説明

改良された低光沢ABS組成物

本発明は、それから製造された(共)押出シート及び熱成形/真空成形された物品に美的性質、物理的性質、及び機械的性質の改良されたバランスを有し、特に低い光沢と良好な耐衝撃性との組み合わせを有する塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物に関する。そのような組成物及び物品を調製する方法が開示される。改良された光沢性能は、平均ゴム粒径(RPS)とマトリックスポリマーの重量平均分子量(Mw)との間に、以下の関係:
Mw≧155−10-6×RPS6
を維持することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照の申告)
本願は、2008年7月16日に出願された米国仮特許出願第61/081,214号に基づく優先権を享受する。
【0002】
本発明は、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物に関し、具体的には、それから製造された押出シート及び物品に美的性質、物理的性質、及び機械的性質の優れたバランスを有し、特に非常に低い光沢と良好な耐衝撃性との向上した組み合わせを有するアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンターポリマー並びにそのような組成物及び物品を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンターポリマー(ABS)樹脂は周知の圧延、成形、及び押出材料である。そのような樹脂は一般的にグラフトコポリマーと呼ばれる。前記樹脂は、スチレンとアクリロニトリルとを、共役ジエンポリマー、通常ポリブタジエンの存在下で重合すると容易に得られる。ABS樹脂は一般的にスチレン−アクリロニトリルマトリックス中に分散しているゴム粒子の混合物であり、スチレンとアクリロニトリルの少なくとも一部がエラストマーのポリブタジエン骨格に通常グラフトされている。
【0004】
ABS樹脂から調製される製品は光沢のあることが多く、これは用途によっては望ましい性質ではないことがある。例えば、コンピュータのハウジング、キーボード、電化製品のハウジング、鞄類、保護カバー、自動車外装及び内装部品、壁板、食事用トレイ、椅子の背などの成形及び押出物品は低光沢又は艶消し表面を必要とする。そのような部品の二次加工(fabricating)に使用されるABS樹脂が、低光沢だけでなく良好な耐衝撃性を示すことが非常に望ましい。
【0005】
塊状法(バルク、塊状−溶液、又は塊状−懸濁重合法と呼ばれることもある)により製造されるABS樹脂は、本質的に、乳化法により製造されるABS樹脂よりも低い光沢を示す。塊状法は、スチレンモノマー、アクリロニトリルモノマー、及び溶媒の混合物へのポリブタジエンの溶解、次いでモノマーとポリブタジエンとの間のグラフト反応及びモノマーの共重合を含む。反応の最後に、比較的大きいゴム粒子が形成されるが、それは収蔵されたスチレン−アクリロニトリルコポリマーを含むことがある。これらのゴム状領域の大きな粒径が、一部には、塊状製造されたABSの低光沢表面仕上げの原因であると考えられている。塊状ABSは、室温及び低温の衝撃、剛性、本質的な低光沢、耐薬品性、及び加工性を含む性質の優れたバランスを与える。しかし、従来の塊状ABS樹脂は、シートに押出され次いで成形物品に熱成形される場合、光沢が十分に低くないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
押出用途に利用できる現在のABS樹脂の欠点を鑑み、エンボス加工され、圧延され、積層され、押出され、及び/又は共押出しされてシートになる場合、物性の良好なバランスを維持するが、より低い固有の光沢を有する樹脂並びにそれから製造される熱成形及び/又は真空成形される物品を有すると望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、加工性、色の一貫性、剛性、衝撃、少ない臭い、低いゲル含量、及び耐薬品性の良好なバランスを、非常に低い光沢並びに表面模様及び/又はしぼがあるか又はない二次加工された物品の表面にわたる一貫した低光沢外観と組み合わせて与える、そのような望ましい樹脂である。
【0008】
本発明は、(i)好ましくは60から90.5重量%の量の連続マトリックス相であって、モノビニリデン芳香族モノマー、好ましくはスチレンと、好ましくは10から35重量%の量のエチレン型不飽和ニトリルモノマー、好ましくはアクリロニトリルとのコポリマーを含んでなる連続マトリックス相、及び(ii)好ましくは40から9.5重量%の量の、好ましくは1,3−ブタジエンホモポリマー、又は1,3−ブタジエンとスチレンとのブロックコポリマーであるゴム成分であって、前記マトリックス中に分離した粒子として分散しているゴム成分を含んでなる、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーであり、重量パーセントは塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の総重量に基づき、前記ゴム粒子は光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(ミクロンで表すRPS)を有し、前記マトリックスは以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(kg/モルで表されるMw)を有する。好ましくは、開示される塊状重合ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は、(共)押出されたシート、フィルム、パイプ、又は異形材の形態である。より好ましくは、開示される塊状重合ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は、熱成形又は真空成形で二次加工された物品の形態であり、好ましくは建築及び建設用部品、自動車部品、ボート部品、飛行機部品、トラック部品、バン部品、バス部品、レクリエーション用車両部品、情報技術装置部品、家具部品、拡散板、又は電化製品部品である。
【0009】
他の実施形態において、上述の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は、n−ブチルアクリラート及び/又はN−フェニルマレイミドから選択されるコモノマーをさらに含んでなる。
【0010】
他の実施形態において、上述の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物はポリカーボナート(PC)樹脂をさらに含んでなり、好ましくはポリカーボナートと、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)ターポリマーとのブレンド(PC/ABS)である。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の調製方法であって、(a)バルク、塊状−溶液、又は塊状重合技術により、溶解しているゴム成分の存在下で、モノビニリデン芳香族モノマー、好ましくはスチレンと、エチレン型不飽和ニトリルモノマー、好ましくはアクリロニトリルとを、所望により不活性溶媒の存在下で重合し、前記ゴム成分が分離したゴム粒子として分散している連続マトリックスコポリマー相を含む混合物を形成する工程、(b)得られた混合物を、未反応モノマーを全て除去しゴムを架橋するに十分な条件に曝す工程、及び(c)前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(ミクロンで表すRPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(kg/モルで表されるMw)を有する、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を単離する工程を含んでなる方法である。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態は、先に開示された塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の(共)押出されたシート、パイプ、フィルム、又は異形材を製造する方法であって、(A)先に記載された方法により塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程及び(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を(共)押出して、(共)押出されたシート、パイプ、フィルム、又は異形材にする工程を含んでなる方法である。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態は、先に開示された塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の(共)押出されたシート又はフィルムから熱成形又は真空成形で二次加工された物品を製造する方法であって、(A)先に記載された方法により塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程、(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を(共)押出して、(共)押出されたシート又はフィルムにする工程、及び(C)前記(共)押出されたシート又はフィルムを熱成形又は真空成形して、二次加工された物品にする工程を含んでなる方法である。好ましくは、前記熱成形又は真空成形で二次加工された物品は、建築及び建設用部品、自動車部品、ボート部品、飛行機部品、トラック部品、バン部品、バス部品、レクリエーション用車両部品、情報技術装置部品、家具部品、拡散板、電化製品部品などである。
