説明

改良したアルミニウム合金−炭化ホウ素複合材料

鋳造用複合材料は、アルミニウム系の母材合金を供給し、易流動性の炭化ホウ素粒子と溶融状態のアルミニウム系の母材合金との混合物を形成することにより調整される。この混合物は、アルミニウム合金で炭化ホウ素を濡らし、且つ溶湯の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させるために攪拌される。その後、溶融混合物は、鋳造される。流動性は、(a)母材金属のマグネシウムの濃度を約0.2重量%以下に維持すること、(b)最初は約0.2重量%未満のマグネシウムを含む母材金属とし、鋳造の直前にさらにマグネシウムを母材に添加すること、又は(c)混合物中に、少なくとも0.2重量%のチタンを存在させること、により維持される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、鋳造した金属母材の複合材料に関し、特に、構造材料用の、特に中性子吸収材料用のアルミニウム合金−炭化ホウ素の鋳造金属母材に関する。
【0002】
背景技術
核エネルギー産業において、例えば廃棄燃料用の容器中で中性子を吸収し、そしてそれを放出しないような建築材料に対する関心が高まっている。核エネルギー産業では、中性子吸収材料として、炭化ホウ素が長年利用されている。炭化ホウ素は、ASTM規格に合致した商業的に利用できる材料である。炭化ホウ素で強化された金属母材は、軽量の構造材料としても応用されている。
【0003】
2000年5月11日に公開されたReynolds Metals Companyの国際特許出願WO00/26921には、アルミニウム合金−炭化ホウ素複合材料について、高温部及び使用済核燃料の両方の貯蔵庫用の中性子吸収材料としての用途が記載されている。これらの複合材料製品は、粉末冶金法により用意されていた。この方法では、アルミニウム合金粉末を、最初に炭化ホウ素の粉末と混合する。母材に好ましいアルミニウム合金として、例えばAA6010合金のようなAA6000系の合金が知られており、少なくとも15%の炭化ホウ素と混合された。AA6000系合金は、少なくとも0.25%Mgを含んでおり、AA6010合金は、少なくとも0.8%Mgを含んでいる。この文献では、AA2000系合金、AA3000系合金、及びAA7000系合金は好ましくないが、Al、Mg、及びSiは、受け入れられる元素であると考えていた。
【0004】
原子力産業に要求される大型の工業部品を製造するには、粉末冶金法は、高価な方法である。それゆえ、アルミニウム合金−炭化ホウ素複合材料製品を製造するための、より簡単で、より安価な方法が必要とされている。Skiboらの米国特許US4786467には、アルミニウム合金複合材料の製造方法が記載されている。この方法では、種々の非金属粒子をアルミニウム合金母材に添加する。上記の非金属粒子の幅広い種類の中には、炭化ホウ素が含まれていた。しかしながら、炭化ホウ素を用いた試験は示されておらず、主として炭化ケイ素粒子の試験が行われていた。Skiboの方法では、炭化ケイ素粒子を溶融アルミニウム合金中に混合し、その混合物を攪拌して粒子をアルミニウム合金で濡らした。そして、混合材料を鋳造した。
【0005】
Hammondらの米国特許US5186234に記載されているように、ある種の充填粒子と合金母材の間での反応が問題になることが、明らかになった。この特許は、溶融した複合材料が鋳造性に非常に乏しく且つ低い流動性を有し、その結果として受け入れられない製品になる、という、一定の状況下で出会う問題を克服していた。これは、特に、溶融した複合材料を保持するための鋳造物再溶融炉の問題であり、この複合材料は、アルミニウム母材中にSiCを含有していた。
【0006】
Skiboの米国特許US5083602に記載されているように、ある種の合金元素は耐火物粒子の濡れ性を抑制することが、明らかになった。この例では、そのような濡れ性を抑制する元素を、合金により粒子を濡らした後に添加していた。この特許は、濡れの間に、耐火物粒子がマグネシウムにより攻撃される問題に取り組んでない。なぜなら、マグネシウムは、第1の(濡れ)工程において、濡れ性を促進するのに有用であると記載されているからである。
【0007】
Lloydらのヨーロッパ特許EP0608299に、アルミニウム粒子を、約0.15〜0.3%Mg含有アルミニウム合金中に分散する場合の手順が記載されている。ここでは、スピネル層の形成を抑制するために、ストロンチウムを添加している。もしそうしなければ、スピネル層が形成されて、母材から有用なマグネシウムが奪われる。
【0008】
