説明

撥水性被膜の形成方法及び撥水性被膜被覆物品

【課題】基材の形状や状態の制約を受けず、高い生産性で基材上に撥水性被膜を形成させる方法を提供すること。
【解決手段】基材上に、撥水材料を含有する撥水性被膜形成用塗布液を用いて撥水性被膜を形成する方法であって、撥水性被膜形成用塗布液をスプレーコート法により基材上に塗布する塗布工程及び乾燥工程を有し、乾燥後に撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体を点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することを特徴とする撥水性被膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性被膜の形成方法及び撥水性被膜被覆物品に関する。さらに詳しくは、撥水性被膜の形成用塗布液をガラス等の表面に塗布して撥水性被膜を形成する方法及びこの方法により得られる撥水性被膜被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の基材に撥水性被膜を形成した機能性ガラスの製造において、基材上に撥水性被膜を形成するためには、撥水材料を基材上に塗布することが行われるが、単にこれらを塗布しただけでは、基材表面に存在する撥水材料の余剰分が反射色ムラやヘイズなどの外観不良の原因となり、また、撥水性能を低下させる場合がある。
そこで、従来、ガラス等の基材に撥水性被膜を形成する方法としては、撥水性被膜の形成用塗布液を紙・布等に付着させて、基材上に塗布し、透明状態になるまで紙・布等を何度も取り替えながら余剰の撥水性被膜形成用塗布液を除去していた。しかしながら、この方法では生産性が低いため、これまで種々の検討がなされてきた。
【0003】
例えば、ガラス表面に撥水性被膜の形成用塗布液を余剰に塗布し、その後に該余剰分を除去する撥水性被膜の形成方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法によれば、従来までの方法に比較して、生産性が向上するとともに、余剰分を拭き取ることによって、反射色ムラやヘイズの発生を抑制することができる。
また、フロートガラスのトップ面を選択し、これにシラン系化合物を含む溶液を接触させてCF3基もしくはCH3基が表面に露出した単分子膜(撥水性被膜)を形成させ、乾燥後、溶剤で洗浄してトップ面のシリケートと化学結合をしていないシロキサン結合を有する膜を溶剤に溶解させる撥水性被膜の形成方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、やはり従来までの方法に比較して生産性が向上し、簡単な方法で一定性能の機能性フロートガラスが得られる。
さらに、特定の撥水性被膜の形成用塗布液を用い、該塗布液の表面張力を利用して、一様なウェット厚みの塗布膜を基材上に形成し、乾燥することで、その後の拭き上げ工程(溶媒を染み込ませた布で拭いて余剰分を除去する工程)を必要としない撥水性被膜の形成方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法によれば、優れた生産性で基材上に撥水性被膜を形成することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−79789号公報
【特許文献2】特開2001−31447号公報
【特許文献3】特開2000−219875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される方法では、拭き上げ工程が必要であり、また、上記特許文献2に開示される方法では、溶剤による洗浄工程が必要であって、生産性の点で不十分である。一方、特許文献3に開示される方法は生産性に優れるものの、一様なウェット厚みを得るために、基材の形状や状態がある範囲に限られる。すなわち、大きく湾曲した形状の表面に塗布する際に、撥水液がたまる場所が発生することがあり、それが原因で外観不良を起こす場合がある。
従って、基材の形状や状態の制約を受けず、拭き上げ工程の必要ない、生産性の高い、撥水性被膜の形成方法が望まれていた。
本発明の目的は、基材の形状や状態の制約を受けず、高い生産性で基材上に撥水性被膜を形成させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、乾燥後に撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体を点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することで、拭き上げ工程を行わなくても、反射色ムラやヘイズなどの外観不良を起こさず、かつ良好な撥水性能が得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]基材上に、撥水材料を含有する撥水性被膜形成用塗布液を用いて撥水性被膜を形成する方法であって、撥水性被膜形成用塗布液をスプレーコート法により基材上に塗布する塗布工程及び乾燥工程を有し、乾燥後に撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体を点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することを特徴とする撥水性被膜の形成方法、
