説明

改質木材の製造方法

【課題】原料木材として、目的とする寸法より大きい木材を用いることなく、木材保存剤が注入された改質木材を高い寸法精度で製造できる改質木材の製造方法、前記方法によって製造された改質木材、及び前記改質木材からなる建材を提供することを目的とする。
【解決手段】含水率が20%以下であり、且つ、所定の断面寸法を有する木材に、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を注入することにより、前記木材を膨張させる薬剤注入工程と、前記木材に注入された木材保存剤溶液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥後の木材を、前記所定の断面寸法に加工する寸法調整工程とを備えることを特徴とする改質木材の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質木材の製造方法、前記方法によって製造された改質木材、及び前記改質木材からなる建材に関する。さらに詳しくは、例えば、規格化された寸法の木材を用いて、寸法安定性に優れた規格化された寸法の改質木材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生材の含水率は、非常に高い。そのために、生材は、含水率が平衡含水率になるまでに水分を放出しながら収縮するために、寸法変化が大きくなる。
【0003】
このような、水分の放出による寸法変化を抑制するために、一般的な建材等として用いられる、規格化された寸法を有する木材の製造においては、生材中の水分を予め平衡水分率付近にまで乾燥させることにより、寸法を安定化させた後、規格化された寸法に加工される。例えば、杉の生材の場合、伐採直後の含水率は160%程度であるが、予め乾燥することにより、平衡水分率である15〜20%に乾燥させた後、規格化された寸法に加工される。この場合、例えば、105mm角の製品を生産するためには、110〜120mm角程度の生材の含水率を15〜20%程度になるまで乾燥させた後、105mm角の製品を切り出すことにより、最終製品の寸法変化を小さくする方法が行われている。
【0004】
上記のような乾燥においては、急激に乾燥した場合には、急激な寸法変化により、乾燥後の木材に割れや反りが生じやすくなる。このような、割れや反りの発生を抑制する方法として、所定の含水率になるまで加湿しながら徐々に乾燥していく方法が知られている。このような方法によれば、乾燥中の急激な寸法変化が抑制されるために、割れや反りの発生を抑制することができる。しかしながら、このような、湿度調整しながら長時間かけて乾燥する方法によれば、調湿するための大規模な装置が必要であったり、長時間の処理時間を要する等の問題があった。このような問題を解決するために、例えば、下記特許文献1には、生材を予備乾燥して表層部の含水率を25〜60%とする工程、所定形状に加工する工程、前記表層部に寸法安定化剤を注入する工程、その後、実質的に外部からの加湿を行うことなく脱気しつつ加熱乾燥する工程とを順次実施する木材の寸法安定化処理方法が記載されている。この方法によれば、木材に寸法安定化剤を注入することにより、生材を乾燥する際に生じる寸法変化による割れ等を抑制しつつ、寸法安定性を維持することができる。
【0005】
ところで、上記のようにして得られた、建材や家具材に用いられる木材は、一般的に、白蟻による食害を抑制したり、腐朽菌による腐朽を抑制したりするために、防蟻、または防腐処理等の木材保存剤等の薬剤処理がなされる。このような、薬剤処理方法としては、建築現場において木造建築物の表面に木材保存剤を塗布する方法や、工場において木材に予め木材保存剤を加圧注入する方法等が知られている。
【特許文献1】特開2002−234004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記建築現場において木造建築物の表面に木材保存剤を塗布する方法によれば、木材の内部にまで木材保存剤が充分に浸透せず、木材保存剤の効果の持続性が充分ではなかった。一方、前記工場において木材に加圧注入する方法によれば、以下に説明するような、問題が生じた。
【0007】
例えば、規格化された105mm角の改質木材を製造する場合に、図2(a)に示すような、角材断面の一辺の長さAが105mmの角材に、一般的な木材保存剤溶液を注入すると、図2(b)に示すように、前記角材が膨張して、角材断面の一辺の長さBが、約107〜110mmである角材となる。そして、その膨張した角材を乾燥工程によって乾燥させると、図2(c)に示すように、角材が収縮して、角材断面の一辺の長さCが、約105mmである角材となる。このような方法によって、規格化された寸法に近い寸法の改質木材が得られる。