Hanssonらの米国特許US5246057に、アルミナ粒子を、Mgの初期濃度の高いアルミニウム合金中に分散して、アルミナ粒子上に安定したスピネル被膜を生成する方法が記載されている。その後、Mg濃度は、希釈されて、望ましいマグネシウム水準(level)まで減少する。
【0009】
Ferrandoらの米国特許US5858460に、航空宇宙への応用のための鋳造複合材料の製造方法が記載されており、マグネシウム−リチウム合金、又はアルミニウム−リチウム合金中に炭化ホウ素粒子を用いている。ここで、粒子を溶融金属中に混合する前に、粒子表面に銀の金属被膜を形成する。これにより、合金に対する粒子の濡れ性の低さの問題と、反応性を克服した。
【0010】
Pyzikらの米国特許US5521016に、アルミニウム−炭化ホウ素複合材料を、ホウ素−炭化物の予備成型体に溶融アルミニウム合金を含浸させることによって製造する方法が記載されている。炭化ホウ素は、熱処理により、最初に不動態化されている。
【0011】
Richらの米国特許US3356618に、中性子制御棒用の複合材料を、その複合材料の成形前に、炭化ケイ素又は炭化チタンの被膜を、例えば化学蒸着法により塗布して保護することが記載されている。複合材料は、種々の金属中の、炭化ホウ素又はホウ化ジルコニウムから形成されている。しかし、母材金属が高温金属であり、アルミニウム合金を含んでいない。
【0012】
Jason S.H. Loのカナダ特許CA2357323に、ブレーキに応用した複合材料が記載されている。複合材料は、アルミニウム合金を含浸耐火物の粒子、ウィスカー又は繊維の予備成型体から形成されており、その予備成型体には、1〜40%の2元素金属間化合物粒子を含むアルミニウム合金が含浸(例えば圧迫鋳造(squeeze casting))されている。2元素金属間化合物粒子は、含浸前に、第2の金属粉末をアルミニウム合金に添加することにより形成される。この金属間化合物粒子は、溶融アルミニウム中と、完成した複合材料の熱処理の両方で形成される。耐火粒子は炭化ホウ素を含んでおり、第2の金属はチタンを含んでいる。
【0013】
発明の開示
本願発明者の試みは、Skiboらの米国特許US4786467に従って、アルミニウム合金−炭化ホウ素の複合材料の製品を形成することである。しかしながら、その方法では、炭化ホウ素粒子のごく制限された量だけを、混合物が鋳造するには高すぎる粘度になる前に、溶融したアルミニウムに添加することができるのみである。本発明によれば、金属母材中に存在するマグネシウムが問題であることを見いだした。よって、中性子吸収材のような構造材料に応用するためのアルミニウム合金−炭化ホウ素の複合材料は、(a)母材金属のマグネシウムの濃度を約0.2重量%以下に維持することにより、又は(b)最初は約0.2重量%未満のマグネシウムを含む母材金属とし、鋳造の直前にさらにマグネシウムを母材に添加することにより、又は(c)混合物中に、少なくとも0.2重量%のチタンを存在させることにより、流動性を維持できることを見いだした。この幅広い目的の複合材料は、約10〜約40容量パーセントの易流動性(free-flowing)の炭化ホウ素粒子を含んでおり、約90〜約60容量パーセントの溶融アルミニウム合金を含んでいる。
【0014】
流動性が、マグネシウムの含有量を0.2重量%以下に維持することによって制御されている場合には、マグネシウムの含有量は、約0.1重量%未満であるのが好ましく、0.05重量%であるのがより好ましい。
【0015】
溶融複合材料を保持している間に、複合材料の流動性が低いことによって、反応は起こると考えられている。もしも低いマグネシウム基準が適用されていれば、鍛錬用合金と鋳物用合金の両方を用いることができる。
【0016】
よって、本発明の目的の1つは、鋳造した複合材料の製造方法を提供することであり、約0.2重量パーセント未満のマグネシウムを含有するアルミニウム系の母材合金を供給する工程と、約10〜約25容量パーセントの易流動性の炭化ホウ素粒子と約90〜約75容量パーセントの溶融母材合金との混合物を調製する工程と、溶融混合物を攪拌して、アルミニウム合金で炭化ホウ素を濡らし、且つ溶湯の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させる工程と、溶融混合物を鋳造する工程と、を含んでいる。
【0017】
鋳造して得られたアルミニウム複合材料は、(a)再溶融してある形状に鋳造すること(b)押し出し成形(c)圧延、及び(d)鍛造のような、別の操作にもよく適合する。
【0018】
鍛錬用アルミニウム合金を製造するのに好ましい組成は、0.2重量パーセント未満のマグネシウムを含むAA1000系合金である。鋳物合金に好ましい組成は、約5〜10重量%のケイ素と0.2重量%未満のマグネシウムとを含むアルミニウム合金である。
【0019】
