説明

摩耗安定性ポリマーマトリクス用の微粉状硬質成形体

本発明は、成形体を形成する、あるいは微粉状基材上に1層もしくは複数の層の形の不透過性コーティングとして直接存在する、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を含む、ポリマーマトリクスに埋め込むと摩耗安定性を向上させる微粉状硬質成形体、こうした成形体を製造する方法、およびポリマーマトリクス中でのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体を形成する、あるいは微粉状基材上に1層または複数の層の形の不透過性コーティングとして直接存在する、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を含む、ポリマーマトリクスに埋め込むと摩耗安定性を向上させる微粉状硬質成形体、こうした成形体を製造する方法、およびポリマーマトリクス中でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤または塗料で日用品をコーティングすることは、重要性が増している。塗布したコーティングまたは塗料の色効果および安定性は、この場合に特別な役割を果たす。同じことがプラスチックにも当てはまり、プラスチックは、同様にしばしば着色されるものであるが、特別な安定性に優れているべきものでもある。したがって、コーティング層の摩耗は、例えば洗浄工程で、表面コーティングおよびプラスチックの使用にとって深刻な問題となる。
【0003】
この問題を回避するために、米国特許第5,480,931号は、生じる引っ掻き傷の視認性を低減させるために、プラスチックにフレーク状の粒子を添加することを提案している。米国特許第4,123,401号は、金属、特に料理器具にコーティングする際に使用するための、フルオロポリマー、マイカ粒子、または金属フレーク、さらなるポリマーおよび液体ビヒクルを含む組成物を記載している。このマイカまたは金属粒子は、コーティングの耐引掻性を向上させるためのものである。
【0004】
前述の解決手法では、コーティングまたはプラスチックの十分な安定化は不可能であることが分かっており、したがって、摩耗安定性コーティングが引き続き大いに求められている。激しい度重なる洗浄工程が施される、例えば、自動車または建築の分野の応用例向けの粉体塗料や工業用コーティングなどのポリマーマトリクスでは特にそうである。同時に、摩耗安定性を増大させることにより、例えば、色などコーティングの他の特性に不利な影響が及ばないようにすべきである。「色」および「改良された耐摩耗性」の2つの特性を兼ね備えることができることが、この点に関する主要な目標である。
【0005】
したがって、目的は、ポリマーマトリクスに埋め込むと摩耗安定性を増大させる成形体を見つけることである。
[発明の開示]
今回、本発明による微粉状硬質成形体が、前述の要件プロフィルと合致することが分かった。
【0006】
したがって、本発明は、成形体を形成する、あるいは微粉状基材上に1層または複数の層の形の不透過性コーティングとして直接存在する、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を含む微粉状硬質成形体に関する。
【0007】
さらに、本発明は、成形体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料から形成され、または微粉状基材が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを備える、本発明による微粉状硬質成形体を製造する方法に関する。
【0008】
さらに、本発明は、同様に、摩耗安定性を向上させるための、ポリマーマトリクス中での本発明による微粉状硬質成形体の使用に関する。
【0009】
本発明による成形体は、充填剤または顔料、好ましくは顔料とすることができる。このようにして、摩耗安定性の向上という利点を、例えば、色や光沢などさらなる利点と兼ね備えることができる。
【0010】
微粉状硬質成形体の形状は、それ自体は重要ではなく、当業者に周知のやり方でそれぞれの状況に適合させることができる。本発明による成形体の硬さは、この成形体が添加されるポリマーマトリクスの特性を改善するのに、特に摩耗安定性を改善するのにここでは不可欠である。この成形体または微粉状基材は、好ましくはフレーク状である。本発明によるフレーク状の成形体は、特にそれらが顔料である場合、こうした材料を使用して特定の効果が実現できるという利点を有する。したがって、特定の光沢、高い着色力、または角度依存色を示す干渉系(interference system)を、フレーク状の成形体に与えることができる。このことは、特に、表面コーティング、特に自動車用塗料に使用する場合、特に重要である。したがって、フレーク状顔料が、微粉状硬質成形体として特に好ましい。
【0011】
モース硬さスケールで硬さが≧7の材料は、この条件を満たす周知のどんな天然または合成の材料でもよく、この硬質材料は、例えば、炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ素化合物、または酸化物からなる群からの対応する材料の場合、金属でも非金属でもよい。この硬質材料は、好ましくは酸化物、特に金属酸化物、特に好ましくは酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、および/またはこうした材料の混合物である。この硬質材料が、単結晶であるか、微晶質であるか、アモルファスな性質のものであるかは、ここでは重要ではない。硬さの値は、純物質としての材料に関係するものであり、通常、当業者によく知られている引っ掻き法(scratch method)を使用して決定される。
