説明

撥油及び撥水性材料の形成方法、それにより得られた撥油及び撥水性材料

【課題】 表面の防汚性に優れ、こすりなどによる防汚性の低下が少なく、かつ優れた表面硬度を示す、耐久性に優れた防汚性表面材料として有用な撥水・撥油性材料の簡易な形成方法、及び、外報法で得られた、防汚性表面材料として有用な、表面に高い撥水・撥油性を有する撥水・撥油性材料を提供する。
【解決手段】 (1)露光によりラジカルを発生しうる基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる工程と、(2)該基材に露光を行い、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物をグラフト重合して、基材に直接結合した撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマーを生成させる工程とを、有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面撥油及び撥水性を有する撥油及び撥水性材料の形成方法及びその方法により形成された撥油及び撥水性材料に関する。詳細には、防汚性表面材料として有用な、防汚性及びその耐久性に優れたハードコートフィルムなどの表面撥油及び撥水性材料及びその簡易な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製品が、加工性、軽量化の観点でガラス製品と置き換わりつつあるが、これらプラスチック製品の表面は傷つきやすいため、耐擦傷性を付与する目的でハードコート層を設けたり、ハードコート層を設けたフィルムを貼合して用いる場合が多い。また、従来のガラス製品についても、破損した場合の飛散防止を目的としてプラスチックフィルムを貼合する場合が増えており、これらフィルムの表面硬度強化のために、その表面にハードコート層を形成することが広く行われている。
しかしこのような表面保護を目的としたハードコート層は、使用するに際して、人の指紋(皮脂)、汗、化粧品などの汚れが付着しやすく、また、一度付着した汚れが除去しにくいため、透明性や反射性を損ない、結果として視認性が悪くなるという問題を有していた。
【0003】
ハードコート層の表面に汚れを付着しにくくしたり、付着した汚れを除去しやすくする目的で、ハードコート層表面をフッ素系ポリマーで被覆したり、ハードコート層の材料としてフッ素系、もしくはケイ素系のポリマーを含有させる方法が一般に行われている。例えば、透明支持体の上に、ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層を順に設けた反射防止フィルムの汚れ性を改良する目的でパーフルオロアルキルポリエーテル側鎖を有する重合体を低屈折率層の上に塗布することが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法はパーフルオロアルキルポリエーテル化合物の優れた滑り性を利用するものであり、反射防止フィルムの表面側の層を汚れから保護し、耐傷性を向上させる。しかしパーフルオロアルキルポリエーテル化合物は単に表面に塗布形成されているだけであるため繰り返しのこすりにより剥がれやすく、防汚性の耐久性に劣るという問題があった。
【0004】
また、アクリレートと重合開始剤とを含有するハードコート層光硬化性組成物にフッ素モノマーを添加し、露光、加熱し、硬化することにより防汚性の優れたハードコートフィルムを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法はハードコート層中に防汚性を示すフッ素化合物を共有結合にて固定化するものであり、繰り返しこすりによるはがれやすさは改良されているものの、防汚性が低いという問題があった。また、防汚性向上のためフッ素モノマーの添加量を増やすとハードコート層の硬度が低下する傾向にあり、一般に防汚性とハードコート硬度との両立は困難であった。
【0005】
また、ハードコート層表面のフッ素ポリマーの剥離を防止する他の手段としては、分子内に光重合開始基を有する重合体からなる第1の層上に、その光重合開始基を介して結合されたフッ素含有単量体から形成されるフッ素含有重合体からなる第2の層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。ここで第1の層に含まれる光重合開始基を有するポリマーは、基材との密着性が低く、第1の層とその表面のフッ素含有層との密着性は良好であるものの、第1の層ごと剥離しやすいために期待した耐久性は得られないことがわかった。さらに、該開始基を起点としてフッ素含有単量体を結合させるのに高いエネルギーを必要とするという問題もあった。
【特許文献1】特開2000−284102公報
【特許文献2】特開2003−335984公報
【特許文献3】特開平10−279834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点を考慮した本発明の目的は、表面の防汚性に優れ、こすりなどによる防汚性の低下が少なく、かつ優れた表面硬度を示す、耐久性に優れた防汚性表面材料として有用な撥水・撥油性材料の簡易な形成方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記形成方法により得られ、防汚性表面材料として有用な、表面に高い撥水・撥油性を有する撥油及び撥水性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、露光により重合開始活性点を生じうる基材を用いて、その活性点を起点としてフッ素などの強撥油及び撥水性官能基を有するグラフトポリマー層を形成することで、上記目的を達成しうることを見出して本発明を完成した。特に該グラフトポリマー層を形成する際に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を使用すると表面撥水効果が高まり、さらに優れた防汚性と耐久性の両立が可能となることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の撥油及び撥水性基材の形成方法は、(1)露光によりラジカルを発生しうる基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる工程と、(2)該基材に露光を行い、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物をグラフト重合して、基材に直接結合した撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマーを生成させる工程とを、有することを特徴とする。
