説明

擦りガラス調画像シートの作製方法

【課題】擦りガラスの質感が十分であるとともに、画像領域内で質感が相違することなく、簡易に擦りガラス調画像シートを得ることができる作製方法を提供する。
【解決手段】透明基材上に、インクジェットプリンタにより画像を形成する画像シートの作製方法において、インクとして顔料を含む電離放射線硬化型インクを用い、元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来より多くなるように画像形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擦りガラス調画像シートの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窓ガラスへの装飾用部材として、擦りガラス調のフィルムが提案されている(特許文献1)。このような擦りガラス調フィルムは、窓ガラスに部分的に貼り付け、主に目隠しのために使用されている。
【0003】
しかし、これら擦りガラス調フィルムは、目隠しの効果はあるものの、画像を有しないため美的価値が十分ではなかった。
【0004】
かかる問題を解決するため、擦りガラス調のフィルムに画像を形成する手段が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−188546号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、擦りガラス調のフィルムに画像を形成した場合、インクが擦りガラスの凹凸を部分的に埋めてしまい、擦りガラスの質感が十分に再現できないという問題があった。また、非画像部(擦りガラスそのもの)と画像部との間で質感が相違してしまうという問題があった。また、上記手段の場合、擦りガラス調のフィルムを準備する必要があるため、簡易に擦りガラス調の画像を得ることはできなかった。
【0007】
そこで本発明は、擦りガラスの質感が十分であるとともに、画像領域内で質感が相違することなく、簡易に擦りガラス調画像シートを得ることができる作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、透明基材上に電離放射線硬化型インクを用いて画像を形成すると、擦りガラス調の画像が形成されることを見出した。しかし、単に電離放射線硬化型インクを用いて形成された画像は、透明部分は擦りガラス調とはならず、画像シート全体を擦りガラス調にすることはできなかった。そして、本発明者はさらに検討した結果、この問題を解決するに至った。
【0009】
上記課題を解決する本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、透明基材上に、インクジェットプリンタにより画像を形成する画像シートの作製方法において、インクとして顔料を含む電離放射線硬化型インクを用い、元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来のインク付着量より多くなるように画像形成することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、好ましくは、前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が0.8ml/m2以上となるように画像形成することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、好ましくは、前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷を、少なくとも一色以上の有色インクで行い、インク付着量が0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下となるように画像形成することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、好ましくは、前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷を、体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクで行うことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、好ましくは、前記インクジェットプリンタとして、解像度250dpi以上のものを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、擦りガラスの質感が十分であるとともに、画像領域内で質感が相違することがない擦りガラス調画像シートを簡易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】顔料インクから形成された塗膜断面を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の擦りガラス調画像シートの作製方法は、透明基材上に、インクジェットプリンタにより画像を形成する画像シートの作製方法において、インクとして顔料を含む電離放射線硬化型インクを用い、元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来のインク付着量より多くなるように画像形成することを特徴とするものである。
【0017】
透明基材としては、プラスチックフィルムやガラス板等を使用することができる。インクジェットでの印刷適性の観点では、プラスチックフィルムが好ましい。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアリレート、アクリル、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム或いはシートが使用できる。また、プラスチックフィルムやガラス板上には、インク受容層を形成するなどしてインク易接着処理がされていてもよい。
【0018】
画像形成は、インクジェットプリンタを用いる。インクジェットプリンタとしては、従来公知のものを用いることができるが、解像度250dpi以上、好ましくは300dpi以上のものを用いることが好ましい。解像度を250dpi以上とすることにより、きれいな擦りガラス調としやすくすることができる。
【0019】
