説明

放出光検出器システム

【課題】電気泳動ベースのマイクロチップ及びマイクロアレイにおいて、蛍光標識された検体を検出するための小型化された光励起及び検出器システムを提供する。
【解決手段】キャピラリー電気泳動チップに設けられている分離チャネル内の試料を標識化している発蛍光性の原子団または官能基が励起光により照射されたときに放出する、該励起光の波長とは異なる波長の放出光を検出する放出光検出器システムにおいて、励起光を拒絶し且つ放出光をa−Si:Hフォトダイオードである光検出器へ通過させるように構成された集積型光検出器及び光学フィルタをキャピラリー電気泳動チップとモノリシックに集積形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、概してマイクロチップ分析器及びマイクロアレイにおける蛍光標識された検体を検出するための固体検出器及び光学システムに関し、特にa-Si:H(水素化非晶質シリコン)光検出器、フィルタを用いる放出光検出器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
分析が必要な現場(point-of-careまたはpoint- of- analysis、,以下POCと略す)で高いスループット、かつ、高性能のアッセイ(評価分析)が可能な小型のバイオ・化学分析装置には非常に大きな需要がある。最終的に、これらの装置は携帯可能で使い捨てできるべきである。この目的のため、キャピラリーアレイ電気泳動(μCAE=microfabricated capillary array electronics)装置は有望な候補である。このμCAEは、下記の非特許文献1に示されているように従来の方法に比べて大きく改善された効率で、アミノ酸分析、タンパク質及び小検体分析、DNA断片分離、並びに、DNA塩基配列決定等の広範な種類の分析を行なうために使用することが可能である。キャピラリー電気泳動(CE)測定は多重化されて、96から384レーンのμCAE装置上で大規模に並列化された高スループット遺伝子型判定を行うこともできる。
【0003】
しかしながら殆どのμCAE装置は、依然として光電子増倍管、CCD、光学フィルター、レンズ、レーザ等々を含む、通常のオフチップ(チップ上に集積化されてない)レーザ誘起蛍光検出システムを用いている。そうした嵩張った検出システムはμCAE装置で潜在的に可能であるPOC分析の数多くの有益性を妨げている。携帯可能な装置を実現する為に、小型の励起及び検出システムを開発する必要がある。これを達成する1つの手段は、Woolley等の下記の非特許文献2によって示されたような電気化学検出を用いることである。オンチップ(チップ上に集積化された)電気化学検出は、構造が単純であること、製造が容易であること等の魅力的な特徴を有するが、電気化学検出は蛍光検出の場合と比べると検出感度が良くない。更に、DNA塩基配列決定或は一塩基多形(SNP=single nucleotide polymorphism)検出の特定のプロトコル等の多重化されたアッセイを実行することは難しい。
【0004】
蛍光検出は、特にレーザ励起と組み合わせされた場合、非常に高感度である。多重検出も実現可能であり、現代のDNAシーケンサーにごく普通に使用される。それ故に、バイオ分析チップのための蛍光検出を維持し、且つ、励起及び検出システムを小型化・集積化する方法を考案することは有益である。Mastrangeloとその共同研究者は、以下の非特許文献3及び4で示されているように、マイクロ流体システムを含むシリコンフォトダイオードをシリコン・ウェハー上に直接製作したシステムを報告している。このモノリシックな製作はSi基板の導電性のために電気泳動を複雑化している。この場合、流体が流れるCEチャネルは、パリレン−C、SiN、或は、SiO2等の材料をそのチャネル上に堆積することによってシリコン基板から電気的に絶縁しなければならなかった。単結晶シリコンを用いたシステムを製作するコストは、単結晶Siウェハーのコストが高いことや多段階のプロセスが必要とされるために比較的高い。下記の非特許文献5で示されているように、Mariellaは、相同なTAQ−manアッセイを用いた蛍光検出に基づくリアルタイムPCR(polymerase-chain-reaction)アッセイを行なう携帯可能なDNA分析装置を報告しているが、彼のシステムはマイクロ流体チャネル用に設計されておらず、さらにμLからmLの大容量のサンプルを用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Micro Total Analysis Systems 2001 Ed. Ramsey & vanden Berg, Kluwer Academic Press Dordrecht, 2001
