説明

擁壁盛土構造体

【課題】錆びによる破損や破断の心配がなく、耐震性にも優れ、経時的な変形を最小に抑制することができると共に、盛土体の安定性が増し、耐震性にも優れ、経時的な変形を最小に抑制することができると共に、擁壁ブロックに作用する土圧を軽減できて擁壁ブロックの安定性も改善できる擁壁盛土構造体を提供する。
【解決手段】盛土体の側面を複数の擁壁ブロック30を積み上げて背面に接続部31を有するとともに、該接続部31の背面に高さ方向に沿って複数の接続孔を有する前記擁壁ブロック30と、接続孔に接続する繊維製でメッシュ状の帯ベルト40と、各盛土層の法面側に敷設しつつ各盛土層の端部を包囲する拘束シート90と、各盛土層に敷設して埋設するシート状のジオグリッド70とを併用し、前記擁壁ブロック30の背面と盛土体との間に変形吸収層を形成し、前記擁壁ブロック30および変形吸収層の二重壁構造体により盛土体の側面を被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は盛土工と擁壁工を繰り返し行い、盛土体の側面を複数の擁壁ブロックで覆った擁壁盛土構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
盛土内に帯状の鋼製補強材(ストリップ)を敷設し、土とストリップの摩擦効果によって反力を得て、ストリップを接続した擁壁ブロックを支持するテールアルメ工法は、広く知られている。
ストリップは耐久性に優れ、摩擦力の大きいリブ付亜鉛メッキ平鋼が使用されていて、ボルトとナットにより擁壁ブロックの背面に一体に連結している。
また擁壁ブロックの背面にジオグリッドを直接接続しながら、ジオグリッドを盛土に埋設する盛土工も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−97842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した盛土構造体にあっては次のような問題点がある。
(1)ストリップの素材が金属であるため、盛土中でストリップが錆により破損する問題がある。
さらに、ストリップと擁壁ブロックの連結手段として用いるボルトやナットも腐食する問題もあり、ストリップの連結部が破断する恐れがある。
(2)ストリップは擁壁ブロックの抜け出し防止が主機能であるため、盛土の安定性に対して不安がある。
特にストリップが盛土の変位を十分に拘束できないため、地震により盛土体の法面側が凹凸状に変形したり、盛土体が崩落を起し易い欠点がある。
(3)ストリップの埋設高さが、擁壁ブロックの埋設高さに限られてしまい、ストリップの埋設高さを自由に選択できない不都合がある。
(4)ジオグリッドを擁壁ブロックの背面に直接接続した盛土構造体にあっては、剛性の擁壁ブロックと柔軟性を有するジオグリッドの直接接続の形態となる。
そのため、その接続部に大きな応力が集中して破壊され易い問題がある。
加えて、金属製の接続具を用いてジオグリッドを擁壁ブロックの背面に接続しているため、接続具の腐食の問題が残る。
さらに、壁面ブロックとジオグリッドを直接接続した盛土構造体にあっては、剛な壁面ブロックが柔な背面補強盛土の自然圧密変形に追従できず、補強盛土と共に沈下したジオグリッドを介して壁面ブロックが盛土側に引っ張られる問題も指摘されている。
【0005】
本発明は以上の問題点を解決するために成されたもので、その目的とするところは、耐久性に優れた擁壁盛土構造体を提供することにある。
本発明の目的は、補強盛土と擁壁ブロックの安定性を大幅に改善できる擁壁盛土構造体を提供することにある。
本発明の目的は、耐震性に優れた擁壁盛土構造体を提供することにある。
