摺動面構造及び軸受
【課題】摺動条件を変更することなく流体潤滑状態にある2面間の摩擦を低減することができる摺動面構造及び軸受を提供する。
【解決手段】相対面する第1摺動面1aと第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で第1摺動面1aと第2摺動面とが非接触で摺動する摺動面構造である。摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝3を有する案内部4を設ける。案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が案内部4よりも小さい疎液性部分5が案内部4の下流側に設けられている。
【解決手段】相対面する第1摺動面1aと第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で第1摺動面1aと第2摺動面とが非接触で摺動する摺動面構造である。摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝3を有する案内部4を設ける。案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が案内部4よりも小さい疎液性部分5が案内部4の下流側に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦下で摺動する摺動面構造及び軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低い摺動抵抗(摩擦)の下で2つの面が摺動するものとして、例えば、流体動圧発生溝を伴ったすべり軸受がある(特許文献1)。このような摺動面構造は、図9に示すような第1摺動面101aを有する第1部材101と、第2摺動面102aを有する第2部材102とを備えている。第1部材101の摺動面101aには、図10に示すように、外径側に周方向に沿ったスパイラル状の液体案内溝103が形成されている。そして、第1部材101及び/又は第2部材102が軸心を中心とする回転により、摺動面間の相対的な摺動によって液体案内溝103が外径側104から中心側105に向かって液体を流動させる。この流動に伴う動圧により、相対する2つの摺動面が流体を介することで直接接触せず平行運動する状態(流体潤滑状態)又はこれに近い状態を生じさせる。このように摺動する2面が離れていると、2面間の摩擦が小さくなる。この状態下での摩擦は、流体の粘度と、摺動面の表面形状に依存する。また、流体潤滑状態において、2面間の距離を大きくすることで摩擦を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−84009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のような滑り軸受において、摺動面間の摩擦をより小さくするために、流体を粘性の低いものとすると、低密度となって摺動面間の距離が小さくなり、摩擦低減効果が得られない。また、摺動面間の距離を大きくするために、流体の引き込み量を増大させようとすると、摺動速度を上げる必要があるが、摺動速度の設定の自由度は、対象物品によって異なっている。このように、摺動面間の摩擦を低減させるために、流体特性や摺動速度等の摺動条件を変更しても、その低減効果に限界があり、十分に摩擦低減効果が得られなかった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて、摺動条件を変更することなく流体潤滑状態にある2面間の摩擦を低減することができる摺動面構造及び軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摺動面構造は、相対面する第1摺動面と第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で前記第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する摺動面構造において、前記摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝を有する案内部を設け、前記案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が前記案内部よりも小さい疎液性部分が前記案内部の下流側に設けられたものである。「第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する」とは、第1摺動面と第2摺動面との全面が非接触である場合だけではなく、問題となるような摺動抵抗を生じない程度に第1摺動面と第2摺動面との一部が接触する場合も含む。
【0007】
本発明の摺動面構造によれば、第1摺動面と第2摺動面の少なくとも一方の、案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の液体に対するぬれ性を、前記案内部の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。すなわち、案内部の親液性を、前記摺動面部分の親液性よりも高くする(前記摺動面部分の疎液性を、案内部の疎液性よりも高くする)。この場合、ぬれ性の小さい疎液性部分は、液体案内溝を有しない領域であることから、液体案内溝にて液体を引き込み案内する能力は維持しながら、疎液性部分では、摺動面と液体との間に摺動抵抗を生じさせるような相互作用を小さくすることができて、摺動面間の摩擦を小さくすることができる。
【0008】
第1摺動面と第2摺動面の少なくとも一方に、疎液性の高い物質が被覆されることにより、液体に対するぬれ性を小さくしたり、親液性の高い物質が被覆されることにより、液体に対するぬれ性を大きくしたりできる。
【0009】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1及び第2摺動面は円形平坦面からなり、周方向に沿って前記案内部を設け、案内部よりも下流側に前記疎液性部分を設けるものとできる。
【0010】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1及び第2摺動面の少なくとも一方はリング状平坦面からなり、前記案内部は、内径側へ液体を案内する外径側のリング状の第1部と、外径側へ液体を案内する内径側のリング状の第2部とを有し、この第1部と第2部との間に前記疎液性部分を設けるものとできる。