【非特許文献2】Woolley et al,Analytical Chemistry, 70, 684-698 (1998)
【非特許文献3】M.A. Burns et al, Science, 282, 484(1998)
【非特許文献4】J.R. Webster et al, Analytical Chemistry, 73, 1622(2001)
【非特許文献5】Mariella, Jr., JALA, 6, 54(2001)
【非特許文献6】Ichikawa et al, J. Non-Cryst. Solids, 198-200, 1081(1996)
【非特許文献7】R.A. Street et al, MRS Symp. Proc: 192, 441(1990)
【非特許文献8】R.A. Street and L.E. Antonuk, IEEE Circuit and Devices, Vol. 9, No. 4, 38-42(July 1993)
【非特許文献9】M. Schena ed., "Microarray Biochip Technology," Eaton Pub. Co., 1st Ed. (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、マイクロチップ分析器における蛍光検出のための集積型検出器及び光学システムを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、キャピラリー電気泳動デバイスにおける蛍光検出のためのa−Si:H光検出器、光学フィルタを利用する集積型検出器システムを提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、マイクロチップ分析器における蛍光検出のための容易に製作できて安価な集積型検出器及び光学システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前述の目的は、発蛍光性の原子団または官能基が放出する光を検出するための集積型a−Si:Hフォトダイオード及び光学フィルタを利用する検出システムによって達成される。具体的構成として述べれば、本発明では、
キャピラリー電気泳動チップに設けられている分離チャネル内の試料を標識化している発蛍光性の原子団または官能基が励起光により照射されたときに放出する、当該励起光の波長とは異なる波長の放出光を検出する放出光検出器システムであって;
励起光を拒絶し且つ放出光をa−Si:Hフォトダイオードである光検出器へ通過させるように構成された集積型光検出器及び光学フィルタが、キャピラリー電気泳動チップとモノリシックに集積形成されていること;
を特徴とする放出光検出器システムを提案する。
【0010】
また、上記の構成に加え、更に、キャピラリー電気泳動チップには球面状表面を持つレンズが形成され、このレンズの当該表面上に前記の集積型光検出器及び光学フィルタがモノリシックに集積形成されていることを特徴とする放出光検出器システムも提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、水素化非晶質シリコン(a-Si:H)フォトダイオードをμCAEデバイス用の小型集積型蛍光検出システムに用いる。こうしたa-Si:Hフォトダイオードは、SiH4ガス、あるいはSiH4とH2ガスの混合物のプラズマによる分解によって非常に低温(〜200℃)で堆積することができる。一貫した低温プロセスは、ガラス或は既掲の非特許文献6に示されているようにフレキシブルなプラスチック・フィルム等の安価な基板へのa-Si:Hフォトダイオードの直接製膜を可能にする。さらに、a-Si:Hは、大量生産、パターンニング、並びに、低生産コストの点で数多くの長所を有し、アクティブ・マトリックス液晶ディスプレイ用の薄膜トランジスタ(TFT)や既掲の非特許文献7及び非特許文献8で示されているように、a−Si:HフォトダイオードをTFT読み出しと組み合わせたイメージセンサ・アレイの具現化によって実証されている