[2]前記スプレーコート法において、2流体式スプレーノズルを用いる上記[1]に記載の撥水性被膜の形成方法、
[3]前記2流体式スプレーはノズルから水を噴霧した場合に、該水の平均粒子径が5〜30μmとなるように条件設定されている上記[2]に記載の撥水性被膜の形成方法、
[4]前記撥水性被膜形成用塗布液の溶媒が、炭化水素系溶媒、シリコーン系溶媒及びフッ素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の非水系溶媒を含有し、該非水系溶媒の25℃における蒸気圧が500Pa以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の撥水性被膜の形成方法、
[5]前記撥水性被膜形成用塗布液の溶媒が非水系溶媒を含有し、かつ該非水系溶媒が常圧蒸留によって210℃以下で留出するパラフィン系炭化水素を少なくとも含む上記[1]〜[4]のいずれかに記載の撥水性被膜の形成方法、
[6]前記撥水性被膜形成用塗布液が、フルオロアルキル基含有シラン化合物を前記溶媒に溶解させて得られるものである上記[4]又は[5]に記載の撥水性被膜の形成方法、及び
[8]基材上に撥水性被膜を備えた撥水性被膜被覆物品であって、撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体が点在し、該凝集体の平均直径が20〜50μmであることを特徴とする撥水性被膜被覆物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材の形状や状態の制約を受けず、高い生産性で基材上に撥水性被膜を形成させ得る。また、本発明の方法により得られた撥水性被膜被覆物品は優れた撥水性及び耐久性を有し、かつ外観品質に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の撥水性被膜の形成方法は、撥水材料を含有する撥水性被膜形成用塗布液(以下、単に「撥水液」ということがある。)をスプレーコート法により基材上に塗布する塗布工程及び乾燥工程を有する。そして、乾燥後に撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体を点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することを特徴とする。
該凝集体は、撥水液中の溶媒が揮発する工程(乾燥工程)で、撥水材料が凝集するものであり、形成された撥水性被膜の上に点在する、略円形の形状を有する余剰の撥水材料である。しかしながら、該凝集体の平均直径を50μm以下とすることで、基材上にこのような撥水材料の余剰分が存在した状態であっても、余剰分によって生ずるとされていた反射色ムラやヘイズなどの外観不良が生じない。一方、基材表面に結合した必要量の撥水材料が存在すれば、余剰分の存在は必ずしも必要なく、十分な撥水性能を発揮するが、スプレーコート法による塗布の場合、上記凝集体の平均直径が20μm未満となるような塗布状態であると、必要量の撥水材料が供給されず、十分な撥水性能が発揮されない場合がある。以上の観点から、上記凝集体の平均直径は20〜40μmの範囲であることが好ましい。
【0009】
上記凝集体を撥水性被膜上に点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御する方法としては、撥水液をスプレーコート法により基材上に塗布する方法が好ましい。スプレーコート法は噴霧する撥水液の平均粒子径を容易に制御することができ、この制御によって乾燥後の凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することが可能となる。特に、2流体式スプレーノズルを用いることが好ましい。
2流体式スプレーノズルとは、圧搾空気などの高速気流で液体を粉砕し、微粒化するものであり、低圧で微細な粒子を噴霧することができる。しかも、気体と液体の割合から定まる気水比の変更により、ノズルから噴霧される液滴径が容易に調整できるため好ましい。
【0010】
上記凝集体の平均直径を20〜50μmに制御する方法としては、例えば、2流体式スプレーノズルから水を噴霧した場合に、該水の平均粒子径が5〜30μmとなるように条件設定することにより行うことができる。撥水液自体は後述するように種々の撥水材料及び溶媒を選択することができ、撥水材料の凝集のしやすさや溶媒の乾燥速度などによって、凝集体の平均直径と2流体式スプレーノズルから噴霧される液滴の平均粒子径は必ずしも一致しない。しかしながら、上記のように条件設定することによって、撥水性被膜上に点在する撥水性材料の凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することができる。また、凝集体の平均直径は、2流体式スプレーノズルから噴霧される液滴の平均粒子径が大きくなるほど、大きくなる傾向にあるため、撥水材料や溶媒の種類を変えた場合でも、2流体式スプレーノズルから噴霧される水の平均粒子径を、上記範囲内で適宜変更することにより、最適な平均直径を有する撥水剤の凝集体を得ることができる。