【0012】
本発明によれば、この微粉状硬質成形体は、それ自体がモース硬さスケールで硬さが≧7の材料でよい。さらに、この成形体は、モース硬さスケールで硬さが≧7の1種または複数の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを直接備えた微粉状基材でもよく、すなわち、基材と不透過性コーティングの間にさらなる中間層は存在しない。この微粉状成形体は、好ましくは、硬質材料の不透過層を備えた基材である。こうした材料は、簡単かつ安価に製造でき、またこの成形体の広範囲の使用を可能にする。こうした成形体はしばしば、例えば、干渉系や顔料層など、色系(colour system)のさらなる応用例にさらに直接使用することができる。
【0013】
適切な微粉状基材は、好ましくはフレーク状の基材、例えば、フレーク状のTiO2、合成もしくは天然のマイカ、ガラスフレーク、金属フレーク、フレーク状のSiO2、またはフレーク状の酸化鉄である。金属フレークは、とりわけ、例えば、アルミニウム、銀、チタンなどの元素金属からなるものでよいが、例えば、青銅や鋼、好ましくはアルミニウムおよび/またはチタンなどの混合物または合金からなるものでもよい。この場合、金属フレークを対応する処理によって不動態化しておいてもよい。微粉状基材としては、合成もしくは天然のマイカ、フレーク状のSiO2、またはガラスフレークの使用が好ましい。基材の厚さは、通常0.05〜5μm、特に0.1〜4.5μmである。
【0014】
微粉状硬質成形体のサイズは、それ自体は重要ではない。成形体の厚さは、一般に0.05〜6μm、特に0.1〜4.5μmである。本発明による成形体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを備えた微粉状基材からなる場合、コーティングの厚さは、40〜400nm、好ましくは60〜300nm、特に80〜200nmである。本発明による成形体の長さまたは幅の寸法は、通常1〜250μm、好ましくは2〜200μm、特に2〜100μmである。
【0015】
本発明による成形体は、様々なやり方で製造することができる。すなわち、本発明による成形体は、前駆体を支持体に湿式化学塗布し、乾燥させ、この支持体から分離し、次いでか焼してにモース硬さスケールで硬さが≧7の材料を形成することにより、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって支持体にモース硬さスケールで硬さが≧7の材料を付着させ、次いでこの支持体から分離することにより得ることが可能であるが、前者の製造変形法の方が好ましい。
【0016】
適切な前駆体は、所与の条件下で成形体の形成をもたらす、当業者に周知の無機または有機化合物のすべてを包含する。例えば、有機または無機化合物、特にアルミニウムまたはジルコニウムの溶液またはゾルでよい。支持体は、フィルム、ベルト、またはドラム、好ましくは連続したベルトからなるものでよい。このタイプのプロセスは、国際公開WO93/08237号に記載されており、その開示内容は、参照として本明細書に組み込まれる。その後の乾燥により、塗布された前駆体が凝固するが、前駆体の固形マトリクスの成長が可能である。このプロセスで得られた層を支持体から分離し、か焼すると後段階でモース硬さスケールで硬さが≧7の材料から成形体が形成される。本発明による成形体の製造用支のコーティングは、あるいはPVDまたはCVDプロセスによって行うこともできる。この目的で、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を、こうしたプロセスによって支持体に直接付着させ、この支持体から分離することにより成形体が得られる。こうしたプロセスは、文献、例えば、米国特許第3,123,489号から公知である。
【0017】
本発明による成形体はさらに、微粉状基材上に1層または複数の層を含む主要層を湿式化学沈着させ、次いでか焼してモース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを基材上に形成することにより、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって微粉状基材をモース硬さスケールで硬さが≧7の材料で1回または繰返しコーティングすることにより得ることが可能であが、前者の製造変形法の方が好ましい。
【0018】
この主要層は、1種または複数の不透過性でなくかつ/または硬質の材料からなるものでよく、例えば、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料が、金属酸化物である場合、この主要層は、対応する金属水酸化物または金属酸化物水和物からなるものでよい。次いで、必要とされる不透過性かつ硬質のコーティングが、後続のか焼中に得られる。湿式化学沈着は、当業者に周知のすべての溶媒、好ましくは水中で行うことができる。湿式コーティングの場合には、通常、基材を水中に懸濁させ、1種または複数の加水分解可能な金属塩を、加水分解に適し、かつ副次沈着を起こさずに金属酸化物または金属酸化物水和物が基材上に直接沈着するように選択されたpHで添加する。通常、塩基または酸を同時に計量して添加することにより、pHを一定に保つ。この主要層の湿式化学沈着における適切な金属塩は、例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩など当業者に周知のすべての有機もしくは無機化合物、または塩、特に、アルミニウムおよびジルコニウムのそれらである。この主要層は、1種の材料の1つの層でよいが、後続のか焼中に不透過性コーティングを形成する様々な材料の複数の層でもよい。あるいは、CVDおよび/またはPVDプロセスによって、微粉状基材にモース硬さスケールで硬さが≧7の材料を1回または繰返し付着させることもでき、適切なプロセスおよび出発化合物の選択は当業者次第である。
