説明

摩擦撹拌接合工具

【課題】 被接合材を削り取ってしまうことなく摩擦撹拌接合する摩擦撹拌接合工具を提供すること。
【解決手段】 被接合材200同士を突き合わせた接合部に撹拌ピン4を回転させながら挿入し、そのまま接合部に沿って移動させることにより、摩擦熱によって摩擦撹拌して当該接合部を接合するためのものであって、撹拌ピン4は接合部を押圧する円柱状のピンツール2,3に対して同軸に設けられ、そのピンツール2,3は被接合材を押圧するショルダ5,6の周囲に曲面が形成された摩擦撹拌接合工具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合材同士を突き合わせた接合部をピンツールで押さえ込み、そのピンツールから突設した撹拌ピンを回転させながら移動させることによって、生じる摩擦熱で接合部を接合する摩擦撹拌接合工具に関し、特に曲面が形成された接合部分を削り取ってしまうことなく接合することができる摩擦撹拌接合工具に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、下記特許文献1に記載する摩擦撹拌接合工具を示した図である。この摩擦撹拌接合工具100は、一対のアルミニウム合金プレート210,220の突き合わせた端面を接合するものである。それには、アルミニウム合金プレート210,220が互いに突き合わされ、その接合部200に沿って摩擦撹拌接合工具100が移動することによって行われる。その摩擦撹拌接合工具100は、プレート210,220の上下面を挟む間隔でピンツール101,102が配置され、接合部を回転移動する撹拌ピン103がそのピンツール101,102と同軸に設けられている。一体に形成されたピンツール101,102及び撹拌ピン103は、モータ104によって回転するよう構成されている。
【0003】
モータ104の駆動によって回転する摩擦撹拌接合工具100は、撹拌ピン103が結合部200でアルミニウム合金プレート210,220に接触しながら矢印F方向に移動する。このとき撹拌ピン103は、その周りに可塑性材の部分領域を作り、ピンツール101,102は、上下方向からプレート210,220を押圧し、可塑性ゾーンから材料が失われるのを防いでいる。よって、こうした摩擦撹拌接合では、プレート210,220が接合部200の突き当て部分で発熱して軟化し、塑性流動してできた可塑性材によって固相接合される。
【特許文献1】特表平07−505090号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の摩擦撹拌接合工具100は、被接合材であるプレートなどを削り取ってしまう問題があった。すなわち、従来の摩擦撹拌接合工具100は、図4に示すようにピンツール101,102は円柱形状をしていて、被接合材と接する面のショルダ110は、その周囲が角形状になっていた。また、こうした図4に示したもの以外にも、ピンツールのショルダの周囲を刃先形状にして、摩擦撹拌時に積極的に被接合材を接合部へ材料が取り込めるようにした摩擦撹拌接合工具もある。
【0005】
摩擦撹拌接合を行う被接合材には、例えば図5に示すような中空押出型材200がある。この中空押出型材200は、2枚の平行な上面板201と下面板202との間に、複数の斜面板203が交互に傾きを変えて張り渡されたトラス状のパネルである。
そして、この中空押出型材200を摩擦撹拌接合するには、その端面同士を突き合わせ、摩擦撹拌接合工具100を回転させながら接合線に沿って移動させる。その際、上面板201同士の接合部分は平らになっていて問題はないが、下面板202同士の接合部分は、内側が斜面板203から下面板202にかけて破線で示すように曲面205になっているため、その曲面205部分が削り取られてしまう。
【0006】
すなわち、従来の摩擦撹拌接合工具100は、ショルダ110の周囲が角部になっているため、その曲面205の部分が削り取られてしまう。これは、中空押出型材200の必要な強度を低下させることにもなるため好ましくなかった。
また、こうした曲面205の削り取りを無くすには、斜面板203同士の間隔を広げてピンツール102のショルダに曲面が当たらないようにすればよい。しかし、それでは接合部の剛性が低くなってやはり強度上好ましくなかった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、被接合材を削り取ってしまうことなく摩擦撹拌接合する摩擦撹拌接合工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の摩擦撹拌接合工具は、被接合材同士を突き合わせた接合部に撹拌ピンを回転させながら挿入し、そのまま接合部に沿って移動させることにより、摩擦熱によって摩擦撹拌して当該接合部を接合するためのものであって、前記撹拌ピンは接合部を押圧する円柱状のピンツールに対して同軸に設けられ、そのピンツールは被接合材を押圧するショルダの周囲に曲面が形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明の摩擦撹拌接合工具は、前記ピンツールは前記撹拌ピンの上下にあって、前記被接合材の接合部を挟み込むようにしたものであることを特徴とする。