2流体式スプレーノズルから噴霧される水の平均粒子径を上記範囲に制御するためには、気体と液体の割合、すなわち空気圧と液体圧(水圧)を制御する。具体的には、水圧を上げるほど噴霧される撥水液の平均粒子径は増大し、空気圧を上げるほど平均粒子径は減少する。
【0011】
スプレーコート法により基板上に撥水液を塗布する際には、基板を固定してスプレーノズルを移動させてもよいし、スプレーノズルを固定して基板を移動させてもよく、例えば撥水液のスプレー雰囲気の中を、基材を通過させ、基材の全面(表面及び裏面)に撥水性被膜を形成させることができる。また、基材表面の一部に撥水性被膜を形成しない部分を設けたい場合には、その部分をマスキングすることで容易に得ることができる。
【0012】
また、前記撥水液は、撥水剤であるフルオロアルキル基含有シラン化合物を非水系溶媒に溶解させて得られるものであることが好ましい。フルオロアルキル基含有シラン化合物としては、フルオロアルキル基を含有し、かつ、アルコキシル基、アシロキシ基、または塩素基を含有するシラン化合物を好ましく使用することができ、例えば下記化学式(1)で示される化合物を挙げることができる。これらの中から、単独でまたは複数の物質を組み合わせて使用することができる。
【0013】
CF3−(CF2n−R−SiXp3-p ・・(1)
ここで、nは0〜12の整数、好ましくは3〜12の整数、Rは炭素原子数2〜10の二価の有機基(例えばメチレン基、エチレン基)又はケイ素原子および酸素原子を含む基、Xは水素又は炭素原子数1〜4の一価炭化水素基(例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリル基)もしくはこれらの誘導体から選ばれる置換基、pは0、1又は2、Yは炭素原子数が1〜4のアルコキシル基、アシロキシ基、又はハロゲン原子である。
【0014】
上記化学式(1)で表わされる化合物の具体例としては、次のものを挙げることができる。
613CH2CH2Si(OCH33、C715CH2CH2Si(OCH33、C817CH2CH2Si(OCH33、C919CH2CH2Si(OCH33、C1021CH2CH2Si(OCH33、C613CH2CH2SiCl3、C715CH2CH2SiCl3、C817CH2CH2SiCl3、C817CH2CH2Si(CH3)Cl2、C919CH2CH2SiCl3、C1021CH2CH2SiCl3
【0015】
【化1】

【0016】
817CH2CH2Si(OC253、C817CH2CH2Si(OCOCH33
【0017】
【化2】

【0018】
これらの中でC817CH2SiCl3(ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン)が、基材の表面との反応性が高く好ましい。
【0019】
また、非水系溶媒としては、炭化水素系溶媒、シリコーン系溶媒、フッ素系溶媒などが挙げられ、これらの少なくとも1種を含有することが、本発明の効果が得られやすい点で好ましい。炭化水素系溶媒としては、n−ブタン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナンなどのノルマルパラフィン;イソブタン、イソペンタンなどのイソパラフィンなどが挙げられ、シリコーン系溶媒としては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどが挙げられ、フッ素系溶媒としては、炭素数8及び/又は9のパーフルオロカーボンを主成分とするものなどが挙げられる。
特に、これらの溶媒のうち、揮発性の高いものが好ましく、具体的には、25℃における蒸気圧が500Pa以上であるもの、さらには1000Pa以上であるものが好ましい。
【0020】
また、非水系溶媒としては、常圧蒸留によって210℃以下で留出するパラフィン系炭化水素であってもよく、非水系溶媒としてパラフィン系炭化水素を用いる場合には、特に、常圧蒸留によって150℃以下で留出するパラフィン系炭化水素を用いることが好ましい。市販品としてはIP−ソルベント1620(蒸留範囲166〜202℃)、IP−ソルベント1016(蒸留範囲73〜140℃)(以上、出光興産(株)製)、日石アイソゾール200(蒸留範囲73〜140℃、新日本石油(株)製)、KF−96L−0.65CS(蒸気圧4700Pa(25℃))、KF−96L−1CS(蒸気圧530Pa(25℃))(以上、信越化学工業(株)製)、フロリナートFC−3283(蒸気圧2000Pa(23℃))、フロリナートFC−77(蒸気圧5599Pa(20℃))(以上、住友スリーエム(株))などが挙げられる。
【0021】
