説明

擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置

【課題】 擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、無端状の流路からの移動相の排出を簡易で耐久性に優れた構成によって制御する。
【解決手段】 四本のカラム1a〜1dと、カラム1a〜1dを直列に接続する接続用流路2a〜2dとによって形成されている無端状の流路2の任意の箇所から移動相を排出するための第三及び第四の流路5、6のそれぞれに、レギューレータ5d、6dと、レギュレータ5d、6dの下流側の主管5a、6aを開閉するための流量調節器としての流量コントロール弁5e、6eとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的の物質を含有する移動相を連続して抜き出すことができる擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置に関し、特に、抜き出される移動相の流量を制御することができる擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、目的の物質を含有する試料を連続してカラムに供給することができ、また目的の物質の分離及び目的の物質を含有する移動相の排出を連続して行うことができる。このため擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、分取によって所定の物質を製造する場合に好適に用いられる。
【0003】
このような擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置には、例えば図4に示されるように、目的の物質を含有する試料中の目的の物質を分離するための複数のカラム1a〜1dと、カラム1a〜1dを直列に接続する接続用流路2a〜2dとによって形成されている無端状の流路2と、無端状の流路2における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路2に移動相を供給するための第一の流路3と、無端状の流路2における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路2に試料を供給するための第二の流路4と、無端状の流路2における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路2から移動相を排出するための第三及び第四の流路5、6と、無端状の流路2において移動相等の液体を循環させる循環ポンプ2eと、第一の流路3から無端状の流路2へ所望の流量で移動相を供給するための移動相ポンプ3dと、第二の流路4から無端状の流路2へ所望の流量で試料を供給するための原液ポンプ4dと、無端状の流路2から第三の流路5へ所望の流量で移動相を排出するための製品ポンプ51と、無端状の流路2から第四の流路へ所望の流量で移動相を排出するための製品ポンプ61とを有する装置が知られている。
【0004】
製品ポンプ51、61には、例えば流量を自動的に制御することができるピストン往復動型のポンプが用いられる。
【0005】
前記擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置では、無端状の流路への移動相の供給や、無端状の流路における移動相の循環に伴い、無端状の流路において移動相の脈動が生じることがある。
【0006】
しかしながら前記ポンプを用いる場合、例えば少なくとも一方のポンプのモータの回転数を、無端状の流路のある一点に設けた圧力検知装置の圧力検出値の平均値に基づいて可変制御することによって、無端状の流路の圧力を一定に保つことと、無端状の流路から移動相を定量的に排出することとを両立させることができる。このように、前記ポンプによる移動相の排出は、無端状の流路における移動相の脈動が生じる場合に、無端状の流路における圧力の変動を抑制しつつ、無端状の流路から所望の流量で移動相を安定して排出させる観点から優れている。
【0007】
しかしながら、前記ポンプは高性能なポンプであり、また高価である。また、前述したポンプの運転の制御を行うと、ポンプの消耗が早い。
【0008】
このため、前記擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置では、前記ポンプの使用台数の削減も検討されている。このような擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置としては、例えば、第三及び第四の流路のいずれか一方には前記ポンプ等の流量制御手段を設け、他方には、無端状の流路について予め定めた一定の背圧を与える背圧付与手段を設けた装
置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
この擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、前記ポンプの使用台数を二台から一台に減らすことができるが、背圧付与手段を設けた流路における移動相の排出量を精密に制御する点においては、検討の余地が残されている。
【0010】
また、圧力が変動する循環経路から流体を定量的に排出する装置として、循環経路に接続された供給配管部と、供給配管部に設けられた定量ポンプと、供給配管部における定量ポンプの上流側に設けられたレギュレータとを備えた流体供給システムが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
この流体供給システムでは、循環経路における圧力の変動に関わらず、レギュレータの下流側の供給配管部の圧力がレギュレータによって設定圧力に保たれ、そして往復動型のポンプの作動によってポンプの上流側(レギュレータの下流側)が設定圧力に対して周期的に負圧になったときにレギュレータが開いて循環経路から流体が供給される。このように、前記システムは、循環経路における圧力の変動に影響されずに定量ポンプによって循環経路から流体を定量的に排出する点で優れている。
【0012】
しかしながら前記システムは、定量ポンプの脈動を利用してレギュレータを開閉することから、定量ポンプの使用台数を削減することができない。このため、前記システムでは、定量ポンプの使用に伴うコストの問題点や耐久性に関する問題については、検討の余地が残されている。
【特許文献1】特許第2962589号明細書
【特許文献2】特開2004−27905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、無端状の流路からの移動相の排出を簡易で耐久性に優れた構成によって制御することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、高価な流量制御ポンプを使用せずとも、比較的簡易で安価な構成により、無端状の流路からの移動相の排出量の制御を行うことができる手段を提供する。
