説明

携帯機器の外装部材

【課題】屋外でも黒色の品質を維持または増進し易い外装部材を提供する。
【解決手段】携帯機器の外装部材30であり、少なくとも表面が黒色の黒色基体31と、黒色基体31の少なくとも外側表面を覆うと共に、光を透過可能な透光層32からなり、透光層32はフォトクロミック染料を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話に代表される携帯通信端末やデジタルカメラなどの携帯機器に用いられる黒色の外装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラなどの外装部材には、軽量であることが求められることから、一般にアルミ素材やプラスチック素材が用いられる場合が多い。外装部材は、顔料あるいは染料を混ぜて着色されたプラスチック素材を射出成形によって形成される場合が多いが、近年では、塗装技術などを用いた表面仕上げ加工が施される場合も多い。塗装技術は、金属素材に限らず様々な素材の表面に塗料の皮膜を形成する技術であり、基材の色や質感にかかわらず、塗料による多彩な色彩を強調した鮮やかな仕上げを実現することができる。
【0003】
携帯機器の外装部材に使用される色は様々であり、その年の流行色が人気を呈することもある。一方、黒色は流行や年齢に関係なく高級感を与える色として一定の人気がある。特に、高級機種にはよく使われる色である。黒色はアルマイト処理等のように塗装技術以外の技術によっても付されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
一般に、塗装技術に用いられる塗料は、時間の経過や周囲の環境の変化などにかかわらず、同一の色調を維持することが前提とされているが、このような固定的な色調を呈する顔料や染料とは別に、周囲の温度などの環境によって色調が変化する染料や顔料も知られている。
【0005】
紫外線の照射に応じて固有の着色を呈し、紫外線からの遮蔽により無色を呈するフォトクロミック染料は、このような特徴をもつ染料の一つであり、従来から調光眼鏡レンズなどに利用されている(下記特許文献2参照)。
【0006】
フォトクロミック染料が紫外線の照射に応じて固有の着色を呈する仕組みは、フォトクロミック染料分子が紫外線のエネルギーを吸収して、可視光領域に吸収帯を持つ分子構造へと可逆的に変化する性質によるものである。なお、この分子構造の可逆変化を繰り返すことで、可逆変化時に生じる副反応によりフォトクロミック染料分子が少しずつ失われることも知られている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−256993号公報
【特許文献2】特開平10−10301号公報
【非特許文献1】市村國宏著、「光機能化学」、産業図書株式会社刊、「第4節フォトクロミズムの評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、携帯機器は屋内でも屋外でも使用されるが、黒色を呈する外観の場合、同じ黒色であっても、屋内で見る黒色と屋外で見る黒色とでは外観品質が異なり易く、屋外では、太陽光の表面反射によって白みを帯びて見えてしまっていた。そのため、せっかく高級感のある黒色でも屋外ではその高級感が失われていた。
【0008】
そこで、この発明は、屋外でも黒色の品質を維持または増進し易い携帯機器の外装部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく、この発明は、携帯機器の外装部材であって、少なくとも表面が黒色の黒色基体と、前記黒色基体の少なくとも外側表面を覆うと共に、光を透過可能な透光層からなり、前記透光層はフォトクロミック染料を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、黒色基体の外側表面を覆う透光層がフォトクロミック染料を含有するので、太陽光が照射されると、紫外線によりフォトクロミック染料が励起されて、透光層内で可視光が吸収される状態に変化する。そのため、外部から照射される可視光が黒色基体の表面で吸収されるのに加え、フォトクロミック染料によっても吸収されるので、太陽光が照射されないときに比べて、外装部材から反射される可視光を減少させることができ、より濃度の高い黒色を実現することが可能である。
【0011】
即ち、屋内では、黒色基体の黒色が視認されることで外観品質を確保でき、屋外では、表面の散乱光により白みを帯びる現象を、フォトクロミック染料により濃度の高い黒色を実現することで相殺でき、黒色の品質を維持または増進することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[発明の実施の形態1]
【0014】
