ましい。
【0016】
この発明によれば、オゾンを用いて、従来の燃焼触媒では実現できなかった150℃以下の温度でガス気流中の揮発性有機化合物を効率よく分解除去することができる。
【0017】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法において、前記揮発性有機化合物を、1ppm〜500ppmとすることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、1ppm〜500ppmの揮発性有機化合物を分解除去することができるので、作業環境の改善のみならず、快適空間を求める一般住環境や医療現場での臭気対策にも適用できる。
【0019】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法において、前記銀ナノ粒子の数平均粒径を、0.7nm〜11.5nmとすることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、数平均粒径が0.7nm〜11.5nmの銀ナノ粒子を酸化ジルコニウムに担持するので、揮発性有機物の分解除去はもちろん、分解除去に先立ってオゾンなしでも低濃度の揮発性有機物を吸着除去することができる。
【0021】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法において、前記揮発性有機化合物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチレンオキシド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド及びジクロロメタンから選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、他の芳香族、含酸素、塩素化炭化水素類に対して効率よく分解し除去することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法によれば、銀ナノ粒子を酸化ジルコニウムに担持させた複合酸化物を触媒として使用することにより、ガス気流中の揮発性有機化合物を極めて効率よく二酸化炭素に変換できるとともに、ギ酸等の有機副生成物の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例において使用する反応システム図である。
【図2】本発明の実施例に係るトルエン分解性能のグラフである。
【図3】本発明の実施例に係るトルエン分解性能のグラフである。
【図4】本発明の実施例に係るトルエン分解性能、吸着性能のグラフである。
【図5】本発明の実施例に係るギ酸発生抑制のグラフである。
【図6】本発明の実施例に係るトルエンの分解に必要なオゾン量を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例に係る触媒表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定解釈されるものではない。
【0026】
本発明に係る揮発性有機化合物の分解除去方法で使用する触媒は、酸化ジルコニウムを担体とし、これに銀ナノ粒子を担持して得られる複合酸化物である。複合酸化物とは、酸化ジルコニウムと銀ナノ粒子が単に物理的な混合状態にあるものではなく、化学的な結合状態・相互作用をもったものをいう。
【0027】
酸化ジルコニウムは、実際に上記触媒が使用される温度、具体的には25℃〜150℃において、揮発性有機化合物の吸着能力の高いものが望ましい。
【0028】
酸化ジルコニウムは、ZrOの組成をもつ熱的に安定なものであればよい。酸化ジルコニウムの比表面積は、10m/g〜100m/g、好ましくは35m/g〜100m/gである。比表面積がこの範囲にあると、担体である酸化ジルコニウムに銀粒子を担持させた場合に、銀粒子をナノサイズの大きさに維持できる。
【0029】
銀ナノ粒子における銀は0価と+1価の酸化数を取るが、本発明においては反応雰囲気下、酸化還元が容易に起こるため、反応開始時にはいずれの価数の銀でも使用できる。
【0030】
銀ナノ粒子は、数平均粒径が0.7nm〜11.5nm、好ましくは1.0nm〜7.5であるナノ粒子を用いることが好ましい。数平均粒径がこの範囲にあると、揮発性有機物の分解除去はもちろん、分解除去に先立ってオゾンなしでも低濃度の揮発性有機物を吸着除去できるという効果も得られる。数平均粒径は電子顕微鏡写真を任意の枚数測定し、拡大コピーしノギスで個々の銀ナノ粒子の直径を実測(長径と短径の相乗平均値)し集計した。
【0031】
酸化ジルコニウムと銀ナノ粒子の使用割合は、酸化ジルコニウムに対して銀ナノ粒子1.0重量%〜20重量%、好ましくは3.0重量%〜20重量%である。銀ナノ粒子が酸化ジルコニウムに対して1.0重量%未満であると触媒表面上で銀ナノ粒子として存在しない可能性があり、少なくとも触媒作用を十分発揮することができない。また20重量%を超えるとミクロンオーダーの銀ナノ粒子の塊が生じ、触媒作用をもたないため、非効率な銀が増加することになる。
【0032】
オゾンの製造方法としては、放電式、発光式、水分解方式等が一般的に用いられる。オゾンは対象とする揮発性有機化合物に対して5モル〜15モル、好ましくは6モル〜12モル共存させることが好ましい。この範囲にあると部分酸化生成物であるCOやHCOOHもCOへ完全酸化が可能となる。
