攪拌装置及び攪拌翼ユニット
【課題】必要に応じて流動体内における攪拌翼の位置を移動させることが可能な攪拌装置及びこの攪拌装置に用いられる攪拌翼ユニットを提供する。
【解決手段】流動体の攪拌装置3において駆動部は回転軸363を回転させ、攪拌翼362は前記回転軸363に螺合された状態で流動体を攪拌する。螺条部364は前記回転軸363に形成され、当該回転軸363を正転させたときに攪拌翼362を流動体の抵抗によって回転軸363に対して相対的に回転させることにより、当該攪拌翼362を回転軸363の長さ方向に沿って規制位置まで案内する。
【解決手段】流動体の攪拌装置3において駆動部は回転軸363を回転させ、攪拌翼362は前記回転軸363に螺合された状態で流動体を攪拌する。螺条部364は前記回転軸363に形成され、当該回転軸363を正転させたときに攪拌翼362を流動体の抵抗によって回転軸363に対して相対的に回転させることにより、当該攪拌翼362を回転軸363の長さ方向に沿って規制位置まで案内する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の液体や、液体と粉体など流動体を攪拌混合するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、攪拌槽内にて2種類の液体を混合して混合液体を得たり、またセメントと水などのように粉体と液体とを混合してスラリーを得たりする場合には攪拌装置が用いられる。攪拌装置は回転軸周りに回転する攪拌翼を備えており、この攪拌翼を攪拌槽内に挿入して回転させ、混合対象の流動体をかき混ぜることにより、2種類の流動体の混合を促進する。
【0003】
攪拌装置に取り付けられる攪拌翼としては種々のものが知られているが、例えば特許文献1や特許文献2に示すように、攪拌槽内の上下方向に攪拌翼を多段に設け、共通の回転軸にてこれらの攪拌翼を回転させるように構成された攪拌装置がある。上下方向に配置された複数段の攪拌翼を用いることにより、攪拌槽内の流動体の乱れが大きくなる結果、流動体の混合を促進して滞留部の発生を抑制すると共に、短時間の攪拌で均一な混合流動体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−71396号公報:0013段落〜0014段落、0022段落、図1、図3
【特許文献2】特開平7−155579号公報:0008段落、0010段落、図1、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載された攪拌翼によれば、効率的な攪拌操作を行うことができる一方で、例えば攪拌操作を行いながら攪拌槽の上部側から混合対象の流動体を供給する場合などには以下に記す問題点がある。
【0006】
液体放射性廃棄物(以下、単に放射性廃棄物という)の処理を例に挙げると、放射性廃棄物はドラム缶などからなる攪拌槽内に投入され、セメントと混合されて固化された後、ドラム缶ごと埋設処分場などへと送られる。上述の処理においては、ドラム缶内に予め処理対象の放射性廃棄物を受け入れておき、攪拌翼にて攪拌を行いながらドラム缶の上面に設けられた開口部からセメントを投入し、これら放射性廃棄物とセメントとの攪拌混合(以下、混練という)を行う場合がある。
【0007】
このように攪拌翼による混練を行いながらセメントの投入を行う攪拌装置において、特許文献1や特許文献2に記載の技術の如く攪拌翼を上下方向に多段に設けると、ドラム缶内の液レベルが上段側の攪拌翼に達していない期間中においても、上段側の攪拌翼は下段側の攪拌翼と共に回転することになる。
【0008】
このように、いわば空回りしている攪拌翼の上方側から粉体状のセメントを供給すると、回転する攪拌翼とセメントの落下軌道とが交差して、セメントがドラム缶内に勢いよく撒き散らされて放射性廃棄物への着液時に液跳ねを引き起こしたり、セメントの巻き上げを発生させたりしてしまう。そして液跳ねにより形成されたミストが再度上段側の攪拌翼に到達し、さらにこのミストが巻き上げられると、放射性のミストがドラム缶の外へと流出して外部の空間を汚染してしまうおそれもある。
【0009】
また多段化された攪拌翼は、上下方向に広がるように回転軸に固定されるので、例えば狭隘な空間内への取り付けが困難な場合もある。また多段の攪拌翼は異なる高さ位置に配置されることから、メンテナンス時には異なる高さ位置に設けられた攪拌翼の各々にアクセスしなければならず、大型の攪拌装置の場合、それぞれの高さ位置に足場を準備する必要などが生じてメンテナンス性も良くない。
【0010】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、攪拌するために投入される流動体との交差を回避したり、メンテナンス性を高めたりするなど必要に応じて流動体内における攪拌翼の位置を移動させることが可能な攪拌装置及びこの攪拌装置に用いられる攪拌翼ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る攪拌装置は、流動体を攪拌する装置において、
回転軸と、
この回転軸を回転させる駆動部と、
前記回転軸に螺合され、流動体を攪拌するための攪拌翼と、
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内される螺条部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
さらに前記攪拌装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記攪拌翼が規制位置に置かれている状態で回転軸を正転させることにより当該攪拌翼が回転軸と共に回転すること。
(b)前記規制位置は、回転軸に設けられた位置規制部により攪拌翼の移動が規制される位置であること。
(c)前記回転軸は上下方向に伸びるように設けられ、
前記規制位置は、前記攪拌翼の一部が流動体の上面から露出することにより、前記攪拌翼に働く力が釣り合って攪拌翼の移動が規制される位置であること。
【0013】
(d)前記回転軸には、前記攪拌翼以外に他の攪拌翼が設けられていること。
(e)前記他の攪拌翼は回転軸に固定されていること。
(f)前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って案内される、前記螺条部とは異なる他の螺条部と、
前記回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼における回転軸の長さ方向の移動を規制するために、前記回転軸の長さ方向において前記規制位置とは異なる位置に設けられた位置規制部と、を備えたこと。
(g)前記螺条部の形成領域と他の螺条部の形成領域とは、回転軸の長さ方向において互いに重複していること。
【0014】
また他の発明に係る攪拌翼ユニットは、上述のいずれかの攪拌装置の発明に記載された、回転軸及び攪拌翼からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、攪拌装置の回転軸に形成された螺条部により、この回転軸に設けられた攪拌翼を流動体の抵抗によって回転軸に対して相対的に回転させ、当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内することができる。この結果、例えば流動体の上面位置の上昇に合わせて攪拌翼を上昇させ、当該攪拌翼を流動体内に沈めた状態で、当該流動体の上面近傍の位置を攪拌したり、またメンテナンス作業しにくい位置にて攪拌動作を行う攪拌翼について、メンテナンス時には作業し易い位置まで攪拌翼を移動させたりするなど、必要に応じて流動体内における攪拌翼の位置を移動させることが可能となり、流動体の攪拌性能や攪拌翼のメンテナンス性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る放射性廃棄物処理設備の縦断側面図である。
【図2】前記放射性廃棄物処理設備内に設けられている混練装置の側面図である。
【図3】前記混練装置に攪拌ユニットが取り付けられている状態を示す斜視図である。
【図4】前記攪拌翼ユニットの外観構成を示す側面図である。
【図5】前記攪拌翼ユニットに設けられた攪拌翼の昇降機構の構成を示す一部破断斜視図である。
【図6】前記攪拌翼の昇降機構の構成を示す横断平面図である。
【図7】前記放射性廃棄物処理設備の作用を示す第1の説明図である。
【図8】前記放射性廃棄物処理設備の作用を示す第2の説明図である。
【図9】混練動作実行中のドラム缶内の状態を示す一部破断斜視図である。
【図10】前記攪拌翼ユニットの作用を示す説明図である。
【図11】回転軸に沿って昇降する攪拌翼の動作を示す第1の説明図である。
【図12】前記攪拌翼の動作を示す第2の説明図である。
【図13】攪拌翼の昇降機構の変形例を示す一部破断斜視図である。
【図14】第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図15】第3の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図16】第4の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの外観構成を示す側面図である。
【図17】第5の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図18】第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図19】前記第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの他の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る攪拌装置及び攪拌翼ユニットを、液体放射性廃棄物(放射性廃棄物)の処理設備(放射性廃棄物処理設備)に適用した実施の形態について説明する。図1に示した本実施の形態に係る放射性廃棄物処理設備(以下、処理設備という)は、ドラム缶内で放射性廃棄物とセメントとの混練を行うインドラム方式の処理設備として構成されている。
【0018】
図1〜図3を参照しながら本実施の形態に係る処理設備1の構成について説明すると、図1の縦断側面図に模式的に示すように処理設備1は、例えばコンクリート製の建屋を隔壁13にて例えば2つの区画に分割し、一方側の区画を低線量の放射性管理区域であるルーム11、他方側の区画を高線量の放射性管理区域であるセル12に設定している。
【0019】
低線量の放射性管理区域であるルーム11は、作業従事者が立ち入り可能な区域であり、放射性廃棄物とセメントとの混練(攪拌混合)が行われるドラム缶7の準備や、処理を終えたドラム缶7を処理設備1外へと搬出する作業などが行われる。隔壁13には、搬入出口141が設けられていてドラム缶7はこの搬入出口141を介してルーム11とセル12との間を搬送される。搬入出口141は、ドラム缶7の搬入出時以外などには、開閉扉14にて閉じられ、ルーム11からセル12を隔離することができるようになっている。
【0020】
ドラム缶7は例えば無人搬送車などから構成される搬送装置2によって搬送される。搬送装置2は載置台21を備えており、ドラム缶7はこの載置台21上に載置された状態で搬送されると共に、この載置台21は上下方向に昇降自在に構成されていてドラム缶7を保持する高さ位置を調節することができる。搬送装置2は例えば不図示の管制室からの遠隔操作に基づいて移動する構成としてもよいし、また例えば自動制御などにより、例えば不図示のレール上を走行しながら予め設定された場所を所定のタイミングで移動する構成としてもよい。
【0021】
セル12は、ドラム缶7に放射性廃棄物を充填して固化する廃棄物処理が行われる区域であり、放射性廃棄物をドラム缶7に供給する廃棄物貯槽6と、ドラム缶7に例えばセメントなどの固化材を供給するセメントホッパー4と、放射性廃棄物とセメントとの混練を行う混練装置3と、混練動作が行われているドラム缶7に硬化剤などを供給する薬液タンク5と、が設けられている。
【0022】
廃棄物貯槽6は、処理設備1の外部に設けられた排出区域から受け入れた放射性廃棄物をドラム缶7に投入する役割を果たす。廃棄物貯槽6は、例えば蒸発機能を備えていてもよく、この場合には、外部から受け入れた放射性廃棄物は水分を蒸発させて濃縮された後、ドラム缶7へと投入される。
【0023】
図1に示した廃棄物貯槽6は、前記の蒸発機能を備えた例を示しており、例えば不図示の加熱機構を備えたホッパー形状のタンクとして構成されている。廃棄物貯槽6の上面には例えば放射性廃棄物を受け入れる廃棄物受け入れライン62と、蒸発させた蒸気を排出する排出ライン63とが設けられている。本例ではこれら廃棄物受け入れライン62や排出ライン63はルーム11及びセル12から隔離された配管室15内に設けられている。
【0024】
廃棄物貯槽6を成すホッパーの下端には、廃棄物貯槽6の下方位置まで搬送されてきたドラム缶7に放射性廃棄物を投入するための払出部61が設けられている。払出部61は廃棄物貯槽6の下端から下方側へ向けて伸びる円筒形状の部材として構成され、この払出部61がドラム缶7の開口部内に挿入された状態にて廃棄物貯槽6からの放射性廃棄物の払い出しが行われる。払出部61が円筒形状に構成されていることにより、ドラム缶7に投入される放射性廃棄物が周囲に飛び散ることを防ぎセル12内を汚染せずに投入操作を行うことができる。ここで払出部61に設けられた64は蓋部材である。
