説明

摺動部材用ゴム組成物および摺動部材用ゴム架橋物

【課題】表面摩擦抵抗の低い摺動部材用のゴム架橋物を与えることができ、摺動部のシール部材として好適なゴム組成物を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基含有単量体単位を0.1〜20重量%の割合で含有し、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が20重量%以下、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が5重量%以下であるゴム(A)と、反応性シリコーンオイル(B)とを含有する摺動部材用ゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面摩擦抵抗の低いゴム架橋物を与えることのできる摺動部材用ゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られる摺動部材用ゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車および航空機の部品、エネルギー関連分野などにおいて、摺動部のシール部材として、各種ゴムが用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、水素化ニトリルゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレン系ゴムおよびフッ素ゴムから選ばれるいずれか1種のゴムに、熱可塑性フッ素樹脂をブレンドしてなるゴム組成物によって、摩擦係数が小さい(表面摩擦抵抗の低い)摺動部のシール部材が提供されることが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のゴム組成物は、摩擦係数を低下させるために熱可塑性フッ素樹脂をブレンドすることが必須であり、近年の環境保護の観点から、ハロゲン原子を用いた樹脂やゴムを使用する必要の無い、摩擦係数が小さい摺動部のシール部材が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−096438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面摩擦抵抗の低い摺動部材用のゴム架橋物を与えることのできる摺動部材用ゴム組成物、および該ゴム組成物を用いて得られる摺動部材用ゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合およびハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が所定量以下であるカルボキシル基含有ゴムに、反応性シリコーンオイルを配合してなるゴム組成物が、表面摩擦抵抗の低いゴム架橋物を与えることができ、該ゴム架橋物が摺動部のシール部材用途として好適であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有単量体単位を0.1〜20重量%の割合で含有し、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が20重量%以下、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が5重量%以下であるゴム(A)と、反応性シリコーンオイル(B)とを含有する摺動部材用ゴム組成物が提供される。
【0008】
本発明の摺動部材用ゴム組成物において、前記ゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜60重量%の割合で含有する高飽和ニトリルゴムであることが好ましい。
本発明の摺動部材用ゴム組成物において、前記ゴム(A)が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を60〜99.9重量%の割合で含有するアクリルゴムであることが好ましい。
前記反応性シリコーンオイル(B)が、水酸基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、カルボキシル基、アクリル基、およびメタクリル基からなる群より選択される少なくとも1つの反応性基を有することが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記摺動部材用ゴム組成物に、架橋剤を配合してなる架橋性摺動部材用ゴム組成物が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、上記架橋性摺動部材用ゴム組成物を架橋してなる摺動部材用ゴム架橋物が提供される。該摺動部材用ゴム架橋物は、摺動部のシール部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面摩擦抵抗の低い摺動部材用のゴム架橋物を与えることができ、摺動部のシール部材用途として好適な摺動部材用ゴム組成物、および、該摺動部材用ゴム組成物を用いて得られ、表面摩擦抵抗の低い摺動部材用ゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
摺動部材用ゴム組成物
本発明の摺動部材用ゴム組成物は、ゴム(A)と、反応性シリコーンオイル(B)とを含有してなる。
【0013】
ゴム(A)
まず、本発明で用いるゴム(A)について説明する。本発明で用いるゴム(A)は、カルボキシル基含有単量体単位を0.1〜20重量%の割合で含有し、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が20重量%以下、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が5重量%以下のゴムである。本発明で用いるゴム(A)は、例えば、カルボキシル基含有単量体および共重合可能な単量体を共重合し、その後、必要に応じて不飽和の炭素−炭素二重結合を水素化することにより得ることもできる。
【0014】
カルボキシル基含有単量体としては、炭素−炭素二重結合を有し、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。
【0015】
本発明で用いるカルボキシ基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0019】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルおよびマレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0020】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の機械的強度および耐圧縮永久歪み性が悪化するおそれがあり、逆に、多すぎると、摺動部材用ゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られる摺動部材用ゴム架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0021】