【0033】
揮発性有機化合物を反応温度80℃〜200℃、好ましくは80℃〜150℃において分解除去することが好ましい。温度が80℃未満であると触媒活性を低下させる表面吸着種が蓄積するため、定期的な再生処理が必要とされるが、温度が200℃を超えるとオゾンそのものが分解しはじめ、また通常の熱触媒反応もはじまり、触媒の効果が低くなる。従って、オゾンを効率よく使用する観点から反応温度150℃以下が好ましい。このような反応温度でガス中、例えば事業所からの排ガス中の揮発性有機化合物をオゾンの存在下、酸化分解除去して速やかに二酸化炭素に変換できる揮発性有機化合物の分解除去方法として極めて有効である。
【0034】
また揮発性有機化合物は1ppm〜500ppm、好ましくは1ppm〜200ppm以下である。揮発性有機化合物が1ppm未満であるとオゾンがあれば当該触媒でなくとも(たとえば担体のZrOだけでも)容易に除去できるため本発明の効果が薄れ、500ppmを超えるとオゾンなしの触媒自己燃焼反応が起こる可能性があり、オゾンを共存させる効果がなくなる。
【0035】
ガス中に含まれる揮発性有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチレンオキシド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ジクロロメタン等から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。具体的には芳香族、含酸素、塩素化炭化水素等の揮発性有機化合物を分解除去することができる。
【0036】
銀ナノ粒子を酸化ジルコニウムに担持させた複合酸化物を調製するためには、前駆体となる銀錯体を水もしくはアルコール、ケトン、カルボン酸等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒系にあらかじめ溶解しておき、次いで酸化ジルコニウムに含浸担持する方法等を採用すればよい。その後乾燥し、200〜500℃の温度で酸化雰囲気下、焼成して本発明に係る複合酸化物としての触媒を得ることができる。得られた触媒の形状は、粉末状、ペレット状、ゲル状、ハニカム型構造体等いずれであってもよい。
【0037】
このようにして得られた、銀ナノ粒子を担持した酸化ジルコニウム触媒を円筒型のリアクタに入れ、揮発性有機化合物及びオゾンを含むガス気流をリアクタに導入する。オゾン自体は人体に有害であるが、残留オゾンは触媒量を調整することにより完全に分解し、分子状酸素に変換される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例と比較例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0039】
(実施例1)
酸化ジルコニウム(ZrO)3.0gに最終組成で銀の担持量が5重量%になるよう銀イオンが溶け込んだ硝酸銀水溶液100gを入れ、十分撹拌した後、一昼夜静置する。その後、ロータリーエバポレーターを用いて40℃で水蒸気を除き、120℃の乾燥機試料を十分乾燥させる。その後、空気中毎分10℃の昇温速度で500℃まで昇温し、10時間焼成させ、銀の担持量、5重量%の酸化ジルコニウム(Ag/ZrO)触媒を得た。
【0040】
(比較例1)
酸化ジルコニウムを酸化アルミニウム(Al)に変更した以外は、実施例1と同様にして5重量%の銀を担持した酸化アルミニウム(Ag/Al)触媒を調製した。
【0041】
(比較例2)
酸化ジルコニウムを酸化チタン(TiO)に変更した以外は、実施例1と同様にして5重量%の銀を担持した酸化チタン(Ag/TiO)触媒を調製した。
【0042】
(比較例3)
酸化ジルコニウムを酸化ケイ素(SiO)に変更した以外は、実施例1と同様にして5重量%の銀を担持した酸化ケイ素(Ag/SiO)触媒を調製した。
【0043】
(比較例4)
酸化ジルコニウムを酸化マグネシウム(MgO)に変更した以外は、実施例1と同様にして5重量%の銀を担持した酸化マグネシウム(Ag/MgO)触媒を調製した。
【0044】
[測定結果と評価]
(トルエンの分解)
実施例1、比較例1〜4で得られた触媒を用いてオゾンを酸化剤としたトルエンの分解反応を固定床流通系により行った。反応システムの概略図を図1に示す。
トルエンを200ppm含む窒素ガス、純窒素ガス、及び純酸素ガスを混合して反応ガスを調製し、それぞれのガス流量はサーマルマスフローコントローラー(TH3610、本間理研社製)で制御した。
【0045】
オゾンは純酸素を原料として沿面放電式のオゾン発生器(石英管型内部コイル放電極式)により合成した。オゾン濃度はオゾンモニター(EG550、荏原実業社製)により測定した。
【0046】
上記の触媒をあらかじめ酸素気流中で1時間加熱処理(500℃)し、触媒の前処理を行った。反応ガスの分析は長光路(2.4m)のガスセルを装填した赤外分光光度計(FTS−135、バイオラッド製)によった。反応条件はトルエン濃度200ppm、オゾン濃度1000ppm、酸素濃度20%、ガス流量500ml/min、触媒量0.2g、反応温度100℃とした。
【0047】
