説明

改質バイオマスの製造方法

【課題】化学的および/又は生物学的な反応性が十分に高められた改質バイオマスを有効に得ることができ、バイオエタノール等の燃料の大規模製造に適用可能な改質バイオマスの製造方法を提供する。
【解決手段】改質バイオマスの製造方法は、内部にバイオマス10が充填された圧力容器1に80〜360℃の液相の水100を圧入する第1の工程と、第1の工程の後、圧力容器1内において、140〜360℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、バイオマス10と水100とを含む混合物を1分〜2時間保持する第2の工程と、第2の工程後、圧力容器1内を脱圧することにより、液相の水100の少なくとも一部を気化させてバイオマス10を爆砕する第3の工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質バイオマスの製造方法に関する。なお、本発明において、「改質バイオマス」とは、未処理のバイオマスと比較して、化学的及び/又は生化学的反応性が高められたバイオマスを意味する。
【背景技術】
【0002】
近年環境意識の高まりと共に、二酸化炭素排出量を低減するために、化石燃料ではなくバイオマスをエネルギー源として積極的に活用しようとする動きが活発である。その代表例としてバイオエタノールの製造を挙げることが出来る。中でも、砂糖きびやとうもろこし等の食料ではなく、セルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの製造に関する研究開発が精力的に行われている。しかしセルロース系バイオマスは化学的/及び又は生化学的な反応性が低いため、これを原料として利用するには、前処理によって化学的及び/又は生化学的に反応性を高め、改質バイオマスとする必要がある。
【0003】
改質バイオマスの製造方法として、水蒸気爆砕処理及び水熱処理が広く知られている。水蒸気爆砕処理は、バイオマスを高温高圧の水蒸気と共に容器中に封じ込めた後に、圧力を急激に低下させて水蒸気を膨張させることによってバイオマスに衝撃力を付与し、その反応性を高めるものである(例えば下記特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、水熱処理はバイオマスを高温高圧の水中に一定時間浸漬することによりセルロース系バイオマスの反応性を高めるものである(例えば下記特許文献3及び特許文献4を参照。)。水蒸気爆砕処理及び水熱処理は共に毒性のある化学薬品を用いないため、環境に優しい処理法として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−54681号公報
【特許文献2】特開2005−95728公報
【特許文献3】米国特許5846787号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2007/009463号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セルロース系バイオマスの水蒸気爆砕処理や水熱処理の場合、得られる改質バイオマスの反応性は未処理のバイオマスよりは向上するものの、バイオエタノールの原料としての観点から、工業的に十分な水準には達しない。
【0006】
すなわち、本発明者らの検討によれば、例えばセルロース系バイオマスを水蒸気爆砕処理又は水熱処理し、これを酵素糖化反応により糖液を製造する場合、未処理のバイオマスよりも高い糖化率にて糖液は得られるが、これを発酵原料として利用するにはまだ糖化率が不足している。これがセルロース系バイオマスを原料とするエタノール生産を工業化する際の大きな障害となっている。また水蒸気爆砕処理は、水の蒸発潜熱が大きいために水蒸気製造に多大なエネルギーを要するので、高付加価値商品の製造においては受容されても、バイオエタノール等の燃料製造のような大規模生産への適用は現実的ではない。他方、水熱処理においては、効率的に処理を行うにはバイオマスを水スラリーの状態で扱う必要があるため、多量の水が必要になる。これがコストアップ要因となるため、水熱処理の実用化も困難と考えられている。このため産業界では、水蒸気爆砕処理や水熱処理と同様に水を用いる環境に優しい方法であると同時に、これらよりも反応性を高めることが出来る、改質バイオマスの製造方法の開発が強く求められている。