本発明は上記した何れかひとつを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を達成するため、本願の第1発明は、盛土体の側面を複数の擁壁ブロックを積み上げて覆った擁壁盛土構造体であって、背面に一体成形により縦方向に沿って突出した接続部を有するとともに、該接続部の背面に高さ方向に沿って複数の接続孔を有する前記擁壁ブロックと、択一的に選択した前記複数の接続孔の何れかに挿通して任意の高さに接続する繊維製でメッシュ状の帯ベルトと、各盛土層の法面側に敷設しつつ各盛土層の端部を包囲する拘束シートと、各盛土層に敷設して埋設するシート状のジオグリッドとを併用し、前記拘束シートで盛土層の法面側を保持すると共に、シート状のジオグリッドを各盛土層に埋設して盛土体を構築し、盛土層から所定の距離を隔てて擁壁ブロックを配置し、前記擁壁ブロックの背面の任意の高さに繊維製の帯ベルトを接続し、擁壁ブロックに接続した前記帯ベルトを盛土体に埋設し、盛土体に埋設した繊維製の帯ベルトを介して各擁壁ブロックの変位を拘束し、擁壁ブロックの背面と盛土体との間に変形吸収層を形成し、前記擁壁ブロックおよび変形吸収層の二重壁構造体により盛土体の側面を被覆したことを特徴とする。
【0007】
本願の第2発明は、前記第1発明において、各盛土層の法面側に補助型枠ユニットを載置し、該補助型枠ユニットの内方に拘束シートを敷設して各盛土層の端部を包囲することを特徴とする。
【0008】
本願の第3発明は、前記第1または第2発明においてにおいて、横方向に配列した複数の擁壁ブロックの背面の接続部と盛土体の間に跨って連続性を有する帯ベルトを波形に敷設し、擁壁ブロックの背面から延出した帯ベルトの波形部を盛土体に埋設したことを特徴とする。
【0009】
本願の第4発明は、前記第3発明において、前記帯ベルトの波形部の複数の折り返し箇所に跨って剛性の抵抗体を係止させ、帯ベルトの複数の折返部と一緒に抵抗体を盛土体に埋設したことを特徴とする。
【0010】
また前記した本願の第1乃至4発明の何れかにおいて、盛土体の側面を鉛直に形成し、該盛土体の側面に沿って擁壁ブロックを鉛直に積み上げてもよい。
また前記した本願の第1乃至4発明の何れかにおいて、盛土体の側面を所定の勾配を付与して形成し、該盛土体の側面に沿って擁壁ブロックを傾斜させて積み上げしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は少なくとも次の一つの効果を得ることができる。
(1)擁壁ブロックの背面に接続する帯ベルトが繊維製であるから、錆びによる破損や破断の心配がなくなり、半永久的に擁壁ブロックを支持することが可能となる。
(2)拘束シートとジオグリッドを併用して盛土体を構築することで、盛土体の安定性が増し、耐震性にも優れ、経時的な変形を最小に抑制することができると共に、擁壁ブロックに作用する土圧を軽減できて擁壁ブロックの安定性も改善できる。
(3)擁壁ブロックの背面に接続する帯ベルトの接続位置を任意に選択できるので、ジオグリッドの敷設ピッチに関係なく任意の高さに帯ベルトを取り付けできる。
また擁壁ブロックに接続する帯ベルトの設置数を増すことで、擁壁ブロックの抜け出し防止効果をさらに高めることが可能である。
(4)ジオグリッドは擁壁ブロックに接続していない。
そのため、盛土体が自然圧密変形してもジオグリッドを介して擁壁ブロックが盛土側に引っ張られる問題を解消することができる。
(5)擁壁ブロックの垂直施工はもちろんのこと、これまで施工が困難とされてきた勾配を付けた擁壁工の施工も可能である。
(6)擁壁ブロックの背面と盛土層との間に変形吸収層を形成して二重壁構造体とした場合には、大地震等により盛土が変形しても、盛土体の変形を変形吸収層で吸収できるので、擁壁ブロックの飛び出しやずれを効果的に回避して、擁壁盛土構造体全体に高い安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考例1に係る擁壁盛土構造体の縦断面図
【図2】単数の接続部を具備した擁壁ブロックの背面に帯ベルトを接続した斜視図
【図3】複数の接続部を具備した他の擁壁ブロックの背面に帯ベルトを接続した斜視図
【図4】擁壁盛土構造体の施工方法の説明図
【図5】擁壁ブロックの背面の接続部毎に単体の帯ベルトを接続した形態を示した平面図
【図6】擁壁ブロックの背面の複数の接続部に連続した帯ベルトを接続した、他の帯ベルトの接続形態を示した平面図
【図7】擁壁ブロックの背面に接続した複数の帯ベルトを波形に配置した、他の帯ベルトの接続形態を示した平面図
【図8】擁壁ブロックの背面の複数の接続部に連続した帯ベルトを接続し、帯ベルトの複数の折り返し箇所に跨って抵抗体を係止させた形態を示した、他の帯ベルトの接続形態を示した平面図
