説明

摩擦制御方法

【課題】内燃機関を潤滑させる方法を提供すること
【解決手段】本発明は、クランクケース、ギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つを含む内燃機関を潤滑させる方法を提供し、該方法は、該クランクケース、ギアおよびウェットクラッチに、以下を含有する潤滑組成物を供給する工程を包含する:(a)潤滑粘性のあるオイル;(b)ホウ素含有化合物;および(c)摩擦調整剤。摩擦制御を与えつつ、クランクケース、ギア、変速機システムおよびウェットクラッチの少なくとも1つを備えた内燃機関を潤滑させる方法があれば、有利となる。本発明は、摩擦制御を与えつつ、内燃機関を潤滑させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、クランクケースとギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとを含む内燃機関を潤滑組成物で潤滑させることによる摩擦制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
2−スクロークおよび/または4−ストローク内燃機関に普遍的に適合する潤滑剤を製造する試みがなされていることは知られている。これらの潤滑剤は、一般に、多数の異なる性能添加剤を含有し、これらは、例えば、4−スクロークのオートバイエンジン(この場合、クランクケース油の粘度が要求される一方、また、ギアボックス、変速機またはクラッチに関連した極圧および温度に適合する特性も要求される)における用途には、必ずしも設計されていない。結果的に、多くの添加剤は、エンジン性能または燃料節約に悪影響を及ぼす特性を有する。
【0003】
非特許文献1は、摩擦制御に適切であるので、清浄剤またはジチオリン酸亜鉛と併用したホウ酸塩分散剤を開示している。Kasaiらは、さらに、摩擦調整剤を含有するエンジンオイルが、クラッチ性能を低下させるので、4−ストロークオートバイエンジンで適用できないことを述べている。
【0004】
特許文献1は、2−サイクルおよび小エンジン4−サイクルエンジンで使用するためのホウ酸塩化ヒドロカルビルスクシンイミド分散剤およびリン化合物を含有する組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,525,004号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kasaiら,2003 JSAE/SAE International Spring Fuels & Lubricants Meeting,Yokohama,Japan,May 19−22,2003,論文名「Effect of Engine Oil Additives on Motorcycle Clutch System(SAE2003−01−1956 or JSAE 20030105)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦制御を与えつつ、クランクケース、ギア、変速機システムおよびウェットクラッチの少なくとも1つを備えた内燃機関を潤滑させる方法があれば、有利となる。本発明は、摩擦制御を与えつつ、内燃機関を潤滑させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、クランクケースとギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとを含む内燃機関を潤滑させる方法を提供し、該方法は、該クランクケースと該ギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとに、以下を含有する潤滑組成物を供給する工程を包含する:(a)潤滑粘性のあるオイル;(b)ホウ素含有化合物;および(c)摩擦調整剤。
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明は、クランクケースとギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとを含む内燃機関を潤滑させる方法を提供し、該方法は、該クランクケースと該ギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとに、以下を含有する潤滑組成物を供給する工程を包含する:(a)潤滑粘性のあるオイル;(b)ホウ素含有化合物;および(c)摩擦調整剤。
【0010】
(内燃機関)
本発明の内燃機関は、クランクケース、ギアおよびウェットクラッチを含む。必要に応じて、この内燃機関は、さらに、手動または自動変速機を含む。1実施態様では、このギアは、ギアボックスに由来する。
【0011】