この撥油及び撥水性材料の形成方法に用いられる露光によりラジカルを発生しうる基材としては、ラジカル発生剤を含有する基材、或いは、ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材が好ましいものとして挙げられる。
また、本発明の請求項4に係る撥水・撥油性材料は、前記本発明の撥水・撥油性材料の形成方法により得られるものであり、撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマー層を基材表面に備えてなるたことを特徴とする。
なお、本明細書において、「撥油及び撥水性」とは、「撥油性且つ撥水性」を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面の防汚性に優れ、こすりなどによる防汚性の低下が少なく、かつ優れた表面硬度を示す、耐久性に優れた防汚性表面材料として有用な撥水・撥油性材料の簡易な形成方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記本発明の形成方法により得られ、防汚性表面材料として有用な、表面に高い撥水・撥油性を有する撥油及び撥水性材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の撥油及び撥水性基材の形成方法は、(1)露光によりラジカルを発生しうる基材表面に、撥油及び撥水性の官能基を有する特定の高分子化合物を接触させ、その後、(2)露光を行って、基材表面に発生したラジカルを起点として、基材に直接結合した撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマーを生成させることで実施される。本発明においては、表面に撥水・撥油性を付与するグラフトポリマーの生成に、以下に詳述する特定の高分子化合物を用いることを特徴とするものである。
【0010】
以下、本発明の撥油及び撥水性材料の形成方法について、その詳細を工程順に説明する。
まず、(1)露光によりラジカルを発生しうる基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる工程について説明する。 これらのポリマーを用いてグラフトポリマーパターンを形成するには基材表面にこれら 本発明の方法では、まず、「露光によりラジカルを発生しうる基材」を用いて、該基材表面に、「撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物(以下、適宜、特定撥油性ポリマーと称する)」を接触させる工程を行う。
この「露光によりラジカルを発生しうる基材」としては、(a)ラジカル発生剤を含有する基材、(b)側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基材、などが挙げられる。
いずれの基材を用いる場合でも、基材表面に露光により発生する活性点を起点として、特定撥油性ポリマーを接触させて、ラジカル重合を開始、進行させることでグラフトポリマーを生成させるものであるため、基材は、露光により高感度でラジカルなどの開始種を発生させうるものが選択される。
【0011】
<露光によりラジカルを発生しうる基材>
露光によりラジカルを発生しうる基材について説明する。
露光によりラジカルを発生しうる基材としては、ラジカル発生能を有する材料からなる基材、ラジカル発生剤を含有する基材、側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材など、基材自体にラジカル発生能を有するもの、或いは、架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる基材、即ち、任意の支持体上にラジカル発生能を有する架橋膜を形成してなる基材などが挙げられ、なかでも、(a)ラジカル発生剤を含有する基材、(b)側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材などが代表的なものとして挙げられる。
【0012】
この代表的な(a)基材に含有させる「露光によりラジカルを発生しうる化合物(以下、適宜、ラジカル発生剤と称する)」は低分子化合物でも、高分子化合物でもよく、一般に公知のものが使用される。
低分子のラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントン等の公知のラジカル発生剤を使用できる。また通常、光酸発生剤として用いられるスルホニウム塩やヨードニウム塩なども光照射によりラジカル発生剤として作用するため、本発明ではこれらを用いてもよい。
高分子ラジカル発生剤としては特開平9−77891号段落番号〔0012〕〜〔0030〕や、特開平10−45927号段落番号〔0020〕〜〔0073〕に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物などを使用することができる。このような高分子ラジカル発生剤のうち、側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有するものが、前記(b)基材に相当する。
ラジカル発生剤の含有量は、基材の種類、所望のグラフトポリマーの生成量などを考慮して適宜、選択できるが、一般的には、低分子ラジカル発生剤の場合、0.1〜40重量%の範囲であり、高分子ラジカル発生剤の場合、1.0〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0013】
基材中には、感度を高める目的で、ラジカル発生剤に加えて増感剤を含有させることもできる。このような増感剤としては、例えば、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントン誘導体等が含まれる。
増感剤は、ラジカル発生剤に対して、50〜200重量%程度の量で含有させることが好ましい。
【0014】
本発明に用いられる各基材には、ラジカル発生剤や所望により併用されるその増感剤以外にも、目的に応じてその他の成分を含有させることができる。