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、未処理のバイオマスと比較して、化学的/及び又は生化学的な反応性が十分に高められた改質バイオマスを有効に得ることができ、バイオエタノール等の燃料製造のような大規模生産に適用可能な改質バイオマスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の量の液相の水の共存下に、加熱・加圧下に保持したバイオマスを、短時間内に脱圧して爆砕することにより、反応性が著しく向上した改質バイオマスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、内部にバイオマスが充填された圧力容器に80〜360℃の液相の水を圧入する第1の工程と、前記第1の工程の後、前記圧力容器内において、140〜360℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、前記バイオマスと前記水とを含む混合物を1分〜2時間保持する第2の工程と、前記第2の工程後、前記圧力容器内を脱圧することにより、前記液相の水の少なくとも一部を気化させて前記バイオマスを爆砕する第3の工程と、を備えることを特徴とする改質バイオマスの製造方法を提供する。
【0010】
前記第3の工程においては、前記圧力容器の脱圧を開始してから前記圧力容器内の圧力が大気圧に達するまでの所要時間が0.001〜3秒であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の改質バイオマスの製造方法においては、複数の圧力容器を並列に設置し、当該複数の圧力容器のそれぞれにおいて上記第1〜第3の工程を順次行い、バイオマスを半回分式且つ擬似連続的に処理してもよい。
【0012】
また、本発明の改質バイオマスの製造方法は、上記の第1の工程と第2の工程との間に、圧力容器内の空気を吸引、排出する第4の工程を更に備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明の改質バイオマスの製造方法は、バイオマスが充填された圧力容器内において、140〜370℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、前記バイオマスの見かけの充填域の空隙の少なくとも一部に液相の水を存在させた状態で所定時間保持し、その後前記圧力容器内を脱圧することにより、前記液相の水の少なくとも一部を気化させて前記バイオマスを爆砕することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セルロース系バイオマスの化学的/及び又は生化学的な反応性が十分に高められた改質バイオマスを有効に得ることができ、バイオエタノール等の燃料製造のような大規模生産に適用可能な改質バイオマスの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明で用いられる急速減圧膨張処理装置の一例を示す説明図である。
【図2】圧力容器内にバイオマスを導入した後、熱水を導入する前の状態を概念的に示す説明図である。
【図3】図2に示した圧力容器内に熱水を更に導入した後の状態を概念的に示す説明図である。
【図4】圧力容器1内に熱水を更に導入した後の状態を概念的に示す説明図である。
【図5】本発明で用いられる急速減圧膨張処理装置の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明においてバイオマスとは、炭素を主要元素として有する生物由来の組成物を意味し、通常、酸素及び水素も構成元素として含まれる。本発明で使用するバイオマスに特に制限はないが、好ましいバイオマスとしては、植物由来のセルロース系バイオマスを挙げることが出来る。セルロース系バイオマスの具体的な例としては、スギ、ユーカリ、ヤナギなどの木本類、ススキ、エリアンサス、スイッチグラスなどの草本類が挙げられる。これらのバイオマスは目的生産されたものでもよいし、また、バガス、稲わら、麦わらなどの農産残渣や、建築廃材、間伐材なども好適に使用される。
【0018】
本発明に使用されるバイオマスは、圧力容器に容易に充填可能で、且つ圧力容器からの急速な排出が可能であれば、その形状や大きさについては特に制限はない。通常、直径3mmから10mm程度の粒子の状態で使用されることが好ましく、このような大きさとするために、収集されたバイオマスを裁断あるいは粉砕することが好ましい。なお、従来の水熱処理においては、バイオマスを水スラリーの状態で扱うために、バイオマスを1mm以下の大きさにまで微粉砕する必要があるが、本発明の方法においてはそのようなコスト増を招く工程は必要ない。
【0019】
本発明の方法において使用される圧力容器は特に限定されないが、充填するバイオマス原料及び水を加熱可能な加熱設備を有することが必要であり、また、バイオマス原料の供給のための設備、水(特に加圧された熱水)の供給のための設備、脱圧時にバイオマスを移送する容器が、これらを仕切るための弁を介して接続されていることが好ましい。前記圧力容器には、攪拌設備が設置されていてもよいが、設備コストの上昇の観点から、設置されないことが好ましい。