【0015】
すなわち本発明は、目的の物質を含有する試料中の目的の物質を分離するための複数のカラムと、カラムを直列に接続する接続用流路とによって形成されている無端状の流路と、無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路に移動相を供給するための第一の流路と、無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路に試料を供給するための第二の流路と、無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路から移動相を排出するための第三及び第四の流路とを有し、目的の物質を含有する移動相を第三及び第四の流路のいずれか一方又は両方を介して無端状の流路から排出して目的の物質を得るための擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、第三及び第四の流路において無端状の流路側を上流側としたときに、第三及び第四の流路のそれぞれに、第三又は第四の流路の圧力を調整するためのレギュレータと、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量を制御するための流量制御装置とをさらに有し、前記レギュレータは、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の圧力が予め設定された圧力になるように第三又は第四の流路を開閉する装置であり、前記流量制御装置は、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の開度を調節する流量調節器を有し、流量調節器の下流側の第三又は第四の流路におけ
る移動相の流量が予め設定された流量になるように、前記流量調節器によって第三又は第四の流路の開度を調節する装置である、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置である。
【0016】
前記構成によれば、レギュレータよりも下流側の第三及び第四の流路には圧力が一定となるように移動相が供給され、第三及び第四の流路のいずれの流路においても、流量調節器による第三及び第四の流路の開度に応じて移動相の流量が所望の流量に制御される。したがって、無端状の流路に供給される移動相及び試料と無端状の流路から排出される移動相との収支を、簡易で安価な構成によって精密に制御することが可能となる。
【0017】
また本発明は、前記装置に加えて、前記第三及び第四の流路の一方又は両方に、前記レギュレータ及び前記流量調節器の間の第三又は第四の流路と流量調節器の下流側の第三又は第四の流路とを接続するバイパス流路と、バイパス流路の開度を調節するバイパス流量調節器とをさらに有し、前記流量制御装置は、第三又は第四の流路とバイパス流路との下流側の接続位置よりも下流側の第三又は第四の流路の移動相の流量が前記設定された流量になるように、前記バイパス流量調節器によってバイパス流路の開度をさらに調節する装置である装置を提供する。
【0018】
前記構成によれば、さらに、レギュレータよりも下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量の制御を、前記流量調節器による第三又は第四の流路における移動相の流量の制御と、バイパス流量調節器によるバイパス流路における移動相の流量の制御との併用によって行うことが可能となる。
【0019】
また本発明は、前記装置に加えて、前記第三及び第四の流路に対応して第三及び第四の流路の移動相を濃縮する濃縮装置と、濃縮装置で得られる移動相の蒸気の凝縮液の組成を移動相の組成に調整する調整装置とをさらに有し、調整装置で調整された移動相が前記第一の流路に供給される装置を提供する。
【0020】
前記構成によれば、さらに、移動相を回収して再利用することが可能となる。
【0021】
また本発明は、前記装置に加えて、前記目的の物質は光学異性体であり、前記カラムは、光学異性体の混合物から光学異性体を分離する多糖誘導体を含有する分離剤を有するカラムであり、前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、アミロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体の群から選択されるいずれかである装置を提供する。
【0022】
前記構成によれば、さらに、製造工程の管理がより厳格に規定されている医薬品等に用いられる光学異性体を安定して製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、無端状の流路と第一から第四の流路とを有し、目的の物質を含有する移動相を第三及び第四の流路のいずれか一方又は両方を介して無端状の流路から排出して目的の物質を得るための擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、前記レギュレータと前記流量制御装置とをさらに有することから、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、無端状の流路からの移動相の排出を、定量ポンプを用いずに、簡易で耐久性に優れ、かつ安価な構成によって制御することができる。
【0024】
また本発明では、前記バイパス流路と前記バイパス流量調節器とをさらに有すると、第三又は第四の流路における移動相の流量の制御とバイパス流路における移動相の流量の制御とを並行することができるので、移動相の流量の精密な制御を行う観点からより一層効
果的である。
【0025】
また本発明では、第三及び第四の移動相から移動相を回収して無端状の流路に供給される移動相として再利用する装置をさらに有すると、移動相の再利用が可能となり、移動相の使用量を削減する観点からより一層効果的である。
【0026】
また本発明では、光学異性体の混合物から光学異性体を分離する多糖誘導体を分離剤として有するカラムを用いると、光学異性体を高い効率で分離することができるので、厳格な品質管理を要する製品としての光学異性体を高い生産性で安定して製造する観点からより一層効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、無端状の流路と、無端状の流路の任意の箇所に接続することができる第一から第四の流路と、第三及び第四の流路において無端状の流路側を上流側としたときに、第三及び第四の流路のそれぞれに、第三又は第四の流路の圧力を調整するためのレギュレータと、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量を制御するための流量制御装置とを有する。