【0014】
本発明のさらに他の実施形態は、先に開示された塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の積層されたシート、フィルム、又は異形材を製造する方法であって、(A)先に開示された方法により塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程、(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を圧延してフィルムにする工程、及び(C)前記フィルムを(共)押出された熱可塑性シート、フィルム、又は異形材に積層して、積層されたシート、フィルム、又は異形材を形成する工程を含んでなる方法である。好ましくは、前記積層されたシート又はフィルムは、熱成形又は真空成形されて、好ましくは、建築及び建設用部品、自動車部品、ボート部品、飛行機部品、トラック部品、バン部品、バス部品、レクリエーション用車両部品、情報技術装置部品、家具部品、拡散板、電化製品部品などの二次加工された物品になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シート押出プロセスに利用されるアップスタック構成(up-stack configuration)の垂直ロールスタックの概略側面図である。
【図2】シート押出プロセスに利用されるダウンスタック構成(down-stack configuration)の垂直ロールスタックの概略側面図である。
【図3】本発明の重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物からシートを押出すための装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に利用される好適なゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーは、マトリックス又は連続相中のモノビニリデン芳香族とエチレン型不飽和ニトリルとのコポリマー及び前記マトリックス中に分散しているゴム粒子を含んでなる。本発明のマトリックス又は連続相は、その中で重合したモノビニリデン芳香族モノマーとエチレン型不飽和ニトリルモノマーとを含んでなるコポリマー又はその中で重合したモノビニリデン芳香族モノマーと、エチレン型不飽和ニトリルモノマーと、それらと共重合可能な1種以上のビニルモノマーとを含んでなるコポリマーである。本明細書では、コポリマーは2種以上のモノマーが共重合したポリマーと定義される。このような組成物は、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)が最も一般的な例なので、一般的にSANタイプ又はSANとして知られる。
【0017】
ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーを製造するのに好適な種々の技術が当分野に周知である。これらの公知重合プロセスの例には、バルク、塊状−溶液、又は塊状−懸濁重合があり、一般的に塊状重合プロセスとして知られる。ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーを製造する方法のよい議論に関しては、Series In Polymer Science (Wiley)の"Modern Styrenic Polymers" Ed. John Scheirs and Duane Priddy, ISBN 0 471 497525を参照されたい。また、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,660,535号;同第3,243,481号;及び同第4,239,863号を参照されたい。
【0018】
一般に、本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの調製に連続塊状重合技術が利用されることが好都合である。好ましくは、1つ以上の実質的に線形の層状流タイプ又は米国特許第2,727,884号に記載されるものなどのいわゆる「栓流」タイプ反応器で重合が行われるが、これはマルチゾーン栓流バルクプロセスと呼ばれることもあり、部分的に重合した生成物の一部の再循環を含むこともふくまないこともあるが、別法としては、反応器の内容物が基本的に全体で均質である攪拌タンク反応器であって、一般的に1つ以上の栓流タイプ反応器と組み合わせて使用される攪拌タンク反応器で重合が行われる。別法としては、欧州特許第412801号に教示される並列反応器構成も、本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの調製に好適なことがある。
【0019】
マルチゾーン栓流バルクプロセスは、連続して互いに結合して複数の反応領域を形成する一連の重合容器(又は塔)を含む。ゴム、例えば、ブタジエンゴム(立体特異性)は、モノビニリデン芳香族コモノマー、例えばスチレン(S)とアクリロニトリル(AN)との混合物に溶解され、次いでゴム溶液は反応系に供給される。重合は熱によっても化学的にも開始でき、反応混合物の粘度は徐々に増す。反応の間に、ゴムはS/ANポリマーにグラフトし(グラフトSAN)、ゴム溶液中では、バルクのSAN(フリーのSAN又はマトリックスSAN又は非グラフトSANとも称される)も形成されつつある。フリーのSAN(すなわち非グラフトSAN)がゴム溶液の単一の連続「相」に「保持」されることができない時点で、それはモノマー及び溶媒に溶解したSANの領域を形成し始める。重合混合物はいまや二相系である。重合の進行に伴い、さらに多くのフリーのSANが形成され、ゴム相は、成長し続けるフリーのSAN相のマトリックスに分散し始める(ゴム領域)。ついに、フリーのSANは連続相になる。これは実際には「油中油型エマルション」系の形成である。SNAの一部にはゴム粒子内に収蔵されたものもある。この段階は通常相反転の名を与えられている。相反転前は、ゴム溶液が連続相でありゴム粒子が全く形成されていないことを意味し、相反転後は、実質的に全てのゴム相がゴム領域に反転し、連続SAN相があることを意味する。相反転後、さらにマトリックスSAN(フリーのSAN)が形成され、恐らくゴム粒子はより多くのグラフトされたSAN及びフリーのSANを得る。
【0020】
マトリックスのTgを上昇させ製品の耐熱性も向上させるN−フェニルマレイミドなどの機能性モノマーを含む原料を、重合プロセス全体の1つ以上の位置に加えることができるが、前記位置(複数可)はスチレン及びアクリロニトリルモノマーが加えられる場所と同じでも、異なっていてもよく、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,412,036号及び同第5,446,103号を参照されたい。
【0021】
製品の加工性を高めるn−ブチルアクリラートなどの機能性モノマーを含む原料を加えることができる。
【0022】
エチレン−ビスステアラミド、ジアルキルアジパート、ポリジメチルシロキサン、又は製品の加工性を高める他の潤滑剤若しくは剥離剤などの機能性添加剤を含む原料を、重合、揮発分除去、及び運搬プロセス全体の1つ以上の位置に加えることができ、その位置(複数可)はスチレン及びアクリロニトリルモノマーが加えられる場所と同じでも、異なっていてもよい。
【0023】
所望のモノマー転化レベル及び所望の分子量分布のマトリックスSANが得られると、重合混合物は、ゴムを架橋し未反応モノマー及び溶媒を除去するに十分な条件に曝される。そのような架橋及び未反応モノマーの除去並びに希釈剤若しくは溶媒及び利用された場合他の揮発性物質の除去は、従来の揮発分除去技術、例えば重合混合物の脱揮発分チャンバーへの導入、例えば130□Cから300□Cの高温及び/又は真空下でのモノマー及び他の揮発分の蒸発分離(flashing off)、及びチャンバーからのそれらの除去などを利用して実施するのが好都合である。最後に、ポリマーが押出され、バルクABSペレットがペレタイザーから得られる。
【0024】
重合が最も好都合に実施される温度は、特定の開始剤並びにゴム、コモノマー、反応器の構成(例えば、直線、並列、再循環など)及びあるとすれば使用される反応溶媒の種類及び濃度を含む種々の因子に依存する。一般的に、相反転の前に60□Cから160□Cの重合温度が利用され、相反転の後には100□Cから190□Cの温度が利用される。そのような高温での塊状重合は、モノマーからポリマーへの所望の転化率が得られるまで続けられる。一般的に、重合系(すなわち、原料に加えられたモノマー及び再利用流を含む追加の流れ)に加えられたモノマーの重量%で55から90、好ましくは60から85のポリマーへの転化率(固形分パーセント(percent solids)とも称されることがある)が望ましい。固形分パーセントは、重合反応の間の任意の明示された時間でのパーセントで示される、反応混合物(例えば未重合モノマー(複数可))の重量に対する固形分(例えばゴムとマトリックス(コ)ポリマー)の重量の比率である。
【0025】
塊状法により高性能のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーを合成するには、多くの態様の中でも4つの態様が必須である。これらの態様は、相反転の前のゴム基質のグラフト化、ゴム領域及び/又は粒子の形成又は相反転の間のサイズ安定化(sizing)、マトリックスの分子量及び分子量分布の増大、及び塊状重合完了時点でのゴム粒子の架橋である。
【0026】