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態として、電気泳動デバイスに集積化されたフィルタ及び光検出器を有する放出光検出器システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第二実施形態の概略構成図である。
【図3】微細加工技術により作製されたキャピラリー電気泳動デバイス例の概略構成図である。
【図4】電気泳動デバイスと結合した光検出器、フィルタ、並びに、レンズを有する放出光検出器システムの概略構成図である。
【図5】光検出器、フィルタ、並びに、レンズを有し、該レンズが電気泳動デバイスの一部となっている放出光検出器システムの概略構成図である。
【図6】光検出器の詳細な構成例の構成図である。
【図7】図6の光検出器の上部平面図である。
【図8】フィルタが光検出器に集積化されている放出光検出器システムの概略構成図である。
【図9】図4の集積化されたフィルタ及び光検出器から成るアレイと結合した面発光レーザー(VCSEL)を含む放出光検出器システムの概略構成図である。
【図10】励起光が電気泳動デバイスの平面に平行に照射される放出光検出器システムの概略構成図である。
【図11】励起光が電気泳動デバイスの平面に対してある角度で導入される放出光検出器システムの概略構成図である。
【図12】多重波長の光を検出すべく区分化されたフィルタ/検出器例の概略構成図である。
【図13】図12の線13−13に沿って切り取られた断面図である。
【図14】別の検出器アレイの概略構成図である。
【図15】図14の線15−15に沿って切り取られた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には本発明に従って構成された放出光検出器システムの一実施形態が、また、図2にはその改変例が示されているが、まず、本発明の理解のため、先に図3以降に従って説明して行く。
【0014】
図3は、分離チャネル12及び交差注入チャネル13を有するキャピラリー電気泳動チップ11(以下では、“μCAEデバイス”11とも呼ぶ)を概略的に図示している。キャピラリー電気泳動の分離電圧は陰極14及び陽極16の間に印加される。検体又は試料は、井戸状の液溜であるウェル17に導入され、ウェル17,18間に電圧が印加されると、注入チャネル上を移動する。周知の技術に従って、試料は適切な発蛍光性の原子団または官能基によって標識化されて、標識成分がある周波数の光で照射されると、異なる周波数の蛍光を放出する。試料は、分離チャンネル上を移動するとともに、電気泳動によって分離され、標識成分が、光照射されている検出領域に到達すると、蛍光を発する。放出された光は検出され、検出器への到達時間の関数として、標識成分を同定する。
【0015】
図4は、集積型a−Si:Hフォトダイオード検出器21、光学干渉フィルタ22、並びに、レンズ23を含む光学システムを示す。SiHガスまたはSiHとHガスの混合物のプラズマ分解により、フォトダイオード検出器を低温で作製する。このプロセスは、ガラス或はプラスチック等の安価な基板24上にa−Si:Hフォトダイオードを作製することを可能にする。フォトダイオードの作製は最初に、クロム或はアルミニウム等の金属層の蒸着或はスパッタリングによって金属電極26を形成することで始められる。次いで、n型a-Si:H層27、真性a-Si:H層28、p型a-Si:H層29が連続的に堆積される。第2のコンタクトは、ITO、SnO、Al若しくはGaドープされたZnO等の透明導電酸化膜の堆積層31を含む。上記のp型層及びn型層の順序は反転することも可能である。しかしながら、p層側からの光注入は、電子と比べてホールの移動度が低いことにより高い光電流が得られる。光学干渉フィルタ22は、石英或は他のガラス・プレート33上に選択された厚みのTiO/SiO/SiN等々の材料から成る層32を堆積することによって形成される。干渉フィルタの作製は当該業界では周知であり、更なる説明はしない。収集効率を増大するためには反射防止コーティング34を石英プレートの他面に施すことが好ましい。マイクロレンズ36は検出と光学システムを完全なものにする。マイクロレンズ36はマイクロレンズ36を射出成形して、プレート37に結合することにより作製可能である。この際プレート37はμCAEデバイスの一部の場合もあり得る。或は代替的には、レンズ36及び支持体37は射出成形によって一体物として作製することもできる。