【0025】
セメントホッパー4は固化材、例えば放射性廃棄物中の水分と反応して固化するセメント粉を貯蔵するホッパーであり、セメントホッパー4の下端に設けられたセメント供給ライン41を介してドラム缶7にセメントを投入する役割を果たしている。セメント供給ライン41は混練時にドラム缶7の開口部を覆う蓋部材34に接続されていて、ドラム缶7の上方側からセメントを投入することができる。
薬液タンク5には放射性廃棄物とセメントとの混練物の硬化を促進する硬化剤などが貯留されており、蓋部材34に接続された薬液供給ライン51を介してドラム缶7に硬化剤などを供給することができるようになっている。
【0026】
混練装置3は本実施の形態の攪拌装置に相当し、ドラム缶7に投入された放射性廃棄物とセメントとを混練する役割を果たす。図1、図2に模式的に示すように混練装置3は、混練を実行する攪拌翼ユニット36と、この攪拌翼ユニット36の第1、第2の攪拌翼361、362を軸周りに回転させる駆動軸33とを備えている。
【0027】
図2に示すように混練装置3は、ボールネジ機構に接続された支持台37上に固定されており、垂直方向に配置したボールネジ383を、モーター381によって正転、逆転させることにより支持台37を昇降させて、これにより混練装置3全体を上下に移動させることができる。図中、382は処理設備1の側壁121面にてボールネジ383を保持する保持部材である。
【0028】
図1〜図3に示すように、モーター31の下方位置には、混練動作時にドラム缶7の開口部を覆う蓋部材34が設けられている。図2、図3に示すように蓋部材34は支持部材341を介して例えば処理設備1の側壁121に固定されており、図1、図3に示すように既述のセメント供給ライン41及び薬液供給ライン51はこの蓋部材34を貫通してドラム缶7の配置される空間に向けて開口している。
【0029】
さらに図2、図3に示すように蓋部材34には貫通孔342が設けられており、この貫通孔342には混練装置3の駆動軸33が貫通している。この駆動軸33は貫通孔342内を上下に自由に移動することが可能であり、既述の支持台37の上下移動に合わせて駆動軸33が貫通孔342内を上下に移動する構成となっている。このほか、図3に示す343は混練時にドラム缶7内の雰囲気を排気する排気ラインである。なお、便宜上、図1や図2などの模式図では排気ライン343の記載は省略してあり、また図2ではセメント供給ライン41、薬液供給ライン51の記載は省略してある。
【0030】
図1、図3に示す35は、廃棄物貯槽6における濃縮操作の際に加熱された放射性廃棄物を冷却するための冷却機構である。冷却機構35は例えばドラム缶7の側壁面を外側から覆うことが可能な内曲面を備え、左右2つに分割された半円筒形状の板状部材として構成されている。各冷却機構35の内部には、例えば冷却水などの冷媒を通流させる不図示の冷媒流路が形成されており、ドラム缶7の側壁との接触面を介して冷媒に熱を吸収させることができる。図3に示した351は冷却機構35に冷媒を供給する冷媒供給ラインであり、352は冷却機構35から冷媒を排出する冷媒排出ラインである。
【0031】
また冷却機構35は不図示の移動機構によって左右横方向及び上下方向に移動することができるようになっており、例えば図3に示すようにドラム缶7が搬入される領域から左右外側に退避した待機位置と、図9に示すように混練装置3の下方側に搬入されたドラム缶7の側壁の周囲を覆い、ドラム缶7の冷却処理を実行する処理位置との間を移動させることが可能となっている。
なお、冷却機構は保温機構または加温機構であってもよい。これらの機構を利用することにより混練前に廃液が冷えてしまった場合、または所定の混練温度より廃液の温度が下がってしまった場合に、廃液中に塩が析出すること等を防ぐことができるからである。
【0032】
ここでドラム缶7内にて混練される混練物(放射性廃棄物とセメントとの混合物)は、混練開始時において粘度が低く、セメント投入量の増加と共に粘度が高くなるという特徴を有している。またドラム缶7内における混練物上面の高さ位置は、混練開始時において低く、セメント投入量の増加に伴って高くなっていく。
【0033】
混練物の粘度が次第に高くなるという特徴を踏まえると、混練装置3には攪拌翼を多段に設け、より強力な攪拌作用を得て滞留部や混練のムラの発生を抑制することが望ましい。一方で、セメントはドラム缶7の上面側に設けられた開口部から投入されること、混練物の上面の位置はドラム缶7内の下部側から次第に上昇していくことを考慮すると、このような方法でセメントが投入されるドラム缶7内に複数段の攪拌翼を上下方向に配置することは、背景技術にて説明した液跳ね等を引き起こすおそれがあり好ましくない。
【0034】
そこで本実施の形態に係る混練装置3に設けられた攪拌ユニット36は、例えば上下2段に配置した攪拌翼の例えば上段側の攪拌翼が混練物の上面位置と共に上昇することが可能となっている。以下、当該攪拌ユニット36の構成について図3〜図6を参照しながら説明する。図3、図4に示すように本実施の形態に係る攪拌翼ユニット36は、回転軸363と、第1の攪拌翼361及び第2の攪拌翼362とを備えている。
【0035】
図3に示すように回転軸363は駆動軸33に接続されて鉛直軸周りに回転自在に構成された円柱形状の部材である。回転軸363は、例えば図9に示すように、ドラム缶7を処理位置まで移動した状態において攪拌翼ユニット36全体がドラム缶7内に格納される長さに形成されている。
【0036】
回転軸363の下端には、放射性廃棄物とセメントとの混練を実行する第1の攪拌翼361が固定されている。第1の攪拌翼361は例えば板状の部材から構成される4枚の攪拌部材360を備えており、これらの攪拌部材360は回転軸363を中心として径方向に放射状に伸びるように互いに等間隔で配置されている。各攪拌部材360は例えば幅広に形成された攪拌面が第1の攪拌翼361の回転方向に対して直交した状態となるように例えばボス部材を介して回転軸363に固定されている。
【0037】
このように回転軸363の下端に固定された第1の攪拌翼361の上段側には、第2の攪拌翼362が設けられている。図4〜図6に示すように、第2の攪拌翼362には、回転軸363を取り巻くように設けられた短管状のボス部材365が設けられており、このボス部材365の外周面に、4枚の攪拌部材360が径方向に伸びるように互いに等間隔で配置されている点は既述の第1の攪拌翼361と同様である。一方、第2の攪拌翼362のボス部材365は、回転軸363に固定されておらず、またボス部材365の内径は回転軸363の外径よりもやや大きくなっていることにより、第2の攪拌翼362が回転軸363の周りに回転自在、回転軸363に沿って上下方向に昇降自在に構成されている点は第1の攪拌翼361と異なっている。これら第1、第2の攪拌翼361、362のうち、第2の攪拌翼362は本実施の形態の攪拌翼に相当し、第1の攪拌翼361は他の攪拌翼に相当している。
【0038】
図4、図5に示すように回転軸363には、周方向に回転自在、上下方向に昇降自在に構成された第2の攪拌翼362の動作方向を案内するための螺条部364が設けられている。螺条部364は回転軸363の表面に彫られた溝状の軌道であり、混練動作時の回転軸363の回転方向を正転方向としたとき、正転方向とは逆方向に回転しながら回転軸33に沿って上方向に伸びる螺旋状の軌道として構成されている。また図5では便宜上、攪拌部材360の記載は省略してある。
【0039】
図5、図6に示すように第2の攪拌翼362のボス部材365の例えば中心の高さ位置には、送りねじ366がボス部材365の径方向に向けて貫通しており、当該送りねじ366の先端部は螺条部364内に挿入されている。送りねじ366の先端部には、例えば半球状の走行部材367が設けられている一方、回転軸363の溝形状は例えばこの走行部材367に対応した半球形状に切り欠かれており、走行部材367は回転軸363内を滑らかに走行することができる。また送りねじ366の先端部には、転動自在に構成したボール状の転動体を埋め込み、当該転動体が螺条部364内で転がる構成としてもよい。
【0040】
以上に説明した構成を備えることにより、第2の攪拌翼362は回転軸363に螺合下状態となり、攪拌部材360から正転方向とは反対の方向(逆転方向)に働く力を受けると、走行部材367が螺条部364に案内され、これにより第2の攪拌翼362は逆転方向に回転しながら上昇し、その高さ位置を変えることになる。これとは反対に攪拌部材360に正転方向に働く力を受けると、第2の攪拌翼362は正転方向に回転しながら降下することになる。
【0041】
また攪拌部材360に働く力は螺条部364の伸びる方向に沿って第2の攪拌翼362を動作させる力として働くことになるが、この螺条部364に沿って働く力を水平成分と垂直成分とに分解したとき、この垂直成分の力が、第2の攪拌翼362に働く重力より、混練物から働く浮力を差し引いた下向きの力よりも小さくなるとき、第1の攪拌翼361は自重により降下して第1の攪拌翼361上に載置されることになる。
【0042】
ここで図5に示すように、螺条部364の傾斜面が水平方向に対して成す角度αは、例えば10°〜70°の範囲内に設定される。螺条部364の傾斜を小さくすると第2の攪拌翼362の回転力を大きくすることができるので、螺条部364と走行部材367との間に多少の異物を噛み込んだとしても第2の攪拌翼362は回転軸363に固着しにくくなる。一方、螺条部364の傾斜を大きくすると螺旋を成す螺条部364の巻数が少なく、螺条部364全体の距離が短くなるので螺条部364と走行部材367との間に異物を噛み込む確率を小さくすることができる。
【0043】
また図3、図4に示すように螺条部364は回転軸363の途中の高さ位置にて途切れている。螺条部364が途切れている終端部の高さ位置は、ドラム缶7内に予め設定した量の混練物を投入した状態において、第2の攪拌翼362が混練物の上面から飛び出さず、且つ、前記上面近傍の混練物内にて混練を行うことが可能な高さに設定されている。
【0044】
以上に説明した構成を備えた処理設備1の搬送装置2や混練装置3、セメントホッパー4、薬液タンク5、廃棄物貯槽6の払い出し機構などは、これら各部の動作を制御する制御部8と接続されている。制御部8は、CPU、メモリ及びプログラム格納部を備えており、処理設備1の各部の動作を実行するための制御信号を出力するように構成されている。プログラム格納部には、処理設備1の各部の動作に係る制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されており、このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0045】
次に本実施の形態の処理設備1の作用について説明する。はじめにルーム11側では、放射性廃棄物を充填するドラム缶7を搬送装置2の載置台21上の所定の位置に載置する一方、セル12内では、冷却機構35を待機位置まで移動させた状態で待機している。
【0046】
次に搬入出口141の開閉扉14を開き、セル12内に搬送装置2を進入させた後、開閉扉14を閉じ、ドラム缶7を廃棄物貯槽6の下方位置まで搬送する。そして図7(a)に示すように、搬送装置2の載置台21を上昇させ、ドラム缶7の開口部に廃棄物貯槽6の払出部61を挿入する。廃棄物貯槽6側においては、例えばドラム缶7が搬送されてきたタイミングで放射性廃棄物の払い出しを開始できるように、放射性廃棄物の濃縮操作を予め行っておく。しかる後、払出部61を介して廃棄物貯槽6からドラム缶7への放射性廃棄物の投入を実行し、予め定められた量の放射性廃棄物を投入したら、投入動作を終了する。
【0047】
次いで、放射性廃棄物を受け入れたドラム缶7を混練装置3の下方位置まで搬送し、載置台21を上昇させて図3に示すように冷却機構35の間にドラム缶7を進入させ、上面の開口部側から攪拌翼ユニット36の下端部をドラム缶7内に侵入させる。このとき第2の攪拌翼362の攪拌部材360には周方向の力が働いていないので、第2の攪拌翼362は自重により最下端位置である第1の攪拌翼361上に載置された状態となっている。
【0048】
そして冷却機構35を横方向に移動させてドラム缶7の周囲を冷却機構35で囲み、これらドラム缶7及び冷却機構35を上昇させてドラム缶7の開口部を蓋部材34にて覆うと共に、混練装置3のボールネジ機構を作動させて混練動作の行われる位置まで攪拌翼ユニット36を移動させる。このとき冷却機構35においては冷媒の通流が開始されており、冷却機構35にて囲まれたドラム缶7の冷却が開始されている。
【0049】
ドラム缶7、冷却機構35、攪拌翼ユニット36を処理位置にセッティングしたら、図7(b)に示すようにセメントホッパー4からのセメントの投入、及び薬液タンク5からの硬化剤などの投入を開始すると共に、モーター31を駆動して攪拌翼ユニット36の回転軸363を例えば数十rpm〜数百rpm程度で回転させる。放射性廃棄物にセメントを投入して混練を行うことによりセメントと放射性廃棄物中に含まれる水分とが反応して混練物が次第に固化していく。
【0050】
このとき既述のように第2の攪拌翼362は、自重によって最下端位置まで降下しており、第1の攪拌翼361上に積み重なった状態となっている。そして本例では、上下に積み重なった攪拌翼361、362の全体が、セメントの投入を開始する前の放射性廃棄物の液溜まり内に沈んだ状態となるように放射性廃棄物の投入量や攪拌部材360の高さが調節されている。
