説明

携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物及びそれを用いた携帯電話用筐体

【課題】 難燃性、剛性、衝撃特性、ヒンジ強度、流動性、表面外観に優れた携帯電話筐体用ポリカーボネート樹脂組成物、及びそれを用いて形成された携帯電話用筐体を提供する。
【解決手段】 (a)粘度平均分子量が15000〜28000の芳香族ポリカーボネート樹脂70〜90.49重量%、(b)ガラス繊維5〜15重量%、(c)縮合リン酸エステル3.5〜10重量%、(d)アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体1〜4重量%、(e)ポリテトラフルオロエチレン0.01〜1重量%((a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量%)からなり、該ガラス繊維は、繊維長500μm以上が、10重量%以下、繊維長140μm以下の重量xと繊維長140μm超の重量yが、50/50<x/y≦100/0である、携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた携帯電話用筐体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話筐体用の難燃性樹脂組成物及びそれを用いた携帯電話用筐体に関し、詳しくは、難燃性、剛性、衝撃特性、ヒンジ強度、流動性、表面外観に優れた携帯電話筐体用ポリカーボネート樹脂組成物、及びそれを用いて形成された携帯電話用筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、耐衝撃強度、耐熱性、寸法安定性、外観特性において優れた樹脂として電子・電気機器、OA機器分野で用いられており、携帯端末機器の筐体では成形品の薄肉化が進んでいる。一方でこの分野では、最近使用する樹脂の難燃化の要求が高まり、よって、剛性、外観特性、流動性に優れた難燃性樹脂組成物の使用が求められている。なかでも折畳み式携帯電話用途は他の携帯端末と比較し、使用者が広範であり、しかも使用頻度が高い上に、繰り返し開閉したり、落下させたりすることがある等、過酷な使用状況が想定され、要求性能が厳しい。そのため既存の難燃強化樹脂では要求特性を満足することが困難であった。
【0003】
例えば、剛性を付与する手段としてはガラス繊維を使用する方法が知られているが、ガラス繊維を含有させると、剛性は向上するが、流動性が悪化すると共に外観が悪化し、耐衝撃性が低下する等の欠点がある。これらの問題を解決する手段として、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂に芳香族ポリカーボネートオリゴマーとゴム弾性体を添加する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、良外観とするためには成形時金型温度を高温にする必要がある上に、更なる改善の余地があった。また、流動性、耐衝撃特性は向上するが、難燃性を付与することができない。
【0004】
またガラス強化樹脂の表面外観を向上させる手法としてリン酸エステルを使用する方法が知られているが(特許文献2参照)、この方法でも難燃性に関しては考慮されておらず、耐衝撃性が不十分であった。
物性と難燃性とを両立する方法としてポリカーボネート樹脂とゴム弾性体の混合物にリン酸エステルと繊維状物質を混合した難燃性樹脂組成物(特許文献3参照)が提案されている。しかし、携帯電話用筐体のような実厚みが薄肉の成形品の場合に適用する場合には、難燃性が不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−12858号公報
【特許文献2】特開平9−48912号公報
【特許文献3】特開平11−302512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、携帯電話用の筐体、詳しくは、難燃性、剛性、衝撃特性、ヒンジ強度、流動性、表面外観に優れた、ポリカーボネート樹脂組成物を用いて形成された携帯電話用筐体に関するものである。
【0007】
なかでも、UL94規格の垂直燃焼試験で、樹脂厚み0.75mmにおいて、V−1を実現した高い難燃性を有し、かつ剛性、耐衝撃性、ヒンジ強度、流動性、表面外観に優れた携帯電話用筐体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、(a)粘度平均分子量が15000〜28000の芳香族ポリカーボネート樹脂70〜90.49重量%、(b)ガラス繊維5〜15重量%、(c)縮合リン酸エステル3.5〜10重量%、(d)アルキル(メタ)アクリレート系共重合体を含む多層構造重合体1〜4重量%、(e)ポリテトラフルオロエチレン0.01〜1重量%、((a)+(b)+(c)+(d)=100重量%)からなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物であって、かつ、該ガラス繊維については、繊維長500