本発明により得られる撥油及び撥水性材料が、特に耐久性を要する防汚性表面材料として使用される場合には、基材内部には前記ラジカル発生剤(光重合開始剤)以外に、分子内に不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレート系の化合物とを含有することが重要である。この(メタ)アクリレートとしては、中間層の硬化性、グラフト起点の生成性などから、多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
ここで、使用される多官能(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルであることが好ましい。多価アルコールの例には、エチレングリコール、1、4−シクロヘキサノール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジペンタエリスリトール、1、2、4−シクロヘキサノール、ポリウレタンポリオールおよびポリエステルポリオールが含まれる。なかでも、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびポリウレタンポリオールが好ましい。中間層には、二種類以上の多官能モノマーを含んでいてもよい。
【0015】
多官能モノマーは分子内に少なくとも2個のエチレン性不飽和基を含むものを指すが、より好ましくは3個以上含むものである。具体的には、分子内に3〜6個のアクリル酸エステル基を有する多官能アクリレートモノマーが挙げられるが、さらに、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートと称される分子内に数個のアクリル酸エステル基を有する、分子量が数百から数千のオリゴマーなども本発明の中間層の成分として好ましく使用することができる。
これら分子内に3個以上のアクリル基を有するアクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリアクリレート類、ポリイソシアネートとヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート等を挙げることができる。
【0016】
本発明に好適に用いられる前記多官能アクリレート以外の重合性化合物として、開環重合性基を有する化合物を含有することが好ましい。このことによって、中間層の表面硬度が高くなり、耐擦傷性に優れた中間層が形成される。このような化合物を用いることで、体積収縮率が安定するために、硬化後のカールが小さくなり、諸取り扱い時のひび割れが発生しにくくなる。さらに、中間層の膜厚を一定の膜厚にすることによって、上記の効果がさらに顕著となる。
【0017】
開環重合性基を含む重合性化合物としては、カチオン、アニオン、ラジカルなどの作用により開環重合が進行する環構造を有する化合物が挙げられるが、本発明においては、重合後の堆積収縮が少ないため、形成された被膜の強度が高く、クラックの発生がないといった観点から、カチオン重合性化合物が好ましく、なかでもヘテロ環状基含有化合物が好ましい。このような重合性化合物としてエポキシ誘導体、オキセタン誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、環状ラクトン誘導体、環状カーボネート誘導体、オキサゾリン誘導体などの環状イミノエーテル類などが挙げられ、特にエポキシ誘導体、オキセタン誘導体、オキサゾリン誘導体が好ましい。
【0018】
本発明において開環重合性基を有する重合性化合物は、同一分子内に2個以上の開環重合性基を有することが好ましいが、より好ましくは3個以上有する態様である。また、開環重合性基を有する重合性化合物は、2種以上を併用してもよい。この場合、同一分子内に開環重合性基を1個有する重合性化合物と同一分子内に開環重合性基を2個以上有する重合性化合物とを組み合わせてもよく、また同一分子内に開環重合性基を2個以上有する重合性化合物のみを2種以上組み合わせてもよい。
【0019】
本発明で言う開環重合性基を有する重合性化合物とは、上記のような環状構造を有する重合性化合物であれば得に制限がない。このような重合性化合物の好ましい例としては、例えば単官能グリシジルエーテル類、単官能脂環式エポキシ類、2官能脂環式エポキシ類、ジグリシジルエーテル類(例えばグリシジルエーテル類としてエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル)、3官能以上のグリシジルエーテル類(トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリス(グリシジルオキシエチル)イソシアヌレートなど)、4官能以上のグリシジルエーテル類(ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルなど)、脂環式エポキシ類〔(市販品:セロキサイド2021P、セロキサイド2081、エポリードGT−301、エポリードGT−401;以上、ダイセル化学工業(株)製、EHPE;ダイセル化学工業(株)製)、フェノールノボラック樹脂のポリシクロヘキシルエポキシメチルエーテルなど〕、オキセタン類(市販品:OX−SQ、PNOX−1009;以上、東亞合成(株)製など)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
基材の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には、10μm〜10cm程度である。
【0020】
(1)工程では、前記基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる。
以下、本発明の特徴的な成分である「撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物」について説明する。
<撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物>
本発明者は、以下に詳述する(2)工程においてグラフトポリマー層を形成する際に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を使用すると、撥油及び撥水性の官能基を有する低分子化合物を使用するよりも、得られた撥水・撥油性材料の表面撥水効果が高まることを見出し、本発明を完成した。この高分子化合物は表面に撥水・撥油性の特性を与える撥水・撥油性の官能基を分子内に有するラジカル重合性の高分子化合物である。