インクジェットプリンタのインクとしては、顔料を含む電離放射線硬化型インクを用いる。顔料を含む電離放射線硬化型インクを用いて印刷を行うと、図1aに示すように顔料が核となり、その周囲の樹脂成分(電離放射線硬化型樹脂)に「うねり」が発生する。この「うねり」のために、顔料を含む電離放射線硬化型インクを用いて形成された画像は、擦りガラス調に見えると考えられる。このうねりは、顔料を含む電離放射線硬化型インクが硬化・乾燥時に発生していると考えられる。なお、電離放射線硬化型樹脂と粒子によりうねりを発生することは、例えば特開2005−262442号公報などに記載されており、主に液晶ディスプレイやタッチパネルの分野において、光学性能を設計する手段の一つとして利用されている。
【0020】
これに対し、インク中に顔料を含んでも、樹脂成分が熱可塑性樹脂や熱硬化型樹脂の場合は、図1bのように樹脂成分にうねりが発生しないため、画像は擦りガラス調にはならない。また、インクの樹脂成分が電離放射線硬化型樹脂であっても、着色剤が顔料ではなく染料の場合にはうねりが発生せず、画像は擦りガラス調にはならない。また、オフセット印刷の場合、顔料を含む電離放射線硬化型インクを用いても、きれいな擦りガラス調の画像を得ることができない。この原因は、顔料がブランケットにより押し付けられて沈み込んでいるためか、粘度が高いオフセットインクでは樹脂や顔料が流動しにくいためと考えられる。
【0021】
本発明で用いるインクは、有色インク(Y,M,C,Kなど)のみでも良いが、これらインクに加えて透明インク(以下、「T」という場合ある)を用いてもよい。
【0022】
有色インクは、電離放射線硬化型インクとして用いられている公知のものを用いることができる。インクの成分は、樹脂(電離放射線硬化型樹脂),溶剤,分散剤,有色顔料などからなっている。
【0023】
一般的な透明インク(T)は、樹脂成分(電離放射線硬化型樹脂)と溶剤からなっている。しかし、本発明で用いる透明インクは、さらに体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含むものを用いる。体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含むことにより、透明インクで形成した画像部分にうねりを発生させ、当該部分を擦りガラス調にすることができる。このような透明インクは、公知の有色インクの顔料を、体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズに置き換えることにより調整することができる。
【0024】
体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカなどがあげられる。透明樹脂ビーズとしては、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などからなる樹脂ビーズがあげられる。
【0025】
また、本発明の画像形成方法は、元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来のインク付着量より多くなるように画像形成する。このような画像形成手段を採用することにより、透明部や実質的透明部も擦りガラス調にすることができ、画像シート全体を擦りガラス調にすることができる。また、透明部若しくは実質的な透明部は、当該部分の少なくとも一部のインク付着量が本来より多くなればよいが、かかる条件を満たす割合は、当該部分の50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0026】
なお、「透明部若しくは実質的な透明部」の範囲は、一概には規定しきれないが、元の画像データからインク付着量を導いた場合に、有色インクの付着量の合計が0.8ml/m2未満となる部分をいう。
【0027】
また、透明部若しくは実質的な透明部の少なくとも一部は、インク付着量が0.8ml/m2以上となるように画像形成することが好ましく、インク付着量が1.0ml/m2以上となるように画像形成することがさらに好ましい。このような画像形成手段を採用することにより、透明部や実質的透明部をきれいな擦りガラス調にしやすくすることができる。なお、本発明でいうインク付着量は、複数色のインクを用いる場合、各色のインク付着量を合計したものである。
【0028】
透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷は、少なくとも一色以上の有色インクで行い、インク付着量が0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下、好ましくは1.0ml/m2以上2.0ml/m2以下となるように画像形成することが好ましい。このように画像形成することにより、透明部や実質的透明部に色味を強く感じさせることなく擦りガラス調にすることができる。有色インクはどの色を用いても良いが、より色味を感じさせにくくできる黒(K)の単色、あるいは全色の混色が好ましい。
【0029】
また、透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷は、体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクで行うことが好ましい。また、当該部分のインク付着量は0.8ml/m2以上とすることが好ましく、1.0ml/m2以上とすることがさらに好ましい。このように画像形成することにより、透明部や実質的透明部に色味を強く感じさせることなく擦りガラス調にすることができる。また、当該部分のインク付着量は8.0ml/m2以下とすることが好ましく、6.0ml/m2以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、インクの付着量が適切な範囲となり、きれいな擦りガラス調としやすくすることができる。
【0030】
また、元の画像データの透明部及び実質的な透明部以外の箇所(元の画像データから有色インクの付着量を導いた場合に0.8ml/m2以上となる箇所)の印刷は、インク付着量の上限を8.0ml/m2以下とすることが好ましく、6.0ml/m2以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、インクの付着量が適切な範囲となり、きれいな擦りガラス調としやすくすることができる。
【0031】
元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来より多くなるように画像形成する手段としては、以下の手段があげられる。