【0008】
しかしながら、このような方法によると、規格化された105mm角の寸法に近い寸法の角材が得られるために、図2(c)に示すように、表層部に割れや反り等の変形が発生した場合に、切削加工等によって、このような部分を整えると、規格化された寸法である105mm角の改質木材が得られなくなるという問題があった。従って、目的とする規格化された寸法の改質木材を得るためには、切削加工により表層部の割れや反り等を整えるための削りしろを考慮して、目的とする規格化された寸法に対して、一定幅の削りしろを予め確保した、大きめの木材を使わざるを得なかった。このような場合、削りしろ分の切削処理される分の木材が無駄になる。
【0009】
本発明は、原料木材として、目的とする寸法より大きい木材を用いることなく、木材保存剤が注入された改質木材を高い寸法精度で製造できる改質木材の製造方法、前記方法によって製造された改質木材、及び前記改質木材からなる建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の改質木材の製造方法は、含水率が20%以下であり、且つ、所定の断面寸法を有する木材に、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を注入することにより、前記木材を膨張させる薬剤注入工程と、前記木材に注入された木材保存剤溶液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥後の木材を、前記所定の断面寸法に加工する寸法調整工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、含水率が20%以下の木材に木材保存剤溶液を注入するので、木材中に多量の木材保存剤溶液を注入できる。そして、木材に注入した木材保存材溶液に寸法安定化剤が含有されているので、木材に注入された木材保存剤溶液の溶媒を乾燥させても、従来の場合と異なり、木材がほとんど収縮せず、木材が膨張したままである。よって、乾燥時の寸法変化による木材の変形を抑制できる。そして、乾燥して得られた木材を、木材保存剤溶液を注入する前の所定の断面寸法に調整することができる。このように寸法を調整することによって、木材保存剤溶液を注入する前と同じ断面寸法の改質木材を高い寸法精度で得られる。
【0012】
したがって、原料木材として、目的とする寸法より大きい木材を用いることなく、木材保存剤が注入された改質木材を高い寸法精度で製造できる。具体的には、例えば、規格化された寸法の原料木材を用いて、規格化された寸法の改質木材が得られるので、規格外の木材を用意する必要がなく、低コストで改質木材が得られる。さらに、建材や家具材等として木材を使用する際に求められる寸法安定性も、注入工程で寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を木材に注入するので、従来の乾燥木材よりも優れたものとなる。
【0013】
前記製造方法において、前記所定の断面寸法を有する木材が、予めインサイジング処理されていることが、原料木材が木材保存剤溶液の注入されにくい木材、いわゆる難注入材である場合において、木材保存剤溶液の注入を木材深部まで効率よく行うことができる点で好ましい。さらに、木材を乾燥させる際、木材外への水分放出を著しく促進することができ、所定の含水率まで乾燥するために要する時間を短縮できる。
【0014】
前記製造方法において、前記薬剤注入工程が、前記所定の断面寸法を有する木材に、前記木材保存剤溶液を加圧注入する工程であることが、木材保存剤溶液の注入を短時間で効率的に行うことができる点で好ましい。
【0015】
前記木材保存剤溶液としては、少なくとも防腐剤及び防蟻剤のいずれか1種をさらに含有することが、木材保存性として特に求められる防腐性や防蟻性を高めることができる点で好ましい。
【0016】
また、本発明の改質木材は、前記製造方法によって製造されたものであるので、木材保存性及び寸法安定性に優れ、寸法精度の高い改質木材が得られる。
【0017】
また、本発明の建材は、前記改質木材からなるので、木材保存性及び寸法安定性に優れ、寸法精度の高い建材が得られる。建築物内では、特に密閉されていると、暖房等によって湿度が大きく変化する。湿度が変化すると、建築物の内面に施工される建材として用いられる木材の含水率が変化する。したがって、建材として、従来の乾燥木材が用いられると、寸法安定性が低いので、寸法が変化してしまうという問題があった。本発明の建材は、寸法安定性に優れているので、湿度の変化による寸法変化がほとんど発生しない。
【0018】
