説明

改質原油の製造方法

【課題】劣質な原油においても効率よく品質を改善することができる、改質原油の製造方法の提供。
【解決手段】原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質原油の製造方法に関し、より詳しくは、特定の工程を含むことで効率化が達成された、改質原油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油の精製処理においては、一般に、原油を常圧蒸留して各留分に分離したのち、分離した各留分に対して、脱硫等の精製処理をする方法がとられている。しかしながら、この方法は精油設備の基数が多く、かつ工程が煩雑である上、製品の冷却、加熱を繰り返すためにエネルギー効率が悪いなどの問題があり、必ずしも満足しうるものではなくより効率的な原油の精製処理方法が求められている。このような理由で、近年原油又はナフサ留分を除いた原油の一括処理が試みられている。例えば、特許文献1は、原油中のナフサ留分を蒸留分離したのち、ナフサ留分を除いた残油を一括水素化脱硫処理し、次いで蒸留して各製品に分離する方法を開示し、特許文献2は、原油を水素化脱金属処理、水素化分解処理、水素化脱硫処理し、次いで気液分離した気相流体を水素化改質する原油の処理方法を開示する。
【0003】
ところで、原油はその産地等の違いにより、含まれる炭化水素の種類やその割合が異なるが、近年においては、産出原油の重質化傾向や重質原油と軽質原油の価格差の拡大等が原因で、重質分を多く含む劣質な原油の品質を改善し、これを有効に利用することが求められている。しかしながら、現状ではこのような劣質な原油の品質を改善することは効率の面で課題があり、さらなる技術開発が必要な状況にある。
【0004】
【特許文献1】特開平3−294390号公報
【特許文献2】特開2000−136391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況でなされたもので、劣質な原油においても効率よく品質を改善することができる、改質原油の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
原油は蒸留により各留分に分けられ、その後精製処理等により種々の石油製品が製造される。この留分別の消費量は各地域の産業や社会環境等の影響を受けるため、需要の高い留分は地域ごとに異なる。例えば、ナフサ留分はガソリンや石油化学工業における原料として需要が高いが、全ての地域においてこれらの用途があるとは限らず、新たな用途開発も必要である。
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の工程を含み、ナフサ留分の特性を利用することで、上記の劣質な原油においても効率よく品質が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1)原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分の一部又は全てを、抜頭原油水素化処理工程でクエンチ油として使用するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法、
(2)原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分の一部又は全てを原料として水素を製造し、該水素を抜頭原油水素化処理工程で使用するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法、
(3)ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分に対して水素化脱硫処理をした後、当該処理後のナフサ留分を原料として水素を製造し、該水素の一部を抜頭原油水素化処理工程で使用し、残りの水素の少なくとも一部を、前記ナフサ留分に対する水素化脱硫処理に用いるものであることを特徴とする、上記(2)に記載の改質原油の製造方法、
(4)原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分をスイートニング処理して得られるスイートニングナフサの少なくとも一部を、抜頭原油水素化処理工程を経た改質抜頭原油に混合するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法、
(5)原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分を水素化脱硫処理した後、接触改質処理して得られるガソリン基材の少なくとも一部を、抜頭原油水素化処理工程を経た改質抜頭原油に混合するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法および
(6)抜頭原油水素化処理工程が、水素化脱金属工程、水素化分解工程、及び水素化脱硫工程の少なくとも一工程を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の、改質原油の製造方法