【0011】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1摺動面を円筒体の内周面とするとともに、前記第2摺動面を、前記円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体の外周面とし、摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることができる。
【0012】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1摺動面と第2摺動面とが直線状に摺動するものであり、摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることができる。
【0013】
本発明の軸受は、前記本発明の摺動面構造を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の摺動面構造及びこれを用いた軸受では、案内溝にて液体を引き込み案内する能力は維持するとともに、疎液性部分では、摺動面と液体との相互作用を小さくすることができるため、摺動速度や流体等の摺動条件を変更することなく、摺動面間の摩擦を低減することができる。
【0015】
疎液性の高い物質を被覆したり、親液性の高い物質を被覆したりすると、簡単な方法で摺動面のぬれ性を大きくしたり小さくしたりできる。
【0016】
本発明の摺動面構造は、平面状、円弧面等の種々のタイプの摺動面に適用することができて、様々な分野に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態を示す摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す摺動面構造の第1部材の平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す摺動面構造の第1部材の平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す摺動面構造の簡略断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態を示す摺動面構造の簡略斜視図である。
【図7】実施例に使用したリングオンディスク試験装置の簡略正面図である。
【図8】摺動トルクの摺動速度依存性を示すグラフ図である。
【図9】従来の摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図10】従来の摺動面構造の第1部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態の摺動面構造は、第1部材1の第1摺動面1aと第2部材2の第2摺動面2aとが液体を介して相対的に摺動するものであって、例えば、ポンプやオイルシール、撹拌装置、電動機等の摺動部に使用することができる。この場合、図1に示すように、第1部材1及び第2部材2は炭化珪素(SiC)からなるディスク(円盤体)としており、第1摺動面1aと第2摺動面2aとを円形平坦面としている。第1及び第2部材1、2は、ディスクの他、リング体や円筒体、円柱体とすることもでき、摺動面1a、2aは円形以外の形状とすることができる。ここで、液体とは、水、油、液体金属等の種々の液体を選択でき、この摺動面構造が用いられる用途に応じて種々変更することができる。本実施形態では、液体として水(蒸留水)を用いている。
【0020】
第1部材1の摺動面1aには、図2に示すように、外径側に周方向に沿ってスパイラル状の液体案内溝3(溝ピッチ700nm、溝の深さ200nm)が形成されている。本実施形態では、液体案内溝3は、フェムト秒レーザを照射することにより形成している。
【0021】
第1部材1及び/又は第2部材2が軸心を中心とする回転により、摺動面間の相対的な摺動によって液体案内溝3が液体を外方側から中心側に向かって案内する場合、摺動面の中心側に液体を流動させる。この流動に伴う動圧により、第1摺動面1aと第2摺動面2aとの間に隙間が形成されて第1摺動面1aと第2摺動面2aとが非接触で摺動する。第1摺動面1aにおいて、液体案内溝3が形成されて、液体を外方側から中心側に供給する部位、すなわち、図2のドット部よりも外径側の領域を案内部4としている。
【0022】
第1摺動面1aにおいて、案内部4よりも内径側で、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分(図2のドット部に対応する部位)の液体に対するぬれ性を、案内部4の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分5としている。すなわち、第1摺動面1aの案内部4に親液性を高くする処理を施すとともに、疎液性部分5に疎液性を高くする処理を施している。
【0023】
親液性を高くする処理は、大気雰囲気で低圧水銀ランプを第1摺動面1aの案内部4に照射するUVオゾン処理とした。この場合、第2摺動面2aにおいて、第1摺動面1aの案内部4と対面する部位にも親液性を高くする処理を施すのが望ましい。これにより、案内部4への液体の流入が促進され、安定した動圧効果を得ることができる。
【0024】
疎液性を高くする処理は、例えば、疎液性の高い物質を第1摺動面1aの摺動面部分5に被覆するものである。本実施形態では、UVオゾン処理を施した後、トリメチルシリル基の自己組織化単分子膜コーティングを行っている。これにより、表面が水に対して疎液性の高いトリメチルシリル基で被覆される。この場合、第2摺動面2aにおいて、第1摺動面1aの疎液性部分5と対面する部位にも疎液性を高くする処理を施してもよい。
【0025】
これにより、第1摺動面1aは、案内部4で親水性が高くなり、疎液性部分5で疎水性が高くなる。このような摺動面構造において、第1部材1が軸心を中心として第2部材に対して相対的に回転すると、前記したように、液体の動圧作用で第1摺動面1aと第2摺動面2aとが非接触で摺動する。この場合、ぬれ性の小さい疎液性部分5は、液体案内溝3を有しない領域であることから、液体案内溝3にて液体を引き込む能力はそのまま維持しながら、疎液性部分5では、摺動面と液体との相互作用を小さくすることができて、摺動面間の摩擦を小さくすることができる。
【0026】
摺動面間の摩擦を効果的に小さくするためには、液体案内溝3は、溝ピッチ(隣接する溝底間の寸法)を100nm〜1mm、深さを1nm〜100μmの範囲とするのが望ましい。
【0027】
このように、本発明の摺動面構造は、液体案内溝3にて液体を引き込み案内する能力は維持するとともに、疎液性部分5では、摺動面1a、2aと液体との相互作用を小さくすることができるため、摺動速度や流体等の摺動条件を変更することなく、負荷容量を維持したまま摺動面間の摩擦を低減することができる。
【0028】