この発明において、携帯機器とは、例えば、携帯電話、デジタルカメラ等のカメラ、ノートパソコン、これに付属する無線LANアダプタ、カードリーダ等の付属機器、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機器など、携帯して使用されるため、例えば、屋外と屋内のように、受ける光が使用環境により変化し易い機器である。また、外装部材とは、各種の携帯機器の外表面を構成するための部材であり、例えば、ボディ部材、筐体、カバー部材等である。この実施の形態では、図1及び図2に示すボディ部材30の例について説明する。
【0015】
このボディ部材30は、内部に配置される収容部品Xを保護して外観を構成する部品であり、黒色基体31と、黒色基体31の外側表面を覆い、光が透過可能な透光層32と、
透光層32の外側表面に、透光層32より硬質で、光を透過可能な保護層35とを備える。
【0016】
黒色基体31は、この実施の形態1では、黒色を呈する成形材料の成形体からなる。成形材料は、例えば、ポリカーボネート等の樹脂と、カーボンブラック等の黒色顔料の混合物など、成形可能な各種の材料を適宜選択可能である。この黒色基体31は、ボディ部材30全体が成形材料のみから成形されたものであっても、金属等からなる基体の外表面に一体に成形されたものであってもよい。
【0017】
このような黒色基体31の黒色は、光沢を有する黒色、即ち、漆黒であるのが好適である。艶消しの黒色に比べて、太陽光が照射された際に白みを帯び易く、黒色の濃度を高くすることで得られる効果が大きいからである。
【0018】
一方、透光層32は、透明材料にフォトクロミック染料を混合した混合物からなる。透明材料は、可視光及びフォトクロミック染料を励起させる波長域の紫外線が透過可能な透明性を有する材料であり、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂等を好適に用いることができる。
【0019】
透光層32に用いるフォトクロミック染料は、所定の波長域の紫外線が照射されることで励起され、可視光が吸収される状態に変化し、特定の波長域を吸収する作用を奏する材料である。ここでは、紫外線により励起された状態において、可視光領域内に互いに異なる2種以上の中心波長の吸収帯を有するものを用いてもよい。太陽光が照射された際に、可視光領域のより広い範囲の紫外線を吸収し易く、より高い濃度の黒色を実現し易いからである。
【0020】
このフォトクロミック染料は、波長が短くてエネルギーの大きな紫外線が照射されることで分子構造が変化して光の吸収作用が低下し易い。そのため、透明材料としては、フォトクロミック染料を励起できる範囲で紫外線を吸収可能な構成とするのが好ましく、例えば、紫外線を吸収し易い透明材料を選択したり、フォトクロミック染料が励起可能な範囲で紫外線を吸収可能なベンゾ卜リアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒドロキシフエニルトリアジン系等の紫外線吸収剤を含有させたものを用いるのがよい。また、紫外線を吸収し易い透明材料に紫外線吸収剤を混合して使用することも可能である。
【0021】
紫外線吸収剤を使用する場合、例えば、図3の曲線Aに示すような波長350nm付近に吸収帯の中心波長を有するフォトクロミック染料に対して用いる紫外線吸収剤としては、TINUVIN 479、TINUVIN 477(何れも、CIBA社製、商標)などが挙げられる。
【0022】
TINUVIN 479は、曲線Bに示すように、波長380nm付近から吸光度が徐々に上がり波長322nmで最大吸光度を示すという紫外線吸収特性を有する。また、TINUVIN 477は、曲線Cに示すように、波長400nm付近から吸光度が徐々に上がり波長356nmで最大吸光度を示し、それより短波長域では吸光度は下がるという紫外線吸収特性を有する。
【0023】
このような紫外線吸収剤がフォトクロミック染料と共に透明材料に混合して分散されていると、何れであってもフォトクロミック染料が励起される波長域の紫外線を到達させつつ、紫外線によるフォトクロミック染料の過剰な消耗を抑制することができる。
【0024】
曲線Bに示すような紫外線吸収特性を有する紫外線吸収剤では、フォトクロミック染料の励起に必要とする波長をある程度カットするものの、励起に寄与しないより波長が短くエネルギーの大きい紫外線を吸収することができる。そのため、フォトクロミック染料にこのような紫外線吸収剤を含有させた場合には、紫外線吸収剤を含有しない場合に比べて着色濃度は下がるものの、波長が短くエネルギーの大きい紫外線による劣化を大幅に抑えるので耐久性を確保できると同時に、可視光の吸収を効率よく行なえるという特徴がある。
【0025】
一方、曲線Cに示すような紫外線吸収特性を有する紫外線吸収剤では、紫外線吸収剤により吸収される波長域に、フォトクロミック染料を励起させる波長域が含まれている。この場合、透明材料中に、フォトクロミック染料と紫外線吸収剤とがどちらも分散した状態で存在しているため、フォトクロミック染料を励起させる波長域の紫外線の全てが紫外線吸収剤に吸収されることはなく、一部は紫外線吸収剤に吸収されるものの、残りの紫外線はフォトクロミック染料に吸収されるので、可視光の吸収作用が実現する。ただし、励起に寄与しない波長が短くエネルギーの大きな紫外線の吸収能力は低下しているため、フォトクロミック染料の消耗がやや大きくなるという特徴がある。