このようなラジカル重合性基含有特定撥油性ポリマーは以下のようにして合成することができる。
(i)フッ素モノマーなどの撥水・撥油性モノマーとエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを共重合する方法、(ii)撥水・撥油性モノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に、塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(iii)カルボン酸などの官能基を有する撥水・撥油性ポリマーとエチレン付加重合性不飽和基を有する化合物とを反応させる方法、などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいのは、合成適性の観点から、(iii)撥水・撥油性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法である。
【0021】
(i)の方法でラジカル重合性基含有撥油性ポリマーを合成する際、撥油性モノマーと共重合するエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーがあり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、(ii)の方法でラジカル重合性基含有撥油性ポリマーを合成する際、撥油性モノマーと共重合する二重結合前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜が挙げられる。
更に、(iii)の方法でラジカル重合性基含有撥油性ポリマーを合成する際、撥油性ポリマー中のカルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩と、水酸基及びエポキシ基などの官能基と、の反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなど挙げられる。
【0022】
ここで、特定撥油性ポリマーを合成するのに使用される撥油及び撥水性の官能基を有するモノマーとしては、フッ素モノマーおよびケイ素系(シリコン系)モノマーを挙げることができる。
(フッ素含有モノマー)
グラフトポリマー層の生成に用いられる特定撥油性ポリマーの原料として使用されるフッ素含有モノマーとしては、下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)よりなる群から選ばれた少なくとも1種のフッ素含有モノマーが挙げられる。
CH2=CR1COOR2f・・・(I)
〔式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は−Cp2p−、−C(Cp2p+1)H−、−CH2C(Cp2p+1)H−又は−CH2CH2O−、Rfは−Cn2n+1、−(CF2nH、−Cn2n+1−CF3、−(CF2pOCn2ni2i+1、−(CF2pOCm2mi2iH、−N(Cp2p+1)COCn2n+1、−N(Cp2p+1)SO2n2n+1である。但し、pは1〜10、nは1〜16、mは0〜10、iは0〜16の整数である。〕
【0023】
CF2=CFORg ・・・(II)
(式中Rgは炭素数1〜20のフルオロアルキル基を表わす。)
CH2=CHRg・・・(III)
(式中Rgは炭素数1〜20のフルオロアルキル基を表わす。)
CH2=CR3COOR5j6OCOCR4=CH2 ・・・(IV)
〔式中、R3、R4は水素原子又はメチル基、R5、R6は−Cq2q−、−C(Cq2q+1)H−、−CH2C(Cq2q+1)H−又は−CH2CH2O−、Rjは−Ct2tである。但し、qは1〜10、tは1〜16の整数である。〕
CH2=CHR7COOCH2(CH2k)CHOCOCR8=CH2・・・(V)
(式中、R7、R8は水素原子又はメチル基、Rkは−Cy2y+1である。但し、yは1〜16の整数である。)
【0024】
以下、本発明に用いうるフッ素含有モノマーの具体例を挙げるが、本発明はこれに制限されるものではない。
一般式(I)で示されるモノマーとしては、例えば、CF3(CF27CH2CH2OCOCH=CH2、CF3CH2OCOCH=CH2、CF3(CF24CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C715CON(C25)CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF27SO2N(CH3)CH2CH2OCOCH=CH2、CF3(CF27SO2N(C37)CH2CH2OCOCH=CH2、C25SO2N(C37)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、(CF32CF(CF26(CH23OCOCH=CH2、(CF32CF(CF210(CH23OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF24CH(CH3)OCOC(CH3)=CH2、CF3CH2OCH2CH2OCOCH=CH2、C25(CH2CH2O)2CH2OCOCH=CH2、(CF32CFO(CH25OCOCH=CH2、CF3(CF24OCH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C25CON(C25)CH2OCOCH=CH2、CF3(CF22CON(CH3)CH(CH3)CH2OCOCH=CH2、H(CF26C(C25)OCOC(CH3)=CH2、H(CF28CH2OCOCH=CH2、H(CF24CH2OCOCH=CH2、H(CF2)CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF27SO2N(CH3)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF27SO2N(CH3)(CH210OCOCH=CH2、C25SO2N(C25)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF27SO2N(CH3)(CH24OCOCH=CH2、C25SO2N(C25)C(C25)HCH2OCOCH=CH2等が挙げられる。
