説明

揮発性液体散布装置

香水などの揮発性液体をリザーバから大気中に散布するための装置であって、液体と接触する伝達部材と、この伝達部材と液体伝達接触する毛細管部材とを用いて、散布が達成される。毛細管部材は、主毛細管チャネルを保持する気化表面を含み、これらの主毛細管チャネルの少なくともいくつかに、少なくとも1つの副毛細管チャネルが交差しており、この副毛細管チャネルの横断面は、主チャネルのそれよりも実質的に小さく、それによって液体が主チャネルおよび副チャネルの両方に液体が流れる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性液体を大気中に散布するように適合された装置に使用するための毛細管部材に関する。
【0002】
香水(fragrance)や殺虫剤などの揮発性液体を大気中に散布する一般的な方法は、揮発性液体のリザーバと接触する、繊維状芯(fibrous wick)などの、多孔質の伝達部材(transfer member)からの気化による方法である。このシステムには、気化のための表面積が小さいこと、および混合物である液体が分別(fractionation)される傾向があるなどの欠点を有する。そのような伝達部材に、伝達部材から本質的に直角に広がるとともに、揮発性液体がそこに流れ、気化のためにそれを伝って移動することができる毛細管寸法のチャネルを備える、シート形態の毛細管部材を取り付けることが提案されている。このシートは、シートの穴によって全体的に伝達部材と接触し、伝達部材がこの穴から突き出るとともに、その中にぴったりと嵌まり、少なくともいくつかの毛細管チャネルが伝達部材と接触して、その結果、液体を部材からシートに伝達することができる(「液体伝達接触」)。
【0003】
さらに別のタイプの毛細管部材が、米国特許第4913350号に記載されている。この場合には、毛細管部材は、伝達部材を必要とすることなく、液体に直接的に挿入されている。そのような毛細管部材は、リザーバに挿入するための狭小部分を有し、これによってより広い気化表面をもたらすことができ、この部材は、一般に小型テニスラケットに似た形状をしている。この毛細管部材は、多孔質芯の分別作用の問題を生じない。
【0004】
現在知られている毛細管部材についての問題は、利用可能なパターンおよび構成が、効率的な気化を確保する上で有効でないことがわかっている点である。例えば、シートの場合には、伝達部材から半径方向に広がる個々のチャネルは、どんどん遠ざかり、可能な気化表面の小さな部分だけが利用される。これを克服するための示唆が、クロスハッチ表面であり、すなわち、一連の平行チャネルが、別の一連の平行チャネルと交差している。理論的には、これによって液体を表面全体に流すことができるが、実際にはそのようにはならず、揮発性液体は、チャネル中へ流れようとはしないだけでなく、チャネル交差を横断しようとせず、元の(「主」)チャネルに沿って移動することがわかっている。液体リザーバに直接的に挿入される一連の毛細管チャネルがその上にある気化表面を備える、毛細管部材の場合には、液体と接触しているチャネルのみが、気化表面を構成し、したがって、気化表面は、これらの要素上への毛細管上昇の量によって制限されることになる。
【0005】
驚くべきことに、この問題は、少なくとも実質的に克服することが可能であり、毛細管部材の表面の相当な部分からの気化が、簡潔で安価な構造によって確保できることがわかっている。したがって、本発明は、揮発液体をリザーバから大気中に散布するように適合された装置であって、散布は、液体と接触している伝達部材と、この伝達部材と液体伝達接触している毛細管部材とを用いて達成され、この毛細管部材は、主毛細管チャネルを保持する気化表面を含み、これらの主毛細管チャネルの少なくとも一部は、少なくとも1つの副毛細管チャネルと交差しており、副毛細管チャネルの横断面積は、主チャネルのそれよりも実質的に小さく、それによって液体が主チャネルと副チャネルの両方に流れるようにされている、前記装置を提供する。
【0006】
本発明は、さらに、揮発性液体を、気化表面から気化によって大気中に散布する方法であって、リザーバから伝達手段によって、それと液体伝達接触している気化表面に液体を移送することを含み、この気化表面は主毛細管チャネルを含み、これらの主毛細管チャネルの少なくともいくつかに、少なくとも1つの副毛細管チャネルが交差しており、この副毛細管チャネルの横断面積は、主チャネルのそれよりも実質的に小さく、それによって液体が主チャネルおよび副チャネルの両方に流れるようにする、前記方法を提供する。
【0007】
