説明

摩擦学的適用分野のための材料

本発明は、セラミック材料並びに金属成分として銅又は銅合金からなるプリフォームを有する特に摩擦学的適用分野のための金属セラミック複合材に関し、その際、前記セラミック割合は、30〜80体積%の範囲内であり及び銅又は銅合金の割合は20〜70体積%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の摩擦学的適用分野のための材料に関する。
【0002】
先行技術
摩擦学的部材、つまり摩擦がかかる部材、特に自動車において使用されるブレーキディスク又はブレーキドラムに対する高まる要求は、高い耐腐食性及び耐摩耗性、高い熱伝導率及び高い機械的強度、並びに900℃の温度までの高い温度安定性を有する材料を必要とする。
【0003】
通常では、このような使用目的のために使用される材料、例えばねずみ鋳鉄は、前記の要求、特に耐腐食性及び耐摩耗性に関して、既に現在でもしばしば満たすことはできないが、特に将来予想される要求プロフィールに対しても満たすことができない。
【0004】
新規の材料バッチは、耐腐食性の金属相と摩耗を低減させるセラミック部分とをベースとする複合材、特にいわゆる金属セラミック複合材(例えば「金属基複合材」=MMC)である。この場合、一方の、セラミック繊維又は粒子を20体積%まで鋳造すべき金属相に混入されている「鋳造MMC」材料と、他方の、多孔性セラミック予備成形品(いわゆるプリフォーム)を外部圧力の印加下で金属溶融液で溶浸することにより製造した「プリフォームMMC」材料とは異なる。
【0005】
結果として、後者の場合に、80体積%までの実現可能なセラミック割合を有するセラミック相と金属相とからなる相互侵入型網目が生じる。この高いセラミック割合は、プリフォームMMC材料が、鋳造MMC材料と比べて、耐腐食性及び耐摩耗性である要因である。
【0006】
1997年以来、既にブレーキディスク及びブレーキドラムは、アルミニウムベースの鋳造MMC材料から製造されている。例えば、VW小型車モデルLupo 3Lのリアブレーキドラムは、商品名Duralcanの材料から製造されている。この材料は、アルミニウム鋳造合金80体積%とセラミック粒子(SiC)20体積%とから構成され、US 4865806に記載されているようにいわゆる「撹拌鋳造(Stir-Casting)法」で製造される。この場合、主にアルミニウム合金を使用することにより達成される前記材料の低い密度が有利である(標準材料のねずみ鋳鉄からなるブレーキディスクが7.2g/cm3に対して2.8g/cm3)。鋳造MMCのために特徴付けられる低いセラミック割合のこの材料バッチの場合には、耐摩耗性を向上させる能力が著しく制限されることが不利に作用する。
【0007】
このために、一般に、アルミニウムベースの鋳造MMC材料及びプリフォームMMC材料には、600℃を下回る関連するアルミニウム合金の低い溶融温度及び低い軟化温度が、重量の重い高性能自動車、つまり特に中型自動車及び高級自動車、SUV、Vans及びスポーツカーのためのブレーキ材料としての使用を不可能にしている、それというのもこの場合に高いブレーキ温度が予想されるためである。これは、ブレーキ操作の間のブレーキディスク又はブレーキドラムの摩擦面への高いエネルギー伝達が原因であり、このエネルギー伝達は700℃を超える温度を生じさせることがある。
【0008】
発明の開示
従って、本発明の課題は、低い重量にもかかわらず高い温度安定性を有し、更に耐摩耗性及び耐腐食性の明らかな改善を保障する、摩擦学的適用分野のための材料、特にブレーキディスク又はブレーキドラムとしての材料を提供することである。
【0009】
前記課題は請求項1の特徴によって解決される。従属請求項には本発明の有利な実施形態が示されている。
【0010】
従って、セラミック材料並びに金属成分として銅又は銅合金からなるプリフォームを有する特に摩擦学的適用分野のための金属セラミック複合材が考慮され、その際、前記セラミック割合は、30〜80体積%の範囲内であり及び銅又は銅合金の割合は20〜70体積%の範囲内である。
【0011】
鋳造MMCと比べてこのプリフォーム法により達成できる、80体積%までの明らかに高いセラミック割合は、前記材料の耐摩耗性及び耐腐食性に関して有利に作用する。これにより、より長い寿命、より高い光学的輝き及び改善されたブレーキ快適性が生じる。
【0012】
高融点金属相−つまり銅又は銅合金を有するプリフォームMMCの使用により、更にアルミニウムベースの材料と比べて明らかに高い使用温度が可能である。この本発明による材料は、従って明らかに広範囲な車種のためのブレーク材料として使用可能である。
【0013】
特に、前記銅合金は、Cu−ETP、CuMgx、CuAlx、CuSix、CuZrx、CuTix、CuZnx又はCuAlxFeyNizであるのが有利である。
【0014】
金属セラミック複合材料に関する銅又は銅合金の割合は、この場合に特に有利に25〜60体積%である。
【0015】