また、前記建材において、原料木材として、無垢材が用いられていることが好ましい。無垢材を用いた建材は、寸法安定性が特に低く問題となっているが、本発明であれば、無垢材であっても、寸法安定性の高いものが得られる点から好ましい。例えば、従来、床材として木製の建材を用いる場合、個々の床材が寸法変化することによって、反りや隙間が発生しないように、種々の樹種の木材を組み合わせて寸法変化の発生を抑制させた集成材が用いられており、寸法変化しやすい無垢材はあまり用いられていない。本発明の建材は、寸法安定性が高いので、無垢材であっても床材として利用できる。
【0019】
また、前記建材において、原料木材として、集成材が用いられていることが、寸法安定性のより高いものが得られる点から好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、原料木材として、目的とする寸法より大きい木材を用いることなく、木材保存剤が注入された改質木材を高い寸法精度で製造できる。例えば、規格化された寸法の原料木材を用いて、木材保存性に優れ、かつ規格化された寸法の改質木材を高い寸法精度で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の改質木材の製造方法は、含水率が20%以下であり、且つ、所定の断面寸法を有する木材に、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を注入することにより、前記木材を膨張させる薬剤注入工程と、前記木材に注入された木材保存剤溶液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥後の木材を、前記所定の断面寸法に加工する寸法調整工程とを備えることを特徴とする。本発明によれば、例えば、防腐性及び防蟻性等の木材保存性を高める改質が施された改質木材を、規格より大きい寸法の原料木材ではなく、規格化された寸法の原料木材を用いて製造することによって、規格寸法通りの改質木材が高い寸法精度で製造できる。そして、建材や家具材等として木材を使用する際に求められる寸法安定性は、従来の乾燥木材よりも優れたものとなる。
【0023】
具体的には、前記製造方法は、例えば、図1に示すような方法である。例えば、105mm角の改質木材を製造する場合に、まず、図1(a)に示すように、角材断面の一辺の長さAが105mmの角材を用意する。そして、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を前記角材に注入する薬剤注入工程によって、図1(b)に示すように、前記角材が膨張して、角材断面の一辺の長さBが、約107〜110mmである角材となる。そして、その膨張した角材を乾燥工程によって乾燥させても、図1(c)に示すように、角材がほとんど収縮せず、角材断面の一辺の長さCが、約107〜110mmと膨張したままの乾燥した角材となる。そして、この乾燥した角材を、所望の寸法である105mm角に寸法調整工程で寸法を調整することによって、所望の寸法の改質木材が得られる。
【0024】
本発明で使用される原料木材としては、特に限定されず、無垢材であっても、集成材であってもよい。ただし、原料木材としては、含水率が20%以下であり、且つ所定の断面寸法を有する木材を用い、具体的には、例えば、充分に乾燥された規格寸法の建材(例えば、製材の日本農林規格に規定されるD25、D20、D18、D15や集成材の日本農林規格に規定されるD15等)や木材加工品等が挙げられる。なお、断面寸法は、角材の場合、角材断面の一辺長さであり、円柱材の場合、円柱材断面の直径等であり、例えば、JISやJAS等で規格化されている寸法である。なお、含水率は、ワカール式含水率測定器(ハンディータイプ)を用いて測定した含水率であって、表層からの深さ位置で太径材の場合は、8mm以上、好ましくは10mm以上、更に好ましくは15mm以上、板材の場合は全板厚の10%以上、より好ましくは15%以上の含水率である。このような含水率が20%以下になるように乾燥された木材を用いることによって、薬剤注入工程で木材保存剤溶液を多量に注入できる。すなわち、本発明に係る製造方法によれば、原料木材として、例えば、平衡含水率の木材を用いて、改質木材を製造することができる。なお、平衡含水率とは、大気中の水蒸気圧と木材中の水分に基づく水蒸気圧が等しくなるまで吸・放出を繰り返し、雰囲気の温・湿度に応じた平衡状態に達したときの含水率である。平衡含水率は、全ての樹種でほぼ等しく、使用環境や目的によって多少異なるものの、約15%程度である。
【0025】
また、原料木材の樹種には、特に制限がなく、具体的には、例えば、ヒノキ、ベイヒノキ、ヒバ、ベイヒバ、スギ、ベイマツ、ベイツガ、アカマツ、クロマツ、カラマツ、ベイモミ、スプルース、トドマツ、エゾマツ等の針葉樹、クリ、ケヤキ、ブナ、カエデ、クヌギ等の広葉樹等が挙げられ、これらの中でも、スギ、ヒノキ、及びアカマツ等が好ましい。
