説明

擬似ペプチドライブラリー

【課題】本発明は、従来のペプチドライブラリーよりも簡便に作製できる、多くの種類の擬似ペプチドを含む(サイズが大きい)擬似ペプチドライブラリーを提供することを課題とする。
【解決手段】デンドリマー及びその誘導体の末端基が同じ又は異なるアミノ酸1分子ずつで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーの2種以上の混合物からなる擬似ペプチドライブラリーにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンドリマーの複数の末端基にアミノ酸が結合したアミノ酸修飾デンドリマー(擬似ペプチド)の混合物からなる擬似ペプチドライブラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内のシグナル伝達反応などの生体反応は、タンパク質とタンパク質との相互作用、例えば、酵素と基質、受容体とリガンド、抗原と抗体の間の相互作用により媒介される。このような生体内のタンパク質の間の相互作用について研究することは、有用な生理活性物質の発見、疾患に関連する受容体の解析、ひいては疾患を治療しうる医薬品の発見などにつながる重要な研究である。
【0003】
ある特定の標的分子(例えば受容体)とタンパク質が相互作用する場合、相互作用に関与するタンパク質の領域は、ある大きさ以下のペプチドであることが知られている。よって、標的分子と相互作用可能なタンパク質を見出すために、ある大きさのペプチドの集合であるペプチドライブラリーを用いることが簡便であることがよく知られている。ペプチドライブラリーとは、任意の長さの種々のアミノ酸配列を有するペプチドの混合物であり、このペプチドの混合物と標的分子とを反応させて、標的分子に結合可能なペプチドを選択することができる。このようなペプチドライブラリーは、コンビナトリアルケミストリーにおいて重要な要素であり、従来、生物学的な方法(バクテリオファージ法など)又は化学的なペプチド合成法により作製されている。
【0004】
生物学的方法により作製されたライブラリーは、目的とするペプチドを遺伝子組み換えなどにより発現させるので、現在、108種もの多数のペプチドを含む大きいサイズのライブラリーを得ることが可能になっている(非特許文献1)。
【0005】
一方、化学的な方法によるペプチドライブラリーの作製は、従来、主にペプチドの固相合成法に基づいて行われている。
しかし、従来の化学的なペプチド合成では、長くても6アミノ酸程度のペプチドの混合物であるペプチドライブラリーしか提供できない。20種類のアミノ酸が存在することを考慮すると、化学的なペプチド合成により提供できるペプチドライブラリーを構成するペプチドの種類は、理論的には最大で206種である。しかし、実際に全ての種類のアミノ酸配列を有するペプチドのペプチドライブラリーを作製することは不可能であり、化学合成法により得られるペプチドライブラリーのサイズは、生物学的に得られるライブラリーのサイズよりも小さい(非特許文献1)。
【0006】
固相合成のような化学合成法により得られるペプチドライブラリーに含まれる各ペプチドは、6アミノ酸程度の長さの直鎖状のペプチドであるが、このようなペプチドの構造は三次元構造が比較的不安定であり、標的分子との結合の際に構造が安定しにくいので、ペプチドライブラリーのペプチドと標的分子との間の結合定数が大きくなりにくい(解離定数が大きくなりやすい)、という問題も存在する。
【0007】
ところで、樹状構造を有する3次元的に高度に分枝した高分子として、デンドリマー及びその誘導体(以下、「デンドリマー」という。)が知られている。デンドリマーは、従来の線状の高分子に比べて、分子量や分子構造をより厳密に規定できるので、デンドリマーに基づいて設計された機能的材料は、様々な分野で用いられている。
例えば、デンドリマーの末端に抗原ペプチドを結合させた多価抗原ペプチドが製造され、ワクチンとして機能することが知られている(非特許文献2)。
【0008】
また、デンドリマーを支持体として、デンドリマーの末端でペプチド合成を行うことにより、ペプチドライブラリーを作製する方法が知られている(非特許文献3)。この方法は、デンドリマーの末端基に1種類のアミノ酸を別々に結合させたものを混合し、1種類ずつのアミノ酸を結合させてペプチド鎖を伸長し、作製されたペプチドをデンドリマーから切断して、ペプチドライブラリーを作製する方法である。
【非特許文献1】コンビナトリアルケミストリー研究会編、「コンビナトリアルケミストリー」、化学同人社、1997年4月10日、p.44〜64
【非特許文献2】青井 啓悟、柿本 雅明 監修、「デンドリティック高分子−多分岐構造が拡げる高機能化の世界」、NTS社、2005年10月31日、p.354−356
【非特許文献3】R. M. Kim, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, (1996) p. 10012-10017
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のペプチドライブラリーよりも簡便に作製できる、多くの種類の擬似ペプチドを含む(サイズが大きい)擬似ペプチドライブラリーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、デンドリマーの複数の末端基のそれぞれにアミノ酸を1分子ずつ結合させた分子が、直鎖状に結合したアミノ酸の配列を有するペプチドのように作用して標的分子と結合し得ることを見出した。すなわち、デンドリマーの末端基にアミノ酸を1分子ずつ結合させることにより得られるアミノ酸修飾デンドリマーの混合物を、擬似ペプチドライブラリーとして用い得ることができることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
よって、本発明は、デンドリマー及びその誘導体(以下、「デンドリマー」という)の末端基が同じ又は異なるアミノ酸1分子ずつで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーの2種以上の混合物からなる擬似ペプチドライブラリーを提供する。
【0012】
本明細書において、「擬似ペプチドライブラリー」とは、ペプチド結合したアミノ酸の並びからなるペプチドではないが、標的分子に結合可能であるという意味においてペプチドと同様の作用を発揮できる分子の混合物を意味する。「擬似ペプチドライブラリー」は、2種以上の異なる分子の混合物である。
また、本明細書において、「擬似ペプチド」とは、擬似ペプチドライブラリーを構成する各分子のことであり、より具体的には、デンドリマーの末端基が同じ又は異なるアミノ酸1分子ずつで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーのことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の擬似ペプチドライブラリーは、デンドリマーの末端基が同じ又は異なるアミノ酸1分子ずつで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーの混合物であるので、デンドリマーにアミノ酸を結合させる1段階の反応で作製することができ、作製が簡便である。また、デンドリマーの世代を増加させることにより、デンドリマーの末端基の数が増え、より長い擬似ペプチドを作製できるので、ライブラリーのサイズを大きくすることが容易である。