【0025】
また、一般式(II)及び(III)で表わされるフルオロアルキル化オレフィンとしては、例えばC37CH=CH2、C49CH=CH2、C1021CH=CH2、C37OCF=CF2、C715OCF=CF2及びC817OCF=CF2などが挙げられる。
【0026】
一般式(IV)及び(V)で表わされるモノマーとしては例えば、CH2=CHCOOCH2(CF23CH2OCOCH=CH2、CH2=CHCOOCH2CH(CH2817)OCOCH=CH2などが挙げられる。
【0027】
グラフトポリマー層の生成に用いられる特定撥油性ポリマーの合成に使用しうるモノマーとして、上記フッ素含有モノマーに加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、フッ素を有しないモノマーを併用することができる。そのようなモノマーとしては、ラジカル重合可能なものであれば特に限定されないが、具体的には(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸類、及びそのアルキル又はグリシジルエステル類、スチレン、アルキル酸のビニルエステル類、ケイ素含有モノマーなどが挙げられる。
併用する場合の配合量はフッ素含有モノマーに対して50重量%以下が好ましい。
【0028】
(ケイ素系モノマー)
本発明において特定撥油性ポリマーの原料として用いうるケイ素系モノマーとしては、Si−CH3基もしくは−O−Si−CH3基を有するケイ素系モノマーを挙げることができる。具体的には、シリコンアクリレートまたはシリコンメタクリレートであり、一般式(CH3O)nSi(CH33-n−R3−O−CO−CR4=CH2で表されるものであり、R3は連結基であり、R4はメチルもしくは水素である。その他、例えば、特開2003−335984公報の段落番号〔0025〕に記載されるシリコン系モノマーもまた、好適なものとして挙げることができる。
【0029】
(その他のモノマー)
本発明の撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物は構成要素として撥油及び撥水性基、および重合性不飽和二重結合基の他にも他のモノマーが共重合されていても良い。これらのモノマーは本発明の高分子化合物の溶剤溶解性などを上げるのに使用される。このような目的で使用されるモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、などのアクリル酸エステルを使用することができる。
【0030】
以下に本発明で使用される撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物の例〔例示化合物(1)〜(11)〕を示す。ただし、本発明はこれらに限定するものではない。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物の分子量としては1000〜100万の範囲であり、とくに5000〜10万の範囲が好ましい。この分子量の範囲の特定撥油性ポリマーを用いることで、優れた撥水・撥油性が実現され、且つ、基材表面に接触させる際などの溶剤の溶解性に優れ、取り扱い性も良好となる。
【0035】
工程(1)において、前記基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる方法としては、特定撥油性ポリマーが溶解された溶液又は分散された分散液を基材表面に塗布する方法、該溶液又は分散液に基材を浸漬する方法などが挙げられる。
このとき、塗布液/分散液中の特定撥油性ポリマーの濃度は1〜50質量%であることが好ましい。また、塗布液/分散液に用いられる溶媒/分散媒としては、アセトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール系溶剤が挙げられ、その他、ヘキサフルオロプロパノールなどのフッ素系溶剤なども使用することができる。
【0036】
次に、(2)基材に露光を行って、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物をグラフト重合して、基材に直接結合した撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマーを生成させる工程について説明する。
【0037】
前記の如く、基材表面に特定撥油性ポリマーを塗布又は浸漬により接触させた状態で、基材に光照射することにより、基材に発生した開始点を基点として、特定撥油性ポリマーがグラフト重合により基材と直接結合し、耐久性に優れた撥水・撥油性皮膜が形成される。
とくに、耐久性のある防汚性表面材料を得ようとする場合には、基材上に、多官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗布液を塗布し、光照射して硬化させた中間層を形成し、該中間層上に前記した特定撥油性ポリマーを被覆等の方法により接触させ、その後(2)工程、即ち、活性エネルギー線を照射し、基材表面に光グラフト重合を起こさせる工程を実施することが好ましい。
すなわち、多官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗布液を塗布し、光照射して硬化させてハードコート状とした中間層に紫外線露光などの活性エネルギー線照射を行うと、中間層に残存している開始剤から重合が開始し、多官能アクリレートに重合末端が生じる。その重合末端を基点として、特定撥油性ポリマーがグラフト重合により固定化されることにより、架橋構造を有する強固な中間層上に、フッ素ポリマーを含有する層が形成される。従って、得られるフッ素含有重合体被膜は、中間層表面にさらに多官能アクリレートを介して結合したフッ素含有単量体を原料とするグラフト重合鎖からなるフッ素ポリマーの層が形成された2層構造を有する。
【0038】
この2層構造においては、基材表面に形成された中間層が架橋構造を有するハードコート層として基材に密着するとともに、中間層自体も高硬度であり、また、特定撥油性ポリマーからなる被膜、即ち、撥水・撥油性の官能基を有するグラフトポリマー層は、中間層を構成する材料と化学結合により固定化されているため、本発明の方法により得られた撥水・撥油性材料を防汚性表面材料として用いた場合、硬度、密着性に優れ、フッ素ポリマー等の特定撥油性ポリマーに起因する高い防汚性が長期間にわたり持続することになる。