本明細書中で使用する「ウェットクラッチ」との用語は、潤滑剤で浸されるか噴霧されるクラッチプレート、例えば、変速機のものであって、潤滑油がプレート間に入ることを意味するとして、当業者に公知である。
【0012】
1実施態様では、この内燃機関は、クランクケースとギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとに同じ潤滑組成物を供給する共通オイルリザーバを有する。特定の実施態様では、この潤滑組成物は、クランクケースとギア(または多数のギア)とに、またはクランクケースとウェットクラッチとに、またはクランクケースとギア(または複数のギア)およびウェットクラッチの両方とに供給される。
【0013】
1実施態様では、この内燃機関は、4−ストロークエンジンである。1実施態様では、この内燃機関はまた、一般に、小エンジンと呼ばれる。
【0014】
この小エンジンは、1実施態様では、2.24〜18.64kW(3〜25馬力(hp))、別の実施態様では、2.98〜4.53kW(4〜6hp)の出力を有し、別の実施態様では、100または200cmの排気量を示す。小エンジンの例には、家庭/庭園用具(例えば、芝刈り機、ヘッジトリマー、チェーンソー、除雪機または回転耕運機(roto−tillers))が挙げられる。
【0015】
1実施態様では、この内燃機関は、3500cmまでの排気量、別の実施態様では、2500cmまでの排気量、別の実施態様では、2000cmまでの排気量の性能を有する。2500cmまでの排気量の性能を備えた適切な内燃機関には、オートバイ、スノーモービル、ジェットスキー、クアッドバイク(quad−bikes)、または全地形車両(all−terrain vehicles)が挙げられる。1実施態様では、この内燃機関は、トラクターまたは他の農業用車両(例えば、コンバイン)である。
【0016】
1実施態様では、この内燃機関は、トラクターまたは他の農業用車両である。別の実施態様では、この内燃機関は、ドライクラッチ、すなわち、エンジンを変速機(例えば、自動車の変速機)から分離するシステムを含まない。別の実施態様では、この内燃機関は、ディーゼル燃料との併用に適切ではない。
【0017】
1実施態様では、この内燃機関は、4−スクロークエンジンである。1実施態様では、この内燃機関は、オートバイ(例えば、4−ストローク内燃機関を備えたオートバイ)に適切である。
【0018】
(潤滑粘性のあるオイル)
この潤滑組成物には、潤滑粘性のある天然油または合成油;水素化分解、水素化、ハイドロフィニッシングから誘導されたオイル;および未精製油、精製油および再精製油、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
天然油には、動物油および植物油、鉱油およびそれらの混合物が挙げられる。合成油には、炭化水素油、シリコンベース油、リン含有酸の液状エステルが挙げられる。合成油は、フィッシャー−トロプシュ気液合成手順だけでなく他の気液オイルにより、生成され得る。1実施態様では、本発明の重合体組成物は、気液オイルで使用するとき、有用である。しばしば、フィッシャー−トロプシュ炭化水素またはワックスは、ヒドロ異性化(hydroisomerised)され得る。
【0020】
1実施態様では、この基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)(PAO−2、PAO−4、PAO−5、PAO−6、PAO−7またはPAO−8を含めて(数値は、100℃での動粘度に関する))である。このポリアルファオレフィンは、1実施態様では、ドデカンから調製され、別の実施態様では、デセンから調製される。
【0021】
潤滑粘性のあるオイルはまた、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesで指定されたように、定義され得る。1実施態様では、この潤滑粘性のあるオイルは、API 第I族、第II族、第III族、第IV族、第V族、第VI族オイルまたはそれらの混合物、別の実施態様では、API 第II族、第III族、第IV族オイルまたはそれらの混合物を含む。もし、この潤滑粘性のあるオイルがAPI 第II族、第III族、第IV族、第V族または第VI族オイルであるなら、その潤滑油の約40重量%まで、別の実施態様では、最大で約5重量%までのAPI 第I族オイルが存在し得る。
【0022】
1実施態様では、この潤滑組成物は、XW−YのSAE粘度等級を有し、ここで、Xは、0〜20の整数であり、そしてYは、20〜50の整数である。
【0023】
1実施態様では、Xは、0、5、10、15または20の整数から選択される。
【0024】
1実施態様では、Yは、20、25、30、35、40、45または50の整数から選択される。
【0025】