【0019】
湿式化学プロセスの変形法の場合には、後続のか焼は、プロセスの不可欠な部分である。というのは、十分に硬質でかつ不透過性の材料は、本発明による成形体自体の場合にも、また基材に付着させた本発明によるコーティングの場合にも、か焼によってしか得ることができないからである。か焼は、600〜1500℃の温度、好ましくは800〜1150℃の温度で行われる。
【0020】
好ましい一実施形態では、本発明による成形体をさらに、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属、金属亜酸化物、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物、またはこうした材料の混合物を含む1層または複数層の透明、半透明および/または不透明な層でコーティングすることができる。金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物の層、またはそれらの混合物は、低屈折率(屈折率<1.8)のものでも高屈折率(屈折率≧1.8)のものでもよい。こうした層は、着色系として機能するものであることが好ましく、その際、色の印象は、吸収によって引き起こされても干渉によって引き起こされてもよい。適切な金属酸化物および金属酸化物水和物は、例えば、酸化ケイ素、酸化ケイ素水和物、酸化鉄、酸化スズ、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化クロム、例えばイルメナイトや擬板チタン石などの酸化チタン、特に、二酸化チタン、酸化チタン水和物およびそれらの混合物など当業者に周知のすべての金属酸化物または金属酸化物水和物である。使用可能な金属亜酸化物は、例えば、亜酸化チタンである。適切な金属は、例えば、クロム、アルミニウム、ニッケル、銀、金、チタン、銅、または合金であり、適切な金属フッ化物は、例えば、フッ化マグネシウムである。使用可能な金属窒化物または金属酸窒化物は、例えば、金属チタン、ジルコニウム、および/またはタンタルの窒化物または酸窒化物である。金属酸化物、金属、金属フッ化物、および/または金属酸化物水和物の層、特に好ましくは金属酸化物および/または金属酸化物水和物の層は、好ましくは、硬質成形体に付着される。さらに、高屈折率および低屈折率の金属酸化物、金属酸化物水和物、金属、または金属フッ化物の層を含む多層構造が、好ましくは高屈折率層および低屈折率層が交互になって存在することも可能である。高屈折率層および低屈折率層を含む層パッケージが、特に好ましく、その場合、こうした1つまたは複数の層パッケージを、硬質成形体に付着させることができる。成形体を多層構造中に組み込むために、ここでは高屈折率層および低屈折率層の順序(sequence)を硬質成形体に合致させることができる。別の実施形態では、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物の層を、着色剤または他の元素と混合しまたはそれらでドープすることができる。適切な着色剤または他の元素は、例えば、有色の金属酸化物、例えば磁鉄鉱、酸化クロム、または例えばベルリン青、群青、バナジン酸ビスマス、テナール青などの着色顔料、または例えばインジゴ、アゾ顔料、フタロシアニン、さらにカーマインレッドなどの有機着色顔料など、有機または無機の着色顔料、あるいは例えばイットリウムやアンチモンなどの元素である。前述の材料の1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明の層を、微粉状硬質成形体に付着させることが、本発明では好ましい。こうした層を含む硬質成形体、特にフレーク状のものは、それらの固有色調(mass tone)に対して多様な色を示し、多くの場合、干渉による色の角度依存変化(カラーフロップ)を示すことができる。こうした色特性と成形体の硬さを兼ね備えると、適用の際に、特にポリマーマトリクス中への混入の際に特定の利点が生じる。したがって、増大した摩耗安定性に加えて、従来技術の成形体および顔料だけでは不可能であるポリマーマトリクスの色設計における広い自由度も得られる。使用者は、所望の色効果を選択することができ、ポリマーマトリクスの摩耗安定性を増大させるさらなる材料の追加に頼ることはない。
【0021】
好ましい一実施形態では、成形体の外層は、高屈折率の金属酸化物である。こうした外層はさらに、前述の層パッケージ上にあってもよく、あるいは層パッケージの一部でもよく、例えば、TiO2、亜酸化チタン、Fe23、SnO2、ZnO、Ce23、CoO、CO34、V25、Cr23、および/またはそれらの混合物、例えばイルメナイトや擬板チタン石などからなるものでよい。TiO2が、特に好ましい。
【0022】
