説明

携帯型情報処理装置の筐体、筐体の製造方法および携帯型情報処理装置

【課題】ノートパソコン表示部外装の背面筐体において、外力に対してより高い耐久力を有し、軽量なノートパソコンの筐体を提供する。さらに、この背面筐体である金属成型部品作成時の成型性を悪化させることないノートパソコンの筐体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ディスプレイ部12を構成する背面筐体14は、段差により凸状に隆起した隆起部17と非隆起部18とを有し、非隆起部の面は円筒面状に湾曲し、段差の稜線19は円筒面の側線に対して直角であるようにディスプレイ部の背面筐体を構成する。このような背面筐体構造にすることで、部分的に面を隆起させた自動車のボンネット構造により、外圧による背面筐体幅方向の変形が抑えられ、さらに背面筐体長手方向に対しても変形が抑えられる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノートパソコンのような携帯型情報処理装置に関して、詳しくは、金属製の筐体、当該筐体の製造方法および当該筐体を使用した携帯型情報処理装置、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型情報処理装置(以下、総称してノートパソコン)では、その携帯性を高めるため、装置自体の薄型、軽量化が進み、外郭を構成する筐体の薄型化も進んでいる。一方では、機械的強度の向上や電磁シールド及び装置内部から発生する熱を放熱するために筐体に金属が用いられてきている。
【0003】
以下、従来のノートパソコンについて図を用いて説明する。
【0004】
図4Aは従来のノートパソコンのディスプレイ部を閉じた状態の外観斜視図である。図4Bは図4Aで示すディスプレイ部を4B−4B軸より見た断面図である。図4Cは図4Aで示すディスプレイ部を4C−4C軸より見た断面図である。
【0005】
図4A、B、Cにおいて、背面筐体24と前面筐体25の間には液晶表示装置の構成部品である液晶ドライブ回路(図示せず)と液晶表示パネル26が配置されている。
【0006】
以上のように構成された従来の携帯型情報処理装置について、以下その詳細について説明する。
【0007】
ノートパソコンはブック型と呼ばれるように、一般的には鞄などに収納しやすいようにディスプレイ部を閉じた状態では略矩形状の平面部を有する薄型の平板状箱体である。
【0008】
また、背面筐体24は機械的強度の向上や電磁シールド及び装置内部から発生する熱を放熱するためにアルミなどの金属材料で作成されている。特に近年では軽量化のため、アルミよりも比重が小さく強度の大きいマグネシウム合金が使われてきており、合わせて最大限の筐体の薄肉化が図られている。
【0009】
さらに薄型、軽量化が進んだために、鞄などに入れて持ち運ぶ機会が一層増えてきている。しかし、満員電車に乗り込んだ場合など、鞄には外側から大きな圧力が加えられ、つまりは、ディスプレイ部22に加えられることがあるが、そのとき、薄肉化している背面筐体24が変形し、収納された液晶表示パネル26が破損するおそれがある。これを防止するために、基本肉厚を保ちつつ、図4Bに示すように自動車のボンネットのように背面筐体24の中央部を長手方向に沿って隆起させてより強度を増している。なお、これらの技術内容は、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平9−062400号公報
【特許文献2】特開2003−204174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来の構成では、図4A、B、Cにも示すように実線の矢印で示す、つまり背面筐体の幅方向(4B−4B軸)の沿った方向の曲げ強度はあるものの、これに比較して軸背面筐体の長手方向(4C−4C)の沿った方向の曲げ強度は、周囲の枠部分、隆起部稜線部分(図4Bの破線円内)のみで支えられているだけで中心部ほど弱い。
【0011】
次に、プレスフォーミング工法による背面筐体の製作手順について説明する。
【0012】
図5はプレスフォーミング工法による背面筐体の製作方法を説明する図である。図5において、マグネシウム合金の板状の素材51をブランクホルダー52とダイセット53の間に挟んで、ヒーター54によって加熱しながらパンチ55により押圧し成形する。
【0013】
ディスプレイ部の背面筐体24をプレスフォーミングによって隆起部を形成する際に稜線部分に材料歪が発生するため、隆起した平坦部が波状に変形する。特に、材料がマグネシウム合金である場合、材料の曲げによるクラックを防止するために200℃以上の高温でプレスフォーミングされることが一般的であるが、この時の熱膨張により材料の肉余り現象が発生し、隆起部分の平面が凹凸状に変形する。