【0020】
図1は、本発明の方法に好適に使用される急速減圧膨張処理装置の一例を示す説明図である。以下、図1を参照して、本発明の方法において使用される好ましい設備及びその操作を詳述する。
【0021】
図1に示した急速減圧膨張処理装置において、圧力容器1にはロータリー弁2aを有する導入口3が設けられており、導入口3から圧力容器1内にバイオマスを導入することが可能となっている。また、導入部3のロータリー弁2aと圧力容器1との間には弁4を有する熱水供給ライン5が連結されており、圧力容器1内に熱水を導入することが可能となっている。また、圧力容器1は脱圧用容器6と連結されており、連結部7にはロータリー弁2bが設けられている。
【0022】
図1に示した装置を用いて改質バイオマスを製造する際には、まず、弁3及びロータリー弁4を閉じ、ロータリー弁2を開いて、バイオマスを導入口3から圧力容器1内に導入する。圧力容器1内にバイオマスが充填されたらロータリー弁2aを閉じ、弁4を開いて加圧された熱水を高圧容器1に供給する。熱水の温度は80〜360℃、圧力は0.1〜20MPaがそれぞれ好ましい。なお、圧力容器1に導入する前に、バイオマス、水又はその混合物を必要に応じて予備加熱することができる。
【0023】
熱水の導入が完了したら弁4を閉じ、圧力容器1の内部のバイオマス及び水を140〜360℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、1分〜2時間保持する。保持温度としては160〜340℃が好ましく、180〜320℃が更に好ましく、200〜300℃が特に好ましい。圧力容器内の保持温度が140℃よりも低いとバイオマスの化学的及び/又は生化学的反応性が十分に向上しない傾向にある。また360℃を超えると系内の圧力が20MPaを超えるので設備コストが上昇し好ましくない。圧力容器中に仕込んだバイオマスに、水を後から添加する場合には、通常、高圧の熱水の状態で水を供給する。
【0024】
また、圧力容器1内でバイオマスと液相の水とを共存させ上述の環境下で保持する時間は、バイオマスの性質に応じて適宜選択することができる。通常の保持時間として1分〜2時間、好ましい保持時間として5分〜1時間、特に好ましい保持時間として10分〜30分を挙げることができる。保持時間が1分未満の場合にはバイオマスの化学的及び/又は生化学的反応性が十分に向上しない傾向にある。また2時間を超える場合には、効率が低下し、また処理に要するエネルギーコストが増加するので好ましくない。
【0025】
本発明の方法においては、圧力容器1内に充填したバイオマスの見掛けの充填域の空隙の少なくとも一部に液相の水を充満させ、所定の温度、圧力の条件下、その状態に保つことが重要である。ここで、圧力容器1内に充填されたバイオマスと水との量的関係について図2〜4を参照して説明する。
【0026】
図2は圧力容器1内にバイオマス10を導入した後、熱水を導入する前の状態を概念的に示す説明図である。圧力容器1の導入口3から導入されたバイオマス10は、通常、図2に示すように、圧力容器1内の底部側から順次充填される。本発明において、「バイオマスの見掛けの充填域」とは、圧力容器1内に充填されたバイオマス10が、バイオマス10間に生じる空隙22を含めて占める部分(図2の領域21)を指し、通常は、圧力容器1の底部から充填されたバイオマス10の最上部までをいう。バイオマス10の充填率、即ちバイオマス10の見掛けの充填域21の容積が圧力容器1の全内容積に占める割合は適宜選択することができるが、充填率が大きい方が経済的には有利であり、通常、充填率は30%以上である。必要により充填率を90%以上にまで高めることも可能である。このような高い充填率は従来の水熱処理では実現が困難なものであり、本発明の方法の利点の一つである。
【0027】
図3及び図4はそれぞれ、圧力容器1内に熱水を更に導入した後の状態を概念的に示す説明図である。図3は、圧力容器1内のバイオマス10の見掛けの充填域21全体にわたって、空隙22が液相の水で充満された状態を示している。一方、図4は、圧力容器1内のバイオマス10の見掛けの充填域21の空隙22の一部が液相の水100で充満されているが、空隙22の他部は液相の水100により充満されておらず空隙のままとなっている状態を示している。なお、図3、4中の領域23は気相領域である。
【0028】