【0014】
また、本発明の擬似ペプチドライブラリーの構成要素である各擬似ペプチド(アミノ酸修飾デンドリマー)は、比較的密な構造を有するデンドリマーの末端基にアミノ酸が結合したものであるので、従来のペプチドライブラリーの直鎖状に結合したペプチドに比べて、擬似ペプチドの構造が比較的安定する。よって、標的分子との結合実験において用いる場合に、直鎖状のペプチドよりも、標的分子との結合をより強固な安定したものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に用いられるデンドリマー及びその誘導体とは、樹状構造を有する3次元的に高度に分枝した化合物である。デンドリマーの誘導体とは、デンドリマーを構成する部分構造であるデンドロンを含む。本発明において、デンドリマーは、デンドロンが好ましい。
一般に、デンドリマーは、コアと、いくつかの世代の分岐部分と、末端基とからなる。
デンドリマーのコアは、1つ以上の官能基を有する化合物から誘導されるものである。好ましい官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、水酸基、カルボン酸基、チオール基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0016】
デンドリマーのコアは、上記のコアがジスルフィド結合により連結されたものであってもよい。
デンドリマーがデンドロンである場合、コアは、適切な保護基で保護されていてもよいし、置換されていてもよいし、以下に記載する標識物質で標識されていてもよい。適切な保護基としては、Boc(t−ブトキシカルボニル)、Tos(p−トルエンスルホニル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、Fmoc(9-フルオレニルメトキシ)などが挙げられる。
【0017】
デンドリマーの分岐部分は、3以上の原子価を有する原子を含む分岐構造単位の繰り返しからなる。3以上の原子価を有する原子としては、炭素、窒素、ケイ素、リンなどが挙げられる。
デンドリマーの分岐部分としては、以下に示すような構造が、一般的に知られている。
【0018】
【化1】

【0019】
上記の分岐構造を有する各デンドリマーについては、以下の文献に記載されている。
(A)D.A. Tomaliaら、Polym. J. 17, 117 (1985);D.A. Tomaliaら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 29, 138 (1990)
(B)E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1308 (1993);E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Macromol. Symp. 77, 51 (1994);J.C. Hummelenら、Chem. Eng. J. 3, 1489 (1997);C. Wanerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1300 (1993)
(C)H.K. Hall Jr.ら、Polym. Bull. 17, 409 (1987)
【0020】
(D)米国特許第4289872号;米国特許第4410688号
(E)L.J. Twymanら、Tetrahedron Lett. 35, 4423 (1994)
(F)K.E. Uhrichら、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1623 (1992)
(G)S.C.E. Bucksonら、Macromol. Symp. 77, 1 (1994)
(H)G.R. Newkomeら、J. Org. Chem. 50, 2004 (1985);G.R. Newkomeら、J. Chem. Soc. Chem. Commun. 752 (1986);G.R. Newkomeら、J. Am. Chem. Soc. 108, 849 (1986);G.R. Newkomeら、J. Am. Chem. Soc. 112, 8458 (1990);G.R. Newkomeら、Macromolecules 24, 1443 (1991);G.R. Newkomeら、J. Org. Chem. 53, 5552 (1988);米国特許第5136096号;米国特許第5206410号;米国特許第5210309号
(I)M. Okazakiら、J. Am. Chem. Soc. 125, 8120 (2003);I. Washioら、Macromolecules 38, 2237 (2005)
【0021】
(J)R. Haagら、J. Am. Chem. Soc. 122, 2954 (2000)
(K)M. Jayaramanら、J. Am. Chem. Soc. 120, 12996 (1998)
(L)C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 112, 7638 (1990);G. L'abbeら、Chem. Commun. 2143 (1996)
(M)P. Murerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 34, 2116 (1995)
(N)H.T. Changら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 35, 182 (1995)
(O)H. Threら、J. Am. Chem. Soc. 118, 6388 (1995);H. Threら、J. Am. Chem. Soc. 123, 5908 (2001)
【0022】
(P)Y. Hirayamaら、Org. Lett. 7, 525 (2005);中村大輔ら、高分子学会予稿集、54, 2949 (2005)
(Q)C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 114, 8405 (1992);C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 121, 262 (1999);D.M. Haddletonら、J. Chem. Soc. Perkin. Trans. 1, 649 (1996)
(R)D. Seebachら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 35, 2795 (1996);D. Seebachら、Helv. Chim. Acta. 80, 989 (1997)
(S)M.A. Carnahanら、J. Am. Chem. Soc. 123, 2905 (2001)
(T)M.A. Carnahanら、Macromolecules 34, 7648 (2001)
(U)F. Zengら、J. Am. Chem. Soc. 118, 5326 (1996)
【0023】
(V)A. Morikawaら、Macromolecules 26, 6324 (1993);A. Morikawa, "Polymeric Materials Encyclopedia" J.C. Salamone ed., CRC Press, 1996, vol. 3, p.1806