【0026】
また、原料木材は、表面に予めインサイジング処理されていることが、原料木材が木材保存剤溶液の注入されにくい木材、いわゆる難注入剤である場合において、木材保存剤溶液の注入を木材深部まで効率よく行うことができる点で好ましい。さらに、木材を乾燥させる際、木材外への水分放出を著しく促進することができ、所定の含水率まで乾燥するために要する時間を短縮できる。
【0027】
インサイジングのピッチや深さは、特に制限されず、樹種等によって異なる木材保存剤溶液の注入のしにくさを考慮して、その都度適宜に決めればよい。
【0028】
被処理木材が比較的薄肉の板材又は辺材である場合、インサイジング処理をしなくとも乾燥や木材保存剤溶液の注入を効率よく行うことができるが、特に芯材部が露出した部分では、乾燥や注入促進のためインサイジング処理を施すことが望ましい。
【0029】
また、原料木材は、予め所定形状への加工が行われていてもよい。この加工には、例えば、寸法・形状を整えるための切削加工、ノミやプレカット機械等を用いたアリやカマ等の継手加工や仕口加工、溝・加飾彫刻、ダボ加工、金具の下穴加工等を行う処理が挙げられる。
【0030】
本発明で採用される前記薬剤注入工程は、特に制限されず、防腐剤等を木材に注入する際に採用される注入処理であればよく、具体的には、例えば、浸漬処理、温冷浴処理、減圧注入処理、加圧注入処理等が挙げられる。また、薬剤注入工程後の木材は、含水率が、100%以上まで高まり、膨張した木材となる。また、薬剤注入工程によって、乾燥させた木材の水分の抜けた跡の空隙部に木材保存剤溶液が速やかに注入される。そして、寸法安定化剤が含有された木材保存剤溶液の注入された木材は、空隙部に寸法安定化剤が侵入されているので、加湿調整しなくても乾燥時に収縮等の寸法変化を起こすことなく、短時間で速やかな乾燥が可能となる。
【0031】
前記薬剤注入工程としては、上記各注入処理の中でも加圧注入によって行うことが、木材保存剤溶液の注入を短時間で効率的に行うことができる点で好ましい。加圧注入処理では、圧力条件も特に制限されないが、圧力を0.1MPa以上であることが好ましく、1.4MPa以上に高めることがより好ましい。
【0032】
また、注入される木材保存剤溶液の量は、100kg/m以上であることが好ましく、150kg/m以上であることがより好ましい。また、乾燥工程後の木材や最終製品として実用化する際の木材の寸法安定性を高めるため、木材保存剤溶液に含有される寸法安定化剤の量で、7kg/m以上であることが好ましく、10kg/m以上であることがより好ましい。
【0033】
木材保存剤溶液としては、寸法安定化剤が含有されていて、防腐性や防蟻性等の木材保存性を付与しうる木材処理用の薬剤であれば、特に限定されない。例えば、寸法安定化剤とともに、防腐剤や防蟻剤が含有されていることが、木材保存性として特に求められる防腐性や防蟻性を高めることができる点で好ましい。
【0034】
ここで使用される寸法安定化剤としては、特に制限がなく、公知の寸法安定化剤を使用できる。具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン;1,3−ブタンジオール、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;酢酸ビニル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、D−グルコース等の糖類;尿素、メチロール尿素等の尿素系化合物;フェノール樹脂;塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム等の無機塩等が挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用できる。また、これらの中では、建材や家具材等として用いたときに人体に悪影響を与えることなく、かつ木材加工品としての品質にも悪影響が少ない点で、グリコール系化合物や尿素が好ましい。
【0035】
