説明

揮発性芳香族化合物分解用光触媒体および光触媒機能製品

【課題】 気相中の揮発性芳香族化合物を速やかに分解し得る揮発性芳香族化合物分解用光触媒体と、該光触媒体を用いた光触媒機能製品とを提供する。
【解決手段】 本発明の揮発性芳香族化合物分解用光触媒体は、気相中の揮発性芳香族化合物を分解するための光触媒体であって、酸化タングステン粒子と、該酸化タングステン粒子のBET比表面積よりも3倍以上大きいBET比表面積を有する酸化チタン粒子とを含み、前記酸化タングステン粒子および前記酸化チタン粒子の少なくとも一方に電子吸引性物質またはその前駆体が担持されていることを特徴とする。本発明の光触媒機能製品は、基材の表面に上記光触媒体で形成された光触媒体層を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中に含まれる揮発性芳香族化合物を速やかに分解し得る揮発性芳香族化合物分解用光触媒体と、該光触媒体を用いた光触媒機能製品とに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起されるとともに、価電子帯に正孔が生成する。かかる励起電子および正孔は、それぞれ強い還元力と酸化力とを有することから、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。
【0003】
このような光触媒体としては、従来、酸化タングステン粒子や酸化チタン粒子が知られており、これらの光触媒作用は、気相中の有害物質である揮発性有機化合物を分解し除去するのに利用されている。例えば、これまでに、酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子からなる光触媒体を分散させたコーティング液が提案されており(特許文献1)、このコーティング液を基材の表面に塗布することにより形成される光触媒体層に、気相中の揮発性有機化合物を光照射下で接触させることによって、該揮発性有機化合物を分解させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−231935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光触媒作用により分解しようとする化合物が揮発性芳香族化合物である場合、従来の光触媒体を用いると、芳香族化合物が分解する過程で光触媒体である粒子の表面に吸着して活性点が覆われてしまい、光触媒活性が経時的に低下して、気相中の芳香族化合物を完全に分解するまでに長時間を要することがあった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、気相中の揮発性芳香族化合物を速やかに分解し得る揮発性芳香族化合物分解用光触媒体と、該光触媒体を用いた光触媒機能製品とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、揮発性芳香族化合物を分解するための光触媒体としては、酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子の両方を含み、この両者のBET比表面積が特定の関係(すなわち、酸化チタン粒子の方が一定以上大きいこと)にあり、かつ両者の少なくとも一方に電子吸引性物質またはその前駆体が担持されている光触媒体が有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)気相中の揮発性芳香族化合物を分解するための光触媒体であって、酸化タングステン粒子と、該酸化タングステン粒子のBET比表面積よりも3倍以上大きいBET比表面積を有する酸化チタン粒子とを含み、前記酸化タングステン粒子および前記酸化チタン粒子の少なくとも一方に電子吸引性物質またはその前駆体が担持されていることを特徴とする揮発性芳香族化合物分解用光触媒体。
(2)前記電子吸引性物質またはその前駆体が、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有してなるものである前記(1)に記載の揮発性芳香族化合物分解用光触媒体。
(3)基材の表面に請求項1または2に記載の光触媒体で形成された光触媒体層を備えていることを特徴とする光触媒機能製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気相中の揮発性芳香族化合物を光の照射下で速やかに分解することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の揮発性芳香族化合物分解用光触媒体(以下、単に「本発明の光触媒体」と称する)は、酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子とを含むものである。
【0011】
本発明における酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0012】
前記三酸化タングステン粒子は、例えば、(1−i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(1−ii)メタタングステン酸アンモニウムやパラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
本発明における酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、通常5〜100m2/g、好ましくは8〜50m2/gであるのがよい。
【0013】
本発明における酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子等が挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
前記メタチタン酸粒子は、例えば、(2−i)硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解する方法により得ることができる。
前記二酸化チタン粒子は、例えば、(2−ii)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(2−iii)チタンアルコキシドに水、酸の水溶液または塩基の水溶液を加えて沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(2−iv)四塩化チタンを気化させ、これを気流中で焼成する方法、(2−v)メタチタン酸を焼成する方法、などによって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
【0015】
本発明における酸化チタン粒子のBET比表面積は、前記酸化タングステン粒子のBET比表面積よりも3倍以上大きいことが重要である。これにより、芳香族化合物に対する光触媒活性が向上し、気相中の揮発性芳香族化合物を速やかに分解することが可能になる。このように、酸化チタン粒子のBET比表面積は、前記酸化タングステン粒子のBET比表面積に応じて適宜設定するものであるが、通常は、20〜400m2/gの範囲内、好ましくは30〜350m2/gの範囲内で設定されるのがよい。
【0016】