レンズ及び支持体は光検出器及びフィルタに取り付けることができ、集積化されたアセンブリを形成する。マイクロレンズ36は、例えば、凸レンズ、非球面レンズ、半球レンズ、屈折率傾斜レンズ、或は、回折レンズであり得る。これらのレンズは矢印38で示されるように、マイクロチャネル12において発蛍光性の原子団または官能基が放出する蛍光を平行化する役割を果たす。これは、干渉フィルタの光学密度が光の入射角度に依存するために、所望の蛍光の収集およびレーザ励起光の減衰を高める。蛍光を収集するための立体角が大きい場合、マイクロプレートとレンズの間の境界での反射は屈折率マッチング液を用いることにより除去することができる。
【0016】
後述の本発明の実施形態でもそうであるが、フォトダイオード21及び光学フィルタ22はピンホール39を有する。励起光ビーム41は、ガラス基板24,ピンホール39、並びに、レンズ36を通じてマイクロチャネル12へ投射される。反射防止コーティング(図示されていない)はガラス基板に施すことができ、ガラス基板を通過する光ビームの透過効率を増大し、散乱光を低減する。光ビームは半導体レーザ(端面発光型または垂直共振型)、小さな従来形レーザ、或は、LEDによって生成することができる。金属コンタクト又は電極26は充分な厚みを有しているので、透過ビームのサイズを規定するアパーチャーとして働く。垂直なレーザ励起のおかげでレーザ光が光学フィルタ及び検出器に直接入射するのを避けることができる。
【0017】
ガラス基板24及びガラス・プレート37は、スペーサ(図示されていない)とフォトダイオード21に取り付けられたフィルタ・アセンブリ32,33,34によって一定の間隔を保って支持することができる。この組み合わせは検出器及び光学アセンブリを提供し、その上にμCAEデバイス11を協道関係となるようにその都度配置することによって該μCAEデバイス11を読み取るために使用することができる。光ビーム41によって励起された発蛍の原子団または官能基が放出する蛍光はレンズによって平行化されて、蛍光波長の光を通過し且つ励起波長の光を吸収或は反射するフィルタ22を透過してフォトダイオード21に到達する。
【0018】
図5は、破線42によって示されるようなμCAEデバイス上に直接、レンズを成形により製作したμCAEデバイスを示す。他の参照番号は図3と同様のパーツを指している。同一の参照番号が同一ないし同様の構成要素を示すことは他の図面に関する説明でも同じである。
【0019】
側面からの散乱光の導入の可能性を低減するためには、光学フィルタ及びa-Si:H検出器の間の距離を最小限にすることが重要である。このために、フィルタ層は石英又は透明なプレート33の下側に向けられ、a-Si:H検出器はガラス基板24の上側に向けられる。レーザ散乱光の効果を最小限にするために、金属性光シールドをa-Si:H検出器のアパーチャー又はピンホール内部に形成することが可能である。図6を参照すると、フォトダイオード21は小さなアパーチャー43を有する下部電極26上に形成される。SiN或は酸化物等の絶縁層44が光ダイオード21の外周面およびピンホール39に形成される。続いて、上部電極31と接続するアルミニウム等の金属層46が形成される。この金属電極は散乱光を遮断する役割も果たす。図7は上部電極及び下部部電極に対するコンタクト・パッド47及び48を示す。
【0020】
レーザ・ビームの経路は反転することも可能である。上側からのCEチャネルの照射には有利な点もあるだろう。透過したビームは検出器のホールを通過する。しかしながらa-Si:H検出器を高強度のレーザ・ビームおよびそのビームからの散乱から保護することはより難しいであろう。さらに、強い前方散乱光は、特に光学系のアライメントの際フィルタに悪影響を与えるかもしれない。
【0021】
図8には、図4から図7の装置構造に基づき光学フィルタ及びa-Si:H検出器をモノリシック集積した装置が示されている。なお、同様な参照番号が同様なパーツに付与されている。a-Si:H検出器は、ZnS/YF3等の幾つかのタイプの光学フィルタのコーティング温度に対して耐久性がある。製作プロセスは以下の通りである。先ず、a-Si:Hフォトダイオードがガラス基板上に堆積された後、酸化シリコン或は窒化シリコン等の拡散障壁層51が堆積される。次に、光学干渉フィルタがその上にコーティングされる。フィルタのコーティング前に、拡散障壁層51は化学機械的研磨(CMP)によって平坦化されるが、これは光学干渉フィルタの品質にとって重要である。また、光検出器の金属性側壁保護は光学干渉フィルタの上部まで拡張することが可能であり、この結果、レーザ光散乱の更なる低減が実現されることにも留意すべきである。
