説明

撥水性繊維布帛

【課題】
衣料用途、資材用途に利用される繊維布帛であり、吸水した水分が逆戻りしにくく、或いは、発汗によりべとつきを感じさせない布帛を提供すること。
【解決手段】
JIS L−1907(滴下法)による吸水性が30秒未満である吸水性を有する布帛の片面の凸部分にのみ撥水層を形成してなる撥水性繊維布帛であって、撥水層部分が布帛の片側の面積の5〜25%で、且つ、布帛重量の0.05〜15%で付与してなる繊維布帛であり、撥水剤を付与された面のJIS L−1907(滴下法)による吸水性が30秒以下である繊維布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用途、資材用途に利用される繊維布帛であり、吸水した水分が逆戻りしにくく、或いは、発汗によりべとつきを感じさせない布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汗で濡れた布帛が肌にべたつかないようにする技術としては、例えば、特許文献1には、布帛の片面全体に撥水処理を施し、他面には全く撥水性を有しないかまたは撥水度を弱めた撥水処理を施すことが開示されている。しかしこの方法では汗が残留した場合、肌と接する布帛面全体を撥水処理した構成ではかえって汗を吸収しなくなり、べたつき感は解消されにくい。
また、特許文献2や特許文献3には、片面が合成繊維からなる疎水性繊維素材、他面が天然繊維からなる吸湿性繊維素材からなる二重構造の布帛が開示されている。しかしながら、これらの素材は、2種類以上の素材の組み合わせからなるものであるため、染色性に問題があったり、製造コストが高くなるおそれがあった。
また、特許文献4には、吸水性を有する布帛の片面に、撥水剤を模様状に疎水加工した布帛が開示されている。しかし、この布帛は素材の凹凸に関係なく疎水性部分、親水性部分が柄模様にて決められてしまうため、表面に出ている凸部分を効率的に疎水化出来ない。このため、表面のべた付きの防止効果が悪くなってしまうおそれがある。更に、撥水性薬剤のみを付与しているため、耐久性が悪いという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭56−144272号公報
【特許文献2】特開2001−288650号公報
【特許文献3】実開平5−76388号公報
【特許文献4】特公平1−28148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維構造物に撥水剤を布帛の凸部に部分的に配する事により、該繊維構造物が汗を吸収した時もベトツキ感を軽減できる事を見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、(1)に、JIS L−1907(滴下法)による吸水時間が30秒以下である吸水性を有する布帛の片面の凸部分にのみ撥水層を形成してなる撥水性繊維布帛であって、撥水層部分が布帛の片側の面積の5〜25%で、撥水剤が布帛重量の0.05〜15%付与された繊維布帛であり、撥水剤を付与された面のJIS L−1907(滴下法)による吸水時間が30秒以下である繊維布帛である。
また(2)に、撥水層が架橋されてなる(1)記載の撥水性繊維布帛である。
また、(3)に、撥水剤に熱発泡性薬剤が含まれていることを特徴とする(1)乃至(2)記載の繊維布帛である。
また、(4)に、発泡性薬剤に高分子樹脂が混合されていることを特徴とする(3)記載の繊維布帛。
また、(5)に、繊維布帛全体を水で濡らした後、該繊維素材の撥水剤を付与してある側からの吸水性シートによる吸水量が、撥水剤を付与してない側からの吸水性シートによる吸水量の70%以下であることを特徴とする(1)乃至(4)記載の繊維素材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の布帛は、直接肌に触れる凸部分に撥水処理がなされているので、汗を吸って濡れた布帛が肌にまつわりつくなどのベトツキ感が無く、また撥水処理された凸部以外は吸水処理されているので汗が素早く吸収され肌を伝って流れることがないため着心地は快適になる。