防腐剤としては、特に制限がなく、公知の防腐剤を使用できる。具体的には、例えば、高級有機第4級アンモニウム化合物;2−(4−チアゾリル)−1H−ベンツイミダゾール等の芳香族ベンゾイミダゾール誘導体;2−(4−チオシアノメチルチオ)−ベンゾチアゾール等の芳香族ベンゾチアゾール誘導体;8−オキシキノリン銅等の芳香族キノリン誘導体;1−[2−(2’,4’−ジクロロフェニル)−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル−メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール、1−[2−(2’,4’−ジクロロフェニル1,3−ジオキソラン−2−イル)メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール、α−(2,4−クロロフェニルエチル)−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、α−(4−クロロフェニル)−d−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール等の芳香族トリアゾール誘導体;酸化第二銅等の銅化合物等が挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用できる。また、これらに限定されるものではない。
【0036】
防蟻剤としては、特に制限がなく、公知の防蟻剤を使用できる。具体的には、例えば、
フェノブカルブ、カルバリル等のカーバメイト系化合物;トラロメスリン、ペルメトリン、ビフェントリン等のピレスロイド化合物;エトフェンプロックス;シラフルオフェン;イミダクロプリド;アセタミプリド;ほう酸;高級第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用できる。また、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明で採用される前記乾燥工程は、特に制限されず、木材の乾燥工程に採用される乾燥処理であればよく、天然乾燥や人工乾燥のいずれであってもよい。また、木材の乾燥工程は、従来、変形を抑制するために、外部から適度に加湿しながら行う乾燥処理が行われていたが、本発明では、実質的に外部から加湿を行うことなく乾燥することができる。具体的には、例えば、実質的に外部から加湿を行うことなく抜気しつつ加熱乾燥してもよい。すなわち、本発明では、木材の空隙部に寸法安定化剤を浸入させているので、乾燥工程で収縮がほとんど生じることなく、膨張したまま木材保存剤中の溶媒等の揮発除去を進めることができる。このような加湿を行わない乾燥工程であっても、収縮を伴うことなく乾燥を進めることができ、乾燥に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0038】
乾燥温度は、樹種の種類によっても変わってくるので、一律に決めることはできないが、木材の材質変化やそれに伴う変色などを起こすことなく乾燥をより短時間で進める上では、95℃以下、より好ましくは85℃以下で、50℃以上、より好ましくは60℃以上を採用することが望ましい。
【0039】
また、乾燥工程後の木材は、含水率が20%以下まで乾燥されていることが好ましく、一般的な平衡含水率である15%以下まで乾燥されていることがより好ましい。また、この木材は、乾燥しても、上述のように収縮せず膨張したままであるので、収縮による変形もほとんど発生しない。
【0040】
本発明で採用される前記寸法調整工程は、特に制限されず、一般的な木材加工に採用されるものであれば使用できる。具体的には、例えば、モルダー加工等の切削加工等が挙げられる。このような寸法調整工程によって、乾燥工程後の木材を、木材保存剤溶液を注入する前の寸法に調整することができ、木材保存剤溶液を注入する前と同じ寸法の改質木材を高い寸法精度で得られる。具体的には、例えば、規格寸法の原料木材を用いて、規格寸法の改質木材が得られるので、低コストで改質木材が得られる。
【0041】
また、上記製造方法によって製造された改質木材は、建材として用いることができる。建築物内では、特に密閉されていると、暖房等によって湿度が大きく変化する。湿度が変化すると、建築物の内面に施工される建材として用いられる木材の含水率が変化する。したがって、建材として、従来の乾燥木材が用いられると、寸法安定性が低いので、寸法が変化してしまうという問題があった。本発明の改質木材からなる建材は、寸法安定性に優れた建材であるので、湿度の変化による寸法変化がほとんど発生しない。
【0042】
また、無垢材からなる建材は、寸法安定性が低いことが問題となっているが、例えば、従来、床材として木製の建材を用いる場合、個々の床材が寸法変化して、反りや隙間が発生しないように、種々の樹種の木材を組み合わせて寸法変化の発生を抑制させた集成材が用いられており、寸法変化しやすい無垢材はあまり用いられていない。本発明の建材は、原料木材として無垢材を用いても、寸法安定性が高い建材が得られるので、床材として好適に利用できる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0044】
[実験例1]
まず、原料木材に、木材保存液を加圧注入した。
