説明

損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置

【課題】 生産ラインの工程毎に発生する歩留り落ち(特に原因工程が異なる場合)に対し費やされた損失コストを計算する。
【解決手段】 事前に与えられた生産量情報、通過工程情報、コスト情報、原因工程情報(S1)に基づいて、各製品の工程毎に歩留り落ちとしての物量の減少量(工程別損失量)を算出し(S3)、当該工程を含む上工程の全てに対する上工程への損失訴求量として登録する(S4)。損失訴求量と加工費単価の積(上工程への損失訴求コスト)と、工程別損失量と原料費単価の積(原料損失コスト)を各製品の工程毎に計算する(S5、6)。原因工程情報を参照し、損失訴求コスト及び原料損失コストを原因工程に振替える(S7)。原因工程に振替えられた損失訴求コスト及び原料損失コストを設備毎に合計した設備別損失コストを計算して出力する(S9、10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原材料を複数の工程により加工して製品を製造する多段階の生産工程からなる生産ラインで発生する損失コストとして、各製品の製造原価を算出すると同時に、加工の過程で原材料や半製品の一部が廃却(歩留り落ち、或いは屑化と呼ぶ)される際の損失コストを計算する損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置に関し、特に、損失が発生する工程と、その損失発生の原因となる工程が異なる場合の損失コストを計算する損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、アルミ、銅などの素材を設備で加工して製品を作りこむ生産ラインでは、主に、品質面から、途中の工程で素材の一部を切り捨てたり、削ったりすることにより、工程が進むにつれて、物量が減少していくのが一般的である。
このような生産ラインの場合、製品や工程毎に発生するコスト(失われた物量に対する原料コストである原料損失コスト)だけでなく、減少した物量に相当するコスト、即ち、製品の付加価値として残らずに、途中工程で失われた部分(歩留り落ち部分・屑化部分のことを意味し、以下「歩留り落ち」と称する。)に費やされた「損失コスト」が、製品や工程毎に把握することが操業や品質を改善するポイントを得る上で重要である。
【0003】
従来技術(例えば、特許文献1に示す技術)では、製品の加工手順(使用設備、処理時間など)に関する情報と、製品(品種)と工程毎の加工条件に基づくコスト因子から製品・工程ごとに発生する加工コストを算出している。そして、製品毎の全工程の一貫した製造コストを算出している。また、工程毎の詳細なコスト評価や収益性評価を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−182769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す技術のコスト計算方法では、各工程で発生するコスト(ここでいうコストは、残存分(残存コスト)と損失分(損失コスト)と一体化している)を費目別に詳細化して管理することは可能であるが、残存コストと損失コストを分離して管理することができないため、歩留り落ちに費やされた損失コストを算出することができない。そのため、工程単位で発生する歩留り落ちに費やされた損失コストへの影響が定量化できず、操業や品質の改善につながる解析に利用することができない。更に、歩留り落ちした工程と、その原因となった工程(原因工程)が異なる(歩留り落ちした工程よりも上工程に原因工程がある。)場合には、どの工程でどのくらい損失額を発生させているかを把握することができない。ここで、歩留り落ちした工程と、その原因となった工程が異なる場合とは、例えば、金属の生産ラインにおいて、鋳造工程で発生した不純物が、何工程か先の圧延工程でキズとなって発見され、圧延工程で歩留り落ちとして屑化される場合がある。
【0006】
仮に、工程毎の歩留り落ちに相当する損失コスト(例えば、減少した重量に相当する加工コスト)が、
工程1:2トン減少→8万円(工程1で2トン加工するコストに相当)
工程2:1トン減少→3万円(工程2で1トン加工するコストに相当)
工程3:3トン減少→6万円(工程3で3トン加工するコストに相当)
のように計算できたとしても、歩留り落ちが発生した工程における損失コストが計算されるだけであって、その上工程で費やした損失コストまでは計算することができない。例えば、この例では、工程3で歩留り落ちとなった3トン分は、工程1でも工程2でも加工コストを費やしているが、それらに対応する損失コストを計算することができない。更に、工程3での歩留り落ちの原因が工程1での加工方法である場合のように、歩留り落ちした工程と、その原因となった工程が異なる場合には、どの工程でどのくらい損失コストを発生させているかを把握することができない。
【0007】
ここで、損失コストを、図1を参照しながら、より具体的に説明する。図1は、製品に残存する残存コストと損失コストを工程毎に示すイメージ図である。図1では、工程1から工程6に至る6工程を経て製造される製品を考え、その工程順に縦軸に示している。また、図1で、横軸は各工程での重量であり、棒グラフは工程が進むにつれて、重量が減少していることを示している。更に、グラフ内の数字は、各工程での残存コスト(製品部分に対して費やされたコスト)と、損失コスト(歩留り落ち部分に対して費やされたコスト)と、を示している。図1に示すように、各工程での歩留り落ちに対する損失コストは、当該工程だけでなく、その上工程に遡って計算される。例えば、工程6では、歩留り落ち重量に対して34円のコストが無駄になっているが、その重量分は上工程でもコストを要しているため、工程1〜5においても、各工程の加工費単価で損失コストが計算される。結果として、工程6の歩留り落ちは736円の損失コストを発生させることがわかる。更に、工程6の歩留り落ちの原因が工程5であるとすると、工程5が736円の損失コストを招いたことがわかる。このように、全ての歩留り落ちに対して、同様の計算を行うことにより、各工程での歩留り落ちに対する損失コストを算出しなければ、歩留り落ちがコスト全体にどの程度影響しているかを、定量的に知ることができない。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、下記の通りである。
