説明

摺動部材

【課題】樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる摺動部材の提供。
【解決手段】摺動部材1は、基材10と、樹脂層20とを備えている。樹脂層20は、基材10上に形成される中間層22と、中間層22上に形成される摺動層21とを有する。また、摺動層21は、バインダ樹脂としてポリアミドイミド樹脂と、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン粉体とを含む樹脂組成物によって構成されている。さらに、中間層22は、ポリアミドイミド樹脂を含み、かつ、ポリテトラフルオロエチレン粉体を含まない樹脂組成物によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材、特に、基材上に樹脂層が形成されている摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属基材層と、金属基材層上に形成されており優れた耐摩耗性および低摩擦性を有するフッ素樹脂によって構成される樹脂層とを備える摺動部材がある。しかしながら、樹脂層がフッ素樹脂によって構成されている摺動部材では、金属基材が樹脂を表面に保持することが困難な場合がある。このため、このような摺動部材では、樹脂と金属基材との密着性の向上が望まれている。
【0003】
そこで、金属基材層に相当する金属焼結層と、樹脂層に相当する接合層および樹脂摺動層とを備え、樹脂摺動層と金属焼結層とが接合層を介して接合している摺動部材がある(特許文献1)。この摺動部材の樹脂層はフッ素樹脂を含む樹脂組成物によって構成されており、接合層を構成する樹脂組成物にはフッ素樹脂の他に、ポリイミド樹脂、または、ポリアミドイミド樹脂の少なくとも1つの樹脂が含まれている。この摺動部材では、金属との接着力が強い性質を有するポリイミド樹脂、または、ポリアミドイミド樹脂が接合層に含まれているため、接合層と金属焼結層との密着性が向上している。このようにして、樹脂層と金属基材との密着性を向上させている。
【0004】
また、金属基材層に相当する基材層と、樹脂層に相当する摺動層とを備え、摺動層が固体潤滑剤を含む樹脂組成物によって構成されている摺動部材がある(特許文献2参照)。この摺動部材では、摺動層に固体潤滑剤が含まれているため、焼結後の基材層と摺動層との線膨張係数の差を小さくすることができる。このようにして、摺動層と基材層との密着性を向上させている。
【特許文献1】特開2002−276665号公報
【特許文献2】特開2005−337129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属基材上に形成されている樹脂層にフッ素樹脂や固体潤滑剤が含まれている場合、繰り返し負荷を受けることで、樹脂層が基材との界面近傍で疲労破断を起こす傾向が強いことが判明した。このため、特許文献1に開示されている摺動部材では、フッ素樹脂を含む樹脂組成物によって構成されている接合層において疲労破断が発生するおそれがある。また、特許文献2に開示されている摺動部材では、固体潤滑剤として、二硫化モリブデン、グラファイト、もしくは、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が用いられる場合、摺動層において疲労破断が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る摺動部材は、基材と、樹脂層とを備えている。樹脂層は、基材上に形成される第1樹脂層と、第1樹脂層上に形成される第2樹脂層とを有する。また、第2樹脂層は、バインダ樹脂と、固体潤滑剤とを含む樹脂組成物によって構成されている。さらに、第1樹脂層は、バインダ樹脂を含み、かつ、固体潤滑剤を含まない樹脂組成物によって構成されている。
【0008】
第1発明に係る摺動部材では、第1樹脂層を構成する樹脂組成物には、固体潤滑剤が含まれない。本願発明者は、鋭意検討した結果、樹脂が摺動面に被覆される摺動部材において、基材側の固体潤滑剤量が少ない樹脂層が形成されると、樹脂層が基材との界面付近で疲労破断するおそれが少なくなることを見いだした。したがって、この摺動部材では、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【0009】
第2発明に係る摺動部材は、第1発明の摺動部材であって、第1樹脂層を構成する樹脂組成物には、モース硬度が4より大きい高硬度添加剤が更に含まれる。このため、この摺動部材では、第1樹脂層がバインダ樹脂のみによって構成されている場合と比較して、樹脂の強度が向上するため、樹脂層に摩擦力による剪断応力が作用しても、樹脂層を破断しにくくすることができる。したがって、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを更に少なくすることができる。
【0010】
第3発明に係る摺動部材は、第2発明の摺動部材であって、高硬度添加剤は、モース硬度が7以上の粒子である。この摺動部材では、高硬度添加剤としてモース硬度が7以上の粒子を使用することで、優れた機械的強度を有効に利用することができる。
【0011】
これによって、第1樹脂層の強度を向上させることができる。
【0012】
