説明

改善された熱安定性を有する触媒を担持したディーゼル粒子状物質フィルター

アルカリ土類金属のバナジン酸塩と貴金属とを含み、触媒材料のためのセリア、酸化ランタン、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化スズのいずれかの助触媒を添加したアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアの高表面積支持材でウォッシュコートされた、ディーゼル粒子状物質排気ガスをろ過するための多孔質フィルター担体を含む、改善されたディーゼル粒子状物質酸化活性および熱安定性を有する、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された熱安定性および改善されたディーゼル粒子状物質酸化活性を有する、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルターである。この触媒担持フィルターは、高表面積支持材でウォッシュコートされた、ディーゼル粒子状物質をろ過するための多孔質フィルター担体を含む。支持材の例には、セリア、酸化ランタン、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化スズ、またはそれらの組み合わせの助触媒を添加した、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、またはそれらの組み合わせがある。フィルターの触媒材料は、アルカリ土類金属のバナジン酸塩と貴金属とを含みうる。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、高温で燃料 (炭化水素) を燃焼させることにより機能する。理論的には、燃焼プロセスの産物はCO2 と水である。しかし、燃焼プロセフスが不完全で、結果として望ましくない副生物、例えば一酸化炭素、炭化水素およびすすが生成することは稀ではない。内燃機関で生じるその他の反応には、酸化窒素を生じる窒素分子の酸化、SO2 と少割合のSO3 を生成するイオウの酸化がある。さらに、温度が低下すると、SO3 はH2O と反応して硫酸を生成しうる。灰などのその他の無機材料も生じる。これらの反応の産物は、望ましくない気体状、液体、および固体の内燃機関排出物質となる:気体状排出物質−一酸化炭素、炭化水素、酸化窒素、二酸化イオウ;液相排出物質−未燃焼燃料、潤滑剤、硫酸;および固相排出物質−炭素 (すす) 。液相の炭化水素、固相のすす、および硫酸の組み合わせにより、しばしば全粒子状物質 (total particulate matter) と称される小滴が形成される結果となる。
【0003】
最も普通のタイプの内燃機関は、ディーゼルエンジンおよびオットーエンジンである。オットーエンジンに比べて、ディーゼルエンジンは粒子状物質をより多く放出し、空気の質およびヒトの健康により大きい脅威を与える。これらのリスク低減するために、ディーゼル粒子状物質の放出の制御に大きな努力がなされてきた。1つのよく知られた取り組みは、排気粒子状物質を捕捉するフィルターを使用することである。フィルターが、これを通って流れる排気ガスに透過性であり、しかもすべての粒子状物質のほとんどを拘束しうるように、これらのフィルターは一般的に、多数の細孔が貫通して延び、小さい断面を有した多孔質の固体材料から製造される。フィルター中に捕集された粒子状物質の量が増加するにつれ、フィルターを通過する排気ガスの流れが徐々に遅くなり、その結果フィルター内の背圧が高くなり、エンジン効率が低下することになる。
【0004】
通常、背圧があるレベルに達すると、フィルターは、それが置換可能なものであれば廃棄するか、あるいは再使用できるように、フィルターを取り出し、捕集した粒子状物質を約600 〜650 ℃の温度で焼却することにより再生する。空気と燃料の混合物を定期的に増やすことにより、その場でのフィルターの再生を行うこともできる。このような増加は排気ガスの温度をより高くする。この高い排気ガス温度により、フィルター中に含まれる粒子状物質は焼却される。
【0005】