疎液性の高い物質が被覆されることにより液体に対するぬれ性を小さくすることができるため、簡単な方法で摺動面1aの疎液性を高くすることができる。
【0029】
図3及び図4は、本発明の第2実施形態の摺動面構造である。この場合、図3に示すように、第1部材11はリング体、第2部材12はディスク(円盤体)として第1摺動面11aと第2摺動面12aとを円形平坦面としている。
【0030】
第1部材11の摺動面11aには、図4に示すように、内径側へ液体を案内する液体案内溝13aを設けるとともに、液体案内溝13aよりも内径側に、外径側へ液体を案内する液体案内溝13bが設けられている。このように、案内部14は、外径側のリング状の第1部14a(図4のドット部よりも外径側)と、内径側のリング状の第2部14b(図4のドット部よりも内径側)とからなる。この案内部14には、親液性を高くする処理が施されている。
【0031】
第1部材11aが軸心を中心として第2部材12aに対して相対的に回転し、液体案内溝13が、摺動面間の案内部14a、14bに挟まれた部位(図4のドット部に対応する部位)に向かって、負荷容量を低下させることなく液体を流動させることができる。第1摺動面11aにおいて、案内部14によって案内された液体に接する摺動面部分(図4のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部14の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分15としている。
【0032】
図5は、本発明の第3実施形態の摺動面構造である。この場合、図5に示すように、第1摺動面21aを円筒体(第1部材21)の内周面とするとともに、第2摺動面22aを、円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体(第2部材22)の外周面としている。
【0033】
第2部材22の摺動面22aには、図5に示すように、軸方向両端部側に周方向に沿って、液体案内溝23を有する案内部24a、24bを設けている。案内部24a、24bには、親液性を高くする処理が施されている。第2部材22が軸心を中心として第1部材21に対して相対的に回転し、液体案内溝23が、摺動面間の案内部24a、24bに挟まれた部位、すなわち第2摺動面22aの軸方向中間部に対応する部位(図5のドット部に対応する部位)に向かって液体を流動させることができる。第2摺動面22aにおいて、案内部24によって案内された液体に接する摺動面部分(図5のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部24の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分25としている。
【0034】
図6は、本発明の第4実施形態の摺動面構造である。この場合、図6に示すように、第1摺動面31aを立方体(第1部材31)の端面とするとともに、第2摺動面32aを長尺部材(第2部材32)の端面としている。第1摺動面31aと第2摺動面32aとは、相対的に平行に摺動するものである。
【0035】
第2部材32の第2摺動面32aには、図6に示すように、摺動方向と直交する方向の両端部側に、液体案内溝33を有する案内部34a、34bを摺動方向に沿って設けている。案内部34a、34bには、親液性を高くする処理が施されている。第1部材31が第2部材32に対して相対的に直線状に移動し、液体案内溝33が、摺動面間の案内部34a、34bに挟まれた部位、すなわち第2摺動面32aの摺動方向と直交する方向の中央部(図6のドット部に対応する部位)に向かって液体を流動させることができる。第2摺動面32aにおいて、案内部34によって案内された液体に接する摺動面部分(図6のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部34の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分35としている。
【0036】
このように、本発明の摺動面構造は、平面状、円弧面等の種々のタイプ、またはそれらが組み合わされた摺動面に適用することができて、様々な分野に応用することが可能である。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、第1部材1と第2部材2とでどちらを移動させてもよく、相対的な移動が生じていれば両方を移動させてもよい。また、案内部4が設けられる摺動面において、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分のぬれ性を、案内部4のぬれ性よりも小さくしたが、案内部4が同一平面上に設けられていない、あるいは、同一部材上に設けられていない摺動面において、前記摺動面部分のぬれ性を小さくしてもよい。案内部4は移動側、固定側のいずれに設けてもよく、移動側と固定側との両方に設けてもよい。案内部4は摺動方向に連続する必要はなく、摺動方向に間隔をおいて案内部4としてもよいし、その間の部分を疎液性部分5としてもよい。実施形態では、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分の全面を疎液性部分5としたが、前記摺動面部分の一部を疎液性部分5としてもよい。
【0038】
第1部材1及び第2部材2は、共にリング体としてもよい。液体案内溝3の断面形状は、四角形、多角形、半円形等種々の形状とすることができ、平面視で直線状であっても曲線状であってもよい。液体案内溝3の深さ・ピッチ等サイズ、液体案内溝3の形成方法、第1部材1や第2部材2の材質は種々のものとできる。親液性を高くする処理や疎液性を高くする処理は、実施形態の方法、材料に限られない。例えば、親液性を高める処理として、親液性の高い物質を被覆してもよい。また、親液性あるいは疎液性を高くする処理として、プラズマや電子線、電磁波を照射してもよい。
【0039】
また、実施形態では、案内部4に親液性を高くする処理を行い、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分に疎液性を高くする処理を行ったが、案内部4と前記摺動面部分との間でぬれ性に差が生じれば、いずれか一方の処理を行うだけでもよい。
【実施例】
【0040】
試料は、第1部材としてリング42、第2部材としてディスク43を用いた。リング42及びディスク43はSiC焼結体であり、摺動面は研磨している。試料表面の20μm角を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した表面粗さはRa9.6nmであった。回転側の試料であるリング42のサイズは、外径16mm、内径10mm、厚さ5mmである。固定側の試料であるディスク43は、平面視で2箇所の端面を有する円形状となっており、サイズは直径20mm、厚さ3mmである。