【0051】
このように2つの攪拌翼361、362の全体を液溜まり内に沈めた状態でセメントの投入を開始することにより、回転する各攪拌翼361、362と交差することなく、放射性廃棄物の液面に向けて直接セメントを投入することができる。この結果、攪拌翼361、362と交差したセメントがドラム缶7内に勢いよく撒き散らされて着液時に液跳ねを引き起こすといった問題の発生を抑えることができる。
【0052】
ここで図9に示すように、本例に係る混練装置3では、蓋部材34にてドラム缶7の開口部を覆っているので、仮に液跳ねが発生したとしてもその液跳ねにより発生したミストがドラム缶の外へと流出して外部の空間を汚染する可能性は少ない。しかしながらこうした液跳ねによって蓋部材34が汚染されてしまうと、混練を終えドラム缶7が搬出された後に、放射性廃棄物やこれを含む混練物の液滴が蓋部材34から滴下してセル12を汚染してしまうおそれもある。このため、セメント投入時における放射性廃棄物や混練物の液跳ねはできる限り抑えることが好ましい。従って本例のように2つの攪拌翼361、362が放射性廃棄物の液溜まり中に沈められている場合においても、例えば投入開始時におけるセメントの投入量は少なめに調整し、セメントを放射性廃棄物の液面に直接投入することによる液跳ねの発生をできる限り抑えることが望ましい。
【0053】
こうして放射性廃棄物とセメントとの混練が開始された後、セメントや硬化剤などの投入を継続していくと、ドラム缶7内の混練物の容量が増え、混練物の上面の位置が次第に上昇していく。このとき、混練物を攪拌する第1、第2の攪拌翼361、362の各攪拌部材360には、混練物側からの抵抗により回転方向とは反対向きの力(抵抗力)が働く。またセメントの投入量が増えるにつれて混練物の密度は大きくなっていくので、密度変化に伴って攪拌翼361、362に働く浮力は大きくなっていく。
【0054】
このように2つの攪拌翼361、362には混練物側から種々の力が働くことになるが、既述のように第1の攪拌翼361は回転軸363に固定されているので、混練物側の状態変化に係らず第1の攪拌翼361は回転軸363と共に回転する。これに対して第2の攪拌翼362は回転軸363周りに周方向に回転自在、上下方向に昇降自在に構成されていることから、混練物から受ける力を受けて回転軸363に対して相対的に移動することができる。
【0055】
ここで図5、図6を用いて説明したように、第2の攪拌翼362は走行部材367を螺条部364内に挿入した状態で保持されている。このため、回転軸363の外周面とボス部材365の内周面との間の摩擦などを無視すると、第2の攪拌翼362の運動は回転軸363側から走行部材367に働く力と、攪拌部材360を介して混練物側から走行部材367に働く力とのバランスによって説明することができる。
【0056】
図11(a)は、回転軸363を側面から見たときにおける、走行部材367に働く力のバランスを示している。回転軸363は鉛直軸周りに回転している一方、走行部材367は螺旋状に伸びる螺条部364内で回転軸363と接しているので、回転軸363から走行部材367に対しては、回転軸363の回転力のうち螺条部364の傾斜と直交する成分Frが加わる。図中、Frvは前記Frの垂直成分であり、Frhはその水平成分である。また鉛直軸周りに回転する第2の攪拌翼362の各攪拌部材360が混練物から受ける抵抗力によって走行部材367に水平方向に作用する力をFD、第2の攪拌翼362に働く重力から浮力を差し引いた力に基づいて走行部材367に作用する下向きの力をFgとする。
【0057】
このとき、走行部材367が回転軸363から受ける力の水平成分と混練物から受ける抵抗力とが釣り合って「Frh=FD」となり、また回転軸363から受ける力の垂直成分と下向きの力が釣り合って「Frv=Fg」となったとき、走行部材367に働く力がバランスする。この結果、走行部材367は螺条部364内を移動することなく停止し、第2の攪拌翼362は回転軸363と一体となって回転する。
【0058】
一方、例えば図11混練物から受ける力F’Dが回転軸363から受ける力の水平成分よりも大きくなって「Frh<F’D」となると、図11(c)に示すように走行部材367には回転方向とは反対向きの力ΔF(=F’D−Frh)が加わる。そして走行部材367に働く力ΔFのうち、螺条部364の傾斜に沿った方向の成分ΔFxの作用によって走行部材367は螺条部364に沿って上方側へと移動し、第2の攪拌翼362は回転軸363の回転方向とは反対向きの方向(逆転方向)に相対的に回転する。また、これとは反対に「Frh>F’D」となった場合には、走行部材367は螺条部364に沿って下方側に移動していくことになる。
【0059】
また例えば図12(a)に示すように走行部材367に働く下向きの力F’gが回転軸363から受ける力の垂直成分よりも小さくなって「Frv>F’g」となると、図12(b)に示すように走行部材367には上向きの力ΔF’(=Frv−F’g)が加わる。そして走行部材367に働く力ΔF’のうち、螺条部364の傾斜に沿った方向の成分ΔF’xの作用によって走行部材367は螺条部364に沿って上方側へと移動し、第2の攪拌翼362は回転軸363の回転方向とは反対向きの方向(逆転方向)に相対的に回転する。また、これとは反対に「Frv<F’g」となった場合には、走行部材367は螺条部364に沿って下方側に移動していくことになる。
【0060】
こうした走行部材367に働く力のバランスを踏まえて混練動作実行中の第2の攪拌翼362の動作を説明する。今、放射性廃棄物の液溜まり内に第2の攪拌翼362を沈めた状態で回転軸363を回転させ、セメントの投入を開始すると第2の攪拌翼362は回転軸363と共に回転を始める。一方、第2の攪拌翼362は混練物からの抵抗力を受けて図11(c)に示すように螺条部364に沿って走行部材367を上方側に移動させる力が働く。また第2の攪拌翼362の全体を混練物内に沈めた状態においては、第2の攪拌翼362に働く浮力が大きく、走行部材367に下向きに作用する力は相対的に小さくなるので、図12(a)、図12(b)に示したように螺条部364に沿って走行部材367を上方側に移動させる方向の力が働く。
【0061】
そこで本実施の形態に係る第2の攪拌翼362は、回転軸363を例えば数十rpm〜数百rpm程度で回転させたときに、図11(c)、図12(b)に示した螺条部364に沿って上方側へ働く力の合計「ΔFx+ΔF’x」が正の値となるように、例えば第2の攪拌翼362の重さが数kg〜数十kg程度に設定されている。
【0062】
この結果、回転軸363を回転させると、第2の攪拌翼362は当該回転軸363と共に回転しつつも、その回転速度が回転軸363よりもやや小さくなって、回転軸363の回転方向(正転方向)とは反対の方向(逆転方向)に相対的に回転しながら混練物内を上昇していく。
【0063】
こうして混練物内を上昇していくと、第2の攪拌翼362はやがて混練物の上面に到達する。このときドラム缶7内の混練物は各攪拌翼361、362により攪拌されて渦巻き状の流れが形成され、この結果、混練物の上面は例えば図10(a)に示すように、すり鉢状に中央部が窪んだ形状となっている。
【0064】
このようなすり鉢状の面に第2の攪拌翼362が到達すると、図10(a)に示すように例えば回転軸363寄りの攪拌部材360の一部が混練物から飛び出した状態となる。ここで混練物上のドラム缶7内の雰囲気は、例えば大気雰囲気であり、大気はセメントの混練物に比べて粘度がはるかに小さいので、攪拌部材360の一部が飛び出して大気中に露出すると、攪拌部材360に働く抵抗力が小さくなる。また、大気の密度は混練物と比較してはるかに小さく、攪拌部材360の一部が大気雰囲気に露出することによって第2の攪拌翼362に働く浮力も小さくなる。
【0065】
このように混練物から働く抵抗力及び浮力が小さくなると、上述の「ΔFx+ΔF’x」の値が小さくなっていき、この値がゼロとなったところで図11(a)に示したように走行部材367に働く力が釣り合う。この結果第2の攪拌翼362は上昇を止め、回転軸363と同じ回転速度で回転し、混練物の上面から攪拌部材360の一部が大気中に露出した状態のまま混練動作を実行することになる。
【0066】
以上に説明した第2の攪拌翼362の動作をまとめると、回転軸363の回転に伴って第2の攪拌翼362は混練物内を上昇して、混練物の上面位置にて停止することとなる。そしてこの第2の攪拌翼362の動作と並行して、ドラム缶7内にはセメント及び硬化剤などが例えば連続的に投入されており、混練物の上面の位置はセメントなどの投入量の増加に伴って上昇していく。
【0067】
混練物の上面の位置が高くなると、その分だけ第2の攪拌翼362は混練物内に沈むことになるが、その結果、攪拌部材360に働く抵抗力や浮力が大きくなり、走行部材367に働く力が釣り合う位置まで第2の攪拌翼362を押し上げる。こうして第2の攪拌翼362は混練物の上面の位置の上昇に伴って上方側へ移動しながら、攪拌部材360の一部が当該混練物から露出した状態で混練動作を継続することになる。
【0068】
一方で、混練物へのセメントの投入量が増えていくと、混練物の密度が増大するので、この密度の増大に伴って攪拌部材360に働く浮力は大きくなる。攪拌部材360に働く浮力が大きくなると、第2の攪拌翼362は上方側へ押し上げられて混練物の上面に露出した部分の攪拌部材360の体積が大きくなる。この結果、ドラム缶7内の混練物の量が増えるに連れて、第2の攪拌翼362は混練物内から次第に押し出され、最終的には攪拌部材360の下端部で混練物の上面をなでるように混練動作を行うことになってしまうおそれもある。
【0069】
そこで本実施の形態に係る攪拌翼ユニット36では、図4にて説明したように螺条部364を回転軸363の途中の高さ位置にて終端し、ドラム缶7内に予め設定した量の混練物を貯留した状態において、第2の攪拌翼362が混練物の上面から露出せず、且つ、混練物内の上面近傍の位置にて混練を行うことが可能な高さに前記終端部の高さ位置を設定している。
【0070】
この結果、混練物の上面が螺条部364の終端部よりも高い位置に達したら、走行部材367は当該終端部にて上方向への移動が規制される。螺条部364の終端部に到達した第2の攪拌翼362はその位置にて混練動作を継続することとなる(図9、図10(b))。本例において回転軸363の上部側の位置に設けられた螺条部364の終端部は、第2の攪拌翼362の位置規制部に相当する。
【0071】
第2の攪拌翼362が上述の動作を行っている期間中、第1の攪拌翼361はドラム缶7の底面部近傍の位置にて混練動作を継続している。このため、本実施の形態に係る混練装置3においては、上面の位置が次第に上昇していく混練物の底面近傍位置と上面近傍位置との2個所にて混練動作を行うことができる。従って、例えば上下2段の攪拌翼を所定の高さ位置に固定した従来タイプの攪拌装置と比較して、混練物が上段側の攪拌翼に到達するまでは下段側の攪拌翼のみで混練が行われ、上段側は空回りした状態となっているといった非効率な動作がなく、常に上下2箇所にて効率的に混練動作を行うことができる。
【0072】
こうして予め設定した量のセメントや硬化剤などを投入し、所定時間混練動作を実行したら、回転軸363の回転を停止する。すると第2の攪拌翼362は、図10(c)に示すように重力の作用によって上昇時とは反対方向に回転しながら降下し、第1の攪拌翼361上に積み重なった位置にて停止する。
【0073】
こうして混練動作を終えたら、図8(a)に示すように載置台21を降下させ、例えば混練装置3や廃棄物貯槽6から離れた位置にてドラム缶7を静置し、混練物を固化させる。しかる後、図8(b)に示す如く開閉扉14を開き、載置台21をルーム11側まで移動させてドラム缶7を搬出し、一連の動作を終える。搬出されたドラム缶7には、例えばドラム缶7を密閉する密閉蓋71が取り付けられ、処理設備1外へと搬出される。
【0074】
本実施の形態に係る混練装置3(攪拌装置)によれば以下の効果がある。混練装置3の回転軸363に形成された螺条部364により、この回転軸363に設けられた第2の攪拌翼362を混練物の抵抗によって回転軸363に対して相対的に回転させ、当該回転軸363の長さ方向に沿って螺条部364の終端位置まで案内することができる。この結果、混練物の上面位置の上昇に合わせて第2の攪拌翼362を上昇させ、下部側の第1の攪拌翼361の作用と相俟って効率的にセメントと放射性廃棄物を効率的に混練し、短時間で均一な混練物を得ることができる。
【0075】
ここで上述の実施の形態に係る混練装置3においては、回転軸363の上部側に設けた螺条部364の終端部を第2の攪拌翼362の規制位置としたが、第2の攪拌翼362を規制位置まで案内する手法はこの方法に限定されない。例えば、第2の攪拌翼362が螺条部364の終端部まで到達しない途中の高さ位置にてセメントの投入をやめる場合などにおいては、攪拌部材360の一部が混練物から露出し、走行部材367に働く力が釣り合って第2の攪拌翼362の上昇が止まる位置が、当該第2の攪拌翼362の規制位置となる。
【0076】
そして回転軸363に設ける螺条部364は、図5に示した如く溝状に形成する場合に限定されない。例えば図13に示すように回転軸363の側周面から螺条部364をレール状に突出させ、この螺条部364に嵌合するようにボス部材365側に溝部368を設けてもよい。
