説明

摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体

【課題】一対の被接合部材を簡単かつ適切に接合できる摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体を提供すること。
【解決手段】攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらしてボビンツール120を配置し、ボビンツール120を回転させながら攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113からずらして進行させた後、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113に沿わせるようにボビンツール120を進行させることにより、一対の被接合部材111,112を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンツールを用いて一対の被接合部材を摩擦熱と圧力により塑性流動化させて接合する摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体に関し、特に、一対の被接合部材を簡単かつ適切に接合できる摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材の溶接やロウ付けに変わる新しい接合方法として摩擦攪拌接合方法が種々提案されており、例えば鉄道車両構体を構成する長尺な押出し型材同士の接合にも摩擦攪拌接合方法の利用が進められている。
【0003】
図7は、摩擦攪拌接合を説明するための図である。
摩擦攪拌接合では、一対の被接合部材111,112の接合端面111a,112a同士を突き合わせる。そして、ボビンツール120の上回転体121と下回転体122との間に被接合部材111,112の接合部113を挟み込むことにより一対の被接合部材111,112の表裏両面を加圧して接合部113を塞ぎ、この状態で駆動機構124によりボビンツール120を高速回転させる。正常な攪拌接合では、高速回転するボビンツール120を接合部113に沿って図中F方向へ進行させると、上回転体121と下回転体122の間で攪拌軸123が回転し、摩擦熱で接合部113の材料が軟化して攪拌混練されながら攪拌軸123の周りを流れて後方へ移動する。この材料の塑性流動によって一対の被接合部材111,112が接合される。
【0004】
図8に示す接合部113の始端部113aから摩擦攪拌接合を開始すると、材料が始端部113aから外部へ流れて接合部113を接合できない。そのため、図8に示すように、従来の摩擦攪拌接合方法では、接合部113の始端部113aの近傍に攪拌軸123より僅かに大きいピン孔130を設けた後、攪拌軸123と一体に設けた下回転体122を上回転体121から取り外し、攪拌軸123をピン孔130に挿通して下回転体122を上回転体121に再度連結することにより、ボビンツール120をピン孔130に配置することが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−243375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図8に示す従来の摩擦攪拌接合方法では、被接合部材111,112の接合部113にピン孔130を設けた後、上回転体121と下回転体122とを分解して攪拌軸123をピン孔130に挿通し、上回転体121と下回転体122とを再組立することによりボビンツール120をピン孔130に配置してからでないと、摩擦攪拌接合を開始できなかった。よって、図8に示す摩擦攪拌接合方法は、ピン孔130を設ける工数や、ピン孔130にボビンツール120を取り付ける工数が必要となり、手間がかかっていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、一対の被接合部材を簡単かつ適切に接合できる摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明の摩擦攪拌接合方法は、一対の被接合部材の接合端面同士を突き合わせた接合部をボビンツールの上回転体と下回転体との間で挟み込み、前記上回転体と前記下回転体との間の攪拌軸を前記接合部に挿入し、前記接合部に沿って前記ボビンツールを前記一対の被接合部材と相対的に移動させることにより前記一対の被接合部材を接合する摩擦攪拌接合方法において、前記攪拌軸の回転中心軸を前記接合部の始端部からずらすように前記ボビンツールを前記一対の被接合部材に対して配置し、前記ボビンツールを回転させながら前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして進行させた後、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部に沿わせるように前記ボビンツールを進行させて前記一対の被接合部材を接合する。