前述の材料の組合せおよび層構造の例および実施形態は、効果のある顔料についての一般的な文献、例えば、research Disclosure RD471001およびRD472005に例として挙げられており、それらの開示内容は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0023】
金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物の層、またはそれらの混合物の厚さは、通常3〜300nmであり、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物の層、またはそれらの混合物の場合には、好ましくは20〜200nmである。金属層の厚さは、好ましくは4〜50nmである。
【0024】
さらに、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の別の層を、前述の透明、半透明、および/または不透明な層にさらに付着させることもできる。モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の別の層の厚さは、20〜80nmとすることができる。こうした成形体は、着色系中に、またその上に、成形体の最適な全体的硬さをもたらす硬質の層を含む。このタイプの成形体は、ポリマーマトリクス中に埋め込んだ際に摩耗安定性を増大させるのに特に適している。
【0025】
本発明は、同様に、成形体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料、またはモース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを備えた微粉状基材から形成される、本発明による成形体を製造する方法に関する。成形体自体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料からなる場合、本発明の方法によれば、前駆体を湿式化学法によって支持体に塗布し、乾燥させ、この支持体から分離し、続いて、か焼してモース硬さスケールで硬さが≧7の材料から成形体を形成し、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって支持体にモース硬さスケールで硬さが≧7の材料を付着させ、続いてこの支持体から分離する。適切な前駆体、支持体、および条件は、成形体についての説明のところですでに述べている。
【0026】
成形体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを有する微粉状基材を含むものである場合、本発明によるその製造方法は、微粉状基材上に1層または複数の層を含む主要層を湿式化学法によって沈着させ、か焼してモース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の不透過性コーティングを形成すること、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって基材をモース硬さスケールで硬さが≧7の材料で1回または複数回コーティングすることを特徴とする。この主要層に使用可能な材料および主要層の形成条件は、対応する成形体の説明のところに示す。
【0027】
本発明による方法は、簡単に実施することができ、使用可能な前駆体および条件に関して大幅な変化が可能である。本発明による方法の最適な設計を必要な状況に適合させるのは、当業者の仕事である。
【0028】
本発明による方法の別の実施形態では、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物、またはこうした材料の混合物を含む1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明な層によって成形体をさらにコーティングする。適切な材料は、成形体の説明のところですでに述べている。こうした方法によって、成形体が組み込まれたポリマーマトリクスに特定の色効果を与える、光沢のある着色された成形体を製造することが可能である。1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明な層によるコーティングは、当業者に周知のすべての方法、例えば、湿式化学法、ゾル−ゲル法、CVDおよび/またはPVDプロセスによって実施することができる。こうした材料によるコーティングは、好ましくは湿式化学法によって行われ、金属の場合には、好ましくはCVDプロセスによって行われる。湿式化学塗布の場合には、対応する金属のすべての有機または無機化合物、特に、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、またはシュウ酸塩が適しており、好ましくは対応するハロゲン化物が使用される。このタイプの方法は、例えば、ドイツ特許出願公開第1467468号、ドイツ特許出願公開第1959988号、ドイツ特許出願公開第2009566号、ドイツ特許出願公開第2214545号、ドイツ特許出願公開第2215191号、ドイツ特許出願公開第2244298号、ドイツ特許出願公開第2313331号、ドイツ特許出願公開第2522572号、ドイツ特許出願公開第3137808号、ドイツ特許出願公開第3137809号、ドイツ特許出願公開第3151343号、ドイツ特許出願公開第3151354号、ドイツ特許出願公開第3151355号、ドイツ特許出願公開第3211602号、またはドイツ特許出願公開第3235017号に記載されている。適用条件の最適化は、当業者の専門知識の範囲内にある。湿式コーティングの場合には、通常、成形体を水中に懸濁させ、1種または複数の加水分解可能な金属塩を、加水分解に適し、かつ副次沈着を起こさずに金属酸化物または金属酸化物水和物がフレーク上に直接沈着するように選択されたpHで添加する。通常、塩基または酸を同時に計量して添加することによって、pHを一定に保つ。所望なら、個々のコーティングを塗布した後、この成形体を分離し、乾燥させ、場合によりか焼し、次いで、別の層を沈着させるために再度懸濁させることができる。別の実施形態では、先ず所望のすべての透明、半透明、および/または不透明な層を沈着させ、続いて、通常600〜1500℃の温度、好ましくは800〜1150℃の温度で全体としてか焼することもできる。