本発明の方法においては、液相の水の充満容積を、圧力容器1の底部から液相の水100の最上部までの容積と定義し、液相の水の充満率を、バイオマス10の充填容積に対する水100の充満容積の比率と定義する。本発明においては液相の水の充満率は通常10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは70以上%、特に好ましくは100以上%である。液相の水の充満率が10%に満たない場合には十分な反応性を有する改質バイオマスを得ることが出来ない。
【0029】
本発明においては、圧力容器1内に、必要に応じて、バイオマス10及び水100以外の第3成分を共存させることもできる。共存可能な成分として空気、窒素等の気体を挙げることが出来る。また、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の無機の第3成分が含まれていても構わない。ただしこれらの無機物はバイオマスと水の合計質量に対して1質量%以下であることが望ましい。
【0030】
本発明においてバイオマスと水とを混合する際には、通常、圧力容器1内に予め仕込んだバイオマス10に水100を加えるが、バイオマス10を圧力容器1内に導入する前にバイオマス10に水100を添加する方法、及びそれらの併用のいずれの方法も利用でき、特に制限はない。
【0031】
また本発明においては、バイオマス10を圧力容器1内に充填した後、圧力容器1内の空気を吸引して排出し、その後熱水を添加することによって熱水をバイオマス10の内部まで効率よく浸透させ、それにより、本発明に係る爆砕の効果を高めることができる。
【0032】
図1に戻り、圧力容器1内でバイオマスと液相の水とを共存させ上述の環境下で保持した後、ロータリー弁2bを開放して圧力容器1内を急速に脱圧し、バイオマス及び水を含む混合物を大気圧下の脱圧用容器6に一気に移す。この際に水の急速な膨張(気化)が起こり、そのエネルギーがバイオマスに付与されることによって、バイオマスを爆砕することができる。脱圧に要する時間は短いほどよい。通常0.001〜3秒の短時間で脱圧する。好ましくは0.01〜1秒、特に好ましくは0.1〜0.5秒で脱圧する。脱圧に要する時間を0.001秒未満とすることは、設備面及び/又は操作面から困難である。一方、3秒を超える場合には、バイオマスの化学的及び/又は生化学的反応性の向上効果が低下する傾向にある。前記短時間で脱圧する方法に特に制限はないが、通常は、圧力容器とこれよりも容量の大きい、好ましくは大気に開放された脱圧用の容器との間にロータリーバルブを設け、このロータリーバルブを素早く開放することによって、バイオマスと水とを含む混合物を圧力容器から脱圧用の容器内へ一気に移送する。
【0033】
本発明の改質バイオマスの製造方法は、従来の水蒸気爆砕処理とは異なり、水の体積膨張において液相から気相への相変化が支配的になるので、バイオマスの化学的及び/又は生化学的反応性を水蒸気爆砕の場合よりも高い水準にまで高めることが出来る。液相の水を気相に変化させることによって得られる本発明の驚くべき効果は、以下のように説明することが出来る。例えば、200℃、2MPaの加圧熱水(液相)を常圧(0.1MPa)まで断熱膨張させると、水の約20%が100℃の水蒸気に、残りの約80%が100℃の液相の水となる。液相の水の密度は約1000kg/mであり、水蒸気の密度は約0.6kg/mであるから、この時の体積膨張率は約330倍に達する。一方、従来の水蒸気爆砕においては、2MPaの圧力の水蒸気を常圧まで脱圧しても、その際の体積膨張率は約20倍となる。液相の水の気化によって得られるこの大きな膨張率が本発明の著しい効果をもたらすと考えることができる。
【0034】
また本発明の方法においては、従来の水蒸気爆砕処理とは異なり、脱圧後に得られる約100℃の水が再利用でき、エネルギー効率に優れるという利点もある。
【0035】
本発明の方法で処理されたバイオマスの反応性を評価する方法は、処理後のバイオマスの用途に応じて選択することができる。セルロース系バイオマスを処理してバイオエタノール合成用の原料として用いる場合には、処理後のバイオマスの酵素糖化に対する反応性を測定し、処理前の値と比較することにより評価することができる。
【0036】
なお、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、図1には圧力容器1を1つ備える装置の例を示したが、本発明においては、複数の圧力容器を並列に設置し、バイオマスの充填、熱水の圧入、保持、脱圧(抜き出し)の各操作を各圧力容器にて順次行い、バイオマスを半回分式且つ擬似連続的に処理することができる。図5にそのような処理を可能とする装置の一例を示す。図5に示した装置は4つの圧力容器を備えるもので、図5には反応容器1aにてバイオマスの充填、反応容器1bにて熱水の圧入、反応容器1cにて保持、反応容器1dにて脱圧(抜き出し)をそれぞれ行っているときの装置の状態を示している。図5に示した装置においては、圧力容器1a〜1dのそれぞれに対して、分岐状のバイオマス供給ライン50及び分岐状の熱水供給ライン5が連結されている点、並びに、圧力容器1a〜1dが共通の脱圧用容器6と連結されている点で、図1に示した装置と相違するが、バイオマスの充填、熱水の圧入、保持、脱圧(抜き出し)の各操作におけるロータリー弁2a、2b及び弁4の開閉操作は図1の装置の場合と同様である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