【0041】
リング42表面の外径側及び内径側には、フェムト秒レーザを照射することにより液体案内溝を形成した。すなわち、チタンサファイアレーザ(中心波長λ=800nm、パルス幅τ=120fs、パルス繰り返し周波数F=1kHz、最大照射エネルギE=400μJ/pulse)を半波長板(HWP)と偏光ビームスプリッタ(PBS)により出力調整し、レーザの光点がオーバーラップするようにリング42を載せたステージを回転させ走査照射した。液体案内溝は、幅3mmのリング42に対し、外径及び内径から500μmの領域に形成した。また、液体案内溝の方向は、接線方向に対してそれぞれ45°及び−45°となるように形成し、リング42の回転によって水がリング中央の液体案内溝未形成部に引き込まれるようにしている。
【0042】
本実施例では、リング42の液体案内溝未形成部のみのぬれ性を相違させた。具体的には、大気雰囲気で低圧水銀ランプを照射するUVオゾン処理を30min行い、試料表面の親水性を高くする処理を行った(UVオゾン処理)。その後、5min以内にビーカ内にリングを固定し、リング下方に設置した容器にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を滴下後ふたをし、室温で気化させ1hrリングと反応させた。その後、内径11mm、外径15mmのステンレス製リングを撥水性膜を保護するマスクとしてリング42の液体案内溝未形成部に置き、再度UVオゾン処理を30min施すことで、液体案内溝形成部のみ親水性が高くなるようにした。これにより、液体案内溝未形成部の撥水性を高くした(HMDS処理)。UVオゾン処理及びHMDS処理した基板の蒸留水に対する接触角はそれぞれ7.1°、78.7°であった。これにより、液体案内溝未形成部のぬれ性に差を持たせることができた。
【0043】
前記UVオゾン処理、HMDS処理を行った試料において、図7に示すようなリングオンディスク試験を行った。リングオンディスク試験とは、平面ディスク上にリング状の試験片を負荷をかけ接触させ、同軸で回転摺動させた場合の摩擦特性を調べる試験法である。本実施例では、回転式粘弾性測定装置(レオメータ)を使用した。リング42とディスク43との2面間に印加する垂直荷重は、回転機構を支えるZ軸ステージ40を上下させ印加し、試料容器45の下にあるロードセル46の値を参照しフィードバック制御されて一定に保持される。回転機構には、エンコーダが付属したエアベアリング式モータが使用されており、摺動速度を指定値に保つために必要なモータ電流値から摺動トルクを算出した。なお、潤滑剤44としては、蒸留水を用いた。
【0044】
リング42の裏面には十字の溝が形成されており、上部モータ41に連結させた治具にある十字状の凸部を嵌合させることによりトルクを伝達した。ディスク43は、内径25mmのステンレス製の試料容器45の中に設置した。この容器45には、ディスク43と同形のやや大きな溝を形成しており、その溝にディスクをはめ込むことでリング回転時に受けるトルクにより固定される機構とした。
【0045】
本実施例では、荷重を5N、10Nと変化させ、それぞれの荷重において回転速度を300rad/s(1.86m/s)から100rad/s(0.620m/s)まで変化させた。
【0046】
図8に、リングオンディスク試験の摺動トルクを示す。摺動トルクは、一定荷重下で摺動速度の低下とともに減少しており、いずれの場合も流体潤滑状態にあると考えられる。従って、リング−ディスク2面間は接触することなく摺動していると考えられる。一方、各荷重においてHMDS処理を行った場合の方が、UVオゾン処理を行った場合よりも摺動トルクが小さいことが確認された。UVオゾン処理を行った場合の摺動トルクをTuvとし、HMDS処理を行った場合の摺動トルクをTHMDSとすると、例えば荷重5Nの場合では、摺動速度1.86m/sにおいて、摩擦低減率R=(Tuv−THMDS)/Tuvは約4%となり、本実施例の中で最も高く、摺動速度0.620m/sで約3%である。このように、液体案内溝未形成部のぬれ性を液体案内溝形成部のぬれ性よりも小さくすると、摺動面間の摩擦を効果的に低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0047】
1a、11a、21a、31a 第1摺動面
2a、12a、22a、32a 第2摺動面
3、13、23、33 液体案内溝
4、14、24、34 案内部
5、15、25、35 疎液性部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦下で摺動する摺動面構造及び軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低い摺動抵抗(摩擦)の下で2つの面が摺動するものとして、例えば、流体動圧発生溝を伴ったすべり軸受がある(特許文献1)。このような摺動面構造は、図9に示すような第1摺動面101aを有する第1部材101と、第2摺動面102aを有する第2部材102とを備えている。第1部材101の摺動面101aには、図10に示すように、外径側に周方向に沿ったスパイラル状の液体案内溝103が形成されている。そして、第1部材101及び/又は第2部材102が軸心を中心とする回転により、摺動面間の相対的な摺動によって液体案内溝103が外径側104から中心側105に向かって液体を流動させる。この流動に伴う動圧により、相対する2つの摺動面が流体を介することで直接接触せず平行運動する状態(流体潤滑状態)又はこれに近い状態を生じさせる。このように摺動する2面が離れていると、2面間の摩擦が小さくなる。この状態下での摩擦は、流体の粘度と、摺動面の表面形状に依存する。また、流体潤滑状態において、2面間の距離を大きくすることで摩擦を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−84009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のような滑り軸受において、摺動面間の摩擦をより小さくするために、流体を粘性の低いものとすると、低密度となって摺動面間の距離が小さくなり、摩擦低減効果が得られない。また、摺動面間の距離を大きくするために、流体の引き込み量を増大させようとすると、摺動速度を上げる必要があるが、摺動速度の設定の自由度は、対象物品によって異なっている。