【0029】
本発明の別の方法では、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の別の層を、透明、半透明、および/または不透明な層にさらに付着させる。前述のすべての材料およびこうした製造の前述のすべてのプロセス変形法を、この追加の層に使用することができる。
【0030】
本発明による成形体は、ポリマーマトリクス中で使用することができ、その中で摩耗安定性の増大をもたらす。ポリマーマトリクスは、例えば、プラスチック、塗料、コーティング、またはインクとすることができる。コーティングおよびインク中でこの成形体を使用する場合、当業者に周知のすべての応用分野、例えば、粉体塗料、自動車用塗料、グラビア用、オフセット用、スクリーン用、またはフレキソ印刷用の印刷インク、屋外向けのコーティング用の印刷インクなどが、可能である。この場合、コーティングおよびインクは、例えば、放射線硬化性、物理的乾燥性、または化学的硬化性のものとすることができる。印刷インクまたは液体コーティングの製造には、多数のバインダー、例えば、アクリレート、メタアクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ニトロセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリビニルブチレート、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、澱粉もしくはポリビニルアルコール、アミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、またはそれらの混合物をベースとするもの、特に水溶性等級(water−soluble grade)のものが適している。このコーティングは、粉体塗料、または水系もしくは溶媒系コーティングでよく、コーティング成分の選択は当業者の一般的な知識に従って行う。粉体塗料用の普通のポリマーバインダーは、例えば、ポリエステル、エポキシド、ポリウレタン、アクリレート、またはそれらの混合物である。
【0031】
プラスチックの場合には、普通のすべてのプラスチック、例えば、熱硬化性プラスチックまたは熱可塑性プラスチックが、本発明による成形体の組み込みに適している。可能な応用例ならびに使用することのできるプラスチック、加工方法、および添加剤は、例えば、RD472005、またはR.Glausch、M.Kieser、R.Maisch、G.Pfaff、J.Weitzel、Perlglanzpigmente「真珠光沢顔料(Pearlescent Pigments)」、Curt R.Vincentz Verlag、1996年、83頁に記載されており、その開示内容は、本明細書に組み込まれる。
【0032】
粉体塗料、自動車用塗料、および屋外向けのコーティングは、こうした用途では摩耗安定性の増大が特に有利なので、特に好ましい。摩耗安定性が増大すると、結果として、ポリマーおよび/または成形体が著しく摩耗せずに、対応するポリマーマトリクスがより頻繁にかつ激しく清浄化できることになる。このことは、特に顔料、特に好ましくは本発明による成形体としてのフレーク状の顔料の場合に、非常に重要である。というのは、顔料の色特性および/または光沢の印象が、もはや摩耗によって損なわれることがないからである。ポリマーマトリクスの基本的な特性を変えることなく、こうした機械的安定性の増大を他の方法で実現することはできない。
【0033】
本発明による成形体を、有利には、ポリマーマトリクス中で、例えば、透明および不透明な白色、有色および黒色の顔料など有機の染料および/または顔料と混合して、またフレーク状の酸化鉄、有機顔料、ホログラフィー顔料、LCP(液晶ポリマー)、およびマイカ、ガラス、Fe23、SiO2などをベースとする金属酸化物被覆フレークに基づく従来の透明、有色、および黒色の光沢顔料と混合して使用できることも言うまでもない。本発明による成形体は、市販の顔料および充填剤と任意の比で混合することができる。
【0034】
名前を挙げることができる充填剤は、例えば、天然および合成のマイカ、ナイロン粉末、純粋なまたは充填材入りのメラニン樹脂、タルク、ガラス、カオリン;マグネシウム,カルシウム又は亜鉛の酸化物または水酸化物;BiOCl、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素、ならびにこうした材料の物理的または化学的な組合せである。充填剤の粒子形状に関して制限はない。要件に従って、例えば、フレーク状、球状、または針状とすることができる。
【0035】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:(サンプル1および2)