スギの廃材を平均粒径5mmに粉砕した粒子を図1の装置を用いて処理した。このスギを組成分析すると、セルロースが43質量%、ヘミセルロースが27質量%、リグニンが35質量%含まれていた。
(爆砕処理)
図1に示す構成を有する急速減圧膨張処理装置を用いて、前記スギの粒子から改質バイオマスを製造した。具体的には、弁4及びロータリー弁2bを閉じた状態でロータリー弁2aを開放して、内容積1000mLで200℃に加熱された圧力容器1内にスギの粒子を導入し、圧力容器1の底面から容量で500mLの高さまで充填した。すなわち、スギ粒子の見掛けの充填容量は500mL、充填率は50%であった。圧力容器1内に充填されたスギ粒子の質量は170gであった。ロータリー弁2aを閉止し、20分間保持した。続いて弁4を開放し、ポンプを用いて温度205℃、圧力1.91MPaの熱水を圧力容器1内に導入した。圧力容器1の底面から、該容器が空の場合に600mLの容量に相当する高さまで水面が達した段階で弁4を閉止した。この操作によりスギ粒子は液相の水中にすべて浸漬された状態になった。すなわち、液相の水の充填容積は600mLで充満率は100%以上となった。このときの圧力容器1への熱水の供給量は510gであった。熱水供給終了後、圧力容器1を内部温度200℃で制御した。この間、圧力容器内1の圧力は1.61MPaであり、200℃における水の飽和蒸気圧1.55MPaよりも高い値に保持された。
前記スギ粒子と水との混合物を200℃で15分間保持した後にロータリー弁2bを開放して、前記混合物を内容積100Lの大気開放された脱圧用容器6内に0.4秒で放出した。この操作により、改質バイオマスとして乾燥重量で168gのスギ粒子を回収した。
(酵素糖化)
50mLの遠沈管に酢酸バッファー(0.05M、pH4.5)を10mLとり、ここに酵素としてNovozymes社製Celluclast(登録商標)1.5LとNovozym(登録商標)188との等容量混合物を0.2mg、及び前記爆砕処理を施したスギ粒子(改質バイオマス)を0.25g加え、37℃、200rpmの回転速度にて72時間の旋回培養を行った。反応終了後に95℃で15分加熱することにより酵素を失活させ、遠心分離し、その上澄み液のグルコース濃度をバイオセンサーにて測定した。処理前のスギに含まれていたセルロースの質量に対する生成したグルコースの質量の百分率を酵素糖化率として算出した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
(爆砕処理)
実施例1と同一のスギ粒子及び同一の装置を用い、実施例1と同様の操作によりスギ粒子の充填、ロータリー弁2aの閉止及び20分間保持を行った。スギ粒子の充填容量は実施例1と同様に500mL、充填率は50%であり、その質量は169gであった。
続いて弁4を開放し、ポンプを用いて温度205℃の熱水の圧力容器1への供給を開始し、容器の底面から、該容器が空の場合に100mLの容量に相当する高さにまで水面が達した段階で弁4を閉止した。即ち液相の水の充満容積は100mLで充満率は20%となった。この時の圧力容器1への熱水の供給量は56gであった。熱水供給終了後、圧力容器1を内温200℃で制御した。この間、圧力容器内1の圧力は1.58MPaに保持された。
前記スギ粒子と水との混合物を200℃で15分間保持した後にロータリー弁4を開放して、圧力容器1内の前記混合物を、容積100Lの大気開放された脱圧用容器6内に0.4秒で放出した。この操作により、改質バイオマスとして乾燥重量で167gのスギを回収した。
(酵素糖化)
スギ粒子として前記爆砕処理を施したスギ粒子を用いた以外は実施例1と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
(水蒸気爆砕処理)
実施例1と同一のスギ粒子と同一の装置を用いて、実施例1と同様の操作によりスギ粒子の充填、ロータリー弁2aの閉止及び20分間保持を行った。この時もスギ粒子の充填容量は500mLで充填率は50%であった。その重量は169gであった。