600 ℃より高い温度でのディーゼル粒子状物質フィルターの熱再生は、すすの制御されない着火、温度の上がりすぎ、およびフィルター担体の損傷を引き起こしうるため、一般に望ましくない。さらに、熱再生は、多量のエネルギーを消費する。むしろ、より低い温度でのディーゼル粒子状物質フィルターの再生が好ましい。かかる再生は触媒の助けによりなしうる。例えば、米国特許第5,100,632 号および第4,477,417 号は、600 ℃より低い温度で再生するであろう触媒担持フィルターを教えている。
【0006】
いくつかの特許がディーゼル排気粒子状物質フィルターのための組成を教示している。組成の多くは特定のバナジウム化合物と白金化合物との組み合わせを使用している。例えば、米国特許第4,510,265 号には、白金族の金属とバナジン酸銀を含む溶液をセラミックスモノリス担体材料に被覆することにより作製した、被覆されたディーゼル粒子状物質フィルターが開示されている。別のディーゼル排気粒子状物質フィルターが米国特許第4,588,707 号に開示され、そこでは酸化リチウム、塩化銅、酸化バナジウム/アルカリ金属酸化物の組み合わせ、または貴金属から製造した触媒的に活性な物質をフィルター担体に被覆している。
【0007】
米国特許第5,514,345 号は、ディーゼル排気ガスの浄化のための開放気泡型モノリス触媒を教えている。このモノリスは、活性成分としてバナジウムを含む酸化物および白金族の金属で被覆されている。
【0008】
米国特許第6,013,599 号は、ウォッシュコート(washcoating) が固定された多孔質の耐熱性担体材料から形成された、その場で再生可能なディーゼル排気ガス微粒子フィルターを開示している。一態様におけるウォッシュコートは、酸性の鉄含有化合物と銅含有化合物とを混合し、アルカリ金属塩水溶液と酸性のバナジウム含有化合物を添加し、最後にその混合物にアルカリ土類金属化合物スラリーを添加することにより形成される。
【0009】
これらの特許はディーゼル粒子状物質用のフィルターとして使用するための多数の異なる材料組成を開示しているが、これらのフィルターの使用中に圧力降下が増大することに関連する重大な問題が依然として存在する。さらに、触媒が低表面積担体に直接被覆されると、温度の上昇とともに触媒の熱安定性が低下する。触媒は再生の間、焼結し失活する。さらに、ディーゼル燃焼触媒には良好なイオウ毒耐性をもたず、また、高温で失活するものもある。
【発明の開示】
【0010】
本発明は高表面積支持材でウォッシュコートされた (washcoated) 多孔質フィルター担体を含む、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルターである。この支持材は好ましくは、酸化ランタン、セリア、酸化タングステン、酸化スズ、またはそれらの組み合わせの助触媒を添加されている。助触媒を添加した支持材にはまた、好ましくはアルカリ土類金属のバナジン酸塩、好ましくはマグネシウム、カルシウムもしくはバリウムのバナジン酸塩、と貴金属、好ましくは白金とを含浸させる。ディーゼル粒子状物質排気フィルターの製造方法も、ディーゼル排気フィルターを用いてディーゼル排気ガスから粒子状物質をろ過する方法として教示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ディーゼル排気ガスに使用するための、触媒担持ディーゼル粒子状物質排気フィルターに関する。本発明の実施において、触媒担持ディーゼル粒子状物質排気フィルターはディーゼルエンジンの排気ガス処理システムに設けられたフィルターハウジングに設置される。フィルターおよびフィルターハウジングは、存在するかもしれないその他のガスライン要素と共に、エンジンの排気ガスマニホールドと排気パイプ (このパイプは大気中に開放されている) との間に設置する。好ましくは、フィルターはエンジン排気マニホールドに可能なかぎり近く設置し、高温の状態の排気ガスが、フィルターにより捕捉された濾過粒子状物質を焼却し、フィルターを継続して再生するのに使用できるようにする。本発明の触媒担持ディーゼル粒子状物質排気フィルターはフィルターハウジング内に設置される。
【0012】
触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルターは、触媒材料で被覆された、排気流からディーゼル粒子状物質を濾過するための多孔質フィルター担体からなる。多孔質フィルター担体は、排気ガスが通過できて濾過される、薄い多孔質の、壁を有するハニカム、モノリスまたはフォーム構造などの通常の濾過用製品から製造される。好ましくは、フィルター担体は、フィルター担体を通過する排気ガスの流れをあまり妨げたり、制限しないような、有効な通過能力を有する。しかしながら、これはまた、ディーゼル排気ガス中に存在する粒子状物質が排気ガス流から脱落してフィルター担体により保持されるのに十分複雑な通路を含有してなければならない。