マイカ150gを75℃の水1.9L中に入れてpH5で撹拌する。次いで、AlCl3181g(サンプル1)またはAlCl390.6g(サンプル2)を水溶液としてゆっくりと添加する。この混合物をさらに30分間加熱し、固体をろ過し、洗浄する。予備乾燥させた後、950℃で45分間か焼を行う。得られた酸化アルミニウムでコーティングしたか焼済みサンプルを、水1.6L中で撹拌し、この混合物を75℃に暖める。ZnCl25.1gの塩酸溶液を撹拌しながらゆっくり添加し、その間pHを約2に維持する。次いで、撹拌しながらTiCl4の40%塩酸溶液中にゆっくりと計量添加することによって、成形体の干渉色を計量添加量により調整しながら二酸化チタン干渉層を沈着させる。この混合物を中和し、生成物をろ過し洗浄する。予備乾燥させた後、生成物を850℃で30分間か焼する。
【0037】
実施例2:(サンプル3)
国際公開WO93/08237号に記載される方法によってAl23成形体を生成し、水1.6L中で撹拌し、75℃に暖める。ZnCl25.1gの塩酸溶液を撹拌しながらゆっくり添加し、その間pHを約2に維持する。次いで、撹拌しながらTiCl4の40%塩酸溶液中にゆっくりと計量添加することによって、成形体の干渉色を計量添加量により調整しながら二酸化チタン干渉層を沈着させる。この混合物を中和し、生成物をろ過し洗浄する。予備乾燥させた後、生成物を850℃で30分間か焼する。
【0038】
実施例3:
本発明による実施例1および2の成形体(サンプル1、サンプル2、サンプル3)を、60kVで市販ポリエステル粉末コーティング中にドライブレンドとして3重量%濃度で加える。クロックメータ(Crockmeter)および研磨洗浄剤(Ambruchから市販のAmbruch2)を使用して摩耗負荷(abrasive loading)を行い、2500ストローク後のコーティング層の摩耗負荷耐性を、生じた層厚の減少に基づいて評価する。本発明による成形体を、市販の真珠光沢顔料(イリオジン(Iriodin)(登録商標)103、メルク社)と比較する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】クロックメータを使用した摩耗負荷後の結果を示す。本発明による成形体で着色されたコーティングサンプル(サンプル1〜3)は、マイカをベースとする市販の真珠光沢顔料(イリオジン(登録商標)103)と比べて層厚の減少がより少ないことが分かる。視覚的な印象は、生じた層厚の減少と基本的に一致し、その結果、最も大きな摩耗を受ける市販のマイカベースの真珠光沢顔料の機械的応力を受けた領域が、最大の劣化を受けることも視覚的に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体を形成する、あるいは微粉状基材上に1層または複数層の形の不透過性コーティングとして直接存在する、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を含む、微粉状硬質成形体。
【請求項2】
顔料であることを特徴とする、請求項1に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項3】
前記成形体または前記微粉状基材が、フレークの形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項4】
前駆体を支持体に湿式化学塗布し、乾燥させ、前記支持体から分離し、続いて、か焼してモース硬さスケールで硬さが≧7の材料を形成することにより、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を支持体に付着させ、続いて前記支持体から分離することにより得ることが可能である、請求項1から3の一項に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項5】
微粉状基材上に1層または複数の層を含む主要層を湿式化学沈着させ、続いて、か焼してモース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数層の形の不透過性コーティングを前記基材上に形成することにより、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって、微粉状基材をモース硬さスケールで硬さが≧7の材料で1回または繰返しコーティングすることにより得ることが可能である、請求項1から3の一項に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項6】
前記微粉状基材が、天然または合成のマイカ、金属フレーク、ガラスフレーク、SiO2フレーク、TiO2フレーク、または酸化鉄フレークを含むことを特徴とする、請求項1に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項7】
前記金属フレークが、アルミニウム、チタン、ブロンズ、鋼、または銀からなることを特徴とする、請求項6に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項8】
モース硬さスケールで硬さが≧7の前記材料が、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、および/またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項9】