別法として、塊状重合技術と懸濁重合技術の組み合わせが利用される。前記技術を利用して、相反転とそれに続くゴム粒子のサイズ安定化の後に、部分的に重合した生成物を、追加のモノマーを加えて、又は追加のモノマーなしに、重合した開始剤を含む水性媒体に懸濁させることができ、その後重合を完了できる。それに続き、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーは、酸性化、遠心分離、又は濾過により水性媒体から分離される。次いで、回収された生成物は水で洗浄され乾燥される。
【0027】
ポリマーの分子量は、その流動特性及び物性に寄与する絡み合い効果に直接関連する。本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの製造中にグラフト化反応器で製造されるマトリックスコポリマーの分子量は、好適な連鎖移動剤の添加により調整できる。連鎖移動剤又は分子量調整剤は、原子若しくは基の移動又は付加脱離を受けることのできる物質である。不安定な水素を持つ有機分子は周知であり、例えば、α−メチルスチレンダイマー、n−ドデシルメルカプタン(nDM)及びチオグリコラートなどのメルカプタン又はチオール、ジスルフィド、ジチウラムジスルフィド、モノスルフィド、ハライド若しくはハロカーボン、通常の溶媒及び特定の不飽和化合物、例えばアリルペルオキシド、アリルハライド、アリルスルフィド、及びテルピノレンなどのテルペンがある。また、コバルト(II)ポルフィリン錯体などの遷移金属錯体も移動剤として使用できる。連鎖移動剤は、反応混合物(すなわち、ゴム、モノマー(複数可)、及びある場合には溶媒)の重量に対し約0.0001から10重量%の量で加えられる。好ましくは、本発明における連鎖移動剤は、反応混合物の重量に対して、約0.001重量%以上、好ましくは0.002、より好ましくは0.003重量%の量で加えられる。好ましくは、本発明における連鎖移動剤は、反応混合物の重量に対して、約0.5重量%以下の、好ましくは0.2、より好ましくは0.1重量%の量で加えられる。
【0028】
連鎖移動剤は1つの反応器領域に全て同時に加えてよいが、好ましくは2つ以上の反応器領域に加えてもよい。連鎖移動剤は、相反転の前にも、ゴム粒子サイズ安定化の間にも加えることができ、さらなる量を粒子サイズ安定化の後に加えてマトリックス分子量の制御を助け、所望によりさらなる量を後に加えてマトリックス分子量/分子量分布を微調整できる。連鎖移動剤は、本発明において重合の開始(言い換えると、反応混合物の固形分パーセントがゴムの重量%に等しい時点)に、反応混合物の重量に対して、0.001重量%以上、好ましくは約0.002から約0.1重量%、より好ましくは約0.003から約0.05重量%の第1量で優先的に加えられる。後に、例えば約40固形分パーセント、好ましくは30固形分パーセントの後で加えられる連鎖移動剤の量は、反応混合物の重量に対して、約0.7重量%以下、好ましくは約0.001から約0.6重量%、より好ましくは約0.002から約0.5重量%の第2量で加えられる。本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー中のマトリックスコポリマーの分子量は、とりわけ、使用される連鎖移動剤の量とその加えられる時期に依存する。
【0029】
塊状法により製造されるゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーでより低い光沢を達成するのが可能なことは周知である。現在の塊状ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの欠陥は、低い固有の光沢を持つかもしれないが、物品の製造方法又は物品の製造に使用された装置の種類にすら依存して(二次加工効果(fabricational effects))、完成物品において光沢レベルが変動しうることである。多くの組成/プロセス因子(組成効果(compositional effects))は、塊状ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの光沢に影響を与える。塊状ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの光沢に寄与する主要な組成効果はゴムであり、具体的にはゴム粒径(RPS)である。ゴム粒子が大きいと光沢の低下に寄与すると一般的に考えられている。本発明により製造された塊状ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーが、従来の方法でできたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーよりも、二次加工された物品においてさらに低い光沢を示すので、本発明の方法は従来技術に対する改良である。言い換えると、本発明の方法により製造されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーは、広範囲の二次加工効果にわたって固有の光沢を低くする組成効果を最大にする。
【0030】
多くの因子がゴム粒径に影響し、少し例を挙げると、ゴムの種類、ゴムの量、ゴムの分子量、マトリックス分子量、反応温度、剪断速度などがある。より大きなゴム粒径を得るために、従来技術は、相反転後のプレポリマー(マトリックスポリマー)の粘度を低く保ち、サイズ安定化の間のゴム相への剪断を減らして大きな粒子を作ることを教示している。従来技術は、マトリックスポリマー分子量を低く保つ方法の1つが、高濃度の連鎖移動剤の添加によると教示する。少なからぬ時間及び労力の後、発明者らは、本発明の方法により製造されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーから二次加工された物品において、より低い光沢を示す、より高いマトリックス分子量とより大きいゴム粒径との間の意外な関係を発見した。
【0031】
連鎖移動剤の量及び本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーを製造するプロセスに連鎖移動剤が加えられる時期が、マトリックスコポリマーの重量平均分子量(Mw)が約155−10-6×RPS6以上に、好ましくは約158−10-6×RPS6以上に、最も好ましくは約160−10-6×RPS6以上になるようにすることが好ましい。連鎖移動剤の量及び本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーを製造するプロセスに連鎖移動剤が加えられる時期は、マトリックスコポリマーの重量平均Mwが約220−10-6×RPS6以下に、好ましくは約200−10-6×RPS6以下に、より好ましくは約180−10-6×RPS6以下に、最も好ましくは約175−10-6×RPS6以下になるようにすることが好ましい。当業者は、過度の実験をしなくても連鎖移動剤の量及びそれを加えるタイミングを決めることができる。マトリックス分子量は、特記されない限り、重量平均分子量であり、狭い分子量ポリスチレン標準を利用するゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により測定され、モルあたりのキログラム(kg/モル)の単位で示される。
【0032】
モノビニリデン芳香族モノマーには、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,666,987号;同第4,572,819号、及び同第4,585,825号に記載されているものがあるが、それらに限定されない。好ましくはモノマーは以下の式のものである:
【0033】
【化1】

【0034】
上式において、R’は、水素、メチル、又はアルキルであり、Arは、アルキル、ハロ、又はハロアルキル置換基があってもなくてもよい1から3の芳香環を有する芳香環構造であり、アルキル基はいずれも1から6の炭素原子を含み、ハロアルキルはハロ置換されたアルキル基を意味する。好ましくは、Arはフェニル又はアルキルフェニルであり、アルキルフェニルはアルキル置換されたフェニル基を意味するが、フェニルが最も好ましい。好ましいモノビニリデン芳香族モノマーには、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンの全異性体、特にパラビニルトルエン、エチルスチレンの全異性体、プロピルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなど、及びこれらの混合物がある。
【0035】
典型的には、そのようなモノビニリデン芳香族モノマーは、マトリックスコポリマーの総重量に対して、約50重量%以上の量、好ましくは約60重量%以上の量、より好ましくは約65重量%以上の量、最も好ましくは約70重量%以上の量を構成するだろう。典型的には、そのようなモノビニリデン芳香族モノマーは、マトリックスコポリマーの総重量に対して、約95重量%以下、好ましくは約85重量%以下、より好ましくは約80重量%以下、最も好ましくは約75重量%以下を構成するだろう。
【0036】
不飽和ニトリルには、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル、及びこれらの混合物があるが、これらに限定されない。不飽和ニトリルは一般的に、マトリックスコポリマーの総重量に対して、約5重量%以上の量で、好ましくは約10重量%以上の量で、より好ましくは約15重量%以上の量で、最も好ましくは約20重量%以上の量でマトリックスコポリマーに使用される。不飽和ニトリルは一般的に、マトリックスコポリマーの総重量に対して、約50重量%以下の量で、好ましくは約45重量%以下の量で、より好ましくは約35重量%以下の量で、最も好ましくは約30重量%以下の量でマトリックスコポリマーに使用される。
【0037】
