説明

撥弦式の信号出力装置

【課題】線状部材を張って撥弦することで多様な楽音を発生させる。
【解決手段】支持リング10の台座11に圧電振動板31、弾性材32が順に貼られている。圧電振動板31は振動を検出して電気信号を出力する。カバー部材20の突条部21は、側面視山形に盛り上がり、2つの当接部22は突条部21の麓部の両側に連接し、台座11の上面11aと平行となり、その下面22bが弾性材32に当接状態となる。ウィング部23は、各当接部22から片持ち梁状に延出し、自由に振動できる。輪ゴム34を突条部21に掛けて張り、カバー部材20を弾性材32の側(下側)に押圧した状態にして輪ゴム34を弾くと、輪ゴム34の振動が突条部21、当接部22、弾性材32を経由して圧電振動板31に伝達され、振動に応じた電気信号が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状部材を撥弦して楽音発生用の信号を取り出す撥弦式の信号出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輪ゴム等の弾性材でなる外付けの弦を張り、その弦を弾いて楽音を発生させる信号出力装置や弦楽器が知られている。例えば、下記特許文献1の弦楽器では、内部に空洞を有する縦長の胴の両端部に、弦の長さを決定する一対の弦係止具を設け、弦係止具に弦としての輪ゴムを掛けて、胴に設けた指標の間で弦を指で押さえて弾くことで、指標に応じた音高の音が発音される。
【0003】
これにより、演奏が簡単で、携帯して使用することもできる。また、音声はアンプで増幅してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3021830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の弦楽器では、一旦張った弦の張り状態は一定であるので、弦を交換しない限り音色や音階は基本的に同じである。また、色々な音高を発音するためには、指標の間を別の指で押圧する必要があり、演奏操作の容易化に観点からは改善の余地がある。また、弦を張った状態に維持する必要があるため、適した弦は実質的には弾性材に限られる。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、所望の線状部材を張って撥弦することで多様な楽音を発生させることができる撥弦式の信号出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の撥弦式の信号出力装置は、支持部(11)を有する支持体(10)と、前記支持体の前記支持部の上に支持され、振動を検出して、楽音発生用の電気信号を出力する検出手段(31)と、前記検出手段の上に配設された弾性材(32)と、薄板状に形成され、自身の振動が前記弾性材を介して前記検出手段に伝達されるように前記弾性材の上に配置されるカバー部材(20)とを有し、前記カバー部材は、前記弾性材に当接する当接部(22)と、該当接部より延出し自由に振動可能なウィング部(23)と、上方に突出形成され、線状部材を係止するための係止部(21)とを有し、前記カバー部材の前記係止部に前記線状部材(34)を係止し、該線状部材が張り且つ該線状部材が前記カバー部材を前記弾性材の側に押圧した状態にして前記線状部材を撥弦すると、その振動が前記カバー部材及び前記弾性材を介して前記検出手段に伝達されるように構成されたことを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記支持体には、前記カバー部材が前記弾性材の上における配置位置を規制する位置規制部(13)が設けられる(請求項2)。また好ましくは、前記位置規制部は、上方に突設された爪部(13)であり、前記カバー部材には、前記爪部に係合する係合部(22a)が形成される(請求項3)。
【0009】
好ましくは、前記カバー部材は前記支持体に対して別体で分離可能に構成され、前記弾性材は粘弾性材である(請求項4)。また好ましくは、前記係止部には、前記線状部材が嵌合される溝部(21a)が形成される(請求項5)。また好ましくは、前記支持体には、ユーザの身体に装着されるための装着部(12)が設けられる(請求項6)。
【0010】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1によれば、線状部材を張って撥弦することで多様な楽音を発生させることができる。
【0012】
請求項2によれば、カバー部材の位置ずれを防止することができる。
【0013】
請求項3によれば、簡単な構成でカバー部材の位置規制ができる。
【0014】
請求項4によれば、カバー部材が簡単には脱落せず、且つ非使用時に分離させて嵩張らないようにすることができる。