【0045】
原料木材としては、寸法105mm×105mm×4000mmのベイツガ集成材を用意した。木材保存剤溶液としては、防腐・防蟻剤と寸法安定化剤との混合剤を用いた。具体的には、以下のような木材保存剤溶液を用いた。防腐・防蟻剤としては、「レザックDPS」(コシイプレザービング社製の第4級アンモニウム・非エステルピレスロイド化合物系木材防腐剤:JIS K 1570規格品)の2.0%(W/W)水溶液を使用した。寸法安定化剤としては、1,3−ブチルグリコール(以下、BGと記す)4.7%(W/W)水溶液、及び尿素5.3%(W/W)水溶液を使用した。そして、レザックDPSとBGと尿素とを、質量比で2:4.7:5.3となるように混合した混合液を木材保存剤溶液として用いた。
【0046】
加圧注入は、JIS A 9002に準拠して行い、その際のスケジュールは、前排気60分間(0.08MPa以上)、加圧240分間(1.4MPa)、後排気60分間(0.08MPa以上)の条件で実施した。
【0047】
次に、木材保存液を加圧注入した木材を乾燥させた。乾燥は、1ヶ月間、室内で天然乾燥を施し、その後、乾球温度60℃、湿球温度40℃で、所定の含水率になるまで乾燥させた。
【0048】
そして、乾燥させた木材をヴァイニッヒ社製のProfimat23を用いて、所定の寸法にモルダー加工した。
【0049】
上記工程によれば、乾燥させた後の木材には、反り等が発生しておらず、モルダー加工によって、所定の寸法の改質木材が得られた。
【0050】
上記改質木材を製造する際、原料木材、木材保存剤溶液注入後の木材、天然乾燥後の木材、人工乾燥後の木材の各含水率、寸法、反りについて測定した。また、10本又は15本製造した際の平均値をそれぞれの測定結果とした。
【0051】
なお、含水率は、ワカール式含水率測定器(ハンディータイプ)を用いて測定した。寸法は、木口から500mmの2辺(縦寸法と横寸法)、木口から2000mmの2辺(縦寸法と横寸法)の4箇所の寸法を測定し、その平均値を寸法とした。また、反りは、一方の木口のある角と、前記角に対応する他方の木口の角とを結んだ線と、木材との距離を測定し、その最大値を反りとした。
【0052】
その結果、原料木材の含水率は、15%であり、注入後の木材の含水率は、132%であり、天然乾燥後の木材の含水率は、40%であり、人工乾燥後の木材の含水率は、15%であった。
【0053】
また、原料木材の寸法は、105.1mmであり、注入後の木材の寸法は、109.7mmであり、天然乾燥後の木材の寸法は、109.4mmであり、人工乾燥後の木材の寸法は、109.7mmであった。
【0054】
原料木材の反りは、3.2mmであり、天然乾燥後の木材の反りは、2.2mmであり、人工乾燥後の木材の反りは、1.0mmであった。
【0055】
[比較例1]
木材保存剤溶液に、寸法安定化材を含有させないこと以外、実施例1と同様である。
【0056】
原料木材の含水率は、15%であり、注入後の木材の含水率は、125%であり、天然乾燥後の木材の含水率は、42%であり、人工乾燥後の木材の含水率は、15%であった。
【0057】
また、原料木材の寸法は、105.1mmであり、注入後の木材の寸法は、108.9mmであり、天然乾燥後の木材の寸法は、107.2mmであり、人工乾燥後の木材の寸法は、105.8mmであった。
【0058】
原料木材の反りは、3.4mmであり、天然乾燥後の木材の反りは、3.0mmであり、人工乾燥後の木材の反りは、2.5mmであった。
【0059】
[実施例2]
木材として、樹種:杉の無垢材を用いたこと以外、実施例1と同様である。
【0060】
その結果、原料木材の含水率は、13%であり、注入後の木材の含水率は、132%であり、天然乾燥後の木材の含水率は、49%であり、人工乾燥後の木材の含水率は、15%であった。
【0061】
また、原料木材の寸法は、105.1mmであり、注入後の木材の寸法は、109.3mmであり、天然乾燥後の木材の寸法は、109.6mmであり、人工乾燥後の木材の寸法は、109.3mmであった。
【0062】
原料木材の反りは、0.6mmであり、天然乾燥後の木材の反りは、0.2mmであり、人工乾燥後の木材の反りは、0.1mmであった。
【0063】
[比較例2]
木材保存剤溶液に、寸法安定化材を含有させないこと以外、実施例2と同様である。
【0064】
その結果、原料木材の含水率は、13%であり、注入後の木材の含水率は、126%であり、天然乾燥後の木材の含水率は、39%であり、人工乾燥後の木材の含水率は、14%であった。
【0065】
また、原料木材の寸法は、105.0mmであり、注入後の木材の寸法は、109.1mmであり、天然乾燥後の木材の寸法は、107.6mmであり、人工乾燥後の木材の寸法は、105.5mmであった。