・途中の工程で、素材の一部を切り捨てたり、削ったりすることにより、工程が進むにつれて物量が減少してゆく生産ラインを対象として、各製品の工程毎に発生する原料損失コストを計算するだけではなく、各工程で発生する歩留り落ちに対しても、当該工程だけでなく上工程も含めて費やされた「(上工程への)損失訴求コスト」を定量的に計算する。
・また、各製品の工程毎に、歩留り落ちの原因となった原因工程に対して、計算した損失コスト(原料損失コスト及び損失訴求コスト)を振替えて、工程別に費やした損失コストを把握すると共に、どの工程が原因となってどの程度の損失が発生しているかを把握する。
・以上に基づいて、品質や操業の改善において、優先度の高い(即ち、改善しろが大きい)ポイントを容易に発見する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る損失コスト計算方法は、計算機において、複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算方法であって、計算機の演算部により実行される処理が、予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、前記各製品の工程別損失量として登録する工程別損失量計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替えステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る損失コスト計算プログラムは、複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算プログラムであって、予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、工程別損失量として登録する工程別損失量計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算ステップと、前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替えステップと、を有し、計算機において演算部により読み出して各ステップの処理を実行させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る損失コスト計算装置は、計算機において、複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算装置であって、計算機の演算部は、予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、工程別損失量として登録する工程別損失量計算部と、前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算部と、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算部と、前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算部と、前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替え部と、を有することを特徴とする。
【0012】
これによると、各製品の工程手順(設備の使用順序)と工程毎の歩留り、および各製品の生産量から、各製品の工程毎の処理重量が計算され、これをもとに各製品の工程毎に前工程からの物量の減少量が計算される(工程別損失量)。
次に、工程毎の物量の減少量に対応して、その減少量分に相当する上工程での物量が計算される(損失訴求量)。
そして、各製品の工程毎の加工費単価(単位物量当たりの発生コスト)をもとに、損失訴求量に対する損失コストが計算される(上工程への損失訴求コスト)。
一方、各製品の工程毎の損失量である工程別損失量とコスト情報内の原料単価をもとに、各製品の工程毎の損失量に相当する原料の損失コストが計算される(原料損失コスト)。
これら計算された損失訴求コスト及び原料損失コストからなる損失コスト(製品・工程別損失コスト)と、事前に登録された歩留り落ちの原因工程をもとに、製品・工程別の損失コストがその原因となった工程に振替えられる(この結果を損失コスト振替え結果とする)。
従って、各製品の工程毎に発生する個々の歩留り落ちに対して、損失した原料費相当分のコスト(原料損失コスト)以外に、自工程および上工程で損失した加工コスト(損失訴求コスト)を個別に管理することができる。
また、歩留り落ちの発生した工程ではなく、その原因となった工程(原因工程)ごとに損失コストを管理することができる。
以上により、製品の付加価値として残らない途中工程での損失コストを、その原因となる工程単位で詳細に把握することができる。そのため、品質や操業の改善において、優先度の高い(即ち、改善しろが大きい)ポイントを容易に発見することができる。
尚、本発明において、「工程」とは製品を製造する加工順序の1つ1つを意味し、「設備」とは各工程で利用する装置のことを意味し、工程番号が同じでも利用する設備が異なることが有る。
また、本発明において、「各製品の所定期間内の生産量」を今後生産する予定の量、つまり生産計画量として良い。この場合、将来の需要に応じて生産量が変化してゆく場合に、どの設備の改善が損失コストの削減に大きく寄与するかを予測することができ、需要の変化に応じた改善投資を検討することができる。一方で、「各製品の所定期間内の生産量」を生産の実績としての量としても良い。この場合は、需要の変動が小さい、あるいは周期的な場合に、どの設備への改善投資が有効かを検討することができる。
【0013】
ここで、本発明に係る損失コスト計算方法は、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算ステップを、更に有して良い。
【0014】
本発明に係る損失コスト計算プログラムは、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算ステップを、更に有して良い。
【0015】
本発明に係る損失コスト計算装置は、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算部を、更に有して良い。
【0016】