【0013】
フィルター担体は、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、マグネシア、チタン酸カリウム、シリカ−アルミナ、シリカ−ジルコニア、チタニア−ジルコニア、チタニア−シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、セラミックスコーディエライト、ムライト並びにこれらの混合物および組み合わせなどの、慣用のフィルター材料から製造すればよい。好ましくは、担体はセラミックス材料および炭化ケイ素材料から製造される。
【0014】
多孔質フィルター担体は、高表面積支持材でウォッシュコートされる。高表面積支持材のウォッシュコートは、その後の触媒材料の分散の向上、および触媒材料の高い熱安定性を生じるであろう。ウォッシュコート材料は好ましくは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、チタニア−シリカ、ゼオライト並びにそれらの混合物および組み合わせから製造される。高表面積を有し、低価格であるためアルミナが好ましい。しかし、アルミナはイオウ毒に対する抵抗性が低い。さらに、Mgが触媒材料の一成分として用いられる場合、アルミナはマグネシウムと反応してアルミン酸マグネシウムのスピネル構造を形成し、表面積の消失および触媒の失活を生じる。
【0015】
高表面積支持材は好ましくは酸化タングステン、酸化モリブテン、酸化ランタン、セリアで改質して、支持材の熱安定性を高め、そしてディーゼル粒子状物質の酸化のための触媒材料の活性を促進させる。高表面積支持材の改質は、予備安定化方法、即ち、高表面積支持材をウォッシュコートする前に改質成分でドープするのが好ましい。というのはこれによりウォッシュコート加工が容易となるためである。ドープ処理した高表面積支持材はいくつか市販されている。チタニア支持材を使用する場合、チタニア上での酸化タングステンの高分散、チタニア表面積の大きな増加、および触媒材料の活性の大きな向上のために酸化タングステンが好ましい。典型的には、ドープ化チタニア中の酸化タングステンの重量割合は5〜15%、好ましくは9〜10%の範囲である。というのは、これが単層分散容量に近いためである。
【0016】
ウォッシュコートされた多孔質フィルター担体は触媒材料で含浸される。触媒材料は、好ましくはアルカリ土類金属のバナジン酸塩および貴金属の組み合わせから製造される。バナジン酸マグネシウム、バナジン酸カルシウムまたはバナジン酸バリウムが好ましく、バナジン酸マグネシウム最も好ましいが、任意のアルカリ土類金属をバナジウムと化合させてアルカリ土類金属バナジン酸塩を生成させうる。酸化マグネシウムを酸化バナジウムと共に利用する場合、酸化バナジウム対酸化マグネシウムの好ましい比は、約1:1から約1:10、好ましくは約1:1から約1:5である。
【0017】
触媒材料の第二の成分は貴金属である。貴金属は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、レニウムおよびオスミウムよりなる群から選択される。好ましい貴金属は、白金、パラジウムおよびロジウムであり、最も好ましいのは白金である。
【0018】
ウォッシュコートされたフィルターに含浸される白金とアルカリ土類金属バナジン酸塩の好ましい比は、重量比で1:1から1:50であり、好ましくは1:5から約1:20であり、最も好ましくは約1:10である。この比の計算においては、アルカリ土類金属と酸化バナジウム (存在する場合) の重量はアルカリ土類金属のバナジン酸塩に含める。測定値はすべて、フィルター担体の被覆後の重量による。
【0019】