【0028】
前記無端状の流路は、複数のカラムと、カラムを直列に接続する接続用流路とによって形成される。無端状の流路に設けられるカラムの数は、複数であれば特に限定されないが、4〜24であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。
【0029】
前記カラムは、目的の物質を含有する試料中の目的の物質を分離することができるカラムであれば特に限定されない。前記カラムには、カラム管と、カラム管に収容され目的の物質を分離するための分離剤とを有する通常のカラムを用いることができる。
【0030】
前記接続用流路は、前記カラムを直列に接続することができ、また他の流路を接続することができる部材であれば特に限定されない。前記接続用流路は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる管、分岐管、及び開閉弁等の公知の部材によって構成することができる。
【0031】
前記第一の流路は、前記無端状の流路における任意の前記接続用流路に接続することができ、無端状の流路に移動相を供給することができる流路であれば特に限定されない。前記第一の流路は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる管、分岐管、開閉弁、ポンプ及び移動相を収容するタンク等の公知の部材によって構成することができる。
【0032】
前記第二の流路は、前記無端状の流路における任意の前記接続用流路に接続することができ、無端状の流路に試料を供給することができる流路であれば特に限定されない。前記第二の流路は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる管、分岐管、開閉弁、ポンプ及び試料の供給源(例えば試料を収容するタンクや試料用の注入装置)等の公知の部材によって構成することができる。
【0033】
前記第三及び第四の流路は、前記無端状の流路における任意の前記接続用流路に接続することができ、無端状の流路から移動相を排出することができる流路であれば特に限定されない。前記第三及び第四の流路は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる管、分岐管、及び任意の開度で流路を開閉する弁等の流路開閉装置等、公知の部材によって構成することができる。
【0034】
前記第一から第四の流路の無端状の流路における任意の接続用流路への接続は、通常の
擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で行われているように、全ての接続用流路に第一から第四の全ての流路を接続しておき、第一から第四の流路のうちのいずれかの流路を開き、他の流路を閉じることによって行うことができる。
【0035】
前記無端状の流路における前記第一から第四の流路の接続位置は、目的の物質を主に含有する移動相が第三又は第四の流路から排出される位置であれば特に限定されない。前記第一から第四の流路は、通常は、無端状の流路における移動相の流れ方向において、第一の流路、第三の流路、第二の流路、及び第四の流路の順で無端状の流路における接続用流路に接続される。
【0036】
無端状の流路における第一から第四の流路の接続の間隔は、等間隔であっても良いし、不規則な間隔であっても良い。無端状の流路における第一から第四の流路の接続の間隔は、試料中の目的の物質の種類やカラムの設置数、及び分離剤の種類等の種々の条件に応じて適宜決めることができる。
【0037】
前記レギュレータは、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の圧力が予め設定された圧力になるように第三又は第四の流路を開閉する装置である。レギュレータは、第三及び第四の流路のそれぞれに設けられる。前記レギュレータは、一次側の圧力の変動に関わらず二次側の圧力を設定された所定の圧力に維持することができる装置であれば特に限定されない。前記レギュレータには、一次側の使用圧力が0.5〜20MPaであり、二次側の設定可能圧力が0.05〜3MPaである装置が好ましくは用いられる。前記レギュレータには、例えばスウェージロック(登録商標)社製KCYシリーズ等が挙げられる。
【0038】
前記流量制御装置は、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の開度を調節する流量調節器を有し、流量調節器の下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量が予め設定された流量になるように、前記流量調節器によって第三又は第四の流路の開度を調節する装置である。
【0039】
前記流量制御装置は、流量調節器よりも下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量を直接又は間接的に検出し、その検出結果に応じて流量調節器を制御する装置であれば特に限定されない。
【0040】
流量調節器よりも下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量を直接又は間接的に検出する手段には、例えば流量調節器よりも下流側の第三又は第四の流路の移動相の流量を検出する流量計や、レギュレータと流量調節器との間の第三又は第四の流路の圧力を検出する圧力計等が挙げられる。検出結果に応じて流量調節器を制御する装置には、例えば入力される検出結果の信号に応じて作動量の信号を出力して所望の動作を行わせる公知の制御装置が挙げられる。
【0041】
なお、前記流量計には、管内の液体の流量を検出することができる公知の機器を用いることができる。前記圧力計には、管内の正の圧力を検出することができる公知の機器を用いることができる。
【0042】
前記流量調節器は、第三及び第四の流路のそれぞれに設けられる。流量調節器は、第三又は第四の流路における移動相の流量を所望の流量とするために、第三又は第四の流路の開度を調節することができる機器であれば特に限定されない。前記流量調節器には、例えばバルブの開度を調節して流路における流体の流量を所定の値に保持する流量調節弁や、流体の流路に配置され得る複数のオリフィスを有し、これらのオリフィスの中から所定の流量に対応するオリフィスを選択して流体の流路に配置する回転セレクト方式の流量設定
器等が挙げられる。
【0043】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、バイパス流路と、バイパス流路の開度を調節するバイパス流量調節器とをさらに有していても良い。
【0044】