そのため、ジョギングウエアーやバスケットやテニスのウエアーなどスポーツ用アンダーウエアーに最適であり、更に、衣類だけでなく吸水性がよく、吸水した水分を逆戻りさせないシーツやバスマットなどの用途にも好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の繊維布帛は、JIS L−1907(滴下法)による吸水時間が30秒以下である吸水性を有する布帛の片面の凸部分にのみ撥水層を形成してなる撥水性繊維布帛であって、撥水層部分が布帛の片側の面積の5〜25%で、且つ、布帛重量の0.05〜15%で付与してなる繊維布帛であり、撥水剤を付与された面のJIS L−1907(滴下法)による吸水時間が30秒以下である繊維布帛である。
本発明において繊維布帛の素材は、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリビニルアルコールなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維やこれらの混繊、交編織品であって、特に限定されるものではないが、吸水性のない素材については吸水加工を施してあるものを用いることが必要である。
また、吸水性を有する布帛はJIS L−1907の滴下法による吸水時間が30秒以下であることが必要である。吸水時間が30秒より長い繊維素材では、繊維素材自体の吸水性が悪いため、ベトツキ感を感じたりしやすくなる為好ましくない。
用いられる吸水剤は公知のものを用いることができ、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂やポリエチレングリコールやその誘導体などを挙げることができるが特に限定されるものではない。吸水剤の付与方法は吸尽法やパディング法などを用いることができるが、繊維布帛がポリエステル系繊維からなるときは、ポリエステル系吸水剤を用いて染色と同時に行う吸尽法を用いることが吸水性能やコストの面から好ましい。
また、用いる布帛の形態としては織物、編物、不織布などのいかなるものであっても良い。
又、これらの繊維素材に、防炎加工、抗菌加工などの化学処理や、起毛加工、カレンダー加工等の物理処理を施すことも可能である。
【0008】
また、本発明において用いることが出来る撥水性薬剤は、フッ素系薬剤、シリコン系薬剤、パラフィン系薬剤、等の通常用いられている撥水剤、及びそれらの混合物挙げることができ、これらの薬剤を適当な濃度に希釈して用いることが出来る。
また、撥水剤は布帛の片側の凸部に付与され、その付与面積は布帛の面積の5〜25%である。付与面積が5%未満であると吸水性はあるが、塗布面の撥水性が不十分となり、表側と裏側の保水性に差が少なくなりべたつきを感じやすくなるおそれがある。また25%より大きくなると吸水性が悪くなる。
また、付与する撥水剤の量は布帛の重量比で0.05〜15%である。重量比0.05%未満の場合、吸水性はあるが、塗布面の撥水性が不十分となり、べたつきを感じるおそれがある。15%より多くなると、吸水性が悪くなり、且つ、塗布した部分の反対側(裏側)にも撥水剤が浸みだしてしまい、表側と裏側の保水性に差が少なくなるおそれがある。
これらの撥水剤の中に、耐久性を向上させるための架橋剤、触媒、目的の風合いにするための柔軟剤、硬め剤、又、表面凸部分の撥水性を助長するための熱発泡性薬剤、加工剤の浸透を調整するための浸透剤、増粘剤などを目的に応じて添加することも出来る。用いられる架橋剤の例としては、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメラミン系樹脂、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメチレンンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらを重亜硫酸ソーダなどのブロック化剤にてブロックし水分散体としたイソシアネート系樹脂やポリオキシエチレンジグリジルエーテル等のエポキシ系樹脂を挙げることができる。
【0009】
また撥水剤の布帛への付与方法は、スクリーン捺染法、ローラ捺染法、キスコータ法、グラビアコーティング法、スプレー法などなどを挙げることがでるが、特に限定されない。