【0009】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法は、前記攪拌軸の進行側で発生する摩擦温度が摩擦攪拌接合に適した所定の温度に達するまで、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして前記ボビンツールを進行させることが好ましい。
【0010】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法は、前記攪拌軸の進行側で発生する摩擦温度が前記摩擦攪拌接合に適した所定の温度になるまで前記攪拌軸を前記接合部からずらして前記ボビンツールを進行させる進行速度が、前記攪拌軸を前記接合部に沿わせて前記ボビンツールを進行させる進行速度より低速であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法は、前記被接合部材の端面位置から前記接合部に向かって前記攪拌軸を斜めに移動させて前記回転中心軸を前記接合部に一致させることが好ましい。
【0012】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法では、前記回転中心軸を前記接合部の始端部からずらす量が、前記攪拌軸の直径の32分の1以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の摩擦攪拌接合体は、一対の被接合部材の接合端面同士を突き合わせた接合部にボビンツールの攪拌軸を挿入し、前記ボビンツールを前記一対の被接合部材と相対的に移動させることにより摩擦攪拌接合された摩擦攪拌接合体において、前記攪拌軸の回転中心軸を前記接合部の始端部からずらすように前記ボビンツールを前記一対の被接合部材に対して配置し、前記ボビンツールを回転させながら前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして進行させた後、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部に沿わせるように前記ボビンツールを進行させることにより、前記接合端面同士を接合されたものである。
【発明の効果】
【0014】
上記摩擦攪拌接合方法は、攪拌軸の回転中心軸を接合部からずらしてボビンツールを進行させ、攪拌軸の回転により軟化した材料が攪拌軸の後方へ回り込んで攪拌軸の進路を閉じるようにしてから、攪拌軸の回転中心軸を接合部に沿わせるようにボビンツールを進行させるので、一対の被接合部材の接合部が連続して接される。よって、上記摩擦攪拌接合方法によれば、ピン孔を設けてそのピン孔に攪拌軸を挿通してボビンツールを取り付けなくても、攪拌軸の回転中心軸を接合部の始端部からずらしてボビンツールを配置するだけで、一対の被接合部材を簡単且つ適切に接合することができる。
【0015】
そして、摩擦温度が摩擦攪拌接合に適した所定の温度に達するまで攪拌軸の回転中心軸を接合部からずらすようにボビンツールを進行させれば、攪拌軸の回転中心軸を接合部に沿わせて移動させると同時に一対の被接合部材の接合部を連続して適切に接合できる。
【0016】
そして、攪拌軸の進行側で発生する摩擦温度が前記摩擦攪拌接合に適した所定の温度になるまで攪拌軸を接合部からずらしてボビンツールを進行させる進行速度を、前記攪拌軸を前記接合部に沿わせて前記ボビンツールを進行させる進行速度より低速にすれば、接合部を接合できない部分を少なくできる。
【0017】
そして、被接合部材の端面位置から接合部に向かって攪拌軸を斜めに移動させて攪拌軸の回転中心軸を接合部に一致させるようにすれば、被接合部材の端面位置から接合部を適切に接合し始める位置までの距離を短くして、接合不良を生じる部分を少なくできる。
【0018】
そして、攪拌軸の回転中心軸を接合部の始端部から攪拌軸の直径の32分の1以上ずらした位置に配置して接合を開始すれば、短い距離で攪拌軸を接合部に合流させることができ、接合不良を生じて廃棄する材料を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合方法を概念的に示した図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】攪拌軸の中心軸を接合部の始端部からずらす量と、接合の可否との関係を調べる実験の実験結果を示す。
【図4】本発明の摩擦攪拌接合方法の実施例を示す図である。
【図5】摩擦攪拌接合後の模式図を示す図である。
【図6】摩擦攪拌接合方法の変形例である。
【図7】摩擦攪拌接合を説明する図である。
