説明

携帯式動物用超音波画像診断装置

【課題】携帯性及び操作性に優れるため、厩舎等の飼育現場において動物を診断する場合に好適な携帯式動物用超音波画像診断装置を提供すること。
【解決手段】この携帯式動物用超音波画像診断装置1は、超音波プローブ31、画像処理手段15、感度特性自動補正手段21を備えている。超音波プローブ31は、超音波を送信してその反射波を受信する超音波振動子32を備える。感度特性自動補正手段21は、異なる深さ位置の超音波反射強度または輝度の平均値を反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値の差を小さくする感度特性補正データを付加する。この付加により、深さ方向の感度特性が自動的に補正される。そして、画像処理手段は、感度特性自動補正手段21により補正された深さ方向の感度特性を考慮した演算を行い、超音波画像19aを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯式の動物用超音波画像診断装置に係り、特には感度特性の補正に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場においては各種の用途で超音波画像診断装置が使用される(例えば、特許文献1,2参照)。一般的な超音波画像診断装置は、表示装置、操作用スイッチ、画像処理装置などを有する装置本体を備えており、その装置本体には信号伝送ケーブルを介して超音波プローブが接続されている。超音波プローブはパルス駆動される超音波振動子を有している。この超音波振動子は検査対象である人間に超音波を送信した後にその反射波を受信し、取得した反射波信号を信号伝送ケーブルを介して装置本体側に出力するようになっている。装置本体内に設けられた画像処理装置は、反射波信号に基づいて所定の演算をして超音波画像を生成し、この超音波画像を表示装置が表示するようになっている。
【0003】
ところで、超音波は生体中の伝播経路が長くなるほど減衰が大きくなる。よって、生体の深い位置(即ち体表から遠い部位)で反射した反射波ほど減衰が大きく、微弱になる。そのため、体表近くの組織は画像として鮮明に表示できるものの、深い位置にある臓器は鮮明に表示できなくなるという不都合が生ずる。その一方で、超音波画像の画質向上に対するユーザー側の要求は年々高くなってきており、メーカー側としてもかかる要求を満たすことができる超音波画像診断装置の改良を進めている。このため、超音波画像の深さ位置に応じて反射波信号の信号処理を行って感度を調整する機構などを超音波画像診断装置に装備させることで、上記の不都合を解消させるようにしている。
【0004】
具体例を挙げると、超音波画像の深さ位置に対する感度調整用の操作部材として、超音波画像診断装置の操作部に複数のスライドスイッチを突設し、これらを適宜操作することで感度を選択可能としたものが従来提案されている。また、スライドスイッチに代わる操作部材としてダイヤルを突設したものも従来提案されている。
【特許文献1】特開2006−192030号公報
【特許文献2】特開2000−107176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の診断装置は、基本的に人間を対象として診断を行うためのものであるが、牛、豚、馬、犬、猫等の動物を対象として診断を行いたいという要求も近年強まりつつある。しかしながら、現状では動物用に特化した超音波画像診断装置はまだ具体的に実用化されておらず、人間用の超音波画像診断装置をそのまま流用せざるをえなかった。また、このような装置の流用には下記の問題があった。
【0006】
人間用の超音波画像診断装置は一般的に大型で重く据え置き式であるが、動物用の超音波画像診断装置の場合、例えば動物が飼育されている厩舎内において場所を何度も移動しながら診断を行うことが十分想定される。このため、実用性の高い装置とするためには可般式(携帯式)であることが望ましい。
【0007】
しかしながら、スライドスイッチやダイヤル等の操作部材は、比較的大きなスペースを占有するため、装置の小型化が達成しにくく、可般式(携帯式)の装置を実現するうえでマイナス要因となる。従って、このような操作部材を省略することが望まれている。
【0008】
また、厩舎等の飼育現場において、感度調整用の操作部材をいちいち操作して感度調整を行うことは煩雑であり、これが操作性を低下させる1つの原因となっている。しかも、たとえ感度を最適状態に設定できたとしても、装置本体の外表面にて操作部材が突出しているため、厩舎内での移動の際に操作部材がどこかに当たって設定が狂う可能性がある。勿論、このことは操作性の観点からするとマイナス要因である。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、携帯性及び操作性に優れるため、厩舎等の飼育現場において動物を診断する場合に好適な携帯式動物用超音波画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、検査対象である動物に超音波を送信してその反射波を受信する超音波振動子を設けた超音波プローブと、前記超音波プローブが受信した超音波の反射波信号に基づいて演算することにより超音波画像を生成する画像処理手段と、前記検査対象における異なる深さ位置の超音波反射強度または輝度の平均値を前記反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値の差を小さくする感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する感度特性自動補正手段とを備え、前記画像処理手段が、前記感度特性自動補正手段により補正された深さ方向の感度特性を考慮した演算を行い、前記超音波画像を生成することを特徴とする携帯式動物用超音波画像診断装置をその要旨とする。