この潤滑粘性のあるオイルは、1実施態様では、この潤滑組成物の40重量%〜99.98重量%、別の実施態様では、この潤滑組成物の90重量%〜99.87重量%、別の実施態様では、この潤滑組成物の69重量%〜98.85重量%で存在している。
【0026】
(ホウ素含有化合物)
本発明のホウ素含有化合物には、ホウ酸エステル、ホウ酸エステルアルコール、ホウ酸塩分散剤またはそれらの混合物が挙げられる。
【0027】
このホウ素含有化合物は、1実施態様では、この潤滑組成物の0.01重量%〜20重量%、別の実施態様では、0.1重量%〜10重量%、別の実施態様では、1重量%〜8重量%で、存在している。
【0028】
(ホウ酸エステルまたはホウ酸エステルアルコール)
1実施態様では、このホウ素含有化合物は、ホウ酸エステルまたはホウ酸エステルアルコールである。このホウ酸エステルまたはホウ酸エステルアルコール化合物は、ホウ酸エステルアルコールがエステル化されていない少なくとも1個のヒドロキシル基を有すること以外は、実質的に同じである。従って、本明細書中で使用する「ホウ酸エステル」との用語は、ホウ酸エステルまたはホウ酸エステルアルコールのいずれかを意味するように、使用される。
【0029】
このホウ酸エステルは、ホウ素化合物と、エポキシ化合物、ハロヒドリン化合物、エピハロヒドリン化合物、アルコールおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1種の化合物とを反応させることにより、調製され得る。これらのアルコールには、一価アルコール、二価アルコール、三価アルコールまたはそれらより高級なアルコールが挙げられるが、但し、1実施態様については、ヒドロキシル基は、隣接炭素原子上にあり、すなわち、近接している。以下、「エポキシ化合物、ハロヒドリン化合物、エピハロヒドリン化合物、アルコールおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1種の化合物」と呼ぶとき、「エポキシ化合物」が使用される。
【0030】
このホウ酸エステルを調製するのに適当なホウ素化合物には、種々の形状が挙げられ、これらは、ホウ酸(メタホウ酸HBO、オルトホウ酸HBOおよびテトラホウ酸Hを含めて)、酸化ホウ素、三酸化ホウ素およびホウ酸アルキルからなる群から選択される。このホウ酸エステルはまた、ハロゲン化ホウ素から調製できる。
【0031】
1実施態様では、このホウ酸エステルは、ホウ素化合物と、エポキシ化合物、二価アルコール、三価アルコールまたはそれより高級なアルコールとの反応により、形成される。このホウ酸エステルは、式(I)〜(VI)の少なくとも1つにより、表わされ得る:
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

ここで、各Rは、このホウ酸エステルが油溶性であるという条件で、水素またはヒドロカルビル基であり得る。
【0034】
1実施態様では、上式1つあたり、R基の少なくとも2個は、ヒドロカルビル基である。これらのヒドロカルビル基は、アルキルまたはアリール基、あるいは環状基であり、ここで、2個の隣接したR基は、環内で、連結されている。Rがアルキルであるとき、この基は、飽和または不飽和であり得る。1実施態様では、このヒドロカルビル基は、不飽和アルキルである。1実施態様では、このヒドロカルビル基は、環状である。1実施態様では、このヒドロカルビル基は、アルキルおよびシクロアルキルの混合物である。
【0035】
一般に、この分子上の炭素原子の数には、上限がないが、実用的な限界は、1実施態様では、500個、別の実施態様では、400個、別の実施態様では、200個、別の実施態様では、100個、別の実施態様では、60個である。例えば、各R内に存在している炭素原子の数は、1個〜60個、1個〜40個または1個〜30個の炭素原子であるが、但し、R基上の炭素原子の全数は、1実施態様では、9個またはそれ以上、別の実施態様では、10個またはそれ以上、別の実施態様では、12個またはそれ以上、別の実施態様では、14個またはそれ以上である。
【0036】
1実施態様では、全てのR基は、1個〜30個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であるが、但し、炭素原子の全数は、9個またはそれ以上である。
【0037】
1実施態様では、このホウ素含有化合物は、上記式(I)で表わされる。この実施態様では、式(I)で表わされるホウ酸エステルは、3個のヒドロカルビルR基を含有し、各々は、1実施態様では、1個〜8個の炭素原子、別の実施態様では、2個〜7個の炭素原子、別の実施態様では、3個〜6個の炭素原子を含有するが、但し、R基上の炭素原子の全数は、4個またはそれ以上、6個またはそれ以上、あるいは8個またはそれ以上である。
【0038】