を提供するものである。
なお、本明細書において、品質を改善することを「改質」と称することがあり、水素化処理等により品質が改善された抜頭原油を「改質抜頭原油」、品質が改善された原油を「改質原油」と称する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、劣質な原油においても効率よく品質を改善することができる、改質原油の製造方法が提供される。当該改質原油の製造方法は、原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む。この結果、改質原油の製造における効率化が図れるとともに、ナフサ留分を新たな用途において使用することができ、石油製品の需給バランスの調整が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の改質原油の製造方法は、原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む。
原油に対して水素化処理をするにあたり、一般に、ナフサ留分より軽い留分が存在するとこれらの気化により気相の水素分圧が低下しやすく、効率的な水素化処理が達成されにくい。また、原油からナフサ留分を分離せずに改質原油を製造すると、当該改質原油を蒸留して得られるナフサ、灯油、軽油留分中の硫黄分が増加しやすい。したがって、本発明においては原油からナフサ留分を分離し、抜頭原油(原油からナフサ留分を分離した残分)を得たのち、抜頭原油に対して水素化処理を行う。さらにナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分を改質原油の製造に利用することで、より効率よく改質原油を製造することができる。本発明の工程図を図1〜4に示す。
以下に、本発明の改質原油の製造方法を工程ごとに説明する。
【0009】
〔ナフサ留分分離工程〕
ナフサ留分分離工程は、原油からナフサ留分を分離し、抜頭原油を得る工程である。
本発明で使用する原油とは、油井由来の未処理油(石油系原油)に限らず、石炭液化油、タールサンド油、オイルサンド油、オイルシェール油、オリノコタール等、あるいはこれらから得られる合成原油であっても良い。また、上記の原油二種以上からなる混合油を使用しても良い。
【0010】
本発明の原油は、好ましくはアスファルテン(本明細書において、アスファルテンとは、原油に対してn−ヘプタンで抽出処理したときのn−ヘプタン不溶解分を意味する。)の含有量が1質量%以上であり、2質量%以上がより好ましい。1質量%未満の原油を使用しても得られる改質原油の性状に問題はないが、費用対効果の面や、省エネルギー化の点から好ましくない。また、上限については特に制限はないが、装置運転上、15質量%未満が好ましい。また、同様の理由からバナジウム、ニッケルを10質量ppm以上、硫黄分を0.1質量%以上含有する原油が好ましく使用される。
原油は必要に応じて、前処理を施すことが好ましい。例えば、塩分濃度が高い場合は、脱塩処理を施し、塩化ナトリウムを10質量ppm以下にすることが好ましい。また固形分が多い場合は、10μm程度のフィルターを通すことが好ましい。
【0011】
原油からナフサ留分を分離する方法としては、一般的なプレフラッシュドラムまたはプレフラッシュカラムを使用する方法が挙げられる。運転温度は150〜300℃、圧力は2〜10kg/cm2Gの範囲で分離することが好ましい。
ナフサ留分の沸点は、初留点は原油により決定され、終点は125〜174℃の範囲が好ましい。終点が125℃未満の場合は、後段の抜頭原油水素化処理工程において水素分圧が低下するため反応速度の低下を招き易い。また、終点が174℃を越えると、改質原油中の灯油留分の硫黄分が増加して製品規格外となる場合がある。
【0012】
〔抜頭原油水素化処理工程〕
抜頭原油水素化処理工程は、抜頭原油を水素化処理し、品質を改善する工程である。
上記水素化処理としては、例えば、水素化脱金属処理、水素化分解処理、水素化脱硫処理、水素化脱窒素処理、水素化脱アロマ処理等が挙げられる。
【0013】
上記水素化脱金属処理は、抜頭原油を加圧昇温後に、一塔〜複数塔の反応塔で行われる。水素化脱金属処理に使用される触媒は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ又はセピオライト等の多孔性無機酸化物、酸化担体、天然鉱物等に、周期律表第5、6、8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を、触媒全量に基づき、酸化物として3〜30質量%程度担持してなる平均細孔径100μm以上の触媒が用いられる。なお、商業的に入手可能な重油直接脱硫装置用の水素化脱金属触媒等その他の水素化脱金属触媒であってもよい。水素化脱金属触媒の必要量は、処理期間中の抜頭原油中に含まれる累積金属量の10〜80容量%とするのが好適である。
【0014】