第4発明に係る摺動部材は、第2発明または第3発明の摺動部材であって、高硬度添加剤は、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコン、酸化ケイ素、ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化錫、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化ボロン、炭化タンタル、炭化ジルコン、ホウ化ジルコン、ホウ化アルミニウム、窒化チタン、酸化アンチモンよりなる群から選択される少なくとも1つの粒子である。このため、この摺動部材では、基材の界面付近において疲労破断が発生するおそれが少ない樹脂層を得ることができる。
【0013】
第5発明に係る摺動部材は、第1発明または第2発明の摺動部材であって、第1樹脂層を構成する樹脂組成物には、炭素繊維、アミラド繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維よりなる群から選択される少なくとも1つの強化繊維が更に含まれる。このため、この摺動部材では、第1樹脂層がバインダ樹脂のみによって構成される場合と比較して、樹脂の強度が向上するため、樹脂層に摩擦力による剪断応力が作用しても、樹脂層を破断しにくくすることができる。したがって、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【0014】
第6発明に係る摺動部材は、第1発明の摺動部材であって、第1樹脂層は、バインダ樹脂のみによって構成されている。このため、第1樹脂層を構成する樹脂組成物に固体潤滑材が含まれている場合と比較して、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
第1発明に係る摺動部材では、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【0016】
第2発明に係る摺動部材では、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを更に少なくすることができる。
【0017】
第3発明に係る摺動部材では、第1樹脂層の強度を向上させることができる。
【0018】
第4発明に係る摺動部材では、基材の界面付近において疲労破断が発生するおそれが少ない樹脂層を得ることができる。
【0019】
第5発明に係る摺動部材では、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【0020】
第6発明に係る摺動部材では、樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<摺動部材の構成>
本発明の一実施形態に係る摺動部材1について説明する。なお、この摺動部材1は、例えば、CO2冷媒対応圧縮機を含む圧縮機の軸受等に適用可能である。
【0022】
摺動部材1は、図1に示すように、基材10と、樹脂層20とを備えている。基材10は、多孔質焼結金属体によって構成されている。また、樹脂層20は、中間層(第1樹脂層に相当)22と、摺動層(第2樹脂層に相当)21とを有している。中間層22は基材10上に形成されており、摺動層21は中間層22上に形成されている。また、摺動層21は、バインダ樹脂としてポリアミドイミド樹脂と、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン粉体と、耐摩耗剤としてフッ化カルシウム粉体および酸化アルミニウム粉体とを含む樹脂組成物によって構成されている。さらに、中間層22は、主に、摺動層21においてバインダ樹脂として使用されているポリアミドイミド樹脂によって構成されている。なお、本実施形態では、中間層22を構成する樹脂組成物には、摺動層21において使用されている固体潤滑剤や耐摩耗剤等が含まれていない。また、本実施形態の中間層22は、主に、ポリアミドイミド樹脂によって構成されているが、中間層がポリアミドイミド樹脂のみによって構成されていてもよい。
【0023】
以下、摺動部材1の製造方法について説明する。
【0024】
<摺動部材の製造方法>
本実施形態に係る摺動部材1の製造には、第1樹脂溶液および第2樹脂溶液が用いられる。第1樹脂溶液は、極性溶媒およびポリアミドイミド樹脂を成分とする樹脂溶液である。第2樹脂溶液は、極性溶媒、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウムを成分とする樹脂溶液である。なお、第2樹脂溶液において、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウムの重量比は、50〜60/20〜30/10〜20/1〜5であるのが好ましい。また、第2樹脂溶液は、ポリアミドイミドに、上述の重量比率となるように固体潤滑剤や耐摩耗剤等を混合し、ボールミル等で所定時間(例えば、12時間)分散させることによって得た10000〜20000cPの樹脂組成物を極性溶媒に溶かすことによって得ることができる。
【0025】