R基の例には、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、アミル、2−ペンテニル、4−メチル−2−ペンチル、2−エチル−1−ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデセニル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルおよびエイコシル基が挙げられる。
【0039】
本発明のホウ酸エステルを調製するのに有用なエポキシ化合物には、式(VIIa)または(VIIb)で表わされ得る物質が挙げられる:
【0040】
【化3】

ここで、
は、1実施態様では、1個〜4個または1個〜2個の炭素原子を含有するアルキル鎖、別の実施態様では、水素である;
は、8個〜30個または10個〜26個または12個〜22個の炭素原子を含有するアルキル鎖である;そして
Tは、別個に、水素またはハロゲンである。
【0041】
1実施態様では、Tは、ハロゲン(例えば、塩素、臭素、ヨウ素またはフッ素)またはそれらの混合物であり、これらのエポキシ化合物は、エピハロヒドリン化合物である。1実施態様では、Tは、塩素である。1実施態様では、Tは、水素である。
【0042】
1実施態様では、本発明のエポキシ化合物には、C14〜C16エポキシドまたはC14〜C18エポキシドの市販混合物が挙げられる。1実施態様では、本発明のエポキシ化合物は、精製されている。適切な精製エポキシ化合物の例には、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシブタデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシノナデカンおよび1,2−エポキシイコサンが挙げられ得る。実施態様では、精製エポキシ化合物には、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,2−エポキシオクタデカンが挙げられる。1実施態様では、精製エポキシ化合物には、1,2−エポキシヘキサデカンが挙げられる。
【0043】
1実施態様では、これらの二価アルコール、三価アルコールまたはそれより高級なアルコールは、2個〜30個、4個〜26個または6個〜20個の炭素原子を含有する。これらのアルコール化合物には、グリセロール化合物(例えば、グリセロールモノオレエート)が挙げられ得る。
【0044】
このホウ酸エステルは、ホウ素化合物とエポキシ化合物または上記アルコールとをブレンドすることにより、そしてこれらを適当な温度(例えば、80℃〜250℃、90℃〜240℃または100℃〜230℃)で、所望の反応が起こるまで加熱することにより、調製され得る。このホウ素化合物とエポキシ化合物とのモル比は、典型的には、4:1〜1:4、1:1〜1:3、または約1:2である。この反応を実行する際に、不活性液体が使用され得る。この液体は、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミドおよびそれらの混合物であり得る。典型的には、水が形成され、この反応中に、留去される。この反応を触媒するために、アルカリ試薬が使用され得る。
【0045】
1実施態様では、適切なホウ酸エステル化合物には、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリノニルおよびホウ酸トリデシルが挙げられる。
【0046】
1実施態様では、これらのホウ酸エステル化合物には、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリ−2−エチルヘキシルまたはそれらの混合物が挙げられる。
【0047】
(ホウ酸塩分散剤)
別の実施態様では、このホウ素含有化合物は、ホウ酸塩分散剤であり、これは、典型的には、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドから誘導される。このN−置換長鎖アルケニルスクシンイミドは、種々の化学構造を有し、そして2つの典型的な式には、以下が挙げられる:
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

ここで、
各Rは、別個に、アルキル基である;
各Rは、アルキレン基である;そして
各繰り返し単位xは、1〜20、1〜15または1〜10の整数である。
【0050】
1実施態様では、Rは、350〜5000、または500〜3000または550〜1500(例えば、550、750または950〜1000、あるいは、1500〜2500)の数平均分子量を有するポリイソブチル基である。1実施態様では、Rは、さらに、追加スクシンイミド官能性で置換される。
【0051】
1実施態様では、Rは、エチレン(C)基である。
【0052】