(W)S.R. Rannardら、J. Am. Chem. Soc. 122, 11729 (2000)
(X)M. Tominagaら、Chem. Lett. 374 (2000)
(Y)H. Uchidaら、J. Am. Chem. Soc. 112, 7077 (1990);A. Morikawaら、Macromolecules 24, 3460 (1991);M. Kakimoto, "Polymeric Materials Encyclopedia" J.C. Salamone ed., CRC Press, 1996, vol. 3, p.1809
【0024】
デンドリマーの分岐部分は、デンドリマーの水溶性の観点から、水溶性を示すアミド結合などの酸素原子及び/又は窒素原子を含む構造が好ましい。
【0025】
デンドリマーの分岐部分は、上記のような繰り返し単位を2種以上含むものであってもよい。
【0026】
デンドリマーの末端基の構造は、所望により適宜選択できる。例えば、末端基は、分岐部分の最後の繰り返し単位の構造を有してもよいし、末端基は、分岐部分とは別の構造を有してもよい。
また、デンドリマーの末端基の数は、分岐部分の構造及びデンドリマーの世代数に依存する。デンドリマーは、一般に、コアの官能基に分岐構造を有する単位が1つずつ結合したものを第1世代、第1世代の末端基の末端に別の分岐構造を有する単位が1つずつ結合したものを第2世代というように、分岐構造を有する単位の数に応じて、「第n世代(Gn)のデンドリマー」と称される。一般に、第1〜10世代のデンドリマーが知られており、理論的には、より大きい世代のデンドリマーを製造することも可能である。
【0027】
第1世代の末端基の数は、(コアの官能基の数)×1であり、第2世代の末端基の数は、(第1世代の末端基の数)×(分岐部分の分岐数−1)であり、第n世代の末端基の数は、(第1世代の末端基の数)×(分岐部分の分岐数−1)n-1である。
なお、例えば、分岐部分が−CH2CH2CONHCH2CH2N<である場合、「分岐部分の分岐数」は3である。
【0028】
本発明におけるデンドリマーは、好ましくは、ポリアミドアミンデンドリマー(例えば上記の(A)の分岐部分を有するもの)、ポリイミンデンドリマー(例えば(B))、ポリアミンデンドリマー(例えば(C))、ポリアミドデンドリマー(例えば(D)〜(G))、ポリエーテルアミドデンドリマー(例えば(H)、(I))、ポリエーテルデンドリマー(例えば(J)〜(N))、ポリエステルデンドリマー(例えば(O)〜(T))、ポリエーテルエステルデンドリマー(例えば(U))、ポリエーテルケトンデンドリマー(例えば(V))、ポリカルボナートデンドリマー(例えば(W))、複素環含有デンドリマー(例えば(X))、ケイ素含有デンドリマー(例えば(Y))である。
これらのデンドリマーの製造方法は、上記の文献に記載されている。
【0029】
上記のデンドリマーは、より好ましくは、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーの部分骨格(デンドロン)である。ポリアミドアミンデンドロンは、以下の式に示される構造を有するものである。
第1世代(G1):R1N(XH22
G2:R1N(X(XH222
G3:R1N(X(X(XH2222
G4:R1N(X(X(X(XH22222
G5:R1N(X(X(X(X(XH222222
G6:R1N(X(X(X(X(X(XH2222222
G7:R1N(X(X(X(X(X(X(XH22222222
G8:R1N(X(X(X(X(X(X(X(XH222222222
(式中、R1は、置換されていてもよいアミノアルキル基、メルカプトアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルデヒドアルキル基、アジドアルキル基、エポキシアルキル基又はアセチレンアルキル基を表し、Xは、−CH2CH2CONHCH2CH2N<を表す。)
【0030】
本発明において、上記のポリアミドアミンデンドロンは、G2以上かつG7以下のものが好ましい。
【0031】
上記の式中、R1のアルキル鎖としては、直鎖状又は分岐鎖状のC2〜C5の低級アルキルが好ましい。R1は、好ましくはアミノエチル基である。
1基は、所望により置換又は保護されていてもよい。適切な保護基としては、t−ブトキシカルボニル(Boc)基、Tos(p−トルエンスルホニル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、Fmoc(9-フルオレニルメトキシ)などが挙げられる。また、例えば、本発明によるアミノ酸修飾デンドリマーが標識される場合、R1のアミノ基が標識物質と結合することもできる。
【0032】
上記のデンドリマーは、従来公知の製造方法により製造できる。また、一部のものは市販でも入手可能である。
【0033】
例えば、上記の好ましいポリアミドアミンデンドロンは、原料である第1級アミンに、アクリル酸エステルを反応させるマイケル付加反応と、ジアミノアルカンを用いるエステルアミド交換反応とにより第1世代のアミド化合物を得て、マイケル付加反応及びエステルアミド交換反応を繰り返すことにより製造できる(Tomalia, D.ら、Polym. J. 17、117〜132 (1985);Frechet, J. M. J., Tomalia, D. A.編、(2001) Dendrimers and other dendritic polymers, J. Wiley & Sons, West Sussexを参照)。原料となるジアミンは、市販で入手可能である。
上記の好ましいポリアミドアミンデンドロンの製造法のスキームの例を、以下に示す。
【0034】
【化2】

(式中、Xは、−CH2CH2CONHCH2CH2N<を表す。)
【0035】
本発明の擬似ペプチドライブラリーは、上記のデンドリマーの末端基に、同じ又は異なるアミノ酸が1分子ずつ結合したアミノ酸修飾デンドリマーからなる。
本明細書において、「アミノ酸」とは、アミノ基とカルボキシル基とを同一分子内に有する化合物、及びアミノ基、カルボキシル基又はそれ以外の基が保護又は置換されたものも含むことを意図する。
アミノ酸は、天然のタンパク質を構成する20種のアミノ酸(天然アミノ酸)、及びそれ以外のアミノ酸を含む。
天然アミノ酸以外のアミノ酸としては、例えばβ−アラニン、γ−アミノ酪酸、δ−アミノレブリン酸、ホモシステイン、ヒドロキシトリプトファン、ヒドロキシプロリンなどが挙げられる。
【0036】
本発明の擬似ペプチドライブラリーは、2種以上のアミノ酸修飾デンドリマーの混合物からなる。本発明においては、あるアミノ酸修飾デンドリマー分子と、別のアミノ酸修飾デンドリマー分子とを比較したときに、少なくとも1つの位置の末端基を修飾しているアミノ酸の種類が異なる場合に、これらのアミノ酸修飾デンドリマーは異なる種類であるとみなす。例えば、4つの末端基Y1、Y2、Y3及びY4がアミノ酸A又はBで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーの末端アミノ酸の組み合わせとしては、以下の16種類が考えられる。
(Y1、Y2、Y3、Y4)=
(A、A、A、A)、
(A、A、A、B)、(A、A、B、A)、(A、B、A、A)、(B、A、A、A)、
(A、A、B、B)、(A、B、A、B)、(A、B、B、A)、(B、A、A、B)、(B、A、B、A)、(B、B、A、A)、
(A、B、B、B)、(B、A、B、B)、(B、B、A、B)、(B、B、B、A)、