モノリスセラミックス材料、発泡セラミックス材料または炭化ケイ素材料などのフィルター担体の壁への高表面積支持材のウォッシュコートは慣用の方法により行うことができる。例えば、粉末形態の高表面積支持材材料を、まず、粉末を水と混合し、場合により酸性度の変更のために酸を添加し、次いで所望の流動性となるまで一定時間ボールミル加工することにより、スラリー状にする。フィルター担体を次いで、ウォッシュコート用スラリーに浸漬し、その後エアナイフの使用または減圧吸引により余分なスラリーを除去する。余剰のスラリーを除去したら、被覆されたフィルター担体を100 〜150 ℃の温度で約2時間乾燥し、次いで約500 〜600 ℃で約3時間焼成して、フィルター担体上に被覆を固定させる。
【0020】
触媒材料の担持も、慣用方法により行うことができる。例えば、フィルター担体を触媒材料で含浸すればよい。触媒材料をフィルター上へ担持させる好ましい方法は、ウォッシュコートされたフィルター担体を触媒材料で含浸することである。フィルター担体を触媒材料で含浸するための好ましい一態様では、まず、アルカリ土類金属の塩とバナジウムの塩の水溶液を調製する。ウォッシュコートされたフィルター担体を、硝酸マグネシウムや酢酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩と、シュウ酸バナジウムもしくはクエン酸バナジウムなどのバナジウム塩、またはバナジン酸アンモニウムの水溶液に接触させ、550 〜600 ℃の温度で約3時間硬化させる。バナジン酸マグネシウムを製造するためには、溶液中のバナジウムとマグネシウムの原子比は好ましくは約2:3である。カルシウムやバリウムなどのその他アルカリ土類金属のよく知られた塩を、アルカリ土類金属バナジン酸塩を製造するのに使用してもよい。
【0021】
フィルター担体をアルカリ土類金属およびバナジン酸塩で被覆したら、過剰な塩溶液を排出させて、含浸されたフィルター担体を約100 〜150 ℃の温度で約2時間乾燥し、次いで被覆されたフィルターを約500 〜600 ℃の温度で約3時間焼成し、フィルター担体上にバナジン酸マグネシウムを固定させる。
【0022】
ウォッシュコートされたフィルター担体をアルカリ土類金属のバナジン酸塩で含浸した後に、貴金属を被覆されたフィルター担体上に含浸させる。好ましい一態様においては、これはアルカリ土類金属バナジン酸塩で被覆されたフィルター担体を、貴金属塩の水溶液に接触させることにより行う。例えば、選択した貴金属が白金である場合、好ましい塩溶液の1つは白金サルファイトアシッド(platinum sulfite acid)である。被覆されたフィルター担体を貴金属溶液で被覆する。次いで、約100 〜150 ℃の温度で乾燥させ、約500 〜600 ℃で約3時間焼成する。
【0023】
フィルター担体のアルカリ土類金属、バナジウム金属および貴金属化合物での含浸は、一段階法で行うこともできる。一段階法においてフィルター担体を適宜材料で含浸する場合、好ましい方法は、まずアルカリ土類金属塩、バナジウム塩および貴金属塩を含有する水溶液を製造する。例えば、マグネシウムがアルカリ土類金属である場合、好ましい塩の1つは酢酸マグネシウムである。1段階法のための好ましいバナジウム塩の1つはクエン酸バナジウムである。これらの2つの塩を白金サルファイトアシッドなどの白金化合物と混合する。次いで、フィルターをこれらの化合物の溶液中に浸し、余分な液体を、減圧吸引などの通常の方法により除去する。被覆されたフィルター担体を次いで、約100 〜150 ℃の温度で約2時間乾燥し、その後約500 〜約600 ℃の温度で約3時間焼成して被覆フィルター材料を製造する。
【0024】
あるいは、高表面積支持材のウォッシュコートおよび触媒材料の担持を一段階法で行うことができる。一段階法においてフィルター担体被覆を行う場合、高表面積支持材の粉末、アルカリ土類金属、バナジウムおよび貴金属の塩を水性スラリー中に混合する。混合スラリーを約3〜8時間ボールミル加工して、所望の流動性に到達させる。次いで、フィルター担体をスラリーに浸漬し、余分なスラリーをエアナイフの使用または減圧吸引により除去する。被覆されたフィルター担体を次いで、約100 〜150 ℃の温度で乾燥し、500 〜600 ℃の温度で約3時間焼成する。
【0025】
被覆されたフィルター担体の製造において、ウォッシュコートされた高表面積支持材は好ましくはフィルター担体上に、100 g/cf〜5000 g/cf 、好ましくは200g/cf 〜3000g/cf、最も好ましくは300 〜1000 g/cf の担持量で存在する。
【0026】