【0077】
以上に説明した実施の形態においては、放射性廃棄物とセメントとを混練する例を示したが、本実施の形態に係る混練装置(攪拌装置)3及び攪拌翼ユニット36を適用可能な攪拌対象はこの例に限られるものではない。放射性廃棄物とセメントのように液体と粉体との混合、また2種類の異なる液体の混合、これら液体と粉体や2種類の液体の混合に際し、気体を吹き込む場合などに行われる各種の流動体の攪拌操作に広く適用することができる。
【0078】
例えば図3、図4に示した攪拌翼ユニット36は、放射性廃棄物以外の種々の流動体を攪拌する攪拌装置に適用できる。この場合には、攪拌翼ユニット36に人がアクセスすることも可能なので、攪拌装置の設置された現場にて攪拌翼ユニット36のメンテナンスを行う場合もありうる。ここで攪拌翼ユニット36は、既述のように攪拌動作を実行していないときには第2の攪拌翼362が回転軸363の下端部まで降下して第1の攪拌翼361上に載置された状態となり、例えば攪拌装置の設けられている施設の床面に近くの比較的アクセスしやすい位置に2つの攪拌翼361、362がまとめられることとなる。このため、例えば攪拌装置が大型である場合などには、2つの攪拌翼361、362に同時にアクセスすることが可能となり、メンテナンスが行いやすくなるといった効果もある。
【0079】
さらに回転軸363の周りに設けられた螺条部364を利用して、当該回転軸363の長さ方向に攪拌翼を案内する攪拌翼ユニット及びこの攪拌ユニットを備えた攪拌装置の構成は、図1〜図13に示した例に限定されるものではなく、種々の構成を採用することができる。以下図14〜図19を用いて説明する各例では、各種流動体を攪拌槽70内にて攪拌混合する一般的な例を述べる。これらの図において図3〜図6等に示した第1の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36(攪拌装置3)と同様の構成要素には、これらと同じ符号を付してある。
【0080】
図14(a)〜図14(c)は、第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36を示している。第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36は、上下2つの攪拌翼362、361の双方が回転軸363に沿って移動可能となっている点が、上部側の第2の攪拌翼362のみを移動可能とした第1の実施の形態と異なっている。
【0081】
第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36によれば、回転軸363には、第1の攪拌翼361を案内する螺条部364b及び、第2の攪拌翼362を案内する螺条部364aが互いに平行に設けられている。そして、これら螺条部364b、364aは、回転軸363の下部側の領域において長さ方向に互いに重複する領域に設けられている。一方、第1の攪拌翼361側の螺条部364bは回転軸363の中間の高さ位置で終端されており、第2の攪拌翼362側の螺条部364aは、第1の攪拌翼361側の螺条部364aよりも上方側まで伸びだしている。これにより第1の攪拌翼361、第2の攪拌翼362は各々異なる高さ位置まで上昇することができる。
【0082】
そして攪拌槽70へ混合対象の流動体の供給を開始して回転軸363を正転させると(図14(a))、2つの攪拌翼361、362はそれぞれの螺条部364a、364bに案内され、流動体の上面と共に上昇していく(図14(b))。そして、第1の攪拌翼361が螺条部364bの終端部に到達すると、第1の攪拌翼361の上昇はその位置で規制される一方、第2の攪拌翼362は流動体の上面と共にさらに上昇し、螺条部364aの終端位置にて規制される。ここで回転軸363の下端部に、回転軸363に固定された第3の攪拌翼をさらに設けてもよいことは勿論である。
【0083】
図15(a)は昇降する攪拌翼362を一つだけ設けた第3の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36を示している。本例に係る攪拌翼ユニット36では、図10(a)〜図10(c)に示した第1の実施の形態に係る攪拌翼362と同様の原理により攪拌翼362を上昇させ(図15(b))、当該攪拌翼362が螺条部364の終端部に達したら回転軸363の回転を停止して(あるいは逆転させて)、攪拌翼を回転させながら降下させる(図(c))。その後、回転軸363の正転と停止(または正転と逆転)を繰り返して、攪拌翼362を上下動させながら攪拌を行うことにより、攪拌槽70内の流動体を高さ方向に満遍なく攪拌することができる。
【0084】
図16に示す第4の実施の形態は、螺条部364の終端部に、当該螺条部364を下方側へ向けて傾斜させた落とし込み部369を設けた攪拌翼ユニット36である。本例に係る攪拌翼ユニット36において、落とし込み部369は、第2の攪拌翼362の走行部材367が落とし込まれる部位であり、第2の攪拌翼362を当該高さ位置に固定する役割を果たす。この結果、2回目以降の攪拌動作においては、2つの攪拌翼361、362は、上下2段に固定された高さ位置にて流動体の攪拌を実行することになる。
【0085】
そして第2の攪拌翼362のメンテナンスを行う場合には、例えば回転軸363を逆転方向に急激に回転させることにより第2の攪拌翼362に働く慣性力を利用して走行部材367を落とし込み部369内から抜け出させ、回転軸363を停止または逆転させることにより第2の攪拌翼362を回転軸363の下端部まで降下させることができる。ここで落とし込み部369は、図16に示したように下向きに傾斜させる場合に限定されず、例えば垂直方向下向きとなるように設けてもよい。この場合は、回転軸363を反転させることでは走行部材367を落とし込み部369内から抜け出させることは困難になるが、少なくとも使用開始時には第2の攪拌翼362は回転軸363の下端部に位置しているので、例えば第2の攪拌翼362の取り付け時の作業などが容易になる。
【0086】
このほか、例えば図10(a)に示した攪拌翼ユニット36では、攪拌部材360の一部が流動体の上面から露出した状態で走行部材367に働く力が釣り合い、第2の攪拌翼362の上昇が規制される場合を示した。これに対して、第2の攪拌翼362全体が流動体内を流動体内に沈めた状態であっても図11(a)に示したように螺条部364に働く力が釣り合った状態とすることができれば、第2の攪拌翼362の上昇を規制することができる。
【0087】
例えば、攪拌槽70の底部に密度の大きな液体の液溜まりを形成し、この中に昇降可能に構成された攪拌翼362を沈め、当該液溜まりに密度の小さな液体を注入しながら回転軸363の回転を開始する。すると攪拌翼362は液体からの抵抗力と浮力を受けて螺条部364に案内されながら上昇を開始するが、密度の小さな液体を注入することにより、攪拌槽70内の液体の密度は次第に低下していく。この結果、攪拌翼362に働く浮力は次第に小さくなり、当該走行部材367に下向きに働く力が大きくなっていく。そして、既述のΔF’xが負の値となり、螺条部364の傾斜に沿って走行部材367に対して上方側に働く力の合計「ΔFx+ΔF’x」がゼロとなれば、攪拌翼362全体が液体中に沈んだ状態のままであっても攪拌翼362の上昇は停止し、この位置が当該攪拌翼362の停止位置となる。
【0088】
以上に説明した各実施の形態では回転軸363を垂直方向に配置した例を説明したが、例えば回転軸363を水平方向に配置する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、図17(a)、図17(b)は回転軸363を水平方向に配置した第5の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36(攪拌装置3)を示している。回転軸363を垂直に配置する場合と異なり、回転軸363を水平に配置する場合には、攪拌翼362に働く浮力と重力とのバランスを利用して攪拌翼362の移動を規制することができない。このため、例えば攪拌翼の移動範囲を予め設定しておき、攪拌翼362が当該移動範囲の端部に達したら回転軸363の回転方向を逆向きにして攪拌翼362の移動方向を反転させることによりこの移動範囲の両端を規制位置とすることができる。
【0089】
回転軸363を水平に配置する場合にも、図18(a)、図18(b)に示すように回転軸363に複数の攪拌翼362a〜362cを設け、これらの各々に対応する螺条部364a〜364cによって攪拌翼362a〜362cが案内されるように構成してもよい。図18(a)、図18(b)に示した第6の実施の形態においても、図14(a)〜図14(c)の第2の実施の形態と同様に、各螺条部364a〜364cは互いに平行に設けられている。また各攪拌翼362a〜362cが共通に通過する領域においては、当該領域を通過する攪拌翼362a〜362cに対応した各螺条部364a〜364cが回転軸363の長さ方向に重複して設けられている点も、既述の第2の実施の形態と同様である。
【0090】
図19(a)、図19(b)は、上述の第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36の例えば通常運転時の状態(図19(a))と、メンテナンス時の状態(図19(b))とを示している。通常運転時には、回転軸363の回転方向を正転、逆転させ、所定の移動範囲内で各攪拌翼364a〜364cを移動させながら攪拌を実行し、メンテナンス時はこれら攪拌翼364a〜364cを一箇所に集めることによって攪拌翼364a〜364cのメンテナンスが容易になる。特に排水処理設備など、一辺が数m〜数十mの大型の攪拌槽70で攪拌動作を行う場合などにおいて有用となる。
【0091】
また図14(a)〜図14(c)の攪拌翼361、362や図18(a)〜図18(b)に示した攪拌翼362a〜362cのように複数の攪拌翼を移動可能に構成する場合において、これらの攪拌翼は別々の螺条部によって案内する場合に限定されず、共通の螺条部364で案内する構成としてもよい。例えば各々の攪拌翼を異なるサイズ、重さとして、各攪拌翼に加わる流動体からの抵抗力や浮力、重力を調節し、各々の攪拌翼が異なる速度で回転軸363の長さ方向に案内される構成とすることにより、これらの攪拌翼が互いに干渉せず共通の螺条部364に沿って移動する構成とすることができる。
なお、攪拌部材360の形状や枚数は図示したものに限定されず、混合対象にあわせて最適な形状等を選定できる。
【符号の説明】
【0092】
1 処理設備
11 ルーム
12 セル
2 搬送装置
3 混練装置、攪拌装置
36 攪拌翼ユニット
360 攪拌部材
361 第1の攪拌翼
362、362a〜362c
第2の攪拌翼、攪拌翼
363 回転軸
364、364a〜364c
螺条部
4 セメントホッパー
5 薬液タンク
6 廃棄物貯槽
7 ドラム缶
70 攪拌槽
8 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の液体や、液体と粉体など流動体を攪拌混合するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、攪拌槽内にて2種類の液体を混合して混合液体を得たり、またセメントと水などのように粉体と液体とを混合してスラリーを得たりする場合には攪拌装置が用いられる。攪拌装置は回転軸周りに回転する攪拌翼を備えており、この攪拌翼を攪拌槽内に挿入して回転させ、混合対象の流動体をかき混ぜることにより、2種類の流動体の混合を促進する。
【0003】
攪拌装置に取り付けられる攪拌翼としては種々のものが知られているが、例えば特許文献1や特許文献2に示すように、攪拌槽内の上下方向に攪拌翼を多段に設け、共通の回転軸にてこれらの攪拌翼を回転させるように構成された攪拌装置がある。上下方向に配置された複数段の攪拌翼を用いることにより、攪拌槽内の流動体の乱れが大きくなる結果、流動体の混合を促進して滞留部の発生を抑制すると共に、短時間の攪拌で均一な混合流動体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−71396号公報:0013段落〜0014段落、0022段落、図1、図3
【特許文献2】特開平7−155579号公報:0008段落、0010段落、図1、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載された攪拌翼によれば、効率的な攪拌操作を行うことができる一方で、例えば攪拌操作を行いながら攪拌槽の上部側から混合対象の流動体を供給する場合などには以下に記す問題点がある。
【0006】
液体放射性廃棄物(以下、単に放射性廃棄物という)の処理を例に挙げると、放射性廃棄物はドラム缶などからなる攪拌槽内に投入され、セメントと混合されて固化された後、ドラム缶ごと埋設処分場などへと送られる。上述の処理においては、ドラム缶内に予め処理対象の放射性廃棄物を受け入れておき、攪拌翼にて攪拌を行いながらドラム缶の上面に設けられた開口部からセメントを投入し、これら放射性廃棄物とセメントとの攪拌混合(以下、混練という)を行う場合がある。
【0007】
このように攪拌翼による混練を行いながらセメントの投入を行う攪拌装置において、特許文献1や特許文献2に記載の技術の如く攪拌翼を上下方向に多段に設けると、ドラム缶内の液レベルが上段側の攪拌翼に達していない期間中においても、上段側の攪拌翼は下段側の攪拌翼と共に回転することになる。