μm以上のガラス繊維が、ガラス繊維全体の10重量%以下であって、繊維長140μm以下のガラス繊維の重量xと繊維長140μm超のガラス繊維の重量yとの比が、50/50<x/y≦100/0であるような、携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いて形成された携帯電話用筐体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、最近益々軽量、小型化されつつある携帯電話において、難燃性、剛性、衝撃特性、ヒンジ強度、流動性、表面外観に優れるという厳しい要求を満足したポリカーボネート樹脂製の携帯電話用筐体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂とは、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンまたは炭酸のジエステルとを反応させることによって作られる分岐してもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体である。
【0011】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(=テトラメチルビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン(=テトラクロロビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどであり、特にビスフェノールAが好ましい。
【0012】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2,4,6−ジメチルー2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3,1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物および3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどのポリヒドロキシ化合物を前記ジヒドロキシ化合物の一部、例えば0.1〜2モル%を使用すれば良い。
【0013】
反応における末端停止剤または分子量調整剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物や芳香族カルボン酸基を有する化合物等が挙げられ、フェノール、p−t−ブチルフェノール、トリブロモフェノール等の他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸等が例示される。
なお、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は一種類でも、または二種類以上を混合してもよい。
【0014】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、25℃におけるメチレンクロライド溶液粘度より換算した粘度平均分子量で15000〜28000であり、好ましくは17000〜23000である。粘度平均分子量が15000未満では機械的特性が著しく低下し、28000を超える場合は満足する流動性が得られにくい。
【0015】
本発明で用いる(b)ガラス繊維としては、繊維長140μm以下の短繊維(以下、単に「短繊維」と称すことがある)と繊維長140μmを超える長繊維(以下、単に「長繊維」と称すことがある)とからなり、繊維長500μm以上のガラス繊維が、ガラス繊維全体の10重量%以下であって、繊維長140μm以下のガラス繊維の重量xと繊維長140μm超のガラス繊維の重量yとの比が、50/50<x/y≦100/0であるガラス繊維である。この規定は、ISO 179に規定されたシャルピー衝撃試験片を作成し、該試験片を650℃の電気炉に2時間放置し、灰分として残ったガラス繊維を測定した値を示す。測定方法は、本発明の実施例においては、後述するように、画像解析装置((株)東芝製、画像処理R&Dシステム(商品名:TOSPIX−i)を用いて測定した値で示した。
【0016】
該(b)ガラス繊維中の短繊維の配合量が50wt%以下(すなわちx/y≦50/50)であると、耐衝撃性の低下と外観の悪化が著しく、500μm以上のガラス繊維が10wt%を超えると、耐衝撃性が低下し、また外観も悪くなる。
【0017】
該(b)ガラス繊維中の長繊維成分は、例えば、原料として、平均繊維長約2〜4mmのガラス繊維(チョップドストランド)を用いることにより、主に導かれるものである。該平均繊維長約2〜4mmのガラス繊維チョップドストランドとしては、例えば、旭ファイバーグラス(株)よりチョップドストランドCS03MA409、CS03DE409C、日本電気硝子(株)よりチョップドストランドECS03T571等の商品名で市販されているものを用いることができ、中でも平均繊維長2〜3mmのものを用いることが好ましい。該長繊維成分は、シラン系カップリング剤に代表される表面処理剤やウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂に代表される収束剤、ホスファイト系に代表される熱安定剤等で適宜表面を処理されているのが好ましい。