このように揮発性の高い非水系溶媒を用いると、スプレーコート法によって撥水液を塗布するに際し、ノズルから噴出した塗布液中の溶媒が、基材に付着する前に一部揮発し、撥水材料が基材上で凝縮することによって、前記凝集体の平均直径を容易に20〜50μmに制御することができる。また、本発明においては、撥水液を塗布した後に拭き上げ工程を必要としないために、塗布直後に該基材を他の工程に移すことが可能であるが、その際に撥水液の揮発性が高いことで、ハンドリングが容易となり、作業性が向上するという利点もある。
なお、上記炭化水素系溶媒、シリコーン系溶媒、フッ素系溶媒は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
上記本発明の方法を用いることで、基材上に撥水性被膜を備え、該撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体が点在し、該凝集体の平均直径が20〜50μmである撥水性被膜被覆物品が得られる。この撥水性被膜被覆物品は、優れた撥水性及び耐久性を有し、かつ外観品質に優れる。
ここで、基材としては特に限定されないが、透明なガラス板、樹脂板または樹脂フィルム等を好適に用いることができる。基材の厚さは、用途に応じ適宜選定されるものであり、特に限定されないが、通常0.01〜10mm程度である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。以下に評価方法について記載する。
評価方法
(1)撥水材料の凝集体の平均直径
各実施例及び比較例で得られた撥水性ガラスについて、基材の表面に点在する撥水材料の凝集体の大きさを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK−8500」)を用いて6点測定し、その平均値を撥水材料の凝集体の平均直径とした。
(2)撥水性能
(2−1)接触角
各実施例及び比較例で得られた撥水性ガラスについて、接触角度計(協和界面科学製「CA−DT」)を用いて、2mgの質量の水滴による静的接触角を測定した。
(2−2)転落角
水平に配置した撥水性ガラスの表面に50μLの水滴を置き、ガラスを徐々に傾斜させて、その表面に置かれた水滴が転がり始めるときのガラスの角度(転落角)を測定した。
(3)ヘイズ値
各実施例及び比較例で得られた撥水性ガラスについて、表面のヘイズ値を、ヘイズメーター(スガ試験機製「HZ−1」)を用いて測定した。
【0024】
実施例1
イソパラフィン(出光興産(株)製「IP−ソルベント1620」)99.8gにヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン(アズマックス製(株)「SIH5841.0」)0.2gを添加し、30分間攪拌して撥水液を得た。ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシランの濃度(FAS濃度)は0.2質量%である。
この撥水液を洗浄したガラス基板(600×600mm)の表面上に、温度20℃、相対湿度20%の環境で、スプレーコーティング法にて塗布し、同環境下で約10分間乾燥させて撥水性ガラスを得た。スプレーコーティングの条件は以下の通りである。
<スプレーコーティングの条件>
スプレーノズル;SUE18A(スプレーイングシステムジャパン(株)製)
液圧;0.05MPa
空気圧;0.1MPa
同条件によりノズルから水を噴霧した際の水の平均粒子径(ザウタ平均粒子径);約18μm
ノズル−ガラス間距離;480mm
ノズル移動速度;11.4m/min(ガラス基板を固定してノズルを移動)
得られた撥水性ガラスについて、上記方法にて評価した。結果を第1表に示す。
【0025】
実施例2
イソパラフィンを99.7gとし、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシランを0.3g(FAS濃度;0.3質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして撥水性ガラスを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0026】
実施例3
スプレーコーティングの条件において、空気圧を0.15MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして撥水性ガラスを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。なお、このスプレーコーティング条件は、ノズルから水を噴霧した際の水の平均粒子径(ザウタ平均粒子径)において、約15μmを示す条件である。
【0027】
実施例4
スプレーコーティングの条件において、空気圧を0.15MPaとしたこと以外は実施例2と同様にして撥水性ガラスを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。なお、スプレーコーティング条件は、実施例3と同様である。
【0028】
比較例1