【図8】摩擦攪拌接合方法の従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
続いて、本発明に係る摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合方法を概念的に示した図である。図2は、図1のA矢視図である。
本実施形態の摩擦攪拌接合方法は、一対の被接合部材111,112の接合部113の始端部113aから攪拌軸123の回転中心軸Qをずらしてボビンツール120を配置した後、ボビンツール120を高速回転させて摩擦攪拌接合することにより、適切な摩擦攪拌接合を簡単に実現できるようにしたものである。
【0022】
図1及び図2に示すように、被接合部材111,112は接合端面111a,112aが一定の板厚を有する。ボビンツール120は、上回転体121と下回転体122が被接合部材111,112の表裏両面に密着するように一定間隔を空けて攪拌軸123に固定されている。ボビンツール120は、図示しない制御装置によって動作を自動制御される。図示しない制御装置には、ボビンツール120を攪拌軸123を中心に高速回転させながら図1に示す軌道D1,D2,D3に沿って進行させることにより摩擦攪拌接合を行うプログラムが格納されている。このプログラムは、ボビンツール120が軌道D1,D2,D3を進行する進行速度も制御する。以下、このプログラムにより実行される摩擦攪拌接合手順を説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、一対の被接合部材111,112は、接合端面111a,112a同士を突き合わせてセットされる。作業者が図示しない制御装置に摩擦攪拌接合開始指示を入力すると、図示しない制御装置は、プログラムを起動して被接合部材111,112の摩擦攪拌接合を行う。
【0024】
すなわち、接合端面111a,112a同士を突き合わせた接合部113の始端部113aから攪拌軸123の回転中心軸Qを一方の被接合部材111側へずらし、一方の被接合部材111の端面位置111bに攪拌軸123を接触させるようにボビンツール120を配置する。図1及び図2では、ボビンツール120は、上回転体121と下回転体122とが始端部113aに重ならないように攪拌軸123の回転中心軸Qを始端部113aからずらしているが、上回転体121と下回転体122とを始端部113aに重ねつつ攪拌軸123の回転中心軸Qを始端部113aからずらすようにしても良い。これにより、被接合部材111,112の表裏両面が、ボビンツール120の上回転体121と下回転体122とに挟み込まれて加圧される。
【0025】
そして、ボビンツール120は、高速回転しながら、予めプログラミングされた図1の軌道D1,D2,D3に沿って進行する。すなわち、図1の軌道D1に示すように、ボビンツール120が接合部113の始端部113aからずれた被接合部材111の端面位置111bに攪拌軸123を接触させた状態で高速回転すると、被接合部材111と攪拌軸123の接触部分が温度上昇して軟化する。このとき、ボビンツール120が接合部113と平行に移動して、被接合部材111の軟化した端面位置111bに攪拌軸123を押し込む。攪拌軸123の回転中心軸Qを始端部113aに一致させて攪拌軸123を接合部113に押し込むと、材料が攪拌軸123の後方へ回り込まずに飛び散り、攪拌軸123の後方を閉じることができないが、攪拌軸123の回転中心軸Qを始端部113aからずらして接合を行うビードオン接合では、材料が飛び散らずに攪拌軸123の後方へ回り込んで残り、攪拌軸123の後方を閉じていく。
【0026】
ボビンツール120が図1のF方向へ進行するにつれて、攪拌軸123の進行側の摩擦温度が上昇していき、摩擦攪拌接合に適した所定の温度、すなわち材料を攪拌軸123の周りに沿って後方へ十分に送ることができる温度(以下「目標温度」という。)に達する。そこで、軌道D1の長さは、摩擦温度が目標温度に達するまで攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113からずらした状態でボビンツール120を図中F方向へ進行させて予熱を行うように、設定される。
【0027】
ここで、軌道D1に沿ってボビンツール120を移動させる間、接合部113が接合されないため、軌道D1をできるだけ短くすることが望ましい。そのため、ボビンツール120は、目標温度に予熱するための軌道D1を進行する進行速度が、後述するように接合部113を接合するための軌道D3を進行する進行速度より低速に設定されている。
【0028】
ボビンツール120が軌道D1の終点まで進行したことをセンサ等で確認したら、図1の軌道D2に示すように、ボビンツール120を接合部113へ向かって移動させ、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113に合流させて一致させる。ボビンツール120は、摩擦攪拌接合時の進行速度になるように加速しながら移動し、攪拌軸123の回転中心軸Qが接合部113に合流すると同時にボビンツール120を摩擦攪拌接合に適した速度で進行させ、摩擦攪拌接合にかかる時間を短くできるようにしている。