このように、摺動面間の摩擦を低減させるために、流体特性や摺動速度等の摺動条件を変更しても、その低減効果に限界があり、十分に摩擦低減効果が得られなかった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて、摺動条件を変更することなく流体潤滑状態にある2面間の摩擦を低減することができる摺動面構造及び軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摺動面構造は、相対面する第1摺動面と第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で前記第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する摺動面構造において、前記摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝を有する案内部を設け、前記案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が前記案内部よりも小さい疎液性部分が前記案内部の下流側に設けられたものである。「第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する」とは、第1摺動面と第2摺動面との全面が非接触である場合だけではなく、問題となるような摺動抵抗を生じない程度に第1摺動面と第2摺動面との一部が接触する場合も含む。
【0007】
本発明の摺動面構造によれば、第1摺動面と第2摺動面の少なくとも一方の、案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の液体に対するぬれ性を、前記案内部の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。すなわち、案内部の親液性を、前記摺動面部分の親液性よりも高くする(前記摺動面部分の疎液性を、案内部の疎液性よりも高くする)。この場合、ぬれ性の小さい疎液性部分は、液体案内溝を有しない領域であることから、液体案内溝にて液体を引き込み案内する能力は維持しながら、疎液性部分では、摺動面と液体との間に摺動抵抗を生じさせるような相互作用を小さくすることができて、摺動面間の摩擦を小さくすることができる。
【0008】
第1摺動面と第2摺動面の少なくとも一方に、疎液性の高い物質が被覆されることにより、液体に対するぬれ性を小さくしたり、親液性の高い物質が被覆されることにより、液体に対するぬれ性を大きくしたりできる。
【0009】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1及び第2摺動面は円形平坦面からなり、周方向に沿って前記案内部を設け、案内部よりも下流側に前記疎液性部分を設けるものとできる。
【0010】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1及び第2摺動面の少なくとも一方はリング状平坦面からなり、前記案内部は、内径側へ液体を案内する外径側のリング状の第1部と、外径側へ液体を案内する内径側のリング状の第2部とを有し、この第1部と第2部との間に前記疎液性部分を設けるものとできる。
【0011】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1摺動面を円筒体の内周面とするとともに、前記第2摺動面を、前記円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体の外周面とし、摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることができる。
【0012】
前記本発明の摺動面構造において、前記第1摺動面と第2摺動面とが直線状に摺動するものであり、摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることができる。
【0013】
本発明の軸受は、前記本発明の摺動面構造を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の摺動面構造及びこれを用いた軸受では、案内溝にて液体を引き込み案内する能力は維持するとともに、疎液性部分では、摺動面と液体との相互作用を小さくすることができるため、摺動速度や流体等の摺動条件を変更することなく、摺動面間の摩擦を低減することができる。
【0015】
疎液性の高い物質を被覆したり、親液性の高い物質を被覆したりすると、簡単な方法で摺動面のぬれ性を大きくしたり小さくしたりできる。
【0016】
本発明の摺動面構造は、平面状、円弧面等の種々のタイプの摺動面に適用することができて、様々な分野に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態を示す摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す摺動面構造の第1部材の平面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す摺動面構造の第1部材の平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す摺動面構造の簡略断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態を示す摺動面構造の簡略斜視図である。
【図7】実施例に使用したリングオンディスク試験装置の簡略正面図である。
【図8】摺動トルクの摺動速度依存性を示すグラフ図である。
【図9】従来の摺動面構造の第1部材及び第2部材の斜視図である。
【図10】従来の摺動面構造の第1部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態の摺動面構造は、第1部材1の第1摺動面1aと第2部材2の第2摺動面2aとが液体を介して相対的に摺動するものであって、例えば、ポンプやオイルシール、撹拌装置、電動機等の摺動部に使用することができる。この場合、図1に示すように、第1部材1及び第2部材2は炭化珪素(SiC)からなるディスク(円盤体)としており、第1摺動面1aと第2摺動面2aとを円形平坦面としている。第1及び第2部材1、2は、ディスクの他、リング体や円筒体、円柱体とすることもでき、摺動面1a、2aは円形以外の形状とすることができる。ここで、液体とは、水、油、液体金属等の種々の液体を選択でき、この摺動面構造が用いられる用途に応じて種々変更することができる。本実施形態では、液体として水(蒸留水)を用いている。
【0020】
第1部材1の摺動面1aには、図2に示すように、外径側に周方向に沿ってスパイラル状の液体案内溝3(溝ピッチ700nm、溝の深さ200nm)が形成されている。本実施形態では、液体案内溝3は、フェムト秒レーザを照射することにより形成している。