【0039】
(2)工程において、グラフト重合反応を生起させるための露光に用いる活性エネルギー線としては、基材表面に残存する光重合開始部位が該エネルギーを吸収して活性点を生成させうる波長であれば特に制限はないが、具体的には、波長200〜800nm、好ましくは、300〜600nmの紫外線及び可視光線が望ましい。
露光光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザー、YAGレーザー、太陽光等が挙げられる。
露光エネルギーとしては、10mJ/m3〜10000J/m3程度が好ましい。
【0040】
〔基材〕
本発明の方法によりグラフトを形成する基材には特に制限はなく、有機材料、無機材料、或いは、有機と無機とのハイブリッド材料のいずれでもよく、前記した開始能の発生機構やグラフトの使用目的に応じて適宜選択される。
基材を構成する有機材料としては、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−1、4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1、2−ジフェノキシエタン−4、4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどのようなポリエステル樹脂、エピコート(商品名:油化シェルエポキシ(株)製)などの市販品に代表されるエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂などを適宜使用することができる。
【0041】
また、その他の有機材料としては、セルロースエステル(例、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、およびポリエーテルケトンなどが挙げられる。
【0042】
このように、本発明の方法により、表面グラフトポリマーが形成された基材は、露光後、溶剤浸漬などの処理を行って、グラフト重合に与らずに残存した特定撥油性ポリマーを除去し、精製する。具体的には、水やアセトンによる洗浄、乾燥、などが挙げられる。
残存ポリマー除去性の観点からは、洗浄時に超音波などの手段を採ることが好ましい。精製後の基材は、その表面に残存するポリマーが完全に除去され、基材と強固に結合した撥油性グラフトポリマーのみが存在することになる。
【0043】
本発明の撥油及び撥水性材料の形成方法によれば、高撥油及び撥水性で、高い耐久性を有する表面撥水・撥油性の材料満を得ることができる。本発明の方法により得られた撥水・撥油性材料は、防汚性、撥水性基材としての幅広い利用が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔特定撥油性ポリマー合成〕
(合成例1.特定撥油性ポリマーP−1の合成)
特定撥油性ポリマーP−1は、以下の2つのステップを経て合成される。
<Step1: 2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(FAMAC)とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル(HEMA)との共重合(FAMAC/HEMA=33/67)の合成>
窒素雰囲気下、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業)30gを、冷却管を設置した300mlの三つ口フラスコに入れ、ウォーターバスで65℃まで加熱した。ここにDMAc30gにメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル(HEMA、東京化成工業)5.0g(0.0382mol)と2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(FAMAC、ダイキンファインケミカル研究所社製)10.0g(0.0188mol)と2.2’−アゾビス(イソ酪酸)(V601、和光純薬工業)0.66g(0.0029mol)を溶解させた均一な溶液をプランジャーポンプで0.54ml/minの速度で滴下した。滴下終了後、5時間撹拌し反応を止めた。
反応液を1500mlのメタノールで再沈し、析出した固体を吸引濾過により濾取した。3時間真空乾燥して白色粉末を得た。(収量6.52g、収率43%)
IR(KBr)(Excalibur FTIR−8300(SHIMAZU)を使用して測定)
3471(b)、2953(b)、1732(s)、1456(s)cm-1
【0045】
<Step2: 共重合体への二重結合の導入>
Step1で得た共重合体3.0gとハイドロキノン(和光純薬工業)0.0325gを冷却管を設置した300mlの三つ口フラスコに入れ、DMAc40gを加えて室温で撹拌し均一な溶液とした。
その溶液を撹拌しながら2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI、昭和電工)1.53g(0.00983mol)を滴下した。続いて、ジラウリン酸ジ−n−ブチルすず(東京化成工業)を1滴加えて撹拌しながら65℃のウォーターバスで加熱した。5時間後に反応を止め、室温まで自然冷却した。反応液を1500mlのメタノールで再沈し、析出した固体を吸引濾過により濾取し、特定撥油性ポリマーP−1を得た。(収量2.5g、収率55%)
IR(KBr)(Excalibur FTIR−8300(SHIMAZU)を使用して測定)
3390(b)、2961(b)、1732(s)、1639(s)cm-1
分子量(GPC、THF、ポリスチレン換算)はMw30500であった。
【0046】
(合成例2.特定撥油性ポリマーP−2の合成)
特定撥油性ポリマーP−2は、以下の2つのステップを経て合成される。
<Step1: 2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(FAMAC)とブチルメタクリレート(BMA)とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル(HEMA)との共重合(FAMAC/BMA/HEMA=30/30/40)の合成>