また、本発明の摩擦撹拌接合工具は、前記ピンツールが、上下一方のピンツールのショルダに曲面が形成され、他方のピンツールのショルダは平面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明の摩擦撹拌接合工具によれば、接合部に曲面を有する被接合材の接合を行う場合、上下両方或いは一方からピンツールが被接合材の突き合わせ部分を押さえ、そのまま接合部分に沿って撹拌ピンが回転しながら移動する。すると、撹拌ピンが突き合わせ部分に可塑性材の部分領域を作り、その際、ピンツールが可塑性ゾーンから材料が失われるのを防いでいるが、特に接合部の曲面部分では、ショルダの周囲に曲面を形成されているので、被接合材を削り取ってしまうことが無くなった。
そのため、本発明の摩擦撹拌接合工具では、例えば応力集中や疲労破壊の原因となる等の強度上の不都合を生じることが回避できるようになり、被接合材の接合部分について効率的な接合設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に係る摩擦撹拌接合工具の一実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の摩擦撹拌接合工具における施工状況を示した図である。ここでは、前述した従来例と同様に中空押出型材を接合する場合について示している。
中空押出型材200は、前述したように2枚の平行な上面板201と下面板202との間に、複数の斜面板203が交互に傾きを変えて張り渡されたトラス構造をしたパネルである。
【0011】
この斜面板203は、中空押出型材200の剛性を高めるよう設計されている。すなわち、斜面板203の中心線Lを見た場合、その交点はなるべく上面板201や下面板202の内側にあって三角形を構成する方が構造的に安定して剛性も高くなる。従って、接合部分を挟んで設けられた斜面板203もより近くで接合するのが好ましい。そこで、摩擦撹拌溶接によって中空押出型材200同士を突き合わせて接合する場合、斜面板203同士が極力近づくようにしている。こうしたことから従来の摩擦撹拌接合工具100では、下面板202同士の接合部分にできた斜面板203から下面板202に連続する曲面205部分を削ってしまっていた。
【0012】
これに対して本実施形態の摩擦撹拌接合工具1は、その曲面部分を削り取ることなく施工が可能な形状をしている。摩擦撹拌接合工具1は、被接合材の上下を挟むようにピンツール2,3が設けられ、その間には同軸上に撹拌ピン4が一体に形成されている。そうしたピンツール2,3や撹拌ピン4は、不図示のモータによって回転するよう構成されている。そして、本実施形態の摩擦撹拌接合工具1は、被接合材を挟み込むピンツール2,3がショルダ5,6の周囲に曲面が形成されている。特に、ピンツール3のショルダ6の曲面は、従来削り取られていた斜面板203から下面板202へ連続する部分の曲面205に合うように形成されている。
【0013】
そこで、端部を突き合わせた中空押出型材200同士を接合する場合、上面板201は平らな面を接合するため、従来から使用されている摩擦撹拌接合工具100によって接合が行われる。その一方、下面板202は曲面205を有するため、本実施形態の摩擦撹拌接合工具1が使用される。なお、上面板201の接合は従来例と同様なのでここでの説明は省略する。
【0014】
中空押出型材200の下面板202を接合する場合、上下方向からピンツール2,3が被接合材である下面板202の突き合わせ部分を挟み込む。そして、そのまま接合部分に沿って撹拌ピン4が回転しながら移動する。
すると、撹拌ピン4が突き合わせ部分に可塑性材の部分領域を作り、その際、ピンツール2,3が可塑性ゾーンから材料が失われるのを防いでいる。従って、突き合わされた下面板202同士は、接合部の突き当て部分が発熱して軟化し、塑性流動してできた可塑性材によって固相接合される。
【0015】
このとき、摩擦撹拌接合工具1は、そのピンツール3が下面板202の曲面205を同じ曲面の形成されたショルダ6が面同士を合わせて押さえ付けている。従って、中空押出型材200を削り取ることなく、発熱軟化した接合部の材料の流失を防いでいる。
こうして本実施形態の中空押出型材1では、接合部に曲面を有する被接合材を摩擦撹拌接合の際に削り取ってしまい強度低下を引き起こすことがなくなり、故に削り取りを考慮して余分に肉厚にする非効率な構造設計をする必要もなくなった。
【0016】
次に、図2は、摩擦撹拌接合工具1を使用した別の被接合材における施工状況を示した図である。この被接合材300は、図示するように湾曲して図面を貫く方向に延びた板材である。その被接合材300同士を摩擦撹拌接合する場合も、前記中空押出型材200の下面板202の接合と同様に、従来の摩擦撹拌接合工具100では湾曲した上面側を削り取ってしまう。そこで、本実施形態の摩擦撹拌接合工具1を使用すると、上下方向からピンツール2,3が被接合材300の突き合わせ部分を挟み込み、そのまま接合線に沿って移動する。
【0017】
こうして被接合材300を接合する場合、上下のピンツール2,3が被接合材である被接合材300の突き合わせ部分を挟み込む。そして、そのまま接合部分に沿って撹拌ピン4が回転しながら移動する。