前記バイパス流路は、前記レギュレータ及び前記流量調節器の間の第三又は第四の流路と流量調節器の下流側の第三又は第四の流路とを接続する流路である。バイパス流路は、前記第三及び第四の流路の一方に設けられていても良いし、両方に設けられていても良い。前記バイパス流路は、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる管や分岐管等の公知の部材によって構成することができる。
【0045】
前記バイパス流量調節器は、バイパス流路に対応して設けられる。バイパス流量調節器は、バイパス流路における移動相の流量を所望の流量とするために、バイパス流路の開度を調節することができる機器であれば特に限定されない。バイパス流量調節器には、例えば前記流量調節弁や、前記回転セレクト方式の流量設定器等が挙げられる。
【0046】
前記バイパス流路と前記バイパス流量調節器とをさらに設ける場合では、別の制御装置を用いてバイパス流路における移動相の流量を調節することが可能である。しかしながら、前記流量制御装置は、第三又は第四の流路とバイパス流路との下流側の接続位置よりも下流側の第三又は第四の流路の移動相の流量が前記設定された流量になるように、前記バイパス流量調節器によってバイパス流路の開度をさらに調節する装置であることが、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の装置の簡素化の観点から好ましい。
【0047】
前記バイパス流路と前記バイパス流量調節器とをさらに用いる移動相の流量の調節では、前記流量調節器によって移動相の流量を大まかに調節し、前記バイパス流量調節器によって移動相の流量を微細に調節することが、第三又は第四の流路における移動相の流量の調節の精度をより高める観点から好ましい。
【0048】
このような移動相の流量の調節としては、例えば前記流量調節器とバイパス流量調節器との両者を常時用いる移動相の流量の調節や、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の操作に応じて両者を使い分ける移動相の流量の調節等が挙げられる。
【0049】
両者を常時用いて移動相の流量を調節する方法としては、例えば移動相の流量の数値における整数の位を流量調節器によって調節し、移動相の流量の数値における小数の位をバイパス流量調節器によって調節する方法が挙げられる。また、両者を使い分けて移動相の流量を調節する方法としては、例えば擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の運転開始時には、第三又は第四の流路における移動相の流量を前記流量調節器によって設定された流量に調節し、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置における目的物を分離する操作のための運転の時には、移動相の流路のある地点(例えば無端状の流路のある地点)の圧力が一定となるように、第三又は第四の流路における移動相の流量をバイパス流量調節器によって調節する方法が挙げられる。移動相の流路におけるある地点の圧力を一定とする移動相の流量の調節は、例えば特公昭60−32482号公報に記載の制御方法等の公知の技術を利用して行うことができる。
【0050】
このような移動相の流量の調節は、バイパス流路に単位時間当たりの移動相の流量が、第三又は第四の流路の単位時間当たりの移動相の流量よりも小さくなる構成、例えば第三又は第四の流路の断面積よりも小さな断面積のバイパス流路や、前記流量調節器よりも精密に移動相の流量を調節することができる高精度のバイパス流量調節器等、によって行うことができる。
【0051】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、前記第三及び第四の流路に対応して第三及び第四の流路の移動相を濃縮する濃縮装置と、濃縮装置で得られる移動相の蒸気の凝縮液の組成を移動相の組成に調整する調整装置とをさらに有し、調整装置で調整された移動相が前記第一の流路に供給されるように構成されていても良い。
【0052】
前記濃縮装置は、移動相中の溶剤を蒸発させ、目的の物質を含有する濃縮液を生成させることができる装置であれば特に限定されない。このような濃縮装置には、例えば擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で用いられることが知られている、直列に接続される複数の蒸発器等が挙げられる。
【0053】
前記調整装置は、濃縮装置から得られた凝縮液の組成に応じて、前記凝縮液に所望の溶剤を適量供給することができる装置であれば特に限定されない。このような調整装置には、例えば米国特許第6325898号明細書において調整装置(regulating device)として示されているような、組成を調整すべき移動相を収容する調整槽と、調整槽に供給された移動相の組成を検出する検出器と、調整槽に供給された移動相に補給すべき溶剤を収容する補給用槽と、検出器の検出結果に応じて補給用槽からの溶剤の補給を制御する補給用制御装置とを有する装置が挙げられる。調整装置における凝縮液の組成は、移動相中の成分に応じて予め作成された検量線を用いて調整することができる。また、前記検出器には、移動相の組成に応じて、例えば近赤外分光分析装置等の適当な装置を用いることができる。
【0054】
調整装置で調整された移動相は、例えば調整された移動相を調整装置から排出するための排出流路を、必要に応じてポンプや弁を介して前記第一の流路に接続することによって前記第一の流路に供給することができる。
【0055】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、前述した以外の他の構成をさらに有していても良い。前記他の構成としては、例えば無端状の流路における移動相の流れの方向を規定する流れ方向規制機器や、調整された移動相を精製する精製装置等が挙げられる。前記流れ方向規制機器には、例えば無端状の流路において一方向への移動相の流れを許容するように設けられる逆止弁やポンプ等が挙げられる。また前記精製装置には、例えば特開平6−239767号公報に示されているような蒸留装置や、活性炭等の吸着剤を収容してなる吸着塔等が挙げられる。
【0056】
さらに、本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置には、各流路や槽における移動相の温度を検出する温度計、槽における移動相の量を検出する液面計、各流路に設けられる弁やポンプ、濃縮装置から留出した成分を冷却して凝縮するコンデンサ等の各種装置や部材を適宜設けることができる。
【0057】
前記目的の物質は特に限定されないが、本発明は、高い純度での目的の物質の分取が望ましい目的の物質の分離、製造に好適に適用することができる。例えば、本発明は、前記試料がラセミ体等の光学異性体の混合物であり、高品質の製品が要求される光学異性体を目的の物質とする場合に好適に用いることができる。