これによると、各製品の工程毎の損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果と通過工程情報で登録された各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、損失コスト(損失訴求コスト及び原料損失コスト)が設備別に合計される。これにより、製品別の種々の理由で発生している歩留り落ちによる損失影響を設備単位で総合的に把握することができ、コスト改善に注力すべき設備や、コスト管理上問題のある設備を合理的に判断することができる。
【0017】
また、本発明に係る損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置は、前記物量の単位として、重量、長さ、面積のいずれか1つ以上を用いて良い。
【0018】
これによると、設備の特徴に応じた物量の単位を利用することができる。
【0019】
尚、本発明に係る損失コスト計算プログラムは、リムーバブル型記録媒体やハードディスクなどの固定型記録媒体に記録して配布可能である他、有線又は無線の電気通信手段によってインターネットなどの通信ネットワークを介して配布可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置は、途中の工程で、素材の一部を切り捨てたり、削ったりすることにより、工程が進むにつれて物量が減少してゆく生産ラインを対象として、各製品の工程毎に発生するコストを計算するだけではなく、各工程で発生する歩留り落ちに対しても、当該工程だけでなく上工程も含めて費やされた「上工程への損失訴求コスト」を定量的に計算することができる。また、各製品の工程毎に、歩留り落ちの原因となった原因工程に対して、計算した損失コストを振替えて、工程別に費やした損失コストを把握すると共に、どの工程が原因となってどの程度の損失が発生しているかを把握することができる。以上に基づいて、品質や操業の改善において、優先度の高い(即ち、改善しろが大きい)ポイントを容易に発見することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】製品に残存する残存コストと損失コストを工程毎に示すイメージ図である。
【図2】本実施形態に係る損失コスト計算装置のブロック図である。
【図3】本実施形態に係る損失コスト計算方法の処理の手順について説明したフローチャートである。
【図4】本実施例において、製品Aについての損失コストの計算結果を示す図であり、損失コストの計算過程において求めた各値を示している。
【図5】本実施例において、製品Bについての損失コストの計算結果を示す図であり、損失コストの計算過程において求めた各値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置を実施するための形態について、具体的な一例に即して説明する。尚、以下に説明するものは、例示したものにすぎず、本発明に係る損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置の適用限界を示すものではない。すなわち、本発明に係る損失コスト計算方法及び損失コスト計算プログラム、並びに損失コスト計算装置は、下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな変更が可能なものである。
【0023】
まず、本実施形態に係る損失コスト計算装置について、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る損失コスト計算装置のブロック図である。損失コスト計算装置1は、演算部と、記憶部と、入力部と、出力部と、から構成されて、計算機上に実装される。ここで、図1に示されている損失コスト計算装置1の各部(演算部、記憶部、入力部、及び、出力部)は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ等の計算機によって構成されている。かかる計算機には、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、CD−ROMの駆動装置などのハードウェアが収納されており、ハードディスクには、プログラム(このプログラムは、リムーバブルな記憶媒体に記録しておくことにより、様々なコンピュータにインストールすることが可能である)を含む各種のソフトウェアが記録されている。そして、これらのハードウェアおよびソフトウェアが組み合わされることによって、上述の各部が構築されている。
【0024】
図1に示すように、演算部は、工程別損失量計算部11と、上工程への損失訴求量計算部12と、上工程への損失訴求コスト計算部13と、原料損失コスト計算部14と、原因工程への損失コスト振替え部15と、原因設備別損失コスト計算部16と、から構成される。また、記憶部は、工程情報登録部21と、生産量登録部22と、コスト情報登録部23と、工程別損失量記憶部24と、損失訴求量記憶部25と、製品・工程別損失コスト記憶部26と、損失発生原因工程記憶部27と、損失コスト振替え結果記憶部28と、設備別損失コスト記憶部29と、から構成される。
【0025】
工程情報登録部21は、各製品の通過工程情報が、予め外部から登録されるものである。ここで、通過工程情報とは、ある製品を完成するために実施する工程の連なりに関する情報であり、製品毎に各工程で利用する設備とその順序、各工程での歩留りに関する情報として与えられる。
【0026】
生産量登録部22は、各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報が、予め外部から登録されるものである。ここで、生産量とは、各製品の生産すべき物量として与えられ、また、物量の単位としては、重量、長さ、面積のいずれか1つ以上を用いることができる。ここで、「各製品の所定期間内の生産量」を今後生産する予定の量、つまり生産計画量として良い。この場合、将来の需要に応じて生産量が変化してゆく場合に、どの設備の改善が損失コストの削減に大きく寄与するかを予測することができ、需要の変化に応じた改善投資を検討することができる。一方で、「各製品の所定期間内の生産量」を生産の実績としての量としても良い。この場合は、需要の変動が小さい、あるいは周期的な場合に、どの設備への改善投資が有効かを検討することができる。
【0027】
コスト情報登録部23は、原料費及び加工費に関するコスト情報が、予め外部から登録されるものである。ここで、コスト情報とは、製品毎の原料費単価と、設備毎の加工費単価として与えられる。尚、加工費単価は、設備毎の加工費単価に限らず、製品毎の加工費単価、または、製品と設備毎の加工費単価として与えられても良い。