【図9】本発明の参考例2に係る擁壁盛土構造体の一部を破断し、盛土体側から見た斜視図
【図10】参考例2に係る擁壁盛土構造体の一部を省略した縦断面図
【図11】実施例に係る擁壁盛土構造体の一部を省略した縦断面図
【図12】実施例に係る擁壁盛土構造体の部分拡大図
【図13】実施例に係る擁壁盛土構造体の一部を省略した縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。
[参考例1]
【0014】
(1)擁壁盛土構造体の概要
図1に参考例1に係る擁壁盛土構造体10の断面図を示す。
この擁壁盛土構造体10は、転圧を行いつつ完成高さまで複数回に分けて階層的に盛土層20a,20b,・・・を積み上げて構築した盛土体20と、盛土体20の側面(法面)に縦横方向に配置して盛土体20の側面(法面)を覆った複数の擁壁ブロック30と、各擁壁ブロック30の背面に接続しつつ、各盛土層20a,20b,・・・に埋設した単数、又は複数の帯ベルト40とにより構成されている。
以下に主要な資材について詳述する。
【0015】
(2)擁壁ブロック
盛土体20の側面を覆う擁壁ブロック30の一例を図2,3に示す。
擁壁ブロック30はプレキャストコンクリート製のブロックで、全体形状が四角形を呈し、その背面には縦方向に沿って突出した接続部31が一体に形成されている。
図2は擁壁ブロック30の背面中央に接続部31を形成した断面T字形を呈する場合を示し、図3は擁壁ブロック30の背面に間隔を隔てて二つの接続部31,31を形成した断面Π字形を呈する場合を示す。
接続部31には高さ方向に沿って複数の接続孔32が貫通して形成されている。本例では接続部31の上中下の三箇所に接続孔32を形成した例を示すが、接続孔32の形成数は任意でよい。
これら複数の接続孔32は帯ベルト40を任意の高さに接続するための孔である。
尚、本例では擁壁ブロック30の正面から見た形状が四角形である場合について説明するが、擁壁ブロック30の正面から見た他の形状としては、例えば五角形、六角形等の多角形を採用することができる。
【0016】
(3)帯ベルト
帯ベルト40はその一方を擁壁ブロック30に接続し、その他方を盛土体20中に埋設して設置して使用し、盛土体20との摩擦抵抗を利用して擁壁ブロック30の変位を拘束するために機能する。
従来のストリップが金属製であるのに対して、本発明では帯ベルト40が耐引張強度と耐腐食性に優れた可撓性を有する素材で形成したものを使用する。
【0017】
帯ベルト40の素材としては、例えば車のシートベルトに用いられる高強度繊維、或いは繊維性ベルトの表面を樹脂加工して耐衝撃性や耐候性を高めたものを使用できる。
また帯ベルト40の好ましい形態は、土砂と帯ベルト40とのインターロッキング効果をもって引き抜き抵抗が増すようにメッシュ状に構成した開口構造が望ましい。
帯ベルト40の他の形態としては、無孔構造のフラットなベルトや、ベルトの表面に凹凸を形成したものであってもよい。
【0018】
帯ベルト40を擁壁ブロック30の接続部31の接続孔32に挿通するに際しては、図2,3に示すように帯ベルト40に樹脂製の保護チューブ41を外装すると、帯ベルト40が擁壁ブロック30の接続孔32のエッジで切れるのを効果的に防止できる。
また擁壁ブロック30の支持力は、帯ベルト40の全長に比例する関係にあるから、帯ベルト40の全長は現場に応じて適宜選択するものとする。
【0019】
(4)擁壁盛土構造体の構築方法
つぎに擁壁盛土構造体10の構築方法について説明する。
【0020】
[基礎工]
図4に示すように、施工計画に基づきバックホウ等により掘削を行い、擁壁ブロック30の積み上げ予定位置に砕石層50を敷設した後、砕石層50の上に基礎コンクリート51を打設する。
【0021】
[擁壁ブロックの設置]
つぎに基礎コンクリート51上に、一段目の擁壁ブロック30を横一列に並設する。
本例では、擁壁ブロック30を所定の勾配を付与して積み上げる場合について説明するが、鉛直に積み上げてもよい。
【0022】
[帯ベルトの連結]
擁壁ブロック30の接続部31に形成された複数の接続孔32のうち、所定の高さの接続孔32に帯ベルト40を差し込んで連結する。