また、ゴム(A)は、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。ここで、「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」とは、ゴム(A)中において、不飽和のままの炭素−炭素二重結合を有する状態で存在している単量体の単位を意味する。すなわち、たとえば、1,3−ブタジエンは、重合後、ゴム(A)中において、炭素−炭素二重結合を有する状態で単量体単位として存在しており、「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」となる。その一方で、重合前の単量体としては、炭素−炭素二重結合を有するものであっても、重合後、ゴム(A)中において、炭素−炭素二重結合を有しないような状態となるものは、「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」に含まれない。さらに、たとえば、1,3−ブタジエンのように、重合後においては、炭素−炭素二重結合を有していたとしても、その後、例えば、水素化反応などにより飽和化する処理を行なうことにより、たとえば、飽和化1,3−ブタジエン単位のように、炭素−炭素二重結合を有しない状態となったものも、同様に「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」に含まれない。このような不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が高すぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の耐熱性が低下する。
【0022】
さらに、本発明で用いるゴム(A)は、環境保護の観点から、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が5重量%以下であり、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0重量%である。
【0023】
ゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、特に好ましくは20〜120である。ゴム(A)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、摺動部材用ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0024】
また、本発明で用いるゴム(A)は、上述した各単量体単位が上記した範囲にあるものであればよく、特に限定されないが、本発明の効果がより一層顕著なものとなるという点より、ゴム(A)としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜60重量%の割合で含有する高飽和ニトリルゴム(A1)、または(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(「アクリル酸エステル単量体単位および/またはメタクリル酸エステル単量体単位」の意。以下同様。)を60〜99.9重量%の割合で含有するアクリルゴム(A2)が好ましい。
【0025】
高飽和ニトリルゴム(A1)
高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜60重量%を含有するゴム(A)である。高飽和ニトリルゴム(A1)としては、ヨウ素価が90以下であることが好ましい。
【0026】
カルボキシル基含有単量体単位を形成するカルボキシル基含有単量体としては、上述したゴム(A)の説明において例示したものと同様の単量体を用いることができ、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルおよびマレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0027】
また、高飽和ニトリルゴム(A1)中における、カルボキシル基含有単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0028】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0029】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0030】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A1)は、カルボキシル基含有単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体とともに、得られる架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。
【0031】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0032】
共役ジエン単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは25〜89.9重量%、より好ましくは30〜79.8重量%、さらに好ましくは30〜69.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。なお、上記共役ジエン単量体単位の含有量は、例えば、後述する水素化を行った場合には、水素化された部分(飽和化された部分)も含めた含有量である。また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A1)においては、共役ジエン単量体単位のうち、水素化されていない部分(飽和化されていない部分)は、上述した「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」に該当することとなり、共役ジエン単量体単位のうち、水素化された部分(飽和化された部分)は、上述した「不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位」には該当しないものとなる。
【0033】
さらに、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A1)は、カルボキシル基含有単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体とともに、耐寒性向上の観点より、(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。)を共重合したものであることが好ましい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられるが、これらの中でも炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜40重量%である。
【0036】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A1)は、カルボキシル基含有単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、および(メタ)アクリル酸エステル単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」および「(メタ)アクリル酸エステル単量体」に該当するものを除く)、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0037】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0038】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0039】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」および「(メタ)アクリル酸エステル単量体」に該当するものを除く)としては、たとえば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;などが挙げられる。