他のビニルモノマーも重合した形態でマトリックスコポリマーに含まれてよく、例えば、共役1,3ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど);α−又はβ−不飽和一塩基酸及びその誘導体(例えば、アクリル酸、メタクリル酸など、及び対応するそのエステル、例えば、メチルアクリラート、エチルアクリラート、n−ブチルアクリラート、イソブチルアクリラート、メチルメタクリラートなど):塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなど;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;エチレン型不飽和二カルボン酸並びにその無水物及び誘導体、例えば、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸ジアルキル又はフマル酸ジアルキル、例えばジメチルマレアート、ジエチルマレアート、ジブチルマレアート、対応するフマラート、N−フェニルマレイミド(NPMI)などがある。これらの追加のコモノマーはいくつかの方法で組成物に取り込むことができ、例えば、モノビニリデン芳香族とエチレン型不飽和ニトリルとのマトリックスコポリマーとの共重合及び/又は重合によりマトリックスに結合可能な、例えば混合可能なポリマー成分にすることがある。存在する場合、そのようなコモノマーの量は一般的に、マトリックスコポリマーの総重量に対して、約20重量%以下、より好ましくは約10重量%以下、最も好ましくは約5重量%以下であろう。
【0038】
マトリックスコポリマーは、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの重量に対して、約60重量%以上の量で、好ましくは約70重量%以上、より好ましくは約75重量%以上、さらにより好ましくは約80重量%以上、最も好ましくは約82重量%以上の量で存在する。マトリックスコポリマーは、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの重量に対して、約90.5重量%以下の量で、好ましくは約90重量%以下の、より好ましくは約89重量%以下、最も好ましくは約88重量%以下の量で存在する。
【0039】
種々のゴムが本発明での使用に好適である。そのようなゴムには、ジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロレピレンジエン(EPDM)ゴム、エチレンコポリマーゴム、アクリラートゴム、ポリイソプレンゴム、ハロゲン含有ゴム、及びこれらの混合物がある。ゴム形成モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体も好適である。
【0040】
好ましいゴムは、ジエンゴム、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリピペリレン、ポリクロロプレンなど又はジエンゴムの混合物、すなわち1種以上の共役1,3−ジエンのゴム状ポリマーであり、1,3−ブタジエンが特に好ましい。そのようなゴムには、1,3−ブタジエンのホモポリマー及び1,3−ブタジエンと1種以上の共重合性モノマー、例えば本明細書に記載されるスチレンが最も好ましいモノビニリデン芳香族モノマーとのコポリマーがある。好ましいポリブタジエンは1,3−ブタジエンのホモポリマーである。1,3−ブタジエンの好ましいコポリマーは、1,3−ブタジエンコポリマーの重量に対して、少なくとも約30重量%の1,3−ブタジエンゴム、より好ましくは約50重量%、さらにより好ましくは約70重量%、最も好ましくは約90重量%の1,3−ブタジエンゴムと、約70重量%までのモノビニリデン芳香族モノマー、より好ましくは約50重量%まで、さらにより好ましくは約30重量%まで、最も好ましくは約10重量%までのモノビニリデン芳香族モノマーとのブロック又はテーパードブロックゴムである。
【0041】
直鎖ブロックコポリマーは、以下の一般式の1つにより表すことができる:
S−B;
1−B−S2
1−S1−B2−S2
上式において、S、S1、及びS2は、分子量が同じ又は異なるモノビニリデン芳香族モノマーの非弾性ポリマーブロックであり、B、B1、及びB2は共役ジエンに基づき分子量が同じ又は異なるエラストマーポリマーブロックである。これらの直鎖ブロックコポリマーでは、非弾性ポリマーブロックは5,000から250,000の分子量を有し、エラストマーポリマーブロックは2,000から250,000の分子量を有する。テーパード部分は、ポリマーブロック、S、S1、及びS2とB、B1、及びB2との間に存在することができる。テーパード部分において、ブロックB、B1、及びB2とS、S1、及びS2との間の通路(passage)は、ジエンポリマー中のモノビニリデン芳香族モノマーの比率が非エラストマーポリマーブロックの方向に徐々に増加し、共役ジエンの部分が徐々に減少するという点で段階的になりうる。テーパード部分の分子量は好ましくは500から30,000である。これらの直鎖ブロックコポリマーは例えば米国特許第3,265,765号に記載されており、当分野に周知の方法により調製できる。これらのポリマーの物理的特性及び構造的特性についてのさらなる詳細は、B.C. Allport et al. "Block Copolymers", Applied Science Publishers Ltd., 1973に記載されている。
【0042】
本発明の実施に使用されるのが好ましいゴムは、ガラス転移温度(Tg)とも称される二次転移温度が、従来技術、例えばASTM試験法D746-52Tを利用して測定して、ジエンフラグメントで0□C以下、好ましくは−20□C以下であるポリマー及びコポリマーである。Tgは、ポリマー材料が、例えば機械的強度などその物性の急激な変化を示す温度又は温度範囲である。Tgは、示差走査型熱量測定(DSC)により測定できる。
【0043】
本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー中のゴムは、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの重量に対して、約5重量%以上、好ましくは約8重量%以上、より好ましくは約9.5重量%以上、さらにより好ましくは約10重量%以上、さらにより好ましくは約12重量%以上の量で存在する。本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー中のゴムは、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの重量に対して、約40重量%以下、好ましくは約30重量%以下、より好ましくは約25重量%以下、さらにより好ましくは約20重量%以下、最も好ましくは約18重量%以下の量で存在する。
【0044】
マトリックスコポリマーに分散しているゴムの好ましい構造は、1種以上の分岐鎖のゴム、1種以上の直鎖のゴム、又はこれらの組み合わせである。分岐鎖のゴム並びにそれらの調製方法は当分野に公知である。代表的な分岐鎖のゴム及びそれらの調製方法は、英国特許第1,130,485号及びR. N. Young and C. J. Fetters, Macromolecules, Vol.11, No. 5, pg. 8に記載されている。
【0045】
好ましい分岐鎖ゴムは、設計された分岐を有するポリマーと通常称される、放射状又は星形分岐ポリマーである。星形分岐ゴムは、多官能性カップリング剤又は多官能性開始剤を利用して従来調製され、単一の多官能性要素又は化合物に結合しているアームとも称される3つ以上のポリマーセグメント、好ましくは3から8のアームを有し、式(ゴムポリマーセグメント)k−Qにより表されるが、前式において、kは3から8の整数であり、Qは多官能性カップリング剤の一部分である。有機金属アニオン性化合物は好ましい多官能性開始剤であり、特に、C1-6アルキル、C6アリール、又はC7-20アルキルアリール基を持つリチウム化合物がある。スズ系で多官能性の有機カップリング剤が使用されるのが好ましい。ケイ素系多官能性カップリング剤が使用されるのが最も好ましい。
【0046】
星形分岐ゴムのアームは、好ましくは1種以上の1,3−ブタジエンゴムであり、より好ましくはそれらは全て同じ種類の1,3−ブタジエンゴムであり、すなわち1,3−ブタジエンテーパードブロックコポリマー(複数可)、1,3−ブタジエンブロックコポリマー(複数可)、若しくは1,3−ブタジエンホモポリマー(複数可)、又はこれらの組み合わせである。
【0047】
設計された分岐を有する星形分岐ポリマー又は放射状ポリマーの調製方法は当分野に周知である。カップリング剤を利用してブタジエンのポリマーを調製する方法は、米国特許第4,183,877号;同第4,340,690号;同第4,340,691号、及び同第3,668,162号に説明されており、多官能性開始剤を利用してブタジエンのポリマーを調製する方法は、米国特許第4,182,818号;同第4,264,749号;同第3,668,263号、及び同第3,787,510号に記載されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。本発明の組成物に有用な他の星形分岐ゴムには、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,280,084号及び同第3,281,383号に教示されているものがある。
【0048】