窒素雰囲気下、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業)31.88gを、冷却管を設置した300mlの三つ口フラスコに入れ、ウォーターバスで65℃まで加熱した。ここにDMAc31.88gにブチルメタクリレート(BMA、東京化成工業)2.67g(0.0188mol)とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル(HEMA、東京化成工業)3.27g(0.0251mol)と2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(FAMAC、ダイキンファインケミカル研究所社製)10.0g(0.0188mol)と2.2’−アゾビス(イソ酪酸)(V601、和光純薬工業)0.714g(0.0031mol)を溶解させた均一な溶液をプランジャーポンプで0.37ml/minの速度で滴下した。滴下終了後、5時間撹拌し反応を止めた。反応溶液は乳白色であった。
【0047】
<Step2: 共重合体への二重結合の導入>
Step1で得られた反応溶液を500mlの三つ口フラスコに移し、そこにN、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業)79.7gを加えて10wt(%)に希釈した。ここにハイドロキノン(和光純薬工業)0.081gを加えて室温で撹拌し均一な溶液とした。その溶液を撹拌しながら2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI、昭和電工)3.79g(0.024mol)を滴下した。続いて、ジラウリン酸ジ−n−ブチルすず(東京化成工業)を1滴加えて冷却管を設置し、65℃のウォーターバスで加熱した。5時間後に反応を止め、室温まで自然冷却した。反応液は薄桃色であった。
反応液を水で再沈し、析出した固体を濾取した。その固体を1500mlの水で1時間リスラリーし、固体を濾別後、空気乾燥し、薄桃色の粉末として特定撥油性ポリマーP−2を得た。(収量14.99g、収率76%)
分子量(GPC、THF、ポリスチレン換算)はMw30500であった。
1H NMR(ppm、CDCl3、300Mz、ブルッカー社製)
δ 0.80−1.80(b、18H)、1.40(b、2H)、1.60(b、2H)、1.85(bs、2H)、1.90(b、1H)、2.42(b、2H)、3.50(mb、2H)、3.82(bs、2H.)、4.12(bs、3H)、4.30(b、6H)、5.60(bs、1H)、6.25(bs、1H)
【0048】
〔実施例1〕
(中間層1の作製)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)125g、及び、ウレタンアクリレートオリゴマー(UV−6300B、日本合成化学工業(株)製)125gを、439gの工業用変性エタノールに溶解した。得られた溶液に、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)7.5gおよび光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)5.0gを49gのメチルエチルケトンに溶解した溶液を加えた。混合物を攪拌した後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して中間層塗布液(1)を調製した。
【0049】
80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士写真フィルム(株)製)を支持体として用い、その表面にゼラチン下塗り層を設けた。ゼラチン下塗り層の上に、上記中間層用塗布液(1)を、バーコーターを用いて塗布し、120℃で乾燥した後、高圧水銀灯を30秒間照射して、塗布層を硬化させ、厚さ15μmの硬化された中間層1を形成した。高圧水銀灯はウシオ(株)社製UVX−02516S1LP01を使用した。
【0050】
(基材への特定撥油性ポリマーP−1の接触)
上記合成例1で得られたフッ素を含む特定撥油性ポリマーP−1を0.5g、1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業(株)社製)0.5gを混合して均一溶液とした。
前記のようにして得られた硬化した中間層を有する基材(TAC)を4cm×5cmにカットし、スピナーを用い、300回転で塗布し、100℃で1分間乾燥して、中間層を有する基材表面に特定撥油性ポリマーP−1を含む被膜を形成することにより、両者を接触させた。
(基材への露光によるグラフトポリマーの生成)
前記表面に特定撥油性ポリマーP−1を含む被膜を形成した基材を、UV露光装置(UVX−02516S1LP01、高圧水銀灯、USHIO社製)で5分間露光した。露光後に石英版をはずし、得られたフッ素系グラフト膜をアセトンで洗浄し、未反応の特定撥油性ポリマーP−1などの不純物を除去して実施例1の撥水・撥油性材料を得た。
得られた撥水・撥油性材料表面の水滴の接触角を測定したところ120度であり、優れた撥水性を有することがわかる。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1で用いた特定撥油性ポリマーP−1に代えて合成例2で得られた特定撥油性ポリマーP−2を使用した以外は実施例1と同様にして実施例2の撥水・撥油性材料を得た。
【0052】
〔実施例3〕
(中間層2の作製)
(中間層塗布液(2)の調製)
メチルエチルケトン(MEK)中にグリシジルメタクリレートを溶解させ、熱重合開始剤(V−65(和光純薬工業(株)製)を滴下しながら80℃で2時間反応させ、得られた反応溶液をヘキサンに滴下し、沈殿物を減圧乾燥して得たポリグリシジルメタクリレート(ポリスチレン換算分子量は12、000)をメチルエチルケトンに50質量%濃度になるように溶解した溶液100質量部に、トリメチロールプロパントリアクリレート(ビスコート#295;大阪有機化学工業(株)製)150質量部と光ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)6質量部と光カチオン重合開始剤(ロードシル2074、ローディア社製)6質量部を30質量部のメチルイソブチルケトンに溶解したものを撹拌しながら混合し、中間層塗布液(2)を調製した。
【0053】
(中間層2の形成)