水素化脱金属処理の処理条件としては、反応温度300〜450℃、水素分圧30〜200kg/cm2G、水素/油比200〜2000Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10h-1、さらに反応温度350〜410℃、水素分圧100〜180kg/cm2G、水素/油比400〜800Nm3/kl、LHSV0.3〜5h-1が望ましい。反応温度、水素分圧、水素/油比は望ましい範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に望ましい範囲を上回ると反応効率が低下し、範囲を下回ると経済性が低下する。
【0015】
上記水素化分解処理は、通常水素化脱金属処理等の水素化処理の後に行われる。したがって反応温度制御の必要がある場合には、熱交換器、水素ガスクエンチや油クエンチにより反応温度を制御することが好ましい。水素化分解処理は、一塔〜複数塔の反応塔で行われる。水素化分解処理に使用される触媒としては特に限定されるものではないが、特開平2―289419号公報に開示されている技術によって造られた鉄含有アルミノシリケート10〜90質量%と無機酸化物90〜10質量%からなる担体に周期律表第6、8、9及び10族に属する金属のうち選ばれた少なくとも一種を担持したものも使用することが出来る。この水蒸気処理したスチーミングゼオライトを鉄塩水溶液で処理して得られる鉄含有アルミノシリケートを使用すると、343℃以上の留分から343℃以下の留分への分解率を高める点で非常に効果的である。また、特開昭60−49131号公報、特開昭61−24433号公報、特開平3−21484号公報等に開示されている技術によって造られたものを使用することが出来る。すなわち、鉄含有アルミノシリケート20〜80質量%と無機酸化物80〜20質量%からなる担体に、周期律表第6、8、9及び10族に属する金属のうち選ばれた少なくとも一種を担持したものであって、周期律表第6族に属する金属としてはタングステン、モリブデンが好ましく、周期律表第7〜10族の金属はそれぞれ一種用いてもよく、それぞれ複数種の金属を組合わせても良いが、特に水素化活性が高く、かつ劣化が少ない点からNi−Mo,Co−Mo,Ni−W,Ni−Co−Moの組合せが好適である。
【0016】
水素化分解処理の処理条件としては、反応温度370〜450℃、水素分圧30〜200kg/cm2G、水素/油比200〜2000Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10h-1、さらに反応温度380〜410℃、水素分圧100〜180kg/cm2G、水素/油比400〜800Nm3/kl、LHSV0.3〜5h-1が望ましい。反応温度、水素分圧、水素/油比は望ましい範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に望ましい範囲を上回ると反応効率が低下し、範囲を下回ると経済性が低下する。
【0017】
上記水素化脱硫処理は、通常水素化脱金属処理等の水素化処理の後に行われる。したがって反応温度制御の必要がある場合には、熱交換器、水素ガスクエンチや油クエンチにより反応温度を制御することが好ましい。水素化脱硫処理は、一塔〜複数塔の反応塔で行われる。水素化脱硫処理に使用される触媒としては、通常の重油直接脱硫装置用の水素化脱硫触媒でよい。即ち、アルミナ、シリカ、ゼオライトあるいはこれらも混合物の担体等に周期律表第5、6、8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を、触媒全量に基づき、酸化物として3〜30質量%程度担持したものでよい。平均細孔径80Å以上の触媒などであるが、特開平7−305077号公報、特開平5−98270号公報に開示される様なアルミナーリン担体、アルミナーアルカリ土類金属担体化合物、アルミナーチタニア担体、アルミナージルコニア担体、アルミナーボリア担体等から選ばれる担体に周期律表第5、6、8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を担持してなる触媒であれば、灯軽油留分の改質効果が高いために好適である。
【0018】
水素化脱硫処理における処理条件としては、反応温度300〜450℃、水素分圧30〜200kg/cm2G、水素/油比200〜2000Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10h-1、さらに反応温度320〜420℃、水素分圧100〜180kg/cm2G、水素/油比400〜800Nm3/kl、LHSV0.2〜2h-1が望ましい。反応温度、水素分圧、水素/油比は望ましい範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に望ましい範囲を上回ると反応効率が低下し、範囲を下回ると経済性が低下する。
【0019】
上記水素化脱アロマ処理は、気液分離処理で得られた気相流体に対して行われることが好ましく、水素化脱アロマ処理により抜頭原油を蒸留して得られる灯油留分や軽油留分の芳香族含有量を低下させることができる。
【0020】