添加する炭化ホウ素の量は、通常は、鋳造性に許容されうる最大の量にされる。これは、一般的には、複合材料の10〜25容量%の範囲であり、約15〜20容量%の範囲であるのが好ましい。
【0020】
複合材料中のマグネシウムが比較的低い条件下であっても、時間が経つと、アルミニウム合金母材が炭化ホウ素と反応する傾向にある。これにより、鋳造の遅延と再溶融の過剰な保持時間とが不可避的に生じてしまい、複合材料の実用性が制限される。また、そのような条件下で添加できる炭化ホウ素の量も制限される。この制限された量は、反応性の低い他の状況で用いられる通常の量に比較して少ない。結局、マグネシウム水準の制限によって、応用範囲が少々制限される。マグネシウムは、金属母材複合材料に、一定の望ましい機械的性質を与えるからである。
【0021】
よって、複合材料とその製造方法は、長い保持時間を許容する(最初の製造と、再溶融及び鋳造操作とのいずれにおいても――こうして、部品の鋳物の鋳造中に、又は廃品材料のリサイクルにおいて生じるであろう再溶融と鋳造操作にとって、特に好ましい複合材料を作る)ように、及び/又は、より多量の炭化ホウ素の添加を許容するように、さらに変更できる。本発明のこれらの変更は、(a)混合物中に、少なくとも0.2重量パーセントのチタンが存在していること、及び(b)鋳造の直前にさらにマグネシウムを混合物に添加すること、を含んでいる。
【0022】
このようにして、本発明の別の目的は、複合材料の製造方法を提供することであり、少なくとも0.2重量パーセントのチタンを含有するアルミニウム系の母材合金を供給する工程と、約10〜約40容量パーセントの炭化ホウ素粒子と約90〜約60容量パーセントの溶融母材合金との混合物を調製する工程と、溶融混合物を攪拌して、アルミニウム合金で炭化ホウ素を濡らし、且つ溶湯の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させる工程と、溶融混合物を鋳造する工程と、を含んでいる。
【0023】
本発明のこの目的はまた、鋳造複合材料製品を提供することでもあり、この複合材料製品は、アルミニウム合金母材中に均一分散した炭化ホウ素粒子を含むアルミニウム合金から成り、ここで、炭化ホウ素粒子の濃度は10〜40容積パーセントで、複合材料中のチタンの濃度は、アルミニウムとチタンとの総量の少なくとも0.2重量パーセントである。
【0024】
上記の量のチタンを含有する複合材料を得るためには、チタンを含んでいるAA1000系の合金を用いるのが好都合である。
【0025】
そして、本発明のさらに別の目的は、複合材料の製造方法を提供することであり、0.2重量パーセント未満のマグネシウムを含有するアルミニウム系の母材合金を供給する工程と、約10〜約25容量パーセントの炭化ホウ素粒子と約90〜約75容量パーセントの溶融母材合金との混合物を調製する工程と、溶融混合物を攪拌して、アルミニウム合金で炭化ホウ素を濡らし、且つ溶湯の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させる工程と、マグネシウムを溶融混合物に添加する工程と、マグネシウムの添加から20分以内に溶融混合物を鋳造する工程と、を含んでいる。ここで、添加したマグネシウムの量によって、アルミニウム合金母材中のマグネシウム濃度は、0.2〜0.8重量パーセントにまで上昇する。
【0026】
本発明のこの目的はまた、鋳造複合材料を提供することでもあり、この複合材料は、0.2〜0.8重量パーセントのマグネシウムと、合金母材中に分散された10〜25容量パーセントの炭化ホウ素の耐火物粒子とを含んでいる。
【0027】
本発明の他の目的は、複合材料を製造する方法を提供することであり、0.2重量パーセント未満のマグネシウムと少なくとも0.2重量パーセントのチタンとを含有するアルミニウム系の母材合金を供給する工程と、約10〜約40容量パーセントの炭化ホウ素粒子と約90〜約60容量パーセントの溶融母材合金との混合物を調製する工程と、溶融混合物を攪拌して、アルミニウム合金で炭化ホウ素を濡らし、且つ溶湯の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させる工程と、マグネシウムを溶融混合物に添加する工程と、マグネシウムの添加から30分以内に溶融混合物を鋳造する工程と、を含んでいる。ここで、添加したマグネシウムの量によって、アルミニウム合金母材中のマグネシウム濃度は、0.2重量パーセント以上に上昇する。
【0028】
本発明のこの目的はまた、鋳造複合材料を提供することでもあり、この複合材料は、0.2重量パーセント以上のマグネシウムと合金母材中に分散された10〜40容量パーセントの炭化ホウ素の耐火物粒子とを含むアルミニウム合金と、複合材料中にアルミニウムとチタンとの総量を基準として少なくとも0.2重量パーセントのチタンと、から成っている。アルミニウム合金母材は、アルミナイド金属間化合物を実質的に含まないのが好ましい。ここで、「分散した」とは、粒子が、母材全体に実質的に均一に分散していることを意味しており、攪拌によって分散された粒子の特徴である。
