説明

搬送用ローラ

【課題】 接着剤を使用せず、芯金―フッ素樹脂チューブ間の界面剥離強度が必要十分である搬送用ローラを提供する。
【解決手段】 芯金の外周面にフッ素樹脂の熱収縮性チューブを被覆するにあたり、該芯金外周面に、芯金元材である金属丸棒材の円周方向の外郭線を仮想線とした際に、該仮想線を越えて突出した山形状隆起体群を規則的な並列状態で形成させ、その際、隣り合う山形状隆起体群の間に形成される谷部の深さを少なくとも0.05mmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送用ローラに関する。さらに詳しくは、本発明は、電子写真複写機、プリンター、さらにはファクシミリ等の画像形成装置において、転写紙などの記録媒体を搬送する搬送用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、搬送用ローラとしては、芯金の外周面にサンドブラストによる粗面化処理を施した後、熱収縮性フッ素樹脂チューブを被覆・収縮させた構造のものが採用されている。その際、該芯金と、収縮したフッ素樹脂チューブ(以下、単に“フッ素樹脂チューブ”と言うことがある。)との界面剥離強度は重要な要素である。ちなみに、この種のロ−ラでは、芯金の粗面が、該チューブとの間でアンカー機能を奏し、該芯金とフッ素樹脂チューブとを固着している。しかし、サンドブラスト外周面では、粗面の浅深の差が激しいばかりか、最深部でもせいぜい0.04mm程度に過ぎないので、安定したアンカー効果は到底望めない。アンカー効果を上げるためには、接着剤を併用することも考えられる。しかし、これでも、絶対的な界面剥離強度は不足し、ローラ使用中に該チューブが芯金との界面で剥がれてしまうという不具合が慢性的に発生する。さらに、塗布した接着剤が、ローラ製造工程で他の部材や機具等に接触するため、ゴミ等が付着して別の不具合の原因ともなってしまう。
【0003】
これらの問題への対応策として、切削加工により芯金の外周面に均一な溝を形成することが考えられる。この切削加工では、溝の深さや溝間のピッチが自由に決定できるので、安定したアンカー効果は得られる。しかしながら、切削加工では、その加工上の原理からして、円周方向の螺旋状溝しか形成できない。この螺旋状の溝では、ローラの回転時に発生する長手方向の推力に因り、上記チューブにズレが生じてしまう。また、加工に時間がかかり、生産性も悪く、量産には不向きである。このズレ防止にも、接着剤を併用することが考えられる。しかし、この場合でも、塗布した接着剤がローラ製造工程内で往々にして剥離し、他の部材や器具等に付着するという問題も未解決のまま放置されている。したがって、接着剤を不要とする方向も含め総合的な解決策が望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、上述の芯金加工上の問題点を解決することにより、接着剤を併用しなくても、芯金―フッ素樹脂チューブ間に絶対的界面剥離強度が確保された搬送用ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、芯金外周面の粗面化加工に際して、これまで螺子切りに利用されていた高精度且つ量産向きの転造加工で生じる粗面状態に着目した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、芯金の外周面にフッ素樹脂の熱収縮性チューブを被覆するにあたり、該芯金外周面に、芯金元材である金属丸棒材の円周方向の外郭線を仮想線とした際に、該仮想線を越えて突出した山形状隆起体群を規則的な並列状態で形成させ、その際、隣り合う山形状隆起体群の間に形成される谷部の深さを少なくとも0.05mmとするとき、上記の課題が一挙に解決されることが究明された。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高精度且つ量産向きの転造加工で生じる粗面の特徴を芯金外周面に反映させた結果、絶対的界面剥離強度が著しく向上する。この理由としては、以下のa、bおよびcが挙げられる。
a.該規則的な並列状態にある山形状隆起体群は、芯金元材である金属丸棒材の円周方向の外郭線を仮想線とした際に、該仮想線を越えて突出している。つまり、その凹凸状態は、後述するように、上記外郭線の内方に形成された従来のそれとは異質のものである。このような山形状隆起体群の存在により、該仮想線から突出した面積の分だけ芯金とフッ素樹脂チューブとの勘合面積が増加し、且つその規則的配列により、芯金全周に渡って均一な接着効果が得られていること。