【0066】
原料木材の反りは、0.6mmであり、天然乾燥後の木材の反りは、0.6mmであり、人工乾燥後の木材の反りは、0.7mmであった。
【0067】
上記結果をまとめたものを表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示した結果から、薬剤注入工程で、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を注入した実施例1及び実施例2は、木材保存剤溶液を注入して膨張した木材を乾燥させても、木材がほとんど収縮せず、木材が膨張したままであった。そして、乾燥して得られた木材を、モルダー加工によって、木材保存剤溶液を注入する前の所定の断面寸法、約105mm角に寸法を調整することができた。このように寸法を調整することによって、木材保存剤溶液を注入する前と同じ断面寸法の改質木材を高い寸法精度で得られた。したがって、原料木材として、目的とする寸法より大きい木材を用いることなく、木材保存剤が注入された改質木材を高い寸法精度で製造できた。
【0070】
これに対して、薬剤注入工程で、寸法安定化剤を含有しない木材保存剤溶液を注入した比較例1及び比較例2は、木材保存剤溶液を注入して膨張した木材を乾燥させると、木材が収縮した。表層部に割れや反り等の変形が発生しても、モルダー加工して寸法を調整することができなかった。
【0071】
また、実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2と比較して、乾燥後の反りが小さかった。このことからも、本発明に係る製造方法によれば、木材保存剤溶液を注入して膨張した木材を乾燥させても、木材がほとんど収縮しないので、乾燥時の寸法変化による木材の変形を抑制できることがわかる。さらに、原料木材として、反りが多少大きな木材を用いても、反り等を低下させることができる。
【0072】
また、実施例1及び実施例2で得られた改質木材は、建材や家具材等として木材を使用する際に求められる寸法安定性も、注入工程で寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を木材に注入するので、従来の乾燥木材よりも優れたものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る改質木材の製造方法を示す概略図である。
【図2】従来の改質木材の製造方法を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が20%以下であり、且つ、所定の断面寸法を有する木材に、寸法安定化剤を含有する木材保存剤溶液を注入することにより、前記木材を膨張させる薬剤注入工程と、
前記木材に注入された木材保存剤溶液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥後の木材を、前記所定の断面寸法に加工する寸法調整工程とを備えることを特徴とする改質木材の製造方法。
【請求項2】
前記所定の断面寸法を有する木材が、予めインサイジング処理されている請求項1に記載の改質木材の製造方法。
【請求項3】
前記薬剤注入工程が、前記所定の断面寸法を有する木材に、前記木材保存剤溶液を加圧注入する工程である請求項1又は請求項2に記載の改質木材の製造方法。
【請求項4】
前記木材保存剤溶液が、少なくとも防腐剤及び防蟻剤のいずれか1種をさらに含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質木材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質木材の製造方法によって製造された改質木材。
【請求項6】
請求項5に記載の改質木材からなることを特徴とする建材。
【請求項7】
前記木材が、無垢材である請求項6に記載の建材。
【請求項8】
前記木材が、集成材である請求項6に記載の建材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−297915(P2009−297915A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151774(P2008−151774)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【特許番号】特許第4199824号(P4199824)
【特許公報発行日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(390039295)株式会社コシイプレザービング (16)
【Fターム(参考)】