【0026】
透光層32には、他の成分を添加することが可能であり、例えば、透明材料や紫外線吸収剤に応じてヒンダードアミン系又はヒンダードフェノール系の光安定剤を含有させることができる。
【0027】
透光層32の厚さは、室内で透光層32を透過して視認される黒色基体31の黒色の優れた外観品質が確保できる範囲であって、屋外で可視光の吸収により十分に黒色の濃度を向上できる範囲とするのが好ましい。
【0028】
次に、ボディ部材30の製造方法について説明する。
【0029】
図4のフローチャートに示すように、まず、射出成形等の適宜な成形方法を用いて黒色に着色された樹脂の成形体からなる黒色基体31を作製する(S101)。この黒色基体31は漆黒にするのが好ましい。
【0030】
クリアーベースコートに使用するシンナーに、所望のフォトクロミック染料を例えば1重量%添加して攪拌することで、フォトクロミック染料を溶解させた後(S102)、クリアーベース塗料に添加して十分に攪拌することでフォトクロミック透明塗料を調合する(S103)。
【0031】
黒色基体31の表面にフォトクロミック透明染料をコーティングして透光層32を形成する(S104)。コーティング方法は、スプレー塗装・浸漬引き上げ法・フローテイング法など、適宜な方法を用いて行うことができる。コーティング後に、この黒色基体31を熱循環式加熱炉等に入れて加熱処理することにより(S105)、透光層32を硬化させる。得られる透光層32の厚さは、10μm以上30μm以下とすることができる。
【0032】
クリアーコートに使用するシンナーに、ヒンダードアミン系の光安定剤(HALS)と、紫外線吸収剤とを溶解し(S106)、クリアー樹脂固形分に対して例えば1重量%となるように添加して攪拌することで、光安定剤と紫外線吸収剤とを溶解させたクリアー塗料を調合する(S107)。
【0033】
作製されたクリアー塗料を透光層32の表面にコーティングして保護層35を形成し(S108)、コーティング後に熱循環式加熱炉に入れて加熱処理することにより、保護層35を硬化させる(S109)。これにより厚さ10〜20μmの保護層35を形成し、ボディ部材30を製造する。
【0034】
次に、このように製造されたボディ部材30の使用方法について説明する。
【0035】
このボディ部10は、図1に示すように、内部に収容部品Xを収容した状態で、携帯機器の外観を構成する外装部材として使用される。
【0036】
携帯機器を屋内の太陽光が照射されない状態で使用すると、透光層32のフォトクロミック染料が励起される波長域の紫外線が少ないので、透光層32を透過して黒色基体31の表面の黒色が外部から視認され、漆黒の外観が得られる。
【0037】
一方、携帯機器を屋外の太陽光が照射される状態で使用すると、フォトクロミック染料が励起される波長域の紫外線が多いため、フォトクロミック染料は透光層15内で可視光が吸収される状態に変化する。そのため、照射された可視光領域の光は黒色基体31の表面で吸収されるのに加え、透光層15内のフォトクロミック染料でも吸収される。これにより、透過層15内へ進入した可視光のうちのボディ部材30から反射される光が減少し、黒色の濃度が高くなる。このとき、ボディ部材30には、屋内に比べて強い光が照射されているので、表面の乱反射により外観が白みを帯びる現象が強くなるが、屋内に比べて黒色の濃度が高くなるため相殺され、十分に漆黒の外観が得られ、黒色の品質を維持または増進できる。
【0038】
以上のようなボディ部材30によれば、黒色基体31の外側表面を覆う透光層32がフォトクロミック染料を含有するので、屋内では、黒色基体31の黒色が視認されることで外観品質を確保でき、屋外では、表面の散乱光により白みを帯びる現象を、フォトクロミック染料により濃度の高い黒色を実現することで相殺でき、黒色の品質を維持または増進することが可能である。
【0039】
特に、ボディ部材30の外観が漆黒のように光沢を有する黒の場合、屋外で表面の散乱光により白みを帯びる現象が生じ易いため、効果が顕著である。
【0040】
また、黒色基体31が黒色の成形材料により成形されているので、成形と同時に基体に黒色を付すことができ、黒色を付すための手間を省くことができ、製造を容易にできる。
【0041】
更に、透光層32に含有されるフォトクロミック染料が、紫外線により励起された状態において、可視光領域内に互いに異なる2種以上の中心波長の吸収帯を有すれば、外部から照射される可視光の広い範囲の波長の光を透光層32により吸収することができ、より濃度の高い黒色を得やすい。
【0042】
また、このボディ部材30では、紫外線吸収剤が用いられているので、過剰な紫外線によりフォトクロミック染料の分子構造が不可逆的に変化することを抑制でき、フォトクロミック染料の耐久性を確保し易い。