【0018】
また、短繊維成分としては、原料として、繊維長140μmを超えるガラス繊維を用いても、混合や混練により導かれる場合もあるが、本発明においては、繊維長140μmを超えるガラス繊維成分よりも多量に含むことが必要であるので、原料として、平均繊維長が140μm以下のガラス繊維を用いるのが普通である。これらは例えば、ミルドファイバーやガラスパウダーなどとして市販されており、本発明においては、旭ファイバーグラス(株)よりミルドファイバーMF06JB1−20、日本電気硝子(株)よりEPG70M−99S等の商品名で市販されている。該短繊維成分は、その目的に応じ、シラン系カップリング剤に代表される表面処理剤やホスファイト系に代表される熱安定剤等で適宜表面処理されていてもよい。
【0019】
本発明においては、中でも、繊維長140μm以下のガラス繊維の重量xと繊維長140μm超のガラス繊維の重量yとの比が、75/25<x/y≦100/0の範囲であるのが、衝撃強度およびウエルド部の強度が良好で、かつより良好な表面外観が得られるので、好ましい。また、85/15<x/y≦100/0の範囲であると、更にその効果が顕著であり、更に好ましい。
【0020】
本発明で使用する(c)縮合リン酸エステルは、下記の一般式(1)で表されるものであるのが好ましい。
【0021】
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または有機基を表す。ただし、R1、R2、R3およびR4が全て水素原子の場合を除く。Xは2価の有機基を表し、pは0または1であり、qは1以上の整数、rは0または1以上の整数を表す。)
上記の一般式(1)において、有機基とは、例えば、置換基を有する、または有しないアルキル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられ、該置換基は、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン原始、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。またこれらの置換基を組み合わせた基、あるいはこれらの置換基を酸素原子、イオウ原子、窒素原子などにより結合して組み合わせた基などでもよい。また2価の有機基とは、上記の有機基から炭素原子1個を除いてできる2価以上の基をいう。例えば、アルキレン基、フェニレン基、置換フェニレン基、ビスフェノール類から誘導されるような多核フェニレン基などが挙げられる。
【0022】
上記の一般式(1)で示される縮合リン酸エステルの具体例としては、例えば、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリクレジルフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、トリス(クロルエチル)フォスフェート、トリス(ジクロルプロピル)フォスフェート、トリス(クロルプロピル)フォスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)フォスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロルフォスフェート、ビス(クロルプロピル)モノオクチルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルフォスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジフォスフェート等の種々のものが例示される。これらのうちビスフェノールAテトラフェニルフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルフォスフェート、レゾルシノールテトラ−2,6−キシレノールフォスフェート等の市販品を用いるのが簡便である。
【0023】
本発明で使用する(d)アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体は、ゴム成分を核(コア)として有し、該核(コア)のまわりに重合体からなる殻(シェル)を有する多層構造重合体であり、少なくとも該核(コア)又は殻(シェル)のいずれかが、アルキル(メタ)アクリレート系重合体であることが必要である。なお、本発明において、「アルキル(メタ)アクリレート」の表記は、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートを意味し、「アルキル(メタ)アクリレート系重合体」とは、少なくともアルキル(メタ)アクリレートをモノマー成分として用いる重合体であって、ホモポリマー、コポリマーの何れであっても良い。