【0029】
図1の軌道D3に示すように、攪拌軸123が接合部113に合流したときには、すでに摩擦温度が目標温度に達しているので、攪拌軸123が接合部113に合流して接合を開始する接合開始位置Pにおいて、材料が周りに飛び散らずに攪拌軸123の後方を閉じるように流れる。よって、一対の被接合部材111,112の接合部113は、接合開始位置Pから連続して接合される。
【0030】
接合部113の終端部まで摩擦攪拌接合された摩擦攪拌接合体は、被接合部材111,112の端面位置111b,112bから接合開始位置Pまでの接合部113が接合されていないので、接合開始位置Pで被接合部材111,112の端部を切り落とされた後、搬出される。ボビンツール120は、摩擦攪拌接合終了後、初期位置に復帰する。これにより、一連の摩擦攪拌接合動作が終了する。
【0031】
従って、本実施形態の摩擦攪拌接合方法は、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113からずらしてボビンツール120を進行させ、攪拌軸123の回転により軟化した材料が飛び散らずに攪拌軸123の後方へ回り込んで攪拌軸123の進路を閉じるようにしてから、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113に沿わせるようにボビンツール120を進行させるので、一対の被接合部材111,112の接合部113を連続して接合することが可能である。このような摩擦攪拌接合方法によれば、図8に示す従来の摩擦攪拌接合方法のようにピン孔130を被接合部材111,112に設ける必要がない。また、ピン孔130に攪拌軸123を挿通するために上回転体121と下回転体122とを分解して再組立する煩わしい作業も必要でない。よって、本実施形態の摩擦攪拌接合方法によれば、図1に示すように攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらして被接合部材111の端面位置111bに攪拌軸123を突き当てて上回転体121と下回転体122との間で被接合部材111を挟み込むだけで、簡単且つ適切に一対の被接合部材111,112を接合できる。
【0032】
また、本実施形態の摩擦攪拌接合方法によれば、摩擦温度が目標温度に達するまで攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113からずらしてボビンツール120を進行させ、予熱を行うので、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113に沿わせて移動させると同時に一対の被接合部材111,112を連続して適切に接合できる。
【0033】
また、本実施形態の摩擦攪拌接合方法によれば、摩擦温度を目標温度に予熱するまで、ボビンツール120の進行速度を攪拌軸123を接合部113に沿わせて移動させる際の進行速度より低速にしているので、端面位置111bから接合開始位置Pまでの接合不良発生部分の距離が短く、材料の無駄が少なくて済む。
【0034】
また、本実施形態の摩擦攪拌接合方法によれば、従来のようにボビンツール120の取り外しが必要でないため、摩擦攪拌接合を完全自動化して作業効率を向上させ、摩擦攪拌接合にかかるコストを安くできる。
【0035】
ところで、発明者らは、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらす量と、接合の可否との関係を調べる実験を行った。実験では、接合速度を400〜2500mm/min、ボビンツール120の回転数を330〜2000rpmとした。この実験結果を図3に示す。
接合部113の始端部113aから攪拌軸123の回転中心軸Qまでの距離を0mmにした場合、すなわち、攪拌軸123の回転中心軸Qと接合部113の始端部113aとを一致させた場合には、ワークの状況に依存して接合が極めて困難であった。また、接合部113の始端部113aから攪拌軸123の回転中心軸Qまでの距離を、攪拌軸123の直径Dの64分の1にした場合にも、ワークの状況に依存して接合が極めて困難であった。これに対して、接合部113の始端部113aから攪拌軸123の回転中心軸Qまでの距離を、攪拌軸123の直径Dの32分の1、16分の1、8分の1、4分の1、2分の1にした場合には、ワークの状況によらず接合部113を接合できた。
なお、ワークの状況とは、ワークの板厚の公差内のばらつき、治具により拘束した際の接合線の隙間(ギャップ)や目違い等の位置のばらつき、その他気温の違いなど、同一条件を再現しようとしても実用上避けることが困難なばらつきがある状況をいう。
【0036】
上記実験結果より、ボビンツール120により被接合部材111,112を突き合わせた接合部113を接合する場合には、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらす量を、攪拌軸123の直径の32分の1以上にすることが好ましいことが判明した。
【0037】
このように、本実施形態の摩擦攪拌接合方法では、少なくとも、攪拌軸123の直径の32分の1だけ攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらせば接合部113を接合できるので、攪拌軸123の回転中心軸Qを始端部113a側から接合部113へ短距離で合流させることができる。この結果、接合不良を生じる始端部113aから接合開始位置Pまでの距離が短くなり、接合開始位置Pで切断して廃棄する材料を少なくできる。
【実施例】
【0038】
図4は、本発明の摩擦攪拌接合方法の実施例を示す図である。図5は、摩擦攪拌接合後の模式図である。
本実施例では、図4に示すように、鉄道車両構体に使用される押し出し中空型材50A,50Bを摩擦攪拌接合により接合する。中空型材50A,50Bは、アルミニウム合金を材質とし、長手方向長さが20mほどになる長尺なものである。中空型材50A,50Bは、上面板51A,51Bと下面板52A,52Bとを梁53A,53Bで接続するトラス構造になっている。一方、ボビンツール120は、上回転体121と下回転体122が円筒形状をなし、上面板51A,51Bと下面板52A,52Bの板厚と同じ量だけ間隔を空けて攪拌軸123に固定されている。攪拌軸123は、丸棒形状をなす。一対の中空型材50A,50Bは、上面板51A,51B同士を突き合わせた接合部55と、下面板52A,52B同士を突き合わせた接合部56が、ボビンツール120を用いて摩擦攪拌接合される。
【0039】
すなわち、接合部55の始端部から中空型材50A側へ攪拌軸123の回転中心軸Qを攪拌軸123の直径の32分の1ずらして上回転体121と下回転体122との間で上面板51A,51Bを挟むようにボビンツール120を配置し、ボビンツール120を高速回転させて攪拌軸123を中空型材50Aの上面板51Aに押し込む。ボビンツール120が上面板51Aの端面位置から攪拌軸123の直径と等しい程度進行すると、攪拌軸123と上面板51Aとの間で発生する摩擦温度が摩擦攪拌接合に適した温度に達する。そこで、攪拌軸123を斜めに移動させて回転中心軸Qを接合部55に合流させるようにボビンツール120を進行させる。そして、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部55に沿わせるようにボビンツール120を進行させ、上面板51A,51Bの接合部55を接合する。図5に示すように、接合部55の接合が完了したら、ボビンツール120を初期位置に戻し、一対の中空型材50A,50Bを上下反転させる。そして、接合部56から攪拌軸123の中心を攪拌軸123の直径の32分の1ずらしてボビンツール120を配置し、上記接合部55と同様に接合部56を接合する。接合部56の接合が完了したら、接合部55,56を接合開始位置P(図5参照)でそれぞれ切断して、中空型材50A,50Bの端部を切り落とし、摩擦攪拌接合体を完成させる。
【0040】
このように中空型材50A,50Bは、攪拌軸123を接合部55,56の始端部からずらしてボビンツール120を配置すれば、20mもの接合部55,56を簡単且つ適切に接合できるので、作業効率が良く、コストを削減できる。そして、ボビンツール120を用いた摩擦攪拌接合は溶融溶接やロウ付けよりも低温で被接合部材を接合するので、長尺な中空型材50A,50Bを摩擦攪拌接合した場合でも、接合時の熱変形や接合部55,56の酸化などにより接合不良が生じにくい。そして、中空型材50A,50Bは、全長20mに対して、接合不良により切り落とされる各端部の長さが僅かであるので、特に中空型材50A,50Bにピン孔を空けるなどの加工を施さなくても、接合開始位置で端部を切り落とすことにより生じる材料の無駄が少なくて済む。
【0041】
以上、本発明の摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合体の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
上記実施形態では、攪拌軸123を接合部113の始端部113aからずらして被接合部材111の端面位置111bから接合部113と平行にボビンツール120を移動させることにより予熱を行った。これに対して、図6の軌道D4に示すように、攪拌軸123の回転中心軸Qを接合部113の始端部113aからずらした位置から攪拌軸123を斜めに移動させながら予熱とボビンツール120の進行速度の加速を同時に行い、ボビンツール120の軌道を簡単にしても良い。