【0043】
特に、紫外線吸収剤がフォトクロミック染料を励起する波長域の中心波長より短い波長で最大吸光度を示すものであれば、励起に寄与し難くてエネルギーの大きな紫外線をより多く吸収することができ、フォトクロミック染料の劣化を大幅に抑え易くて耐久性を確保し易い。
【0044】
[発明の実施の形態2]
【0045】
図5及び図6は、この発明の実施の形態2を示す。
【0046】
この実施の形態2のボディ部材40は、黒色基体31の構成が異なる他は、実施の形態1と同様である。
【0047】
この黒色基体31は、基体本体43と、基体本体43の外側表面に設けられた黒色被膜44とを備えている。基体本体43は、樹脂、金属、ガラス、セラミックス等適宜選択可能である。
【0048】
このようなボディ部材40を製造するには、図6のフローチャートに示すように、まず、射出成形等の適宜な成形方法を用いて、黒色に着色されていない樹脂の成形体からなる基体本体33を作製する(S201)。これとは別に、黒色顔料又は染料が含有された黒色塗料を調合する(S202)。
【0049】
基体本体33の表面に黒色塗料をコーティングして黒色被膜34を形成する(S203)。コーティング方法は、スプレー塗装・浸漬引き上げ法・フローテイング法など、適宜な方法を用いて行うことができる。コーティング後に、この黒色基体31を熱循環式加熱炉等に入れて加熱処理することにより、透光層32を硬化させて黒色基体31を作製する(S204)。得られる透光層32の厚さは、10μm以上30μm以下とすることができる。
【0050】
クリアーベースコートに使用するシンナーに、所望のフォトクロミック染料を、例えば1重量%添加して攪拌することで、フォトクロミック染料を溶解させた後(S205)、クリアーベース塗料に添加して十分に攪拌することでフォトクロミック透明塗料を調合する(S206)。
【0051】
黒色基体31の表面にフォトクロミック透明塗料をコーティングして透光層32を形成する(S207)。コーティング方法は、スプレー塗装・浸漬引き上げ法・フローテイング法など、適宜な方法を用いて行うことができる。その後に、この黒色基体31を熱循環式加熱炉等に入れて加熱処理することにより(S208)、透光層32を硬化させる。得られる透光層32の厚さは、20μm以上30μm以下とすることができる。
【0052】
このようにして透光層32を作製した後は、発明の実施の形態1と同様にすればよく、各工程S205〜S212は、それぞれ発明の実施の形態1の各工程S102〜S109と同様である。これによりボディ部材40を製造することができる。
【0053】
このように黒色基体31を、黒色に着色されていない樹脂の成形体からなる基体本体33と黒色被膜44とにより構成しても、発明の実施の形態1と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0054】
特に、基体本体33を黒色に着色せず、黒色被膜34を黒色に着色するので、基材本体33の選択の自由度を大きくでき、また、黒色に着色するための顔料や染料の使用量を少なく抑えて漆黒を実現することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例について説明する。
【0056】
[実施例1、2]
【0057】
発明の実施の形態1、2で説明した製造方法により、黒色の成形体からなる黒色基体31を備えた図2に示すボディ部材30と(実施例1)、基体本体33と黒色被膜34とを備えた図5に示すボディ部材40と(実施例2)を、同一形状に製造した。
【0058】
その際、黒色成分を除く黒色基体31の構成成分と、基体本体33の構成成分とを、ポリカーボネートを用いた同一成分とすると共に、黒色基体31の黒色成分と黒色被膜34の黒色成分とをカーボンブラックを用いた同一成分とし、その量を異ならせることで、黒色基体31と黒色被膜34との分光反射率を同一にした。その他は、全く同一に行った。
【0059】
[比較例]
【0060】
実施例1、2と同一形状のボディ部材を、図7に示す工程で、実施例2と同一の成分により製造した。
【0061】
ここでは、黒色塗料にフォトクロミック染料を混合して基体本体33に塗布した他は、実施例2と同一に行った。即ち、黒色塗料の調合(S302)と、フォトクロミック透明塗料の調合(S303、S304)とを行った後、両者を十分に混ぜ込んで混合溶解し(S305)、これを基材本体33に塗布して(S306)、加熱処理する(S307)ことで10〜30μmの範囲で黒色塗膜を形成した。
【0062】
[結果]
【0063】
以上の結果、実施例1、2及び比較例のボディ部材を比較したところ、何れも、屋内では高級感を漂わせる漆黒の黒色を呈していた。
【0064】