該アルキル(メタ)アクリレート系重合体を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜8程度のアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマー成分としては、一種類でも良いが、2種類以上を用いた共重合体であっても良い。
【0024】
該アルキル(メタ)アクリレート系重合体がコアを形成する場合、該アルキル(メタ)アクリレート系重合体としては、ポリアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートが相互に絡み合った構造も含まれる。
また、本発明においては、該核(コア)は、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリオルガノシロキサン(シリコーンゴム)等であっても良い。
本発明で使用する(d)多層構造重合体としては、核(コア)がアルキル(メタ)アクリレート系重合体である場合、殻(シェル)は、アクリル酸アルキル重合体である必要は無く、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物から選ばれた1種以上を成分とするものであっても良い。このようなアクリル酸アルキル重合体以外の例としては、スチレンやアクリロニトリルの重合体や共重合体が挙げられる。
【0025】
該殻(シェル)がアクリル酸アルキル系重合体の場合は、該アクリル酸アルキル系重合体としては、上記の核(コア)形成成分と同様に、アルキル基の炭素数が1〜8程度のアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらのうち、一種類以上用いれば良い。また、該殻(シェル)を形成するアクリル酸アルキル系重合体は、エチレン性不飽和単量体等の架橋剤を用いた共重合体であっても良く、該架橋剤としては、例えば、アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
該アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体の製造法としては、例えば、ポリ(メタ)アルキルアクリレート、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体等のゴム成分からなる核(コア)とし、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、アクリル(メタ)アクリレートから選ばれた1種以上の単量体を該コアにグラフト重合する方法であり、該コアの表面にシェルの重合体が順次被覆するような、連続した多段階シード重合する方法が挙げられる。
更に、本発明においては、例えば、最内核層を芳香族ビニル単量体からなる重合体で形成し、中間層をポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレート成分が相互に絡み合った構造の重合体で形成し、さらに最外殻層をアルキル(メタ)アクリレート系重合体で形成してなるような3層以上の多層構造重合体とすることもできる。
【0026】
該(d)アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体の具体例としては、ポリブタジエンコア/ポリメチル(メタ)クリレート系重合体シェルのものとして、呉羽化学工業(株)の商品名:パラロイドEXL2603が挙げられ、ポリ(メタ)アクリレート系重合体コア/ポリメチル(メタ)アクリレート系重合体シェルのものとしては、例えば、特許第2558126号に示される様なエラストマーが挙げられ、呉羽化学工業(株)の商品名:パラロイドEXL2315、三菱レイヨン(株)の商品名:メタブレンS−2001が挙げられ、又はポリオルガノシロキサン・ポリアルキル(メタ)アクリレートコア/アクリロニトリル・スチレン共重合体シェルのものとして、三菱レイヨン(株)SRK−200として市販されているものが挙げられる。
このようなアクリル酸アルキル系重合体を含む多層構造重合体を用いることにより、衝撃強度と成形品外観が特に優れた樹脂組成物が得られる。
【0027】
本発明に使用される(e)ポリテトラフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するものが樹脂中に容易に分散しやすく、樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向があるので好ましく、このようなものとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン(登録商標)6Jまたはテフロン(登録商標)30Jとして、あるいはダイキン化学工業(株)より、ポリフロンF201Lとして市販されている。
【0028】
これらの(a)〜(e)各成分の配合比率としては、
(a)粘度平均分子量が15000〜28000の芳香族ポリカーボネート樹脂70〜90.49重量%
(b)ガラス繊維5〜15重量%
(c)縮合リン酸エステル3.5〜10重量%
(d)アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体1〜4重量%