上記気液分離処理は、水素化脱金属処理等の水素化処理後の抜頭原油を熱交換器により所望の分離温度まで温度を制御したのち行われる。通常、気液分離処理は重油直接脱硫装置と同様の構造の高圧高温気液分離槽を用いれば良いが、後段の水素化脱アロマ処理における反応効率を維持するためには、高圧高温気液分離槽で分離される気相流体に重質油が混入しないような措置、例えば気液分離槽の塔径を十分大きくとる、あるいは、気液分離槽内部に十分な量のミストセパレーターを配置する等を講ずる方が良い。高圧高温気液分離槽は一塔〜複数塔からなる。
【0021】
気液分離処理は、その前段の水素化処理より、0〜50kg/cm2低い圧力範囲で、かつ0〜100℃低い温度範囲で実施することが望ましい。気液分離処理における分離条件として、分離圧力を水素化処理工程出口の圧力に対し50kg/cm2Gより低下させると、水素分圧の低下により後段の水素化脱アロマ処理での反応効率が低下するばかりか、後段の水素化脱アロマ処理に供される気相流体に重質油が混入しやすくなる。この場合の基準としては、気相流体中に混入する400℃以上の留分の割合を、気相流体全量に対して3質量%以下に維持することが好適である。また、分離圧力を水素化処理工程出口の圧力以上にするためには昇圧のための設備例えばコンプレッサーが必要となるため装置建設費が増大する。分離温度を水素化処理工程出口の温度に対し100℃より大きく低下させると、気液分離前の流体中の灯軽油留分のうち、気相流体として分離される灯軽油留分の割合が少なくなり、後段の水素化脱アロマ処理に供する灯軽油留分が少なくなり効率的に灯軽油留分の水素化脱アロマ処理ができない。また、分離温度を水素化処理工程出口の温度より高くするには加熱のための設備例えば加熱炉が必要となるため装置建設費が増大する。
【0022】
水素化脱アロマ処理は一塔から複数塔の反応塔で行われ、通常は気液分離処理からの気相流体に対して加熱や昇温の処理なしに行われる。気相流体の反応温度制御の必要がある場合には熱交換器等により流体温度を変更する。水素ガスやリサイクル油により反応温度制御が可能であれば、そのまま水素化脱アロマ処理される。水素化脱アロマ処理における反応塔型式は、通常の固定床を用いればよい。水素化脱アロマ処理に使用される触媒としては、通常の中間留分用の水素化触媒でよい。即ち、アルミナ、シリカ、ゼオライトあるいはこれらの混合物の担体等に周期律表第5、6、8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を、触媒全量に基づき、酸化物として3〜30質量%程度担持している平均細孔径80Å以上の触媒などであるが、特開平7−305077号公報、特開平5−98270号公報に開示される様なアルミナーリン担体、アルミナーアルカリ土類金属担体化合物、アルミナーチタニア担体、アルミナージルコニア担体、アルミナーボリア担体等から選ばれる担体に周期律表第5、6、8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を担持してなる触媒であれば、灯軽油留分の水素化脱アロマ処理効果が高いために好適である。
【0023】
水素化脱アロマ処理における処理条件としては、通常前記の気液分離工程に引き続き加熱や昇温の設備なしに反応行なわせるため、前記の気液分離工程での分離温度と分離圧力とほぼ同等である。即ち、反応温度300〜400℃、反応圧力100〜180kg/cm2Gの範囲が望ましい。前段の水素化処理工程出口の温度と圧力を水素化脱アロマ処理に有効に活用するためには、反応温度は水素化処理工程出口の温度に対し−100〜0℃とし、反応圧力は水素化処理工程出口の圧力に対し−50〜0kg/cm2の範囲が好適である。また、水素分圧は70〜150kg/cm2G、水素/油比は500〜2000Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)は0.5〜10h-1が望ましい。反応温度、水素分圧、水素/油比は望ましい範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に望ましい範囲を上回ると反応効率が低下し、範囲を下回ると経済性が低下する。
【0024】
上記水素化脱アロマ処理された流体を、上記気液分離工程で得られた液相流体と混合することで、改質抜頭原油が得られる。後述するように、本発明の改質原油は当該改質抜頭原油又は当該改質抜頭原油にスイートニングナフサ若しくはガソリン基材を混合したものである。地域によっては、石油製品を製造するよりも上記のような改質原油を製造することが必要な場合があり、本発明の改質原油の製造方法が好ましく適用される。例えば、産油国の原油出荷設備近傍に立地して、原油出荷設備は整っているが、石油製品出荷設備が無いような場所に設備を設けるような場合はこれにあたる。このような場合には、改質原油、または硫化水素を取り除いた改質原油(改質原油を、脱硫装置に付随する硫化水素を取り除く設備、例えば、硫化水素ストリッパー等に導入して得られる。)を製造することにより、既存の原油出荷設備がそのまま使えるほか、大型原油タンカーを使い、大量かつ安価に輸送出来るという効果が得られる。
【0025】
〔ナフサ留分利用工程〕