本発明の光触媒体においては、前記酸化タングステン粒子および前記酸化チタン粒子の少なくとも一方に電子吸引性物質またはその前駆体が担持されている。電子吸引性物質とは、光触媒体(すなわち、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば、光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると、光の照射によって伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒活性をより高めることができる。
【0017】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、りん酸塩等が挙げられる。
【0018】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pd等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔Cu(SO4)2〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3〕、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕等が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔Pt(NO2)2(NH3)2〕等が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕等が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0019】
前記電子吸引性物質またはその前駆体を担持させるにあたり、その担持量(使用量)は、金属原子換算で、酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部であるのがよい。電子吸引性物質またはその前駆体が0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0020】
前記電子吸引性物質またはその前駆体を酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子の少なくとも一方に担持させるには、例えば、酸化タングステン粒子および/または酸化チタン粒子を水やアルコール等の適当な分散媒に分散させた後、得られた分散液の中に電子吸引性物質またはその前駆体を加えるようにすればよい。また、その際、前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、前駆体を電子吸引性物質に変換するために、必要に応じてその添加後に光照射を行ってもよい。酸化タングステン粒子や酸化チタン粒子を光励起できる波長の光を照射することにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、酸化タングステン粒子や酸化チタン粒子の表面に担持される。このとき、光照射で照射する光は、酸化タングステン粒子や酸化チタン粒子を光励起できる波長を有するものであれば、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。この光照射は、前記前駆体の添加後であれば、どの段階で行なってもよい。なお、前記前駆体を添加し、その添加後に光照射を行わない場合であっても、得られた光触媒体を実際に使用する際に(光触媒体に光触媒作用を発現させる際に)光が照射されると、その時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、その光触媒活性が損なわれることはない。また、前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、より効率よく電子吸引性物質を得る目的で、前記光照射の前に、本発明効果を損なわない範囲で、適宜、メタノールやエタノールや蓚酸等を加えることもできる。
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、酸化タングステン粒子と酸化チタン粒子のいずれか一方に担持させてもよいし、両方に担持させてもよいが、高い光触媒活性を得る観点からは、少なくとも酸化タングステン粒子には担持させるのが好ましい。
【0021】
本発明の光触媒体における前記酸化タングステン粒子と前記酸化チタン粒子との比率(酸化タングステン粒子:酸化チタン粒子)は、特に制限されないが、質量比で、通常4:1〜1:4、好ましくは2:3〜3:2であるのがよい。
【0022】
本発明の光触媒体は、前記酸化タングステン粒子と前記酸化チタン粒子とを粉末の状態で混合したもの(以下、この形態を「光触媒体粉末」と称することもある)であってもよいし、水やアルコール等の適当な分散媒中に前記酸化タングステン粒子と前記酸化チタン粒子とを分散させたもの(以下、この形態を「光触媒体分散液」と称することもある)であってもよい。粉末を混合する際の混合方法や、分散媒中に分散させる際の分散方法としては、それぞれ従来公知の方法から適宜採用すればよく、例えば、分散媒への分散には、媒体撹拌式分散機を用いることができる。
【0023】
本発明の光触媒体は、光触媒活性を大幅に損なわない範囲で、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
前記添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
【0024】
また、前記添加剤としては、本発明の光触媒体を用いて基材の表面に光触媒体層を形成する際に、酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
本発明の光触媒体に前述した添加剤を含有させる際には、例えば、前記酸化タングステン粒子と前記酸化チタン粒子とを適当な分散媒に分散させてなる分散液に対して、添加剤を加えればよい。
【0025】
本発明の光触媒体は、気相中の揮発性芳香族化合物を分解するための光触媒体である。ここで、揮発性芳香族化合物の具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クレゾール、アニリン等が挙げられる。なお、揮発性有機化合物を含む気相は、通常、大気である。
【0026】
本発明の光触媒機能製品は、基材の表面に、上述した本発明の光触媒体で形成された光触媒体層を備えたものである。この光触媒体層は、上述した特定の酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子で形成され、特に揮発性芳香族化合物に対して高い光触媒活性を示すものである。
光触媒体層の形成は、例えば、上述した本発明の光触媒体分散液(水やアルコール等の分散媒に酸化タングステン粒子および酸化チタン粒子を分散させた分散液)を、基材(製品)の表面に塗布した後、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。