モース硬さスケールで硬さが≧7の材料を含む前記微粉状成形体の厚さが、0.05〜6μmであり、あるいは微粉状基材に付着させた、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数の層の形の前記コーティングの厚さが、40〜400nmであることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項10】
前記微粉状成形体が、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物、またはそれらの混合物を含む1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明な層でさらにコーティングされていることを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項11】
モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の別の層が、さらに付着されることを特徴とする、請求項10に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項12】
モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の前記別の層の厚さが、20〜80nmであることを特徴とする、請求項11に記載の微粉状硬質成形体。
【請求項13】
成形体が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料から形成され、あるいは微粉状基材が、モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数層の形の不透過性コーティングを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の微粉状硬質成形体を製造する方法。
【請求項14】
前駆体が、湿式化学法によって支持体に塗布され、乾燥され、前記支持体から分離され、続いて、か焼されてモース硬さスケールで硬さが≧7の材料から成形体を形成し、あるいはモース硬さスケールで硬さが≧7の材料が、CVDおよび/またはPVDプロセスによって支持体に付着され、続いて前記支持体から分離されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
湿式化学法によって1層または複数の層を含む主要層が、微粉状基材上に沈着され、か焼されてモース硬さスケールで硬さが≧7の材料の1層または複数層の形の不透過性コーティングを形成し、あるいはCVDおよび/またはPVDプロセスによって基材がモース硬さスケールで硬さが≧7の材料で1回または複数回コーティングされることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
モース硬さスケールで硬さが≧7の前記材料が、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、および/またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項13から15の一項に記載の方法。
【請求項17】
前記成形体が、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属亜酸化物、金属、金属フッ化物、金属窒化物、金属酸窒化物、またはそれらの混合物を含む1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明な層でさらにコーティングされることを特徴とする、請求項13から16の一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1層または複数層の透明、半透明、および/または不透明な層が、湿式化学法、ゾル−ゲル法、CVDおよび/またはPVDプロセスによって付着されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記付着された透明、半透明、および/または不透明な層が、か焼されることを特徴とする、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
モース硬さスケールで硬さが≧7の材料の別の層が、さらに付着されることを特徴とする、請求項17から19の一項に記載の方法。
【請求項21】
摩耗安定性を増大させるためのポリマーマトリクス中での請求項1に記載の微粉状硬質成形体の使用。
【請求項22】
前記ポリマーマトリクスが、プラスチック、塗料、コーティング剤、またはインクであることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
請求項1に記載の微粉状硬質成形体を含む、摩耗安定性ポリマーマトリクス。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−519768(P2007−519768A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538682(P2006−538682)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011628
【国際公開番号】WO2005/047369
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】