b.上記山形状隆起体群は、芯金の長手方向(中心軸)と平行な形状、もしくは綾目形状で存在し、しかも、ローラ回転方向に対して噛み合う方向で在るので、フッ素樹脂チューブのズレにつながる長手方向の推力の発生が皆無であること。
c.上記山形状隆起体群による凹凸形状は、均一な深さで形成される為、安定したアンカー効果を呈すること。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の搬送用ローラについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る搬送用ローラの一態様を示す側面図である。
図2は、図1の搬送用ローラに採用する芯金の側面図である。
図3は、図2に示した芯金の変形例の部分拡大図である。
図4は、精密転造盤の概略を示す斜視図である。
【0009】
図1において、(1)は芯金、(2)は芯金(1)の外周面で、その中心軸方向に規則的な並列状態に形成された山形状隆起体群、(2a)、(2b)、(2c)・・・は個々の山形状隆起体、(4)は隣り合う山形状隆起体間(例えば(2a)と(2b)、(2b)と(2c)間・・・)に形成された谷部、(5)は熱収縮したフッ素樹脂チューブである。ここで特徴的なことは、山形状隆起体群(2)が、芯金元材である金属丸棒材(図4の符号(8))の円周方向の外郭線を仮想線(6)とした際に、この仮想線を越えて突出していることである。したがって、フッ素樹脂チューブ(5)は各谷部(4)に懸崖しつつ山形状隆起体群(2)の各ピーク部を覆う形で芯金(1)に勘合されるので、勘合面積の増加が実現される。
【0010】
このような特異なアンカー効果を呈する芯金(1)の詳細について、図2〜図4を参照しながら述べる。
【0011】
山形状隆起体群(2)を有する芯金(1)は、芯金元材である金属丸棒材を転造加工して得られる。この転造加工は、図4(a)に示すように、所定の表面凹凸形状を有するロールダイスセット(7)の間に金属丸棒材(8)を挟み込んだ状態で、ロールダイス(7a)および(7b)を回転させながら金属丸棒材(8)の外周面を塑性変形させる加工方法である。(9)は金属丸棒材(8)を載置するための支持板である。このような塑性変形加工において、ロールダイス(7a)、(7b)を、図4(b)に示すように、各々所定角度(α)、(−α)だけ傾けることによって、金属丸棒材(8)の長手方向(中心軸)に対して、平行な溝から綾目状の溝まで、すなわち所望の角度で、しかも規則的な並列状態の山形状隆起体群(2)を形成できる。該角度(α)の値は1度から5度程度で、精密転造盤の出力や加工精度に応じて適宜選択すればよい。また、転造加工では、同時に矢印方向の推力が発生するので、この推力により、ロールダイス(7)の全長よりも長い金属丸棒材(8)であっても簡単に加工できる。
【0012】
上記転造加工では、金属丸棒材(8)の外周面の組織が移動するだけで、切削加工のように切り屑の排出はない。切削加工のほかに引き抜き加工もあるが、この場合は、長手方向に対して斜行しながら同一方向に延びる溝群や、該斜行溝群と一定の角度で交差する溝群とで形成される形状(綾目形状)の形成は不可能である。この点、転造加工を利用すれば、図2に示すように、金属丸棒材(8)の円周方向の外郭線(仮想線(6))を越えて、規則的な並列状態にある山形状隆起体群(2)が、高精度で効率よく形成される。このとき、隣り合う山形状隆起体間に形成される谷部(4)の深さ(4d)は少なくとも0.05mmにあることが肝要である。その上限については、高々0.3mmである。そして、この谷部(4)の深さ(4d)が、特に0.10mm〜0.20mmにあるとき、その効果は最大限に発揮される。また、谷部(4)のピッチは0.4mm〜0.8mmの範囲から選択すればよい。さらに、図3に示すように、各山形状隆起体の表面に、高さが0.01〜0.1mmの微細突起体(2t)を散在させると、絶対的界面剥離効果はさらに改善される。このような微細突起体(2t)は、例えばサンドブラスト加工を施したロールダイス(7a)および(7b)を採用することにより、山形状隆起体群(2)と同時的に形成される。
【0013】