【0028】
損失発生原因工程記憶部27は、各製品の工程毎の歩留り落ちの原因となる原因工程に関する原因工程情報が、予め外部から登録されるものである。ここで、歩留り落ちの原因となる原因工程とは、歩留り落ちによる損失が発生する工程と、その損失発生の原因となる工程が異なる場合の、損失発生の原因となる工程(発生工程より上工程に原因工程がある)の他、歩留り落ちによる損失が発生する工程と、その損失発生の原因となる工程が同じ場合の、自工程を含むものである。
【0029】
ここで、工程情報登録部21、生産量登録部22、コスト情報登録部23、損失発生原因工程記憶部27において、外部から登録される情報は、図示しない入力部(キーボード等)から入力されたり、リムーバブルな記憶媒体に記録されて与えられたり、有線又は無線の電気通信手段によってインターネットなどの通信ネットワークを介して与えられたりして、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶装置(補助記憶装置)等に記憶される。
【0030】
工程別損失量計算部11は、工程情報登録部21に登録された通過工程情報と、生産量登録部22に登録された生産量に基づいて、各製品について、その生産量と歩留りから、工程毎の加工前後の物量を計算し、計算された工程毎の加工前後の物量の減少量(即ち、歩留り落ち)を、工程別損失量として工程別損失量記憶部24に登録するためのものである。
【0031】
上工程への損失訴求量計算部12は、各製品の工程毎に、工程別損失量記憶部24に登録された工程別損失量に基づいて、損失が発生した当該工程の上工程において発生した損失量に相当する物量を設定し、上工程(自工程も含む)での損失訴求量として、損失訴求量記憶部24に登録するためのものである。これは、工程別損失量計算部11で計算された工程毎の損失量は、損失が発生した工程でのみ無駄が発生するわけではなく、その上工程においても、無駄が発生するからである。即ち、上工程への損失訴求量計算部12では、工程毎に、工程別損失量記憶部24に登録された工程別損失量が、当該工程を含む当該工程の上工程の全ての工程に対して、損失訴求量として登録される。具体的には、工程が1〜n〜Nある場合(1<n<N)、工程1の工程別損失量は、工程1にのみ、損失訴求量として登録される。また、途中の工程nの工程別損失量は、工程1〜工程nまでの全ての工程に対して、損失訴求量として登録される。更に、工程Nの工程別損失量は、工程1〜工程Nまでの全ての工程に対して、損失訴求量として登録される。
【0032】
上工程への損失訴求コスト計算部13は、各製品の工程毎に、損失訴求量記憶部24に登録された上工程(自工程も含む)での損失訴求量と、コスト情報登録部23に登録された設備毎の加工費単価を元に、発生した損失量(即ち、損失訴求量)と加工費単価の積を計算し、各製品の工程毎の損失訴求コストとして、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録するためのものである。尚、損失訴求コストは、損失量に対する加工費の損失であり、自工程及び上工程の各工程で算出される損失訴求量と加工費単価の積の合計として算出される。
【0033】
原料損失コスト計算部14は、加工費とは別に発生する、物量が落ちることによる原料費相当の損失の値を計算するためのものであり、各製品の工程毎に、工程別損失量記憶部24に登録された工程別損失量とコスト情報登録部23に登録された原料費単価の積を計算し、各製品の工程毎の原料損失コストとして、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録するためのものである。
【0034】
原因工程への損失コスト振替え部15は、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録された損失訴求コストと原料損失コストと、損失発生原因工程記憶部27に登録された各製品の工程毎の歩留り落ちの原因となる原因工程に関する原因工程情報を参照して、各製品の工程毎に、損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えて、損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を損失コスト振替え結果記憶部28に登録するためのものである。
【0035】
原因設備別損失コスト計算部16は、損失コスト振替え結果記憶部28に登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を参照して、設備毎に損失訴求コストと原料損失コストとを合計して、損失が発生した原因設備別の損失コストを、設備別損失コストとして、設備別損失コスト記憶部29に登録するためのものである。
【0036】
尚、損失コスト振替え結果記憶部28に登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果に関する情報と、設備別損失コスト記憶部29に登録された設備別損失コストに関する情報は、損失コスト計算装置1における計算結果として、図示しないディスプレイ、プリンタ等の出力部に出力する。出力部に出力する出力様式として、損失コストだけでなく、損失とならずに最終製品に継承される残存コスト(加工コストと原料コスト)も併せて表示し、損失分と残存分のコストを比較する形の表形式として出力しても良い。
【0037】
次に、本実施形態に係る損失コスト計算方法の処理の手順について、図3に基づいて、説明する。図3は、本実施形態に係る損失コスト計算方法の処理の手順について説明したフローチャートである。
尚、以下で説明する本実施形態に係る損失コスト計算方法の処理は、計算機においても同様に、損失コスト計算プログラムとしてCPUにより読み出して実行することができる。また、この損失コスト計算プログラムは、リムーバブルな記憶媒体に記録しておくことにより、様々な計算機の記憶装置にインストールすることが可能である。
【0038】
図3に示すように、計算機において、生産量情報、通過工程情報、コスト情報、原因工程情報を、事前に、入力部から入力されたり、リムーバブルな記憶媒体に記録されて与えられたり、有線又は無線の電気通信手段によってインターネットなどの通信ネットワークを介して与えられたりして、記憶部に保存する(ステップS1)。尚、本ステップの詳細については、上述した損失コスト計算装置1の工程情報登録部21、生産量登録部22、コスト情報登録部23、損失発生原因工程記憶部27の記載内容と同様であり、その説明を省略する。