【0011】
従って、請求項1に記載の発明によると、感度特性自動補正手段が感度特性補正データの付加を行って複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値の差を小さくする結果、深さ方向の感度特性が自動的に補正される。それゆえ、好適な画質が得られるにもかかわらず、感度調整用の操作部材を操作する作業が不要になり、従来に比べて操作性が向上する。また、不要になった感度調整用の操作部材を省略することで、装置の小型化が容易となり、携帯に適した大きさの装置を実現しやすくなる。しかも、この構成によると、一旦設定した感度特性に狂いが生じにくく、最適に調整された感度特性を維持することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記感度特性自動補正手段は、深さに応じて感度を変更した複数種類の感度特性補正データをあらかじめ記憶する感度特性補正データ記憶手段と、求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値に対し、前記複数種類の感度特性補正データをそれぞれ付加することにより、複数の補正平均反射強度値または複数の補正平均輝度値を算出する補正値算出手段と、算出された前記複数の補正平均反射強度値または前記複数の補正平均輝度値を比較し、前記複数の補正平均反射強度値または複数の補正平均輝度値の差が最も小さくなる1つの感度特性補正データを、補正に最適な感度特性補正データとして選択する最適補正データ選択手段とを備え、その選択された補正に最適な感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正することをその要旨とする。
【0013】
従って、請求項2に記載の発明によると、感度特性補正データ記憶手段が記憶している複数種類の感度特性補正データに基づき、補正値算出手段が複数の補正平均反射強度値または複数の補正平均輝度値を候補として算出する。この後、最適補正データ選択手段が最適な1つの感度特性補正データを選択する。そして、感度特性自動補正手段が、反射波信号に当該補正に最適な感度特性補正データを付加することによって、深さ方向の感度特性が自動的に補正される。
【発明の効果】
【0014】
以上詳述したように、請求項1,2に記載の発明によると、携帯性及び操作性に優れるため、厩舎等の飼育現場において動物を診断する場合に好適な携帯式動物用超音波画像診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態の携帯式動物用超音波画像診断装置1を示す概略正面図である。図2は、当該診断装置1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。図3,図4は、当該診断装置1の処理動作を説明するためのフローチャートである。図5は、異なる深さ位置において平均輝度値に差が生じることを示した補正処理前の超音波画像写真である。図6は、深さと平均輝度値との関係を示す補正前平均輝度値曲線を描いたグラフである。図7は、複数種類の感度特性補正曲線を示すグラフである。図8は、深さと平均輝度値との関係を示す補正前平均輝度値曲線と、補正後平均輝度値曲線とを描いたグラフである。
【0016】
図1に示されるように、この診断装置1は、大まかにいって、装置本体2と、超音波プローブ31と、それらを互いに接続する信号伝送ケーブル41とを備えている。
【0017】
装置本体2は、操作者が抱え持つことが可能な大きさの金属製または合成樹脂製のケースであって、具体的には縦寸法が約25cm〜30cm、横寸法が約15cm〜20cm、厚さ寸法が約5cm〜7cmの縦長形状を呈している。また、装置本体2の重さは1.5kg〜2.0kgであって比較的軽量なため、操作者が無理なく運ぶことが可能なものとなっている。
【0018】
図1に示されるように、装置本体2の前面2aにおける上半分の領域には、腹部の断層画像(超音波画像19a)を表示するための表示装置19が配置されている。表示装置19は、この他にプローブ種類、フォーカス情報、表示深度範囲、時刻などの諸情報を表示するように設定されていてもよい。好適な表示装置19としては、例えば、LCDやCRTなどのカラーディスプレイが挙げられる。勿論、カラーディスプレイに代えてモノクロディスプレイを使用することも可能である。装置本体2の前面2aにおいて表示装置19の下方領域には、ユーザーからの要求や指示を入力したり、各種パラメータを入力したり、電源をオンオフしたりする際に用いる入力装置16が配置されている。本実施形態の入力装置16は、凹凸が殆どないフラットタイプのプッシュスイッチ16aを複数個横一列に配置することにより構成されている。なお、同スイッチ16aの個数やレイアウトは限定されず、任意に変更することが可能である。