【0008】
このように、いわば空回りしている攪拌翼の上方側から粉体状のセメントを供給すると、回転する攪拌翼とセメントの落下軌道とが交差して、セメントがドラム缶内に勢いよく撒き散らされて放射性廃棄物への着液時に液跳ねを引き起こしたり、セメントの巻き上げを発生させたりしてしまう。そして液跳ねにより形成されたミストが再度上段側の攪拌翼に到達し、さらにこのミストが巻き上げられると、放射性のミストがドラム缶の外へと流出して外部の空間を汚染してしまうおそれもある。
【0009】
また多段化された攪拌翼は、上下方向に広がるように回転軸に固定されるので、例えば狭隘な空間内への取り付けが困難な場合もある。また多段の攪拌翼は異なる高さ位置に配置されることから、メンテナンス時には異なる高さ位置に設けられた攪拌翼の各々にアクセスしなければならず、大型の攪拌装置の場合、それぞれの高さ位置に足場を準備する必要などが生じてメンテナンス性も良くない。
【0010】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、攪拌するために投入される流動体との交差を回避したり、メンテナンス性を高めたりするなど必要に応じて流動体内における攪拌翼の位置を移動させることが可能な攪拌装置及びこの攪拌装置に用いられる攪拌翼ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る攪拌装置は、流動体を攪拌する装置において、
回転軸と、
この回転軸を回転させる駆動部と、
前記回転軸に螺合され、流動体を攪拌するための攪拌翼と、
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内される螺条部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
さらに前記攪拌装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記攪拌翼が規制位置に置かれている状態で回転軸を正転させることにより当該攪拌翼が回転軸と共に回転すること。
(b)前記規制位置は、回転軸に設けられた位置規制部により攪拌翼の移動が規制される位置であること。
(c)前記回転軸は上下方向に伸びるように設けられ、
前記規制位置は、前記攪拌翼の一部が流動体の上面から露出することにより、前記攪拌翼に働く力が釣り合って攪拌翼の移動が規制される位置であること。
【0013】
(d)前記回転軸には、前記攪拌翼以外に他の攪拌翼が設けられていること。
(e)前記他の攪拌翼は回転軸に固定されていること。
(f)前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って案内される、前記螺条部とは異なる他の螺条部と、
前記回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼における回転軸の長さ方向の移動を規制するために、前記回転軸の長さ方向において前記規制位置とは異なる位置に設けられた位置規制部と、を備えたこと。
(g)前記螺条部の形成領域と他の螺条部の形成領域とは、回転軸の長さ方向において互いに重複していること。
【0014】
また他の発明に係る攪拌翼ユニットは、上述のいずれかの攪拌装置の発明に記載された、回転軸及び攪拌翼からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、攪拌装置の回転軸に形成された螺条部により、この回転軸に設けられた攪拌翼を流動体の抵抗によって回転軸に対して相対的に回転させ、当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内することができる。この結果、例えば流動体の上面位置の上昇に合わせて攪拌翼を上昇させ、当該攪拌翼を流動体内に沈めた状態で、当該流動体の上面近傍の位置を攪拌したり、またメンテナンス作業しにくい位置にて攪拌動作を行う攪拌翼について、メンテナンス時には作業し易い位置まで攪拌翼を移動させたりするなど、必要に応じて流動体内における攪拌翼の位置を移動させることが可能となり、流動体の攪拌性能や攪拌翼のメンテナンス性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る放射性廃棄物処理設備の縦断側面図である。
【図2】前記放射性廃棄物処理設備内に設けられている混練装置の側面図である。
【図3】前記混練装置に攪拌ユニットが取り付けられている状態を示す斜視図である。
【図4】前記攪拌翼ユニットの外観構成を示す側面図である。
【図5】前記攪拌翼ユニットに設けられた攪拌翼の昇降機構の構成を示す一部破断斜視図である。
【図6】前記攪拌翼の昇降機構の構成を示す横断平面図である。
【図7】前記放射性廃棄物処理設備の作用を示す第1の説明図である。
【図8】前記放射性廃棄物処理設備の作用を示す第2の説明図である。
【図9】混練動作実行中のドラム缶内の状態を示す一部破断斜視図である。
【図10】前記攪拌翼ユニットの作用を示す説明図である。
【図11】回転軸に沿って昇降する攪拌翼の動作を示す第1の説明図である。
【図12】前記攪拌翼の動作を示す第2の説明図である。
【図13】攪拌翼の昇降機構の変形例を示す一部破断斜視図である。
【図14】第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図15】第3の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図16】第4の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの外観構成を示す側面図である。
【図17】第5の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図18】第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの説明図である。
【図19】前記第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニットの他の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る攪拌装置及び攪拌翼ユニットを、液体放射性廃棄物(放射性廃棄物)の処理設備(放射性廃棄物処理設備)に適用した実施の形態について説明する。図1に示した本実施の形態に係る放射性廃棄物処理設備(以下、処理設備という)は、ドラム缶内で放射性廃棄物とセメントとの混練を行うインドラム方式の処理設備として構成されている。
【0018】
図1〜図3を参照しながら本実施の形態に係る処理設備1の構成について説明すると、図1の縦断側面図に模式的に示すように処理設備1は、例えばコンクリート製の建屋を隔壁13にて例えば2つの区画に分割し、一方側の区画を低線量の放射性管理区域であるルーム11、他方側の区画を高線量の放射性管理区域であるセル12に設定している。
【0019】
低線量の放射性管理区域であるルーム11は、作業従事者が立ち入り可能な区域であり、放射性廃棄物とセメントとの混練(攪拌混合)が行われるドラム缶7の準備や、処理を終えたドラム缶7を処理設備1外へと搬出する作業などが行われる。隔壁13には、搬入出口141が設けられていてドラム缶7はこの搬入出口141を介してルーム11とセル12との間を搬送される。搬入出口141は、ドラム缶7の搬入出時以外などには、開閉扉14にて閉じられ、ルーム11からセル12を隔離することができるようになっている。
【0020】
ドラム缶7は例えば無人搬送車などから構成される搬送装置2によって搬送される。搬送装置2は載置台21を備えており、ドラム缶7はこの載置台21上に載置された状態で搬送されると共に、この載置台21は上下方向に昇降自在に構成されていてドラム缶7を保持する高さ位置を調節することができる。搬送装置2は例えば不図示の管制室からの遠隔操作に基づいて移動する構成としてもよいし、また例えば自動制御などにより、例えば不図示のレール上を走行しながら予め設定された場所を所定のタイミングで移動する構成としてもよい。
【0021】
セル12は、ドラム缶7に放射性廃棄物を充填して固化する廃棄物処理が行われる区域であり、放射性廃棄物をドラム缶7に供給する廃棄物貯槽6と、ドラム缶7に例えばセメントなどの固化材を供給するセメントホッパー4と、放射性廃棄物とセメントとの混練を行う混練装置3と、混練動作が行われているドラム缶7に硬化剤などを供給する薬液タンク5と、が設けられている。
【0022】
廃棄物貯槽6は、処理設備1の外部に設けられた排出区域から受け入れた放射性廃棄物をドラム缶7に投入する役割を果たす。廃棄物貯槽6は、例えば蒸発機能を備えていてもよく、この場合には、外部から受け入れた放射性廃棄物は水分を蒸発させて濃縮された後、ドラム缶7へと投入される。
【0023】
図1に示した廃棄物貯槽6は、前記の蒸発機能を備えた例を示しており、例えば不図示の加熱機構を備えたホッパー形状のタンクとして構成されている。廃棄物貯槽6の上面には例えば放射性廃棄物を受け入れる廃棄物受け入れライン62と、蒸発させた蒸気を排出する排出ライン63とが設けられている。本例ではこれら廃棄物受け入れライン62や排出ライン63はルーム11及びセル12から隔離された配管室15内に設けられている。
【0024】
廃棄物貯槽6を成すホッパーの下端には、廃棄物貯槽6の下方位置まで搬送されてきたドラム缶7に放射性廃棄物を投入するための払出部61が設けられている。払出部61は廃棄物貯槽6の下端から下方側へ向けて伸びる円筒形状の部材として構成され、この払出部61がドラム缶7の開口部内に挿入された状態にて廃棄物貯槽6からの放射性廃棄物の払い出しが行われる。払出部61が円筒形状に構成されていることにより、ドラム缶7に投入される放射性廃棄物が周囲に飛び散ることを防ぎセル12内を汚染せずに投入操作を行うことができる。ここで払出部61に設けられた64は蓋部材である。
【0025】
セメントホッパー4は固化材、例えば放射性廃棄物中の水分と反応して固化するセメント粉を貯蔵するホッパーであり、セメントホッパー4の下端に設けられたセメント供給ライン41を介してドラム缶7にセメントを投入する役割を果たしている。セメント供給ライン41は混練時にドラム缶7の開口部を覆う蓋部材34に接続されていて、ドラム缶7の上方側からセメントを投入することができる。
薬液タンク5には放射性廃棄物とセメントとの混練物の硬化を促進する硬化剤などが貯留されており、蓋部材34に接続された薬液供給ライン51を介してドラム缶7に硬化剤などを供給することができるようになっている。
【0026】
混練装置3は本実施の形態の攪拌装置に相当し、ドラム缶7に投入された放射性廃棄物とセメントとを混練する役割を果たす。図1、図2に模式的に示すように混練装置3は、混練を実行する攪拌翼ユニット36と、この攪拌翼ユニット36の第1、第2の攪拌翼361、362を軸周りに回転させる駆動軸33とを備えている。
【0027】
図2に示すように混練装置3は、ボールネジ機構に接続された支持台37上に固定されており、垂直方向に配置したボールネジ383を、モーター381によって正転、逆転させることにより支持台37を昇降させて、これにより混練装置3全体を上下に移動させることができる。図中、382は処理設備1の側壁121面にてボールネジ383を保持する保持部材である。
【0028】
図1〜図3に示すように、モーター31の下方位置には、混練動作時にドラム缶7の開口部を覆う蓋部材34が設けられている。図2、図3に示すように蓋部材34は支持部材341を介して例えば処理設備1の側壁121に固定されており、図1、図3に示すように既述のセメント供給ライン41及び薬液供給ライン51はこの蓋部材34を貫通してドラム缶7の配置される空間に向けて開口している。
【0029】
さらに図2、図3に示すように蓋部材34には貫通孔342が設けられており、この貫通孔342には混練装置3の駆動軸33が貫通している。この駆動軸33は貫通孔342内を上下に自由に移動することが可能であり、既述の支持台37の上下移動に合わせて駆動軸33が貫通孔342内を上下に移動する構成となっている。このほか、図3に示す343は混練時にドラム缶7内の雰囲気を排気する排気ラインである。なお、便宜上、図1や図2などの模式図では排気ライン343の記載は省略してあり、また図2ではセメント供給ライン41、薬液供給ライン51の記載は省略してある。
【0030】
図1、図3に示す35は、廃棄物貯槽6における濃縮操作の際に加熱された放射性廃棄物を冷却するための冷却機構である。冷却機構35は例えばドラム缶7の側壁面を外側から覆うことが可能な内曲面を備え、左右2つに分割された半円筒形状の板状部材として構成されている。各冷却機構35の内部には、例えば冷却水などの冷媒を通流させる不図示の冷媒流路が形成されており、ドラム缶7の側壁との接触面を介して冷媒に熱を吸収させることができる。図3に示した351は冷却機構35に冷媒を供給する冷媒供給ラインであり、352は冷却機構35から冷媒を排出する冷媒排出ラインである。
【0031】
また冷却機構35は不図示の移動機構によって左右横方向及び上下方向に移動することができるようになっており、例えば図3に示すようにドラム缶7が搬入される領域から左右外側に退避した待機位置と、図9に示すように混練装置3の下方側に搬入されたドラム缶7の側壁の周囲を覆い、ドラム缶7の冷却処理を実行する処理位置との間を移動させることが可能となっている。