このような構造を用いることによって、驚くべきことに、液体は交差部分を容易に横断してチャネルに沿って進むだけでなく、交差チャネル中にも流れることがわかった。したがって、適当な配置および大きさの副チャネルを準備することによって、実質的に気化表面全体を使用できることが保証される。
気化表面は、その長さおよび幅が、その厚さよりもかなり大きい表面であり、この表面には毛細管チャネルが設けられている。この表面の形状は重要ではなく、任意好適な装飾的または実用的な形状を選択することができる。毛細管チャネルは、表面の片側または両側に設けてもよい。この表面およびその毛細管チャネルは、任意の簡便な手段、例えば射出成型または型彫り(engraving)によって設けることができる。
【0008】
伝達部材は、揮発性液体をリザーバから気化表面に伝達するのに適した任意の部材とすることができる。例えば、当該技術においてよく知られている種類の多孔質芯としてもよく、セルロース、グラファイトまたはセラミック材料などの任意適当な材料で製造することができる。 そのような場合には、毛細管気化表面は、芯から実質的に直角に延びており、任意簡便な手段でそれに取り付けることができる。例えば、芯には、毛細管部材がその中に入る、環状溝を設けてもよい。また芯は、毛細管部材の突合せタブと噛み合う、スロットを備えても良い。別の可能性として、フラスト円錐形(frusto-conical)、すなわち、リザーバから離れて延びるにつれてわずかにテーパが付けられている、伝達部材がある。これによって、その直径が伝達手段の最大直径と最小直径の中間である装着穴を有する、毛細管シートを簡単に装着することが可能となる。当業者であれば、当該技術の能力を行使することによって、本発明の範囲内にあるさらに別の変形形態を容易に考案することができるであろう。
【0009】
代替的に、伝達部材には、米国特許第4913350号の方法で、毛細管チャネルを備えてもよい。この場合には、気化表面は、単に、伝達部材をその上端で拡副したものを含め、前述のように、小型テニスラケットに類似する形状にされる。
代替手法として、毛細管伝達部材は、2つの平坦表面の接合部において形成される毛細管の広さの間隙によって設けてもよい。これによって、気化表面の毛細管チャネルがもたらされる。
【0010】
「毛細管チャネル」とは、大気に開放されており、その内部で毛細管流が生じるような寸法の、チャネルを意味する。このことが実現することを条件として、チャネルは、任意好適な形状および寸法とすることが可能であり、所与の応用に対する好適な寸法は、簡単な実験によって決定することができる。典型的な主毛細管チャネルは、「V」形横断面であり、上端における幅が0.1〜0.5mm、深さが0.01〜0.5mm、チャネルの「V」角度は10〜25°である。好ましい主チャネルは、開放上端における幅が約0.2mm、垂直深さが約0.4mm、角度が約24°である。
【0011】
主チャネルの少なくともいくつかには、少なくとも1つの副チャネルが交差している。好ましくは、すべての主チャネルに、少なくとも1つの副チャネルが、より好ましくは多数の副チャネルが、交差する。この目的は、大きな表面積を範囲に含む毛細管チャネルを提供することであり、正確なパターンまたは配置は重要ではない。
液体伝達接触は、伝達部材と(ほんとどの気化がそれから発生する)主チャネルとの間であるのが好ましいが、これは必要条件ではなく、少なくとも1つの副チャネルを使用して、伝達部材から主チャネルに液体を伝達することが可能である。
【0012】
副チャネル(単数または複数)は、その横断面積が主チャネルよりも実質的に小さい。揮発性液体の変化しやすい特性のために、「実質的に小さい」ということの内容は、場合によって、かなり変わることがある。しかしながら、全体表面を横切る流れは、2つの異なるチャネル寸法を使用する結果であるとの概念を与えられると、当業者であれば、各液体および主チャネルの各寸法の場合に、交差チャネルに関して「実質的に小さい」ことの内容を容易に特定することができる。 副チャネルは、一般に(かつ好ましくは)主チャネルよりも実質的に幅が狭い。1つの指針として(いかなる場合においても本発明を限定するものではなく)、香水放出のための代表的な寸法は、副チャネルの場合には、深さは0.05mm、横断面積は主チャネルのそれの90%未満、好ましくは50%未満である。副チャネルを主チャネルと同じ深さにする必要はないが、それに液体が流れ込むことができるのに十分な深さでなくてはならないのは当然である。好ましくは、主チャネルおよび副チャネルの両方は、同じ深さである。しかしながら、副チャネルが主チャネルよりも深くすることは可能であり、許容される。
【0013】