【0019】
図1,図2に示されるように、この超音波プローブ31は、操作者が把持しやすい大きさで略T字状に形成された部材であって、その先端部には超音波振動子32を複数個直線的に配列してなる振動子群が設けられている。超音波プローブ31は、その先端部を検査対象A1である動物の腹部に接触させるようにして配置され、この状態で超音波の送受信を行うようになっている。本実施形態の超音波プローブ31は、リニア式電子走査を行うためのリニアプローブであり、3.5MHzの超音波を直線状に走査する。なお、リニアプローブに代えて、超音波振動子32を複数個扇状に配列してなるコンベックスプローブを使用してもよい。コンベックスプローブを用いた場合には、視野の広い画像を得ることができる。
【0020】
本実施形態の信号伝送ケーブル41は、超音波プローブ31と装置本体2との間を接続しており、数十本の電線を可撓性樹脂層で被覆した構造を有している。この信号伝送ケーブル41は、超音波振動子32を駆動するためのパルス信号を装置本体2側から超音波プローブ31側へ伝送したり、超音波振動子32が取得した反射波信号を超音波プローブ31側から装置本体2側へ伝送したりする際の経路となる。
【0021】
図1,図2に示されるように、本実施形態の信号伝送ケーブル41は、非カールコード部42,44及びカールコード部43の両方を含んで構成されている。メイン非カールコード部42は、螺旋状に巻かれていない、いわゆるストレートコード状となっていて、超音波プローブ31から延びるようにその基端部に対して接続されている。メイン非カールコード部42は、屈曲可能である一方で伸縮不能に形成されている。メイン非カールコード部42よりも装置本体2に近い側には、メイン非カールコード部42に連続してカールコード部43が設けられている。このカールコード部43は、直径30mm程度の螺旋状に巻かれており、それゆえ屈曲可能かつ伸縮可能となっている。カールコード部43よりも装置本体2に近い側には、カールコード部43に連続してサブ非カールコード部44が設けられている。サブ非カールコード部44は、メイン非カールコード部42の長さ(本実施形態では約30cm)と比べて十分短く、数分の1程度の長さ(本実施形態では約7cm)となっている。そして、このサブ非カールコード部44の基端部(つまり信号伝送ケーブル41の基端部)は、装置本体2の背面上部領域に接続固定されている。
【0022】
図2に示されるように、装置本体2の内部には図示しない回路基板が収容されており、その回路基板上には、コントローラ10、パルス発生回路11、送信回路12、受信回路13、信号処理回路14、画像処理回路15、メモリ17、記憶装置18、感度特性自動補正回路21が配置されている。また、装置本体2の内部における下部領域には、各回路に電源を供給するための図示しないバッテリが収容されている。
【0023】
コントローラ10は、周知の中央処理装置(CPU)を含んで構成されたマイクロコンピュータであり、メモリ17を利用して制御プログラムを実行し、本装置全体を統括的に制御する。制御プログラムとしては、各種測定のためのプログラムや断層画像(超音波画像19a)を表示するためのプログラムなどが含まれる。パルス発生回路11は、コントローラ10からの制御信号に応答して動作し、所定周期のパルス信号を生成して送信回路12に出力する。
【0024】
送信回路12は、超音波プローブ31における超音波振動子32の素子数に対応した複数の遅延回路(図示略)を含んで構成されている。送信回路12は、パルス発生回路11から出力されたパルス信号に基づき、各超音波振動子32に応じて遅延させた駆動パルスを出力する。各駆動パルスの遅延時間は、超音波プローブ31から出力される超音波が所定の照射点で焦点を結ぶように設定されている。
【0025】
受信回路13は、図示しない信号増幅回路、遅延回路、整相加算回路を含む。この受信回路13では、超音波プローブ31における各超音波振動子32で受信された各反射波信号(エコー信号)が増幅されるとともに、受信指向性を考慮した遅延時間が各反射波信号に付加された後、整相加算される。この加算によって、各超音波振動子32の受信信号の位相差が調整される。
【0026】
信号処理回路14は、図示しない対数変換回路、包絡線検波回路、A/D変換回路などから構成されている。信号処理回路14における対数変換回路は反射波信号を対数変換し、包絡線検波回路は対数変換回路の出力信号の包絡線を検波する。また、A/D変換回路は、包絡線検波回路から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0027】
感度特性自動補正回路21は、信号処理回路14と画像処理回路15との間に設けられていて、画像処理を行う前に前記デジタル信号の処理を行ってあらかじめ感度特性を自動的に補正し、その補正された信号を画像処理回路15に出力する。特に本実施形態の感度特性自動補正回路21は、感度特性補正データ記憶回路22、補正値算出回路23及び最適補正データ選択回路24を含んで構成されている。
【0028】