【0040】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0041】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0042】
高飽和ニトリルゴム(A1)のヨウ素価は、90以下であることが好ましく、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を90以下とすることにより、得られる摺動部材用ゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0043】
高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは20〜120である。高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、摺動部材用ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0044】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A1)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0045】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0046】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.001〜2重量部である。
【0047】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0048】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0049】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0050】
なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価を下げるために、共重合体の水素化(水素添加反応)を適宜行ってもよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0051】
アクリルゴム(A2)
また、本発明で用いるアクリルゴム(A2)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位60〜99.9重量%を含有するゴム(A)である。
【0052】
カルボキシル基含有単量体単位を形成するカルボキシル基含有単量体としては、上述したゴム(A)の説明において例示したものと同様の単量体を用いることができ、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルおよびマレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記フマル酸モノアルキルエステルおよびマレイン酸モノアルキルエステのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0053】
また、アクリルゴム(A2)中における、カルボキシル基含有単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体等が挙げられる。
【0055】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられるが、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n−ブチルがより好ましい。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0056】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、炭素数2〜8のアルコキシアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられるが、アクリル酸2−メトキシエチルおよびアクリル酸2−エトキシエチルがより好ましい。なお、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0057】
アクリルゴム(A2)中における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは60〜99.9重量%、より好ましくは75〜99.8重量%、さらに好ましくは89.5〜99.5重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が上記範囲にある場合に、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0058】
また、本発明で用いるアクリルゴム(A2)は、カルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体などが挙げられる。アクリルゴム(A2)中の、その他の単量体の単位の含有量は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0059】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが例示される。
【0060】
アクリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、特に好ましくは20〜120である。アクリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られる摺動部材用ゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、摺動部材用ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0061】
アクリルゴム(A2)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合することが好ましい。乳化重合に際しては、上述した高飽和ニトリルゴム(A1)と同様に、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。また、重合副資材の使用量も、上述した高飽和ニトリルゴム(A1)と同様とすればよい。
【0062】
反応性シリコーンオイル(B)
本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)は、反応性基を有するシリコーンオイルであり、本発明の摺動部材用ゴム組成物において、可塑剤として作用する。また、本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)は、摺動部材用ゴム組成物を架橋して、摺動部材用ゴム架橋物とした際に、ゴム(A)と化学的な結合を形成する。
【0063】
そのため、本発明においては、反応性シリコーンオイル(B)を添加することにより、摺動部材用ゴム組成物においては、その可塑剤としての作用により、優れた加工性を付与することができる。また、本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)は、摺動部材用ゴム組成物を架橋して、摺動部材用ゴム架橋物とした際においても、表面摩擦抵抗を低減する効果を奏する。しかも、本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)は、摺動部材用ゴム組成物を架橋して、摺動部材用ゴム架橋物とした際に、ゴム(A)と化学的な結合を形成することにより、表面摩擦抵抗の低減効果がより一層顕著になる。