(e)ポリテトラフルオロエチレン0.01〜1重量%
((a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量%)である。(c)縮合リン酸エステルは10重量%を超えると衝撃強度が低下し、3.5重量%未満になると十分な難燃性が得られない。中でも、(c)縮合リン酸エステルが4〜8重量%であるのが、難燃性と強度のバランスの点から好ましい。
【0029】
本発明の携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物であるポリカーボネート樹脂組成物には、所望の物性を得るため、必要に応じて、その性能を著しく損なわない範囲で他の追加成分を配合してよい。他の追加成分としては、例えば、酸化防止剤等の安定剤、光安定剤、顔料、染料、滑剤、無機充填剤、縮合リン酸エステル以外の難燃剤、離型剤、帯電防止剤、摺動性改良剤等の添加剤、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体以外のエラストマー等が挙げられる。
【0030】
また、本発明の樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂も配合することができる。芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の種類及び配合量は、成形性、耐薬品性等の性能を向上する等の目的に応じて適宜選択できる。芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、公知のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0031】
本発明の樹脂組成物の製造法は、ベースとなる(a)ポリカーボネート樹脂に、(b)〜(e)、及び必要に応じて添加される他の追加成分を、同時、あるいは別個に、例えば、V型ブレンダーなどの混合機によって混合し、得られた混合物を溶融・混練してペレット化する方法などにより製造される。また、該製造方法としては、必要に応じて溶媒を用いたり、マスターバッチを用いたりする製造方法も適用できる。このようにして調製された樹脂組成物は、携帯電話用筐体用途に用いるため、UL94規格垂直燃焼試験で厚み0.75mmにおいて、V−1を満たすものであることが好ましい。
本発明の携帯電話用の筐体を成形するにあたっては、上述の方法等で製造された樹脂組成物を用い、通常の成形方法(射出成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により加工することができるが、生産性を考慮すると、射出成形が好ましく採用される。
【0032】
本発明における携帯電話用の筐体としては、例えば、0.8mm以下の樹脂厚みの部分を有するものであることが、本願発明の性能を効果的に発揮でき、また近年携帯電話用筐体は軽量化する傾向にあるので、好ましい。すなわち、本願発明の樹脂組成物は、UL94規格の垂直燃焼試験において0.75mmがV−1を満足するなど、極めて厚みの薄い成形品においても、燃焼性に優れるという効果を存分に発揮できるものである。
【0033】
また、該筐体がヒンジ部分を有するものである場合は、射出成形法で製造されたものである場合、通常、ヒンジ部にウェルドが存在することになるため、ヒンジ部の強度を得るためには、十分なウェルド強度が必要となり、またヒンジ部には繰り返し応力が加えられるため、疲労特性に優れることも必要となるので、それらのバランスが優れたものが、ヒンジ強度が優れたものと言うことができる。従ってヒンジ部分を有する携帯電話用筐体は、本願発明のヒンジ強度に優れるという性能を効果的に発揮できるので好ましい。
【実施例】
【0034】
本発明を、以下に実施例によって具体的に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、本実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例および比較例において使用した各成分は、以下のとおりである。
(1)芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標) S−3000、粘度平均分子量22,000、以下「PC」と記す。
(2)ガラス繊維(長繊維):直径13μm、長さ3mmのチョップドストランド、日本電気硝子(株)製、チョップドストランドECS03T−571、以下「L−GF」と記す。
(3)ガラス繊維(短繊維):直径9.2μm、長さ70μmのミルドファイバー、日本電気硝子(株)製、EPG70M−99S、以下「S−GF」と記す。
【0036】
(4)縮合リン酸エステル1:レゾルシノールテトラフェニルフォスフェート、旭電化工業(株)製、商品名:FP500
(5)縮合リン酸エステル2:ビスフェノールAテトラフェニルフォスフェート、旭電化工業(株)製、商品名:FP700