本実施形態における摺動部材1の製造では、まず、多孔質焼結金属(例えば、日立粉末冶金製のEO材、または、三菱マテリアルPMG製のF112)よりなる多孔質焼結金属体(基材10に相当)の内周面に、焼成後の中間層22の厚さが10μm〜50μm程度となるように第1樹脂溶液が塗布される。なお、この塗布方法としては、ディスペンス塗布方法およびスプレー塗布方法等、当業者に公知の手法が採用され得る。そして、多孔質焼結金属体の内周面上に塗布された第1樹脂溶液を、50℃〜100℃の温度で30分間加熱し、第1樹脂溶液から溶媒を蒸発させるとともに第1樹脂溶液を乾燥させる。このようにして、多孔質焼結金属体の内周面上に中間層22を形成する。続いて、中間層22上に、焼成後の摺動層21の厚さが50μm程度となるように第2樹脂溶液が塗布される。なお、この塗布方法としては、第1樹脂溶液の塗布方法と同様に、ディスペンス塗布方法およびスプレー塗布方法等、当業者に公知の手法が採用され得る。そして、中間層22上に塗布された第2樹脂溶液を、50℃〜100℃の温度で30分間加熱し、第2樹脂溶液から溶媒を蒸発させるとともに第2樹脂溶液を乾燥させる。このようにして、中間層22上に摺動層21を形成する。そして、200℃〜280℃の温度で30分間焼成することで、樹脂層20に含まれるポリアミドイミドを架橋させることができる。さらに、樹脂層20の厚さが50μm〜100μm程度となるようにこれを研磨することで、摺動部材1を得ることができる。
【実施例1】
【0026】
以下に、本発明の樹脂層の強度評価試験およびその結果を示す。
【0027】
樹脂層における疲労強度の評価試験は、先端がR形状になったSKH51の焼入れ焼戻し材のブレード(硬度Hv750〜Hv850)が固定されたディスク状のホルダと、表面に樹脂層が形成されているディスク状の基材(外形φ44mm,内径φ32mm)とを用いて行った。なお、ブレードが固定されているホルダには、3つのブレード(先端がR6mm、幅4mm、奥行き5mm、長さ11mm)が、回転半径が19mmとなる位置にそれぞれ固定されている。
【0028】
ブレード先端と樹脂層とを摺接させるために、ホルダのブレードとディスク状基材とを、大気中で油のないドライ状態で、かつ、荷重70Kgf、すべり速度0.5m/sの条件で摺動させ、摩擦係数が急上昇した時間を疲労寿命とした。また、摩擦係数が急上昇し限界荷重に達したディスク基材を電子顕微鏡で観察したところ、樹脂層が内部で破断していた。
【0029】
このように樹脂層の疲労寿命を算出し、その比率を疲労強度の評価とした結果、表1に示すように、樹脂層が、摺動層のみを有しポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物で構成されている場合(表1の比較例参照)と比較して、中間層と摺動層とを有し中間層がポリアミドイミド樹脂単体によって構成される場合(表1の実施例1参照)に疲労強度が大きくなることがわかる。
【0030】
また、ポリアミドイミド樹脂およびポリテトラフルオロエチレン粉体の成分を含む樹脂組成物で構成されている樹脂層の表面および破断面に対してEPMA元素分析を行ったところ、表面よりも破断面においてフッ素が多く観察された。
【0031】
なお、比較例の樹脂層を有するディスク状の基材は、焼成後の樹脂層の厚さが80μm程度となるようにディスク状の基材上に塗布された第2樹脂溶液を、100℃の温度で30分間加熱して乾燥させ、280℃の温度で30分間焼成し、さらに、樹脂層の厚さが50μm程度となるように研磨することで得た。また、実施例1の樹脂層を有するディスク状の基材は、焼成後の中間層の厚さが30μm程度となるように塗布された第1樹脂溶液を100℃の温度で30分間加熱して乾燥させて中間層を形成し、続いて、中間層上に焼成後の摺動層の厚さが50μm程度となるように塗布された第2樹脂溶液を100℃の温度で30分間加熱して乾燥させ、280℃の温度で30分間焼成し、さらに、樹脂層の厚さが50μm程度となるように研磨することで得た。なお、第1樹脂溶液は、極性溶媒とポリアミドイミド樹脂と成分とする樹脂溶液である。また、第2樹脂溶液は、極性溶媒と、ポリアミドイミド樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン粉体と、フッ化カルシウム粉体と、酸化アルミニウム粉体とを成分とする樹脂溶液であり、第2樹脂溶液におけるポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の重量比は、60/20/15/5である。
【0032】
【表1】

【0033】
また、樹脂組成毎の樹脂強度の相対的な強度評価をSAICAS法によって行った結果、表2に示すように、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物によって構成される樹脂層の強度よりも、ポリアミドイミド樹脂単体によって構成される樹脂層の強度の方が大きいことがわかる。
【0034】
【表2】

【0035】
<特徴>
(1)
本願発明者は、鋭意検討した結果、樹脂が摺動面に被覆される摺動部材において、基材側のポリテトラフルオロエチレン粉体量やフッ化カルシウム粉体量が少ない樹脂層が形成されると、樹脂層が基材との界面付近で疲労破断するおそれが少なくなることを見いだした。
【0036】
上記実施形態では、中間層22は、主に、摺動層21においてバインダ樹脂として使用されているポリアミドイミド樹脂によって構成されている。また、中間層22を構成する樹脂組成物には、摺動層21において固体潤滑剤として使用されているポリテトラフルオロエチレン粉体が含まれていない。したがって、この摺動部材1では、樹脂層20において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができている。