【0015】
請求項5によれば、線状部材の係止状態を安定させることができる。
【0016】
請求項6によれば、身体に装着した状態で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撥弦式の信号出力装置の斜視図、カバー部材の斜視図、支持リングの斜視図である。
【図2】指の長手方向に沿って見た本信号出力装置の側面図、変形例のカバー部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る撥弦式の信号出力装置の斜視図である。本信号出力装置は、支持リング10とカバー部材20とを備える。図1(b)はカバー部材20の斜視図、図1(c)は支持リング10の斜視図である。本信号出力装置は、ユーザの指に装着され、振動を検出して楽音発生用の電気信号を出力するもので、その出力は、不図示の楽音発生装置に供給されて楽音が発生する。
【0020】
支持リング10は真鍮等の金属や樹脂で一体に形成される。図1(a)、(c)に示すように、支持リング10には、平板状の支持部である台座11が設けられる。また、台座11から2方向に延設される片状の装着部12が、互いに内側に湾曲し、台座11と協働して欠円を有した環状を形成している。
【0021】
支持リング10は、宝石を支持する指輪のような形態であり、装着部12にユーザの指30を通すことで装着される。装着部12は、指輪のように完全な環状としてもよいが、図1(c)に示すように一部が連続していないことで、その弾性によってあらゆる太さの指30にもフィットするようになっている。
【0022】
信号出力装置は使用時において天地の限定はないが、台座11及びカバー部材20周りについては、便宜上、指30に装着された状態において、指30の表面に遠い側を上側と呼称する。図2(a)は、指30の長手方向に沿って見た本信号出力装置の側面図である。
【0023】
台座11は、上面視でほぼ四角形を呈し、その4箇所の頂部近傍から爪部13が上方に突設されている(図1(a)、(c)、図2(a))。図2(a)に示すように、台座11の上面11aには、円盤状の圧電振動板31が不図示の導電性粘着テープで貼着されている。圧電振動板31の上には、圧電振動板31と同心で同径の弾性材32が貼られている。
【0024】
圧電振動板31は、ピエゾ素子が黄銅板に貼られてなり、アース線及び信号線33(図1(a))が半田付けされている。圧電振動板31は、振動を検出して電気信号を出力し、その出力信号が信号線33によって取り出される。弾性材32はブチルゴム等の粘弾性材でなる。
【0025】
カバー部材20は、真鍮等の金属や樹脂で薄板状に一体に形成される。カバー部材20は、支持リング10とは別体に構成され、使用時には圧電振動板31及び弾性材32を介して台座11の上側に配置される。図1(b)、図2(a)に示すように、カバー部材20は、突条部21と、突条部21の両側に連接する2つの当接部22と、2つの当接部22に連接するウィング部23とを有する。
【0026】
突条部21は、上方に凸となるように突出形成されて側面視山形に盛り上がり、その上端の稜線は装着時の指30の長手方向と同じ方向に延びる(図1(a))。2つの当接部22は、装着時の指30の円周方向において、突条部21の麓部の両側に連接する。台座11へのカバー部材20の配置時において、2箇所の当接部22は、台座11の上面11aと平行となり、その下面22bが弾性材32のうち2つの装着部12と台座11との接続部に近い部分に当接状態となる(図2(a))。すなわち、装着時の指30の円周方向における弾性材32の両端部近傍に下面22bが当接する。突条部21は弾性材32から浮く。弾性材32は粘性を有するので、当接部22の下面22bは弾性材32に接着に近い状態で密着し、容易にずれたり脱落したりしない。
【0027】
ウィング部23は、各当接部22から、装着時の指30の円周方向に片持ち梁状に延出している。すなわち、各ウィング部23は、当接部22に連接する部分を基端部として延び、自由に振動できるようになっている。また、ウィング部23は、装着部12が呈する環状に沿うように、やや下方に湾曲している。
【0028】
装着時の指30の長手方向における各当接部22の端部には、台座11の4つの爪部13に対応する係合部22aが切り欠き形成されている。台座11へのカバー部材20の配置時において、係合部22aは、対応する爪部13と係合することで、装着時の指30の円周方向及び長手方向におけるカバー部材20の移動を規制する。これによっても、カバー部材20は配置位置にて安定する。
【0029】