【0064】
本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)に含有される反応性基としては、上述したゴム(A)を構成するカルボキシル基と反応可能な官能基、または、後述する架橋剤により、ゴム(A)を構成するカルボキシル基と共架橋可能な官能基が好ましい。このような反応性基としては、水酸基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、カルボキシル基、アクリル基(−OOC−CH=CH、なお−OOC−はオキシカルボニル基を表す)、およびメタクリル基(−OOC−C(CH)=CH、なお−OOC−はオキシカルボニル基を表す)からなる群より選択される少なくとも1つを有するものが好ましく、これらのなかでも、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびカルボキシル基がより好ましく、アミノ基が特に好ましい。なお、エポキシ基としては、オキシラン環を有する基であれば、特に限定されず、たとえば、直鎖状の炭化水素基にオキシラン環を有するものの他、環状の炭化水素基にオキシラン環を有するものなども用いることができる。
【0065】
また、本発明で用いる反応性シリコーンオイル(B)は、たとえば、下記一般式(1)、下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(4)、または下記一般式(5)で表されるものを用いることができる。これらのなかでも、下記一般式(1)、(2)で表されるものが好ましく、反応性が高く、本発明の効果がより一層顕著になるという点より、下記一般式(6)、(7)で表されるものが特に好ましい。
【化1】

(上記式(1)中、Rは、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基、Xは、上述したいずれかの反応性基、mは、1〜10,000の整数、nは、1〜10,000の整数である。)
【化2】

(上記式(2)中、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基、X、Xは、それぞれ独立して、上述したいずれかの反応性基、pは、1〜10,000の整数である。R、Rは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。また、X、Xは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。)
【化3】

(上記式(3)中、R、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基、X、X、Xは、それぞれ独立して、上述したいずれかの反応性基、qは、1〜10,000の整数、rは、1〜10,000の整数である。R、R、Rは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。また、X、X、Xは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。)
【化4】

(上記式(4)中、Rは、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基、Xは、上述したいずれかの反応性基、sは、1〜10,000の整数である。)
【化5】

(上記式(5)中、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基、X、Xは、それぞれ独立して、上述したいずれかの反応性基、tは、1〜10,000の整数、uは、1〜10,000の整数である。R、Rは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。また、X、Xは同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。)
【化6】

(上記式(6)中、R、m、nは、それぞれ上記式(1)と同様。)
【化7】

(上記式(7)中、R、R、pは、それぞれ上記式(2)と同様。)
【0066】
なお、上記R、R、R、R、R、R、R、Rおよび/またはRが主鎖中および/または側鎖中にヘテロ原子を有している場合、該ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子および窒素原子が好ましく、酸素原子が特に好ましい。
【0067】
また、上記式(1)および式(6)で表される反応性シリコーンオイルは、側鎖に反応性基を有する側鎖型反応性基変性シリコーンオイルであり、上記式(2)および式(7)で表される反応性シリコーンオイルは、両末端に反応性基を有する両末端型反応性基変性シリコーンオイルであり、上記式(3)で表される反応性シリコーンオイルは、側鎖および両末端に反応性基を有する側鎖両末端型反応性基変性シリコーンオイルであり、上記式(4)で表される反応性シリコーンオイルは、片方の末端に反応性基を有する片末端型反応性基変性シリコーンオイルであり、また、上記式(5)で表される反応性シリコーンオイルは、側鎖および片方の末端に反応性基を有する側鎖片末端型反応性基変性シリコーンオイルである。
【0068】
なお、上記式(1)で表される反応性シリコーンオイルとしては、商品名「KF−868」、「KF−865」、「KF−859」、「KF−102」、「KF−1001」、「KF−2001」、「X−22−3701E」、「X−22−4741」(いずれも、信越化学工業社製)などとして市販されており、このような市販のものを用いることができる。上記式(2)で表される反応性シリコーンオイルとしては、商品名「X−22−161B」、「X−22−162C」、「X−22−163B」、「X−22−164B」、「X−22−167B」、「X−22−169B」、「X−22−4952」(いずれも、信越化学工業社製)などとして市販されており、このような市販のものを用いることができる。また、上記式(3)で表される反応性シリコーンオイルとしては、商品名「KF−857」、「X−22−9002」(いずれも、信越化学工業社製)などとして市販されており、このような市販のものを用いることができる。さらに、上記(4)で表される反応性シリコーンオイルとしては、商品名「X−22−173DX」、「X−22−170DX」、「X−22−174DX」、「X−22−176DX」、「X−22−3710」(いずれも、信越化学工業社製)などとして市販されており、このような市販のものを用いることができる。
【0069】
反応性シリコーンオイル(B)の重量平均分子量は、好ましくは200〜100,000であり、より好ましくは200〜50,000、さらに好ましくは200〜20,000である。反応性シリコーンオイル(B)の重量平均分子量が低すぎると、反応性シリコーンオイル(B)を添加することによる効果が小さくなるおそれがあり、一方、大きすぎると、反応性シリコーンオイル(B)の粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0070】
なお、反応性シリコーンオイル(B)の動粘度(25℃、単位:mm/s)は、10〜10,000が好ましく、20〜1,000がより好ましく、20〜500が特に好ましい。
【0071】
また、本発明の摺動部材用ゴム組成物中における、反応性シリコーンオイル(B)の配合量は、ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜200重量部、より好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは2〜50重量部、特に好ましくは2〜30重量部である。反応性シリコーンオイル(B)の配合量が少なすぎると、反応性シリコーンオイル(B)を配合することによる効果が得難くなり、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の物性(たとえば、強度および伸び)が低下するおそれがある。