被覆されたディーゼル粒子状物質排気フィルターの製造において、触媒材料は好ましくはフィルター担体上に、200 〜約1,000g/cf (7.1〜35.5g/l)、好ましくは300 〜700g/cf (10.7 〜約24.9g/l)、最も好ましくは約500 g/cf (17.8g/l)のアルカリ土類金属バナジン酸塩の担持量で、および約20〜約100 g/cf ( 0.7〜3.6 g/l)、最も好ましくは約25 g/cf (0.9 g/l) の貴金属の担持量で存在する。フィルター担体上の触媒材料の全担持量は、約200g/cf 〜約1,000 g/cf (7.1 〜約35.5g/l)である。好ましくは、白金:バナジン酸マグネシウムの比は、約1:1〜約1:50、より好ましくは約1:5〜約1:20、そして最も好ましくは約1:10である。
【0027】
従来のディーゼル粒子状物質用の排気フィルターの多くは、フィルター担体を活性な触媒材料で被覆するのにウォッシュコーティング (washcoating)法を用いている。予想外にも、希釈したスラリーを被覆し、次いで触媒材料を含浸させると、細孔の閉塞を低減させる結果、背圧が減少することが見出された。また予想外にも、本発明の製造方法を用いると、1000 g/cf までのウォッシュコートの担持量および500g/cf までの触媒材料の担持量では圧力降下がほとんど増加しないことも見出された。対照的に、米国特許第6,013,599 号のウォッシュコーティング法を用いると、約480g/cf までの触媒担持量では圧力降下が約100 %増加し、約1030g/cfの触媒担持量では圧力降下が約260 %増加する。
【0028】
また、本発明の触媒を使用すると、触媒の有効な再生のための温度が著しく低下することも予想外に見出された。高表面積支持材の存在により触媒材料の分散が高まる。これにより粒子状物質の酸化のための活性部位がより多くなる。触媒を担持しない多孔質フィルター担体を再生する場合、フィルター担体上の粒子状物質の着火温度は500 〜600 ℃の範囲である。触媒材料を直接の含浸によりフィルター担体上に被覆する場合、担持されたフィルター担体の再生は約380 ℃で起きる。対照的に、本発明の排気フィルターの再生は350 ℃という低い温度で生じる。典型的なディーゼルエンジン排気ガスの温度は、普通の操作中に、この温度に達しうるので、部分的または完全な再生さえも、正常な操作の間に生じ得る。このような程度までの再生温度の低下は従来技術に対して顕著な改善である。
【0029】
また、予想外にも、本発明の触媒が、直接含浸により製造された触媒に比べ優れた熱安定性を有することも見出された。高表面積支持材のウォッシュコートの存在により触媒材料の熱安定性が向上する。直接含浸により製造された触媒担持ディーゼル粒子状物質フィルター担体については、650 ℃48時間での老化試験では、触媒が著しく焼結し、失活させる結果となる。実験室の反応器で行う一酸化炭素およびプロピレンの気相反応では、着火温度 (50%転化) は一酸化炭素については222 ℃、プロピレンについては231 ℃である。最も高い転化率でも90%に達するにすぎない。650 ℃48時間で老化後、着火温度は、COについては226 ℃、プロピレンについては236 ℃となる。一酸化炭素およびプロピレンの最も高い転化率は、400 ℃より高い温度でも約87%である。対照的に、本発明の触媒材料は、一酸化炭素については204 ℃、プロピレンについては212 ℃の着火温度を有し、そして650 ℃で48時間老化後、着火温度は一酸化炭素については195 ℃、プロピレンについては198 ℃である。約275 ℃においては一酸化炭素およびプロピレンの完全な転化が達成される。
【実施例1】
【0030】
(本発明)
約9.5 %のWO3 を含むタングステンドープ化チタニアはMillennium Inorganic Chemicals Companyより入手する。チタニア15kgを水35リットルと混合し、約3時間混練する。次いで、得られたスラリーを約10〜15%の固体含有量まで希釈する。コーニング社のコーディエライトセラミックス・モノリス・ディーゼル粒子状物質フィルター要素 (EX-80 、5.66インチ径で6インチ長さ、平方インチ当たり200 セル) を、このスラリー中に約30秒間浸す。余分なスラリーをアエナイフまたは減圧吸引により除去する。次いで、被覆された担体を100 〜125 ℃において約2時間乾燥し、550 ℃で3時間焼成し、その後室温まで冷却する。合計チタニア担持量は約500g/cf である。