しかし、屋外で太陽光を照射したところ、比較例では、太陽光の表面反射の影響で黒色が白みを帯びてしまい、黒色の外観品質が著しく低下した。そのため、フォトクロミック染料の着色効果は確認出来なかった。この原因は、黒色塗料にフォトクロミック染料を混ぜたため、可視光および紫.外線が黒色被膜の表面近傍の黒色成分に吸収されてしまい、同じ層に分散されているフォトクロミック染料を着色するに至らなかったことが考えられた。
【0065】
一方、実施例1、2では、屋外で太陽光の照射によってフォトクロミック染料が着色す
ることにより、黒色の分光反射率をより下げることになり、その結果、表面反射による黒み低下を抑えることが出来た。
【0066】
更に、クリアーコート中に分散させた光安定剤と紫外線吸収剤の効果によって、フォト
クロミック装飾されたボディ部材30、40の耐光性の著しい向上を図ることができ、蛍光紫外線ランプ促進試験を用いて150時間の照射を経てもフォトクロミック染料による黒色の品質向上効果に劣化が生じないことが確認された。
【0067】
特に、実施例1では、実施例2に比較して、黒色被膜34を省くことができ、工程削減によるコストダウンが図れた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態1、2のボディ部材の部分断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1及び実施例1のボディ部材の拡大断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1、2のフォトクロミック染料と紫外線吸収剤とにおける紫外線の吸収波長域を示すグラフである。
【図4】この発明の実施の形態1及び実施例1のボディ部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態2及び実施例2のボディ部材の拡大断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2及び実施例2のボディ部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図7】比較例のボディ部材の製造工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
30、40 ボディ部材
31 黒色基体
32 透光層
33 基体本体
34 黒色被膜
35 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯機器の外装部材であって、
少なくとも表面が黒色の黒色基体と、前記黒色基体の少なくとも外側表面を覆うと共に、光を透過可能な透光層からなり、前記透光層はフォトクロミック染料を含有することを特徴とする携帯機器の外装部材。
【請求項2】
前記黒色基体は、少なくとも黒色の成形材料により成形されてなることを特徴とする請求項1に記載の携帯機器の外装部材。
【請求項3】
前記黒色基体は、基体本体と、該基体本体の少なくとも外側表面に設けられた黒色被膜とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の携帯機器の外装部材。
【請求項4】
前記黒色基体の表面が漆黒であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の携帯機器の外装部材。
【請求項5】
前記透光層に含有される前記フォトクロミック染料は、紫外線により励起された状態において、可視光領域内に互いに異なる2種以上の中心波長の吸収帯を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の携帯機器の外装部材。
【請求項6】
前記透光層は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂に、前記フォトクロミック染料を混合した混合物からなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の携帯機器の外装部材。
【請求項7】
前記透光層は、ヒンダードアミン系又はヒンダードフェノール系の光安定剤と、紫外線吸収剤とを含有することを特徴とする請求項6に記載の携帯機器の外装部材。
【請求項8】
前記紫外線吸収剤は、前記フォトクロミック染料を励起する波長域の中心波長より短い波長で最大吸光度を示すことを特徴とする請求項7に記載の携帯機器の外装部材。
【請求項9】
前記透光層の少なくとも外側表面に、前記透光層より硬質で、光を透過可能な保護層を備えたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一つに記載の携帯機器の外装部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−23314(P2010−23314A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186107(P2008−186107)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】