直鎖ゴム並びにそれらの調製方法は当分野に周知である。「直鎖ゴム」という用語は、分かれた又は切り離された(uncoupled and dicoupled)ゴムを含む、重合したモノマー又はコポリマーの直鎖であって、1つ又は2つのポリマーセグメント又はアームが多官能性カップリング剤に結合していて、式(ゴムポリマーセグメント)k−Qにより表される直鎖を意味するが、前式においてkは1から2の整数である。式(ゴムポリマーセグメント)2−Qを有する切り離された直鎖ゴム中のゴムポリマーセグメントは同じ種類でよく、すなわち両方とも1,3−ブタジエンホモポリマー、より好ましくは1,3−ブタジエンテーパーブロックコポリマー、最も好ましくは1,3−ブタジエンブロックコポリマーであるが、それらは異なっていてもよく、例えば、ゴムポリマーセグメントの1つが1,3−ブタジエンホモポリマーで、他のポリマーセグメントが1,3−ブタジエンブロックコポリマーでよい。好ましくは、直鎖ゴムは1種以上の1,3−ブタジエンホモポリマーであり、より好ましくは1種以上の1,3−ブタジエンテーパードブロックコポリマーであり、最も好ましくは1種以上の1,3−ブタジエンブロックコポリマー、又はこれらの組み合わせである。テーパーブロックコポリマー及び/又はブロックコポリマー直鎖ゴムを構成する好ましいコモノマーはスチレン及びブタジエンである。
【0049】
好ましくは、本発明に使用されるジエンゴムは99%以下のシス含量、好ましくは97%以下のシス含量を有する。好ましくはジエンゴムのシス含量は、20%以上、好ましくは37%以上であり、前記シス重量%はジエンゴムの重量に基づいている。
【0050】
好ましいゴムは、1,3−ブタジエンゴムの重量に対して、少なくとも約1重量%の1,2−ビニル、より好ましくは少なくとも約7重量%の1,2−ビニルを有する1,3−ブタジエンゴムである。好ましくは、1,3−ブタジエンゴムは、1,3−ブタジエンゴムの重量に対して、約30重量%以下の1,2−ビニル、より好ましくは約13重量%以下の1,2−ビニルを有する。
【0051】
好ましいゴムは、少なくともモルあたり約100キログラム(kg/モル)の重量平均分子量を有する、より好ましくは少なくとも約300kg/モルの重量平均分子量を有するジエンゴムである。好ましくは、ジエンゴムは、約900kg/モル以下の重量平均分子量、より好ましくは600kg/モル以下の重量平均分子量を有する。
【0052】
好ましいゴムは、溶解粘度が少なくとも10センチストークス(Cst)(スチレン中10パーセント(%)溶液)、より好ましくは溶解粘度が約30Cstであるジエンゴムである。好ましくは、ジエンゴムは溶解粘度が約500Cst以下であり、より好ましくは約400Cst以下である。
【0053】
グラフトされたポリマー及び/又は存在する場合には収蔵されたポリマーを含むゴムは、分離した粒子として連続マトリックス相に分散する。ゴム粒子は、単峰、双峰、又は多峰分布を持つある範囲の大きさを含む。本明細書でのゴム粒子の平均粒径は体積平均直径を意味するだろう。ほとんどの場合に、1群の粒子の体積平均直径は重量平均と同じである。平均粒径測定は一般的に、ゴム粒子にグラフトしたポリマー及び粒子内のポリマーの収蔵を含む。
【0054】
ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの(平均)ゴム粒径(直径)は、その固有な光沢への主要な寄与因子である。光沢は粒径の増加とともに減少する傾向がある。ゴム粒径は多くのパラメータにより影響をうけるが、少し例を挙げると、ゴム粘度、グラフト化、マトリックス粘度、重合温度、及び剪断がある。
【0055】
特記されない限り、本明細書に開示され特許請求される好ましいゴム粒径は、Beckman Coulter Particle Characterization LS-230装置及びLS230 Beckman Particle Characterizationソフトウェア、バージョン3.01を利用する光散乱法により測定される。ゴム粒子の平均粒径は、約5ミクロン(□m)以上、好ましくは約6ミクロン以上、より好ましくは約7ミクロン以上である。ゴム粒子の平均粒径は、約30ミクロン以下、好ましくは約25ミクロン以下、より好ましくは約20ミクロン以下である。
【0056】
どのような特定の理論にも拘束されるものではないが、発明者らは、本発明の方法により製造されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーが圧延されてフィルムになり、押出されてシートになり、又は共押出されてシートになる場合、ゴム粒子が溶融状態での歪み若しくは延伸の間及び/又は凝固過程の間に弾性エネルギーを貯蔵すると考える。二次加工された物品では、スキンの温度がマトリックスのガラス転移温度(Tg)より高い場合、物品の表面でのゴム粒子中の貯蔵エネルギーの緩和は表面粗度を増加させ、そのため光が散乱して光沢が低下する。発明者らは、貯蔵された弾性エネルギーの量がマトリックスの分子量に直接関連し、分子量が高いと貯蔵された弾性エネルギーも多いと考えている。したがって、より高いマトリックス分子量及びより大きいゴム粒子径に基づく本明細書で開示された関係は、本発明の方法により製造されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーから二次加工された物品中のより低い光沢の可能性を意外にも最大にする。LARにより測定されるゴムの架橋は、貯蔵/緩和プロセスの時間的側面を決める。架橋度が高いと、ゴム粒子の緩和が速い。
【0057】
特記されない限り、本明細書に報告される鏡面光沢度又は光沢度の測定は、ISO2813:1994/Cor.1:1997(E)に従い測定される。光沢度測定のための試料調製は以下に開示され、測定工程は、60°の設定を利用してBYK-Gardner光沢度計(model micro-TRI-gloss, 20-60-85°, reference 4520)で実施し、光沢度単位(GU)で表す。鏡面光沢度は、同一の条件下で評価される、標準試料から反射した光の量に対する試料表面から反射した光の量の比として定義される。標準試料は、定義された屈折率を持つ黒色ガラス標準である。本明細書で報告される光沢度データは、エンボスの形態が全くない高度に研磨されたグロスロールを利用して製造されたシートから測定される。
【0058】
シートの光沢度(高温面(hot-side))は、外面31でシート冷却後に測定される60°光沢度である。面31は、グロスロール3からグロスロール4へシートが移動する際に最初に空気に接触する面に相当する。これはポリマー表面(ポリマースキンとも称される)をさらに緩和させることができる。
【0059】
シートの光沢度(急冷面(quenched-side)又はq面)は、面32で冷却後に測定される60°光沢度である。面32は、グロスロール3からグロスロール4へシートが移動する際にグロスロース4の金属に最初に接触する面に相当する。典型的には、最大ロール温度はポリマーのガラス転移未満であり、面32は潜在的な艶消し又は低光沢の程度を完全に発現する前のシートの状態を反映する。
【0060】
シートの光沢度(130℃)は、冷却に続く130℃で2分間の再加熱後に面31で測定された60°光沢度である。
【0061】
シートの光沢度(140℃)は、冷却に続く140℃で2分間の再加熱後に面31で測定された60°光沢度である。
【0062】
シートの光沢度(150℃)は、冷却に続く150℃で2分間の再加熱後に面31で測定された60°光沢度である。
【0063】
好ましくは、ノッチ付きシャルピー試験法、ISO179-1/1eAにより測定される、本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の耐衝撃性は、平方メートルあたり約8キロジュール(kJ/m2)以上、より好ましくは約11kJ/m2以上、さらにより好ましくは約15kJ/m2以上、最も好ましくは約18kJ/m2以上である。
【0064】
ゴム架橋は、吸光度比(LAR)により定量できる。本発明のゴム変性コポリマーでは、ゴム粒子の吸光度比が、好ましくは約0.1以上、より好ましくは約0.2以上、最も好ましくは約0.3以上であることが好ましい。分散相の好ましい吸光度比は、約0.95以下、好ましくは約0.85以下、より好ましくは約0.8以下、最も好ましくは0.75以下である。吸光度比は、以下の実施例に記載されるとおり、ジクロロメタン中のゴム粒子の懸濁液の吸光度に対するジメチルホルムアミド中のゴム粒子の懸濁液の吸光度の比である。
【0065】
吸光度比は、ゴム成分の架橋度の尺度であるが、重合開始剤の量及び種類並びに揮発性成分の除去工程での温度及び滞留時間に依存する。また、マトリックスモノマーの種類及び量、酸化防止剤、連鎖移動剤などにも依存する。好適な吸光度比は、試行錯誤により製造プロセスの適切な条件を選択することによって当業者が設定できる。
【0066】
本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は、他の熱可塑性ポリマー及び/又はコポリマー樹脂との混合物、アロイ、又はブレンドで利用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのホモポリマー及び/又はコポリマーなどのポリオレフィン;ナイロン;ポリスルホン;ポリエーテル;ポリエーテルイミド;ポリフェニレンオキシド;ポリカーボナート;又はポリエステルとの混合物で利用できる。好ましいブレンドは、ポリカーボナートと本発明の塊状ABS(PC/ABS)である。
【0067】
さらに、特許請求されるゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は、この種の組成物に通常使用される1種以上の添加剤を所望により含んでよい。この種の好ましい添加剤には、耐発火性添加剤(ignition resistant additives)、安定剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐衝撃性改良剤(エマルションABS、ポリオレフィンエラストマー、メチルメタクリラートと、ブタジエンと、スチレンとの(MBS)ターポリマー、アクリラートゴムなど)、シリコンオイル、流動性向上剤(flow enhancers)、離型剤などがある。さらに、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化カーボナートオリゴマー、ハロゲン化ジグリシジルエーテル、有機リン化合物、フッ素化オレフィン、酸化アンチモン、及び芳香族硫黄の金属塩、又はこれらの混合物があるが、これらに限定されない耐発火性添加剤を使用してよい。さらに、限定はされないが、熱、光、及び酸素、又はこれらの混合物により起こる劣化に対して塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を安定化する化合物を使用してよい。充填剤及び補強剤が存在してもよい。充填剤の好ましい例には、タルク、クレイ、珪灰石、マイカ、ガラス、又はこれらの混合物がある。