【0021】
第1部材1及び/又は第2部材2が軸心を中心とする回転により、摺動面間の相対的な摺動によって液体案内溝3が液体を外方側から中心側に向かって案内する場合、摺動面の中心側に液体を流動させる。この流動に伴う動圧により、第1摺動面1aと第2摺動面2aとの間に隙間が形成されて第1摺動面1aと第2摺動面2aとが非接触で摺動する。第1摺動面1aにおいて、液体案内溝3が形成されて、液体を外方側から中心側に供給する部位、すなわち、図2のドット部よりも外径側の領域を案内部4としている。
【0022】
第1摺動面1aにおいて、案内部4よりも内径側で、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分(図2のドット部に対応する部位)の液体に対するぬれ性を、案内部4の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分5としている。すなわち、第1摺動面1aの案内部4に親液性を高くする処理を施すとともに、疎液性部分5に疎液性を高くする処理を施している。
【0023】
親液性を高くする処理は、大気雰囲気で低圧水銀ランプを第1摺動面1aの案内部4に照射するUVオゾン処理とした。この場合、第2摺動面2aにおいて、第1摺動面1aの案内部4と対面する部位にも親液性を高くする処理を施すのが望ましい。これにより、案内部4への液体の流入が促進され、安定した動圧効果を得ることができる。
【0024】
疎液性を高くする処理は、例えば、疎液性の高い物質を第1摺動面1aの摺動面部分5に被覆するものである。本実施形態では、UVオゾン処理を施した後、トリメチルシリル基の自己組織化単分子膜コーティングを行っている。これにより、表面が水に対して疎液性の高いトリメチルシリル基で被覆される。この場合、第2摺動面2aにおいて、第1摺動面1aの疎液性部分5と対面する部位にも疎液性を高くする処理を施してもよい。
【0025】
これにより、第1摺動面1aは、案内部4で親水性が高くなり、疎液性部分5で疎水性が高くなる。このような摺動面構造において、第1部材1が軸心を中心として第2部材に対して相対的に回転すると、前記したように、液体の動圧作用で第1摺動面1aと第2摺動面2aとが非接触で摺動する。この場合、ぬれ性の小さい疎液性部分5は、液体案内溝3を有しない領域であることから、液体案内溝3にて液体を引き込む能力はそのまま維持しながら、疎液性部分5では、摺動面と液体との相互作用を小さくすることができて、摺動面間の摩擦を小さくすることができる。
【0026】
摺動面間の摩擦を効果的に小さくするためには、液体案内溝3は、溝ピッチ(隣接する溝底間の寸法)を100nm〜1mm、深さを1nm〜100μmの範囲とするのが望ましい。
【0027】
このように、本発明の摺動面構造は、液体案内溝3にて液体を引き込み案内する能力は維持するとともに、疎液性部分5では、摺動面1a、2aと液体との相互作用を小さくすることができるため、摺動速度や流体等の摺動条件を変更することなく、負荷容量を維持したまま摺動面間の摩擦を低減することができる。
【0028】
疎液性の高い物質が被覆されることにより液体に対するぬれ性を小さくすることができるため、簡単な方法で摺動面1aの疎液性を高くすることができる。
【0029】
図3及び図4は、本発明の第2実施形態の摺動面構造である。この場合、図3に示すように、第1部材11はリング体、第2部材12はディスク(円盤体)として第1摺動面11aと第2摺動面12aとを円形平坦面としている。
【0030】
第1部材11の摺動面11aには、図4に示すように、内径側へ液体を案内する液体案内溝13aを設けるとともに、液体案内溝13aよりも内径側に、外径側へ液体を案内する液体案内溝13bが設けられている。このように、案内部14は、外径側のリング状の第1部14a(図4のドット部よりも外径側)と、内径側のリング状の第2部14b(図4のドット部よりも内径側)とからなる。この案内部14には、親液性を高くする処理が施されている。
【0031】
第1部材11aが軸心を中心として第2部材12aに対して相対的に回転し、液体案内溝13が、摺動面間の案内部14a、14bに挟まれた部位(図4のドット部に対応する部位)に向かって、負荷容量を低下させることなく液体を流動させることができる。第1摺動面11aにおいて、案内部14によって案内された液体に接する摺動面部分(図4のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部14の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分15としている。
【0032】
図5は、本発明の第3実施形態の摺動面構造である。この場合、図5に示すように、第1摺動面21aを円筒体(第1部材21)の内周面とするとともに、第2摺動面22aを、円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体(第2部材22)の外周面としている。
【0033】
第2部材22の摺動面22aには、図5に示すように、軸方向両端部側に周方向に沿って、液体案内溝23を有する案内部24a、24bを設けている。案内部24a、24bには、親液性を高くする処理が施されている。第2部材22が軸心を中心として第1部材21に対して相対的に回転し、液体案内溝23が、摺動面間の案内部24a、24bに挟まれた部位、すなわち第2摺動面22aの軸方向中間部に対応する部位(図5のドット部に対応する部位)に向かって液体を流動させることができる。第2摺動面22aにおいて、案内部24によって案内された液体に接する摺動面部分(図5のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部24の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分25としている。
【0034】
図6は、本発明の第4実施形態の摺動面構造である。この場合、図6に示すように、第1摺動面31aを立方体(第1部材31)の端面とするとともに、第2摺動面32aを長尺部材(第2部材32)の端面としている。第1摺動面31aと第2摺動面32aとは、相対的に平行に摺動するものである。
【0035】