擁壁ブロック30の背面側に接続した帯ベルト40は擁壁ブロック30の背面側の地盤に弛みがないようにして敷設する。
【0023】
[盛土工]
帯ベルト40が隠れるまで擁壁ブロック30の背面側に土砂を撒き転圧して一層目の盛土層20aを構築する。
本例では最下位の接続孔32に連結した帯ベルト40の上に一層目の盛土層20aを構築して帯ベルト40を埋設すると共に、一層目の盛土層20aの上面に最上位の接続孔32に連結した帯ベルト40を敷設した場合について示すが、擁壁ブロック30に対する帯ベルト40の連結位置や帯ベルト40の設置数は、擁壁ブロック30の支持力を考慮して適宜選択するものとする。
要は、擁壁ブロック30の背面に連結した帯ベルト40が盛土層に埋設されていればよい。
【0024】
また帯ベルト40の連結作業は、擁壁ブロック30の接続部31に形成された任意の接続孔32に帯ベルト40を挿入する簡単な作業を行うだけで済むので、特別な連結具を用いる必要がない。
【0025】
図5〜8に擁壁ブロック30の接続部31に連結した帯ベルト40の埋設形態を例示する。
図5の左方は擁壁ブロック30の接続部31に対し、所定の長さを有する帯ベルト40の両端部を交差させた場合を示し、同図の右方は帯ベルト40の両端部を交差さずに埋設した場合を示す。
【0026】
また図6の横方向に配列した複数の擁壁ブロック30の各接続部31と盛土体20の間に、長尺の長さを有する帯ベルト40を波形(ジグザグ状)に敷設し、擁壁ブロック30の背面から延出した帯ベルト40の波形部を盛土体20に埋設した場合を示す。
図7は各擁壁ブロック30の接続部31に接続した単体の帯ベルト40の両端部を交差させ、その交差部にピン43を打設して帯ベルト40に連続性を付与した形態を示す。
【0027】
図6,7のように波形(ジグザグ状)に敷設した帯ベルト40の波形部を盛土体20に埋設すると、盛土体20の土圧による摩擦抵抗だけでなく、折り返した帯ベルト40の波形部により一部の盛土体20を囲繞することによる土塊抵抗が加わるので、図5と比べて擁壁ブロック30の支持力が高くなる。
【0028】
また図8は図6,7に示した連続性を有する帯ベルト40の波形部を形成する複数の折り返し箇所に跨って、剛性の抵抗体42を係止させた場合を示す。
図8のように抵抗体42を追加した分だけ、擁壁ブロック30の支持力がさらに高まるので、擁壁ブロック30の背面側へ向けた帯ベルト40の埋設深さを短く設定しても擁壁ブロック30を高い支持力で支持することができる。
【0029】
一段目の施工が完了したら、一段目の擁壁ブロック30と一層目の盛土層20aの上面に、夫々図2の二点鎖線に示すように二段目の擁壁ブロック30と二層目の盛土層20bを積層して構築する。
【0030】
二段目の擁壁ブロック30の背面にも帯ベルト40を連結し、当該帯ベルト40を二層目の盛土層20bに埋設することは上記した工程と同様である。
【0031】
以上説明した、擁壁ブロック30の設置工、帯ベルト40の連結敷設工、盛土工を所要の回数だけ繰り返して、図1の擁壁盛土構造体10を得る。
帯ベルト40は擁壁ブロック30の背面の接続部31に対して任意の高さに連結して埋設できるので、擁壁ブロック30に対する帯ベルト40の連結高さが各盛土層20a,20b・・・の層厚(ピッチ厚)に制限されることがない。
また擁壁ブロック30の各段において、擁壁ブロック30に連結する帯ベルト40の設置数に比例して擁壁ブロック30の支持力が増すことになる。
【0032】
(5)擁壁盛土構造体の特性
図1に示す如く擁壁盛土構造体10は、盛土体20の法面側が擁壁ブロック30で覆われている。
帯ベルト40は盛土体20の鉛直方向に作用する土圧による摩擦抵抗を受けて支持されており、各擁壁ブロック30は帯ベルト40を介して支持される。
したがって、盛土体20の側方に作用する土圧は、各擁壁ブロック30と帯ベルト40を介して盛土体20に支持される。
また帯ベルト40は適度の可撓性を有するので、盛土体20が圧密変形しても帯ベルト40は破断することなく盛土体20の変形に追従できる。
さらには、帯ベルト40が耐腐食性に優れた素材で形成されているため、帯ベルト40がその全長に亘り錆びに因る破断の恐れが完全になくなり、半永久的に擁壁ブロック30の支持機能を持続できる。