前記プリフォームのためのセラミック材料として、酸化物(例えばTiO2、Al23)、炭化物(例えばSiC、TiC、WC、B4C)、窒化物(例えばSi34、BN、AlN、ZrN、TiN)、ホウ化物(例えばTiB2)及び/又はケイ酸塩が挙げられる。前記セラミック材料は、前記プリフォームの製造の場合に有利に粒子の形又は繊維の形で存在する。
【0016】
同様に、このセラミック材料を補強部材又は機能部材として利用することもできる(例えばSiC又はAlNは熱伝導性の改善のため、セラミック繊維は破壊靭性及び強度等の改善のため)。
【0017】
前記プリフォームは多孔性セラミック基本構造を有し、前記基本構造中に銅溶融液又は溶融した合金を溶浸させる事実に基づいて、前記プリフォームと凝固した金属との間に緊密な結合が生じる。この場合、金属及びセラミックからなる相互侵入型網目が形成され、その際、特に金属ネットワークにより前記成形品の強度及び靭性が更に高められる。
【0018】
金属セラミック複合材のセラミック割合は、この場合特に有利に40〜75体積%である。
【0019】
更に、特に自動車製造における摩擦学的適用分野のための、本発明の請求項による金属セラミック複合材を有する部材が考慮される。部材として、特にブレーキディスク又はブレーキドラムが挙げられるが、特に自動車製造、オートバイ製造、航空機製造及び船舶製造において、高い機械的及び熱的負荷をもたらさなければならず、かつ同時に僅かな比重を有するべきでありかつ耐腐食性でなければならない他の部材が挙げられる。
【0020】
前記部材は、高いエネルギー導入の結果として摩擦負荷の間に生じる高い熱勾配又は大きな熱応力を避けるため、有利に>70W/mKの熱伝導率()を有する。これは、特に、銅割合によって実現される、それというのも、銅は極めて高い特有の熱伝導率を有するためである。
【0021】
前記部材の強度は、>200MPa、有利に>350MPaである。ここでは、鋳造MMCと比べて高いセラミック割合が効果を発揮する。
【0022】
重量が重くかつ高性能の自動車の場合に使用することも可能であるため、最大使用温度>800℃が目標とされる。これは、同様に、前記銅割合により達成される、それというのも銅及び銅合金はアルミニウム又はアルミニウム合金よりも高い融点を有するためである。
【0023】
更に、前記請求項のいずれか1項記載の金属セラミック複合材の製造方法が考慮され、前記方法は次の工程を有する:
a) 有利に前記記載によるセラミック材料から焼結により多孔性セラミック予備成形品(プリフォーム)を製造する工程(焼結工程);及び
b) 前記プリフォームを予め前記銅又は銅合金の溶融温度付近の温度にもたらし、前記プリフォームを銅又は銅合金からなる溶融液で溶浸する工程(溶浸工程)。
【0024】
前記プリフォームの多孔率は、この場合20〜70体積%、有利に25〜60体積%である。多孔率とは、多孔性固体の全ての中空空間の体積対前記多孔性固体の外見上の体積の比であると解釈され、その際、前記中空空間は、この場合、一般に網目状に相互に結合され、前記多孔性固体を取り囲む雰囲気と交換されているか又は結合されている(いわゆる連続気泡)。これは、所定の体積中で本来の固体のスペースがどのくらい満たしているか又は前記固体はその中にどのくらいの中空空間を残しているかの尺度である。前記孔は、この場合一般に空気で満たされている。従って、プリフォームの多孔率により、一般に既に、前記プリフォームMMCのセラミック成分と金属成分との後の予想される体積割合が定められる。
【0025】
熱衝撃及び溶浸フロント(Infiltrationsfront)の際の金属溶融物の早すぎる硬化を避けるために、更に、セラミック予備成形品は、溶融温度付近の温度を有することを保障しなければならず、その際、前記温度差は、350℃より大きくなく、有利に100℃より大きくないのが好ましい。
【0026】
これは、例えば、スクイズキャスティングを用いた溶融液溶浸の適用の場合に、前記鋳型の外側で前記予備成形品を予熱し、前記予備成形品の溶浸プロセスの直前に前記鋳型中に装入することにより保障することができる。
【0027】
熱衝撃及び予備成形品の早すぎる冷却を避けるために、前記鋳型は有利に予熱されているのが好ましく、鋳型と予備成形品との直接的な接触は、例えば絶縁材料、例えばセラミックペーパー又はセラミック不織布を有するスペーサー又はライニングにより避けるのが好ましい。
【0028】
付加的な手段は、予熱されたセラミック予備成形品を絶縁性被覆で、例えばセラミックペーパー又はセラミック不織布又は前記型に適合する鋼製の中空体を用いて取り囲むことにある。金属溶融液を用いた溶浸は、反応を促進するように行われるか又は反応性ではなく行われ、つまり、前記セラミック相の表面区域に限定的に反応が行われるだけであるか又は金属相とセラミック相との間の反応は行われない。前記セラミック相の表面反応により溶浸の品質を改善しかつ溶浸圧力を低めることができる(この原因は生じる反応熱又は新たに形成される界面相のために変化する表面張力である)。
