説明

摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法

【課題】接合する2つの部材の摩擦攪拌接合前に実施する両部材の仮付け方法として、安定した摩擦攪拌接合部を提供するとともに効率的な仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法を提供する。
【解決手段】摩擦攪拌接合で接合される2つのアルミ部材10,20は、突合せ部に対して両アルミ部材10,20の接合線30を跨ぐ位置に両アルミ部材と同じアルミ素材で作られているスタッド材40をスタッド溶接することにより、仮付けされる。この仮付け状態で、摩擦攪拌接合用回転工具を両部材10,20の突合せ部に挿入し、回転しながら接合線30に沿って移動させるとき、仮付け部が工具の回転に起因した開き力に対抗し、両部材10,20は安定して摩擦攪拌接合される。両部材10,20の仮付けに作業者の技量に依らないスタッド工法を採用することで、安定した摩擦攪拌接合部を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2つの部材の摩擦攪拌接合において、摩擦攪拌接合を安定して行うための仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材の突合せ部を摩擦攪拌接合する場合、摩擦攪拌接合中に2つの部材の突合せ部を広げようとする力が発生する場合がある。突合せ部の隙間が許容以上の広さになると、摩擦攪拌接合部に欠陥が発生することがある。特に、鉄道車両のような20〜25mの長尺な部材例えば押出し形材の摩擦攪拌接合を行う場合にその現象は顕著である。
【0003】
摩擦攪拌接合中に突合せ部が開かないように対処するため、摩擦攪拌接合を行う前にアーク溶接等により接合線を断続的に仮付け溶接することが考えられる。このような例としては、特許文献1が挙げられる。
【0004】
特許文献1に示された仮付け部は、その幅寸法を摩擦攪拌接合用回転工具の直径の26〜90%とし、かつ、その長さを摩擦攪拌接合用回転工具の直径の2〜5倍となるように構成されている。したがって、摩擦攪拌接合用回転工具の直径が15mmの場合、仮付け部の幅寸法は、約10mmから4mm程度となる。例えば、ミグ溶接によって前記仮付け部の溶接を行う場合、所定の幅寸法を得るには溶接トーチを幅方向に移動させながら溶接作業を行うことになる。したがって、一定の幅寸法の仮付け部を形成するには、作業者の技量が問われることになり、安定した溶接接合部を形成できない場合がある。また、接合される2つの部材の突合せ部すなわち接合線に対して、仮付け部がずれないように溶接する必要があり、この点においても、作業者の技量に負うとことが大きい。
【0005】
このように、アーク溶接による仮付け作業は、人手に依る作業であり、溶接部の品質は作業者の技量に負うところ大であり、摩擦攪拌接合部の品質が不安定となる懸念があった。仮付け部の強度が十分でない場合は、溶接による接合力が摩擦攪拌接合中に発生する力に負ける恐れもあり、最悪の場合仮付け部が割れることも予想される。摩擦攪拌接合直前に仮付け箇所に割れが生じると、摩擦攪拌接合部に欠陥が発生する可能性が非常に高くなる。
【特許文献1】特開平11−179568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、接合する2つの部材の摩擦攪拌接合前に実施する両部材の仮付け方法として、従来のアーク溶接に代えて、作業者の技量に寄らない工法を採用することにより、安定した摩擦攪拌接合部を提供するとともに効率的な仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法は、摩擦攪拌接合で接合される2つのアルミ部材が突合せられた接合線を跨ぐ位置に、前記両アルミ部材と同じアルミ素材で作られているスタッド材をスタッド溶接することにより前記2つのアルミ部材を仮付けすること、を特徴としている。
【0008】
この発明による摩擦攪拌接合方法は、また、摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法で仮付けられた前記2つのアルミ部材の前記突合せ部に摩擦攪拌接合用回転工具を挿入し、当該摩擦攪拌接合用回転工具を回転させながら前記接合線に沿って前記突合せ部を移動させることにより、前記2つのアルミ部材を前記突合せ部で摩擦攪拌接合にて接合すること、を特徴とする。
【0009】
摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法において、スタッド材は円筒状部材とし、また、スタッド材の直径については、摩擦攪拌接合用回転工具の大径部の直径と等しいか小さくすることが好ましい。更に、2つの部材と同素材の円筒状の部材をスタッド溶接によって、接合線上を断続的に溶接し取り付けることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、2つの部材の突合せ部を摩擦攪拌接合する前に、該2つの部材を2つの部材と同素材の円筒状の部材でスタッド溶接により仮付けすることにより、作業者の技量に寄らない安定した摩擦攪拌接合部を提供するとともに効率的な仮付け方法を提供する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1と図2を参照して、本発明による摩擦攪拌接合における仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法の実施例を説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、スタッド溶接による仮付けから摩擦攪拌接合までの工程図である。図1に示すように、摩擦攪拌接合それ自体は、2つの部材10,20を突合せた状態でその突合せ部に摩擦攪拌接合用回転工具50を挿入・回転させて材料を攪拌しながら接合線30に沿って移動させることによって行われる。