かかる構成において、本信号出力装置の代表的な使用例を説明する。まず、撥弦する線状部材として例えば輪ゴム34を事前に用意しておく。線状部材は、張って撥弦できればよく、弾性が小さい紐や糸であってもよく、形状は環状でも1本以上の直線状でもよい。
【0030】
カバー部材20を支持リング10の台座11の上に載置する。その際、カバー部材20の突条部21の稜線が装着時の指30の円周方向と直交するように載置し、係合部22aを、対応する爪部13に係合させると共に、当接部22を弾性材32に当接させる(図1(a)、図2(a))。
【0031】
そして、支持リング10の装着部12を指30に装着する。装着部12の指30への装着は、台座11へのカバー部材20の載置よりも先に行ってもよい。一例としては、支持リング10は左手の中指に嵌め、突条部21が中指の掌側を向くように装着する。そして、輪ゴム34を突条部21の長手方向中央付近に掛けると共に、右手の指にも同じ輪ゴム34の別の部分を掛けて引っ張り、張った状態にする。このとき、輪ゴム34が張り且つカバー部材20を弾性材32の側(下側)に押圧した状態にする。この状態で、右手または左手のいずれかの指で、張った輪ゴム34を弾く。
【0032】
すると、輪ゴム34の振動が突条部21、当接部22、弾性材32を経由して圧電振動板31に伝達される。圧電振動板31では、圧電効果により、振動に応じた電気信号が出力される。その際、ウィング部23は、当接部22を経由して受けた振動により共鳴して振動を増幅させると共に、振動を長く持続させる機能を果たす。信号線33に不図示の楽音発生器を接続しておき、取り出される信号を増幅して音響とすることができる。
【0033】
ここで、カバー部材20は、弾性材32の弾性により上下動して振動を伝えるが、弾性材32の粘着性により、脱落することがなく、また係合部22aと爪部13との係合によりずれることもないので、演奏操作に支障がない。
【0034】
演奏には多様な態様が考えられる。まず、図2(a)に例示したように、輪ゴム34がカバー部材20において突条部21とのみ接し、ウィング部23に接していない状態では、ウィング部23が強く振動する、この場合、楽音発生器から発生する楽音は硬めの音色となる。また、輪ゴム34が突条部21だけでなくウィング部23と接した状態で撥弦されると、ウィング部23の振動が抑制ぎみとなり、柔らかく広がり感のある音色(べースギターでいえばウッドベースのようなブロードな音色)となる。
【0035】
また、輪ゴム34とウィング部23との距離を近接させ、輪ゴム34を大きく撥弦した後の振動継続中に、輪ゴム34をウィング部23に接触させると、ピヨンピヨンとした効果音、ビビリ音、歪んだ音のような特殊な楽音を発生させることも可能である。さらに、振動している輪ゴム34の途中部分に僅かに触れることでも効果音は得られる。
【0036】
輪ゴム34をウィング部23との離接操作は、例えば、支持リング10を装着している指30を適宜回転させたり、あるいは、輪ゴム34を張っている方の手で輪ゴム34の張り方向を変化させたりすることで、自由に行える。
【0037】
また、輪ゴム34の張り状態(張力)を変化させることで音高を変化させることができる。また、輪ゴム34を持つ位置を変えて、長さを変えることでも音高を変化させることができる。輪ゴム34を弾くだけでなく、擦る操作によっても振動は発生するので、それに応じた独特な音色の楽音を得ることができる。このように、奏法は多様であり、アイデア次第で多様な楽音を発生させることができる。また、用いる線状部材の種類(素材)、形状(太さ、長さ)によっても、音色や音高が異なるため、一層の多様化が期待できる。
【0038】
本実施の形態によれば、輪ゴム34を突条部21に係止して張った状態にして撥弦すると、その振動が弾性材32を介して圧電振動板31に伝達され、楽音発生用の信号が得られる。これにより、容易な演奏操作で多様な楽音を発生させることができる。特に、線状部材の種類、張力、長さの選定、ウィング部23との接触を含む奏法によって、発生可能な楽音を一層多様化させることができる。
【0039】
また、係合部22aと爪部13とを係合可能に設けたことで、簡単な構成で支持リング10に対するカバー部材20の移動を規制することができる。なお、カバー部材20の移動規制の観点に限れば、係合部22aと爪部13との関係に限定されず、例えば、穴とピンとの関係としてもよい。凹と凸の関係は逆としてもよい。
【0040】
また、カバー部材20は支持リング10に対して別体で分離可能に構成され、弾性材32は粘弾性材であるので、カバー部材20が簡単には脱落せず、且つ非使用時に分離させて嵩張らないようにすることができる。
【0041】
また、支持リング10には装着部12が設けられたので、ユーザは、信号出力装置を指30に装着した状態で使用することができる。なお、この観点からは、支持リング10は、指30に限られず、ユーザの身体のどこかに装着できるように構成されていればよく、例えば、腕や腰に装着するための装着部を有していてもよい。撥弦操作により楽音を発生させる機能に限れば、身体への装着部も必須でない。