【0033】
[参考例2]
以下に参考例2を説明する。以降の説明に際し既述した参考例1と同一の部位は、同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0034】
(1)擁壁盛土構造体の構造
図9,10は既述した参考例1の擁壁盛土構造体10を前提とし、これに盛土体20内に水平に敷設して埋設したシート状のジオグリッド70を追加して使用する他の形態を示す。
【0035】
(2)本例で使用する追加資材
まず本例で使用するジオグリッド70について説明する。
【0036】
[ジオグリッド]
ジオグリッド70は、盛土体20の内部に水平に埋設して、盛土体20を補強するシート材で、例えば、高密度ポリエチレンの格子状ネットにアラミド繊維製の芯材に高密度ポリエチレンの被膜で覆ってネット状に形成した「アデム」(前田工繊株式会社製)が好適である。
【0037】
(3)施工方法
擁壁ブロック30の設置工、帯ベルト40の連結敷設工、盛土工を繰り返し行うことは、前記した参考例1と同様であるが、本例は参考例1と比較して盛土工に上記したシート状のジオグリッド70を盛土体20の任意の高さに埋設して施工することが異なる。
【0038】
すなわち本参考例2では、擁壁ブロック30に帯ベルト40を連結して各盛土層20a,20b,20c・・・に埋設する過程において、各盛土層20a,20b,20c・・・の法面側に補助型枠ユニット60と、補助型枠ユニット60の内側に拘束シート90とを敷設して盛土することと、擁壁ブロック30の1スパン(全高)分の盛土を複数回に分けて行う際に、盛土の任意の高さにジオグリッド70を敷設して埋設する工程が、前記参考例1に追加される。
【0039】
ジオグリッド70は擁壁ブロック30に直接接続しない。
したがって、盛土体20に対するジオグリッド70の埋設ピッチは、擁壁ブロック30の高さに関係なく、盛土体20の土質や盛土高さを考慮して任意に設定することができる。
【0040】
また本例では擁壁ブロック30を支持する帯ベルト40と、盛土体20を補強するジオグリッド70の埋設位置が互いに重ならない形態を図示しているが、両部材40,70を重ねて埋設してもよいことは勿論である。
【0041】
(4)擁壁盛土構造体の特性
図9に示す如く本参考例2に係る擁壁盛土構造体10は、前記参考例1の効果に加えて、ジオグリッド70と拘束シート90を併用して盛土体20を構築することで、参考例1と比べて盛土体20の安定性が格段に向上し、また耐震性にも優れる。
さらに、ジオグリッド70を埋設したことにより、盛土体20の経時的な変形を最小に抑制することができる。
このように盛土体20の安定性が増すことに伴い、擁壁ブロック30に作用する土圧を軽減できて、最終的に擁壁ブロック30の安定性を改善することができる。
【0042】
[実施例]
(1)擁壁盛土構造体の構造
図11〜13に他の擁壁盛土構造体10を示す。
本実施例は、既述した参考例2の盛土体20を前提とし、これに盛土体20内に水平に敷設して埋設したシート状のジオグリッド70と、各盛土層20a,20b・・・の法面側に敷設しつつ各盛土層20a,20b・・・の端部を包囲する拘束シート90とを追加して使用すると共に、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20との間に変形吸収層80を形成し、擁壁ブロック30および変形吸収層80の二重壁構造体により盛土体20の側面を被覆した他の形態を示す。
【0043】
(2)本例で使用する追加資材
まず本例で使用する追加資材について説明する。
【0044】
[拘束シート]
拘束シート90は各盛土層20a,20b・・・の端部を法面から所定の範囲に亘って包囲するシート材である。
拘束シート90は土砂の流出を阻止し、かつ各盛土層20a,20b・・・の端部(法面側)の土砂を補強するために機能するもので、例えば不織布、織布等の高分子シートを使用できる。
【0045】
[ジオグリッド]
ジオグリッド70は、盛土体20の内部に水平に埋設して、盛土体20を補強するシート材で、例えば、高密度ポリエチレンの格子状ネットにアラミド繊維製の芯材に高密度ポリエチレンの被膜で覆ってネット状に形成した「アデム」(前田工繊株式会社製)が好適である。