(B、B、B、B)
これらのうち、例えば(Y1、Y2、Y3、Y4)=(A、A、A、B)と(A、A、B、A)のものは、Aが3分子、Bが1分子という点では同じであるが、Y3、Y4の位置の末端基を修飾するアミノ酸が異なるので、2種類の異なるアミノ酸修飾デンドリマーとみなすことができる。
また、本発明の擬似ペプチドライブラリーは、末端基を修飾するアミノ酸がすべて同じもの、例えば(Y1、Y2、Y3、Y4)=(A、A、A、A)のようなものも含み得る。
【0037】
本発明の擬似ペプチドライブラリーにおいて、アミノ酸修飾デンドリマーは、デンドリマーの全ての末端基がアミノ酸で修飾されていてもよく、デンドリマーの一部の末端基がアミノ酸で修飾されていてもよい。
【0038】
本発明の擬似ペプチドライブラリーは、ペプチドライブラリーの代替として用いることができる、異なる擬似ペプチドの混合物である。本発明の2種以上の擬似ペプチド、すなわちアミノ酸修飾デンドリマーを含む擬似ペプチドライブラリーは、2種以上のアミノ酸をデンドリマーと反応させることにより、作製することができる。
2種以上のアミノ酸とデンドリマーとの反応は、デンドリマーの末端基の種類によって適宜選択できる。例えばデンドリマーの末端基が−CH2CH2CONHCH2CH2NH2である場合のようにデンドリマーの末端基の末端がアミノ基である場合、アミノ酸のカルボキシル基を末端のアミノ基と反応させることにより、アミノ酸をデンドリマーの末端基に結合させることができる。また、デンドリマーの末端基がカルボキシル基である場合、アミノ酸のアミノ基を末端のカルボキシル基と反応させることにより、アミノ酸をデンドリマーの末端基に結合させることができる。また、デンドリマーとアミノ酸の結合として、ヒドロキシル基とカルボキシル基、チオール基同士、チオール基やマレインイミド基、アジド基とアルキン、エポキシ基とアルキンの結合などを利用することも可能である。
デンドリマーとアミノ酸とを結合させる反応では、通常、アミノ酸のデンドリマーと反応する反応部位以外の反応性部位を保護又は置換すること、アミノ酸に反応性部位を導入することなどが行われる。
【0039】
上記のアミノ酸修飾デンドリマーは、末端基に結合したアミノ酸同士はペプチド結合していないにもかかわらず、デンドリマーが密な分子構造を有するので、その末端に結合したアミノ酸が、あたかも直鎖状にペプチド結合しているかのように擬似ペプチドとして作用できる。よって、標的分子の結合部位に結合することが可能である。
【0040】
本発明の擬似ペプチドライブラリーに含まれるアミノ酸修飾デンドリマーは、標識物質と結合していることが好ましい。標識物質とは、標識物質が結合しているアミノ酸修飾デンドリマーの存在を他の物質と区別できる物質であれば、特に限定されない。標識物質が結合しているアミノ酸修飾デンドリマーの存在を他の物質と区別する様式としては、標識物質が放射線を含む光を吸収及び発光すること、標識物質がアミノ酸修飾デンドリマー以外の別の物質と特異的に結合することなどが挙げられる。
標識物質は、蛍光物質、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなど)、放射性同位元素(例えば125I、14C、32Pなど)、別の物質と特異的に結合可能な物質(例えばアビジン又はストレプトアビジン、ビオチン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)など)が挙げられる。
【0041】
上記の蛍光物質としては、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びその誘導体、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリン、Qdot(登録商標)、ローダミン及びその誘導体、Cy色素及びその誘導体のような、当該分野で公知の物質が挙げられる。また、蛍光物質として、HPLC用の誘導化試薬を用いることができ、そのような試薬としては、以下のようなものが挙げられる:
DPS-Cl(4-(5,6-ジメトキシ-N-フタルイミジニル)ベンゼンスルホニルクロリド)
NBD-Cl(4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール)
NBD-F(4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール)
Dansyl-Cl(5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルクロリド)
Dansyl-F(5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルフロリド)
Fluorescamin(4-フェニルスピロ[フラン-2-(3H),1'-フタラン]-3,3'-ジオン)
Dabsyl-Cl(4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)ベンゼンスルホニルクロリド)
Dabcyl-Cl(4-[[(4-ジメチルアミノ)フェニル]アゾ]安息香酸スクシンイミジルエステル)
ABD-F(4-アミノスルホニル-7-フルオロ-2,1-,3-ベンゾキサジアゾール)
NAM(N-(9-アクリジニル)マレイミド)
SBD-F(アンモニウム4-フルオロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール-7-スルホネート)
DDB(1,2-ジアミノ-4,5-ジメトキシベンゼン二塩酸塩)
MDB(1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン二塩酸塩)
Br-DMEQ(3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-1,2-ジヒドロキノキサリン-2-オン)
Br-Mmc(4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン)
DMEQ-COCl(3-クロロカルボニル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリノン)
【0042】
上記のアミノ酸修飾デンドリマーと標識物質との結合は、標識物質の種類に応じて、当該分野で公知の方法により行うことができる。標識物質は、デンドリマーのコアに結合してもよいし、末端基に結合してもよい。好ましくは、デンドリマーのコアに標識物質が結合することである。
【0043】
例えば、デンドリマーのコアに反応可能なアミノ基が存在する場合、このアミノ基を、標識物質に結合させた反応性官能基、例えばイソチオシアネート基、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)基をもつ標識物質をアミノ酸修飾デンドリマーに結合させることができる。
なお、標識物質と結合しているアミノ酸修飾デンドリマーは、デンドリマーと標識物質を先に反応させ、その後、アミノ酸でデンドリマーを修飾してもよいが、操作が簡便であるので、デンドリマーをアミノ酸で修飾した後に、アミノ酸修飾デンドリマーに標識物質を結合させることが好ましい。
【0044】
本発明は、上記の擬似ペプチドライブラリーを用いて、標的分子と結合可能な擬似ペプチドを選択する方法も提供する。