このN−置換長鎖アルケニルスクシンイミドは、種々の試薬を使用して、ホウ酸塩化され、これらには、上式(I)または(VI)において、ホウ酸(メタホウ酸(HBO)、オルトホウ酸(HBO)およびテトラホウ酸(H)を含めて)、酸化ホウ素、三酸化ホウ素、およびホウ酸アルキルが挙げられる。1実施態様では、このホウ酸塩化剤は、ホウ酸であり、これは、単独で、または他のホウ酸塩化剤と併用して、使用され得る。
【0053】
このホウ酸塩化分散剤は、ホウ素化合物とN−置換長鎖アルケニルスクシンイミドとをブレンドすることにより、そしてそれらを、所望の反応が起こるまで、適当な温度(例えば、80℃〜250℃、90℃〜230℃または100℃〜210℃)で加熱することにより、調製され得る。これらのホウ素化合物とN−置換長鎖アルケニルスクシンイミドとのモル比は、1実施態様では、10:1〜1:4、別の実施態様では、4:1〜1:3、別の実施態様では、1:2である。この反応を実行する際には、不活性液体が使用され得る。この液体には、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミドまたはそれらの混合物が挙げられ得る。
【0054】
(摩擦調整剤)
本発明の摩擦調整剤には、ジチオカルバミン酸モリブデン、チオリン酸モリブデン、長鎖脂肪族エステルまたはそれらの混合物が挙げられる。
【0055】
1実施態様では、この摩擦調整剤は、この潤滑組成物の0.01重量%〜10重量%、別の実施態様では、0.02重量%〜5重量%、別の実施態様では、0.05重量%〜3重量%で、存在している。
【0056】
(長鎖脂肪族エステル)
1実施態様では、この摩擦調整剤は、長鎖脂肪族エステルである。別の実施態様では、この長鎖脂肪族エステルは、モノエステルであり、別の実施態様では、この長鎖脂肪族エステルは、(トリ)グリセリドである。
【0057】
この長鎖脂肪族エステルまたはグリセリドは、1実施態様では、脂肪酸から誘導され、これらは、長い炭化水素鎖と末端カルボキシレート基とを含有する種類の化合物であり、そして不飽和または飽和として特徴付けられる。1実施態様では、この長鎖脂肪族エステルは、長鎖脂肪酸とアルコールとの反応から誘導される。
【0058】
これらの長鎖脂肪酸化合物は、飽和または不飽和、脂肪族、非環式またはアリールであり得る。脂肪族であるとき、これらの長鎖脂肪酸化合物は、直鎖または分枝であるヒドロカルビル基を有し得る。1実施態様では、このヒドロカルビル基は、直鎖基である。1実施態様では、これらの長鎖脂肪酸化合物は、12個〜24個の炭素原子を含有し、例えば、14個〜20個または16個〜18個の炭素原子を含有するカルボン酸の混合物である。1実施態様では、この脂肪族カルボン酸は、直鎖ヒドロカルビル基を含有する。このような酸は、それより多いまたは少ない炭素原子を有する酸とも併用され得る。
【0059】
不飽和長鎖脂肪酸化合物の例には、カルボン酸、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸またはリノレン酸が挙げられる。飽和脂肪酸の例には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸またはそれらの混合物が挙げられる。
【0060】
典型的には、このアルコールは、ポリオールであり、これらには、ジオール、トリオール、およびそれより高いアルコールOH基を有するアルコール(これらは、しばしば、多価アルコールと呼ばれる)が挙げられる。多価アルコールには、エチレングリコール(ジ、トリおよびテトラエチレングリコールを含めて);プロピレングリコール(ジ、トリおよびテトラプロピレングリコールを含めて);グリセリン;ブタンジオール;ヘキサンジオール;ソルビトール;アラビトール;マンニトール;ショ糖;果糖;グルコース;シクロヘキサンジオール;エリスリトール;およびペンタエリスリトール(ジおよびトリペンタエリスリトールを含めて)が挙げられる。1実施態様では、このポリオールには、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0061】
1実施態様では、この摩擦調整剤は、ポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステルである。1実施態様では、このモノエステルは、グリセロールモノオレエートである。グリセロールモノオレエートは、他のこのような物質と同様に、その市販等級では、混合物であり、これは、グリセロール、オレイン酸、他の長鎖酸、グリセロールジオレエートおよびグリセロールトリオレエートのような物質を含有することが理解できるはずである。この市販物質は、35±5重量パーセントのグリセロールジオレエート、および約5重量パーセント未満のトリオレエートおよびオレイン酸と共に、約60±5重量パーセントの化学種「グリセロールモノオレエート」を含有すると考えられている。これらのモノエステル(下記)の量は、市販等級の物質の量である。