【0068】
使用される場合、そのような添加剤及び/又は充填剤は、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の重量に対して、少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.1重量%、より好ましくは少なくとも約1重量%、より好ましくは少なくとも約2重量%、最も好ましくは少なくとも約3重量%の量で存在する。一般的に、添加剤及び/又は充填剤は、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の重量に対して、約40重量%以下、好ましくは約30重量%以下、より好ましくは約20重量%以下、より好ましくは約15重量%以下、より好ましくは約10重量%以下、最も好ましくは約5重量%以下の量で存在する。好ましくは、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの重量に対して、添加剤は5重量%までの量で存在してよく、充填剤は40重量%までの量で存在してよい。
【0069】
本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物は熱可塑性である。熱を加えて軟化又は溶解すると、本発明の組成物は、(共)押出、圧延、積層、真空成形、熱成形、圧縮成形、ガスアシスト射出成形、射出成形、及び/又はブロー成形などの単独又は組み合わせた従来技術を利用して、好ましくは(共)押出を利用して、異形材、パイプ、フィルム、又はシートに形成又は成形できる。
【0070】
本発明の一実施形態において、コストを最低限にするために、シートはA−B構造に共押出されるが、A構造層は、典型的にはシート厚さの5から15パーセントを構成する本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物である。共押出される層は、フィードブロック技術又はマルチマニフォールド技術により共押出できる。用途に応じて、B層は標準ABS又は特定の最終用途向けの望ましい性質を与える他の熱可塑性ポリマーでよい。場合によっては、A−B−A構造も製造することもできる。本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の低光沢フィルム(典型的には100から200ミクロン)を、押出工程の間に、任意の適合性のある熱可塑性樹脂、好ましくは標準ABSに積層してもよい。
【0071】
慣例により、厚さが1ミリメートル(mm)以上の材料はシート又はシート材40と呼ばれる。慣例により、厚さが1mm未満の材料はフィルムと呼ばれる。シートは、急冷面表面42及び高温面表面41を有する。シートの押出方法は周知である。簡単に言うと、熱可塑性ポリマーは押出機1中で溶融混合され、典型的にはセンターフィードダイである、シート2の製造用に設計されたダイを通して押出される。ダイは、ダイから出てくる溶融物の厚さを制御する。押出物又は押出された連続シート30は、ロールスタックと呼ばれることもある急冷ロールを通る。急冷ロール3、4、5、又は6、7、及び8は、循環水により、又は高温が要求される場合にはオイルにより、正確な温度に維持されている。
【0072】
押出物又は押出された連続シート30が上向きにロールスタックを通る場合、ロールスタックは「アップスタック」と称され(図1)、押出物又は押出されたシートが下向きにロールスタックを通る場合、ロールスタックは「ダウンスタック」と称される(図2)。ロールスタックの他の構成、例えば水平ロールスタックなども本発明の範囲内である。押出されたシートの所望の表面外観によって、ロールの表面は研磨されてなめらかなことがあり、又は押出されたシートに写し取られる模様(エンボス加工と称されることがある)をその上に有することもある。
【0073】
エンボス加工は、典型的には、アップスタック構成のロール4又はダウンスタック構成のロール7にある。ロールスタック温度は、エンボス加工の種類によって大きく変わるだろう。典型的には、複雑さの低いエンボス加工(例えば微粒子)は、低いスタック温度、典型的には60℃から100℃で製造できる。複雑さの高いエンボス加工(例えば革しぼ)は、典型的には120℃付近の高いロールスタック温度を要するが、さらに高い温度(例えば165℃)も利用できる。高温での制限因子は、ロールへの溶融物の粘着である。面31でのロール3と4(又はロール6と7)との間のシートの実際の温度測定値は、グロスロール温度が80℃の時ですら150℃から170℃になることがある。
【0074】
なめらか又は光沢のあるシートの製造のためのアップスタック構成に使用されるロールスタックでは、好ましくは、第1又は底部ロール3の温度は60℃から90℃である。ダウンスタックでは、好ましくは、第1又は最上ロール6の温度は60℃から90℃である。アップスタックでは、好ましくは、第2又は中間ロール4の温度は70℃から100℃である。ダウンスタックでは、好ましくは、第2又は中間ロール7の温度は70℃から100℃である。アップスタックでは、好ましくは、第3又は最上ロール5の温度は80℃から100℃である。ダウンスタックでは、好ましくは、第3又は底部ロール8の温度は80℃から100℃である。
【0075】
アップスタック構成において、第2/中間ロール4に接触しない連続押出シート30の表面は高温面31と呼ばれる。アップスタック構成において、第2/中間ロール4に接触する連続押出シート30の表面は急冷面32と呼ばれる。ダウンスタック構成において、第2/中間ロール7に接触しない連続押出シート30の表面は高温面31である。ダウンスタック構成において、第2/中間ロール7に接触する連続押出シート30の表面は急冷面32である。アップスタック構成の連続押出シート30の高温面31(図1及び3)は、切断された押出シート40の底面41になる(しかし、それでも高温面である)。しかし、ダウンスタック(図2)の連続押出シート30の高温面は、切断された押出シートの上面になる(しかし、それでも高温面であり、図には示されていない)。スタック構成に関わらず、第2/中間ロールの表面に接触する連続押出シートの表面及び得られた切断済み押出シートの表面は、それぞれ急冷面32及び42と定義される。スタック構成に関わらず、第2/中間ロールの表面に接触しない連続押出シートの表面及び得られた切断済み押出シートの表面は、それぞれ高温面31及び41と定義される。
【0076】
押出物又は連続押出シートを冷却するだけでなく、ロールは通常クロムメッキされて高い仕上がりに研磨されており、これは切断済み押出シートの表面光沢を大いに左右するであろう。エンボス加工には、ほとんどの場合で中間ロールが連続押出シート30への模様のエンボス加工に使用される。エンボス模様の例には、木目調、革しぼ、プリズムパターンなどがある。
【0077】
冷却ロールを離れると、連続押出シートは、引張りロール13、14、15、及び16に移動する。この時間の間、シートは小さい冷却ロール9、10、11、及び12により通常支持され、ファン又は他の手段により冷却することもできる。引張りロール13、14、15、及び16から、連続押出シート30はエッジトリマー17を通ることがあり、通常自動的にカッター18により切断され、切断済み押出シート40が形成される。切断済み押出シート40はコンベヤベルト19で運搬され積み重ねられる。切断済み押出シート40には、高温面41及び急冷面42がある。
【0078】
本発明の方法は、2層以上が共押出又はともに積層される多層技術を利用することもできる。好ましいシートは単層シート又は2層、3層、4層、5層、6層、若しくはそれ以上の層を有する共押出シートである。前記シートは好ましくは熱成形又は真空成形されて二次加工された物品になる。本発明のゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物はフィルムに圧延され、次いで標準的な押出工程の間に単層又は多層シートに積層されることがある。
【0079】
二次加工された物品の中には、熱成形又は真空成形により、輸送機関用の最終製品、例えば、自動車内装装備品、バス用の部品、トラック用の部品、バン用の部品、レクリエーション用車両用の部品、ボート用の部品、及び飛行機用の部品;情報技術装置部品、例えばコンピュータ用の筐体、コンピュータの周辺装置、プリンター、コピー機;TV及びコンピュータモニター用の拡散体部品;家具用の箔、家具用のエッジバンドなど家具用の部品、電化製品用部品などに変換することができる押出シート又はフィルムなどの一貫した低光沢表面を要する成形物品がある。
【実施例】
【0080】
本発明の実施を説明するために、好ましい実施形態の例を以下に述べる。しかし、これらの実施例はどのようにも本発明の範囲を限定しない。
【0081】
実施例1から5及び比較例Aの組成物は塊状製造アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー樹脂であり、8.5重量%のゴムが53.5重量%のスチレン、16重量%のアクリロニトリル、及び22重量%のエチルベンゼンに溶かされ、反応原料流を形成する。混合物は、攪拌しながら連続法で重合する。重合は、多段階反応器系中で上昇する温度プロファイルで起こった。重合プロセスの間、形成コポリマーの一部はゴム分子にグラフトする一方で、グラフトせずその代わりにマトリックスコポリマーを形成するコポリマーもある。