【0039】
そして、本実施形態を適用する対象となる対象製品から製品を1つ選択する(ステップS2)。
【0040】
次に、ステップS2で選択した製品について、その生産量と歩留りから、工程毎の加工前後の物量を計算し、計算された工程毎の加工前後の物量の減少量(即ち、歩留り落ち)を、工程別損失量として算出する(ステップS3:工程別損失量計算ステップ)。尚、本ステップの詳細については、上述した損失コスト計算装置1の工程別損失量計算部11の記載内容と同様であり、その説明を省略する。
【0041】
また、ステップS3で算出した工程別損失量は、損失が発生した工程でのみ無駄が発生するわけではなく、その上工程においても無駄が発生する。そこで、ステップS2で選択した製品について、工程毎に、損失量に相当する物量を、上工程(自工程も含む)にも設定し、損失訴求量として登録する(ステップS4:上工程への損失訴求量計算ステップ)。尚、本ステップは、上述した損失コスト計算装置1の上工程への損失訴求量計算部12の記載内容と同様であり、その説明を省略する。
【0042】
次に、ステップS4で登録された上工程での損失訴求量と、ステップS1で登録された設備毎の加工費単価を元に、ステップS2で選択した製品について、工程毎に、発生した損失量(即ち、損失訴求量)と加工費単価の積を計算し、損失訴求コストとして登録する(ステップS5:上工程への損失訴求コスト計算ステップ)。尚、本ステップは、上述した損失コスト計算装置1の上工程への損失訴求コスト計算部13の記載内容と同じであり、その説明を省略する。
【0043】
また、加工費とは別に、物量が落ちることによる原料費相当の損失も発生する。この値は、ステップS3で登録された工程別損失量とステップS1で登録された原料費単価の積で計算され、ステップS2で選択した製品について、工程毎に、原料損失コストとして登録する(ステップS6:原料損失コスト計算ステップ)。尚、本ステップは、上述した損失コスト計算装置1の原料損失コスト計算部14の記載内容と同じであり、その説明を省略する。
【0044】
そして、ステップS5で登録された損失訴求コストと、ステップS6で登録された原料損失コストと、ステップS1で登録された原因工程情報を参照して、ステップS2で選択した製品について、工程毎に損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えて、損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を登録する(ステップS7:原因工程への損失コスト振替えステップ)。尚、本ステップは、上述した損失コスト計算装置1の原因工程への損失コスト振替え部15の記載内容と同じであり、その説明を省略する。
【0045】
次に、本実施形態を適用する対象となる対象製品が残っているかどうか判断する(ステップS8)。ここで、対象製品が残っている場合は(ステップS8:Yes)、ステップS2に戻り、本実施形態を適用する対象となる対象製品から既に選択した製品以外の製品を1つ選択する。
【0046】
一方、対象製品が残っていない場合は(ステップS8:No)、ステップS7で登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を参照して、設備毎に損失訴求コストと原料損失コストとを合計して、損失が発生した原因設備別の損失コストを、設備別損失コストとして登録する(ステップS9:設備別損失コスト計算ステップ)。尚、本ステップは、上述した損失コスト計算装置1の原因設備別損失コスト計算部16の記載内容と同じであり、その説明を省略する。
【0047】
ステップS7で登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果と、ステップS9で登録された設備別損失コストに関する情報を参照し、計算結果として、図示しないディスプレイ、プリンタ等の出力部に出力する(ステップS10)。出力部に出力する出力様式として、損失コストだけでなく、損失とならずに最終製品に継承される残存コスト(加工コストと原料コスト)も併せて表示し、損失分と残存分のコストを比較する形の表形式として出力しても良い。
【0048】
そして、損失コスト計算方法の処理を終了する。
【0049】
このように、本実施形態の損失コスト計算装置及び損失コスト計算方法、並びに損失コスト計算プログラムによれば、製品毎の工程手順(設備の使用順序)と工程ごとの歩留り、および製品毎の生産量から、各製品の工程毎の処理重量が計算され、これをもとに各製品の工程毎に前工程からの物量の減少量が計算される(工程別損失量)。
次に、工程毎の物量の減少量に対応して、その減少量分に相当する上工程での物量が計算される(損失訴求量)。
そして、各製品の工程毎の加工費単価(単位物量当たりの発生コスト)をもとに、損失訴求量に対する損失コストが計算される(上工程への損失訴求コスト)。
一方、各製品の工程毎の損失量である工程別損失量とコスト情報内の原料単価をもとに、各製品の工程毎の損失量に相当する原料の損失コストが計算される(原料損失コスト)。
これら計算された損失訴求コスト及び原料損失コストからなる損失コスト(製品・工程別損失コスト)と、事前に登録された歩留り落ちの原因工程をもとに、製品・工程別の損失コストがその原因となった工程に振替えられる(この結果を損失コスト振替え結果とする)。
従って、各製品の工程毎に発生する個々の歩留り落ちに対して、損失した原料費相当分のコスト(原料損失コスト)以外に、自工程および上工程で損失した加工コスト(損失訴求コスト)を個別に管理することができる。
また、歩留り落ちの発生した工程ではなく、その原因となった工程(原因工程)ごとに損失コストを管理することができる。
以上により、製品の付加価値として残らない途中工程での損失コストを、その原因となる工程単位で詳細に把握することができる。そのため、品質や操業の改善において、優先度の高い(即ち、改善しろが大きい)ポイントを容易に発見することができる。
【0050】
また、原因工程に振替えた結果に基づいて、損失コストが設備別に合計される。これにより、製品別の種々の理由で発生している歩留り落ちによる損失影響を設備単位で総合的に把握することができ、コスト改善に注力すべき設備や、コスト管理上問題のある設備を合理的に判断することができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな変更が可能なものである。