なお、冷却機構は保温機構または加温機構であってもよい。これらの機構を利用することにより混練前に廃液が冷えてしまった場合、または所定の混練温度より廃液の温度が下がってしまった場合に、廃液中に塩が析出すること等を防ぐことができるからである。
【0032】
ここでドラム缶7内にて混練される混練物(放射性廃棄物とセメントとの混合物)は、混練開始時において粘度が低く、セメント投入量の増加と共に粘度が高くなるという特徴を有している。またドラム缶7内における混練物上面の高さ位置は、混練開始時において低く、セメント投入量の増加に伴って高くなっていく。
【0033】
混練物の粘度が次第に高くなるという特徴を踏まえると、混練装置3には攪拌翼を多段に設け、より強力な攪拌作用を得て滞留部や混練のムラの発生を抑制することが望ましい。一方で、セメントはドラム缶7の上面側に設けられた開口部から投入されること、混練物の上面の位置はドラム缶7内の下部側から次第に上昇していくことを考慮すると、このような方法でセメントが投入されるドラム缶7内に複数段の攪拌翼を上下方向に配置することは、背景技術にて説明した液跳ね等を引き起こすおそれがあり好ましくない。
【0034】
そこで本実施の形態に係る混練装置3に設けられた攪拌ユニット36は、例えば上下2段に配置した攪拌翼の例えば上段側の攪拌翼が混練物の上面位置と共に上昇することが可能となっている。以下、当該攪拌ユニット36の構成について図3〜図6を参照しながら説明する。図3、図4に示すように本実施の形態に係る攪拌翼ユニット36は、回転軸363と、第1の攪拌翼361及び第2の攪拌翼362とを備えている。
【0035】
図3に示すように回転軸363は駆動軸33に接続されて鉛直軸周りに回転自在に構成された円柱形状の部材である。回転軸363は、例えば図9に示すように、ドラム缶7を処理位置まで移動した状態において攪拌翼ユニット36全体がドラム缶7内に格納される長さに形成されている。
【0036】
回転軸363の下端には、放射性廃棄物とセメントとの混練を実行する第1の攪拌翼361が固定されている。第1の攪拌翼361は例えば板状の部材から構成される4枚の攪拌部材360を備えており、これらの攪拌部材360は回転軸363を中心として径方向に放射状に伸びるように互いに等間隔で配置されている。各攪拌部材360は例えば幅広に形成された攪拌面が第1の攪拌翼361の回転方向に対して直交した状態となるように例えばボス部材を介して回転軸363に固定されている。
【0037】
このように回転軸363の下端に固定された第1の攪拌翼361の上段側には、第2の攪拌翼362が設けられている。図4〜図6に示すように、第2の攪拌翼362には、回転軸363を取り巻くように設けられた短管状のボス部材365が設けられており、このボス部材365の外周面に、4枚の攪拌部材360が径方向に伸びるように互いに等間隔で配置されている点は既述の第1の攪拌翼361と同様である。一方、第2の攪拌翼362のボス部材365は、回転軸363に固定されておらず、またボス部材365の内径は回転軸363の外径よりもやや大きくなっていることにより、第2の攪拌翼362が回転軸363の周りに回転自在、回転軸363に沿って上下方向に昇降自在に構成されている点は第1の攪拌翼361と異なっている。これら第1、第2の攪拌翼361、362のうち、第2の攪拌翼362は本実施の形態の攪拌翼に相当し、第1の攪拌翼361は他の攪拌翼に相当している。
【0038】
図4、図5に示すように回転軸363には、周方向に回転自在、上下方向に昇降自在に構成された第2の攪拌翼362の動作方向を案内するための螺条部364が設けられている。螺条部364は回転軸363の表面に彫られた溝状の軌道であり、混練動作時の回転軸363の回転方向を正転方向としたとき、正転方向とは逆方向に回転しながら回転軸33に沿って上方向に伸びる螺旋状の軌道として構成されている。また図5では便宜上、攪拌部材360の記載は省略してある。
【0039】
図5、図6に示すように第2の攪拌翼362のボス部材365の例えば中心の高さ位置には、送りねじ366がボス部材365の径方向に向けて貫通しており、当該送りねじ366の先端部は螺条部364内に挿入されている。送りねじ366の先端部には、例えば半球状の走行部材367が設けられている一方、回転軸363の溝形状は例えばこの走行部材367に対応した半球形状に切り欠かれており、走行部材367は回転軸363内を滑らかに走行することができる。また送りねじ366の先端部には、転動自在に構成したボール状の転動体を埋め込み、当該転動体が螺条部364内で転がる構成としてもよい。
【0040】
以上に説明した構成を備えることにより、第2の攪拌翼362は回転軸363に螺合下状態となり、攪拌部材360から正転方向とは反対の方向(逆転方向)に働く力を受けると、走行部材367が螺条部364に案内され、これにより第2の攪拌翼362は逆転方向に回転しながら上昇し、その高さ位置を変えることになる。これとは反対に攪拌部材360に正転方向に働く力を受けると、第2の攪拌翼362は正転方向に回転しながら降下することになる。
【0041】
また攪拌部材360に働く力は螺条部364の伸びる方向に沿って第2の攪拌翼362を動作させる力として働くことになるが、この螺条部364に沿って働く力を水平成分と垂直成分とに分解したとき、この垂直成分の力が、第2の攪拌翼362に働く重力より、混練物から働く浮力を差し引いた下向きの力よりも小さくなるとき、第1の攪拌翼361は自重により降下して第1の攪拌翼361上に載置されることになる。
【0042】
ここで図5に示すように、螺条部364の傾斜面が水平方向に対して成す角度αは、例えば10°〜70°の範囲内に設定される。螺条部364の傾斜を小さくすると第2の攪拌翼362の回転力を大きくすることができるので、螺条部364と走行部材367との間に多少の異物を噛み込んだとしても第2の攪拌翼362は回転軸363に固着しにくくなる。一方、螺条部364の傾斜を大きくすると螺旋を成す螺条部364の巻数が少なく、螺条部364全体の距離が短くなるので螺条部364と走行部材367との間に異物を噛み込む確率を小さくすることができる。
【0043】
また図3、図4に示すように螺条部364は回転軸363の途中の高さ位置にて途切れている。螺条部364が途切れている終端部の高さ位置は、ドラム缶7内に予め設定した量の混練物を投入した状態において、第2の攪拌翼362が混練物の上面から飛び出さず、且つ、前記上面近傍の混練物内にて混練を行うことが可能な高さに設定されている。
【0044】
以上に説明した構成を備えた処理設備1の搬送装置2や混練装置3、セメントホッパー4、薬液タンク5、廃棄物貯槽6の払い出し機構などは、これら各部の動作を制御する制御部8と接続されている。制御部8は、CPU、メモリ及びプログラム格納部を備えており、処理設備1の各部の動作を実行するための制御信号を出力するように構成されている。プログラム格納部には、処理設備1の各部の動作に係る制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されており、このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0045】
次に本実施の形態の処理設備1の作用について説明する。はじめにルーム11側では、放射性廃棄物を充填するドラム缶7を搬送装置2の載置台21上の所定の位置に載置する一方、セル12内では、冷却機構35を待機位置まで移動させた状態で待機している。
【0046】
次に搬入出口141の開閉扉14を開き、セル12内に搬送装置2を進入させた後、開閉扉14を閉じ、ドラム缶7を廃棄物貯槽6の下方位置まで搬送する。そして図7(a)に示すように、搬送装置2の載置台21を上昇させ、ドラム缶7の開口部に廃棄物貯槽6の払出部61を挿入する。廃棄物貯槽6側においては、例えばドラム缶7が搬送されてきたタイミングで放射性廃棄物の払い出しを開始できるように、放射性廃棄物の濃縮操作を予め行っておく。しかる後、払出部61を介して廃棄物貯槽6からドラム缶7への放射性廃棄物の投入を実行し、予め定められた量の放射性廃棄物を投入したら、投入動作を終了する。
【0047】
次いで、放射性廃棄物を受け入れたドラム缶7を混練装置3の下方位置まで搬送し、載置台21を上昇させて図3に示すように冷却機構35の間にドラム缶7を進入させ、上面の開口部側から攪拌翼ユニット36の下端部をドラム缶7内に侵入させる。このとき第2の攪拌翼362の攪拌部材360には周方向の力が働いていないので、第2の攪拌翼362は自重により最下端位置である第1の攪拌翼361上に載置された状態となっている。
【0048】
そして冷却機構35を横方向に移動させてドラム缶7の周囲を冷却機構35で囲み、これらドラム缶7及び冷却機構35を上昇させてドラム缶7の開口部を蓋部材34にて覆うと共に、混練装置3のボールネジ機構を作動させて混練動作の行われる位置まで攪拌翼ユニット36を移動させる。このとき冷却機構35においては冷媒の通流が開始されており、冷却機構35にて囲まれたドラム缶7の冷却が開始されている。
【0049】
ドラム缶7、冷却機構35、攪拌翼ユニット36を処理位置にセッティングしたら、図7(b)に示すようにセメントホッパー4からのセメントの投入、及び薬液タンク5からの硬化剤などの投入を開始すると共に、モーター31を駆動して攪拌翼ユニット36の回転軸363を例えば数十rpm〜数百rpm程度で回転させる。放射性廃棄物にセメントを投入して混練を行うことによりセメントと放射性廃棄物中に含まれる水分とが反応して混練物が次第に固化していく。
【0050】
このとき既述のように第2の攪拌翼362は、自重によって最下端位置まで降下しており、第1の攪拌翼361上に積み重なった状態となっている。そして本例では、上下に積み重なった攪拌翼361、362の全体が、セメントの投入を開始する前の放射性廃棄物の液溜まり内に沈んだ状態となるように放射性廃棄物の投入量や攪拌部材360の高さが調節されている。
【0051】
このように2つの攪拌翼361、362の全体を液溜まり内に沈めた状態でセメントの投入を開始することにより、回転する各攪拌翼361、362と交差することなく、放射性廃棄物の液面に向けて直接セメントを投入することができる。この結果、攪拌翼361、362と交差したセメントがドラム缶7内に勢いよく撒き散らされて着液時に液跳ねを引き起こすといった問題の発生を抑えることができる。
【0052】
ここで図9に示すように、本例に係る混練装置3では、蓋部材34にてドラム缶7の開口部を覆っているので、仮に液跳ねが発生したとしてもその液跳ねにより発生したミストがドラム缶の外へと流出して外部の空間を汚染する可能性は少ない。しかしながらこうした液跳ねによって蓋部材34が汚染されてしまうと、混練を終えドラム缶7が搬出された後に、放射性廃棄物やこれを含む混練物の液滴が蓋部材34から滴下してセル12を汚染してしまうおそれもある。このため、セメント投入時における放射性廃棄物や混練物の液跳ねはできる限り抑えることが好ましい。従って本例のように2つの攪拌翼361、362が放射性廃棄物の液溜まり中に沈められている場合においても、例えば投入開始時におけるセメントの投入量は少なめに調整し、セメントを放射性廃棄物の液面に直接投入することによる液跳ねの発生をできる限り抑えることが望ましい。
【0053】
こうして放射性廃棄物とセメントとの混練が開始された後、セメントや硬化剤などの投入を継続していくと、ドラム缶7内の混練物の容量が増え、混練物の上面の位置が次第に上昇していく。このとき、混練物を攪拌する第1、第2の攪拌翼361、362の各攪拌部材360には、混練物側からの抵抗により回転方向とは反対向きの力(抵抗力)が働く。またセメントの投入量が増えるにつれて混練物の密度は大きくなっていくので、密度変化に伴って攪拌翼361、362に働く浮力は大きくなっていく。
【0054】
このように2つの攪拌翼361、362には混練物側から種々の力が働くことになるが、既述のように第1の攪拌翼361は回転軸363に固定されているので、混練物側の状態変化に係らず第1の攪拌翼361は回転軸363と共に回転する。これに対して第2の攪拌翼362は回転軸363周りに周方向に回転自在、上下方向に昇降自在に構成されていることから、混練物から受ける力を受けて回転軸363に対して相対的に移動することができる。
【0055】
ここで図5、図6を用いて説明したように、第2の攪拌翼362は走行部材367を螺条部364内に挿入した状態で保持されている。このため、回転軸363の外周面とボス部材365の内周面との間の摩擦などを無視すると、第2の攪拌翼362の運動は回転軸363側から走行部材367に働く力と、攪拌部材360を介して混練物側から走行部材367に働く力とのバランスによって説明することができる。
【0056】
図11(a)は、回転軸363を側面から見たときにおける、走行部材367に働く力のバランスを示している。回転軸363は鉛直軸周りに回転している一方、走行部材367は螺旋状に伸びる螺条部364内で回転軸363と接しているので、回転軸363から走行部材367に対しては、回転軸363の回転力のうち螺条部364の傾斜と直交する成分Frが加わる。図中、Frvは前記Frの垂直成分であり、Frhはその水平成分である。また鉛直軸周りに回転する第2の攪拌翼362の各攪拌部材360が混練物から受ける抵抗力によって走行部材367に水平方向に作用する力をFD、第2の攪拌翼362に働く重力から浮力を差し引いた力に基づいて走行部材367に作用する下向きの力をFgとする。