図2に実施例1、比較例1〜4の触媒を用いてトルエンを分解したときの除去率(%)を示す。条件は初期オゾン濃度250〜2000ppmである。同図中、黒三角は実施例1、白丸は比較例1、黒丸は比較例2、白三角は比較例3、白逆三角は比較例4である。
【0048】
また、表1に実施例1、比較例1〜4について、初期オゾン濃度1000ppmの条件でトルエン分解したときのトルエン分解率(%)、CO選択率(%)、炭素の物質収支(%)、オゾン消費率(%)、ギ酸(HCOOH)生成量(ppm)を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
図2より初期オゾン濃度の上昇に伴ってトルエン分解率が向上した。100℃の反応温度においてもガス気流中には二酸化炭素、一酸化炭素のみが生成物として観測され、ギ酸の生成は全く見られなかった。比較例1〜4と実施例1とを比較すると、実施例1が初期オゾン濃度1000〜2000ppmの範囲で高いトルエン除去率を示すことがわかる。ここで、炭素収支は式(1)で定義される。
【0051】
[化1]
炭素収支=(二酸化炭素+一酸化炭素の生成量+ギ酸の生成量)/(トルエン分解量)×7・・・・(1)
【0052】
表1の測定結果より、実施例1では炭素収支は97%以上となっており、ほぼ定量的にトルエンが二酸化炭素、一酸化炭素に変換することがわかった。これらはベンゼン、キシレンでも類似の反応性を示している。また、比較例1及び比較例2の触媒では数十ppmのギ酸が生成しているが、実施例1の触媒ではギ酸の生成を完全に抑制できることが証明された。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
銀の担持量を0.5重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして銀を担持した酸化アルミニウム(0.5−Ag/ZrO)触媒を調製した。
【0055】
(実施例3)
銀の担持量を1.0重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして銀を担持した酸化アルミニウム(1.0−Ag/ZrO)触媒を調製した。
【0056】
(実施例4)
銀の担持量を3.0重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして銀を担持した酸化アルミニウム(3.0−Ag/ZrO)触媒を調製した。
【0057】
(実施例5)
銀の担持量を10重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして銀を担持した酸化アルミニウム(10−Ag/ZrO)触媒を調製した。
【0058】
(実施例6)
銀の担持量を20重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして銀を担持した酸化アルミニウム(20−Ag/ZrO)触媒を調製した。
【0059】
(比較例5)
酸化ジルコニウム(ZrO)は市販の試薬(商品名:RSC−Hi、第一希元素社製)を用いた。
【0060】
[測定結果と評価]
(再度のトルエンの分解)
実施例1、比較例1〜4で得られた触媒を用いてオゾンを酸化剤としたトルエンの分解反応を上記で行った方法と同様にして行った。
【0061】
図3に実施例1〜6、比較例5の触媒を用いてトルエンを分解したときの除去率(%)を示す。条件は初期オゾン濃度250ppm〜2000ppmである。同図中、白四角は実施例1、黒丸は実施例2、白三角は実施例3、黒三角は実施例4、黒四角は実施例5、白逆三角は実施例6である。
【0062】
図3より、銀の担持量が1.0重量%以上で高いトルエン除去能力を示し、銀の担持量が3.0重量%以上では極めて高いトルエンの除去能力を有することがわかる。
【0063】
図4は反応温度100℃、初期オゾン濃度1000ppmでのトルエン除去率(%)と反応開始前に測定した100℃における0.2gの各種触媒へのトルエン吸着量(モル)を示す。同図中、白丸はトルエン除去率(%)を示し、黒丸はトルエン吸着量(モル)を示す。
【0064】
図4より、担持量が低い場合には、トルエン転化率が低く、かつトルエン吸着量も増えておらず、ZrO表面の特性が強く反映されていることがわかる。銀の担持量が3.0重量%以上20重量%以下あればトルエン転化率も50%以上に達し、トルエン吸着量も無担持の6倍以上と銀の効果が期待できることがわかる。
【0065】
これらの測定結果から、銀ナノ粒子の担持は酸化ジルコニウムの持つトルエンの吸着能力を飛躍的に高め、触媒表面上での反応基質であるトルエンとオゾンから生じた活性酸素種の反応場を効率的に供給できることがわかる。
【0066】
(ギ酸量の測定)
実施例1〜6の触媒についてギ酸量を測定した。測定には、長光路(2.4m)のガスセルを装填した赤外分光光度計(FTS−135、バイオラッド製)を用いた。
【0067】
図5に実施例1〜6の触媒で観測されたギ酸量(ppm)を示す。同図中、白四角は実施例1、黒丸は実施例2、白三角は実施例3、黒三角は実施例4、黒四角は実施例5、白逆三角は実施例6である。
【0068】
図5より銀の担持量が0.5重量%の触媒では初期オゾン濃度とともにギ酸が副生成物として発生することがわかる。銀の担持量が1.0重量%の触媒では初期オゾン量を大きくすると減少する傾向は見られる。銀の担持量が3.0重量%、5.0重量%、10重量%、20重量%の触媒では、ギ酸の生成を完全に抑制することができた。