【0062】
1実施態様では、ポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステルは、ヒマワリ油との混合物の形態であり、これは、1実施態様では、この摩擦調整剤混合物中にて、該混合物の5〜95重量%、別の実施態様では、10〜90重量%、別の実施態様では、20〜85重量%、別の実施態様では、20〜80重量%で、存在している。
【0063】
1実施態様では、この長鎖脂肪酸エステルは、牛脂油、ラード油、パーム油、ヒマシ油、綿実油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、ダイズ油、ヒマワリ油、オリーブ油、クジラ油、メンハーデン油、イワシ油、やし油、パーム核油、ババス油、菜種油、大豆油またはアマニ油である。
【0064】
(ジチオカルバミン酸モリブデン)
1実施態様では、この摩擦調整剤は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)である。MoDTCの具体例には、市販の物質、例えば、Vanlube(商標)822およびMolyvan(商標)A(R.T.Vanderbilt Co.、Ltd.製)、およびAdeka Sakura−Lube(商標)S−100、S−165およびS−600(旭電化工業株式会社製)が挙げられる。他のジチオカルバミン酸モリブデンは、Wardの米国特許第4,846,983号;de Vriesらの米国特許第4,265,773号およびInoueらの米国特許第4,529,536号で記載されている。
【0065】
(追加性能添加剤)
1実施態様では、この方法は、必要に応じて、少なくとも1種の追加性能添加剤を含有する。この追加性能添加剤には、金属不活性化剤、清浄剤、分散剤、粘度調整剤、分散剤
粘度調整剤、極圧剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、腐食防止剤、発泡防止剤、解乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤およびそれらの混合物の少なくとも1種が挙げられる。1実施態様では、この追加性能添加剤は、単独で、または併用して、使用され得る。
【0066】
1実施態様では、存在している他の性能添加剤化合物を合わせた全量は、この潤滑組成物の0重量%〜30重量%、別の実施態様では、0.01重量%〜25重量%、別の実施態様では、0.1重量%〜20重量%の範囲である。これらの他の性能添加剤の1種またはそれ以上が存在し得るものの、他の追加性能添加剤は、互いに異なる量で存在していることが一般的である。
【0067】
もし、本発明が、濃縮物(これは、追加オイルと混ぜ合わされ得、全体または一部で、最終潤滑剤を形成する)の形状であるなら、種々の添加剤と、潤滑粘性のあるオイルおよび/または希釈剤との比は、重量基準で、80:20〜10:90の範囲である。
【0068】
酸化防止剤には、硫化オレフィン、ヒンダードフェノール、ジフェニルアミンが挙げられる;清浄剤には、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属と1種またはそれ以上のフェネート、硫化フェネート、スルホネート、カルボン酸、リン含有酸、モノ−および/またはジチオリン酸、サリゲニン、サリチル酸アルキル、サリキサレートとの中性またはオーバーベース化、ニュートン性または非ニュートン性塩基性塩が挙げられる;そして分散剤には、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドだけでなく、それらの種々の後処理したバージョン(ホウ素化合物での後処理を除く)が挙げられる。後処理分散剤には、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、ニトリル、エポキシドおよびリン化合物との反応によりさらに処理されたものが挙げられる。
【0069】
耐摩耗剤には、チオリン酸金属、特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛;リン酸エステルまたはそれらの塩;ホスファイト;およびリン含有カルボン酸エステル、エーテルおよびアミドのような化合物が挙げられる;耐スカッフィング剤には、有機スルフィドおよびポリスルフィド(例えば、ベンジルジスルフィド、ビス−(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、ジ−第三級ブチルポリスルフィド、ジ−第三級ブチルスルフィド、硫化ディールス−アルダー付加物またはアルキルスルフェニルN’N−ジアルキルジチオカーバメート)が挙げられる。極圧(EP)剤には、塩素化ワックス、有機スルフィドおよびポリスルフィド(例えば、ベンジルジスルフィド、ビス−(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジテルペン、硫化テルペン、および硫化ディールス−アルダー付加物);リン硫化炭化水素、チオカルバミン酸金属(例えば、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛)およびバリウムヘプチルフェノール二酸が挙げられる;これらもまた、本発明の組成物で使用され得る。