芯金(1)の元材は、周知の材料である鉄(快削鋼)、ステンレス、さらにはアルミなどの金属丸棒材から適宜選定すればよい。通常、金属丸棒材の長手方向の長さは200mm〜1100mm程度、外径は10mm〜60mm程度であればよい。また、芯金(1)外周面に規則的な配列状態に形成される山形状隆起体群(2)の形状については、既に述べたように、芯金(1)の長手方向に平行に延びている平目形状、あるいは斜めの格子状をつけた綾目形状等がある。ここで、芯金の材料として金属丸棒材を挙げて説明したが、芯金重量を軽くしたい場合は、金属筒材を使用してもよい。芯金(1)に被覆・収縮される熱収縮性フッ素樹脂チューブはPFA、PTFE、FEP等の周知のフッ素樹脂から得られるチューブであり、収縮後のフッ素樹脂チューブ(5)の厚みは0.3mm〜3mm程度であればよい。
【0014】
次に、本発明に係る定着ロールの製造方法の一例について述べる。先ず、押出し成型により得られた熱収縮性フッ素樹脂チューブ、および該熱収縮性チューブの内径より若干小さい外径を有する芯金(1)を用意する。この芯金(1)の形状の例は、図1や図2に示したとおりである。次に、この芯金(1)の上に該熱収縮性チューブを被せた状態で加熱して、チューブを収縮させる。最後に、収縮したフッ素樹脂チューブ(5)の両端を切断除去して所望のチューブ長さにして搬送用ローラを完成させる。なお、画像形成装置に組み込まれ、特に高速・高トルク領域で使用される搬送用ローラが必要とされる場合には、必要に応じて、注意深く接着剤を併用してもよい。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
先ず、図4に示した態様の精密転造盤により、金属丸棒材(8)に転造加工を施した。その際、外径26mm、長さ500mmの“硫黄および硫黄複合快削鋼”(SUM24L)製金属丸棒材(8)を、ロールダイスセット(7)を組み込んだ精密転造盤に通して、図2に示すような芯金(1)を得た。ロールダイスセット(7)は、その表面に所定の溝を形成してなる外径200mmのロールダイス(7a)および(7b)で構成し、その際、前者(7a)の傾き角(α)を3度に、そして後者(7b)の傾き角(−α)を−3度に設定した。このようにして、谷部深さ(4d)が0.15mm(Avg.)でピッチが0.6mmの山形状隆起群(2)が形成された。次に、外径27mm、厚さ1mmの熱収縮性フッ素樹脂チューブを円筒状真空吸引装置に装着し、真空吸引によって拡径した。その中に、芯金(1)を挿入した後、真空状態を停止して拡径状態を開放して該熱収縮性フッ素樹脂チューブを芯金(1)の外周面に密着させた。次いで、200℃のオーブン中で15分間の収縮処理を行って、収縮したフッ素樹脂チューブ(5)を得、最終的に図1に示すような搬送用ローラを作成した。このとき用いた熱収縮性フッ素樹脂チューブは、(温度、時間)で径方向に20%〜70%、長手方向に+20%〜−20%収縮するチューブである。
【0016】
[実施例2]
実施例1において、ロールダイスセット(7)の表面溝を変更して、谷部深さ(4d)が0.05mm(Avg.)でピッチが0.6mmの山形状隆起群(2)を形成する以外は、同様の操作を繰り返した。
【0017】
[比較例1]
実施例1において、金属丸棒材(8)に切削加工を施して深さが0.15mm(Avg.)、ピッチ0.6mmの螺旋状の溝を形成する以外は、同様の操作を繰り返した。
【0018】
[比較例2]
実施例1において、金属丸棒材(8)にサンドブラスト加工を施して深さが0.04mm(Max.)の凹部を形成してなる芯金を使用する以外は、同様の操作を繰り返した。
【0019】
以上の4種類の搬送用ローラの各フッ素樹脂チューブ層に、その円周方向に沿って幅10mmの切込みを全周に渡って入れ、その部分の円周方向のトルクをトルクメーターで測定した。この結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から以下のことが明らかになる。
【0022】
溝の深さとピッチについて共通する実施例1と比較例1とを比べると、実施例1では比較例1に比べてはるかに大きいトルクが得られている。これは絶対的界面剥離強度が向上していることを意味している。この理由としては以下の3点が挙げられる。まず第1には、比較例1の切削加工による溝は、図1の仮想線(6)を越えていないのに対して、実施例1の転造加工による山形状隆起体群(2)は該仮想線(6)を越えて突出しているため、該仮想線から突出した面積の分だけ芯金(1)とフッ素樹脂チューブ(5)との勘合面積が増加し、且つその規則的配列により、芯金全周に渡って均一な接着効果が得られているからである。
【0023】