すると、撹拌ピン4が突き合わせ部分に可塑性材の部分領域を作り、その際、ピンツール2,3が可塑性ゾーンから材料が失われるのを防いでいる。従って、突き合わされた被接合材300同士は、接合部の突き当て部分が発熱して軟化し、塑性流動してできた可塑性材によって固相接合される。
【0018】
このとき、摩擦撹拌接合工具1は、ショルダ5の周囲が曲面のピンツール3が湾曲した被接合材300を削り取ることなく、発熱軟化した接合部の材料が流失するのを防いでいる。従って、被接合材300は、削り取りによって強度低下を起こすことなく、削り取りを考慮して余分に肉厚にする非効率な構造設計をする必要もない。
【0019】
ところで、摩擦撹拌接合工具は図1や図2に示すように被接合剤を挟み込むものばかりではなく、図3に示すように、下方に被接合材300を受ける治具400を設けることにより、ピンツール11に撹拌ピン12を突設させただけの摩擦撹拌接合工具10もある。こうした摩擦撹拌接合工具10を使用する場合、ピンツール11を介してかかる押し付け荷重が大きいため、図1に示すような中空押出型材200にはあまり適さないが、図3に示すように治具400によって荷重を受けることができるようにした被接合材300には有効である。
【0020】
従って、摩擦撹拌接合工具10を使用すると、上方からピンツール11が被接合材300の突き合わせ部分を押さえ込み、そのまま接合部分に沿って移動する。そして、撹拌ピン12が突き合わせ部分に可塑性材の部分領域を作り、ピンツール11が可塑性ゾーンから材料が失われるのを防いでいる。従って、被接合材300は、接合部の突き当て部分が発熱して軟化し、塑性流動してできた可塑性材によって固相接合される。
このとき、摩擦撹拌接合工具10は、そのピンツール11が被接合材300を削り取ることなく、発熱軟化した接合部の材料が流失するのを防いでいる。従って、被接合材300は、削り取りによって強度低下を起こすことなく、削り取りを考慮して余分に肉厚にする非効率な構造設計をする必要もない。
【0021】
よって、本実施形態の摩擦撹拌接合工具1,10によれば、被接合材の接合部分が曲面形状をしていても、ショルダ6の周囲に接合部の曲面に合うように曲面を形成しているので、被接合材を削り取ってしまうことが無くなった。そのため、例えば応力集中や疲労破壊の原因となる等の強度上の不都合を生じることが回避できるようになる。
また、被接合材を削り取ることが無くなったことで、被接合材の接合部分について効率的な接合設計が可能になった。そして、削り取りによる強度低下を考慮した余分な肉厚構造とすることが無くなって、被接合材にとって軽量構造設計への効果が大きくなった。
【0022】
以上、本発明の摩擦撹拌接合工具の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態の摩擦撹拌接合工具1では、両方のピンツール2,3のショルダ5,6に曲面を形成しているが、平面や逃げる方向に湾曲した側の曲面を押さえ込むピンツール2,3のショルダ5,6は従来と同様に平面であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】摩擦撹拌接合工具の一実施形態であって、中空押出型材を接合する場合を示した図である。
【図2】摩擦撹拌接合工具の一実施形態であって、湾曲した板材を接合する場合を示した図である。
【図3】摩擦撹拌接合工具の他の実施形態であって、湾曲した板材を接合する場合を示した図である。
【図4】従来の摩擦撹拌接合工具を示した図である。
【図5】従来の摩擦撹拌接合工具によって中空押出型材を接合する場合を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
1 摩擦撹拌接合工具
2,3 ピンツール
4 撹拌ピン
5,6 ショルダ
200 中空押出型材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合材同士を突き合わせた接合部に撹拌ピンを回転させながら挿入し、そのまま接合部に沿って移動させることにより、摩擦熱によって摩擦撹拌して当該接合部を接合するための摩擦撹拌接合工具において、
前記撹拌ピンは接合部を押圧する円柱状のピンツールに対して同軸に設けられ、そのピンツールは被接合材を押圧するショルダの周囲に曲面が形成されたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合工具。
【請求項2】
請求項1に記載する摩擦撹拌接合工具において、
前記ピンツールは前記撹拌ピンの上下にあって、前記被接合材の接合部を挟み込むようにしたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合工具。
【請求項3】
請求項2に記載する摩擦撹拌接合工具において、
前記ピンツールは、上下一方のピンツールのショルダに曲面が形成され、他方のピンツールのショルダは平面であることを特徴とする摩擦撹拌接合工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate