説明

摩擦材

【課題】 特にディスクパッドにおいて、高速走行時からの制動を繰り返し行うような使われ方をした場合の特性要求、亀裂等の発生、対面攻撃性の悪化、制動中の効力変動を抑制することが可能な摩擦材を提供することを課題とする。
【解決手段】 熱伝導率λ(W/m・k)と、熱履歴後のテストピースせん断強度σ(MPa)と、熱膨張収縮変化度α(m/m)と、弾性係数E(Ma)と、が下記関係式を満たす摩擦材。
(λ×σ)÷(α×E)≧500

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材と、結合材と、充填材とからなる摩擦材に関し、特に耐熱性を大幅に向上させたディスクパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のために摩擦材が使用されており、この摩擦材には、耐摩耗性に優れていること、摩擦係数が高いこと、耐フェード性に優れていること等の性能が要求されており、これらの諸性能を実現すべく様々な提案がなされている。
ところで、自動車等の商品展開はグローバルであり、その摩擦材の要求性能も様々である。この中で従来の国内向け摩擦材製品の常識では考えられないような過酷な性能を要求される場合がある。
たとえば摩擦材は高温域において、耐熱性を備えつつ、対面攻撃性の悪化を抑制し、制動中の効力変動が小さい等の特性を確保する必要がある。
しかし特にアウトバーンのある欧州地域等において、高速走行時からの制動を繰り返し行うような使われ方をした場合の特性要求に対し、従来からの高温域に対する技術だけでは、対応が難しい状況であった。
【0003】
特許文献1には高速から制動を行う場合の耐摩耗性が良い摩擦材を得る目的でりん青銅、スチール繊維他の原料を用いた摩擦材が開示されている。また特許文献2には対面攻撃性を抑制する目的で青銅繊維、硫化錫、錫粉を用いた摩擦材が開示されている。さらに特許文献3には摩擦係数の変動が少なく、ディスクロータ攻撃性が低く、メタルキャッチ性が低い等の要求特性をバランス良く満たすため、ステンレス繊維、モース硬度9以上の硬質粒子の2種以上、青銅粉、硫化錫を用いた摩擦材が開示されている。
これらは夫々優れた発明であるが、欧州地域等での非常に過酷な使われ方をした場合の特性要求に対しては、特に耐熱特性において不充分であり、さらに改良、改善された摩擦材が求められている現状がある。
【0004】
【特許文献1】特開平2−11936号公報
【特許文献2】特開2004−352813号公報
【特許文献3】特開2005−24005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので摩擦材、特にディスクパッドにおいて、高速走行時からの制動を繰り返し行うような使われ方をした場合の特性要求、亀裂等の発生、対面攻撃性の悪化、制動中の効力変動を抑制することが可能な摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を達成するには、従来の手法だけでは困難との視点に立ち、耐熱特性に相関するパラメータにつき鋭意検討した。そしてその中で耐熱亀裂性に相関する、熱伝導率λ、熱履歴後のテストピースせん断強度σ、熱膨張収縮変化度α、弾性係数Eからなるパラメータを見出した。
そしてこのパラメータを構成する値を好ましい方向に変化させるべく検討した結果、スチール繊維を使用しないNAO系摩擦材では使用が必須と考えられていたカシューダストが熱履歴後のテストピースせん断強度σを減少させ、かつ熱膨張収縮変化度αの値を増大させることから耐熱性にはマイナス要因となることを知覚した。そこでカシューダスト含有量を減らし、または含有しないようにし、その替わりとして加硫ゴム粉砕粉を大量に含有することとした。
さらに熱伝導率λと、熱履歴後のテストピースせん断強度σの値を高め、かつ対面攻撃性の悪化を抑制し、制動中の効力変動が小さい等の摩擦材としての基本的な特性をも合わせて確保するため、切削青銅繊維を適量含有させることとした。
これにより高速走行時からの制動を繰り返し行うような使われ方をした場合の特性要求、たとえば耐熱亀裂性の要求にも対応可能なバランスのとれた摩擦材を提供出来ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は下記の摩擦材を提供する。
(1)熱伝導率λ(W/m・k)と、熱履歴後のテストピースせん断強度σ(MPa)と、熱膨張収縮変化度α(m/m)と、弾性係数E(MPa)が下記関係式を満たす摩擦材。
(λ×σ)÷(α×E)≧500
(2)切削青銅繊維4.0〜12.0体積%と、加硫ゴム粉砕粉9.0〜15.0体積%とを含む摩擦材。
(3)該切削青銅繊維の錫含有量は0.5〜2.0質量%である(2)記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0008】
本発明は高速走行時からの制動を繰り返し行うような、非常に過酷な使われ方をした場合においても、亀裂等の発生、対面攻撃性の悪化、制動中の効力変動を抑制することが可能な摩擦材を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、熱伝導率λ(W/m・k)と、熱履歴後のテストピースせん断強度σ(MPa)と、熱膨張収縮変化度α(m/m)と、弾性係数E(MPa)とが下記関係式(熱疲労係数)を満たすことを特徴とする摩擦材である。
(λ×σ)÷(α×E)≧500
【0010】
上記関係式(熱疲労係数)は500W/m・k以上であれば好ましく、700W/m・k以上であれば更に好ましい。熱疲労係数が500W/m・k未満の場合、高温域での繰り返し使用特性である耐熱亀裂性が悪化する。なお熱疲労係数を算出するための各特性の概要は以下の通りである。
熱伝導率λ:熱の伝わりやすさを表す。値が大きい方が製品自身に熱が蓄積されないので摩擦材のダメージが少なくなる。金属繊維、金属粉等の熱の伝わりやすい材料の含有率を増すこと等により大きくなる。
熱履歴後のテストピースせん断強度σ:摩擦材製品の耐熱亀裂性を表す。耐熱性が高く、繊維長、繊維径においてある程度のばらつきを持った繊維基材の含有率を増すこと等により大きくなる。
熱膨張収縮変化度α:摩擦材製品の耐熱亀裂性を表す。繊維基材、充填材、結合材において温度変化による体積変化量の多い有機成分の含有量を減らすこと等により小さくなる。
弾性係数E:摩擦材製品の曲げ応力/歪みである。結合材の選択、ゴム原料の含有量を増やすこと等により小さくなる。
【0011】
第2に本発明では青銅繊維を使用する。青銅繊維の成分はCu−Sn合金および錫の一部を他の金属元素に置き換えたものである。この中で錫含有率が0.5〜2.0質量%のものを使用することが更に好ましい。錫含有量が少な過ぎるとメタルキャッチの抑制効果が発揮されにくくなり制動中の効力変動が大きくなる。逆に錫含有量が多過ぎると青銅が硬くなるので連続製造時間が限られコスト面で不利となる。
製造方法としては繊維長、繊維径がある程度ばらつく、通常の切削法によるものが望ましい。錫含有量が多く硬い青銅繊維製造にも対応可能なビビリ振動切削法等にて製造すると繊維長、繊維径が均一になるが、熱履歴後のテストピースせん断強度σから考えるとむしろ不利となるからである。
切削青銅繊維の摩擦材組成物全量中の含有量は4.0〜12.0体積%、より好ましくは6.0〜12.0体積%である。含有量が少な過ぎると熱伝導率λ、熱履歴後のテストピースせん断強度σに劣り、熱疲労係数すなわち耐熱亀裂性能が不充分となる。また含有量が多過ぎると摩擦材製品の比重が高くなり、コスト面でも劣る。
【0012】
第3に本発明では加硫ゴム粉砕粉を大量に用いる。元来スチール繊維を使用しないNAO系摩擦材ではカシューダストの使用が必須と考えられていたが、熱疲労係数という観点から見ると熱履歴後のテストピースせん断強度σを減少させ、かつ熱膨張収縮変化度αの値を増大させ耐熱性にはマイナス要因となる傾向がある。そこで本発明ではカシューダスト含有量を減らして、もしくはカシューダストに替えて加硫ゴム粉砕粉を大量に含有するのである。加硫ゴム粉砕粉としては、タイヤ粉砕粉、ワイパーゴム粉砕粉、アクリルゴム粉、NBR粉等があるが、タイヤ粉砕粉が特に好ましい。
タイヤ粉砕粉は自動車タイヤのトレッド部分を原料とするゴム、カーボン、オイル、加硫剤からなる加硫ゴムを粉砕したものである。このうちゴム成分としては天然ゴム(NR)、スチレンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等であり、NR/SBR/BR=7/2/1が特に好ましい。
加硫ゴム粉砕粉の摩擦材組成物全量中の含有量は9.0〜15.0体積%、より好ましくは12.0〜15.0体積%である。含有量が少な過ぎると弾性係数Eが大きくなり、熱疲労係数すなわち耐熱亀裂性能が不充分となる。また含有量が多過ぎると摩擦材の製造工程中に発火する危険性が出てくる。
【0013】
加硫ゴム粉砕粉以外の充填材としては摩擦材に通常用いられる充填材が使用出来る。充填材は有機充填材と無機充填材に分けられる。有機充填材として、たとえばカシューダスト、アクリルゴムダスト、メラミンダスト等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、黒鉛、四三酸化鉄、硫化鉄、マイカ、チタン酸マグネシウムカリウム等の他、青銅、銅、錫等の金属粉が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの充填材の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは30〜80体積%、より好ましくは40〜80体積%である。
【0014】
切削青銅繊維以外の繊維基材としては摩擦材に通常用いられる繊維基材が挙げられる。たとえばスチール、ステンレス、銅、真鍮、アルミニウム等の金属繊維;チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト等の無機繊維;アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維;等である。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。繊維基材全体の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは5〜50体積%、より好ましくは10〜40体積%である。
【0015】
結合材としては摩擦材に通常用いられるものを使用することができる。たとえば、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、NBR変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、アクリゴム等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。この結合材の添加量は摩擦材組成物全量に対して好ましくは10〜30体積%、より好ましくは15〜30体積%である。
【0016】
本発明の摩擦材の製造方法は、上記成分をレディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合して成形金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度130〜180℃、成形圧力15〜49MPaで、3〜10分成形するものである。
次に、得られた成形品を140〜250℃の温度で2〜12時間熱処理(後硬化)した後、必要に応じて塗装、焼き付け、研磨処理を施して完成品が得られる。
なお自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄またはアルミ製プレート上に予備成形物を載せ、この状態で成形用金型で成形、熱処理、塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【0017】
本発明の摩擦材は、特に過酷な耐熱性能を要求されるディスクパッドにおいて用いられるものであるが、自動車、鉄道車両、各種産業機械等の制動用ブレーキにも用いることが出来る。
【実施例】
【0018】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例において、切削青銅繊維としてGlobal Material Technologies,Inc.製のGBZシリーズを使用した。また加硫ゴム粉砕粉としてはUSS東洋製の粉末TPAを使用した。
【0019】
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、加圧型内で10MPaにて20秒加圧して予備成形をした。この予備成形品を成形温度150℃、成形圧力30MPaの条件下で10分間成形した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行ない、摩擦材を作製した。
得られた摩擦材について、熱疲労係数、耐熱亀裂性、メタルキャッチ性、制動中の効力変動を評価した。結果を表1に、評価基準を表2に示す。
なお熱疲労係数を算出するための各特性値の測定条件は下記の通りである。
熱伝導率λ:京都電子工業製kemtherm迅速熱伝導率計QTM−D3による。気温25℃、湿度65%にてモールド厚み10mmの摩擦材表面をプローブ法にて測定。
熱履歴後のテストピースせん断強度σ:JIS D 4415に準拠。インストロン万能試験機による。気温25℃、湿度65%、測定速度1.00mm/minにて測定。
熱膨張収縮変化度α:セイコーインスツル製 熱・応用・歪測定装置TMA/SS6100による。5×5×4mmのテストピースにおいて、0℃→400℃→0℃(5℃/min)と温度を変化させたときの厚みの変化度合いを測定。
弾性係数E:JIS K 7171に準拠。5×15×50mmのテストピースを300℃で6時間熱処理後、気温25℃、湿度65%にて3点曲げ試験を実施。応力と歪から算出。
【0020】
表1


【0021】
表2



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率λ(W/m・k)と、
熱履歴後のテストピースせん断強度σ(MPa)と、
熱膨張収縮変化度α(m/m)と、
弾性係数E(MPa)と、
が下記関係式を満たす摩擦材。
(λ×σ)÷(α×E)≧500
【請求項2】
切削青銅繊維4.0〜12.0体積%と、
加硫ゴム粉砕粉9.0〜15.0体積%と、
を含む摩擦材。
【請求項3】
該切削青銅繊維の錫含有量は0.5〜2.0質量%である請求項2記載の摩擦材。

【公開番号】特開2007−254564(P2007−254564A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79855(P2006−79855)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】