感度特性補正データ記憶回路22は、いわゆるRAMのようなメモリであって、深さに応じて感度を変更した複数種類の感度特性補正データをあらかじめ記憶しておく役割を果たす。このようなデータとして、本実施形態では図7のグラフに示したような複数種類の感度特性補正曲線D1,D2,D3,D4を記憶している。説明の便宜上、このグラフには4種類の曲線が示されているが、感度特性補正データ記憶回路22には、より多くの曲線を記憶させておくことができる。なお、感度特性補正データ記憶回路22として割り当てられたメモリには、検査対象A1における異なる深さ位置の平均輝度値を演算で求めた結果(図5の超音波画像、図6のグラフを参照)などが、一時的に記憶されてもよい。同様に、感度特性自動補正回路21が、例えばCPUを含んで構成されたものである場合には、そのための制御プログラムを記憶させておくこともできる。
【0029】
補正値算出回路23は、求められた複数の平均輝度値に対し、前記複数種類の感度特性補正データ(即ち、感度特性補正曲線D1〜D4)をそれぞれ付加することにより、複数の補正平均輝度値を算出する役割を果たす。ここで算出される結果は、補正に最適な感度特性補正データを選択する際の判断材料となる。ちなみに、感度特性補正曲線D1〜D4は、体表からの深さ(cm)と感度(倍率)との関係を規定した曲線である(図7参照)。例えば、D1とD4とを比較すると、いずれも深い位置になるほど感度が高くなるように設定されているが、D4のほうが増感の度合いが大きいことになる。
【0030】
最適補正データ選択回路24は、算出された複数の補正平均輝度値を比較し、複数の補正平均輝度値の差が最も小さくなる1つの感度特性補正データを、補正に最適な感度特性補正データとして選択する。具体的には、感度特性補正曲線D1〜D4のうちから1つを選択する。
【0031】
このように補正に最適な感度特性補正データが1つ選択されると、感度特性自動補正回路21は、デジタル化された反射波信号に当該感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する。
【0032】
画像処理回路15は、感度特性自動補正回路21が出力した補正後のデジタル信号に基づいて、画像処理を行い断層画像(Bモード画像)の画像データを生成する。具体的には、画像処理回路15は、輝度変調処理を行うことで、反射波信号の振幅(信号強度)に応じた輝度の超音波画像データを生成する。画像処理回路15で生成された超音波画像データは逐次メモリ17に記憶される。そして、そのメモリ17に記憶された1フレーム分の超音波画像データに基づいて、断層画像(超音波画像19a)が白黒の濃淡で表示装置19上にて二次元的に表示される。
【0033】
記憶装置18は、例えば磁気ディスク装置や光ディスク装置などであり、その記憶装置18には制御プログラム及び各種のデータが記憶されている。コントローラ10は、入力装置16による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置18からメモリ17へ転送し、それを逐次実行する。なお、コントローラ10が実行するプログラムとしては、メモリカード、フレキシブルディスク、光ディスクなどの記憶媒体に記憶されたプログラムや、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよく、その実行時には記憶装置18にインストールして利用する。
【0034】
次に、この診断装置1の処理動作を図3,図4のフローチャートを用いて説明する。なお、当該処理は、操作者が検査対象A1である動物の検査部位(例えば妊娠診断であれば腹部)に超音波プローブ31を接触させ、入力装置16を構成するスタートスイッチを操作したときに開始される。
【0035】
まず、コントローラ10は、パルス発生回路11を動作させ、超音波プローブ31による超音波の送受信を開始させる(ステップS100)。具体的には、コントローラ10から出力される制御信号に応答してパルス発生回路11が動作し、所定周期のパルス信号が送信回路12に供給される。そして、送信回路12では、パルス信号に基づいて、各超音波振動子32に対応した遅延時間を有する駆動パルスが生成され、この駆動パルス信号が信号伝送ケーブル41を経由して超音波プローブ31に供給される。これにより、超音波プローブ31の各超音波振動子32が振動し、そこで発生した超音波が検査対象に向けて照射される。検査対象内を伝搬する超音波の一部は、音響インピーダンスの異なる組織境界面などで反射して超音波プローブ31で受信される。このとき、超音波プローブ31の各超音波振動子32によって反射波が電気信号(反射波信号)に変換される。そして、その反射波信号は、信号伝送ケーブル41を経由して受信回路13に到達し、そこで増幅等された後、信号処理回路14に入力される。
【0036】
次に、反射波信号を受信した信号処理回路14では、対数変換、包絡線検波、A/D変換といった所定の信号処理が行われ、デジタル信号に変換された反射波信号が感度特性自動補正回路21に供給される(ステップS110)。
【0037】
次に、感度特性自動補正回路21では、入力したデジタル信号に対する所定の感度特性自動補正処理を行ってあらかじめ感度特性を補正し、その補正された信号を画像処理回路15に出力する(ステップS120)。
【0038】