第2には、実施例1および実施例2の山形状隆起体群(2)は、芯金(1)の長手方向と平行且つ規則的な並列形状で存在し、しかも、ローラ回転方向に対して噛み合う方向に在るので、フッ素樹脂チューブ(5)のズレにつながる長手方向の推力を惹起しないからである。
【0024】
第3には、山形状隆起体群(2)による凹凸形状は、均一な深さで形成される為、安定したアンカー効果を呈しているからである。
【0025】
このような嵌合面積の増加による絶対的界面剥離強度の向上、フッ素樹脂チューブのズレ防止効果、及びアンカー効果は、実施例2からも十分に読み取れる。すなわち、実施例2の場合、溝深さは比較例1の溝の1/3であるにも拘らず、トルクは比較例1の2倍強を示している。
【0026】
さらに、比較例2については、比較例1よりはローラ回転方向のトルクは大きいものの、実施例1および実施例2には到底及ばない。このことから、サンドブラスト加工による凹凸溝は、切削加工による螺旋状の溝に比べれば回転方向に対する界面剥離強度は大きいが、最大深さが0.04mm程度でしかも不均一な溝しか形成できないため、安定したアンカー効果が得られていない。以上のことから、本発明に従って規則的な並列状態で芯金の長手方向に延在する山形状隆起体群(2)は、芯金(1)とフッ素樹脂チューブ(5)との芯金(1)の全周に渡る均一な勘合面積の増加、ローラ回転方向のフッ素樹脂チューブのズレ防止能と、さらに安定して得られるアンカー効果により、絶対的界面剥離強度がはるかに向上される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の搬送用ローラの芯金は均一な表面硬度を有することから、定着ローラや現像ローラ用としても利用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る搬送用ローラの一態様を示す側面図である。
【図2】図1の搬送用ローラにおいて採用する芯金の側面図である。
【図3】図2に示した芯金の変形例の部分拡大図である。
【図4】図4(a)は精密転造盤の概略図、図4(b)はロールダイスの位置関係を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 芯金
2 芯金(1)の軸方向に規則的な並列状態に形成された山形状隆起体群
2a 山形状隆起体
2b 山形状隆起体
2c 山形状隆起体
2t 山形状隆起体表面に形成された微細突起体
3 山形状隆起体ピッチ
4 隣り合う山形状隆起体間に形成された谷部
4d 谷部(4)の深さ
5 熱収縮したフッ素樹脂チューブ
6 仮想線(金属丸棒材の円周方向の外郭線)
7 ロールダイスセット
7a プラス側に傾けるロールダイス
7b マイナス側に傾けるロールダイス
8 金属丸棒材
9 支持板
α ロールダイス(8a)の傾き角
−α ロールダイス(8b)の傾き角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、該芯金の外周面に熱収縮により被覆されたフッ素樹脂チューブとを備えた搬送用ローラにおいて、該芯金が、金属丸棒材または筒材の円周方向の外郭線を仮想線とした際に、該仮想線を越えて突出した山形状隆起体群が規則的な並列状態で形成され、その際、隣り合う山形状隆起体間に形成される谷部の深さが少なくとも0.05mmであるような芯金であることを特徴とする搬送用ローラ。
【請求項2】
該山形状隆起体群が、該芯金の軸方向に平行に延びている請求項1に記載の搬送用ローラ。
【請求項3】
該山形状隆起体群が、該芯金の表面に綾目状に形成されている請求項1に記載の搬送用ロール。
【請求項4】
該谷部の深さが高々0.3mmである請求項1〜3のいずれかに記載の搬送用ローラ。
【請求項5】
該芯金が転造加工により得られる請求項1〜4のいずれかに記載の搬送用ローラ。
【請求項6】
該山形状隆起体群表面に、高さ0.01mm〜0.1mmの微細突起体が散在してなる請求項1〜5のいずれかに記載の搬送用ローラ。
【請求項7】
該フッ素樹脂チューブの肉厚が0.3mm〜3mmである請求項1〜6のいずれかに記載の搬送用ローラ。

































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−254141(P2007−254141A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84353(P2006−84353)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】