【0031】
次いで、ウォッシュコートされたコーディエライト担体を、硝酸マグネシウムの形でマグネシウムを15g/l 、シュウ酸バナジウムの形でバナジウムを20g/l 含有する水溶液500ml 中に浸漬する。含浸後、余分な液体を減圧吸引によりフィルター要素から除去する。含浸後、フィルター要素を125 ℃で約2時間乾燥し、次いで550 ℃で約3時間焼成する。バナジン酸マグネシウムの担持量は立法フィート当たり300 g(10.6g/l) である。
【0032】
室温に冷却後、フィルター要素を、白金5g/l を含む白金サルファイトアシッド (H4Pt(SO3)4) の水溶液500ml 中に浸漬する。余分な液体を減圧吸引により除去する。含浸後、被覆されたフィルター要素を125 ℃で約2時間乾燥し、次いで550 ℃で3時間焼成する。白金の担持量は重量基準で、立法フィート当たり25g(0.8g/l)である。
【0033】
チタニアのウォッシュコート量が500 g/cfで、バナジン酸マグネシウムの担持量が300 g/cf で、白金の担持量が25g/cf の、直径1.75インチで長さ6インチの大きさのフィルター要素のコアを、全体の要素から取り出し、実験室の反応器において一酸化炭素とプロピレンの気相酸化反応について試験する。試験条件は、CO 700ppm 、プロピレン300ppm、SO2 100ppm、H2O 4%、およびGHSV 30,000/h である。活性を図1に示す。着火温度 (転化率50%) は、一酸化炭素では204 ℃であり、プロピレンでは212 ℃である。275 ℃より高い温度では、一酸化炭素およびプロピレンの転化率は100 %に達する。試験後、触媒コアを650 ℃で48時間老化させる。次いで、同じ条件で再び試験する。図1に示すように、触媒は失活しない。着火温度は一酸化炭素では195 ℃であり、プロピレンでは198 ℃である。275 ℃より高い温度では、一酸化炭素およびプロピレンの転化率は100 %に達する。
【0034】
あるいは、チタニアのウォッシュコート量が500 g/cfで、バナジン酸マグネシウムの担持量が300 g/cf で、白金の担持量が25g/cf の、直径4.66インチで長さ6インチの大きさのフィルター要素のコアを、全体の要素から取り出し、Lister-Petter LPA2、0.726 L 2シリンダーディーゼルエンジン (1800rpm の一定速度で出力5.5kW ジェネセット(genset)) を用いてディーゼル粒子状物質の再生について試験する。フィルター要素をディーゼルエンジン排気マニホールドの後のハウジングに取り付ける。7時間で3kW負荷の条件下でディーゼル粒子状物質でフィルター要素を負荷する。室温に冷却後、エンジンを再始動させ、エンジン負荷を15分毎に1kW上げる。排気ガスの温度およびフィルター要素を通過する圧力の降下を記録する。図3に示すように、初期は温度の上昇に伴い圧力降下が増加し、次いで温度が約350 ℃を越えると温度の上昇に伴い減少する。これは、約350 ℃ではディーゼル粒子状物質の付着と酸化が平衡に達することを意味する。従って、エンジンの均衡点温度は約350 ℃である。試験されるディーゼルフィルター要素を取り外し、550 ℃で数時間焼成して残りのディーゼル粒子状物質を焼却し、650 ℃で48時間老化試験後、再び取り付けて再度試験する。均衡点温度は変化がない。
【実施例2】
【0035】
(比較例)
コーニング社のコーディエライトセラミックス・モノリス・ディーゼル粒子状物質フィルター要素 (EX-80 、5.66インチ径で6インチ長さ、平方インチ当たり200 セル) を、硝酸マグネシウムの形でマグネシウムを15g/l 、シュウ酸バナジウムの形でバナジウムを20g/l 含有する水溶液500ml 中に浸漬する。含浸後、余分な液体を減圧吸引によりフィルター要素より除去する。含浸の後、フィルター要素を125 ℃で2時間乾燥し、550 ℃で3時間焼成する。バナジン酸マグネシウムの担持量は立法フィート当たり300 g(10.6g/l) である。室温に冷却後、フィルターを要素を白金5g/l を含む白金サルファイトアシッド (H4Pt(SO3)4) の水溶液500ml 中に浸漬する。余分な液体を減圧吸引により除去する。含浸後、被覆されたフィルター要素を125 ℃で2時間乾燥し、次いで550 ℃で3時間焼成する。白金の担持量は重量基準で、立法フィート当たり25g(0.8g/l)である。