【0082】
直列に結合している4つの栓流反応器から構成されている連続重合装置であって、各栓流反応器が同サイズの3つの領域に分かれており、各領域が別々な温度制御を有し攪拌機を備える連続重合装置の領域1に、ゴム成分、スチレン、アクリロニトリル、及びエチルベンゼンから構成される17.8kg/時の原料を、装置内の総滞留時間がおよそ7時間になるような速度で連続挿入する。1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(TRIGONOX(商標)22開始剤)を第1反応器の原料ラインに加え、n−ドデシルメルカプタン(nDM)(連鎖移動剤)を異なる領域に加え、ゴム粒子のサイズ安定化及びマトリックス分子量を最適化する。表1は、原料組成及び反応条件に関してさらに詳細を含む。4つの反応器を通過した後、重合混合物はプレヒータを利用する分離及びモノマー回収工程に導かれ、その後揮発分除去装置に導かれる。溶融樹脂はストランドにされ、切断されて粒状ペレットになる。モノマー及びエチルベンゼンは再利用され、重合装置に供給される。
【0083】
(a)4つの反応器の温度は以下のとおりである:反応器1:(領域1、105℃)、(領域2、108℃)、及び(領域3、111℃);反応器2:(領域4、115℃)、(領域5、120℃)、及び(領域6、125℃);反応器3:(領域7、131℃)、(領域8、137℃)、及び(領域9、143℃)、並びに反応器4:(領域10、151℃)、(領域11、159℃)、及び(領域12、167℃)。攪拌は反応器のそれぞれで、反応器1から4に、毎分100、100、50、及び10回転(RPM)に設定する。各反応器の最後で試料を試験して転化パーセントを決定し、反応混合物の重量に対する固形分パーセントとして表す。
【0084】
ペレットを使用して、以下の成形条件を有するToyo 90トン射出成形機で物性試験検体を調製する:溶融温度260□C;金型温度77□C;保持圧力9000ポンド毎平方インチ(psi);射出時間1.63秒;保持時間30秒;冷却時間60秒;及びサイクル時間60秒。
【0085】
実施例1から5及び比較例Aのプロセス条件を表1に示す。表1では、重量パーセントはゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の重量を基準としている。表1において略語は以下のとおりである。
【0086】
「B」は、Ineos ABSからLUSTRAN(商標)112LGとして市販の、約13.9重量%ポリブタジエン及び20.8重量%のアクリロニトリルを含んでなる市販塊状ABSである。
【0087】
「C」は、Polimeri EuropaからSINKRAL(商標)D232として市販の約11.4重量%のポリブタジエン及び22.7重量%のアクリロニトリルを含んでなる市販塊状ABSである。
【0088】
「D」は、The Dow Chemical CompanyからMAGNUM(商標)3504 Resinとして市販の約12.5重量%ポリブタジエン及び21.5重量%のアクリロニトリルを含んでなる市販塊状ABSである。
【0089】
「TRIGONOX 22」は、Ciba Specialty Chemicalsから市販の1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンである。
【0090】
「nDM」は、n−ドデシルメルカプタン連鎖移動剤である。
【0091】
「PB」は、Dow BSL PB5901として市販のムーニー粘度が57の低シスポリブタジエンである。
【0092】
実施例1から5及び比較例AからDの組成及び製品性能を以下の表2に示す。表2において略語は以下のとおりである。
【0093】
「PBDftir」は、フーリエ変換赤外分光法により測定したゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物中のポリブタジエン含量であり、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の重量に対する重量%で報告する。
【0094】
「ANftir」は、フーリエ変換赤外分光法により測定したゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物中のアクリロニトリル含量であり、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の重量に対する重量%で報告する。
【0095】
「RPSLS230」は、Beckman Coulter Particle Characterization LS-230装置及びLS230 Beckman Particle Characterizationソフトウェア、バージョン3.01を利用する光散乱法により測定したゴム粒径である。ポリマー試料の6〜8粒をおよそ10mlのDMFに溶かし、最低15分間超音波処理する。以下の光学モデルパラメータ値を使用する。流体屈折率(η流体)−1.431、試料の「実」屈折率(η試料/実)−1.570、試料の「仮想」屈折率(η試料/仮想)−0.01。試料不透明度(obscuration)が45.0から55.0パーセント範囲になるまで、溶解した試料を数滴加える。平均体積平均粒径を報告する。
【0096】
「Mn Matrix」は、狭い分子量ポリスチレン標準を利用してゲル濾過クロマトグラフィーにより測定したマトリックスコポリマーの数平均分子量であり、測定はUV RI検出器により行う。
【0097】
「Mw Matrix」は、狭い分子量ポリスチレン標準を利用してゲル濾過クロマトグラフィーにより測定したマトリックスコポリマーの重量平均分子量であり、測定は屈折率(RI)検出器により行う。
【0098】
「LAR」は、Brinkmann Instruments Inc., Westbury, New Yorkから市販の450nm波長フィルターを備えたBrinkmannモデルPC800プローブ比色計を利用して測定される吸光度比であり、又は等価物が使用される。第1のバイアルで、0.4グラム(g)のゴム変性コポリマーの試料を40ミリリットル(ml)のジメチルホルムアミド(DMF)に溶かす。得られたDMF溶液の5mlを第1バイアルから、40mlのDMFを含む第2のバイアルに加える。得られたDMF溶液の5mlを第1バイアルから、20mlのジクロロメタン(DCM)を含む第3のバイアルに加える。プローブをニートDMFでゼロに合わす。第2バイアルのDMF溶液の吸光度と、第3バイアルのDCM溶液の吸光度を測定する。吸光度比を以下の式により計算する。
LAR=(DMF中の試料の吸光度)/(DCM中の試料の吸光度)
【0099】
押出後の光沢特性を測定するために、シートをBanbury押出機により押出す。80℃で1時間乾燥した後、細粒を押出機に供給する。溶融温度をダイで180℃から225℃に上げる。熱押出物をダウンスタック構成の中間ロールにキャストする。中間ロール温度を80℃に保ち、上部ロールは85℃であり、下部ロールは75℃である。
【0100】
上面は「高温面」と呼ばれ、下面は「急冷面」と呼ばれる。「光沢hot-side」及び「光沢q-side」は、光沢測定のための白色背景を利用して、室温で24時間順応させた後に測定する。
【0101】
「光沢hot-side@T℃」を、特定の温度に加熱されたシートで測定する。IRカメラで温度を測定する。シートの温度は、シートの上に据え付けられた、シートに垂直に放射する300ワットセラミックヒーティングウェイバー(waver)により上昇する。放射時間は2分間であり、セラミックヒーターに供給する電力を、シート温度を所望の温度に維持するように調整する。
【0102】
「光沢hot-side」は、ISO 2813:1994/Cor.1:1997(E)に従い、BYK-Gardner光沢度計(model micro-TRI-gloss)により、押出シートのなめらかな「高温面」の60° Gardner光沢度により測定し、値を光沢度単位(GU)で報告する。
【0103】
「光沢q-side」は、ISO 2813:1994/Cor.1:1997(E)に従い、BYK-Gardner光沢度計(model micro-TRI-gloss)により、押出シートのなめらかな「急冷面」の60° Gardner光沢度により測定し、値を光沢度単位で報告する。
【0104】
「光沢hot-side@T℃」は、ISO 2813:1994/Cor.1:1997(E)に従い、BYK-Gardner光沢度計(model micro-TRI-gloss)により、シートをT℃に温め次いで室温に冷却した後の押出シートの「高温面」の60° Gardner光沢度により測定された光沢であり、値を光沢度単位(GU)で報告する。
【0105】
「引張降伏強さ」、「破断点引張伸び」、及び「引張弾性率」は、ISO 527-2に従い実施する。引張タイプ1検体を、試験前24時間、23℃及び相対湿度50%に調整する。試験は、Zwick 1455機械試験器を利用して23℃で実施する。
【0106】
「MFR@220℃及び10kg」メルトフローレートは、試料を試験前2時間80℃に調整し、ISO 1133に従い、220℃及び荷重10kgで、Zwick 4105 01/03可塑度計で測定する。
【0107】
「ノッチ付きシャルピー23℃」耐衝撃性は、ISO179-1/1eAに従い23℃で実施する。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)モノビニリデン芳香族モノマーとエチレン型不飽和ニトリルモノマーとのコポリマーを含んでなる連続マトリックス相及び
(ii)前記マトリックス中に分離した粒子として分散しているゴム成分を含んでなり、