【0013】
摩擦攪拌接合に先立って、2つの部材10,20と同じ素材で作られているスタッド材40,40,40,…を2つのアルミ部材10,20が突合せられた接合線30を跨ぐ位置に置いて、摩擦攪拌接合用回転工具50を挿入する側からスタッド材40,40,40,…をスタッド溶接で取り付けることにより、2つの部材10,20の仮付けが行われる。スタッド溶接は、スタッド材40を接合部に接触させておいて電流を流し、次にスタッド材40を接合部から僅かに離して両者間にアークを発生させて、材料が溶融した状態でスタッド材を押し付けて両者を溶着させるものである。
【0014】
各スタッド材40は、円筒状部材として製作されており、仮付けされた状態では突合せ部上に未溶融部分(図2の摺り切り線より概略上に突出する部分)が残る状態とされ、仮付けとその位置を目視にて確認可能である。また、スタッド材40は接合線30に沿って略等間隔に配置されてスタッド溶接されているので、2つの部材10,20の突合せ部は接合線30に沿って断続的に溶接されている。スタッド材40の未溶融部分の高さは、摩擦攪拌接合時に2つの部材10,20の突合せ部が受ける開き力を支えることができる高さに設定されている。したがって、2つの部材10,20の仮付けが断続的な溶接で行われても、摩擦攪拌接合用回転工具50が回転しながら接合線30に沿って移動するときに突合せ部に生じる開き力に十分対抗することができる。
【0015】
スタッド溶接でスタッド材40を取り付けた後、摩擦攪拌接合用回転工具50を用いて、2つの部材10,20の摩擦攪拌接合を実施する。即ち、上記の仮付け方法で仮付けられた2つのアルミ部材の突合せ部に摩擦攪拌接合用回転工具50を挿入し、摩擦攪拌接合用回転工具50を回転させながら接合線30に沿って突合せ部を移動させることで、2つのアルミ部材10,20を突合せ部で摩擦攪拌接合にて接合することができる。
【0016】
各スタッド材40の直径を、摩擦攪拌接合用回転工具50の大径部の直径と等しいか小さくすることにより、各スタッド材40の溶接部41(図2)は、進行してきた摩擦攪拌接合用回転工具50によって摩擦攪拌される。アルミ部材10,20もスタッド材40も同じ素材であるので、仮に溶接部41に微細な不具合が存在しているとしても、それらはすべて摩擦攪拌により解消されて、摩擦攪拌接合部となる。
【0017】
図2は、図1に示すスタッド溶接による仮付け部の横断面図である。スタッド溶接の原理上、スタッド溶接のオンスイッチを押すことのみで溶接が完了するため、図2に示すように、作業者の技能に依存しない確実な溶接部41が確保でき、安定した仮付け部が得られる。したがって、摩擦攪拌接合用回転工具50がこれらの溶接部41を順次通過して摩擦攪拌接合を行う際に、2つの部材10,20を開くような力が作用するときにも仮付け部はそうした力に対抗して2つの部材10,20を閉じたままに維持するので、安定した摩擦攪拌接合が可能となり、その結果、安定した摩擦攪拌接合部を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明による摩擦攪拌接合における仮付け方法及びそれを用いた摩擦攪拌接合方法のスタッド溶接による仮付けから摩擦攪拌接合までの工程図。
【図2】図1に示すスタッド溶接による仮付け部の横断面図。
【符号の説明】
【0019】
10, 20:部材 30:接合線
40:スタッド材 41:溶接部
50:摩擦攪拌接合用回転工具 60:アーク溶接仮付け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦攪拌接合で接合される2つのアルミ部材が突合せられた接合線を跨ぐ位置に、前記両アルミ部材と同じアルミ素材で作られているスタッド材をスタッド溶接することにより前記2つのアルミ部材を仮付けすること、
を特徴とする摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法において、
前記スタッド材は、仮付けされた状態で前記突合せ部上に未溶融部分が残る円筒状部材であること、
を特徴とする摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦攪拌接合における接合部の仮付け方法において、
前記スタッド材の直径が摩擦攪拌接合用回転工具の大径部の直径と等しいか小さいこと、
を特徴とする摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法において、
前記突合せ部は、前記接合線に沿って離散的に行われる前記スタッド溶接によって、断続的に溶接されること、
を特徴とする摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合における突合せ部の仮付け方法で仮付けられた前記2つのアルミ部材の前記突合せ部に摩擦攪拌接合用回転工具を挿入し、当該摩擦攪拌接合用回転工具を回転させながら前記接合線に沿って前記突合せ部を移動させることにより、前記2つのアルミ部材を前記突合せ部で摩擦攪拌接合にて接合すること、
を特徴とする摩擦攪拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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