【0072】
架橋性摺動部材用ゴム組成物
本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物は、上述したゴム(A)および反応性シリコーンオイル(B)を含有する摺動部材用ゴム組成物に、架橋剤を添加してなるものである。架橋剤としては、特に限定されないが、硫黄架橋剤、有機過酸化物架橋剤、ポリアミン架橋剤などが挙げられるが、これらのなかでも本発明の効果がより一層顕著になることから、有機過酸化物架橋剤およびポリアミン架橋剤が好ましく、ポリアミン架橋剤がさらに好ましい。
【0073】
有機過酸化物架橋剤としては、従来公知のものを用いることができ、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0074】
ポリアミン架橋剤としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、脂肪族多価アミン類が好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0075】
ここで、上述した反応性シリコーンオイル(B)は、種類によっては、架橋剤としても作用するものもあり、そのため、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物中における、架橋剤の配合量は、使用する反応性シリコーンオイル(B)の種類および配合量に応じて、適宜決定することが望ましいが、架橋剤の配合量は、ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部であり、より好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.2〜5重量部である。
【0076】
また、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物は、塩基性架橋促進剤をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0077】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤がより好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していてもよい。
【0078】
本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤の配合量は、ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が少なすぎると、架橋性摺動部材用ゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が低下する場合がある。一方、配合量が多すぎると、架橋性摺動部材用ゴム組成物の架橋速度が速すぎてスコーチを起こしたり、貯蔵安定性が損なわれる場合がある。
【0079】
また、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物には、上述した各成分に加えて、ゴム加工分野において通常使用されるその他の配合剤を配合してもよい。このような配合剤としては、たとえば、補強剤、充填材、酸化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、シランカップリング剤、架橋助剤、架橋遅延剤、発泡剤などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、配合目的に応じた量を適宜採用することができる。
【0080】
なお、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で上述したゴム(A)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
ゴム(A)以外のゴムを配合する場合における、架橋性摺動部材用ゴム組成物中の配合量は、ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0081】
また、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した反応性シリコーンオイル(B)に加えて、可塑剤を配合してもよい。可塑剤としては、特に限定されず、ゴム加工分野において通常使用されている可塑剤を用いることもできる。可塑剤の配合量は、ゴム(A)100重量部に対して、0〜20重量部が好ましい。
【0082】
本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合することで調製される。本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物を好適に調製する方法としては、反応性シリコーンオイル(B)や架橋剤など熱に不安定な成分を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、オープンロールなどに移して、反応性シリコーンオイル(B)や架橋剤など熱に不安定な成分を加えて二次混練することなどが挙げられる。なお、一次混練は、通常、10〜200℃、好ましくは30〜180℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行い、二次混練は、通常、10〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行う。
【0083】
本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは5〜200、より好ましくは10〜180、特に好ましくは20〜150である。特に、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物は、反応性シリコーンオイル(B)を含有するものであるため、コンパウンドムーニー粘度を上記範囲とすることができ、これにより、本発明の摺動部材用ゴム組成物は加工性に優れるものとなる。
【0084】
摺動部材用ゴム架橋物
本発明の摺動部材用ゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明の摺動部材用ゴム架橋物は、本発明の架橋性摺動部材用ゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜12時間、特に好ましくは3分〜6時間である。
【0085】
また、摺動部材用ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0086】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0087】
このようにして得られる本発明の摺動部材用ゴム架橋物は、上述した本発明の摺動部材用ゴム組成物を用いて得られるものであるため、表面摩擦抵抗の低いものである。
【0088】
このため、本発明の摺動部材用ゴム架橋物は、このような特性を活かし、各種装置の摺動部のシール部材用途に好適に用いることができる。具体的には、ベアリングシール、ハブシール、シャフトシール、オイルシール、ショックアブソーバーシール、シリンダーシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシールなどに使用することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0090】