前記光触媒体層を形成するにあたり、光触媒体分散液の塗布は、従来公知の方法を適宜採用して行えばよい。光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。また、塗布後に分散媒を揮発させる方法についても、特に制限はなく、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0027】
本発明の光触媒機能製品において、光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ分解対象とする揮発性芳香族化合物が発生もしくは存在する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0028】
本発明の光触媒機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光の照射によって高い光触媒作用を示す。つまり、本発明において、光触媒作用を発揮させる際に必要とされる光は、酸化タングステン粒子や酸化チタン粒子を光励起できる波長を有するものであれば、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。そのときの光源としては、例えば、蛍光灯、白熱電球、ハロゲンランプ、発光ダイオード、ナトリウムランプ、太陽光などを用いることができる。したがって、前記光触媒体層を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに形成すると、かかる光触媒体層と接触する気相中の揮発性芳香族化合物は速やかに分解されることとなる。
【0029】
本発明の光触媒機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各種物性の測定および得られた光触媒体の評価は以下の方法で行った。
【0031】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法にて測定した。
<結晶型>
X線回折装置((株)リガク製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトル測定し、得られたスペクトルから結晶型を決定した。
【0032】
<揮発性芳香族化合物に対する光触媒活性(トルエン分解能)>
揮発性芳香族化合物に対する光触媒活性は、可視光照射下で光触媒作用によるトルエンの分解反応を行い、トルエンの分解に要する時間を測定することにより評価した。
具体的には、内容積200mLの密閉可能なガラス製容器の中に、内径47mmのガラス製シャーレに広げた光触媒体500mgを設置し、上方よりキセノンランプ(Cermax製:300W)を用いて紫外線と可視光線の両方を含む光を30分間照射して、光触媒体表面の残存有機物を除去した。その後、ガラス製容器を密閉して、その中にシリンジを用いて9.4マイクロモルのトルエンを注入し、遮光下で2時間放置した。次いで、紫外線カットフィルター(旭テクノガラス製「Y−44」)を装着したキセノンランプを光源として可視光を照射し、光(可視光)の照射開始時から5分間隔で容器内のガスの一部をサンプリングして、トルエンの濃度をガスクロマトグラフ(アジレントテクノロジー社製「Agilent3000マイクロGC」)にて測定した。そして、トルエンの濃度が検出限界以下(0ppm)になるまでの光照射時間を求めた。光照射時間が短いほど、トルエン分解能が高いと言える。
【0033】
(製造例1:Pt担持酸化タングステン粒子の製造)
市販の粒子状の酸化タングステン(高純度化学製、WO3:純度99.99%)4gを水50mLに分散させ、5分間超音波照射を行った後に、遠心分離機(コクサン製「H-201F」コクサン製)を用いて1000rpmの回転速度で10分間遠心分離を行うことにより、粒子径の大きな粒子を沈降させ、水に分散している粒子を回収した。回収した酸化タングステン粒子のBET比表面積を測定したところ、10m2/gであった。
【0034】
次に、上記で回収した酸化タングステン粒子0.5gを水50mLに分散し、その中に、濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を、Ptが酸化タングステン粒子100質量部に対して0.10質量部となるように加えた後、1時間光照射を行った。光源には、紫色発光ダイオード(OptoSupply製「5mm Super Violet LED OSSV5111A」、45mW/sr、400nm)を28個用いた。次いで、得られた分散液にメタノール5mLを加え、攪拌しながら、上記と同様の光源を用いて2時間光照射を行った。その後、濾過し、得られた粒子を水洗浄した後、120℃で乾燥することにより、粒子状のPt担持酸化タングステン粒子を得た。
【0035】
(実施例1)
アナターゼ型酸化チタン粒子(石原産業製「ST−21」、BET比表面積:67m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の6.7倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は55分であった。
【0036】
(実施例2)
ルチル型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−3」、BET比表面積:40m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の4.0倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は65分であった。
【0037】
(実施例3)
ルチル型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−6」、BET比表面積:100m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の10倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は65分であった。
【0038】
(実施例4)
アナターゼ型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−13」、BET比表面積:56m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の5.6倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は75分であった。
【0039】
(実施例5)
アナターゼ型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−10」、BET比表面積:100m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の10倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は80分であった。
【0040】
(比較例1)
製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は150分であった。
【0041】
(比較例2)