【0014】
図5では、形状を説明するために寸法を誇張して背面筐体の断面図を示している。実際の段差は±0.5mm程であるが、不規則に表面が凹凸状に変形すると、外観上の見栄えが美しくないばかりではなく、凸状になった面は、少しの外力で凹状へ変化することから、面の張りが維持されることがなく、面強度が著しく低下する。
【0015】
図6は鋳造工法で成型した場合の成型物である背面筐体が冷えて収縮する過程を示した図である。背面筐体24を鋳型による鋳造工法で成型した場合には、図6のように、成型物が冷えて収縮する過程において収縮する割合が場所によって異なり、その影響で平坦部分では特に凹凸状の変形が著しい。
【0016】
図6でも、図5と同様に、形状を説明するために寸法を誇張して背面筐体の断面図を示している。実際の段差は±0.5mm程であるが、不規則に表面が凹凸状に変形すると、外観上の見栄えが美しくないばかりではなく、凸状になった面は、少しの外力で凹状へ変化することから、面の張りが維持されることがなく、面強度が著しく低下する。
【0017】
本発明では、ノートパソコン表示部外装の背面筐体において、外力に対してより高い耐久力を有し、軽量なノートパソコンの筐体を提供する。さらに、この背面筐体である金属成型部品作成時の成型性を悪化させることないノートパソコンの筐体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の携帯型情報処理装置の筐体は、ディスプレイ部と本体部とからなる携帯型情報処理装置の筐体である。ディスプレイ部を構成する背面筐体は、段差により凸状に隆起した隆起部と非隆起部とを有する。そして、隆起部と非隆起部の少なくともいずれか一方の面が円筒面状に湾曲し、段差の稜線は円筒面の側線に対して直角である。
【0019】
ノートパソコン表示部外装の背面筐体において、部分的に面を隆起させた自動車のボンネット構造とすることで、外圧による背面筐体幅方向の変形が抑えられ、さらに背面筐体長手方向の変形に対してもより強化することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明は、ノートパソコン表示部外装の背面筐体において、部分的に面を隆起させた自動車のボンネット構造とすることで、外圧による背面筐体幅方向の変形が抑えられ、さらに背面筐体長手方向の変形に対してもより強化することが可能となるという優れた効果が得られる。
【0021】
さらに、この背面筐体である金属成型部品作成時の成型性を悪化させることないノートパソコンの筐体構造を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図1Aから図2Cを用いて説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1Aは本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を開けた状態の斜視図である。図1Bは本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図である。図2Aは本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図である。図2Bは図2Aに示すノートパソコンのディスプレイ部を2B−2B軸で切断した場合の断面図である。図2Cは図2Aに示すノートパソコンのディスプレイ部を2C−2C軸で切断した場合の断面図である。
【0024】
図1Aから図2Cにおいて、ノートパソコンの情報処理部を内蔵する本体部11とノートパソコンの液晶表示装置を内蔵するディスプレイ部12とは、ヒンジ部13により開閉可能に結合されている。ディスプレイ部12には、携帯型情報処理装置の外装筐体を構成している背面筐体14と前面筐体15の間に液晶表示装置の構成部品である液晶ドライブ回路(図示せず)と液晶表示パネル16が配置されている。
【0025】
情報処理部は、その内部にCPU(図示せず)を備え、演算機能を有する。必要なデータを取り込み、その演算機能によりデータを加工する。加工されたデータは、液晶表示装置に送られる。液晶表示装置は、加工されたデータを画面上に表示する。通常、データはキーボードやマウスから取り込まれ、加工されたデータは液晶表示パネル16に文字や図形として表示される。なお、CPUが有用な演算機能を発揮できるよう、多様なアプリケーションソフトが用意されている。
【0026】
次に、以上のように構成されたノートパソコンの背面筐体14について説明する。
【0027】