ヨウ素価
高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K6235に準じて、測定した。
【0091】
カルボキシル基含有量
高飽和ニトリルゴムのカルボキシル基含有量を次の方法により測定した。すなわち、2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、25℃でチモールフタレインを指示薬とする滴定を行なうことにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0092】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムの組成
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn−ブチル単位の含有割合は、2mm角のカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100ml、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、25℃でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn−ブチル単位の量に換算することにより算出した。
1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)の含有割合は、水素添加前のニトリルゴムを用いて、ヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
アクリル酸n−ブチル単位の含有割合は、上記各単量体単位に対する残り成分として算出した。
【0093】
ムーニー粘度
高飽和ニトリルゴムおよびアクリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)をJIS K6300に従って測定した(単位は(ML1+4、100℃))。
【0094】
常態物性(引張強さ、伸び、硬さ)
架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のプレス架橋物を得た。得られたプレス架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。次に、この試験片を用いて、JIS K6251に従い、引張強さ、および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて硬さを、それぞれ測定した。
【0095】
表面摩擦抵抗試験
上述した常態物性の評価と同様にして、シート状のプレス架橋物を得て、得られたシート状のプレス架橋物について、ヘイドン式表面性測定機(商品名「HEIDON−14D」、新東科学社製)を用いて、表面摩擦抵抗の測定を行なった。なお、測定は、測定治具として、ボール圧子(SUSφ10)を用い、試験加重100g(垂直荷重N)、試験速度50mm/minの条件にて、シート状のプレス架橋物を水平に移動させた際に、ヘイドン式表面性測定機の動歪みアンプにかかる摩擦力F(単位:gf)を計測し、下記式に基づいて、摩擦係数μを計算した。
μ=F/N
本試験では、シート状のプレス架橋物が静止している状態から、試験速度で一定となるまでの間、連続的に摩擦係数μの値を記録し、摩擦係数μの最大値を「静摩擦係数」、摩擦係数μが一定状態となった時の値を「動摩擦係数」とした。
「静摩擦係数」および「動摩擦係数」の値が小さいほど、表面摩擦抵抗が低く、摺動特性に優れると判断することができる。
【0096】
合成例1(高飽和ニトリルゴム(a1)の製造)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20部、マレイン酸モノn−ブチル5部、アクリル酸n−ブチル35部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン40部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を添加し、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応を行った。そして、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0097】
次いで、得られたラテックスに含有される共重合体ゴムに対して、パラジウム含有量が重量比で1,000ppmになるようにオートクレーブにパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、温度50℃、水素圧3MPaで6時間水素添加反応を行い、高飽和ニトリルゴム(a1)のラテックスを得た。
【0098】
そして、得られた高飽和ニトリルゴム(a1)のラテックスに2倍容量のメタノールを加えてゴムを凝固した後、60℃で12時間真空乾燥して高飽和ニトリルゴム(a1)を得た。高飽和ニトリルゴム(a1)は、ヨウ素価が10、カルボキシル基含有量が2.5×10−2ephr、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)が45であった。そして、高飽和ニトリルゴム(a1)のヨウ素価から計算した不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有量は6.6重量%であった(残存する炭素−炭素二重結合を有する1,3−ブタジエン単位を1単量体単位として計算)。
また、高飽和ニトリルゴム(a1)の組成は、アクリロニトリル単位22重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)44重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位4重量%およびアクリル酸n−ブチル単位30重量%であった。
なお、高飽和ニトリルゴム(a1)を製造する際には、ハロゲン原子を有する単量体を用いなかったため、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合は0重量%であった。
【0099】
合成例2(アクリルゴム(a2)の製造)
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル49部、アクリル酸n−ブチル49部、およびマレイン酸モノn−ブチル2部を仕込み、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を十分に除去した後、クメンハイドロパーオキサイド0.005部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム溶液で凝固し、水洗、乾燥してアクリルゴム(a2)を得た。アクリルゴム(a2)の組成は、アクリル酸エチル単位49重量%、アクリル酸n−ブチル単位49重量%、およびマレイン酸モノn−ブチル単位2重量%であり、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は35であった。また、アクリルゴム(a2)を製造する際には、重合において、ジエン類などの、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する状態で含有されることとなる単量体を使用しなかったため、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合は0重量%であった。さらに、また、アクリルゴム(a2)を製造する際に、ハロゲン原子を有する単量体も用いなかったため、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合も0重量%であった。