【0057】
このとき、走行部材367が回転軸363から受ける力の水平成分と混練物から受ける抵抗力とが釣り合って「Frh=FD」となり、また回転軸363から受ける力の垂直成分と下向きの力が釣り合って「Frv=Fg」となったとき、走行部材367に働く力がバランスする。この結果、走行部材367は螺条部364内を移動することなく停止し、第2の攪拌翼362は回転軸363と一体となって回転する。
【0058】
一方、例えば図11混練物から受ける力F’Dが回転軸363から受ける力の水平成分よりも大きくなって「Frh<F’D」となると、図11(c)に示すように走行部材367には回転方向とは反対向きの力ΔF(=F’D−Frh)が加わる。そして走行部材367に働く力ΔFのうち、螺条部364の傾斜に沿った方向の成分ΔFxの作用によって走行部材367は螺条部364に沿って上方側へと移動し、第2の攪拌翼362は回転軸363の回転方向とは反対向きの方向(逆転方向)に相対的に回転する。また、これとは反対に「Frh>F’D」となった場合には、走行部材367は螺条部364に沿って下方側に移動していくことになる。
【0059】
また例えば図12(a)に示すように走行部材367に働く下向きの力F’gが回転軸363から受ける力の垂直成分よりも小さくなって「Frv>F’g」となると、図12(b)に示すように走行部材367には上向きの力ΔF’(=Frv−F’g)が加わる。そして走行部材367に働く力ΔF’のうち、螺条部364の傾斜に沿った方向の成分ΔF’xの作用によって走行部材367は螺条部364に沿って上方側へと移動し、第2の攪拌翼362は回転軸363の回転方向とは反対向きの方向(逆転方向)に相対的に回転する。また、これとは反対に「Frv<F’g」となった場合には、走行部材367は螺条部364に沿って下方側に移動していくことになる。
【0060】
こうした走行部材367に働く力のバランスを踏まえて混練動作実行中の第2の攪拌翼362の動作を説明する。今、放射性廃棄物の液溜まり内に第2の攪拌翼362を沈めた状態で回転軸363を回転させ、セメントの投入を開始すると第2の攪拌翼362は回転軸363と共に回転を始める。一方、第2の攪拌翼362は混練物からの抵抗力を受けて図11(c)に示すように螺条部364に沿って走行部材367を上方側に移動させる力が働く。また第2の攪拌翼362の全体を混練物内に沈めた状態においては、第2の攪拌翼362に働く浮力が大きく、走行部材367に下向きに作用する力は相対的に小さくなるので、図12(a)、図12(b)に示したように螺条部364に沿って走行部材367を上方側に移動させる方向の力が働く。
【0061】
そこで本実施の形態に係る第2の攪拌翼362は、回転軸363を例えば数十rpm〜数百rpm程度で回転させたときに、図11(c)、図12(b)に示した螺条部364に沿って上方側へ働く力の合計「ΔFx+ΔF’x」が正の値となるように、例えば第2の攪拌翼362の重さが数kg〜数十kg程度に設定されている。
【0062】
この結果、回転軸363を回転させると、第2の攪拌翼362は当該回転軸363と共に回転しつつも、その回転速度が回転軸363よりもやや小さくなって、回転軸363の回転方向(正転方向)とは反対の方向(逆転方向)に相対的に回転しながら混練物内を上昇していく。
【0063】
こうして混練物内を上昇していくと、第2の攪拌翼362はやがて混練物の上面に到達する。このときドラム缶7内の混練物は各攪拌翼361、362により攪拌されて渦巻き状の流れが形成され、この結果、混練物の上面は例えば図10(a)に示すように、すり鉢状に中央部が窪んだ形状となっている。
【0064】
このようなすり鉢状の面に第2の攪拌翼362が到達すると、図10(a)に示すように例えば回転軸363寄りの攪拌部材360の一部が混練物から飛び出した状態となる。ここで混練物上のドラム缶7内の雰囲気は、例えば大気雰囲気であり、大気はセメントの混練物に比べて粘度がはるかに小さいので、攪拌部材360の一部が飛び出して大気中に露出すると、攪拌部材360に働く抵抗力が小さくなる。また、大気の密度は混練物と比較してはるかに小さく、攪拌部材360の一部が大気雰囲気に露出することによって第2の攪拌翼362に働く浮力も小さくなる。
【0065】
このように混練物から働く抵抗力及び浮力が小さくなると、上述の「ΔFx+ΔF’x」の値が小さくなっていき、この値がゼロとなったところで図11(a)に示したように走行部材367に働く力が釣り合う。この結果第2の攪拌翼362は上昇を止め、回転軸363と同じ回転速度で回転し、混練物の上面から攪拌部材360の一部が大気中に露出した状態のまま混練動作を実行することになる。
【0066】
以上に説明した第2の攪拌翼362の動作をまとめると、回転軸363の回転に伴って第2の攪拌翼362は混練物内を上昇して、混練物の上面位置にて停止することとなる。そしてこの第2の攪拌翼362の動作と並行して、ドラム缶7内にはセメント及び硬化剤などが例えば連続的に投入されており、混練物の上面の位置はセメントなどの投入量の増加に伴って上昇していく。
【0067】
混練物の上面の位置が高くなると、その分だけ第2の攪拌翼362は混練物内に沈むことになるが、その結果、攪拌部材360に働く抵抗力や浮力が大きくなり、走行部材367に働く力が釣り合う位置まで第2の攪拌翼362を押し上げる。こうして第2の攪拌翼362は混練物の上面の位置の上昇に伴って上方側へ移動しながら、攪拌部材360の一部が当該混練物から露出した状態で混練動作を継続することになる。
【0068】
一方で、混練物へのセメントの投入量が増えていくと、混練物の密度が増大するので、この密度の増大に伴って攪拌部材360に働く浮力は大きくなる。攪拌部材360に働く浮力が大きくなると、第2の攪拌翼362は上方側へ押し上げられて混練物の上面に露出した部分の攪拌部材360の体積が大きくなる。この結果、ドラム缶7内の混練物の量が増えるに連れて、第2の攪拌翼362は混練物内から次第に押し出され、最終的には攪拌部材360の下端部で混練物の上面をなでるように混練動作を行うことになってしまうおそれもある。
【0069】
そこで本実施の形態に係る攪拌翼ユニット36では、図4にて説明したように螺条部364を回転軸363の途中の高さ位置にて終端し、ドラム缶7内に予め設定した量の混練物を貯留した状態において、第2の攪拌翼362が混練物の上面から露出せず、且つ、混練物内の上面近傍の位置にて混練を行うことが可能な高さに前記終端部の高さ位置を設定している。
【0070】
この結果、混練物の上面が螺条部364の終端部よりも高い位置に達したら、走行部材367は当該終端部にて上方向への移動が規制される。螺条部364の終端部に到達した第2の攪拌翼362はその位置にて混練動作を継続することとなる(図9、図10(b))。本例において回転軸363の上部側の位置に設けられた螺条部364の終端部は、第2の攪拌翼362の位置規制部に相当する。
【0071】
第2の攪拌翼362が上述の動作を行っている期間中、第1の攪拌翼361はドラム缶7の底面部近傍の位置にて混練動作を継続している。このため、本実施の形態に係る混練装置3においては、上面の位置が次第に上昇していく混練物の底面近傍位置と上面近傍位置との2個所にて混練動作を行うことができる。従って、例えば上下2段の攪拌翼を所定の高さ位置に固定した従来タイプの攪拌装置と比較して、混練物が上段側の攪拌翼に到達するまでは下段側の攪拌翼のみで混練が行われ、上段側は空回りした状態となっているといった非効率な動作がなく、常に上下2箇所にて効率的に混練動作を行うことができる。
【0072】
こうして予め設定した量のセメントや硬化剤などを投入し、所定時間混練動作を実行したら、回転軸363の回転を停止する。すると第2の攪拌翼362は、図10(c)に示すように重力の作用によって上昇時とは反対方向に回転しながら降下し、第1の攪拌翼361上に積み重なった位置にて停止する。
【0073】
こうして混練動作を終えたら、図8(a)に示すように載置台21を降下させ、例えば混練装置3や廃棄物貯槽6から離れた位置にてドラム缶7を静置し、混練物を固化させる。しかる後、図8(b)に示す如く開閉扉14を開き、載置台21をルーム11側まで移動させてドラム缶7を搬出し、一連の動作を終える。搬出されたドラム缶7には、例えばドラム缶7を密閉する密閉蓋71が取り付けられ、処理設備1外へと搬出される。
【0074】
本実施の形態に係る混練装置3(攪拌装置)によれば以下の効果がある。混練装置3の回転軸363に形成された螺条部364により、この回転軸363に設けられた第2の攪拌翼362を混練物の抵抗によって回転軸363に対して相対的に回転させ、当該回転軸363の長さ方向に沿って螺条部364の終端位置まで案内することができる。この結果、混練物の上面位置の上昇に合わせて第2の攪拌翼362を上昇させ、下部側の第1の攪拌翼361の作用と相俟って効率的にセメントと放射性廃棄物を効率的に混練し、短時間で均一な混練物を得ることができる。
【0075】
ここで上述の実施の形態に係る混練装置3においては、回転軸363の上部側に設けた螺条部364の終端部を第2の攪拌翼362の規制位置としたが、第2の攪拌翼362を規制位置まで案内する手法はこの方法に限定されない。例えば、第2の攪拌翼362が螺条部364の終端部まで到達しない途中の高さ位置にてセメントの投入をやめる場合などにおいては、攪拌部材360の一部が混練物から露出し、走行部材367に働く力が釣り合って第2の攪拌翼362の上昇が止まる位置が、当該第2の攪拌翼362の規制位置となる。
【0076】
そして回転軸363に設ける螺条部364は、図5に示した如く溝状に形成する場合に限定されない。例えば図13に示すように回転軸363の側周面から螺条部364をレール状に突出させ、この螺条部364に嵌合するようにボス部材365側に溝部368を設けてもよい。
【0077】
以上に説明した実施の形態においては、放射性廃棄物とセメントとを混練する例を示したが、本実施の形態に係る混練装置(攪拌装置)3及び攪拌翼ユニット36を適用可能な攪拌対象はこの例に限られるものではない。放射性廃棄物とセメントのように液体と粉体との混合、また2種類の異なる液体の混合、これら液体と粉体や2種類の液体の混合に際し、気体を吹き込む場合などに行われる各種の流動体の攪拌操作に広く適用することができる。
【0078】
例えば図3、図4に示した攪拌翼ユニット36は、放射性廃棄物以外の種々の流動体を攪拌する攪拌装置に適用できる。この場合には、攪拌翼ユニット36に人がアクセスすることも可能なので、攪拌装置の設置された現場にて攪拌翼ユニット36のメンテナンスを行う場合もありうる。ここで攪拌翼ユニット36は、既述のように攪拌動作を実行していないときには第2の攪拌翼362が回転軸363の下端部まで降下して第1の攪拌翼361上に載置された状態となり、例えば攪拌装置の設けられている施設の床面に近くの比較的アクセスしやすい位置に2つの攪拌翼361、362がまとめられることとなる。このため、例えば攪拌装置が大型である場合などには、2つの攪拌翼361、362に同時にアクセスすることが可能となり、メンテナンスが行いやすくなるといった効果もある。
【0079】
さらに回転軸363の周りに設けられた螺条部364を利用して、当該回転軸363の長さ方向に攪拌翼を案内する攪拌翼ユニット及びこの攪拌ユニットを備えた攪拌装置の構成は、図1〜図13に示した例に限定されるものではなく、種々の構成を採用することができる。以下図14〜図19を用いて説明する各例では、各種流動体を攪拌槽70内にて攪拌混合する一般的な例を述べる。これらの図において図3〜図6等に示した第1の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36(攪拌装置3)と同様の構成要素には、これらと同じ符号を付してある。
【0080】
図14(a)〜図14(c)は、第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36を示している。第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36は、上下2つの攪拌翼362、361の双方が回転軸363に沿って移動可能となっている点が、上部側の第2の攪拌翼362のみを移動可能とした第1の実施の形態と異なっている。
【0081】
第2の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36によれば、回転軸363には、第1の攪拌翼361を案内する螺条部364b及び、第2の攪拌翼362を案内する螺条部364aが互いに平行に設けられている。そして、これら螺条部364b、364aは、回転軸363の下部側の領域において長さ方向に互いに重複する領域に設けられている。一方、第1の攪拌翼361側の螺条部364bは回転軸363の中間の高さ位置で終端されており、第2の攪拌翼362側の螺条部364aは、第1の攪拌翼361側の螺条部364aよりも上方側まで伸びだしている。これにより第1の攪拌翼361、第2の攪拌翼362は各々異なる高さ位置まで上昇することができる。
【0082】