図2Aに示すように、非隆起部分18を背面筐体の幅方向(2C−2C軸)に沿って背面筐体14内部に向かって実線矢印(図2A、図2Cの実線矢印)のように円筒面状に湾曲して形成する。すなわち、隆起部分17を生じさせる段差の稜線19は非隆起部18の円筒面の側線(図2Aの2B−2B軸と同じ)に対してほぼ垂直に交わるように形成する構造とする。
【0028】
このような構成により背面筐体14の幅方向の曲げ強度を保ちつつ、背面筐体14の長手方向の曲げ強度をより強化できる。
【0029】
なお、図2A、図2Cでは湾曲形状を誇張して表示している。実際はその曲率度合いは目視ではほとんど視認できない程度となっている。
【0030】
また、背面筐体をプレスフォーミング工法にて作成した場合の加工材料歪や、熱膨張による肉余り現象による歪が発生した場合でも、肉余り部分が、非隆起部18の平面部分をより凹になる方向で変形する。よって、非隆起部分18の平面部分が凸状になることはなく、常に安定して凹形状とすることが可能である。さらに、非隆起部分18に外力が加わっても、従来の単なる凹状にしたものと比べ、面の張りが維持され、面強度が確保できる。
【0031】
また、鋳造工法でも冷却過程で収縮して歪みが発生せず常に安定して凹形状とすることが可能である。
【0032】
以上のように本実施の形態のノートパソコン表示部外装の背面筐体14によれば、薄肉板材を用いて、部分的に面を隆起させて外圧による背面筐体幅方向(図2Aの2C−2C軸)の曲げ(反り)変形だけでなく、背面筐体長手方向(図2Aの2B−2B軸)の変形に対してもより強化することが可能となる。
【0033】
さらに、プレスフォーミング工法、鋳造工法での材料歪や熱膨張、冷却収縮による隆起面の凹凸を発生させずに安定した形状を提供することが可能となる。
【0034】
なお、図3A〜図3Cに示すような背面筐体14としても同様の効果が得られる。
【0035】
図3Aに示すように、非隆起部だけでなく隆起部分にも実線矢印ように筐体内部方向に円筒面状に湾曲させる。このような構成により、背面筐体長手方向の変形強度はいっそう増すので、隆起部分のプレスフォーミング工法、鋳造工法での材料歪や熱膨張、冷却収縮による凹凸を発生させず、面の張りを維持し、面強度が確保できる。なお、隆起部、非隆起部で分割された各面の曲率度合いは同じでも良いし、小さめにするなど異なっていても良い。
【0036】
図3Bに示すように、背面筐体のほぼ中央部を頂点としてドーム状に背面内部に凸状にすることで同様の効果が得られる。
【0037】
さらに、図3Cに示すように、隆起部分を実線矢印ように筐体内部方向に円筒面状の湾曲させることで同様の効果が得られる。
【0038】
なお、図3A〜図3Cにおいて、背面筐体の湾曲形状は誇張して表現されているが、実際の湾曲度合いは目視ではほとんど視認できない程度にしている。
【0039】
また、本実施の形態では、外装筐体の材料をマグネシウム合金としたが、これに限るものではなく、アルミニウム合金その他の薄肉の板状金属材料であれば何でもよい。
【0040】
本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体は、背面筐体において、部分的に面を隆起させた自動車のボンネット構造とすることで外圧による背面筐体幅方向の変形が抑えられる。さらに、背面筐体長手方向の変形に対してもより変形に対して強化が可能となるという効果を有し、携帯型情報処理装置の筐体等として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明にかかる携帯型情報処理装置の筐体は、表示部外装の背面筐体において、部分的に面を隆起させた自動車のボンネット構造とすることで、外圧による背面筐体幅方向の変形が抑えられ、さらに背面筐体長手方向の変形に対してもより強化することが可能となる効果が得られ、さらに、この背面筐体である金属成型部品作成時の成型性を悪化させることない筐体構造を提供することできるといった効果を有し、携帯型情報処理装置に関して、金属製の筐体、この筐体の製造方法およびこの筐体を使用した携帯型情報処理装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】A:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を開けた状態の斜視図、B:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図
【図2】A:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えたノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図、B:A図に示すノートパソコンのディスプレイ部を2B−2B軸で切断した場合の断面図、C:A図に示すノートパソコンのディスプレイ部を2C−2C軸で切断した場合の断面図