【0100】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、合成例1で得られた高飽和ニトリルゴム(a1)100部に、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)50部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ナウガード445」、Crompton社製、老化防止剤)1.5部、ステアリン酸(架橋促進助剤)1部、および、側鎖型アミノ変性シリコーンオイル(商品名「KF−865」、信越化学工業社製、25℃における動粘度:90mm/s、官能基当量:5000g/mol、上記式(6)に示す化合物)10部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポンダウエラストマー社製、脂肪族多価アミン類に属するポリアミン架橋剤)1.2部、および1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−ウンデセン−7(DBU)(商品名「RHENOGRAN XLA−60(GE2014)」、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分も含む)、塩基性架橋促進剤)4部を配合して、混練することにより、架橋性ゴム組成物を得た。
【0101】
そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上述した方法により、常態物性および表面摩擦抵抗の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例2
実施例1において、側鎖型アミノ変性シリコーンオイル10部の代わりに、両末端型アミノ変性シリコーンオイル(商品名「X−22−161B」、信越化学工業社製、25℃における動粘度:55mm/s、官能基当量:1500g/mol、上記式(7)に示す化合物)10部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
実施例3
バンバリーミキサを用いて、合成例2で得られたアクリルゴム(a2)100部に、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)60部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ナウガード445」、Crompton社製、老化防止剤)2部、ステアリン酸(架橋促進助剤)2部、および、側鎖型アミノ変性シリコーンオイル(商品名「KF−865」、信越化学工業社製、25℃における動粘度:90mm/s、官能基当量:5000g/mol、上記式(6)に示す化合物)10部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポンダウエラストマー社製、脂肪族多価アミン類に属するポリアミン架橋剤)0.6部、および1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−ウンデセン−7(DBU)(商品名「RHENOGRAN XLA−60(GE2014)」、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分も含む)、塩基性架橋促進剤)4部を配合して、混練することにより、架橋性ゴム組成物を得た。
【0104】
そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上述した方法により、常態物性および表面摩擦抵抗の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例1
実施例1において、側鎖型アミノ変性シリコーンオイルを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
比較例2
実施例1において、側鎖型アミノ変性シリコーンオイルを使用せず、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルを15部使用した以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
比較例3
実施例3において、側鎖型アミノ変性シリコーンオイルを使用しなかった以外は、実施例3と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
比較例4
実施例3において、側鎖型アミノ変性シリコーンオイルを使用せず、ポリエーテルエステル系可塑剤(商品名「アデカサイザーRS−735」、ADEKA社製)を10部使用した以外は、実施例3と同様にして架橋性ゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
表1より、高飽和ニトリルゴム(a1)およびアクリルゴム(a2)に、それぞれ反応性シリコーンオイル(B)を配合した場合には、得られるゴム架橋物は、静摩擦係数および動摩擦係数のいずれも低く、表面摩擦抵抗に優れる結果となった。また、表面摩擦抵抗に優れることから、摺動部のシール部材用として好適であることが確認できた(実施例1〜3)。
【0111】
一方、反応性シリコーンオイル(B)を配合しない場合には、可塑剤の量および種類にかかわらず、静摩擦係数および動摩擦係数のいずれも高くなり、表面摩擦抵抗に劣る結果となった(比較例1〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有単量体単位を0.1〜20重量%の割合で含有し、不飽和の炭素−炭素二重結合を有する単量体単位の含有割合が20重量%以下、ハロゲン原子を有する単量体単位の含有割合が5重量%以下であるゴム(A)と、
反応性シリコーンオイル(B)とを含有する摺動部材用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜60重量%の割合で含有する高飽和ニトリルゴムである請求項1に記載の摺動部材用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム(A)が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を60〜99.9重量%の割合で含有するアクリルゴムである請求項1に記載の摺動部材用ゴム組成物。
【請求項4】
前記反応性シリコーンオイル(B)が、水酸基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、カルボキシル基、アクリル基、およびメタクリル基からなる群より選択される少なくとも1つの反応性基を有する請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材用ゴム組成物に、架橋剤を配合してなる架橋性摺動部材用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の架橋性摺動部材用ゴム組成物を架橋してなる摺動部材用ゴム架橋物。
【請求項7】
摺動部のシール部材である請求項6に記載の摺動部材用ゴム架橋物。

【公開番号】特開2012−193294(P2012−193294A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58938(P2011−58938)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】