【0058】
目的の物質が光学異性体である場合では、前記カラムに収容される分離剤は、光学異性体を分離することができる分離剤であれば特に限定されないが、光学異性体を分離することができる多糖又は多糖誘導体であることが好ましい。
【0059】
前記多糖は、光学活性な多糖であれば特に限定されず、合成多糖、天然多糖、及び天然物変性多糖のいずれかであっても良い。前記多糖は、結合様式の規則性の高い多糖であることが好ましく、また鎖状の多糖が好ましい。前記多糖としては、種々の多糖を例示する
ことができるが、セルロースやアミロースが特に好ましい。
【0060】
前記多糖誘導体は、前記多糖と、目的の物質である光学異性体の分離に有利に作用する官能基とを有する化合物であれば特に限定されない。前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、セルロールのカルバメート誘導体、アミロースのエステル誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体から選ばれるいずれかであることが好ましい。前記多糖誘導体としては、例えば国際公開95/23125号パンフレットに記載されている種々の多糖誘導体が挙げられる。
【0061】
前記分離剤は、分離剤そのものがカラム管に収容されても良いし、適当な担体に担持された状態でカラム管に収容されても良い。分離剤は、例えば、粒子状に形成され、又はシリカ等の粒子状の担体に担持され、又はカラム管に収容される一体成型体に形成され、又はシリカロッド等の多孔質の一体成型体に担持されて用いられる。これらの形態の分離剤の生成や担体への分離剤の担持は、物理的な吸着による担持や、担体と分離剤とを直接又は間接的に化学的に結合させることによる担持等の公知の技術を利用して行うことが可能である。
【0062】
前記試料は、前記目的の物質を含有する組成物の溶液であれば特に限定されない。試料用の溶剤は、移動相であることが好ましいが、他の有機溶剤等の他の溶剤を用いても良い。
【0063】
前記移動相は、前記分離剤の種類や、前記目的の物質の種類等の諸条件に応じて適宜選択される。前記移動相には、例えば有機溶剤や、水、及びこれらの混合液等の、擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置で通常用いられる溶剤を用いることができる。
【0064】
前記有機溶剤としては、例えばエタノールアミンやメタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等の低級アルコール、ノルマルヘキサン等の低極性の溶剤、アセトニトリル、酢酸エチル等の極性溶剤、及びこれらを混合した混合溶剤、酢酸等の酸性の溶剤、ジエチルアミン等の塩基性の溶剤等が挙げられる。
【0065】
前記混合溶剤の混合比は特に限定されないが、目的の物質の溶出時間の適正化や良好な分離を行う観点からは、第一の溶剤と前記第二の溶剤との体積比(第一の溶剤:第二の溶剤)が10:90〜50:50であることが好ましい。また前記酸性の溶剤や塩基性の溶剤の含有量は、目的の物質の安定化や分離剤に対する悪影響の抑制の観点から、移動相全体に対して0.01〜0.5体積%であることが好ましく、0.01〜0.2体積%であることがより好ましい。
【0066】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明する。
【0067】
<第一の実施の形態>
本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、図1に示されるように、四本のカラム1a〜1dが直列に接続されて形成されている無端状の流路2と、無端状の流路2に接続され移動相を供給するための第一の流路3と、無端状の流路2に接続され試料を供給するための第二の流路4と、無端状の流路2に接続され無端状の流路2から移動相を排出するための第三及び第四の流路5及び6と、第三の流路5において第三の流路5の移動相を濃縮するために直列に接続される三台の蒸発器7a〜7cと、蒸発器7cの缶出液を収容する貯留槽8と、第四の流路6において第四の流路6の移動相を濃縮するために直列に接続される三台の蒸発器9a〜9cと、蒸発器9cの缶出液を収容する貯留槽10と、蒸発器7a〜7c、9a〜9cのそれぞれの頂部に接続され各蒸発器からの留出成分を収容する回収槽11と、回収槽11に収容された凝縮液の成分の組成比を調整して移
動相を再生する調整装置12と、調整装置12と第一の流路3とを接続する移動相供給流路13とを有する。
【0068】
無端状の流路2は、図2に示されるように、四本のカラム1a〜1dと、カラム1a〜1dを直列に接続する接続用流路2a〜2dとによって形成されている。接続用流路2aには、無端状の流路2における流体を図2中の矢印X方向に流すための循環ポンプ2eが設けられている。
【0069】
第一の流路3は、主管3aと、主管3aと接続用流路2a〜2dのそれぞれとを接続する分岐管3bと、分岐管3bのそれぞれの枝管を開閉するための四つの弁3cとを有する。主管3aには、無端状の流路2に向けて移動相を供給するための定量ポンプである移動相ポンプ3dが設けられている。
【0070】
第二の流路4も、第一の流路3と同様に、主管4aと、主管4aと接続用流路2a〜2dのそれぞれとを接続する分岐管4bと、分岐管4bのそれぞれの枝管を開閉するための四つの弁4cとを有し、主管4aには、無端状の流路2に向けて試料を供給するための定量ポンプである原液ポンプ4dが設けられている。
【0071】
第三の流路5も、主管5aと、接続用流路2a〜2dのそれぞれと主管5aとを接続する分岐管5bと、分岐管5bのそれぞれの枝管を開閉するための四つの弁5cとを有する。無端状の流路2側を上流側としたときに、主管5aには、レギューレータ5dと、レギュレータ5dの下流側の主管5aを開閉するための流量調節器としての流量コントロール弁5eとが設けられている。
【0072】
第四の流路6も、第三の流路5と同様に、主管6aと、接続用流路2a〜2dのそれぞれと主管6aとを接続する分岐管6bと、分岐管6bのそれぞれの枝管を開閉するための四つの弁6cとを有する。主管6aにも、主管5aと同様に、レギューレータ6dと、レギュレータ6dの下流側の主管6aを開閉するための流量調節器としての流量コントロール弁6eとが設けられている。
【0073】
レギュレータ5d、6dには、例えばスウェージロック(登録商標)社製のKCYシリーズの二段式レギュレータを使用することができる。このレギュレータは、レギュレータ本体を貫通する流路と、第一の設定圧力に応じてレギュレータ内の流路を連通遮断する第一の圧力調整部と、第一の圧力調整部の下流側に設けられ、第二の設定圧力に応じてレギュレータ内の流路を連通遮断する第二の圧力調整部とを有する。第一及び第二の圧力調整部は、レギュレータ内の流路を連通遮断自在に作動するダイヤフラムと、レギュレータの本体に螺合し前記ダイヤフラムに対して進出退行するネジと、一端が前記ネジの先端に当接するとともに他端が前記ダイヤフラムに当接し、前記レギュレータ内の流路をダイヤフラムが遮断する方向にダイヤフラムを付勢する圧力調整スプリングとを有する。