よって、本発明は、上記の擬似ペプチドライブラリーを、標的分子と接触させ、標的分子と結合したアミノ酸修飾デンドリマーを検出する工程を含む、標的分子に結合可能なアミノ酸修飾デンドリマーを検出する方法でもある。
【0045】
上記の標的分子は、標的分子に結合するペプチドを検出することが所望される分子であれば特に限定されず、ペプチド、受容体などのタンパク質、DNA、RNAなどの核酸、脂質、糖鎖などが挙げられる。
【0046】
上記の擬似ペプチドライブラリーと標的分子との接触は、標的分子とそれに結合可能な擬似ペプチドとの結合が可能となる条件下で行うことができる。このような条件は、標的分子の種類に応じて適宜決定できる。
【0047】
標的分子と結合したアミノ酸修飾デンドリマーを検出する工程は、従来公知のタンパク質の相互作用を測定する方法により行うことができる。当該相互作用測定方法としては、溶液中で相互作用を測定する方法、担体上で相互作用を測定する方法などが挙げられる。溶液中で相互作用を測定する方法は、蛍光相関分光法(FCS)、等温滴定熱量測定法(ITC)、流体力学的方法(例えば沈降平衡法、電気泳動法、ゲルろ過法など)、光学的方法(吸光度、蛍光強度などの測定、円偏光二色性スペクトルの測定などに基づく方法)アフィニティクロマトグラフィー、電場中での分子の配向の変化を測定する方法などが挙げられる。また、担体上で相互作用を測定する方法としては、表面プラズモン共鳴法(SPR)、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)などが挙げられる。
本発明の方法で用いる擬似ペプチドライブラリーは、好ましくは親水性の高いデンドリマーにアミノ酸が結合しているので、溶液中で相互作用を測定する方法であっても有利に測定を行うことができる。
【0048】
本発明の方法により得られた知見は、標的分子に結合可能なタンパク質のモチーフを同定するための情報として用いることができる。すなわち、本発明により検出されたアミノ酸修飾デンドリマーの末端基のアミノ酸の配列に基づいて、標的分子、例えば疾患に関与する受容体に結合できる医薬品の開発のための情報を提供できる。
【実施例】
【0049】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
実施例1
(1)コアにアミノ基を有するポリアミドアミンデンドロンの製造
デンドリマーとしてのコアにアミノ基を有するポリアミドアミン(PAMAM)デンドロンは、Haradaら(Bioconjugate Chem. 2006, 17, p.3-5)に記載される方法に従って合成した。
具体的には、N−(2−アミノエチル)カルバミン酸t−ブチルエステル(4.889 g, 3.05×10-2 mol)を、アクリル酸メチル(300 mL, 3.35 mol)に溶解し、混合物をアルゴン雰囲気下に還流させた。7日後に、未反応のアクリル酸メチルを減圧除去し、残渣を、CHCl3:メタノール(MeOH)=10:1(容量比)の混液で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(0.5世代)を得た。
【0050】
0.5世代のPAMAMデンドロン(3.38 g, 1.02×10-2 mol)を、メタノール(6 ml)に溶解し、混合物を、シアン化ナトリウム(100mg, 2.04×10-3 mol)を含むエチレンジアミン(300 ml, 4.50 mol)に加え、アルゴン雰囲気下に40℃にて撹拌した。5日後に、メタノール及び未反応のエチレンジアミンを反応混合物から真空下で除去した。得られた生成物を、メタノールで溶出するSephadex LH-20カラムを用いて精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(第1世代)を得た。
【0051】
メタノール(6 ml)に溶解した第1世代のPAMAMデンドロン(2.75 g, 7.08×10-3 mol)を、アクリル酸メチル(450 ml, 5.02 mol)に加え、アルゴン雰囲気下に35℃にて4日間撹拌した。メタノール及び未反応のアクリル酸メチルを、減圧下に除去した。得られた生成物を、CHCl3: MeOH=10:1(容量比)の混液で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィー、及びメタノールで溶出するSephadex LH-20カラムを用いて精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(第1.5世代)を得た。
【0052】
メタノール(6 ml)に溶解した第1.5世代のPAMAMデンドロン(2.10 g, 2.87×10-3 mol)を、シアン化ナトリウム(90 mg, 1.84×10-3 mol)を含むエチレンジアミン(300 ml, 4.50 mol)に加え、アルゴン雰囲気下に45℃にて撹拌した。3日後に、メタノール及び未反応のエチレンジアミンを減圧除去した。得られた生成物を、メタノールで溶出するSephadex LH-20カラムを用いて精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(第2世代)を得た。
【0053】
メタノール(4 ml)に溶解した第2世代のPAMAMデンドロン(2.00 g, 2.37×10-3 mol)を、アクリル酸メチル(500 ml, 5.58 mol)に加え、アルゴン雰囲気下に35℃にて3日間撹拌した。メタノール及び未反応のアクリル酸メチルを、減圧下に除去した。得られた生成物を、メタノールで溶出するSephadex LH-20カラムを用いて精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(第2.5世代)を得た。
【0054】
メタノール(4 ml)に溶解した第2.5世代のPAMAMデンドロン(3.27 g, 2.13×10-3 mol)を、シアン化ナトリウム(60 mg, 1.20×10-3 mol)を含むエチレンジアミン(200 ml, 3.00 mol)に加え、アルゴン雰囲気下に45℃にて撹拌した。5日後に、メタノール及び未反応のエチレンジアミンを減圧除去した。得られた生成物を、メタノールで溶出するSephadex LH-20カラムを用いて精製して、Boc保護されたPAMAMデンドロン(第3世代;G3)を得た。
PAMAMデンドロンの製造のスキームを、以下に示す。
【0055】
【化3】

(上記の式中、Xは−CH2CH2CONHCH2CH2N<を表す。)
【0056】
(2)アセチル化アミノ酸の調製
L−フェニルアラニン(1.2g, 10mmol)又はL−アラニン(5.5g, 56mmol)を、NaOH水溶液(4M)に溶解した。過剰量の無水酢酸と同時に、過剰量のNaOH水溶液(4M)を滴下し、この溶液のpHを9.5〜11.5に保って氷上で一晩撹拌した。その後、6N HClを加えて、pHを2.5に調整した。酢酸エチル(EtOAc)を用いて抽出したアセチル化アミノ酸を、EtOAc/ヘキサンから再結晶化した。アセチル化フェニルアラニン(Ac-Phe)及びアセチル化アラニン(Ac-Ala)の収率は、それぞれ77%及び54%であった。これらの生成物を、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解し、1H及び13C NMRで分析した。
【0057】
Ac-Alaについての1H NMR: δ1.39 (d, Hβ), 2.01 (s, CH3CO) and 4.29 (q, Hα).