【0037】
また、EPMA元素分析の結果から、樹脂層内部の破断が、ポリアミドイミド樹脂とポリテトラフルオロエチレン粉体との界面を通って進展したことが示唆される。したがって、固体潤滑剤として用いられるポリテトラフルオロエチレン粉体等のフッ素化合物が中間層内部に存在することで、疲労強度が小さくなることが推測される。また、このことから、ポリテトラフルオロエチレン粉体以外にも固体潤滑剤として用いられるような表面エネルギーが低い固体潤滑剤が中間層内部に存在する場合にも、疲労強度が小さくなることが推測される。このため、中間層には、固体潤滑剤が含まれないことが好ましいと考えられる。したがって、本願では、中間層に固体潤滑剤が含まれない樹脂層を形成することによって、樹脂層における疲労破断が発生するおそれを少なくすることができている。
【0038】
<変形例>
(A)
上記実施形態では、中間層22が、主に、摺動層21においてバインダ樹脂として使用されているポリアミドイミド樹脂によって構成されている。
【0039】
これに代えて、中間層が、ポリアミドイミド樹脂と、モース硬度が7以上の添加剤とを含む樹脂組成物によって構成されていてもよい。なお、モース硬度が7以上の添加剤としては、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコン、酸化ケイ素、ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素(c−BN)、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化錫、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化ボロン、炭化タンタル、炭化ジルコン、ホウ化ジルコン、ホウ化アルミニウム、窒化チタン、酸化アンチモン等の粒子がある。
【実施例2】
【0040】
以下に、中間層を構成する樹脂組成物に、ポリアミドイミド樹脂と、高硬度添加剤としてモース硬度が9の酸化アルミニウム粉体とが含まれる場合を例として説明する。なお、中間層を構成する樹脂組成物以外は、上記実施形態と同様であるため説明を省略する。また、摺動部材を製造する過程において用いられる第1樹脂溶液は、極性溶媒と、ポリアミドイミド樹脂と、酸化アルミニウム粉体とを成分とする樹脂溶液である。なお、ここでは、第1樹脂溶液におけるポリアミドイミド樹脂と酸化アルミニウム粉体との重量比は、80/20とする。
【0041】
この第1樹脂溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の疲労強度の評価試験を行った結果、表3に示すように、樹脂層が、摺動層のみを有しポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物で構成されている場合(表3の比較例参照)と比較して、中間層と摺動層とを有し中間層がポリアミドイミド樹脂と酸化アルミニウムとを含む樹脂組成物によって構成されている場合(表3の実施例2参照)の方が、疲労強度が大きくなることがわかる。
【0042】
【表3】

【0043】
また、樹脂組成毎の樹脂強度の相対的な強度評価をSAICAS法によって行った結果、表4に示すように、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物によって構成される樹脂層の強度よりも、ポリアミドイミド樹脂と酸化アルミニウムとを含む樹脂組成物によって構成される樹脂層の強度の方が大きいことがわかる。
【0044】
【表4】

【0045】
このように、中間層がバインダ樹脂とモース硬度が大きい添加材とを含む樹脂組成物によって構成されている場合、バインダ樹脂のみによって構成されている場合と比較して、樹脂の強度が向上するため、樹脂層に摩擦力による剪断応力が作用しても、樹脂層を破断し難くすることができる。
【0046】
また、ここでは、中間層が、ポリアミドイミド樹脂と、モース硬度が9の酸化アルミニウムとを含む樹脂組成物によって構成されている。この摺動部材では、添加剤としてモース硬度が9の酸化アルミニウムを使用することで、優れた機械的強度を有効に利用することができる。したがって、中間層がポリアミドイミド樹脂のみによって構成される場合と比較して、中間層の強度を更に向上させることができる。
【0047】
これによって、樹脂層において、基材の界面付近における疲労破断が発生するおそれを更に少なくすることができる。
【0048】
(B)
上記実施形態では、中間層22が、主に、摺動層21においてバインダ樹脂として使用されているポリアミドイミド樹脂によって構成されている。
【0049】
これに代えて、中間層が、ポリアミドイミド樹脂と、強化繊維とを含む樹脂組成物によって構成されていてもよい。なお、強化繊維としては、炭素繊維、アミラド繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維等がある。
【実施例3】
【0050】
以下に、中間層を構成する樹脂組成物に、ポリアミドイミド樹脂と、強化繊維として炭素繊維とが含まれる場合を例として説明する。なお、中間層を構成する樹脂組成物以外は、上記実施形態と同様であるため説明を省略する。また、摺動部材を製造する過程において用いられる第1樹脂溶液は、極性溶媒と、ポリアミドイミド樹脂と、炭素繊維とを成分とする樹脂溶液である。なお、ここでは、第1樹脂溶液におけるポリアミドイミド樹脂と炭素繊維との重量比は、90/10とする。