ボビンツール120の攪拌軸123の軌道D1が端面位置112bを通過するようにボビンツール120を配置しても良い。
上記実施形態では、被接合部材111,112の板厚が一定であるが、例えば、接合強度を母材強度と同程度又は母材強度以上とするために、被接合部材111,112が接合部分の肉厚を厚くされている場合には、攪拌軸123を接合部113の始端部113aからずらす量は肉厚な範囲に限定される。
上記実施形態では、被接合部材111,112が端面位置111b,112bを揃えてセットしたが、端面位置111b,112bをずらすように被接合部材111,112をセットすることにより、攪拌軸123を接合部113からずらす方向を明示しても良い。
上記実施形態では、ボビンツール120が軌道D1に沿って進行する距離によって摩擦温度が目標温度に達したと推定するが、ボビンツール120の動作(回転速度や回転量、、進行距離など)と摩擦熱との関係を被接合部材の特質(材料、熱特性など)別に図示しない制御装置に記憶しておき、ボビンツール120の動作測定値(回転速度測定値、回転量測定値、進行距離測定値など)から摩擦温度を推定しても良い。また、摩擦温度は実測しても良い。
【符号の説明】
【0042】
111,112 被接合部材
113 接合部
113a 始端部
120 ボビンツール
123 攪拌軸
Q 回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被接合部材の接合端面同士を突き合わせた接合部をボビンツールの上回転体と下回転体との間で挟み込み、前記上回転体と前記下回転体との間の攪拌軸を前記接合部に挿入し、前記接合部に沿って前記ボビンツールを前記一対の被接合部材と相対的に移動させることにより前記一対の被接合部材を接合する摩擦攪拌接合方法において、
前記攪拌軸の回転中心軸を前記接合部の始端部からずらすように前記ボビンツールを前記一対の被接合部材に対して配置し、前記ボビンツールを回転させながら前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして進行させた後、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部に沿わせるように前記ボビンツールを進行させて前記一対の被接合部材を接合する
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載する摩擦攪拌接合方法において、
前記攪拌軸の進行側で発生する摩擦温度が摩擦攪拌接合に適した所定の温度に達するまで、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして前記ボビンツールを進行させる
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する摩擦攪拌接合方法において、
前記攪拌軸の進行側で発生する摩擦温度が前記摩擦攪拌接合に適した所定の温度になるまで前記攪拌軸を前記接合部からずらして前記ボビンツールを進行させる進行速度が、前記攪拌軸を前記接合部に沿わせて前記ボビンツールを進行させる進行速度より低速である
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載する摩擦攪拌接合方法において、
前記被接合部材の端面位置から前記接合部に向かって前記攪拌軸を斜めに移動させて前記回転中心軸を前記接合部に一致させる
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載する摩擦攪拌接合方法において、
前記回転中心軸を前記接合部の始端部からずらす量が、前記攪拌軸の直径の32分の1以上である
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
一対の被接合部材の接合端面同士を突き合わせた接合部にボビンツールの攪拌軸を挿入し、前記ボビンツールを前記一対の被接合部材と相対的に移動させることにより摩擦攪拌接合された摩擦攪拌接合体において、
前記攪拌軸の回転中心軸を前記接合部の始端部からずらすように前記ボビンツールを前記一対の被接合部材に対して配置し、前記ボビンツールを回転させながら前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部からずらして進行させた後、前記攪拌軸の前記回転中心軸を前記接合部に沿わせるように前記ボビンツールを進行させることにより、前記接合端面同士を接合されたものである
ことを特徴とする摩擦攪拌接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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