【0029】
上述のアルミニウム合金は、AA2000系、AA3000系、AA4000系若しくはAA6000系等の鍛錬用合金か、又はAA200系若しくはAA300系等の鋳造用合金に添加したチタンを加えた合金から選択されるのが好ましい。
【0030】
特に、マグネシウムが、母材合金の1.4重量パーセント以下の量で存在するのが好ましい。
【0031】
添加したマグネシウムを含む上述の実施形態では、炭化ホウ素がアルミニウム合金により完全に濡れて、且つ炭化ホウ素粒子が溶湯全体に分散されるように、マグネシウムは、溶融混合物が攪拌された後に添加されるのが好ましい。さらに、マグネシウムは、複合材料が攪拌容器から鋳造機に移送される時に添加されるのがより好ましい。例えば、マグネシウムの添加は、鋳造用トラフの中や、移送用の取鍋の中で行うことができる。また、複合材料は、マグネシウムの添加と製品の鋳造との間中、攪拌することが好ましい。この攪拌は、複合材料が形成される容器内と、製品を鋳造するために複合材料を鋳造機に運ぶのに用いられるトラフ内又は移送用取鍋内と、の両方で行われるのが好ましい。
【0032】
上述の実施形態では、炭化ホウ素の耐火物が易流動性の粉末として溶融アルミニウムに添加され、複合材料中に混入される気体の量を制限する手法により混合されるのが好ましい。
【0033】
上述の実施形態は、特に、中性子吸収材に応用するための構造材料として有用である。有効な中性子吸収特性を提供するには、炭化ホウ素濃度は、最小でも10容量パーセント必要である。炭化ホウ素の上限水準は、混合物に要求される流動性により決定される。この上限水準は、流動性を向上させるためにチタンを添加していない場合には、又は、チタンが添加されていて且つマグネシウムの水準が0.2重量%以上の場合には、25容量パーセント以下に限定するのが好ましい。
【0034】
混合物は、ビレットやスラブのDC鋳造を含む鋳造、再溶融と鋳造とを行うためのインゴットへの鋳造、又はいずれかの好都合な鋳型の鋳造の形式を用いた一定の形状への鋳造のような、どのような形態の鋳造にも改めることができる。
【0035】
添加したチタンを含有する複合材料では、チタンは、少なくとも炭化ホウ素の耐火粒子の表面の一部を被覆している金属間化合物として、部分的に存在するのが好ましい。合金属間化合物は、追加としてホウ素、又はアルミニウムを加えたホウ素のどちらでも含むことができる。耐火粒子は、攪拌しながら合金混合物に添加される易流動性の粉末に特有の粒子の均一分散の状態で存在している。
【0036】
いずれの理論にも結びつけられることを望まないが、チタンの添加は、炭化ホウ素粒子の表面との反応を引き起こして、その表面に安定したチタン含有化合物を形成するものと考えている。その化合物は、母材中に分散せず、母材中でのアルミニウム合金によるさらなる攻撃を防ぐ。これらの化合物は、チタンに加えて、ボロン及び/又は炭素を含んでおり、化学量論的な、又は非化学量論的な、多様な組成を有しているだろう。よって、複合材料は、炭化アルミニウム等が徐々に形成されることにより引き起こされる流動性の消失を伴うことなく、より長い時間の保持が可能になる。そして、それと同時に、より高濃度の炭化ホウ素を、鋳造前に流動性を失うことなく添加できる。また、安定化した炭化ホウ素は、マグネシウム含有合金による攻撃に対してより高い耐性を有する。
【0037】
アルミニウムとチタンとの総量に対して測定したチタンの水準が0.2重量パーセント未満であると、安定化の効果は、流動性が徐々に消失するのを克服するには不十分であることを見いだした。これは、チタン含有材料の安定化層による粒子表面の被覆率が不十分であることに関係していると考えている。
【0038】
表面安定化チタン含有材料は、例えば、Al−Ti金属間化合物よりも安定であると考えている。本発明で用いられるチタン水準では、比較的少量のチタンが溶液中に存在しており、炭化ホウ素がないときは、残ったチタンは、Al−Ti金属間化合物として存在しているだろう。しかしながら、本発明では、そのようなAl−Ti金属間化合物は、多くが表面安定化化合物に転換し、もし金属母材中にAl−Ti金属間化合物粒子を見つけることがあったとしても、わずかな量であるように思われる。それゆえ、高水準のチタンは、安定化効果を増加させて、チタン濃度の有用な上限は、炭化ホウ素粒子の被覆及び安定化に必要とされるだけである。その水準を越えると、追加したチタンは、チタンアルミナイドを形成すると予想される。チタンアルミナイドは、結局は、受け入れることのできない材料特性を生じるであろう。よって、本発明で用いられるチタンの最大水準は、アルミニウムとチタンの総量に対して5重量パーセント未満であるのが好ましい。