ナフサ留分利用工程は、ナフサ留分を改質原油の製造に利用し、効率よく改質原油を製造するための工程である。
本発明のナフサ留分利用工程には、以下の3つの態様がある。すなわち、
(態様1)ナフサ留分を、抜頭原油水素化処理工程においてクエンチ油として使用する。
(態様2)ナフサ留分から水素を製造し、該水素を抜頭原油水素化処理工程等の水素化処理に使用する。
(態様3)ナフサ留分に精製処理を行い、該処理後のナフサ留分を抜頭原油水素化処理工程後の改質抜頭原油と混合する。
以下、それぞれの態様ごとに詳細に説明する。
【0026】
態様1のナフサ留分利用工程を、図1を基に説明する。
原油11はナフサ留分分離工程1において、ナフサ留分12と抜頭原油13に分離され、抜頭原油13はさらに抜頭原油水素化処理工程2を経て改質抜頭原油15が製造される。ナフサ留分分離工程1および抜頭原油水素化処理工程2に関しては、前述のとおりである。
ナフサ留分12の一部又は全ては、抜頭原油水素化処理工程2でクエンチ油として使用される。ナフサ留分は、水素化処理を行う反応塔に導入されると、その大部分が蒸発して、蒸発潜熱を奪うために、良好なクエンチ剤として機能し、プロセス効率が改善される。
【0027】
クエンチ剤として使用するナフサ留分の量は、目的に合わせて適宜決定することがきる。したがって、クエンチ剤として使用した残りのナフサ留分は、改質抜頭原油に混ぜてもよいし、ガソリン製造の原料や、石油化学工業の原料として利用してもよい。
【0028】
態様2のナフサ留分利用工程を、図2を基に説明する。
原油11はナフサ留分分離工程1において、ナフサ留分12と抜頭原油13に分離され、抜頭原油13はさらに抜頭原油水素化処理工程2を経て改質抜頭原油15が製造される。ナフサ留分分離工程1および抜頭原油水素化処理工程2に関しては、前述のとおりである。
ナフサ留分12の一部又は全ては、水素製造工程5を経て水素14が製造される。この際目的に応じて、水素製造工程5の前に水素化脱硫工程4を経ても良い。製造された水素14は水素化脱硫工程4や抜頭原油水素化処理工程2において使用される。また一部の水素を取り出し、他の用途に用いても良い。
【0029】
上記水素製造工程5においては、ナフサ留分はスチームと共に、スチームリフォーミング法による水素製造装置に供給される。また上記水素化脱硫工程4により、硫黄分を0.5ppm以下にすることが好ましい。比較的マイルドな条件で脱硫処理を行うことが好ましく、反応圧力7〜30kg/cmG、水素油比30〜80Nm3/kl、LHSV6〜10毎時が好ましい。
【0030】
原油の精製処理においては水素化反応が使用されることが多く、水素原料として天然ガスや、油田随伴ガスが使用されることが多い。しかしながら、これらの水素原料を利用できない場合もあり、このような場合にはナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分を水素原料として利用することで、効率よく改質原油を製造することができる。
【0031】
態様3のナフサ留分利用工程を、図3(態様3a)および図4(態様3b)を基に説明する。
原油11はナフサ留分分離工程1において、ナフサ留分12と抜頭原油13に分離され、抜頭原油13はさらに抜頭原油水素化処理工程2を経て改質抜頭原油15が製造される。ナフサ留分分離工程1および抜頭原油水素化処理工程2に関しては、前述のとおりである。
【0032】
図3において、ナフサ留分12の一部又は全量は、スイートニング工程6を経て、スイートニングナフサ17が製造される。当該スイートニングナフサ17の一部または全量は改質抜頭原油15に混入され、改質原油16が製造される。
ナフサ留分分離工程1で分離されたナフサ留分12を改質抜頭原油と混合して改質原油を製造する際、ナフサ留分12に含まれる硫化水素やメルカプタンが、安全上の問題あるいは腐食の原因となるため、スイートニング工程6により硫化水素やメルカプタンの含有量を低下させる。具体的な方法としては、Merox法やMericat法と呼ばれる、苛性ソーダ水溶液と触媒からなる液体とナフサ留分をマイルドな条件で接触させる方法や、常温で硫化水素やメルカプタンを活性白土に吸着させる方法が挙げられ、コストや効率等を考慮のうえ適宜選択することができる。スイートニング工程6により、スイートニングナフサ17中の硫化水素やメルカプタンの含有量が10ppm以下になることが好ましく、5ppm以下がより好ましい。
【0033】
上記のように、スイートニングナフサ17を改質抜頭原油15に混合して改質原油16を製造することで、該改質原油を蒸留するだけで、オクタン価の高いガソリン基材や付加価値の高い軽質油留分を効率よく得ることができる。
【0034】
図4において、ナフサ留分12の一部又は全量は、水素化脱硫工程4、接触改質工程7を経て、ガソリン基材18が製造される。当該ガソリン基材18の一部又は全量は改質抜頭原油15に混入され、改質原油16が製造される。
上記水素化脱硫工程4により、ナフサ留分12に含まれる硫黄分を0.5ppm以下にすることが好ましい。比較的マイルドな条件で脱硫処理を行うことが好ましく、反応圧力7〜30kg/cmG、水素油比30〜80Nm3/kl、LHSV6〜10毎時が好ましい。