【0069】
(オゾン必要量の測定)
トルエンを分解したときのトルエン1分子を除去するために必要なオゾン分子量を測定した。これは、式(2)のように反応前後で消費したオゾン量を除去されたトルエン量で除すことによって求めた。
[化2]
オゾン必要量=(消費オゾン量)/(トルエン分解量)・・・(2)
【0070】
図6に実施例1〜6の触媒を用いてトルエンを分解したときのトルエン1分子を除去するために必要なオゾン分子の量(オゾン必要量)を示す。条件は、初期オゾン濃度250ppm〜2000ppmで行った。同図中、白四角は実施例1、黒丸は実施例2、白三角は実施例3、黒三角は実施例4、黒四角は実施例5、白逆三角は実施例6である。
【0071】
図6より、銀の担持量が1.0重量%以上の触媒ではトルエンに対し7〜10分子必要であることがわかる。ただし、銀の担持量が1.0重量%では同等量のオゾンが消費されながら、ギ酸の発生が抑制できないことから、トルエンからギ酸を副生することなく二酸化炭素へ分解するのに必要な活性酸素種をオゾンから生成させるためには、酸化ジルコニウム担体に3.0重量%以上の銀ナノ粒子の担持が必要であることがわかる。
【0072】
揮発性有機物質(VOC)を分解するのに必要なオゾン量は、ベンゼン、キシレン、ジクロロメタンにおいても、それぞれの1分子VOCを分解するため、約10分子のオゾンが必要であった。
【0073】
本発明である揮発性有機物質(VOC)のオゾンを用いた接触酸化法に用いる触媒は、単なる銀と酸化ジルコニウムの組み合わせでは、二次有機副生成物の発生を抑制することをできないことを示している。酸化ジルコニウムと強く相互作用を持った数ナノ程度の銀ナノ粒子が同酸化物上に分散度良く、一定量担持させた材料の調製が必要である。
【0074】
(電子顕微鏡による測定)
電子顕微鏡(EM−002B、TOPCON社製)により銀ナノ粒子の観察を行った。その結果を図7に示す。図7は、電子顕微鏡で撮影した触媒表面の銀の様子(存在状態)を示す写真である。図7より、2nm〜3nmの銀ナノ粒子が酸化ジルコニア表面に分散担持していることが確認できた。銀の担持量が0.5重量%の触媒は、担持量が少ないため視野内に銀ナノ粒子を確認することができなかった。一方、担持量を増やすとごく一部に極端に粗大化した銀ナノ粒子(銀の塊)が観測されることはあるが、いずれの試料でも広範囲に数nmの銀ナノ粒子の存在が確認された。ただし、粗大化した銀ナノ粒子は担体の酸化ジルコニウムとの相互作用が低く触媒活性がないか著しく低いものと思われる。
【0075】
また、Ag/ZrO触媒に比べ活性が低いAg/TiO上にも同程度の大きさの銀ナノ粒子が観測されることから、単純な粒径だけでなく、ZrO担体と強い相互作用を持った銀ナノ粒子がこれらの特徴を与えるものと考えられる。
【符号の説明】
【0076】
1 窒素ガス
2 酸素ガス
3 流量制御装置
4 トルエン
5 オゾン発生器
6 電気炉
7 触媒
8 長光路ガスセル
9 FT−IR分光光度計
10 オゾン濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムに対して銀ナノ粒子を1.0重量%〜20重量%担持した触媒とオゾンを用いて揮発性有機化合物を分解し除去することを特徴とする揮発性有機化合物の分解除去方法。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物を温度80℃〜150℃において分解除去する、請求項1に記載の揮発性有機化合物の分解除去方法。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物を、1ppm〜500ppmとする、請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物の分解除去方法。
【請求項4】
前記銀ナノ粒子の数平均粒径を、0.7nm〜11.5nmとする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の分解除去方法。
【請求項5】
前記揮発性有機化合物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチレンオキシド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、及びジクロロメタンから選択された1種又は2種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の分解除去方法。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200648(P2012−200648A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66076(P2011−66076)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省委託研究「外場援用システム触媒による持続発展可能なVOC排出抑制技術に関する研究」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】