【0046】
[補助型枠ユニット]
この補助型枠ユニット60は、目の粗い板状の網体を法面勾配に対応して略L字形に折曲加工して形成した型枠である。
本例では、水平な裾部61と、裾部61の一端に起立部62を一体に成形し、裾部61と起立部62の間に補強用の斜材63を配置して補助型枠ユニット60を構成する場合について説明する。
補助型枠ユニット60は、本発明の必須の部材ではなく、省略する場合もある。
【0047】
(3)変形吸収層
変形吸収層80は、盛土体20の変形を吸収すると共に、その変形力を遮断して擁壁ブロック30へ伝達されるのを防止するために機能する。
図11では、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20との間に形成された空間内の全域に充填した粒状物により変形吸収層80を構成する場合を示す。
変形吸収層80を構成する粒状物としては、砕石あるいは粒状の人工材料(例えばガラスリサイクル品、発泡スチロール等)を採用でき、また粒状物の大きさは単粒度であることが望ましい。
この変形吸収層80は、盛土体20の変形吸収機能だけでなく、雨水の排水路としても機能する。
【0048】
(4)施工方法
本例は、帯ベルト40の連結敷設工、盛土工を繰り返し行うことは、前記した参考例2と同様である。
本実施例は参考例2と比較して、擁壁ブロック30を盛土体20から所定の距離を隔てて立設する擁壁ブロック30の設置工と、既述した上記したシート状のジオグリッド70と拘束シート90とを併用して施工する盛土工が異なる。
【0049】
すなわち本実施例では、擁壁ブロック30に帯ベルト40を連結して各盛土層20a,20b,20c・・・に埋設する過程において、各盛土層20a,20b,20c・・・の法面側に補助型枠ユニット60と、補助型枠ユニット60の内側に拘束シート90とを敷設して盛土することと、擁壁ブロック30の1スパン(全高)分の盛土を複数回に分けて行う際に、盛土の任意の高さにジオグリッド70を敷設して埋設する工程が、追加される。
【0050】
ジオグリッド70は擁壁ブロック30に直接接続しない。
したがって、盛土体20に対するジオグリッド70の埋設ピッチは、擁壁ブロック30の高さに関係なく、盛土体20の土質や盛土高さを考慮して任意に設定することができる。
【0051】
擁壁ブロック30のスパン(全高)毎に盛土を終えたら、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20との間に形成された空間内の全域に粒状物を充填して変形吸収層80を形成する。
これにより、盛土体20の側面は、擁壁ブロック30および変形吸収層80で構成された二重壁構造体によって被覆される。
【0052】
本例では粒状物の充填前において、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20の間に空間が形成される。
そのため、図12に拡大して示すように、補助型枠ユニット60の内側に拘束シート90を配置して盛土する際に、盛土の転圧により補助型枠ユニット60の平面状の起立部62が土圧により変形して円弧状に孕み出す。
したがって、法面側の盛土の締め固めを確実に行うことができる。
【0053】
また本例のように擁壁ブロック30に勾配をつける場合、粒状物の充填が完了するまでの間、既設の盛土や図示しない支保工等から反力を得て擁壁ブロック30を盛土体20の法面から離隔させる。
【0054】
(5)擁壁盛土構造体の特性
本実施例は、ジオグリッド70と拘束シート90を併用して盛土体20を構築することで、参考例2と比べて盛土体20の安定性が格段に向上し、また耐震性にも優れる。
また、拘束シート90で盛土の法面側を包み込むことで、施工後における盛土体20の法面の変形を抑制することができる。
さらに、ジオグリッド70を埋設したことにより、盛土体20の経時的な変形を最小に抑制することができる。
【0055】
また本実施例は、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20との間に変形吸収層80を形成し、擁壁ブロック30および変形吸収層80の二重壁構造体により盛土体20の側面を被覆したものである。