Ac-Alaについての13C NMR: δ19.3 (Cβ), 24.6 (CH3CO), 52.1 (Cα) and 176.9 (CO).
Ac-Pheについての1H NMR: δ1.91 (s, CH3CO), 2.92 and 3.19 (m, Hβ), 4.46 (m, Hα), and 7.29 and 7.36 (m, phenyl).
Ac-Pheについての13C NMR: δ24.7 (CH3CO), 40.5 (Cβ), 59.1 (Cα), 129.8, 131.5, 132.2 and 140.7 (phenyl) and 176.3 (CO).
【0058】
(3)アミノ酸修飾デンドリマーの作製
(2)で調製したアセチル化アミノ酸を異なる混合比(モル比)で混合した混合アミノ酸(Ac-Ala/Ac-Phe=0/10,1/9,3/7,5/5,7/3,9/1及び10/0)を、それぞれ、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(2.4mmol)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(2.6mmol)、及びトリエチルアミン(TEA)(3.0mmol)と、蒸留したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で、氷上で4時間反応させた。蒸留ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した(1)で得られたBoc保護PAMAMデンドロン(G3世代)(30mg)を加え、反応混合物を室温にて2日間撹拌した。アセチル化アミノ酸で修飾されたBoc保護PAMAMデンドロンを、溶離液としてメタノール(MeOH)を用いてSephadex LH-20カラムで精製した。生成物を、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解し、1H NMRで分析した。
【0059】
例えば、Ac-Ala/Ac-Phe=5/5のアミノ酸混合物を用いて修飾されたアミノ酸修飾デンドリマーについて: δ1.34 (m, Hβ of Ala), 1.42 (s, Boc), 1.95 (s, CH3CO of Phe) and 2.02 (s, CH3CO of Ala), 2.24 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.63 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.81 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.06 (br, NCH2CH2N (core)), 3.36 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 4.21 (br, Hα of Ala), 4.49 (br, Hα of Phe) and 7.31 (m, phenyl).
その他のアミノ酸修飾デンドリマーのNMRは、図1に示す。
【0060】
(4)標識アミノ酸修飾デンドリマーの作製
(3)で得られたアミノ酸修飾デンドリマーに、2mlのTFAを加えて氷上で4時間反応させてBoc基を脱保護した。溶媒を蒸発させた後に、過剰量のTEAを加え、MeOH及びエーテルで再沈殿させた。残渣をエタノールに溶解し、過剰量の4−クロロ−7−ニトロ−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(NBD−Cl)を加えて1時間撹拌した。その後、Sephadex LH-20カラムを用いて精製した。Ac-Ala/Ac-Phe=0/10,1/9,3/7,5/5,7/3,9/1及び10/0の混合比のアミノ酸混合物で修飾したNBD標識デンドリマーの収率は、それぞれ出発物質の55、47、54、57、65、33及び69%であった。これらの生成物を、CD3ODに溶解して、1H NMRで分析した。
【0061】
例えば、Ac-Ala/Ac-Phe=5/5のアミノ酸混合物を用いて得られた標識アミノ酸修飾デンドリマーについて: δ1.32 (d, Hβ of Ala), 1.90 (s, CH3CO of Phe) and 2.08 (s, CH3CO of Ala), 2.40 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.64 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.87 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.08 (br, NCH2CH2N (core)), 3.41 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 4.23 (br, Hα of Ala), 4.50 (br, Hα of Phe) and 7.24 (m, phenyl and NBD).
その他のアミノ酸修飾デンドリマーのNMRは、図2に示す。
【0062】
上記の各比率のアミノ酸と反応させて得られたアミノ酸修飾デンドリマーについて得られたNMRスペクトルを図1及び2に示す。これらのスペクトルに基づいて、Ala又はPheのデンドリマーに対する積分値を求め、この値から、実際にデンドリマーの末端基に結合した各アミノ酸の数を推定した。この結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から、デンドリマーの実質的に全ての末端基にアミノ酸分子が結合していることがわかる。また、デンドリマーの末端基に結合した2種のアミノ酸の割合は、反応させた2種のアミノ酸の混合比とほぼ等しいことがわかる。よって、デンドリマーに反応させる種々のアミノ酸の混合比を調節することにより、擬似ペプチドライブラリー中の擬似ペプチドのアミノ酸の比を調節できることが示唆される。
【0065】
(4)で得られた標識アミノ酸修飾デンドリマーを、以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II(トーソー社製)、
検出器:UV検出器(UV−2075Plus;日本分光社製)、及び蛍光検出器(λex=450nm,λem=530nm;FR−2020Plus;日本分光社製)、
ポンプ:PU−2089Plus(日本分光社製)、
流速:1.0ml/分
サンプル溶液:10%メタノール(A)及びアセトニトリル(B)含有20mMリン酸緩衝液、
グラジエント:0分:100%(A)含有20mMリン酸緩衝液、30分:(A)10%及び(B)90%含有20mMリン酸緩衝液。
【0066】
HPLCの結果を、図3に示す。
【0067】
図3の結果から、標識アミノ酸結合デンドリマーは、Ac-Ala/Ac-Pheの比が10/0のときは約9.1分で、Ac-Ala/Ac-Pheの比が0/10のときは約17.1分で、それぞれHPLCのカラムから溶出され、Ac-Ala/Ac-Pheの比がこれらの間である場合は、複数のピーク又はブロードなピークを示すことがわかる。例えば、Ac-Ala/Ac-Pheの比が7/3のときは、約9.1分、約10.9分、約12.2分、約13.6分にピークが見られた。これらのピークは、それぞれAc-Ala 8/Ac-Phe 0、Ac-Ala 7/Ac-Phe 1、Ac-Ala 6/Ac-Phe 2、Ac-Ala 5/Ac-Phe 3に対応すると考えられる。このことから、様々な比で結合した種々の分子が得られたことがHPLCによって確認された。
【0068】
実施例2
(1)ポリアミドアミンデンドロンの製造
実施例1の(1)と同様にして、Boc保護されたPAMAMデンドロンを製造した。また、実施例1の(1)の第2世代から第3世代のデンドリマーの製造と同様にして、Boc保護された第4世代(G4)のPAMAMデンドロンを製造した。
【0069】
(2)アセチル化アミノ酸の調製
実施例1の(2)と同様にして、アセチル化したL−プロリン及びL−アラニン(それぞれAc-Pro及びAc-Ala)を得た。3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解し、1H及び13C NMRで分析した。
Ac-Proについての1H NMR: δ1.86-1.91 and 2.24-2.29 (m, Hβ), 1.97 (m, Hγ), 2.10 (s, CH3CO), 3.44-3.65 (m, Hδ) and 4.31-4.37 (m, Hα).