上述のように、チャネルの特定のパターンは、非常に重要ではなく、広い範囲に変えることができる。例えば、主チャネルのパターンは、伝達部材との接触場所から半径方向に延びるとともに、副チャネルは、シートの縁辺に向かって外側に広がる、一連の同心円を形成してもよい。別の可能性としては、少なくとも1つの、他の一連の平行副チャネルが交差する、一連の平行主チャネルがある。
【0014】
非常に簡単な一態様においては、一連の主チャネルは、平行溝であり、副チャネルは、気化表面に切り込まれるか、または完全に貫通する、少なくとも1つの薄いスリットとしてもよい。さらに別のこの種の態様においては、気化表面は、互いに嵌まり合う、ある数の区画を含み、それらが交差する境界が、所望のスリット(単数または複数)を提供するようにしてもよい。そのような場合には、主チャネルパターンを最適化することができる。例えば、シートは、保持プレートに緊密に嵌まる4つの同等部分にしてもよく、各部分の主チャネルは、伝達部材から離れる方向に、並列に延びるようにして、組み立てられたシートが「ヘリンボン(herringbone)」状の外観となるようにしてもよい。
【0015】
本発明のさらに別の態様においては、主毛細管チャネルは、シートの端部まで延びて、次いで、開放チャネル端を横断して配置された、壁などの横断バリヤによって阻止されて、液体がチャネル間を流れることを可能にする、副毛細管チャネルを画定するようにしてもよい。
本発明の毛細管シートは、揮発液体によってシートの所望の寿命全体にわたって、揮発性液体によって影響を受けることのない、任意好適な材料で製作することができる。この明細書で記述するチャネルは、任意簡便な手段、例えば、射出成型または型彫り(engraving)によって設けることができる。
本発明を、図面を参照してさらに詳細に説明するが、それらの図面は、好ましい態様を示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない、
【0016】
図1において、リザーバ1は、大気中に散布される揮発性液体を収納する。この液体は、多孔質芯2によってリザーバから出る。この多孔質芯のまわりに、気化表面3が取り付けられており、この表面上に一連の毛細管チャネル4が設けられている。気化表面3は、実際には4つのプレートから構成されており、これらのプレートは互いに緊密に嵌まり合い、接合線(join)5で交わり、この接合線は、毛細管チャネル4と比較して、相対的に幅が狭い。
【0017】
気化表面のより詳細な理解は、図2を検討することによって得ることができる。ここには、気化表面を構成する、4枚の4分の1プレート6を示してある。これらは、保持プレート7に嵌まり、この保持プレートには、芯2の装着を可能にする、中心穴8がある。芯2と接触する4分の1プレート6の部分は、4分の1プレート上の毛細管チャネルが、芯と液体伝達接触するように、芯のまわりに十分緊密に嵌まるように成形されている。この態様において、個々の4分の1プレートの毛細管チャネルは、互いに平行であり、各4分の1プレートの中心半径は、芯の半径である。このように4枚は、「ヘリンボン」パターンを形成する。4分の1プレート6間の接合線5は、副毛細管チャネルを形成し、これらは、液体を芯と直接的に接触していない主チャネルに移送する。さらに、保持プレートの縁辺と4分の1プレートとが対向する場所で形成される間隙が、副チャネルとしても作用し、液体を移送する。したがって、液体を、気化表面全体にわたって散布することができる。
【0018】
図3に示す態様は、揮発性液体10を収納する、リザーバ9を含む。リザーバの首部11には、ストッパー12が取り付けられている。このストッパーを、全体的に13で示す、気化表面および伝達部材が通過する。リザーバからそれを通して液体を抽出する、伝達部材14は、毛細管チャネル15を有する、平坦毛細管部材14である。伝達部材は、平坦面状気化表面16中に延びている。この気化表面は、伝達部材14の毛細管チャネル15の連続部を含むだけでなく、それらのチャネルに平行な追加の毛細管チャネル17も含む。この場合には、気化表面は、(任意所望の機能的または装飾的形状とすることができるが)正方形であり、それには、追加で対角方向に延びる、毛細管チャネル15、17よりも小さい副チャネル18が設けられており、これらの副チャネルによって、液体と直接的に接触していない毛細管チャネルを含む、すべての毛細管チャネルに液体が流れ込むことが可能となる。
【0019】
図4の態様においては、液体は、液体伝達部材から副チャネルを用いて伝達される。リザーバ19には、開放首部の全体にわたって延びる平面クロージャ21を備える、キャップ20が取り付けられている。このクロージャの穴を通過して、円筒形・円柱形芯22が取り付けられており、この芯が平面拡散部材23につながっている。芯は、リザーバの底に置かれて、平面拡散部材が平面クロージャの上に載らずに、そのわずか上で支持して、それによって2者の間に副毛細管チャネル26が画定されるようにされている。平面拡散部材24の直径は、キャップ20の内径よりも小さく、拡散部材の縁辺のまわりに環状空隙が残されている。この中に、その外向きの面に主毛細管チャネル25を保持する、曲面プレート24が取り付けられている。