【0052】
上述の実施形態では、コスト情報として登録される設備毎の加工費単価の物量の単位として、設備の特徴に応じて、「重量」や「処理長さ」や「処理面積」を用いても良い。また、これらの単位は、1つのみ用いても良いし、複数同時に用いても良い。尚、コスト情報として登録される製品毎の原料費単価の物量の単位は、「重量」を用いる。
【実施例】
【0053】
次に、本実施形態の損失コスト計算装置及び損失コスト計算方法、並びに損失コスト計算プログラムの具体例の説明のために、簡単な実施例について、図2及び図3に基づいて、以下で説明する。
【0054】
本実施例では、原材料を複数の工程で加工して製品を製造する工程を例にして、具体的な数字を用いて説明する。本実施例では、下記に示す前提条件を用いるものとする。
・コストは、原料費と各工程での加工コストとする。(尚、加工コストは変動費だけでも良いし、固定費を含めても良い。本実施形態では限定しない。)
・製品毎にその製造に使用する設備の順番、原料費、及び、各設備での加工コスト単位が異なる。尚、これらの情報は事前に与えられる。
・設備と製品毎に歩留り(設備での加工前の重量と加工後の重量との比)が異なる。尚、これらの情報は事前に与えられる。
【0055】
本実施例では、まず、生産量登録部22に、表1に示す生産量情報が登録される。本実施例では、本実施例を適用する対象となる対象製品が製品A,Bの2種類であるものとする。また、本実施例では、物量の単位として、重量を用いる。
【0056】
【表1】

【0057】
また、工程情報登録部21に、表2及び表3に示す各製品の通過工程情報が登録される。更に、損失発生原因工程記憶部27に、表2及び表3に示す各製品の工程毎の歩留り落ちの原因となる原因工程に関する原因工程情報が登録される。そして、表2は、製品Aの通過工程情報及び原因工程情報を示している。また、表3は、製品Bの通過工程情報及び原因工程情報を示している。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
また、コスト情報登録部23に、表4及び表5に示すコスト情報が登録される。表4は、設備毎の加工費単価を示している。また、表5は、製品毎の原料費単価を示している。尚、本実施例では、設備はA,B,C,D,E,Fの6種類を対象とする。
(以上がステップS1)
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
次に、工程別損失計算部11において、製品A及び製品Bの各製品について、その生産量と歩留りから、工程毎の加工前後の重量の減少量(即ち、歩留り落ち)を計算し、工程別損失量として、工程別損失量記憶部24に登録する。
製品Aついての計算結果を、図4に示す。図4は、本実施例において、製品Aについての損失コストの計算結果を示す図であり、損失コストの計算過程において求めた各値を示している。図4に示すように、「○1」の列には、工程毎の歩留りが設定されている。また、「○2」の列には、工程の入側(加工前)の重量が、「○3」の列には、工程の出側(加工後)の重量が、以下の方法により設定される。まず、最終工程(設備F)の出側重量として、生産量(3000トン)を設定する。次に、最終工程の歩留り(85%)を元に、最終工程の入側重量を計算する(3000トン/0.85=3529.4トン)。同時に、その値を、1つ上の上工程(設備E)の出側重量とする。この処理を、第1工程(設備A)まで繰り返すことにより、各工程での加工前の重量と加工後の重量が計算される。その結果、各工程で失われる重量(重量の減少量、即ち、歩留り落ち)が、加工前の重量と加工後の重量の差として計算することができる。これらの計算結果が、図4の「○4」の列に示す損失重量であり、上述の工程別損失量を意味する。尚、図4において、第1工程は歩留りが100%であるので、損失重量は0となっている。
製品Bについても、同様に計算し、その計算結果を、図5に示す。図5は、本実施例において、製品Bについての損失コストの計算結果を示す図であり、損失コストの計算過程において求めた各値を示している。
(以上がステップS3)
【0064】
そして、上工程への損失訴求量計算部12において、製品A及び製品Bの各製品について、工程毎に、工程別損失量記憶部24に登録された工程別損失量に基づいて、損失が発生した工程の上工程において発生した損失量に相当する重量を設定し、上工程での損失訴求量として、損失訴求量記憶部24に登録する。
製品Aについての計算結果を図4に示す。図4に示すように、「○6」の列に、損失訴求重量(即ち、上工程での損失訴求量)を設定する。尚、図4の「○6」の列において、損失が発生する元の工程を横方向(行)に、損失を訴求する先の工程を縦方向(列)に、それぞれ記載している。
例えば、第4工程(設備E)で発生した882.4トンの損失は、第4工程だけでなく、その上工程である第3工程、第2工程、第1工程にも設定される。
製品Bについても、同様に計算し、その結果を図5に示す。
(以上がステップS4)
【0065】
そして、上工程への損失訴求コスト計算部13において、製品A及び製品Bの各製品について、損失訴求量記憶部24に登録された上工程での損失訴求量(自工程も含む)と、コスト情報登録部23に登録された設備毎の加工費単価を元に、工程毎に、発生した損失量(即ち、損失訴求量)と加工費単価の積を計算し、損失訴求コストとして、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録する。
製品Aについての工程毎の損失訴求コストの計算結果を図4に示す。図4に示すように、「○5」の列には、コスト情報登録部23で登録した加工費単価(表4)が設定されている。「○8」の列には、計算された損失訴求コストを登録されている。尚、図4の「○8」の列において、損失が発生する元の工程を横方向(行)に、損失を訴求する先の工程を縦方向(列)に、それぞれ記載している。
例えば、第4工程(設備E)で発生した損失重量882.4トンに対する各工程の加工費の損失は、下記の式で示す計算の通りとなる。
第4工程(設備E):882.4[ton]×2[千円/ton]=1,765[千円]
第3工程(設備C):882.4[ton]×15[千円/ton]=13,235[千円]
第2工程(設備B):882.4[ton]×3[千円/ton]=2,647[千円]
第1工程(設備E):882.4[ton]×4[千円/ton]=3,529[千円]