【0039】
チタンは、粒子を効果的に安定させるが、合金中のマグネシウムは、1つ以上のチタンの表面化合物と置換して、そして粒子を分解し始めることができる。それゆえ、0.2重量パーセント以上のマグネシウムを含有する複合材は、鋳造前の制限された時間内で保持しなくてはならない。そして、適度な量のマグネシウムが含有された合金(AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、AA200系、又はAA300系合金)を用いるのが好ましい。さらに、マグネシウムの量を最大で1.4重量%に制限するのが、より好ましい。
【0040】
上述の明細書において与えたチタン濃度は、基準が母材合金又は複合材料の総量のどちらであっても、あらゆる形のチタンを表現していると理解されるだろう。チタンは、アルミニウムに対して一定の溶解度の限度があり、その限度を超えると、過剰なチタンは、溶液から金属間化合物として、又はチタン−ホウ素化合物を含む耐火性化合物として析出することが知られている。よって、少なくとも0.2%のチタンを含むとして指定された合金又は複合材料は、溶液中のチタンと、Ti−AlかTi−Al−B或いはTi−Bを含む化合物の形態のチタンと、の総量を含んでいる。合金と複合材料のいずれも、チタンの含有率は、存在するチタンの総重量を、全てのチタンを含む全てのアルミニウム合金組成の重量で割ったものに基づいて決定される。チタンは、マスター合金(例えば、Al−10%Tiマスター合金)も含めて、又はチタンを含有する細粒又は粉末として、どのような都合のよい形態でも添加できる。
【0041】
発明を実施するための最良の形態
実施例1
米国特許US4786467の技術を用いて、複合材料を調製した。ここで、炭化ホウ素粒子が以下の組成を有する母材合金に混合された。
【0042】
【表1】

【0043】
合金1(0.91%Mg含有)の場合、たった7.5容量%の炭化ホウ素を添加しただけで、混合物が高粘度になり、それ以上攪拌できなくなった。
【0044】
合金2(ごく微量のMgを含有)の場合、攪拌の問題もなく、15容量%の炭化ホウ素を添加した。その後、この複合材料を1時間保持したが、鋳造するのに十分な流動性があった。合金2を用いた鋳造インゴットから取った試料を、実験室の圧延ミルで1.65〜2.20mmの間の厚さにまで圧延し、そして試料を中性子吸収試験にかけた。中性子の減衰係数の平均値1.06μm/mmを得た。
【0045】
実施例2
米国特許US4786467に概要が説明されている方法に従って、さらに複合材料を調製した。この方法では、15容量%の炭化ホウ素粒子を、たった0.01重量%Mgを含むAl−8.7%Si合金と組み合わせた。
【0046】
この材料を1.5時間保持したが、容易に鋳造するのに十分な流動性を維持していた。母材合金は、マグネシウム水準を除けば、米国特許US5186234に開示されたSiC耐火粒子を用いた複合材料の金属母材の製造に普通に利用する合金と同様である。この場合も、本発明の母材合金のマグネシウム水準は、通常に利用するそのような合金の仕様である少なくとも0.3重量%の通常水準よりは、微量レベルである。
【0047】
実施例3
米国特許US4786467の方法に従って、さらなる組合せの複合材料を調製した。この方法では、15容量%の窒化ホウ素粒子を、異なるチタンの添加濃度を含むAA1000系及びAA4000系のアルミニウム系合金に添加した。複合材料を種々の時間で保持した後に、複合材料をブックモールド内に鋳造し厚さ6mmの細長い水平ストリップの形にして、得られた混合物の流動性を試験した。ブックモールドは、ストリップに沿って36mmごとに隙間をあける制限物を有しており、その地点では、制限物を厚さ3mmまで縮めていた。複合材料が凝固するまでにモールドに沿って流れた距離を、その流動性の尺度とした。「流動性」が50mmよりも大きい場合には、受け入れ可能であると見なした。
【0048】
表2には、0.02重量%Si、0.13重量%Fe、0.003重量パーセントCu、0.002重量パーセントMg、0.001重量%Mn、0.002重量%Znを含むアルミニウム系合金の、種々の保持時間における流動性の測定結果を与えた。また、アルミニウム系合金は、0.001重量%Tiも含んでおり、この合金に2.0重量%Tiまで添加して、チタンの量を変更した。表2の結果は、0.2重量%未満のTiでは、流動性は、時間内に減少して、約1時間の保持時間の後には受け入れられなくなることを示している。0.2重量%Tiでは、1時間まで流動性を有効に維持しており、チタンの添加量を増加すると、流動時間の安定性は、急激に増加する。240mmという値は、鋳型を完全に満たしたことを意味している。