ナフサ留分12は、水素化脱硫工程4に続く接触改質工程7により、接触改質されてオクタン価が向上する。接触改質工程は、低圧、多段の反応塔に高温で供給されることが好ましい。
【0035】
上記のように、ガソリン基材18を改質抜頭原油15に混合して改質原油16を製造することで、該改質原油を蒸留するだけで、オクタン価の高いガソリン基材を得ることができる。更に、接触改質工程7で副生する水素14は、水素化脱硫工程4や抜頭原油水素化改質工程2において使用される。また一部の水素を取り出し、他の用途に用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、劣質な原油においても効率よく品質を改善することができる、改質原油の製造方法が提供される。当該改質原油の製造方法は、ナフサ留分分離工程、抜頭原油水素化処理工程およびナフサ留分利用工程を含むものであり、改質原油の製造における効率化が図れるとともに、ナフサ留分を新たな用途において使用することができ、石油製品の需給バランスの調整が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の改質原油の製造法の一例(態様1)の工程概略図である。
【図2】本発明の改質原油の製造法の一例(態様2)の工程概略図である。
【図3】本発明の改質原油の製造法の一例(態様3a)の工程概略図である。
【図4】本発明の改質原油の製造法の一例(態様3b)の工程概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1:ナフサ留分分離工程
2:抜頭原油水素化処理工程
3:クエンチ処理
4:水素化脱硫工程
5:水素製造工程
6:スイートニング工程
7:接触改質工程
11:原油
12:ナフサ留分
13:抜頭原油
14:水素
15:改質抜頭原油
16:改質原油
17:スイートニングナフサ
18:ガソリン基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、
ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分の一部又は全てを、抜頭原油水素化処理工程でクエンチ油として使用するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法。
【請求項2】
原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、
ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分の一部又は全てを原料として水素を製造し、該水素を抜頭原油水素化処理工程で使用するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法。
【請求項3】
ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分に対して水素化脱硫処理をした後、当該処理後のナフサ留分を原料として水素を製造し、該水素の一部を抜頭原油水素化処理工程で使用し、残りの水素の少なくとも一部を、前記ナフサ留分に対する水素化脱硫処理に用いるものであることを特徴とする、請求項2に記載の改質原油の製造方法。
【請求項4】
原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、
ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分をスイートニング処理して得られるスイートニングナフサの少なくとも一部を、抜頭原油水素化処理工程を経た改質抜頭原油に混合するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法。
【請求項5】
原油からナフサ留分を分離し抜頭原油を得る工程(ナフサ留分分離工程)、該抜頭原油を水素化処理する工程(抜頭原油水素化処理工程)および該ナフサ留分を改質原油の製造に利用する工程(ナフサ留分利用工程)を含む、改質原油の製造方法であって、
ナフサ留分利用工程が、ナフサ留分分離工程で得られたナフサ留分を水素化脱硫処理した後、接触改質処理して得られるガソリン基材の少なくとも一部を、抜頭原油水素化処理工程を経た改質抜頭原油に混合するものであることを特徴とする、改質原油の製造方法。
【請求項6】
抜頭原油水素化処理工程が、水素化脱金属工程、水素化分解工程、及び水素化脱硫工程の少なくとも一工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の、改質原油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−40844(P2009−40844A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205701(P2007−205701)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】