厚さ175μmのPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)の両面をコロナ処理し、中間層を設置する面に屈折率1.55、ガラス転移温度37℃のスチレン−ブタジエンコポリマーからなるラテックス(LX407C5、日本ゼオン(株)製)と酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物(FS−10D、石原産業(株)製)を質量で5:5の割合で混合し、乾燥後の膜厚が200nmとなるよう塗布し、帯電防止層付き下塗り層を形成した後、上記中間層用塗布液(2)をエクストルージョン方式で塗布、乾燥し、紫外線を照射(700mJ/cm2)して乾燥後の中間層2の厚みが20μmであるハードコートフィルムを作製した。
(特定撥油性ポリマーP−1被膜の形成)
上記で合成した特定撥油性ポリマーP−1を0.5g、1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業(株)社製)0.5gを混合して均一溶液とした。実施例1と同様にしてフッ素含有重合体被膜を形成し、その後、同様にして露光、精製を行い、実施例3の撥水・撥油性材料を得た。
【0054】
〔比較例1〕
実施例1で得たのと同様の硬化された中間層を有する基材を用い、中間層表面に、比較フッ素ポリマーであるポリ(2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート)(分子量13万)のヘキサフルオロイソプロパノール溶液(10wt%)を乾燥膜厚が1ミクロンになるように塗布した以外は実施例1と同様にして、比較例1の撥水・撥油性材料を得た。
〔比較例2〕
実施例1で得たのと同様の硬化された中間層を有する基材表面に、特定撥油性ポリマーP−1被膜を設けずにそのまま評価試験に用いた。
【0055】
〔撥水・撥油性材料の評価〕
それぞれの評価方法は、以下の方法で行い、本発明の方法により得られた撥水・撥油性材料の性能を評価した。結果を下記表1に示す。
1.接触角
撥水・撥油性材料を2×2cm2に切り取り、Contact−Angle meter(協和界面化学(株)製10927)を用いて空中で水滴の接触角を測定した。(単位は度。)数値が大きいほど撥水性に優れると評価する。
2.初期防汚性
撥水・撥油性材料表面に、速乾性油性インキ(ゼブラ製、「マッキー」(登録商標))を用いて字を書いた。次にその字を旭化成社製「ベムコットン」(登録商標)を用いてきれいに拭き取れるまでの回数を測定した。その回数が少ないほど油性インキに対する親和性が低く、撥油性(油性汚れに対する防汚性)に優れると評価する。
【0056】
3.撥油・耐久性
旭化成社製「ベムコットン」(登録商標)を用いて防汚性ハードコートフィルムの表面を100回強くこすった後、前記2.初期防汚性評価と同様に、フィルム表面に速乾性油性インキ(ゼブラ製、「マッキー」(登録商標))で字を書き、それが拭き取れるまでの回数を測定した。回数が少ないほど機械的摩耗後の表面撥油性が高く、撥油性の耐久性に優れると評価する。
4.鉛筆硬度試験
鉛筆引っ掻き試験の硬度は、作製した防汚性表面材料を温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い、9.8Nの荷重にて傷が認められない鉛筆の硬度を求めた。この数値が高いほど、表面に設けられた撥水・撥油性表面が高硬度で、耐キズ性が高いと評価する。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果より、本発明の方法により得られた実施例1〜3の撥水・撥油性材料は、いずれも、表面撥水性、防汚性(撥油性)が高く、防汚性(撥油性)の耐久性も優れることがわかった。また、実施例1と実施例3との対比において、ハードコート状の中間層2を形成した実施例3の撥水・撥油性材料は、これらの優れた防汚性の他に表面硬度も高く、今までの技術ではできなかった防汚性と表面硬度を高いレベルで実現していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方法により得られた撥水・撥油性材料は、防汚性表面材料として有用である。特に、本発明の好ましい態様であるハードコート層として機能する高い硬度を有する中間層を有する場合、基材との密着性に優れた高硬度の中間層と、該中間層に化学結合により強固に結合してなる撥水・撥油性のグラフトポリマー層とを有し、防汚性(撥水・撥油性)、耐傷性に優れ、防汚性が長期間持続する表面材料となる。これらの撥水・撥油性材料は様々な分野での応用が可能であり、透明基材を用いることで、防汚性、耐擦傷性に優れた透明基材(ハードコートフィルム)を得ることができ、CRT、LCD、PDP、FED等のディスプレイ、タッチパネル、ガラス、テーブル、化粧合板等、さらにCD、DVD等の記録媒体における表面保護フィルム等に好適に適用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)露光によりラジカルを発生しうる基材表面に、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物を接触させる工程と、(2)該基材に露光を行い、露光により基材表面に発生したラジカルを起点として、撥油及び撥水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物をグラフト重合して、基材に直接結合した撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマーを生成させる工程とを、有することを特徴とする撥油及び撥水性材料の形成方法。
【請求項2】
前記露光によりラジカルを発生しうる基材が、ラジカル発生剤を含有する基材である請求項1に記載の撥油及び撥水性材料の形成方法。
【請求項3】
前記露光によりラジカルを発生しうる基材が、ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基材である請求項1に記載の撥油及び撥水性材料の形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の形成方法により得られた、撥油及び撥水性の官能基を有するグラフトポリマー層を基材表面に備えた撥油及び撥水性材料。

【公開番号】特開2006−335818(P2006−335818A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159911(P2005−159911)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】