【0036】
チタニアのウォッシュコート量が500 g/cfで、バナジン酸マグネシウムの担持量が300 g/cf で、白金の担持量が25g/cf の、直径1.75インチで長さ6インチの大きさのフィルター要素のコアを、全体の要素から取り出し、実験室の反応器において一酸化炭素とプロピレンの気相酸化反応について試験する。試験条件は、CO 700ppm 、プロピレン300ppm、SO2 100 ppm 、H2O 4%、およびGHSV 30,000/h である。活性を図2に示す。着火温度 (転化率50%) は、一酸化炭素では222 ℃であり、プロピレンでは231 ℃である。400 ℃より高い温度では、一酸化炭素の転化は完全であるが、最も高いプロピレン転化率でも約90%にすぎない。試験後、触媒コアを反応器より取り出し、650 ℃で48時間老化試験を行う。次いで、同じ条件で再び試験する。図2に示すように、触媒の有意な失活が見られる。着火温度は一酸化炭素では226 ℃であり、プロピレンでは236 ℃である。高温でも一酸化炭素およびプロピレンの転化は完全でない。400 ℃より高い温度では、最も高い一酸化炭素の転化率は約87%であり、最も高いプロピレンの転化率は約88%である。
【0037】
あるいは、チタニアのウォッシュコート量が500 g/cfで、バナジン酸マグネシウムの担持量が300 g/cf で、白金の担持量が20g/cf の、直径4.66インチで長さ6インチの大きさのフィルター要素のコアを、全体の要素から取り出し、実施例1と同じ条件で、Lister-Petter LPA2、0.726L 2- シリンダーディーゼルエンジン (出力5.5kW ジェネセット) を用いてディーゼル粒子状物質の再生について試験する。図3に素示すように、初期は温度の上昇に伴い圧降下が増加し、次いで温度が約375 ℃で温度の上昇に伴い減少し、エンジンの均衡点温度は約375 ℃である。
【0038】
本発明の技術思想を逸脱することなく具体的態様の改変、置換、省略および変化が可能であることは当然である。本発明は特許請求の範囲に包含されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】CO 700ppm 、C3H6 300ppm 、SO2 100 ppm 、H2O 4%、およびGHSV 30,000/h の条件下での一酸化炭素およびプロピレンの気相酸化について本発明触媒の活性を示すグラフである。
【図2】CO 700ppm 、C3H6 300ppm 、SO2 100 ppm 、H2O 4%、およびGHSV 30,000/h の条件下での一酸化炭素およびプロピレンの気相酸化について比較例触媒の活性を示すグラフである。
【図3】5.5KW Lister-Petter LPA2ディーゼル・ジェネセットでの、本発明触媒と比較例触媒の活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高表面積支持材でウォッシュコートし、アルカリ土類金属のバナジン酸塩と貴金属とを含む触媒を含浸した、ディーゼル粒子状物質排気ガスをろ過するための多孔質フィルター担体を含む、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルター。
【請求項2】
高表面積支持材が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ−シリカ、チタニア−シリカ、タングステンドープ化チタニア、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項3】
高表面積支持材がタングステンドープ化チタニアである、請求項2記載の排気フィルター。
【請求項4】
貴金属が、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、レニウム、オスミウム、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項5】
貴金属が白金である、請求項4記載の排気フィルター。
【請求項6】
アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはそれらの組み合わせである、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項7】
アルカリ土類金属がマグネシウムである、請求項6記載の排気フィルター。
【請求項8】
ドープ化チタニア中の酸化タングステンの重量割合が約5〜約15%である、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項9】
貴金属とアルカリ土類金属バナジン酸塩の重量比が約1:1から約1:50である、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項10】
貴金属とアルカリ土類金属バナジン酸塩の重量比が約1:5から約1:20である、請求項9記載の排気フィルター。
【請求項11】
多孔質フィルター担体が、コーディエライト、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、炭化ケイ素、ムライト、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項12】
フィルター担体をウォッシュコートしている高表面積支持材の量が、約100g/ft3〜2000 g/ft3である、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項13】
担体を被覆している触媒材料の量が、100 g/ft3 〜2,000 g/ft3 である、請求項1記載の排気フィルター。
【請求項14】
約100g/ft3〜2000 g/ft3の濃度で高表面積支持材をウォッシュコートし、アルカリ土類金属のバナジン酸塩と貴金属とを含み、貴金属とアルカリ土類金属バナジン酸塩の重量比が約1:5から約1:20である触媒材料を含浸した、ディーゼル粒子状物質排気ガスをろ過するための多孔質フィルター担体を含む、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルター。
【請求項15】
高表面積支持材が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ−シリカ、チタニア−シリカ、タングステンドープ化チタニア、またはそれらの組み合わせである、請求項14記載の排気フィルター。
【請求項16】
貴金属が、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、レニウム、オスミウム、またはそれらの組み合わせである、請求項14記載の排気フィルター。
【請求項17】
アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはそれらの組み合わせである、請求項14記載の排気フィルター。
【請求項18】
タングステンドープ化チタニアでウォッシュコートし、バナジン酸マグネシウムと白金とを含む触媒を含浸した、ディーゼル粒子状物質排気ガスをろ過するための多孔質フィルター担体を含む、触媒を担持したディーゼル粒子状物質排気フィルター。
【請求項19】
ドープ化チタニア中の酸化タングステンの重量割合が約5〜約15%であり、白金とバナジン酸マグネシウムの重量比が約1:1から約1:50である、請求項18記載の排気フィルター。
【請求項20】
多孔質フィルター担体が、コーディエライト、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、炭化ケイ素、ムライト、またはそれらの組み合わせを含む、請求項18記載の排気フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−503977(P2007−503977A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524645(P2006−524645)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/022076
【国際公開番号】WO2005/023398
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(303039822)ズード−ヘミー・インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】