【0074】
流量コントロール弁5e、6eよりも下流側の主管5a、6aには、不図示の流量計が設けられている。また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置には、弁3c〜6cの開閉と、流量コントロール弁5e、6eの開閉と、移動相ポンプ3d及び原液ポンプ4dの運転とを制御する不図示の制御装置が設けられている。流量コントロール弁5e、6eの開閉は、前記流量計の検出値と予め設定されている主管5a、6aにおける移動相の流量の設定値とに応じて前記制御装置によって制御される。移動相ポンプ3d及び原液ポンプ4dの運転は、第三の流路5及び第四の流路6における移動相の流量と、第一の流路3及び第二の流路4における移動相及び試料の流量との関係に応じて前記制御装置によって制御される。
【0075】
レギュレータ5d、6dでは、前記ネジの前記ダイヤフラムに向けての進出長さによって、レギュレータ5d、6dよりも下流側の主管5a、6aの圧力が例えば0.5〜2MPaとなるように、前記第一及び第二の圧力調整部において適当な第一及び第二の設定圧力が設定されている。
【0076】
また、カラム1〜4には、シリカ粒子とこのシリカ粒子に担持されているアミロースのカルバメート誘導体等の多糖誘導体とからなる粒子状の充填剤が充填されているものとする。また、前記試料は、光学異性体のラセミ体の溶液であるものとする。また、目的の物質は、医薬に用いられる光学異性体とする。また、移動相は、メタノールとアセトニトリルとこれらに対して微量のアミンとを含有する混合溶剤とする。なお弁3c〜6cは全て閉じられているものとする。
【0077】
接続用流路2bに対する弁3cが開くと、第一の流路3から無端状の流路2へ移動相が定量的に供給される。また接続用流路2dに対する弁4cが開くと、第二の流路4から無端状の流路2へ液状の試料が定量的に供給される。無端状の流路2では、供給された移動相や試料が、循環ポンプ2eによって矢印X方向に向けて送られる。
【0078】
接続用流路2cに対する弁5cが開くと、無端状の流路2から移動相が第三の流路5へ排出される。また接続用流路2aに対する弁6cが開くと、無端状の流路2から移動相が第四の流路6へ排出される。
【0079】
無端状の流路2に供給された試料は、カラム1bの分離剤に対して吸着及び脱着を繰り返しながら、移動相の流れる方向に沿って徐々にカラム1b内を移動する。分離剤に対して、試料中のより吸着されやすい成分(エクストラクト)はカラム1b内をより遅く移動し、試料中のより吸着されにくい成分(ラフィネート)はカラム1b内をより早く移動する。
【0080】
エクストラクト及びラフィネートがカラム1bを通過したら、無端状の流路2に対する各流路の相対的な接続位置の位置関係を保ったまま、無端状の流路2に対する各流路の接続位置を、無端状の流路2における移動相の流れ方向において、カラム一本分下流側に切り替える。
【0081】
すなわち、第一の流路3については、接続用流路2bに対する弁3cを閉じ、接続用流路2cに対する弁3cを開く。また第二の流路4については、接続用流路2dに対する弁3cを閉じ、接続用流路2aに対する弁3cを開く。また第三の流路5については、接続用流路2cに対する弁3cを閉じ、接続用流路2dに対する弁3cを開く。また第四の流路6については、接続用流路2aに対する弁3cを閉じ、接続用流路2bに対する弁3cを開く。
【0082】
エクストラクト及びラフィネートがカラム1bを通過する時間を1ピリオドとしたときに、1ピリオドごとに上記のような流路の切り替えを行う。エクストラクト及びラフィネートがカラム1bを通過する時間は、例えば接続用流路2cから移動相を採取して分析することによって求めても良いし、またコンピュータによる模擬実験から算出しても良い。
【0083】
数ピリオドが経過すると、無端状の流路2において、第二の流路4の接続位置よりも下流側の無端状の流路2では、ラフィネートが偏在しかつ濃縮され、第二の流路4の接続位置よりも上流側の無端状の流路2では、エクストラクトが偏在しかつ濃縮された状態となる。そして、第三の流路5には、エクストラクトを含有する移動相が排出され始め、第四の流路6には、ラフィネートを含有する移動相が排出され始める。
【0084】
無端状の流路2において、各流路の切り替えをピリオドごとにさらに継続することにより、無端状の流路2へ試料が定量的に連続して供給され、また製品となるエクストラクト又はラフィネートが無端状の流路2から定量的に連続して排出される。
【0085】
第三の流路5において、レギュレータ5dは、レギュレータ5dよりも下流側の第三の流路5の圧力として設定されている圧力に応じて第三の流路5を開閉する。レギュレータ5dと流量コントロール弁5eとの間の主管5aにおける圧力が前記設定されている圧力よりも高い場合では、レギュレータ内の流路は閉じられ、レギュレータ5dと流量コントロール弁5eとの間の主管5aにおける圧力が前記設定されている圧力よりも低い場合では、レギュレータ内の流路が開かれる。このように、レギュレータ5dの開閉は、レギュレータ5dよりも下流側の圧力のみによって行われることから、無端状の流路2における脈動等による圧力の変動に関係なく、レギュレータ5dと流量コントロール弁5eとの間の主管5aにおける圧力は、前記設定されている圧力に一定に調整される。
【0086】
レギュレータ5dと流量コントロール弁5eとの間の主管5aにおける圧力が前記設定されている圧力に一定に調整されていることから、流量コントロール弁5eよりも下流側の第三の流路5には、流量コントロール弁5eの開度に応じた所定の流路の移動相が供給される。流量コントロール弁5eよりも下流側の第三の流路5の移動相の流量は前記流量計によって検出される。流量計による検出値は前記制御装置に入力される。前記制御装置は、入力される検出値と予め記憶している設定値とに応じて流量コントロール弁5eの開度を調節する。このようにして、流量コントロール弁5eよりも下流側の第三の流路5の移動相の流量は、設定された流量に制御される。
【0087】
同様に、第四の流路6において、レギュレータ6dは、レギュレータ6dよりも下流側の第四の流路6の圧力として設定されている圧力に応じて、第四の流路6を開閉する。レギュレータ6dと流量コントロール弁6eとの間の主管6aにおける圧力が第二の設定圧力よりも高い場合では、レギュレータ内の流路は閉じられ、レギュレータ6dと流量コントロール弁6eとの間の主管6aにおける圧力が前記設定されている圧力よりも低い場合では、レギュレータ内の流路が開かれる。このように、レギュレータ6dの開閉は、レギュレータ6dよりも下流側の圧力のみによって行われることから、無端状の流路2における脈動等による圧力の変動に関係なくレギュレータ6dと流量コントロール弁6eとの間の主管6aにおける圧力は、前記設定されている圧力に一定に調整される。