第2部材32の第2摺動面32aには、図6に示すように、摺動方向と直交する方向の両端部側に、液体案内溝33を有する案内部34a、34bを摺動方向に沿って設けている。案内部34a、34bには、親液性を高くする処理が施されている。第1部材31が第2部材32に対して相対的に直線状に移動し、液体案内溝33が、摺動面間の案内部34a、34bに挟まれた部位、すなわち第2摺動面32aの摺動方向と直交する方向の中央部(図6のドット部に対応する部位)に向かって液体を流動させることができる。第2摺動面32aにおいて、案内部34によって案内された液体に接する摺動面部分(図6のドット部)には疎液性を高くする処理が施されており、この摺動面部分の液体に対するぬれ性を、案内部34の液体に対するぬれ性よりも小さくしている。このぬれ性の小さい部分を疎液性部分35としている。
【0036】
このように、本発明の摺動面構造は、平面状、円弧面等の種々のタイプ、またはそれらが組み合わされた摺動面に適用することができて、様々な分野に応用することが可能である。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、第1部材1と第2部材2とでどちらを移動させてもよく、相対的な移動が生じていれば両方を移動させてもよい。また、案内部4が設けられる摺動面において、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分のぬれ性を、案内部4のぬれ性よりも小さくしたが、案内部4が同一平面上に設けられていない、あるいは、同一部材上に設けられていない摺動面において、前記摺動面部分のぬれ性を小さくしてもよい。案内部4は移動側、固定側のいずれに設けてもよく、移動側と固定側との両方に設けてもよい。案内部4は摺動方向に連続する必要はなく、摺動方向に間隔をおいて案内部4としてもよいし、その間の部分を疎液性部分5としてもよい。実施形態では、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分の全面を疎液性部分5としたが、前記摺動面部分の一部を疎液性部分5としてもよい。
【0038】
第1部材1及び第2部材2は、共にリング体としてもよい。液体案内溝3の断面形状は、四角形、多角形、半円形等種々の形状とすることができ、平面視で直線状であっても曲線状であってもよい。液体案内溝3の深さ・ピッチ等サイズ、液体案内溝3の形成方法、第1部材1や第2部材2の材質は種々のものとできる。親液性を高くする処理や疎液性を高くする処理は、実施形態の方法、材料に限られない。例えば、親液性を高める処理として、親液性の高い物質を被覆してもよい。また、親液性あるいは疎液性を高くする処理として、プラズマや電子線、電磁波を照射してもよい。
【0039】
また、実施形態では、案内部4に親液性を高くする処理を行い、案内部4によって案内された液体に接する摺動面部分に疎液性を高くする処理を行ったが、案内部4と前記摺動面部分との間でぬれ性に差が生じれば、いずれか一方の処理を行うだけでもよい。
【実施例】
【0040】
試料は、第1部材としてリング42、第2部材としてディスク43を用いた。リング42及びディスク43はSiC焼結体であり、摺動面は研磨している。試料表面の20μm角を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した表面粗さはRa9.6nmであった。回転側の試料であるリング42のサイズは、外径16mm、内径10mm、厚さ5mmである。固定側の試料であるディスク43は、平面視で2箇所の端面を有する円形状となっており、サイズは直径20mm、厚さ3mmである。
【0041】
リング42表面の外径側及び内径側には、フェムト秒レーザを照射することにより液体案内溝を形成した。すなわち、チタンサファイアレーザ(中心波長λ=800nm、パルス幅τ=120fs、パルス繰り返し周波数F=1kHz、最大照射エネルギE=400μJ/pulse)を半波長板(HWP)と偏光ビームスプリッタ(PBS)により出力調整し、レーザの光点がオーバーラップするようにリング42を載せたステージを回転させ走査照射した。液体案内溝は、幅3mmのリング42に対し、外径及び内径から500μmの領域に形成した。また、液体案内溝の方向は、接線方向に対してそれぞれ45°及び−45°となるように形成し、リング42の回転によって水がリング中央の液体案内溝未形成部に引き込まれるようにしている。
【0042】
本実施例では、リング42の液体案内溝未形成部のみのぬれ性を相違させた。具体的には、大気雰囲気で低圧水銀ランプを照射するUVオゾン処理を30min行い、試料表面の親水性を高くする処理を行った(UVオゾン処理)。その後、5min以内にビーカ内にリングを固定し、リング下方に設置した容器にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を滴下後ふたをし、室温で気化させ1hrリングと反応させた。その後、内径11mm、外径15mmのステンレス製リングを撥水性膜を保護するマスクとしてリング42の液体案内溝未形成部に置き、再度UVオゾン処理を30min施すことで、液体案内溝形成部のみ親水性が高くなるようにした。これにより、液体案内溝未形成部の撥水性を高くした(HMDS処理)。UVオゾン処理及びHMDS処理した基板の蒸留水に対する接触角はそれぞれ7.1°、78.7°であった。これにより、液体案内溝未形成部のぬれ性に差を持たせることができた。
【0043】
前記UVオゾン処理、HMDS処理を行った試料において、図7に示すようなリングオンディスク試験を行った。リングオンディスク試験とは、平面ディスク上にリング状の試験片を負荷をかけ接触させ、同軸で回転摺動させた場合の摩擦特性を調べる試験法である。本実施例では、回転式粘弾性測定装置(レオメータ)を使用した。リング42とディスク43との2面間に印加する垂直荷重は、回転機構を支えるZ軸ステージ40を上下させ印加し、試料容器45の下にあるロードセル46の値を参照しフィードバック制御されて一定に保持される。回転機構には、エンコーダが付属したエアベアリング式モータが使用されており、摺動速度を指定値に保つために必要なモータ電流値から摺動トルクを算出した。なお、潤滑剤44としては、蒸留水を用いた。
【0044】
リング42の裏面には十字の溝が形成されており、上部モータ41に連結させた治具にある十字状の凸部を嵌合させることによりトルクを伝達した。ディスク43は、内径25mmのステンレス製の試料容器45の中に設置した。この容器45には、ディスク43と同形のやや大きな溝を形成しており、その溝にディスクをはめ込むことでリング回転時に受けるトルクにより固定される機構とした。
【0045】
本実施例では、荷重を5N、10Nと変化させ、それぞれの荷重において回転速度を300rad/s(1.86m/s)から100rad/s(0.620m/s)まで変化させた。
【0046】