したがって、本実施例に係る擁壁盛土構造体10は、前記した参考例1,2の効果に加えて、大地震等により盛土体20が万一、変形を起こしても、盛土体20の側面の変形を変形吸収層80で吸収できるので、擁壁ブロック30の飛び出しやずれを効果的に回避できるので、前記参考例1,2と比較して擁壁盛土構造体10の安定性がさらに良くなるという利点が得られる。
【0056】
本例の変形吸収層80が存在しない場合は、盛土体20と擁壁ブロック30とを夫々支持する地盤反力に大きな差が生じる。
地盤反力の差は、盛土体20と擁壁ブロック30の重量差によるものである。
【0057】
尚、図13に示すように、変形吸収層80は粒状物で構成する場合の他に、各擁壁ブロック30の背面と盛土体20との間に形成された空間そのもので変形吸収層80を構成する場合もある。
【符号の説明】
【0058】
10・・・・・擁壁盛土構造体
20・・・・・盛土体
30・・・・・擁壁ブロック
31・・・・・接続部
40・・・・・帯ベルト
60・・・・・補助型枠ユニット
70・・・・・ジオグリッド
90・・・・・拘束シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土体の側面を複数の擁壁ブロックを積み上げて覆った擁壁盛土構造体であって、
背面に一体成形により縦方向に沿って突出した接続部を有するとともに、該接続部の背面に高さ方向に沿って複数の接続孔を有する前記擁壁ブロックと、
択一的に選択した前記複数の接続孔の何れかに挿通して任意の高さに接続する繊維製でメッシュ状の帯ベルトと、
各盛土層の法面側に敷設しつつ各盛土層の端部を包囲する拘束シートと、
各盛土層に敷設して埋設するシート状のジオグリッドとを併用し、
前記拘束シートで盛土層の法面側を保持すると共に、シート状のジオグリッドを各盛土層に埋設して盛土体を構築し、
盛土層から所定の距離を隔てて擁壁ブロックを配置し、
前記擁壁ブロックの背面の任意の高さに繊維製の帯ベルトを接続し、
擁壁ブロックに接続した前記帯ベルトを盛土体に埋設し、
盛土体に埋設した繊維製の帯ベルトを介して各擁壁ブロックの変位を拘束し、
擁壁ブロックの背面と盛土体との間に変形吸収層を形成し、
前記擁壁ブロックおよび変形吸収層の二重壁構造体により盛土体の側面を被覆したことを特徴とする、
擁壁盛土構造体。
【請求項2】
請求項1において、各盛土層の法面側に補助型枠ユニットを載置し、該補助型枠ユニットの内方に拘束シートを敷設して各盛土層の端部を包囲することを特徴とする、擁壁盛土構造体。
【請求項3】
請求項1または2において、横方向に配列した複数の擁壁ブロックの背面の接続部と盛土体の間に跨って連続性を有する帯ベルトを波形に敷設し、擁壁ブロックの背面から延出した帯ベルトの波形部を盛土体に埋設したことを特徴とする、擁壁盛土構造体。
【請求項4】
請求項3において、前記帯ベルトの波形部の複数の折り返し箇所に跨って剛性の抵抗体を係止させ、帯ベルトの複数の折返部と一緒に抵抗体を盛土体に埋設したことを特徴とする、擁壁盛土構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、盛土体の側面を鉛直に形成し、該盛土体の側面に沿って擁壁ブロックを鉛直に積み上げたことを特徴とする、擁壁盛土構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、盛土体の側面を所定の勾配を付与して形成し、該盛土体の側面に沿って擁壁ブロックを傾斜させて積み上げたことを特徴とする、擁壁盛土構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−137370(P2011−137370A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33389(P2011−33389)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【分割の表示】特願2007−540860(P2007−540860)の分割
【原出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】