【0070】
粘度調整剤には、スチレン−ブタジエンの水素化共重合体、エチレン−プロピレン重合体、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレン重合体、水素化イソプレン重合体、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアルキルスチレン、アルケニルアリール共役ジエン共重合体、ポリオレフィン、ポリメタクリル酸アルキル、および無水マレイン酸−スチレン共重合体のエステルが挙げられる。分散剤−粘度調整剤(これは、しばしば、DVMと呼ばれる)には、官能化ポリオレフィン(例えば、無水マレイン酸とアミンとの反応生成物で官能化したエチレン−プロピレン共重合体、アミンで官能化したポリメタクリレート(これは、例えば、窒素含有コモノマーの取り込みに由来する))、またはアミンと反応させたエステル化スチレン−無水マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0071】
追加性能添加剤(例えば、腐食防止剤であって、これには、オクチルアミンオクタノエート、ドデセニルコハク酸またはその無水物および脂肪酸(例えば、オレイン酸)とポリアミンとの縮合生成物が挙げられる;金属不活性化剤であって、これには、ベンゾトリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾイミダゾールまたは2−アルキルジチオベンゾトリアゾールの誘導体が挙げられる;消泡剤であって、これには、アクリル酸エチルとアクリル酸2−エチルヘキシルおよび必要に応じて酢酸ビニルとの共重合体が挙げられる;解乳化剤であって、これには、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)重合体が挙げられる;流動点降下剤であって、これには、無水マレイン酸−スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートまたはポリアクリルアミドが挙げられる;およびシール膨潤剤であって、これには、Exxon Necton−37(商標)(FN 1380)およびExxon Mineral Seal Oil(FN 3200)が挙げられる)もまた、本発明の組成物で使用され得る。
【0072】
以下の実施例は、本発明を例示する。これらの実施例は、全てを網羅するものではなく、本発明の範囲を限定するとは解釈されない。
【実施例】
【0073】
(実施例1〜2および参考例1〜2)
10W−40潤滑剤に表1で示した添加剤をブレンドすることにより、組成物を調製する。表1の量は、希釈油を含んで提示されており、また、グリセロールモノオレエートについては、市販等級の物質中の他の成分を含む。
【0074】
(表1)
【0075】
【表1】

(摩擦試験)
市販の可変速度摩擦試験機器を使用して、摩擦試験を実行する。この試験で使用こした機器を、標準下盤を1998 Yamaha YZF1000 R1 オートバイクラッチプレートセクションで置き換えることにより、改造する。この機器の上盤もまた、小径トラックで改造して、以下の寸法の浅いC形(30°セグメント)クラッチプレートセクションに適合させる:13mm幅、Cの長い側面は、38mmであり、短い側面は、32mmである。この機器を、100°で、0.2m/sの線形スリップ速度および59N(または6kgf)の荷重を使って、操作する。摩擦係数を測定する前に、この機器を、以上の条件下にて、平衡化させる。次いで、この機器を、試料にて、60分間運転させる。実施例1〜2および参考例1〜2について得られた結果は、表2で示す。
【0076】
(表2)
【0077】
【表2】

全体的に見て、これらの結果は、ホウ素含有化合物の存在によって、クランクケース、ギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つを備えた内燃機関用の潤滑組成物にて、摩擦係数の過度の低下なしで、摩擦調整剤が存在できるようになる。
【0078】