【0029】
更に、前記セラミック材料には焼結の前に1種以上の気孔形成剤を添加することが考慮される。これは、一般に、容易に焼失可能な縦長の材料であり、前記材料は焼結の間に燃焼し、通路及び気孔のネットワークを生じさせ、このネットワークは引き続き金属溶融液の溶浸を容易にし、前記プリフォームと凝固する金属との間の緊密な結合を可能にする。このように作製された通路は、2〜50μm、有利に5〜30μmの幅を有する。仕上がった成形品中の通路を埋める金属通路によって前記成形品の強度及び靭性は更に高められる。
【0030】
前記気孔形成剤は、設定された焼結パラメータの他に、所定の多孔率の調節に著しく影響を及ぼす。気孔形成剤は、しかしながら特に、気孔通路のネットワークを作製するために、セラミックプリフォームの製造の際に使用することもでき、前記気孔通路は前記プリフォームの溶浸性を改善することになり、前記気孔通路は、この場合、溶浸通路として機能する。更に、こうして生じた金属通路は、材料の強度及び靭性を高める。
【0031】
特に、1〜30%、有利に2〜20%の体積割合を有するセルロースチップ又はセルロース繊維を使用することが有利である。更に、気孔形成剤として、例えばカーボンブラック粒子、コメデンプン又は有機マクロ分子、例えばフラーレン又はナノチューブも考えられる。主に、気孔形成剤として、焼結の際に燃焼、分解又はガス化し、このように中空空間が前記材料中に作製する材料が適している。
【0032】
その他の点では、焼結の際にガスを放出して気孔を形成する材料も考えられる。ここでは、例えばNaHCO3も挙げられ、これは加熱の下でCO2を放出する。
【0033】
更に、銅又は銅合金からなる溶融液を外部圧力を使用して溶浸させることも考慮される。
【0034】
可能な方法として、特にガス圧溶浸又は公知の「スクイズキャスティング(Squeeze Casting)」技術を用いた溶融液溶浸が挙げられる。
【0035】
実施例
TiO2からなり、多孔率50体積%を有するセラミック予備成形品を、Cu−ETPからなる溶融液で、スクイズキャスティング法で溶浸した。得られたCu−MMC材料の機械的強度は384MPaであり、熱伝導率は91W/mKであった。前記Cu−MMCの35℃での水中の腐食速度は、ねずみ鋳鉄の場合よりも28分の1であり、この摩耗率はねずみ鋳鉄の摩耗率よりも2桁少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) セラミック材料、並びに
b) 金属成分として銅又は銅合金からなるプリフォームを有し、前記セラミック割合は、30〜80体積%の範囲内であり及び銅又は銅合金の割合は20〜70体積%の範囲内である、特に摩擦学的適用分野のための金属セラミック複合材。
【請求項2】
銅合金は、Cu−ETP、CuMgx、CuAlx、CuSix、CuZrx、CuTix、CuZnx及び/又はCuAlxFeyNizを有するグループから選択される合金であることを特徴とする、請求項1記載の金属セラミック複合材。
【請求項3】
前記プリフォーム用のセラミック材料は、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物及び/又はケイ酸塩からなるグループから選択される1種以上の材料であることを特徴とする、請求項1又は2記載の金属セラミック複合材。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の金属セラミック複合材を有する、特に自動車製造における摩擦学的適用分野のための部材。
【請求項5】
次の工程:
a) 有利に請求項1から4までのいずれか1項記載のセラミック材料から焼結により多孔性セラミック予備成形品(プリフォーム)を製造する工程(焼結工程);及び
b) 前記プリフォームを予め銅又は銅合金の溶融温度付近の温度にもたらし、前記プリフォームを、有利に請求項2記載の銅又は銅合金からなる溶融液で溶浸する工程(溶浸工程)
を有する請求項1から4までのいずれか1項記載の金属セラミック複合材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック材料に焼結の前に1種以上の気孔形成剤を添加することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
銅又は銅合金からなる溶融液を外部圧力の使用下で溶浸することを特徴とする、請求項5又は6記載の方法。

【公表番号】特表2010−508442(P2010−508442A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535041(P2009−535041)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059512
【国際公開番号】WO2008/052833
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】