前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(ミクロンで表すRPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(kg/モルで表されるMw)を有する、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項2】
前記エチレン型不飽和ニトリルが、コポリマーの約10から約35重量%である、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項3】
前記モノビニリデン芳香族モノマーがスチレンであり、前記エチレン型不飽和ニトリルモノマーがアクリロニトリルである、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項4】
n−ブチルアクリラート及び/又はN−フェニルマレイミドから選択されるコモノマーをさらに含んでなる、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項5】
(i)前記コポリマーが約60から90.5重量%の量で存在し、
(ii)前記ゴム成分が約40から9.5重量%の量で存在し、
重量%がゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマーの総重量に基づく、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分が1,3−ブタジエンホモポリマーを含んでなる、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分がスチレン−1,3−ブタジエンブロックコポリマーゴムを含んでなる、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項8】
ポリカーボナート樹脂をさらに含んでなる、請求項1に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物はPC/ABSブレンドである。
【請求項10】
塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する方法であって、
(a)バルク、塊状−溶液、又は塊状重合技術により、溶解しているゴム成分の存在下で、モノビニリデン芳香族モノマー及びエチレン型不飽和ニトリルモノマーを、所望により不活性溶媒の存在下で重合し、前記ゴム成分が分離したゴム粒子として分散している連続マトリックスコポリマー相を含む混合物を形成する工程、
(b)得られた混合物を、未反応モノマーを全て除去しゴムを架橋するに十分な条件に曝す工程、及び
(c)前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(ミクロンで表すRPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(kg/モルで表されるMw)を有する、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を単離する工程を含んでなる方法。
【請求項11】
前記モノビニリデン芳香族モノマーがスチレンであり、前記エチレン型不飽和ニトリルモノマーがアクリロニトリルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の(共)押出されたシート、パイプ、フィルム、又は異形材を製造する方法であって、
(A)以下の工程により、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程:
(a)バルク、塊状−溶液、又は塊状重合技術により、溶解しているゴム成分の存在下で、モノビニリデン芳香族モノマー及びエチレン型不飽和ニトリルモノマーを、所望により不活性溶媒の存在下で重合し、前記ゴム成分が分離したゴム粒子として分散している連続マトリックスコポリマー相を含む混合物を形成する工程、
(b)得られた混合物を、未反応モノマーを全て除去しゴムを架橋するに十分な条件に曝す工程、及び
(c)前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(RPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(Mw)を有する、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を単離する工程、及び
(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を(共)押出して、(共)押出されたシート、パイプ、フィルム、又は異形材にする工程を含んでなる方法。
【請求項13】
塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の(共)押出されたシート又はフィルムから熱成形又は真空成形された二次加工物品を製造する方法であって、
(A)以下の工程により、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程:
(a)バルク、塊状−溶液、又は塊状重合技術により、溶解しているゴム成分の存在下で、モノビニリデン芳香族モノマー及びエチレン型不飽和ニトリルモノマーを、所望により不活性溶媒の存在下で重合し、前記ゴム成分が分離したゴム粒子として分散している連続マトリックスコポリマー相を含む混合物を形成する工程、
(b)得られた混合物を、未反応モノマーを全て除去しゴムを架橋するに十分な条件に曝す工程、及び
(c)前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(RPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(Mw)を有する、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を単離する工程、
(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を(共)押出して、(共)押出されたシート又はフィルムにする工程、及び
(C)前記(共)押出されたシート又はフィルムを熱成形又は真空成形して、二次加工された物品にする工程を含んでなる方法。
【請求項14】
塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物の積層されたシート、フィルム、又は異形材を製造する方法であって、
(A)以下の工程により、塊状重合されたゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を調製する工程:
(a)バルク、塊状−溶液、又は塊状重合技術により、溶解しているゴム成分の存在下で、モノビニリデン芳香族モノマー及びエチレン型不飽和ニトリルモノマーを、所望により不活性溶媒の存在下で重合し、前記ゴム成分が分離したゴム粒子として分散している連続マトリックスコポリマー相を含む混合物を形成する工程、
(b)得られた混合物を、未反応モノマーを全て除去しゴムを架橋するに十分な条件に曝す工程、及び
(c)前記ゴム粒子が光散乱LS230により測定して5ミクロン以上の平均ゴム粒径(ミクロンで表すRPS)を有し、前記マトリックスが以下の式:
Mw≧155−10-6×RPS6
により表される重量平均分子量(kg/モルで表されるMw)を有する、ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を単離する工程、
(B)前記ゴム変性モノビニリデン芳香族コポリマー組成物を圧延してフィルムにする工程、及び
(C)前記フィルムを(共)押出された熱可塑性シート、フィルム、又は異形材に積層して、積層されたシート、フィルム、又は異形材を形成する工程を含んでなる方法。
【請求項15】
(D)前記積層されたシート又はフィルムを熱成形又は真空成形して二次加工された物品にする工程をさらに含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記熱成形又は真空成形された物品が、建築及び建設用部品、自動車部品、ボート部品、飛行機部品、トラック部品、バン部品、バス部品、レクリエーション用車両部品、情報技術装置部品、家具部品、拡散板、又は電化製品部品である、請求項13又は15に記載の方法。
【請求項17】
(共)押出されたシート、フィルム、パイプ、又は異形材の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
熱成形又は真空成形された物品の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の物品は、建築及び建設用部品、自動車部品、ボート部品、飛行機部品、トラック部品、バン部品、バス部品、レクリエーション用車両部品、情報技術装置部品、家具部品、拡散板、又は電化製品部品である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−528395(P2011−528395A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518767(P2011−518767)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/048365
【国際公開番号】WO2010/008875
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510288530)スティロン ヨーロッパ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (18)
【Fターム(参考)】