つまり、第4工程での損失重量882.4トンに対する損失訴求コスト(第4工程の損失訴求コスト)は、上述した第4工程、第3工程、第2工程、第1工程の各工程の計算結果の合計である21,176[千円]となる。
以上の様にして計算した工程毎の損失訴求コストは、図4の「○8」の列において、損失を訴求する先の工程に基づいて、縦方向(列)に加算した値となる。図4の例では、製品Aについての工程1〜5(工程No.)の工程毎の損失訴求コストは、下記の通りとなる。
工程1の損失訴求コスト:0[千円]
工程2の損失訴求コスト:1,806[千円]
工程3の損失訴求コスト:10,785[千円]
工程4の損失訴求コスト:21,176[千円]
工程5の損失訴求コスト:16,941[千円]
製品Bについても、同様に計算し、その結果を図5に示す。
(以上がステップS5)
【0066】
また、原料損失コスト計算部14において、製品A及び製品Bの各製品について、工程毎に、工程別損失量記憶部24に登録された工程別損失量とコスト情報登録部23に登録された原料費単価の積(=各工程の原料損失)を計算して、製品A及び製品Bの各製品についての工程毎の原料損失コストとして、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録すると共に、製品A及び製品Bの各製品について、計算された全工程の原料損失を合計することにより、製品A及び製品Bの各製品全体の原料損失コストとして、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録する。
製品Aについての計算結果を図4に示す。図4に示すように、コスト情報登録部23で登録した原料費単価(表5)が42[千円/ton]であるので、「○4」の列に示す各工程の損失重量を乗ずることにより、工程毎に失われる原料相当分のコスト(工程毎の原料損失コスト)を得ることができる。そして、算出された工程毎の原料損失コストを合計することにより、製品A全体の原料損失コストが求められる。製品Aの工程毎の原料損失コスト及び製品A全体の原料損失コストの計算結果が、「○7」の列に登録されている。
例えば、第4工程(設備E)では、882.4トンの損失重量であるので、原料損失(即ち、原料損失コスト)は、下記の式の通りとなる。
882.4[ton]×42[千円/ton]=37,059[千円]
また、製品A全体の原料損失コストは、全工程の原料損失を合計して、90,718[千円]となる。
製品Bについても、同様に計算し、その結果を図5に示す。
(以上がステップS6)
【0067】
そして、原因工程への損失コスト振替え部15において、製品・工程別損失コスト記憶部26に登録された損失訴求コストと原料損失コストと、損失発生原因工程記憶部27に登録された各製品の工程毎の歩留り落ちの原因となる原因工程に関する原因工程情報を参照して、製品A及び製品Bの各製品について、工程毎に、損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えて、損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を損失コスト振替え結果記憶部28に登録する。
本実施例では、歩留り落ちの原因となる原因工程に関する原因工程情報は、表2及び表3の各製品の通過工程情報とともに登録される。例えば、表3に示す製品Bでは、工程2で発生する歩留り落ちに対する原因工程は工程2、つまり自工程であるが、工程3で発生する歩留り落ちに対する原因工程は、上流の工程1となっている。この原因工程情報をもとに、製品・工程別損失コストを原因工程に振替えた結果を、表6及び表7に示す。表6は、製品Aについての損失コストの振替え結果を示す表であり、表7は、製品Bについての損失コストの振替え結果を示す表である。ここで、損失コストとは、損失訴求コストと原料損失コストの合計を意味する。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
表6に示すように、例えば、製品Aについて工程4で発生した損失コストである58,235[千円]は、原因工程1に振替えられている。
同様に、表7に示すように、例えば、製品Bについて設備5で発生した損失コストである5,810[千円]は、原因工程4に振替えられている。
(以上がステップS7)
【0071】
また、設備別損失コスト計算部16において、損失コスト振替え結果記憶部28に登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果(製品Aについては表6、製品Bについては表7)を参照して、損失が発生した原因設備毎に損失訴求コストと原料損失コストとを合計して、損失が発生した原因設備別の損失コストを、設備別損失コストとして、設備別損失コスト記憶部28に登録する。
本実施例では、まず、上述した損失コスト振替え結果記憶部28に登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果である表6及び表7に基づいて、それぞれ、損失コストが発生した工程で使用される設備で置き換える(表8及び表9)。表8は、製品Aについての損失コストの振替え結果を工程で使用される設備で示す表であり、表7は、製品Bについての損失コストの振替え結果を工程で使用される設備で示す表である。
【0072】
【表8】

【0073】
【表9】

【0074】
次に、表8及び表9で計算された製品A及び製品Bの各製品について工程で使用される設備で示す損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果を、原因設備別に合計する。製品Aと製品Bについて、原因設備別に損失コストを合計した結果を表10に示す。
【0075】
【表10】

【0076】
表10に示すように、設備Aが原因設備の場合、
製品1に対する損失原因=89,608[千円](設備Cと設備Eで発生)
製品2に対する損失原因=14,267[千円](設備Cで発生)
の合計として、103,875[千円]が原因設備Aでの総合的な損失コストとなる。
(以上がステップS9)
【0077】
そして、損失コスト振替え結果記憶部28に登録された損失訴求コストと原料損失コストとを原因工程に振替えた結果と、設備別損失コスト記憶部28に登録された設備別損失コストに関する情報が、損失コスト計算装置1における計算結果として、図示しないディスプレイ、プリンタ等の出力部に出力する。
(以上がステップS10)
【0078】