【0049】
【表2】

【0050】
表3には、4.2重量%Si、0.12重量%Fe、0.06重量パーセントCu、0.02重量パーセントMg、0.16重量%Mn、0.003重量%Znを含むAA4000系のアルミニウム系合金の、種々の保持時間における流動性の測定結果を与えた。また、アルミニウム系合金は、0.007重量%Tiも含んでおり、さらに1重量%Tiになるまで母材中に添加して、チタンの量を変更した。チタン濃度の低い混合物の流動性は、60分で役に立たなくなったが、これに対して、1重量%Tiのものは、高い安定性を示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表2に示した1重量%Tiで保持時間10分後の複合材料の試料は、金属組織学的に試験されて、その結果を図1及び図2に示した。複合材料は、炭化ホウ素粒子の存在を示しており、その粒子の表面を覆う小さい析出粒子により飾られている。元素マップ(図2)は、この層が、チタンを含んでいることを示している。この層のより詳細な分析は、それはTiと、B又はCとを含んだ化合物(通常はTiB2又はTiC)であることを示した。粒子間の隙間には、1重量%Tiを含有するアルミニウム母材であれば通常は豊富に存在するTi−Al金属間化合物が、存在しないことを示した。
【0053】
実施例4
マグネシウムを除いてAA6351の組成を有する母材を調製し、その中に、15容量%の炭化ホウ素粉末を混合して複合材料を形成した。炭化ホウ素粉末を混合した後すぐに、母材中に0.6重量%Mgを提供するのに十分な量のマグネシウムが、混合容器に添加された。液状の複合材料は、保持されて、500rpmの回転速度の回転翼により攪拌された。回転翼にかかるトルクを、時間に対して測定した。表4は、時間によって増加するトルク(任意単位)を示している。
【0054】
【表4】

【0055】
経験から、回転速度500rpmで50単位より大きいトルクは、混合物の鋳造性が
過度に悪化したことを意味している。上記の実施例は、0.6%Mg添加により、マグネシウム添加後から約20分経つと、50単位のトルクが生じることを示している。しかしながら、もし複合材料が、マグネシウム添加後から約20分以内に鋳造されれば、鋳造するのに十分な流動性を維持している。
【0056】
実施例5
AA6000系母材をベースにし、15容量%の炭化ホウ素粒子を含んでいる複合材料を、異なる水準のチタンに調製した。ここでは、マグネシウムは、十分な保持時間の後に添加された。1.0重量%Si、0.11重量%Fe、0.001重量パーセントCu、0.002重量パーセントMg、0.01重量%Znを含むアルミニウム系合金が調製された。また、アルミニウム系合金は、0.001重量%Tiも有していた。実施例3と同様に、低いTi濃度及び1重量%Tiを含む最初の複合材料を調製した後に20分と40分の保持時間のときの流動性を測定し、その時点で、母材中の0.8重量%Mgを与えるのに十分なようにマグネシウムを添加して、2〜5分だけさらに攪拌した後に、再び流動性を測定した。2〜5分とは、鋳造用冶金トラフ内の一般的な滞留時間である。表5は、チタン濃度の低い合金に0.8重量%Mgを添加することにより、短時間で流動性の悪化が引き起こされているのに対して、1重量%チタンのほうは複合材料を十分に安定化して、0.8重量%Mgを添加しても、TiとMgの両方の濃度が低い複合材料と比較しても、容易に鋳造することができる。
【0057】
【表5】

【0058】
どちらの場合も、40分の保持時間後の試料を、金属組織学的に試験した。図3は、窒化ホウ素より先にTiを添加していない複合材料を図示しており、図4は、窒化ホウ素より先に1%Tiを添加している複合材料(本発明に従っている)を図示している。図3は、窒化ホウ素に相当な攻撃があり、複合材料の中で炭化アルミニウム結晶が明瞭に確認される。図4では、保護チタンを含有する層が、多くの粒子上に存在しており、窒化ホウ素への攻撃は非常に少なく、局所的である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明にかかる複合材料の顕微鏡写真であり、アルミニウム(AA1000系)母材に添加したチタンを含んでいる。
【図2】図1の顕微鏡写真の一部分のチタン元素マップである。
【図3】本発明にかかる複合材料の顕微鏡写真であり、アルミニウム(AA6000系)母材を有しており、チタンは添加されていない。
【図4】本発明にかかる複合材料の顕微鏡写真であり、図3と同じ母材を有しているが、チタンは添加されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造複合材料の調製方法であって、該方法は、