【0042】
ところで、カバー部材20を支持リング10の台座11に装着乃至固定する上で、台座11は例示したような平坦形状であることは必須でなく、圧電振動板31が配設されて、カバー部材20が圧電振動板31に弾性的に当接するように配設される構成であればよい。
【0043】
また、カバー部材20は、支持リング10の台座11に対して分離可能としたが、線状部材の撥弦による発音を可能にする観点からは、台座11に対して振動可能に固定した構成としてもよい。すなわち、圧電振動板31に振動を伝達可能であればよく、例えば、圧電振動板31に対して弾性的に接着してもよい。
【0044】
なお、圧電振動板31は、振動を検出してそれに応じた電気信号を出力する構成であればよく、ピエゾ素子を用いたものに限られない。例えば、ホール素子等を用いたものであってもよい。
【0045】
なお、カバー部材20においてウィング部23は、支持リング10の装着時における指30の円周方向に延設されたが、これに限るものではない。すなわち、当接部22に連接する部分を基端部として外方のいずれかの方向に延出すればよく、指30の長手方向に延びてもよい。また、支持リング10の台座11にカバー部材20を取り付ける際、台座11に平行な回転方向における位置を任意に決められる構成としてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、輪ゴム34を突条部21に係止するが、突条部21から輪ゴム34が外れやすいことも考えられる。そこで、図2(b)に変形例を示すように、突条部21の長手方向中央に、突条部21の長手方向に直交する係合溝21aを形成してもよい。そして、この係合溝21aに輪ゴム34を嵌合係止するようにすれば、輪ゴム34は容易には外れることがなく、係止状態を安定させることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 支持リング(支持体)、 11 台座(支持部)、 12 装着部、 13 爪部(位置規制部)、 20 カバー部材、 21 突条部(係止部)、 21a 係合溝(溝部)、 22 当接部、 22a 係合部、 23 ウィング部、 31 圧電振動板(検出手段)、 32 弾性材、 34 輪ゴム(線状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部を有する支持体と、
前記支持体の前記支持部の上に支持され、振動を検出して、楽音発生用の電気信号を出力する検出手段と、
前記検出手段の上に配設された弾性材と、
薄板状に形成され、自身の振動が前記弾性材を介して前記検出手段に伝達されるように前記弾性材の上に配置されるカバー部材とを有し、
前記カバー部材は、前記弾性材に当接する当接部と、該当接部より延出し自由に振動可能なウィング部と、上方に突出形成され、線状部材を係止するための係止部とを有し、
前記カバー部材の前記係止部に前記線状部材を係止し、該線状部材が張り且つ該線状部材が前記カバー部材を前記弾性材の側に押圧した状態にして前記線状部材を撥弦すると、その振動が前記カバー部材及び前記弾性材を介して前記検出手段に伝達されるように構成されたことを特徴とする撥弦式の信号出力装置。
【請求項2】
前記支持体には、前記カバー部材が前記弾性材の上における配置位置を規制する位置規制部が設けられたことを特徴とする請求項1記載の撥弦式の信号出力装置。
【請求項3】
前記位置規制部は、上方に突設された爪部であり、前記カバー部材には、前記爪部に係合する係合部が形成されていることを特徴とする請求項2記載の撥弦式の信号出力装置。
【請求項4】
前記カバー部材は前記支持体に対して別体で分離可能に構成され、前記弾性材は粘弾性材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥弦式の信号出力装置。
【請求項5】
前記係止部には、前記線状部材が嵌合される溝部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥弦式の信号出力装置。
【請求項6】
前記支持体には、ユーザの身体に装着されるための装着部が設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥弦式の信号出力装置。

【図1】
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【図2】
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