そして攪拌槽70へ混合対象の流動体の供給を開始して回転軸363を正転させると(図14(a))、2つの攪拌翼361、362はそれぞれの螺条部364a、364bに案内され、流動体の上面と共に上昇していく(図14(b))。そして、第1の攪拌翼361が螺条部364bの終端部に到達すると、第1の攪拌翼361の上昇はその位置で規制される一方、第2の攪拌翼362は流動体の上面と共にさらに上昇し、螺条部364aの終端位置にて規制される。ここで回転軸363の下端部に、回転軸363に固定された第3の攪拌翼をさらに設けてもよいことは勿論である。
【0083】
図15(a)は昇降する攪拌翼362を一つだけ設けた第3の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36を示している。本例に係る攪拌翼ユニット36では、図10(a)〜図10(c)に示した第1の実施の形態に係る攪拌翼362と同様の原理により攪拌翼362を上昇させ(図15(b))、当該攪拌翼362が螺条部364の終端部に達したら回転軸363の回転を停止して(あるいは逆転させて)、攪拌翼を回転させながら降下させる(図(c))。その後、回転軸363の正転と停止(または正転と逆転)を繰り返して、攪拌翼362を上下動させながら攪拌を行うことにより、攪拌槽70内の流動体を高さ方向に満遍なく攪拌することができる。
【0084】
図16に示す第4の実施の形態は、螺条部364の終端部に、当該螺条部364を下方側へ向けて傾斜させた落とし込み部369を設けた攪拌翼ユニット36である。本例に係る攪拌翼ユニット36において、落とし込み部369は、第2の攪拌翼362の走行部材367が落とし込まれる部位であり、第2の攪拌翼362を当該高さ位置に固定する役割を果たす。この結果、2回目以降の攪拌動作においては、2つの攪拌翼361、362は、上下2段に固定された高さ位置にて流動体の攪拌を実行することになる。
【0085】
そして第2の攪拌翼362のメンテナンスを行う場合には、例えば回転軸363を逆転方向に急激に回転させることにより第2の攪拌翼362に働く慣性力を利用して走行部材367を落とし込み部369内から抜け出させ、回転軸363を停止または逆転させることにより第2の攪拌翼362を回転軸363の下端部まで降下させることができる。ここで落とし込み部369は、図16に示したように下向きに傾斜させる場合に限定されず、例えば垂直方向下向きとなるように設けてもよい。この場合は、回転軸363を反転させることでは走行部材367を落とし込み部369内から抜け出させることは困難になるが、少なくとも使用開始時には第2の攪拌翼362は回転軸363の下端部に位置しているので、例えば第2の攪拌翼362の取り付け時の作業などが容易になる。
【0086】
このほか、例えば図10(a)に示した攪拌翼ユニット36では、攪拌部材360の一部が流動体の上面から露出した状態で走行部材367に働く力が釣り合い、第2の攪拌翼362の上昇が規制される場合を示した。これに対して、第2の攪拌翼362全体が流動体内を流動体内に沈めた状態であっても図11(a)に示したように螺条部364に働く力が釣り合った状態とすることができれば、第2の攪拌翼362の上昇を規制することができる。
【0087】
例えば、攪拌槽70の底部に密度の大きな液体の液溜まりを形成し、この中に昇降可能に構成された攪拌翼362を沈め、当該液溜まりに密度の小さな液体を注入しながら回転軸363の回転を開始する。すると攪拌翼362は液体からの抵抗力と浮力を受けて螺条部364に案内されながら上昇を開始するが、密度の小さな液体を注入することにより、攪拌槽70内の液体の密度は次第に低下していく。この結果、攪拌翼362に働く浮力は次第に小さくなり、当該走行部材367に下向きに働く力が大きくなっていく。そして、既述のΔF’xが負の値となり、螺条部364の傾斜に沿って走行部材367に対して上方側に働く力の合計「ΔFx+ΔF’x」がゼロとなれば、攪拌翼362全体が液体中に沈んだ状態のままであっても攪拌翼362の上昇は停止し、この位置が当該攪拌翼362の停止位置となる。
【0088】
以上に説明した各実施の形態では回転軸363を垂直方向に配置した例を説明したが、例えば回転軸363を水平方向に配置する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、図17(a)、図17(b)は回転軸363を水平方向に配置した第5の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36(攪拌装置3)を示している。回転軸363を垂直に配置する場合と異なり、回転軸363を水平に配置する場合には、攪拌翼362に働く浮力と重力とのバランスを利用して攪拌翼362の移動を規制することができない。このため、例えば攪拌翼の移動範囲を予め設定しておき、攪拌翼362が当該移動範囲の端部に達したら回転軸363の回転方向を逆向きにして攪拌翼362の移動方向を反転させることによりこの移動範囲の両端を規制位置とすることができる。
【0089】
回転軸363を水平に配置する場合にも、図18(a)、図18(b)に示すように回転軸363に複数の攪拌翼362a〜362cを設け、これらの各々に対応する螺条部364a〜364cによって攪拌翼362a〜362cが案内されるように構成してもよい。図18(a)、図18(b)に示した第6の実施の形態においても、図14(a)〜図14(c)の第2の実施の形態と同様に、各螺条部364a〜364cは互いに平行に設けられている。また各攪拌翼362a〜362cが共通に通過する領域においては、当該領域を通過する攪拌翼362a〜362cに対応した各螺条部364a〜364cが回転軸363の長さ方向に重複して設けられている点も、既述の第2の実施の形態と同様である。
【0090】
図19(a)、図19(b)は、上述の第6の実施の形態に係る攪拌翼ユニット36の例えば通常運転時の状態(図19(a))と、メンテナンス時の状態(図19(b))とを示している。通常運転時には、回転軸363の回転方向を正転、逆転させ、所定の移動範囲内で各攪拌翼364a〜364cを移動させながら攪拌を実行し、メンテナンス時はこれら攪拌翼364a〜364cを一箇所に集めることによって攪拌翼364a〜364cのメンテナンスが容易になる。特に排水処理設備など、一辺が数m〜数十mの大型の攪拌槽70で攪拌動作を行う場合などにおいて有用となる。
【0091】
また図14(a)〜図14(c)の攪拌翼361、362や図18(a)〜図18(b)に示した攪拌翼362a〜362cのように複数の攪拌翼を移動可能に構成する場合において、これらの攪拌翼は別々の螺条部によって案内する場合に限定されず、共通の螺条部364で案内する構成としてもよい。例えば各々の攪拌翼を異なるサイズ、重さとして、各攪拌翼に加わる流動体からの抵抗力や浮力、重力を調節し、各々の攪拌翼が異なる速度で回転軸363の長さ方向に案内される構成とすることにより、これらの攪拌翼が互いに干渉せず共通の螺条部364に沿って移動する構成とすることができる。
なお、攪拌部材360の形状や枚数は図示したものに限定されず、混合対象にあわせて最適な形状等を選定できる。
【符号の説明】
【0092】
1 処理設備
11 ルーム
12 セル
2 搬送装置
3 混練装置、攪拌装置
36 攪拌翼ユニット
360 攪拌部材
361 第1の攪拌翼
362、362a〜362c
第2の攪拌翼、攪拌翼
363 回転軸
364、364a〜364c
螺条部
4 セメントホッパー
5 薬液タンク
6 廃棄物貯槽
7 ドラム缶
70 攪拌槽
8 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体を攪拌する装置において、
回転軸と、
この回転軸を回転させる駆動部と、
前記回転軸に螺合され、流動体を攪拌するための攪拌翼と、
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内される螺条部と、を備えたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記攪拌翼が規制位置に置かれている状態で回転軸を正転させることにより当該攪拌翼が回転軸と共に回転することを特徴とする請求項1記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記規制位置は、回転軸に設けられた位置規制部により攪拌翼の移動が規制される位置であることを特徴とする請求項1または2記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記回転軸は上下方向に伸びるように設けられ、
前記規制位置は、前記攪拌翼の一部が流動体の上面から露出することにより、前記攪拌翼に働く力が釣り合って攪拌翼の移動が規制される位置であることを特徴とする請求項1または2記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記回転軸には、前記攪拌翼以外に他の攪拌翼が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載された攪拌装置。
【請求項6】
前記他の攪拌翼は回転軸に固定されていることを特徴とする請求項5記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って案内される、前記螺条部とは異なる他の螺条部と、
前記回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼における回転軸の長さ方向の移動を規制するために、前記回転軸の長さ方向において前記規制位置とは異なる位置に設けられた位置規制部と、を備えたことを特徴とする請求項5記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記螺条部の形成領域と他の螺条部の形成領域とは、回転軸の長さ方向において互いに重複していることを特徴とする請求項7記載の攪拌装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載された、回転軸及び攪拌翼からなることを特徴とする攪拌翼ユニット。
【請求項1】
流動体を攪拌する装置において、
回転軸と、
この回転軸を回転させる駆動部と、
前記回転軸に螺合され、流動体を攪拌するための攪拌翼と、
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って規制位置まで案内される螺条部と、を備えたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記攪拌翼が規制位置に置かれている状態で回転軸を正転させることにより当該攪拌翼が回転軸と共に回転することを特徴とする請求項1記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記規制位置は、回転軸に設けられた位置規制部により攪拌翼の移動が規制される位置であることを特徴とする請求項1または2記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記回転軸は上下方向に伸びるように設けられ、
前記規制位置は、前記攪拌翼の一部が流動体の上面から露出することにより、前記攪拌翼に働く力が釣り合って攪拌翼の移動が規制される位置であることを特徴とする請求項1または2記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記回転軸には、前記攪拌翼以外に他の攪拌翼が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載された攪拌装置。
【請求項6】
前記他の攪拌翼は回転軸に固定されていることを特徴とする請求項5記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記回転軸に形成され、当該回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼が流動体の抵抗によって当該回転軸に対して相対的に回転することにより当該回転軸の長さ方向に沿って案内される、前記螺条部とは異なる他の螺条部と、
前記回転軸を正転させたときに前記他の攪拌翼における回転軸の長さ方向の移動を規制するために、前記回転軸の長さ方向において前記規制位置とは異なる位置に設けられた位置規制部と、を備えたことを特徴とする請求項5記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記螺条部の形成領域と他の螺条部の形成領域とは、回転軸の長さ方向において互いに重複していることを特徴とする請求項7記載の攪拌装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載された、回転軸及び攪拌翼からなることを特徴とする攪拌翼ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−41932(P2011−41932A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193592(P2009−193592)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
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