【0010】
このように吸水性を有する布帛の片面の凸部に撥水剤を付与されてなる布帛の撥水剤を付与された面のJIS L−1907(滴下法)による吸水時間は30秒以下であることが必要である。30秒より長いと汗などの水分を吸収して、その吸水面から水分を戻らなくすることや、吸水面の保水性を低くして乾いた状態にすることによるべたつき感の防止などの効果が悪くなる。
【0011】
また、撥水剤に発泡性薬剤を添加して付与することが好ましい。特に熱発泡性薬剤添加は、加工剤付与後に、熱処理を行うことにより、表面凸部分に撥水性発泡層を作ることが出来、表面凸部分がよりドライタッチになった撥水部分が形成される。更に発泡部分が形成されることにより吸水性は損なわれずに吸収した水分が戻るのを防ぐ効果が向上する。
用いる発泡性薬剤としては、加熱により気化膨張する液体ブタンや低分子量パラフィンなどの低沸点化合物をマイクロカプセル化したものや、炭酸水素ナトリウムや4,4‘−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などの化学分解型発泡性薬剤を挙げることができ、これら単独或いはこれらを混合して用いることができる。
また、発泡性薬剤の発泡倍率は5〜90%が好ましい。発泡倍率が5%未満であると効果が乏しく凸部に撥水剤を付与する効果が十分でなくなるおそれがあり、90%より大きいと撥水剤の耐摩耗性が悪くなり、耐久性に問題のでるおそれがある。
また、発泡性薬剤に高分子樹脂を混合させることにより安定した発泡層が形成される。高分子樹脂としてはポリアクリル酸エステルやポリウレタンなどを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0012】
このように作成した繊維布帛は、繊維布帛全体を水で濡らした後、該繊維素材の表裏両側からの吸水性シートによる吸水量が、撥水剤を付与してある側の吸水量が、撥水剤を付与してない側からの吸水量の70%以下であることが好ましい。70%より大きいと、本発明の目的である、「水や汗を吸って、吸った面から戻らない」「水や汗を吸っても、吸った面の保水性を低くして、乾いた状態にする」の十分な効果が得られないおそれがある。
【0013】
この繊維素材の用途としては、衣料用途として、撥水性薬剤を付与してある側を肌側としてシャツなどに用いた場合、人が着用し汗をかいたとき、撥水性薬剤がついていない部分から汗を吸い上げ、外側に拡散し、且つ、撥水性の薬剤が付与されている側の肌面側繊維素材表面は、汗が吸い込みにくいため、着用者は、汗のべた付き感が軽減され、快適性が得られる。
また、衣料以外の用途として、撥水性薬剤を付与してある側を上側として、雨天時に用いる玄関マット材として用いた場合、雨に濡れた靴底が、玄関マット材に接した場合、撥水性薬剤がついていない部分から雨水を吸い込み、下側に拡散し、且つ、撥水性の薬剤が付与されている側には、雨水がもどりにくいため、玄関内に靴底の雨水が入りにくくなる素材に使用できる。
更に、撥水性薬剤を付与してある面を手で持つ側として、濡れた部分を拭き取る素材として用いた場合、手に濡れた物がしみ込んで来ることを防ぐことが出来る。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における特性値及び評価値は、下記の測定方法、評価方法によるものである。
吸水性 JIS L−1907(滴下法)に準ずる。
表裏の保水性
試料繊維素材の撥水処理してある方にマイクロピペットにて水を1cc滴下し、30秒間放置する。その後、試料の両面を濾紙ではさみ、200gの重りをのせる。30秒後、それぞれの濾紙に吸い取られた水の量をその重量変化より求める。
評価は、表面からの吸水量と、裏面からの吸水量の比較により表側と裏側での保水性の差を評価する。
3.試料繊維素材をシャツに縫製製品を作成し、着用試験を実施した。
特に発汗時のべた付き感を評価した
【0015】
〔実施例1〕