アルミニウム系の母材合金を提供する工程と、
約10〜約40容量パーセントの易流動性の炭化ホウ素粒子と、約90〜約60容量パーセントの上記アルミニウム系の母材合金の溶融物との混合物を調製する工程と、
上記母材合金で炭化ホウ素粒子を濡らし且つ上記溶融物の容量全体に炭化ホウ素粒子を分散させるために、溶融した混合物を攪拌する工程と、
溶融混合物を鋳造する工程と、から成り、
溶融混合物の流動性を、
(a)母材金属のマグネシウムの濃度を約0.2重量%以下に維持するか、又は
(b)最初に約0.2重量%未満のマグネシウムを含む母材金属から開始し、鋳造の直前に、母材にさらにマグネシウムを添加するか、あるいは
(c)上記混合物中に、少なくとも0.2重量%のチタンを存在させること
により維持することを特徴とする調製方法。
【請求項2】
上記流動性が、混合物中のマグネシウムの含有量を0.2重量%以下に維持することによって制御されている場合、炭化ホウ素粒子が10〜25容量パーセントの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
マグネシウムの含有量が、0.1重量%未満であることを特徴とする請求項2に記載の調整方法。
【請求項4】
マグネシウムの含有量が、0.05重量%未満であることを特徴とする請求項3に記載の調整方法。
【請求項5】
炭化ホウ素が、15〜20容量%の範囲内にあることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の調整方法。
【請求項6】
母材合金が、AA1000系合金又は母材合金が5〜10重量%Siを含有するアルミニウム合金のいずれかであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の調整方法。
【請求項7】
上記流動度が、最初に約0.2重量%未満のマグネシウムを含む母材金属から開始し、鋳造の直前に、母材にさらにマグネシウムを添加することにより調節されている場合、炭化ホウ素が10〜25容量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の調整方法。
【請求項8】
溶融複合物にマグネシウムを添加してアルミニウム母材合金中のマグネシウム濃度を0.2重量%〜0.8重量%まで上昇させ、マグネシウムの添加から20分以内に溶融混合物を鋳造することを特徴とする請求項7に記載の調整方法。
【請求項9】
上記マグネシウムを、鋳造用トラフ内又は移送用取鍋中でさらに添加することを特徴とする請求項7に記載の調整方法。
【請求項10】
マグネシウムの添加後に、複合材料をさらに攪拌することを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の調整方法。
【請求項11】
アルミニウム合金が、AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、A200系、及びAA300系合金から成る群から選択されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の調整方法。
【請求項12】
上記流動度が、複合材料中に少なくとも0.2重量%のチタンを有することにより調節されている場合、溶融複合物にマグネシウムを添加してアルミニウム母材合金中のマグネシウム濃度を少なくとも0.2重量%まで上昇させ、炭化ホウ素を10〜25容量%の範囲内にすることを特徴とする請求項1に記載の調整方法。
【請求項13】
マグネシウムの添加から30分以内に溶融混合物を鋳造することを特徴とする請求項12に記載の調整方法。
【請求項14】
複合材料が5重量%未満のチタンを含有することを特徴とする請求項12に記載の調整方法。
【請求項15】
アルミニウム母材中のマグネシウム濃度が1.4重量%以下であることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の調整方法。
【請求項16】
アルミニウム合金が、AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、A200系、及びAA300系にチタンを添加した合金から成る群から選択されることを請求項12乃至15のいずれかに記載の調整方法。
【請求項17】
上記流動度が、複合材料中に少なくとも0.2重量%のチタンを有することにより調節されている場合、アルミニウム合金が、チタンを添加したAA1000系合金であることを特徴とする請求項1に記載の調整方法。
【請求項18】
上記複合材料が5重量%未満のチタンを含有することを特徴とする請求項1に記載の調整方法。
【請求項19】