続いて弁4を開放し205℃で圧力1.51MPaの水蒸気を圧力容器1に供給した。水蒸気の流入が止まった段階で弁4を閉止した。圧力容器1への水蒸気の供給量は5.4gであった。水蒸気供給終了後、圧力容器1を内温200℃に制御した。この間圧力は1.53MPaと、200℃における水の飽和蒸気圧1.55MPaよりも少し低いい値に保持された。
前記スギ粒子と水との混合物を200℃で15分間保持した後にロータリー弁4を開放して、圧力容器1内の前記混合物を、容積100Lの大気開放された脱圧用の容器5内に0.4秒で放出し、水蒸気爆砕処理を完了した。この操作により、乾燥重量で168gのスギ粒子が回収された。
(酵素糖化)
スギ粒子として前記水蒸気爆砕処理を施したスギ粒子を用いた以外は実施例1と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
(水熱処理)
実施例1で使用した平均粒径5mmのスギ粒子をボールミルを用いて微粉砕し、平均粒径0.6mmの微粒子を得た。この微粒子348gと3602gの水を内容積10Lの撹拌機付オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブの内温を室温から220℃まで20分で昇温した後に220℃で15分間保持した。その後室温まで15分間で冷却し、水熱処理を完了した。オートクレーブを開放し、乾燥重量で347gのスギ粒子を回収した。
(酵素糖化)
スギ粒子として前記水熱処理を施したスギ粒子を用いた以外は実施例1と同様の操作により、酵素糖化反応を行った。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示したように、実施例1、2における処理後のスギ粒子は、比較例1、2における処理後のスギ粒子及び未処理のスギ粒子と比較して、酵素糖化率が飛躍的に向上したことが確認された。
【符号の説明】
【0044】
1、1a〜1d…圧力容器、2a、2b…ロータリー弁、3…導入口、4…弁、5…熱水供給ライン、6…脱圧用容器、7…連結部、10…バイオマス、21…バイオマスの見掛けの充填域、22…空隙、23…気相領域、50…バイオマス供給ライン、100…液相の水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にバイオマスが充填された圧力容器に80〜360℃の液相の水を圧入する第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記圧力容器内において、140〜360℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、前記バイオマスと前記水とを含む混合物を1分〜2時間保持する第2の工程と、
前記第2の工程後、前記圧力容器内を脱圧することにより、前記液相の水の少なくとも一部を気化させて前記バイオマスを爆砕する第3の工程と、
を備えることを特徴とする改質バイオマスの製造方法。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記圧力容器の脱圧を開始してから前記圧力容器内の圧力が大気圧に達するまでの所要時間が0.001〜3秒であることを特徴とする、請求項1に記載の改質バイオマスの製造方法。
【請求項3】
複数の圧力容器を並列に設置し、当該複数の圧力容器のそれぞれにおいて前記第1〜第3の工程を順次行い、バイオマスを半回分式且つ擬似連続的に処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の改質バイオマスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記圧力容器内の空気を吸引、排出する第4の工程を更に備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の改質バイオマスの製造方法。
【請求項5】
バイオマスが充填された圧力容器内において、140〜360℃の温度及び当該温度における水の飽和水蒸気圧以上の圧力の条件下、前記バイオマスの見かけの充填域の空隙の少なくとも一部に液相の水を存在させた状態で所定時間保持し、その後前記圧力容器内を脱圧することにより、前記液相の水の少なくとも一部を気化させて前記バイオマスを爆砕することを特徴とする改質バイオマスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−162498(P2010−162498A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7771(P2009−7771)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】