【0088】
レギュレータ6dと流量コントロール弁6eとの間の主管6aにおける圧力が前記設定されている圧力に一定に調整されていることから、流量コントロール弁6eよりも下流側の第四の流路6には、流量コントロール弁6eの開度に応じた所定の流路の移動相が供給される。流量コントロール弁6eよりも下流側の第四の流路6の移動相の流量は前記流量計によって検出される。流量計による検出値は前記制御装置に入力される。前記制御装置は、入力される検出値と予め記憶している設定値とに応じて流量コントロール弁6eの開度を調節する。このようにして、流量コントロール弁6eよりも下流側の第四の流路6の移動相の流量は、設定された流量に制御される。
【0089】
第三の流路5に排出された移動相は、蒸発器7aから7cに順次送られ、段階的に濃縮される。蒸発器7cの缶出液は、高濃度のエクストラクトを含有する移動相の濃縮液となっており、貯留槽8に収容される。
【0090】
同様に、第四の流路6に排出された移動相は、蒸発器9aから9cに順次送られ、段階的に濃縮される。蒸発器9cの缶出液は、高濃度のラフィネートを含有する移動相の濃縮液となっており、貯留槽10に収容される。
【0091】
蒸発器7a〜7c及び蒸発器9a〜9cの塔頂から留出した成分は、凝縮液として回収槽11に収容される。回収槽11に収容された凝縮液は調整装置12に供給される。調整装置12では、供給された凝縮液中の成分が定量的に検出され、凝縮液の組成が移動相の組成と同じになるように、適当な溶剤が必要に応じて凝縮液に供給される。組成が調整された凝縮液は、移動相供給流路13を介して第一の流路3に供給され、移動相として再利用される。
【0092】
本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、カラム1a〜1dと接続用流路2a〜2dとによって形成されている無端状の流路2と、第一から第四の流路3〜6と、レギュレータ5d、6dと、流量コントロール弁5e、6eと、前記流量計と、前記制御装置とを有することから、無端状の流路2から第三及び第四の流路5、6に排出される移動相の流量を、定量ポンプを用いずに制御することができる。したがって、第三及び第四の流路5、6における移動相の流量を制御するにあたり、定量ポンプの設置や消耗を要しないことから、従来の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置に比べて、簡易な構成で、優れた耐久性を実現し、またイニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。
【0093】
また、本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、蒸発器7a〜7c及び9a〜9cと、回収槽11と、調整装置12と、移動相供給流路13とをさらに有することから、無端状の流路2から排出された移動相を、新たな光学分割の移動相に再利用することができる。したがって、移動相を使い捨てる場合に比べて、移動相に用いられる溶剤の使用量や溶剤にかかるコストをさらに削減することができる。
【0094】
また、本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、さらに、カラム1a〜1dがアミロースのカルバメート誘導体を担持するシリカ粒子を分離剤が充填されたカラムであることから、光学異性体を明確かつ迅速に分離することができる。したがって、医薬等に用いられる光学異性体を高い生産性で製造することができる。
【0095】
また、本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、調整装置12をさらに有することから、前記アミンのような微量の溶剤を含有する移動相を用いることができる。したがって、光学異性体の性質や種類によっては、光学異性体をより安定化させて光学異性体をより明確に分離することができ、光学異性体をより一層高い生産性で製造することができ、またより工程管理が厳格な製品であっても高い生産性で製造することができる。
【0096】
<第二の実施の形態>
本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、図3に示されるように、第一の実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置に対して、バイパス管5f及び6fとバイパス流量コントロール弁5g及び6gとをさらに有する。
【0097】
バイパス管5fは、レギュレータ5dと流量コントロール弁5eとの間の主管5aと、流量コントロール弁5eよりも下流側の主管5aとを接続する管であり、本発明におけるバイパス流路である。バイパス流量コントロール弁5gは、バイパス管5fを開閉する弁であり、本発明におけるバイパス流量調節器である。バイパス流量コントロール弁5gは、例えば流量コントロール弁5eに比べてより精密に開度を調節することができる弁とされている。このような流量コントロール弁5eとバイパス流量コントロール弁5gとの組み合わせには、例えばボール弁とニードル弁との組み合わせ等が挙げられる。
【0098】
また、バイパス管6fは、レギュレータ6dと流量コントロール弁6eとの間の主管6aと、流量コントロール弁6eよりも下流側の主管6aとを接続する管であり、本発明に
おけるバイパス流路である。バイパス流量コントロール弁6gは、バイパス管6fを開閉する弁であり、本発明におけるバイパス流量調節器である。バイパス流量コントロール弁6gは、流量コントロール弁6eに比べてより精密に開度を調節することができる弁とされている。このような流量コントロール弁6eとバイパス流量コントロール弁6gとの組み合わせには、例えばボール弁とニードル弁との組み合わせ等が挙げられる。
【0099】
なお、前記流量計の設置位置は、流量コントロール弁5e、6eよりも下流側で、バイパス管5d、6dと主管5a、6aとの接続位置よりもさらに下流側の主管5a、6aとされている。また、前記制御装置は、バイパス流量コントロール弁5g、6gにも接続されており、前記流量計による検出値と設定値とに基づいてバイパス流量コントロール弁5g、6gの開閉を制御する装置とされている。
【0100】