【0051】
この第1樹脂溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の疲労強度の評価試験を行った結果、表5に示すように、樹脂層が、摺動層のみを有しポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物で構成されている場合(表5の比較例参照)と比較して、中間層と摺動層とを有し中間層がポリアミドイミド樹脂と炭素繊維とを含む樹脂組成物によって構成されている場合(表5の実施例3参照)の方が、疲労強度が大きくなることがわかる。
【0052】
【表5】

【0053】
また、樹脂組成毎の樹脂強度の相対的な強度評価をSAICAS法によって行った結果、表6に示すように、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粉体、フッ化カルシウム粉体、および、酸化アルミニウム粉体の成分を含む樹脂組成物によって構成される樹脂層の強度よりも、ポリアミドイミド樹脂と炭素繊維とを含む樹脂組成物によって構成される樹脂層の強度の方が大きいことがわかる。
【0054】
【表6】

【0055】
このように、中間層がバインダ樹脂と強化繊維とを含む樹脂組成物によって構成されている場合、バインダ樹脂のみによって構成されている場合と比較して、樹脂の強度が向上するため、樹脂層に摩擦力による剪断応力が作用しても、樹脂層を破断し難くすることができる。
【0056】
これによって、樹脂層において、基材の界面付近における疲労破断が発生するおそれを更に少なくすることができる。
【0057】
また、中間層が、ポリアミドイミド樹脂と、強化繊維と、モース硬度が4より大きい添加剤とを含む樹脂組成物によって構成されていてもよい。このように、中間層がバインダ樹脂と強化繊維とモース硬度が4より大きい添加剤とを含む樹脂組成物によって構成されている場合、バインダ樹脂のみ、または、ポリアミドイミド樹脂および強化繊維によって構成されている場合と比較して、樹脂の強度が更に向上するため、樹脂層に摩擦力による剪断応力が作用しても、樹脂層を破断し難くすることができる。
【0058】
これによって、樹脂層において、基材の界面付近における疲労破断が発生するおそれを更に少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、基材上に設けられる樹脂層において疲労破断が発生するおそれを少なくすることができるため、摺動部材への適用が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る摺動部材の部分断面図。
【符号の説明】
【0061】
1 摺動部材
10 基材
20 樹脂層
21 摺動層(第2樹脂層)
22 中間層(第1樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(10)と、
前記基材上に形成される第1樹脂層(22)と前記第1樹脂層の上に形成される第2樹脂層(21)とを有する樹脂層(20)と、を備え、
前記第2樹脂層は、バインダ樹脂と固体潤滑剤とを含む樹脂組成物によって構成されており、
前記第1樹脂層は、前記バインダ樹脂を含み、かつ、前記固体潤滑剤を含まない樹脂組成物によって構成されている、
摺動部材(1)。
【請求項2】
前記第1樹脂層を構成する樹脂組成物には、モース硬度が4より大きい高硬度添加剤が更に含まれる、
請求項1に記載の摺動部材(1)。
【請求項3】
前記高硬度添加剤は、モース硬度が7以上の粒子である、
請求項2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記高硬度添加剤は、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコン、酸化ケイ素、ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化錫、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化ボロン、炭化タンタル、炭化ジルコン、ホウ化ジルコン、ホウ化アルミニウム、窒化チタン、酸化アンチモンよりなる群から選択される少なくとも1つの粒子である、
請求項2または3に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記第1樹脂層を構成する樹脂組成物には、炭素繊維、アミラド繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維よりなる群から選択される少なくとも1つの強化繊維が更に含まれる、
請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記第1樹脂層は、前記バインダ樹脂のみによって構成されている、
請求項1に記載の摺動部材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37451(P2010−37451A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202733(P2008−202733)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】