【図3】A:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えた別のノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図、B:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えた別のノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図、C:本発明に係る携帯型情報処理装置の筐体を備えた別のノートパソコンのディスプレイ部を閉めた状態の斜視図
【図4】A:従来のノートパソコンのディスプレイ部を閉じた状態の外観斜視図、B:A図に示すノートパソコンのディスプレイ部を4B−4B軸で切断した場合の断面図、C:A図に示すノートパソコンのディスプレイ部を4C−4C軸で切断した場合の断面図
【図5】プレスフォーミング工法による背面筐体の製作方法を説明する図
【図6】鋳造工法で成型した場合の成型物である背面筐体が冷えて収縮する過程を示した図
【符号の説明】
【0043】
11 本体部
12、22 ディスプレイ部
13 ヒンジ部
14、24 背面筐体
15、25 前面筐体
16、26 液晶表示パネル
17 隆起部分
18 非隆起部分
19 稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ部と本体部とからなる携帯型情報処理装置の筐体であって、
前記ディスプレイ部を構成する背面筐体は、
段差により凸状に隆起した隆起部と非隆起部とを有し、
前記隆起部と前記非隆起部の少なくともいずれか一方の面は円筒面状に湾曲し、前記段差の稜線は前記円筒面の側線に対して直角であることを特徴とする
携帯型情報処理装置の筐体。
【請求項2】
前記隆起部と前記非隆起部の少なくともいずれか一方の面の円筒面状の湾曲方向は前記背面筐体の内部に凸に湾曲していることを特徴とする
請求項1に記載の携帯型情報処理装置の筐体。
【請求項3】
ディスプレイ部と本体部とからなる携帯型情報処理装置の筐体であって、
前記ディスプレイ部を構成する背面筐体は、
前記背面筐体の中央部を頂点としてドーム状に湾曲して形成していることを特徴とする
携帯型情報処理装置の筐体。
【請求項4】
前記背面筐体のドーム状の湾曲方向は前記背面筐体の内部に凸に湾曲していることを特徴とする
請求項3に記載の携帯型情報処理装置の筐体。
【請求項5】
板状の金属材料を固定するステップと、
前記板状の金属材料を加熱しながら押圧して段差によって形成して隆起部分と非隆起部とを成形するステップと、
を備え、
前記隆起部と前記非隆起部の少なくともいずれか一方の面は円筒面状に湾曲し、前記段差の稜線は前記円筒面の側線に対して直角であるように前記隆起部分と非隆起部とを成形することを特徴とする筐体の製造方法。
【請求項6】
前記隆起部と前記非隆起部の少なくともいずれか一方の面の円筒面状の湾曲方向は前記背面筐体の内部に凸に湾曲するように成形することを特徴とする
請求項5に記載の筐体の製造方法。
【請求項7】
前記板状の金属材料はマグネシウム合金で構成されていることを特徴とする請求項5記載の筐体の製造方法。
【請求項8】
液晶表示パネルを含む液晶表示装置を内蔵するディスプレイ部と、
前記ディスプレイ部と回動可能に取り付けられ、前記ディスプレイ部に接続された情報処理部を内蔵する本体部と、
前記ディスプレイ部の液晶表示パネルが配置されている反対面を構成する背面筐体が、
段差により凸状に隆起した隆起部と非隆起部とを有し、
前記隆起部と前記非隆起部の少なくともいずれか一方の面は円筒面状に湾曲し、前記段差の稜線は前記円筒面の側線に対して直角である外装筐体と、
を備えたことを特徴とする
携帯型情報処理装置。
【請求項9】
液晶表示パネルを含む液晶表示装置を内蔵するディスプレイ部と、
前記ディスプレイ部と回動可能に取り付けられ、前記ディスプレイ部に接続された情報処理部を内蔵する本体部と、
前記ディスプレイ部の液晶表示パネルが配置されている反対面を構成する背面筐体が、
前記背面筐体の中央部を頂点としてドーム状に湾曲して形成している外装筐体と、
を備えたことを特徴とする
携帯型情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−293808(P2007−293808A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6686(P2007−6686)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】