(6)複合ゴム1:ポリオルガノシロキサン−ポリアルキルアクリレートコア/メチルアクリレートシェルの多層構造重合体、三菱レイヨン(株)製、商品名:メタブレン SRK200
(7)複合ゴム2:ポリブタジエンコア/メチルアクリレートシェルの多層構造重合体、呉羽化学工業(株)製、商品名:クレハパラロイド EXL2603
(8)ポリテトラフルオロエチレン:三井・デュポンフロロケミカル(株)製、商品名:テフロン(登録商標)6J(以下「PTFE」と記す)。
(9)芳香族ポリカーボネートオリゴマー:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標)AL071、平均重合度7(以下「PCオリゴマー」と記す。)
【0037】
実施例1、2、4、5、比較例1〜6
下記表に示す配合処方で各成分を配合し、田辺プラスチック(株)製、単軸押出機:商品名:VS−40によりバレル温度280℃で混練、ペレット化した。得られたペレットを100℃、5時間乾燥した後、住友重機械工業(株)製、射出成形機:商品名:サイキャップM−2(型締め力75T)を用い、シリンダ温度290℃、金型温度110℃の条件で、サイクル50secにて各種試験片の射出成形を行い、得られた成形サンプルを用いて評価を行った。
【0038】
実施例3
下記表に示す配合処方で、日本製鋼所(株)製、二軸押出機:商品名:TEX−30を用いて、縮合リン酸エステル以外をメインホッパーから定量供給し、縮合リン酸エステルを、メインホッパーからの供給材料94wt%に対し6wt%となるように押出機の途中からポンプにより定量供給し、バレル温度280℃にて混練、ペレット化し、上記実施例と同様に成形、評価を行った。
【0039】
実施例において用いた評価方法は以下の通りである。
(1)成形品中のガラス繊維長:ISO 179によるシャルピー衝撃試験片(80mm×10mm×4mm)を650℃の電気炉に2時間放置し、灰分としてガラス繊維分を単離した。単離したガラス繊維をガラス板上に重ならないように広げ、画像解析装置[(株)東芝製 画像処理R&Dシステム(TOSPIX−i)]を用いて、ガラス繊維全体における繊維長500μm以上のガラス繊維の比率(百分率)と、繊維長140μm以下のガラス繊維の重量比率(百分率)と繊維長140μm超のガラス繊維の重量比率を測定した。
【0040】
(2)燃焼性:UL94垂直燃焼性試験に従い、厚み0.75mmの燃焼性試験を行った。

(3)シャルピー衝撃試験:ISO 179によるシャルピー衝撃試験法に従い、衝撃試験を行った。
(4)荷重たわみ温度(DTUL):ISO 75に従い、荷重1.80MPaでの熱変形温度を測定した。
(5)曲げ弾性率:ISO 178による曲げ試験法に従い、三点曲げ試験を行った。
(6)Q値(流動性)::高化式フローテスターを用いて、荷重160kgf/cm2、直径1mm×長さ10mmのノズルからの280℃における、樹脂の流出量を測定した(cc/sec)。
(7)外観特性:住友重機械工業製、サイキャップM−2(型締め力75T)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度100℃、110℃、120℃の条件で、80mm×40mm×3.2mmのプレートを成形し、下記の基準に基づき目視にて判定した。判定に際し、ガラス繊維による表面のざらつき、ゲート近傍のフローマーク、全体の色斑等の状態を観察した。
【0041】
◎;ガラス繊維による表面のざらつき、フローマーク等の外観不良が全くないもの
○;ガラス繊維による表面のざらつき、フローマーク等の外観不良が僅か見られるが、不良の状態が目立たない程度のもの
△;ガラス繊維による表面のざらつき、フローマーク等の外観不良が若干見られ、不良の状態が目立つもの
×;ガラス繊維による表面のざらつき、フローマーク等の外観不良が著しいもの
(8)繰り返し引張り疲労試験:(株)島津製作所製試験機 サーボパルサーEHF−FD05を用いて、印加応力3MPaで周波数10Hzの矩形波(完全片振り状態)により試験片に繰り返し負荷を加え、試験片が破壊するまでの回数(疲労寿命)を測定した。試験片はISO 527による引張り試験片を使用した。
(9)ウエルド強度:引張り試験片成形金型を用いて2点ゲートで成形し、中央部にウエルドができるように成形し、以下のウェルド引張試験、及びウェルドシャルピー衝撃試験を行った。
ウエルド引張り試験;ISO 527による引張り試験法に従い、破壊点呼び歪がを測定した。
ウエルドシャルピー衝撃試験;ISO 179によるシャルピー衝撃試験に従い、非ノッチシャルピー衝撃試験を行い、ウエルド部の衝撃強度を測定した。
【0042】
(10)落下試験:(株)日本製鋼所製 射出成形機 J50E−P を用い、シリンダー温度300℃、金型温度100℃の条件で携帯電話ハウジングモデル型(45mm×80mm、深さ7mm、厚さ1.3mm)を成形し、100gのおもりを固定し、高さ160cmから落下試験を行って以下の基準に基づき判定した。
○:落下試験10回を行っても、割れが発生しない。
×:落下試験10回以内に割れが発生する。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示したとおり、各比較例は、実施例との比較より、以下のことがわかる。