アナターゼ型酸化チタン粒子(石原産業製「ST−41」、BET比表面積:11m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の1.1倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は170分であった。
【0042】
(比較例3)
ルチル型とアナターゼ型の混合相の酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−5」、BET比表面積:3m2/g)と製造例1で得られたPt担持酸化タングステン粒子とを、質量比で1:1となるように乳鉢で混合し、光触媒体を得た。なお、用いた酸化チタン粒子のBET比表面積は、酸化タングステン粒子のBET比表面積の0.3倍であった。
得られた光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は785分であった。
【0043】
(比較例4)
アナターゼ型酸化チタン粒子(石原産業製「ST−21」、BET比表面積:67m2/g)のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は455分であった。
【0044】
(比較例5)
ルチル型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−3」、BET比表面積:40m2/g)のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は260分であった。
【0045】
(比較例6)
ルチル型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−6」、BET比表面積:100m2/g)のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は275分であった。
【0046】
(比較例7)
アナターゼ型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−13」、BET比表面積:56m2/g)のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は910分であった。
【0047】
(比較例8)
アナターゼ型酸化チタン粒子(触媒学会参照酸化チタン「JRC−TIO−10」、BET比表面積:100m2/g)のみを単独で光触媒体とし、この光触媒体のトルエン分解能を評価したところ、トルエンの濃度が0ppmとなるまでに要した光照射時間は1200分以上であった。
【0048】
実施例1〜5と比較例1および比較例4〜8とを比べると、酸化チタン粒子または酸化タングステン粒子をそれぞれ単独で用いるよりも、両者を混合して用いる方が、優れたトルエン分解能を示すことが明らかである。しかも、実施例1〜5と比較例2、3との比較から、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを併用する場合には、酸化チタン粒子のBET比表面積を酸化タングステン粒子のBET比表面積の3倍以上とすることにより、格段に優れたトルエン分解能を発揮することが分かる。
【0049】
(参考例1)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を天井を構成する天井材の表面に塗布し乾燥させることにより、天井材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0050】
(参考例2)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を屋内の壁面に施工されたタイルに塗布し乾燥させることにより、このタイル表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0051】
(参考例3)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を窓ガラスの屋内側表面に塗布し乾燥させることにより、このガラス表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0052】
(参考例4)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を壁紙に塗布し乾燥させることにより、この壁紙の表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこの壁紙を屋内の壁面に施工することによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0053】
(参考例5)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車の天井材などの自動車内装材の表面に塗布し乾燥させることにより、これら自動車内装材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、車内照明による光照射により車内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0054】
(参考例6)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を屋内の床面に塗布し乾燥させることにより、この床面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。
【0055】
(参考例7)
実施例1〜5で得た光触媒体を水やアルコール等の有機溶媒中に分散させて分散液を得、この分散液を衣類やカーテン等の繊維製品に塗布し乾燥させることにより、この繊維製品に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内の空気中に含まれるトルエンなどの揮発性芳香族化合物濃度を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中の揮発性芳香族化合物を分解するための光触媒体であって、酸化タングステン粒子と、該酸化タングステン粒子のBET比表面積よりも3倍以上大きいBET比表面積を有する酸化チタン粒子とを含み、前記酸化タングステン粒子および前記酸化チタン粒子の少なくとも一方に電子吸引性物質またはその前駆体が担持されていることを特徴とする揮発性芳香族化合物分解用光触媒体。
【請求項2】
前記電子吸引性物質またはその前駆体が、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有してなるものである請求項1に記載の揮発性芳香族化合物分解用光触媒体。
【請求項3】
基材の表面に請求項1または2に記載の光触媒体で形成された光触媒体層を備えていることを特徴とする光触媒機能製品。

【公開番号】特開2011−20009(P2011−20009A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164860(P2009−164860)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】