スプレーコーティングの条件において、空気圧を0.05MPaとしたこと以外は実施例2と同様にして撥水性ガラスを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。なお、このスプレーコーティング条件は、ノズルから水を噴霧した際の水の平均粒子径(ザウタ平均粒子径)において、約32μmを示す条件である。
【0029】
比較例2
スプレーコーティングの条件において、空気圧を0.05MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして撥水性ガラスを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。なお、このスプレーコーティング条件は、比較例1と同様にノズルから水を噴霧した際の水の平均粒子径(ザウタ平均粒子径)において、約32μmを示す条件である。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1及び3により製造された撥水性ガラスは、拭き上げや溶媒による洗浄などの後工程を行わなくても、良好な撥水性能と外観品質を有しており、高い生産性で撥水性ガラスを製造できることが確認された。また、実施例2及び4の結果から、撥水液中の撥水材料の濃度を1.5倍に上げても、良好な撥水性能と外観品質を有することが確認された。
一方、比較例1の撥水性ガラスは、乾燥後における撥水材料の凝集体の平均直径が276μmと大きいため、十分な撥水性能は示すものの、ヘイズ値が高く、外観品質に劣るものであった。また、比較例2の撥水性ガラスは、乾燥後における撥水材料の凝集体の平均直径が、比較例1との比較では小さいが、それでも82.5μmと大きいため、実施例の撥水性ガラスと比較して、ヘイズ値が高い。
【0032】
また、実施例及び比較例の結果から、撥水材料の凝集体の平均直径(μm)とヘイズ(%)の関係をまとめると図1に示すようになる。第1表及び図1の結果から明らかなように、乾燥後における撥水材料の凝集体の平均直径を50μm以下とすることで、ヘイズ値を0.5%と以下とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、基材の形状や状態の制約を受けず、高い生産性で基材上に撥水性被膜を形成させることができる。また、本発明の方法により得られた撥水性被膜被覆物品は優れた撥水性及び耐久性を有し、かつ外観品質に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】撥水材料の凝集体の平均直径(μm)とヘイズ(%)の相関を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、撥水材料を含有する撥水性被膜形成用塗布液を用いて撥水性被膜を形成する方法であって、撥水性被膜形成用塗布液をスプレーコート法により基材上に塗布する塗布工程及び乾燥工程を有し、乾燥後に撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体を点在させ、かつ該凝集体の平均直径を20〜50μmに制御することを特徴とする撥水性被膜の形成方法。
【請求項2】
前記スプレーコート法において、2流体式スプレーノズルを用いる請求項1に記載の撥水性被膜の形成方法。
【請求項3】
前記2流体式スプレーはノズルから水を噴霧した場合に、該水の平均粒子径が5〜30μmとなるように条件設定されている請求項2に記載の撥水性被膜の形成方法。
【請求項4】
前記撥水性被膜形成用塗布液の溶媒が、炭化水素系溶媒、シリコーン系溶媒及びフッ素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の非水系溶媒を含有し、該非水系溶媒の25℃における蒸気圧が500Pa以上である請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性被膜の形成方法。
【請求項5】
前記撥水性被膜形成用塗布液の溶媒が非水系溶媒を含有し、かつ該非水系溶媒が常圧蒸留によって210℃以下で留出するパラフィン系炭化水素を少なくとも含む請求項1〜4のいずれかに記載の撥水性被膜の形成方法。
【請求項6】
前記撥水性被膜形成用塗布液が、フルオロアルキル基含有シラン化合物を前記溶媒に溶解させて得られるものである請求項4又は5に記載の撥水性被膜の形成方法。
【請求項7】
基材上に撥水性被膜を備えた撥水性被膜被覆物品であって、撥水性被膜上に略円形の撥水材料の凝集体が点在し、該凝集体の平均直径が20〜50μmであることを特徴とする撥水性被膜被覆物品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−222515(P2008−222515A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65320(P2007−65320)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】