比較例1は、ガラス繊維の量が4重量%と本願発明の規定の下限である5重量%より少なく、難燃性、繰り返し疲労寿命、ウェルド破壊点呼び歪が劣る。
比較例2は、特許文献1のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂に芳香族ポリカーボネートオリゴマーとゴム弾性体を添加して、流動性、耐衝撃特性を改善する方法でも、成形時金型温度が通常の条件では良外観のものが得にくく、また、難燃性が改善されない。
比較例3は、縮合燐酸エステルの量が3重量%と、本願発明の規定の下限である3.5重量%より少なく、流動性(Q値)、ウェルド破壊点呼び歪、外観が劣る。
比較例4は、縮合リン酸エステルの量が11.7重量%と、本願発明の規定の上限である10重量%より多く、シャルピー衝撃値、ウェルドシャルピー衝撃値、DTUL、繰り返し引張疲労寿命の点で劣る。
比較例5は、ガラス繊維長の長繊維、短繊維の比率(x/y)及び500μmより長い繊維の比率が本願発明の範囲を外れるので、シャルピー衝撃値、ウェルドシャルピー衝撃値、Q値、外観、落下試験が劣る。
比較例6は、PTFEを使用しないので、難燃性が劣る。
【0045】
本発明者らの検討によれば、以下のことが明らかになった。
ヒンジ強度を評価する場合、ウェルドシャルピー衝撃値とウェルド引張試験による破壊点呼び歪(これらをまとめてウェルド強度と称す)、及び繰り返し引張疲労寿命が優れていることが必要であるが、ウェルド強度のウェルドシャルピー衝撃値と、ウェルド引張試験による破壊点呼び歪の両方が優れているものは極めて得にくい。いずれかが高ければ、他方が低くなるという傾向が多く見られ、それらの両方が優れているものは、繰り返し引張疲労寿命が劣り、ヒンジ強度の評価としては、強度の低いものと評価されたり、携帯電話用筐体として必要な外観など、他の物性が劣ったりする。
また、ウェルドシャルピー衝撃試験と繰り返し引張疲労寿命、あるいは、繰り返し引張疲労寿命とウェルド引張試験の破壊点呼び歪も、それぞれ両立するのが難しく、いずれかが高ければ、他方が劣る傾向が多く見られ、それらの両方が優れているものは、他の物性が劣ることが多い。
本願発明は、特定組成の樹脂組成物とすることにより、燃焼性、外観、落下強度が優れているものにおいて、ヒンジ強度や機械的強度(シャルピー衝撃値、曲げ弾性率)、成形性(流動性)、耐熱性のバランスが優れたものであることに特徴がある。該樹脂組成物を用いた携帯電話用筐体は、これらの性質に適した用途であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粘度平均分子量が15000〜28000の芳香族ポリカーボネート樹脂70〜90.49重量%
(b)ガラス繊維5〜15重量%
(c)縮合リン酸エステル3.5〜10重量%
(d)アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体1〜4重量%
(e)ポリテトラフルオロエチレン0.01〜1重量%
((a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量%)からなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物であって、かつ、該ガラス繊維については、繊維長500μm以上のガラス繊維が、ガラス繊維全体の10重量%以下であって、繊維長140μm以下のガラス繊維の重量xと繊維長140μm超のガラス繊維の重量yとの比が、50/50<x/y≦100/0であるような、携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(c)縮合リン酸エステルの量が4〜8重量%である、請求項1に記載の携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(b)ガラス繊維が繊維長140μm以下のガラス繊維の重量xと繊維長140μm超のガラス繊維の重量yとの比が、75/25<x/y≦100/0であるような請求項1または2に記載の携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
UL94規格垂直燃焼試験で厚み0.75mmにおいて、V−1を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の携帯電話筐体用難燃性樹脂組成物を射出成形して得られた携帯電話筐体。
【請求項6】
0.8mm以下の厚みの部分を有する請求項5に記載の携帯電話筐体。
【請求項7】
少なくともヒンジ部分を有する請求項5または6に記載の携帯電話筐体。



【公開番号】特開2006−176612(P2006−176612A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370444(P2004−370444)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】