具体的には図4のフローチャートに示すような処理が順次実行される。
【0039】
まず、ステップS121では、検査対象A1である動物における異なる深さ位置の平均輝度値を、デジタル化された反射波信号に基づいて、それぞれ演算により求める。図5の超音波画像には異なる深さ位置(1〜6cm)の平均輝度値を演算で求めた値が示されており、浅い位置から順に58、56、52、50、20、12となっている。図6のグラフは、それらの値をプロットして線分で結んだものであって、深さと平均輝度値との関係を示す補正前平均輝度値曲線C11となっている。
【0040】
続くステップS122では、求められた平均輝度値に対し、複数種類の感度特性補正データ(感度特性補正曲線D1〜D4)をそれぞれ付加する(ここでは乗算する)ことにより、複数の補正平均輝度値を算出する。ここでは、感度特性補正曲線D1〜D4が4種類あるので、4種類の補正平均輝度値曲線(図示略)が得られることになる。
【0041】
続くステップS123では、算出された前記複数の補正平均輝度値曲線を比較する。その際、複数の深さ位置における補正平均輝度値の大小(即ち最大値と最小値との差)を判断要素とする。
【0042】
そしてステップS124では、前ステップで行った比較の結果に基づいて、複数の補正平均輝度値の差が最も小さくなる1つの感度特性補正データを、補正に最適な感度特性補正データとして選択する。
【0043】
続くステップS125では、その選択された補正に最適な感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する。図8には、このような処理を経て得られた補正後平均輝度値曲線C21が示されている。
【0044】
次に、画像処理回路15では、その反射波信号に基づいて、断層画像(超音波画像19a)の超音波画像データを生成するための画像処理が行われる。そして、画像取得手段としてのコントローラ10は、画像処理回路15で生成された超音波画像データをメモリ17に一旦記憶する(ステップS130)。
【0045】
次に、コントローラ10は、超音波画像データを表示装置19に転送して、断層画像(超音波画像19a)を表示装置19に表示させ(ステップS140)、図3の処理を終了する。
【0046】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0047】
(1)この診断装置1は、操作者が抱え持つことが可能な大きさ、形状、重さであることから、据え置き式ではなく携帯式(ハンディタイプ)となっている。そのため、厩舎等の飼育現場において診断装置1を持って移動するような用途に適したものとなり、このような用途での実用性が向上する。
【0048】
(2)この診断装置1では、感度特性自動補正回路21が感度特性補正データの付加を行って複数の平均輝度値の差を小さくする結果、深さ方向の感度特性が自動的に補正される。それゆえ、超音波画像19aについて好適な画質が得られるにもかかわらず、感度調整用の操作部材を操作する作業が不要になり、従来に比べて操作性が向上する。従って、厩舎等の飼育現場において動物を診断する場合に好適な携帯式動物用超音波画像診断装置1を提供することができる。
【0049】
(3)また、不要になった感度調整用の操作部材を省略することで、装置の小型化が容易となり、携帯に適した大きさの装置を比較的容易に実現できるようになる。しかも、操作部材を省略した構成によると、一旦設定した感度特性に狂いが生じにくく、最適に調整された感度特性を維持することができる。
【0050】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、深さ位置に関係なく平均輝度値が50〜60のレベルになるように、言い換えると全ての平均輝度値が一様になるように、感度特性の補正を行っていた。しかし、感度特性自動補正処理は上記実施形態のようなものに限定されず、任意に変更することが可能である。即ち、全ての平均輝度値を一様にしなくてもよく、操作者が見て感覚的にわかりやすいような態様となるならば、それに合わせて感度特性の補正を行うようにしてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、信号処理回路14と画像処理回路15との間に介在された感度特性自動補正回路21を用いて感度特性の自動補正を行わせたが、これとは別の回路により同様のことを行わせてもよい。例えば、コントローラ10中のCPU、メモリ17、記憶装置18などを用いて、同様のことを行うことも一応可能である。ただし、本実施形態の構成のほうが、反射波信号の処理を瞬時に行える点で好ましい。
【0053】
・上記実施形態に例示した感度特性自動補正手段21では、検査対象A1における異なる深さ位置の輝度の平均値を反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均輝度値の差を小さくする感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正するようにしていた。この方法に代えて、異なる深さ位置の超音波反射強度を反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均反射強度値の差を小さくする感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正するようにしてもよい。