【0032】
(1)通常の印刷レイヤーaの他に、印刷範囲の全面が同色同濃度の印刷レイヤーbを作製し、印刷レイヤーa、bを重ねて印刷を行う。
【0033】
この手段により、印刷レイヤーaでは透明部若しくは実質的な透明部となる箇所の上に、別の印刷レイヤーbが重なり、当該箇所も擦りガラス調にすることができる。ここで、印刷レイヤーbを、上述した手段(インク付着量0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下での有色インクでの印刷、あるいは体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクでの印刷)とすることにより、きれいな擦りガラス調とすることができる。
【0034】
(2)通常の印刷レイヤーaの他に、印刷レイヤーaの透明部若しくは実質的な透明部の少なくとも一部を印刷対象とする印刷レイヤーcを作製し、印刷レイヤーa、cを重ねて印刷を行う。印刷レイヤーcは、目視できる範囲であれば、手動でも容易に作製することができる。
【0035】
この手段により、印刷レイヤーaでは透明部若しくは実質的な透明部となる箇所の上に、別の印刷レイヤーcが重なり、当該箇所も擦りガラス調にすることができる。ここで、印刷レイヤーcを、上述した手段(インク付着量0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下での有色インクでの印刷、あるいは体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクでの印刷)とすることにより、きれいな擦りガラス調とすることができる。
【0036】
(3)透明基材上に通常の印刷行い、得られた印刷物の全面の画像濃度を測定し、画像濃度が一定値以下の箇所を検出する。そして、画像濃度が一定値以下の箇所のみが印刷対象となる印刷レイヤーdを作成する。そして、実際の印刷の際は、通常の印刷レイヤーaに、印刷レイヤーdを重ねて印刷を行う。
【0037】
この手段により、印刷レイヤーaでは透明部若しくは実質的な透明部となる箇所の上に、別の印刷レイヤーdが重なり、当該箇所も擦りガラス調にすることができる。ここで、印刷レイヤーdを、上述した手段(インク付着量0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下での有色インクでの印刷、あるいは体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクでの印刷)とすることにより、きれいな擦りガラス調とすることができる。
【0038】
手段(3)の場合、インク付着量0.8ml/m2未満となる場合の画像濃度を算出しておくことが好ましい。
【0039】
上記(1)〜(3)の手段の中では、透明部若しくは実質的な透明部の色味に影響を与えないという観点から、(2)、(3)の手段が好ましい。
【0040】
以上のように、本発明によれば、擦りガラスの質感が十分であるとともに、画像領域内で質感が相違することがない擦りガラス調画像シートを簡易に作製することができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
透明なインクジェット記録用フィルム(グラステクト50UP:きもと社)に、インクジェットプリンタ(LuxcelJet UV350GTW:富士フィルムグラフィックシステムズ社、顔料を含む電離放射線硬化型インク搭載、解像度300×450dpi)を用いて画像を形成した。次いで、画像内の透明部若しくは実質的な透明部の少なくとも一部に対し、インク付着量が0.8ml/m2となるように黒(k)で印刷を行った。得られた画像シートは、画像領域のほぼ全体がきれいな擦りガラス調となっていた。また、インク付着量1.6ml/m2、2.4ml/m2となるように黒(k)で印刷を行った際も、画像領域のほぼ全体がきれいな擦りガラス調となっていた。
【0042】
[比較例1]
透明部若しくは実質的な透明部の少なくとも一部に対して印刷を行わなかった以外は、実施例1と同様にして画像シートを作製した。得られた画像シートは、透明部若しくは実質的な透明部画像領域が擦りガラス調とはなっていなかった。
【符号の説明】
【0043】
1・・・顔料
2・・・樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、インクジェットプリンタにより画像を形成する画像シートの作製方法において、インクとして顔料を含む電離放射線硬化型インクを用い、元の画像データに透明部若しくは実質的な透明部を有する場合、当該部分に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が本来のインク付着量より多くなるように画像形成することを特徴とする擦りガラス調画像シートの作製方法。
【請求項2】
前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部を、インク付着量が0.8ml/m2以上となるように画像形成することを特徴とする請求項1記載の擦りガラス調画像シートの作製方法。
【請求項3】
前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷を、少なくとも一色以上の有色インクで行い、インク付着量が0.8ml/m2以上2.4ml/m2以下となるように画像形成することを特徴とする請求項1又は2記載の擦りガラス調画像シートの作製方法。
【請求項4】
前記透明部若しくは実質的な透明部に対応する箇所の少なくとも一部に行う印刷を、体質顔料及び/又は透明樹脂ビーズを含む透明インクで行うことを特徴とする請求項1又は2記載の擦りガラス調画像シートの作製方法。
【請求項5】
前記インクジェットプリンタとして、解像度250dpi以上のものを用いることを特徴とする請求項1から4何れか1項記載の擦りガラス調画像シートの作製方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−194864(P2011−194864A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67477(P2010−67477)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】