このように、本実施例では、表10に基づいて、設備Aが原因設備となる損失コストが最も大きく、次に設備D、設備Bの順となっていることが分かる。また、設備Cと設備Fについては、これらが原因設備となって損失コストを発生させていないことが分かる。
【0079】
尚、本実施例では、各工程で使用する設備がそれぞれ異なる設備であるが、其れに限らず、各工程で使用する設備が同じ設備が含まれているものであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 損失コスト計算装置
11 工程別損失量計算部
12 上工程への損失量計算部
13 上工程への損失訴求コスト計算部
14 原料損失コスト計算部
15 原因工程への損失コスト振替え部
16 原因設備別損失コスト計算部
21 工程情報登録部(通過工程情報)
22 生産量登録部(生産量情報)
23 コスト情報登録部(加工費単価、原料費単価)
24 工程別損失量記憶部(工程別損失量)
25 損失訴求量記憶部(損失訴求量)
26 製品・工程別損失コスト記憶部(損失訴求コスト、原料損失コスト)
27 損失発生原因工程記憶部(原因工程)
28 損失コスト振り替え結果記憶部(原因工程に振替えた結果)
S3 工程別損失量計算ステップ
S4 上工程への損失訴求量計算ステップ
S5 上工程への損失訴求コスト計算ステップ
S6 原料損失コスト計算ステップ
S7 原因工程への損失コスト振替えステップ
S9 設備別損失コスト計算ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機において、複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算方法であって、
計算機の演算部により実行される処理が、
予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、前記各製品の工程別損失量として登録する工程別損失量計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替えステップと、
を有することを特徴とする損失コスト計算方法。
【請求項2】
前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算ステップを、更に有することを特徴とする請求項1に記載の損失コスト計算方法。
【請求項3】
前記物量の単位として、重量、長さ、面積のいずれか1つ以上を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の損失コスト計算方法。
【請求項4】
複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算プログラムであって、
予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、工程別損失量として登録する工程別損失量計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算ステップと、
前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替えステップと、
を有し、計算機において演算部により読み出して各ステップの処理を実行させることを特徴とする損失コスト計算プログラム。
【請求項5】
前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算ステップを、更に有することを特徴とする請求項4に記載の損失コスト計算プログラム。
【請求項6】
前記物量の単位として、重量、長さ、面積のいずれか1つ以上を用いることを特徴とする請求項4または5に記載の損失コスト計算プログラム。
【請求項7】
計算機において、複数の工程を通過して素材が加工されて複数の製品を製造する生産ラインで発生するコストの内、途中工程で失われる歩留り落ちに起因する損失コストを計算する損失コスト計算装置であって、
計算機の演算部は、
予め登録された、生産ラインで通過する工程とその順番、前記各工程で利用する設備、及び、前記各工程での歩留りに関する各製品の通過工程情報と、前記各製品の所定期間内の生産量に関する生産量情報と、に基づいて、前記各製品の前記工程毎に、前後工程における物量の減少量を計算し、工程別損失量として登録する工程別損失量計算部と、
前記各製品の前記工程毎に、当該工程を含む上工程の全て工程に対して、前記工程別損失量を損失訴求量として設定する上工程への損失訴求量計算部と、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の前記工程毎の加工費単価と、前記損失訴求量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の損失訴求コストを計算する上工程への損失訴求コスト計算部と、
前記各製品の前記工程毎に、予め登録された前記各製品の原料費単価と、前記工程別損失量と、を乗じて、前記各製品の前記工程毎の原料損失コストを計算する原料損失コスト計算部と、
前記各製品の前記工程毎に、前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを、事前に登録された前記各製品の前記工程毎の前記歩留り落ちの原因となる原因工程に振替える原因工程への損失コスト振替え部と、
を有することを特徴とする損失コスト計算装置。
【請求項8】
前記各製品の前記工程毎の前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記原因工程に振替えた結果と前記通過工程情報で登録された前記各工程で利用する設備に関する情報とに基づいて、前記損失訴求コストと前記原料損失コストとを前記設備毎に合計して、前記設備別の損失コストを計算する設備別損失コスト計算部を、更に有することを特徴とする請求項7に記載の損失コスト計算装置。
【請求項9】
前記物量の単位として、重量、長さ、面積のいずれか1つ以上を用いることを特徴とする請求項7または8に記載の損失コスト計算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−242902(P2012−242902A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109604(P2011−109604)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】