【0054】
・上記実施形態に例示した感度特性自動補正手段21では、求められた平均輝度値に対し、複数種類の感度特性補正曲線D1〜D4をそれぞれ乗算することにより、複数の補正平均輝度値を算出するようにしていた。このような補正を行うとともに、平均輝度値に対し感度特性補正データを加算または減算するような補正を併せて行うようにしてもよい。このような補正を行うと、平均輝度値曲線が全体的に図8のグラフのY軸方向にオフセットされるため、操作者が見て感覚的にわかりやすい態様を採りやすくなる。
【0055】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0056】
(1)検査対象である動物に超音波を送信してその反射波を受信する超音波振動子を設けた超音波プローブと、前記超音波プローブが受信した超音波の反射波信号をデジタル化する信号処理手段と、デジタル化された反射波信号に基づいて演算することにより超音波画像を生成する画像処理手段と、前記信号処理手段と前記画像処理手段との間に介在され、前記検査対象における異なる深さ位置の超音波反射強度または輝度の平均値をデジタル化された反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値の差を小さくする感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する感度特性自動補正手段とを備え、前記画像処理手段が、前記感度特性自動補正手段により補正された深さ方向の感度特性を考慮した演算を行い、前記超音波画像を生成することを特徴とする携帯式動物用超音波画像診断装置。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の携帯式動物用超音波画像診断装置を示す概略正面図。
【図2】同診断装置の電気的構成を概略的に示すブロック図。
【図3】同診断装置の処理動作を説明するためのフローチャート。
【図4】同診断装置の処理動作を説明するためのフローチャート。
【図5】異なる深さ位置において平均輝度値に差が生じることを示した補正処理前の超音波画像写真。
【図6】深さと平均輝度値との関係を示す補正前平均輝度値曲線を描いたグラフ。
【図7】複数種類の感度特性補正曲線を示すグラフ。
【図8】深さと平均輝度値との関係を示す補正前平均輝度値曲線と、補正後平均輝度値曲線とを描いたグラフ。
【符号の説明】
【0058】
1…携帯式動物用超音波画像診断装置
15…画像処理手段としての画像処理回路
19a…超音波画像
21…感度特性自動補正手段としての感度特性自動補正回路
22…感度特性補正データ記憶手段としての感度特性補正データ記憶回路
23…補正値算出手段としての補正値算出回路
24…最適補正データ選択手段としての最適補正データ選択回路
31…超音波プローブ
32…超音波振動子
A1…検査対象である動物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である動物に超音波を送信してその反射波を受信する超音波振動子を設けた超音波プローブと、
前記超音波プローブが受信した超音波の反射波信号に基づいて演算することにより超音波画像を生成する画像処理手段と、
前記検査対象における異なる深さ位置の超音波反射強度または輝度の平均値を前記反射波信号に基づいてそれぞれ演算により求め、その求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値の差を小さくする感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する感度特性自動補正手段と
を備え、
前記画像処理手段が、前記感度特性自動補正手段により補正された深さ方向の感度特性を考慮した演算を行い、前記超音波画像を生成する
ことを特徴とする携帯式動物用超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記感度特性自動補正手段は、
深さに応じて感度を変更した複数種類の感度特性補正データをあらかじめ記憶する感度特性補正データ記憶手段と、
求められた複数の平均反射強度値または複数の平均輝度値に対し、前記複数種類の感度特性補正データをそれぞれ付加することにより、複数の補正平均反射強度値または複数の補正平均輝度値を算出する補正値算出手段と、
算出された前記複数の補正平均反射強度値または前記複数の補正平均輝度値を比較し、前記複数の補正平均反射強度値または複数の補正平均輝度値の差が最も小さくなる1つの感度特性補正データを、補正に最適な感度特性補正データとして選択する最適補正データ選択手段と
を備え、その選択された補正に最適な感度特性補正データを付加することにより、深さ方向の感度特性を自動的に補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯式動物用超音波画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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