鋳造した混合物を再溶融し、ある形状に鋳造することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の調整方法。
【請求項20】
鋳造した混合物を押出し成形することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の調整方法。
【請求項21】
鋳造した混合物を圧延することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の調整方法。
【請求項22】
鋳造した混合物を鍛造することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の調整方法。
【請求項23】
鋳造した混合物を中性子吸収材料に形成することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の調整方法。
【請求項24】
鋳造複合材料製品であって、該製品は、
10〜40容量パーセントの炭化ホウ素粒子の耐火物粒子を分散した状態で有するアルミニウム合金母材から成り、
上記複合材料が、少なくとも0.2重量%のチタンを含有し、
上記アルミニウム合金母材が、鋳造したままの微細構造を有することを特徴とする鋳造複合材料製品。
【請求項25】
アルミニウム合金母材がAA1000系合金であることを特徴とする請求項24に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項26】
アルミニウム合金母材が、少なくとも0.2重量%のマグネシウムを含有することを特徴とする請求項24に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項27】
アルミニウム合金が、AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、A200系、又はAA300系合金であることを特徴とする請求項24に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項28】
鋳造複合材料製品であって、該製品は、
10〜25容量パーセントの炭化ホウ素粒子の耐火物粒子を分散した状態で有するアルミニウム合金母材から成り、
上記複合材料が、少なくとも0.2重量%のマグネシウムを含有し、
上記アルミニウム合金母材が、鋳造したままの微細構造を有することを特徴とする鋳造複合材料製品。
【請求項29】
アルミニウム合金が、AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、A200系、又はAA300系合金であることを特徴とする請求項28に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項30】
複合材料が、0.8重量%以下のマグネシウムを含有することを特徴とする請求項28に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項31】
鋳造複合材料製品であって、該製品は、
10〜40容量パーセントの炭化ホウ素粒子の耐火物粒子を分散した状態で有するアルミニウム合金母材から成り、
アルミニウム合金母材が、少なくとも0.2重量%のマグネシウムを含有し、
複合材料が、少なくとも0.2重量%のチタンを含有し
アルミニウム合金母材が、鋳造したままの微細構造を有することを特徴とする鋳造複合材料製品。
【請求項32】
アルミニウム合金が、AA2000系、AA3000系、AA4000系、AA6000系、A200系、又はAA300系合金であることを特徴とする請求項31に記載の鋳造複合材料製品。
【請求項33】
アルミニウム合金母材が、1.4重量%以下のマグネシウムを含有することを特徴とする請求項31に記載の鋳造複合材料製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2006−503986(P2006−503986A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501490(P2005−501490)
【出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001624
【国際公開番号】WO2004/038050
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(591074002)アルキャン・インターナショナル・リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】ALCAN INTERNATIONAL LIMITED
【Fターム(参考)】