Ac-Proについての13C NMR: δ24.2 (CH3CO), 27.2 (Cγ), 32.4 (Cβ), 51.5 (Cδ), 62.2 (Cα) and 175.9 (CO).
【0070】
また、Boc及びTos(p−トルエンスルホニル)基で保護されたアルギニン(Boc-Arg (Tos))(1.0g, 2.2mmol)を、氷上で5mlのトリフルオロ酢酸(TFA)で4時間処理した。溶媒を蒸発させた。蒸留水を加えて蒸発させる操作を2回行った。得られた生成物を、実施例1の(1)と同様にして、アセチル化されたL−アルギニン(Ac-Arg (Tos))を得た。収率:50%。3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解し、1H及び13C NMRで分析した。
1H NMR: δ1.49-1.65 (m, Hβ and Hα), 1.99 (s, CH3CO), 2.40 (s, CH3 (Tos)), 3.18 (br, Hδ), 4.08 (m, Hα) and 7.40 and 7.75 (d, phenyl (Tos)).
13C NMR: δ24.2 (CH3CO), 27.2 (Cγ), 32.4 (Cβ), 51.5 (Cδ), 62.2 (Cα) and 175.9 (CO).
【0071】
(3)アミノ酸修飾デンドリマーの作製
(2)で調製したアセチル化アミノ酸をAc-Pro/Ac-Arg(Tos)=3/1の比で混合した混合アミノ酸、又は(2)で調製したAc-Ala(2.0mmol)を、NHS(2.4mmol)、DCC(2.6mmol)及びTEA(3.0mmol)と、蒸留したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で、氷上で4時間反応させた。蒸留DMSOに溶解したG3世代又はG4世代の(1)で得られたBoc保護PAMAMデンドロン(300mg)を加え、反応混合物を室温にて2日間撹拌した。アセチル化アミノ酸で修飾されたBoc保護PAMAMデンドロンを、溶離液としてメタノール(MeOH)を用いてSephadex LH-20カラムで精製した。Ac-Pro/Ac-Arg(Tos)で修飾されたG3及びG4世代のデンドリマーの収率は、それぞれ83及び80%であった。Ac-Alaで修飾されたG3及びG4世代のデンドリマーの収率は、それぞれ91及び93%であった。生成物を、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解して1H及び13C NMRで分析した。
【0072】
Ac-Pro/Ac-Arg(Tos)で修飾されたアミノ酸修飾デンドリマー(G3)についての1H NMR: δ1.41 (s, Boc), 1.53-1.68 (br, Hβ and Hγ of Arg), 1.89 and 2.21 (br, Hβ), 1.97 (br, Hγ of Pro), 2.03 and 2.13 (s, CH3CO), 2.42 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CH3 of Tos group), 2.64 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.83 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.18 (br, NCH2CH2N (core) and Hδ of Arg), 3.33 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 3.53 and 3.67 (m, Hδ of pro), 4.14 (m, Hα of Arg), 4.32 and 4.48 (m, Hα of Pro) and 7.40 and 7.75 (br, phenyl of Tos group).
【0073】
Ac-Pro/Ac-Arg(Tos)で修飾されたアミノ酸修飾デンドリマー(G4)についての1H NMR: δ1.41 (s, Boc), 1.53-1.68 (br, Hβ and Hγ of Arg), 1.89 and 2.21 (br, Hβ), 1.97 (br, Hγ of Pro), 2.03 and 2.13 (s, CH3CO), 2.42 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CH3 of Tos group), 2.64 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.83 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.18 (br, NCH2CH2N (core) and Hδ of Arg), 3.33 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 3.53 and 3.67 (m, Hδ of pro), 4.14 (m, Hα of Arg), 4.32 and 4.48 (m, Hα of Pro) and 7.40 and 7.75 (br, phenyl of Tos group).
【0074】
Ac-Alaで修飾されたアミノ酸修飾デンドリマー(G3)についての1H NMR: δ1.35 (d, Hβ), 1.43 (s, Boc), 2.03 (s, CH3CO), 2.42 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.65 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.84 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.18 (br, NCH2CH2N (core)), 3.33 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 4.21 (m, Hα).
Ac-Alaで修飾されたアミノ酸修飾デンドリマー(G4)についての1H NMR: δ1.35 (d, Hβ), 1.43 (s, Boc), 2.03 (s, CH3CO), 2.42 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.64 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.82 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.17 (br, NCH2CH2N (core)), 3.32 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 4.22 (m, Hα).
【0075】
(4)標識アミノ酸修飾デンドリマーの作製
(3)で得られたアミノ酸修飾デンドリマーを、実施例1の(4)と同様にして、NBDで標識した。Ac-Pro/Ac-Arg(Tos)で修飾されたG3及びG4世代の標識デンドリマーの収率は、それぞれ83及び80%であった。これらにトリフルオロ酢酸、1.85ml、チオアニソール、0.222ml、トリフルオロメタンスルホン酸、0.02mlを加えて室温で8時間反応させることで、結合したアルギニンの保護基を除去した。反応混合物にエーテルを加えて再沈させた後、残渣にトリエチルアミン1mlとメタノール1mlを加え、溶離液としてメタノール(MeOH)を用いてSephadex LH-20カラムで精製したものを、最終生成物とした。一方、Ac-Alaで修飾されたG3及びG4世代の標識デンドリマーの収率は、それぞれ83及び85%であった。生成物を、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸−d4ナトリウム塩含有D2Oに溶解して1H NMRで分析した。
【0076】
Ac-Pro/Ac-Argで修飾された標識デンドリマー(G3)についての1H NMR: δ1.67-1.85 (br, Hβ and Hγ of Arg), 1.91-2.13 (br, Hβand Hγ of Pro), 1.99, 2.06 and 2.14 (s, CH3CO), 2.47 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.73 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.90 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.12 (br, NCH2CH2N (core)), 3.33 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 3.51 (m, Hδ of Arg) and 3.66 (m, Hδ of Pro), 4.23 (m, Hα of Arg) and 4.34 and 4.50 (m, Hα of Pro).