レギュレータ5dによって前記設定されている圧力に調整された移動相は、レギュレータ5dよりも下流側の主管5aとバイパス管5fとに供給される。したがって、流量コントロール弁5eよりも下流側の第三の流路5には、流量コントロール弁5e及びバイパス流量コントロール弁5gの開度に応じた所定の流路の移動相が供給される。同様に、レギュレータ6dによって前記設定されている圧力に調整された移動相は、レギュレータ6dよりも下流側の主管6aとバイパス管6fとに供給される。したがって、流量コントロール弁6eよりも下流側の第四の流路6には、流量コントロール弁6e及びバイパス流量コントロール弁6gの開度に応じた所定の流路の移動相が供給される。
【0101】
前記制御装置は、例えば第三の流路5における移動相を設定値となるように制御する際に、移動相の流量の整数の位は流量コントロール弁5eの開閉によって制御し、移動相の流量の小数点第一位以下は弁5fの開閉によって制御する。同様に、前記制御装置は、例えば第四の流路6における移動相を設定値となるように制御する際に、移動相の流量の整数の位は流量コントロール弁6eの開閉によって制御し、移動相の流量の小数点第一位以下は弁6fの開閉によって制御する。このようにして、第三及び第四の流路5、6における移動相の流量がより一層精密に制御される。
【0102】
本実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置は、第一の実施の形態における効果に加えて、第三及び第四の流路5、6における移動相の流量をより一層精密に制御することができるというさらなる効果を奏する。したがって、より厳格な分離条件の試料の分離や、より厳格な工程管理を要する製品の製造を行う観点からより一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の全体の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の無端状の流路2周辺の構成を示す図である。
【図3】本発明の他の実施の形態における擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の無端状の流路2周辺の構成を示す図である。
【図4】従来の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置の無端状の流路2周辺の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
1a〜1d カラム
2 無端状の流路
2a〜2d 接続用流路
2e 循環ポンプ
3 第一の流路
3a〜6a 主管
3b〜6b 分岐管
3c〜6c 弁
3d 移動相ポンプ
4 第二の流路
4d 原液ポンプ
5 第三の流路
5d、6d レギューレータ
5e、6e 流量コントロール弁
5f、6f バイパス管
5g、6g バイパス流量コントロール弁
6 第四の流路
7a〜7c、9a〜9c 蒸発器
8、10 貯留槽
11 回収槽
12 調整装置
13 移動相供給流路
51、61 製品ポンプ
X 無端状流路2に供給された液体が流れる向きを示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の物質を含有する試料中の目的の物質を分離するための複数のカラムと、カラムを直列に接続する接続用流路とによって形成されている無端状の流路と、
無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路に移動相を供給するための第一の流路と、
無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路に試料を供給するための第二の流路と、
無端状の流路における任意の接続用流路に接続することができ、無端状の流路から移動相を排出するための第三及び第四の流路とを有し、
目的の物質を含有する移動相を第三及び第四の流路のいずれか一方又は両方を介して無端状の流路から排出して目的の物質を得るための擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置において、
第三及び第四の流路において無端状の流路側を上流側としたときに、第三及び第四の流路のそれぞれに、第三又は第四の流路の圧力を調整するためのレギュレータと、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量を制御するための流量制御装置とをさらに有し、
前記レギュレータは、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の圧力が予め設定された圧力になるように第三又は第四の流路を開閉する装置であり、
前記流量制御装置は、レギュレータの下流側の第三又は第四の流路の開度を調節する流量調節器を有し、流量調節器の下流側の第三又は第四の流路における移動相の流量が予め設定された流量になるように、前記流量調節器によって第三又は第四の流路の開度を調節する装置であることを特徴とする擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置。
【請求項2】
前記第三及び第四の流路の一方又は両方に、前記レギュレータ及び前記流量調節器の間の第三又は第四の流路と流量調節器の下流側の第三又は第四の流路とを接続するバイパス流路と、バイパス流路の開度を調節するバイパス流量調節器とをさらに有し、
前記流量制御装置は、第三又は第四の流路とバイパス流路との下流側の接続位置よりも下流側の第三又は第四の流路の移動相の流量が前記設定された流量になるように、前記バイパス流量調節器によってバイパス流路の開度をさらに調節する装置であることを特徴とする請求項1記載の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置。
【請求項3】
前記第三及び第四の流路に対応して第三及び第四の流路の移動相を濃縮する濃縮装置と、濃縮装置で得られる移動相の蒸気の凝縮液の組成を移動相の組成に調整する調整装置とをさらに有し、調整装置で調整された移動相が前記第一の流路に供給されることを特徴とする請求項1又は2に記載の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置。
【請求項4】
前記目的の物質は光学異性体であり、前記カラムは、光学異性体の混合物から光学異性体を分離する多糖誘導体を含有する分離剤を有するカラムであり、前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、アミロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体の群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の擬似移動床式クロマトグラフィー分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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