本明細書中では、本明細書中で使用する「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」との用語は、通常の意味で使用され、これは、当業者に周知である。具体的には、それは、主として、炭素原子および水素原子から構成され、炭素原子を介して分子の残部に結合された基であって、そして主として炭化水素的な性質を有する分子を損なうには十分ではない割合で、他の原子または基の存在を排除しない基を意味する。一般に、このヒドロカルビル基では、各10個の炭素原子に対し、2個以下の非炭化水素置換基、1局面では、1個以下の非炭化水素置換基が存在する;典型的には、このヒドロカルビル基には、このような非炭化水素置換基は存在しない。「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」のさらに詳細な説明は、米国特許第6,583,092号で提供されている。
【0079】
上で引用した各文献の内容は、本明細書中で参考として援用されている。実施例を除いて、他に明らかに指示がなければ、物質の量を特定している本記述の全ての数値量、反応条件、分子量、炭素原子数などは、「約」という用語により修飾されることが分かる。他に指示がなければ、本明細書中で言及した各化学物質または組成物は、市販等級の物質であると解釈されるべきである。しかしながら、各化学成分の量は、特に明記しない限り、いずれの溶媒または希釈油(これは、市販物質中にて、通例、存在し得る)も除いて、提示されている。本明細書中で示した上限および下限の量、範囲および比は、別個に組み合わされ得ることが分かる。同様に、本発明の各要素の範囲および量は、他の要素のいずれかの範囲または量と併用され得る。
好ましい実施形態においては、本発明は、以下を提供する。
(項1)
クランクケースとギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとを含む内燃機関を潤滑させる方法であって、該方法は、該クランクケースと該ギアおよびウェットクラッチの少なくとも1つとに、以下を含有する潤滑組成物を供給する工程を包含する:
(a)潤滑粘性のあるオイル;
(b)ホウ素含有化合物;および
(c)摩擦調整剤。
(項2)
前記潤滑組成物が、前記クランクケースと前記ギア(または多数のギア)に供給される、上記項1に記載の方法。
(項3)
前記潤滑組成物が、前記クランクケースと前記ウェットクラッチとに供給される、上記項1に記載の方法。
(項4)
前記潤滑組成物が、前記クランクケースと前記ギア(または複数のギア)および前記ウェットクラッチの両方とに供給される、上記項1に記載の方法。
(項5)
前記ホウ素含有化合物が、ホウ酸エステル、ホウ酸エステルアルコール、ホウ酸塩分散剤またはそれらの混合物を含む、上記項1に記載の方法。
(項6)
前記ホウ素含有化合物が、ホウ酸塩分散剤である、上記項1に記載の方法。
(項7)
前記ホウ素含有化合物が、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドである、上記項1に記載の方法。
(項8)
前記N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドが、350〜5000または550〜1500の数平均分子量を有するポリイソブチル基を含む、上記項1に記載の方法。
(項9)
前記ホウ素含有化合物が、前記潤滑組成物の0.01重量%〜20重量%、または1重量%〜8重量%で存在している、上記項1に記載の方法。
(項10)
前記摩擦調整剤が、ジチオカルバミン酸モリブデン、チオリン酸モリブデン、長鎖脂肪族エステルまたはそれらの混合物を含む、上記項1に記載の方法。
(項11)
前記長鎖脂肪族エステルが、モノエステルまたは(トリ)グリセリドである、上記項10に記載の方法。
(項12)
前記摩擦調整剤が、前記潤滑組成物の0.01重量%〜10重量%、または0.05重量%〜3重量%で存在している、上記項1に記載の方法。
(項13)
前記潤滑組成物が、XW−YのSAE粘度等級を有し、ここで、Xが、0〜20であり、そしてYが、20〜50である、上記項1に記載の方法。
(項14)
前記内燃機関が、4−ストロークエンジンである、上記項1に記載の方法。
(項15)
前記4−ストロークエンジンが、オートバイエンジンである、上記項1に記載の方法。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明


【公開番号】特開2012−246500(P2012−246500A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−203136(P2012−203136)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2007−548279(P2007−548279)の分割
【原出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】