図8に、リングオンディスク試験の摺動トルクを示す。摺動トルクは、一定荷重下で摺動速度の低下とともに減少しており、いずれの場合も流体潤滑状態にあると考えられる。従って、リング−ディスク2面間は接触することなく摺動していると考えられる。一方、各荷重においてHMDS処理を行った場合の方が、UVオゾン処理を行った場合よりも摺動トルクが小さいことが確認された。UVオゾン処理を行った場合の摺動トルクをTuvとし、HMDS処理を行った場合の摺動トルクをTHMDSとすると、例えば荷重5Nの場合では、摺動速度1.86m/sにおいて、摩擦低減率R=(Tuv−THMDS)/Tuvは約4%となり、本実施例の中で最も高く、摺動速度0.620m/sで約3%である。このように、液体案内溝未形成部のぬれ性を液体案内溝形成部のぬれ性よりも小さくすると、摺動面間の摩擦を効果的に低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0047】
1a、11a、21a、31a 第1摺動面
2a、12a、22a、32a 第2摺動面
3、13、23、33 液体案内溝
4、14、24、34 案内部
5、15、25、35 疎液性部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対面する第1摺動面と第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で前記第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する摺動面構造において、
前記摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝を有する案内部を設け、
前記案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が前記案内部よりも小さい疎液性部分が前記案内部の下流側に設けられていることを特徴とする摺動面構造。
【請求項2】
疎液性の高い物質に被覆されることにより、液体に対するぬれ性を小さくしたことを特徴とする請求項1の摺動面構造。
【請求項3】
親液性の高い物質に被覆されることにより、液体に対するぬれ性を大きくしたことを特徴とする請求項1の摺動面構造。
【請求項4】
前記第1及び第2摺動面は円形平坦面からなり、
周方向に沿って前記案内部を設け、
案内部よりも下流側に前記疎液性部分が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項5】
前記第1及び第2摺動面の少なくとも一方はリング状平坦面からなり、
前記案内部は、内径側へ液体を案内する外径側のリング状の第1部と、外径側へ液体を案内する内径側のリング状の第2部とを有し、
この第1部と第2部との間に前記疎液性部分が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項6】
前記第1摺動面を円筒体の内周面とするとともに、前記第2摺動面を、前記円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体の外周面とし、
摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項7】
前記第1摺動面と第2摺動面とが直線状に摺動するものであり、
摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項8】
前記請求項1〜請求項7のいずれかの摺動面構造を備えたことを特徴とする軸受。
【請求項1】
相対面する第1摺動面と第2摺動面とを有し、液体の動圧作用で前記第1摺動面と第2摺動面とが非接触状態下で摺動する摺動面構造において、
前記摺動面の少なくとも一方に、摺動面間の相対的な摺動によって液体を所定方向に案内する液体案内溝を有する案内部を設け、
前記案内部によって案内された液体に接する摺動面部分の少なくとも一方に、液体に対するぬれ性が前記案内部よりも小さい疎液性部分が前記案内部の下流側に設けられていることを特徴とする摺動面構造。
【請求項2】
疎液性の高い物質に被覆されることにより、液体に対するぬれ性を小さくしたことを特徴とする請求項1の摺動面構造。
【請求項3】
親液性の高い物質に被覆されることにより、液体に対するぬれ性を大きくしたことを特徴とする請求項1の摺動面構造。
【請求項4】
前記第1及び第2摺動面は円形平坦面からなり、
周方向に沿って前記案内部を設け、
案内部よりも下流側に前記疎液性部分が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項5】
前記第1及び第2摺動面の少なくとも一方はリング状平坦面からなり、
前記案内部は、内径側へ液体を案内する外径側のリング状の第1部と、外径側へ液体を案内する内径側のリング状の第2部とを有し、
この第1部と第2部との間に前記疎液性部分が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項6】
前記第1摺動面を円筒体の内周面とするとともに、前記第2摺動面を、前記円筒体に内嵌される円筒体乃至円柱体の外周面とし、
摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項7】
前記第1摺動面と第2摺動面とが直線状に摺動するものであり、
摺動面の少なくとも一方に、摺動面間に液体を案内する前記案内部を設けることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の摺動面構造。
【請求項8】
前記請求項1〜請求項7のいずれかの摺動面構造を備えたことを特徴とする軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−247383(P2011−247383A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123390(P2010−123390)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 砥粒加工学会誌「Abrasive Technology」 第54巻 第6号 発行所 社団法人砥粒加工学会 発行日 平成22年6月1日(頒布開始日 平成22年5月28日)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 砥粒加工学会誌「Abrasive Technology」 第54巻 第6号 発行所 社団法人砥粒加工学会 発行日 平成22年6月1日(頒布開始日 平成22年5月28日)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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