繊維素材として目付60g/mで厚み0.7mmのポリエステルニットをポリエステル系吸水剤(日華化学(株)製 ナイスポールPR−86)を3%owf用いて130℃で吸尽処理(染色同時加工)したJIS L−1907(滴下法)による吸水性が1秒のものを用い、下記の処方1の薬剤を用い、120メッシュのグラビアロールを用いてグラビアロールとバックアップロールとの隙間を0.6mmにてグラビアコーティングにより布帛表面に撥水剤を付与し、120℃で乾燥後150℃で熱処理した。撥水剤付与面積は、10%、付与量は繊維素材重量比1%であった。評価結果を表1に示す。
処方1
NKガード NDN−7(フッ素系撥水剤 日華化学工業(株)) 3%
ベッカミンJ101(メラミン架橋剤 大日本インキ化学工業(株)) 0.5%
塩化アンモニウム(触媒) 0.15%
水 96.35%
【0016】
〔実施例2〕
実施例1の同じ繊維素材、加工剤処方を用い、加工工程については、グラビアロールとバックアップロールとの隙間を 0.4mmにしたこと以外は、実施例1と同じ加工条件で行った。撥水剤加工剤付与面積は、20%、付与量は繊維素材重量比3%であった。評価結果を表1に示す。
【0017】
〔実施例3〕
実施例1の同じ繊維素材を用い、下記の処方2の加工剤を用い、加工工程については、グラビアロールとバックアップロールとの隙間を 0.4mmにしたこと以外は、実施例1と同じ加工条件で行った。撥水剤加工剤付与面積は、10%、付与量は繊維素材重量比1.2%であった。評価結果を表1に示す。
処方2
NKガード NDN−7(フッ素系撥水剤 日華化学工業(株)) 3%
ベッカミンJ101(メラミン架橋剤 大日本インキ化学工業(株)) 0.5%
塩化アンモニウム(触媒) 0.15%
3D(フォーミングバインダー (株)松井色素化学工業所 ) 5%
水 91.35%
【0018】
〔比較例1〕
実施例1の同じ繊維素材、加工剤処方を用い、加工工程については、グラビアロールとバックアップロールとの隙間を 0mmにしたこと以外は、実施例1と同じ加工条件で行った。撥水剤加工剤付与面積は、50%、付与量は繊維素材重量比10%であった。評価結果を表1に示す。
【0019】
〔比較例2〕
実施例1の同じ繊維素材、加工剤処方を用い、加工工程については、グラビアロールを40メッシュにしたこと以外は、実施例1と同じ加工条件で行った。撥水剤加工剤付与面積は、15%、付与量は繊維素材重量比20%であった。評価結果を表1に示す。
【0020】
〔比較例3〕
繊維素材は、実施例−1と同じ物を用い、そのまま評価した。表結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
以上の評価結果のように、実施例は、比較例に比べ、塗布面の吸水性に優れ、且つ、塗布面/塗布無面の保水性が大きく異なり、その効果により、シャツ縫製品の発汗時の着用感が快適な製品が得られている。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L−1907(滴下法)による吸水時間が30秒以下である吸水性を有する布帛の片面の凸部分にのみ撥水層を形成してなる撥水性繊維布帛であって、撥水層部分が布帛の片側の面積の5〜25%で、撥水剤が布帛重量の0.05〜15%付与された繊維布帛であり、撥水剤を付与された面のJIS L−1907(滴下法)による吸水性が30秒以下である繊維布帛。
【請求項2】
撥水層が架橋されてなる請求項1記載の撥水性繊維布帛。
【請求項3】
撥水剤に発泡性薬剤が含まれていることを特徴とする請求項1乃至2記載の繊維布帛。
【請求項4】
発泡性薬剤に高分子樹脂が混合されていることを特徴とする請求項3記載の繊維布帛。
【請求項5】
繊維布帛全体を水で濡らした後、該繊維素材の撥水剤を付与してある側からの吸水性シートによる吸水量が、撥水剤を付与してない側からの吸水性シートによる吸水量の70%以下であることを特徴とする請求項1乃至4記載の繊維素材。


【公開番号】特開2007−191812(P2007−191812A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9285(P2006−9285)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】