【0077】
Ac-Pro/Ac-Argで修飾された標識デンドリマー(G4)についての1H NMR: δ1.65-1.84 (br, Hβ and Hγ of Arg), 1.92-2.13 (br, Hβand Hγ of Pro), 1.98, 2.05 and 2.13 (s, CH3CO), 2.27 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.45 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.87 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.21 (br, NCH2CH2N (core)), 3.33 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), 3.53 (m, Hδ of Arg) and 3.66 (m, Hδ of Pro), 4.24 (m, Hα of Arg) and 4.33 and 4.49 (m, Hα of Pro).
【0078】
Ac-Alaで修飾された標識デンドリマー(G3)についての1H NMR: δ1.35 (d, Hβ), 2.03 (s, CH3CO), 2.43 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.65 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.77 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.08 (br, NCH2CH2N (core)), 3.32 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), and 4.22 (q, Hα).
Ac-Alaで修飾された標識デンドリマー(G4)についての1H NMR: δ1.35 (d, Hβ), 2.04 (s, CH3CO), 2.43 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.65 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 2.77 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N), 3.08 (br, NCH2CH2N (core)), 3.32 (br, CH2CH2NHCOCH2CH2N and CONHCH2CH2NHCOCH2CH2N (terminal)), and 4.22 (q, Hα).
NBD部分に由来するシグナルは、その不溶性のためにNMRで検出されなかった。
【0079】
(5)結合アッセイ
最小の共通ペプチド配列Pro-X-X-Proを認識して結合することが知られているSrc-homology 3(SH3)ドメインを用いて、実施例2で作製した擬似ペプチドライブラリーが、SH3ドメインとの結合活性を有するかについて調べた。
GSTタグをN末端に融合したAmphiphysin (Bin1)のSH3ドメイン(374番目から454番目までのアミノ酸)を、以下のようにして調製した。該当部分のアミノ酸配列をコードするDNAを、pGEX-6P-1(Amersham Pharmacia)に組み込んだベクターで大腸菌(DH5α)を形質転換させた。次に、100mg/Lのアンピシリンを含む25mlのLuria-Bertani(LB)培地で一晩培養した大腸菌を500mlのLB培地で2時間培養し、続いて室温にてイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を1mMまで加えてさらに2時間培養した。遠心によって集菌し、細胞溶解バッファー(1% NP-40, 100mM EDTA, 1mM PMSF, 5μg/ml Apr, 2μg/ml Leu, 3μg/ml PepAを添加したリン酸緩衝食塩水(PBS))に懸濁し、超音波照射によって細胞膜を粉砕した。このようにして得た細胞抽出液から、グルタチオンビーズを用いてGST融合SH3ドメインを精製した。コントロールとして用いるためのGST蛋白質は、pGEXベクターを用いて同様に作製した。
【0080】
Ac-Pro/Ac-Arg修飾標識デンドリマー(G3)又はAc-Ala修飾標識デンドリマー(G3)(500nmol)と、グルタチオンビーズに結合したGST融合SH3ドメイン(10nmol)を、Trisバッファー中(20mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 0.005% Tween20)で4℃、2時間インキュベーションした。その後、ビーズをTrisバッファー1 mlで4回洗浄し、50%酢酸水溶液を200μl加え、2時間インキュベーションした。15000rpmで20分遠心し、上清の蛍光量(ex.450nm, em.530nm)を測定した。
比較として、GSTのみとアミノ酸修飾標識デンドリマーを用いて同様に結合実験を行った。
【0081】
結果を、図4に示す。縦軸は、結合率(×10-3)=(測定された蛍光量)/(GST融合タンパク質を加えなかった(アミノ酸修飾標識デンドリマーのみ)場合の蛍光量)を示す。また、SH3−Proは、GST融合SH3ドメインとAc-Pro/Ac-Arg修飾標識デンドリマーとを混合した場合、SH3−Alaは、GST融合SH3ドメインとAc-Ala修飾標識デンドリマーとを混合した場合、GST−Proは、GSTタンパク質とAc-Pro/Ac-Arg修飾標識デンドリマーとを混合した場合、GST−Alaは、GSTタンパク質とAc-Ala修飾標識デンドリマーとを混合した場合の結果を示す。
この結果から、本発明のアミノ酸修飾デンドリマーの混合物からなる擬似ペプチドライブラリーは、標的分子に結合する能力を有する擬似ペプチドを含むことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】末端基に異なる混合比でアラニンとフェニルアラニンを結合させたアミノ酸修飾デンドリマー(Boc保護PAMAMデンドロン(G3世代))の1H NMRスペクトルである。
【図2】末端基に異なる混合比でアラニンとフェニルアラニンを結合させた蛍光標識アミノ酸修飾デンドリマー(PAMAMデンドロン(G3世代))の1H NMRスペクトルである。
【図3】異なる混合比で混合したアラニンとフェニルアラニンを用いて作製した本発明の擬似ペプチドライブラリーのHPLCのチャートである。
【図4】本発明の擬似ペプチドライブラリーと、GST融合SH3ドメインとの結合実験の結果を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンドリマー及びその誘導体の末端基が同じ又は異なるアミノ酸1分子ずつで修飾されているアミノ酸修飾デンドリマーの2種以上の混合物からなる擬似ペプチドライブラリー。
【請求項2】
前記デンドリマーが、ポリアミドアミンデンドリマーである請求項1に記載の擬似ペプチドライブラリー。
【請求項3】
前記アミノ酸修飾デンドリマーが、標識物質と結合している請求項1又は2に記載の擬似ペプチドライブラリー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の擬似ペプチドライブラリーを、標的分子と接触させ、標的分子と結合したアミノ酸修飾デンドリマーを検出する工程を含む、標的分子に結合可能なアミノ酸修飾デンドリマーを検出する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−96929(P2009−96929A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271601(P2007−271601)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】