【0020】
作動において、液体はリザーバから芯22を介して副毛細管チャネル26へと移動する。液体は、主毛細管チャネル25の端部に到達するまで、このチャネルに沿って移動する。次いで、液体は、これらのチャネルを上昇して、大気中へと気化する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一態様の斜視図である。
【図2】図1の態様に使用するための気化表面の斜視分解図である。
【図3】本発明の別の態様を示す縦断面図である。
【図4】一観点のさらなる詳細を含む、本発明の別の態様を示す縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発液体をリザーバから大気中に散布するように適合された装置であって、散布は、液体と接触している伝達部材と、該伝達部材と液体伝達接触している毛細管部材とによって達成され、該毛細管部材は、主毛細管チャネルを保持する気化表面を備え、これらの主毛細管チャネルの少なくともいくつかは、少なくとも1つの副毛細管チャネルと交差しており、副毛細管チャネルの横断面積は、前記主チャネルのそれよりも実質的に小さく、それによって液体が前記主チャネルと前記副チャネルの両方に流れるようにされている、前記装置。
【請求項2】
伝達部材が実質的に円柱状または円筒状の多孔質芯であって、気化表面が該芯から実質的に直角に延びるシートであり、該シートが少なくとも1つの表面上に毛細管チャネルを保持している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
伝達部材が、液体から気化表面まで延びる毛細管部材である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
伝達部材および気化表面が一部品に形成されている、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
伝達部材が、2つの平坦表面の接合部に形成される毛細管の広さの間隙である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
気化表面が、主毛細管チャネルを保持するある数の区画を含み、それらの区画が交わる境界が、副チャネルまたは副チャネル群となる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
各区画における主毛細管チャネルが平行であり、かつ伝達部材から離れる方向に延びており、組み立てられたシートが「ヘリンボン」パターンを有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
主毛細管チャネルが、シートの端部まで延びて、そこで開放チャネル端を横断して配置された横断バリヤによって阻止され、それによって液体がチャネル間を流れることを可能にする副毛細管チャネルが画定されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
少なくとも1つの副チャネルが、伝達部材から主チャネルまで液体を伝達する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
揮発性液体を、気化表面から気化によって大気中に散布する方法であって、
リザーバから伝達手段によって、それと液体伝達接触している気化表面に液体を移送することを含み、この気化表面は主毛細管チャネルを含み、これらの主毛細管チャネルの少なくともいくつかに、少なくとも1つの副毛細管チャネルが交差しており、この副毛細管チャネルの横断面積は、主チャネルのそれよりも実質的に小さく、それによって液体が主チャネルおよび副チャネルの両方に流れるようする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−504175(P2007−504175A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525021(P2006−525021)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000526
【国際公開番号】WO2005/021052
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】