【0022】
検出器、フィルタ、並びに、レンズから成るアレイは離間した電気泳動チャネル12からの蛍光を検出するために用いることができる。図9は、μCAEチャネル12と結合した、モノリシック集積化された光学フィルタ及び検出器から成るアレイを示す。垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)52のアレイは検出器及びフィルタと結合されて、励起光を放出する。VCSELアレイは、ウェハー53上に作製することが可能であって、個々のレーザ・ダイオードをフォトリソグラフィによりパターニングすることができるので、本来的にスケーリング可能である。a-Si:H検出器21及びフィルタ22はVCSELアレイとモノリシックに集積することも可能である。a-Si:H検出器及び光学フィルタの堆積温度(<200℃)は非常に低いので、a-Si:HとVCSEL(通常、GaAs合金或はGaN合金等の化合物半導体により作製される)間での元素の相互拡散が抑制されるので、このモノリシック集積はVCSEL及びa-Si:H検出器の性能に悪影響を与えない。この構造において、レンズ36は例えば成形等によってμCAE11の一部して形成されているが、個別の構成体であってもよく、或は、検出器アレイと集積化してもよい。また、代替的には単一のレーザーであっても、放射状スキャナ、またはガルバノスキャナ、いくつかのビームスピリッター、あるいは光ファイバーアレイと組み合わせることにより、各サンプリングポイントへレーザー光を導くことができることに留意すべきである。アレイは2次元であるので多数のチャネルの各々に沿って蛍光を検知できるのは、明らかである。2次元的配置によって、通常のDNAアレイ或はタンパク質アレイからの蛍光を検出できる。レンズ、フィルタ、検出器、並びに、光源は単一ユニットに集積することができる。このような集積型デバイスは、多数のマイクロチャネルを有するμCAE装置を連続的に受信して読み取るために用いられる。
【0023】
さて、以上のような構成に対し、図1及び図2には、本願発明に従う実施形態における構成例として、μCAEデバイス(キャピラリー電気泳動チップ)11上における光学フィルタ及びa-Si:H検出器をモノリシック集積した2つの例を表している。両構造とも、a-Si:H検出器をフィルタ上に作製しなければならないので、光学フィルタは〜200℃のa-Si:H堆積温度に耐える必要がある。SiO/TiOのような金属酸化物多層の干渉フィルタは、堆積温度が250〜300℃とより高いために、この条件を満たすことができる。したがって、光学フィルタが、μCAEデバイス11上に多層干渉フィルタ32を堆積することによって作製された後、障壁層51上へのフォトダイオード21のa-Si:H層の堆積を行う。このような干渉フィルタが図1に示されるような平面構造に用いられるならば、レーザ散乱光のフィルタへの入射角分布が重要であろう。もし検出器が様々な角度からのレーザ光散乱を被るのであれば、エッジ吸収フィルタ、或は、エッジ吸収フィルタ及び干渉フィルタの組み合わせを使用することもできる。平面構造と良好な光の平行化を維持するために、平面状の屈折率傾斜レンズ(図示していない)を用い、その上に光学フィルタ及びa-Si:H検出器をモノリシックに集積することもできる。検出器をCEチャネルに充分密接させ、レンズ無しで光収集の効率を増大し且つダイオード検出器をより小さく保つことも重要である。
【0024】
散乱光の広い角度分布を軽減する他の方法は、図2に示されるようにCEチャネルを中心点とした球面上にフィルタを製作することである。CEチャネルからの光はフィルタ面に対して垂直に入射する。この湾曲した検出器は取り外し可能である。この場合、屈折率マッチング液はレンズ36とμCAEデバイス11の間に用いられる。エッジ吸収フィルタ及び干渉フィルタの組み合わせは妥当な選択であろう。もし光学フィルタがa-Si:H検出にとって有害な元素を含有するのであれば、酸化シリコン或は窒化シリコン等の障壁層51が検出器への有害元素の拡散を防止するために用いられるであろう。高い電界から検出器を絶縁するために、この拡散障壁層は、ITO、SnO、Al若しくはGaドープされたZnO等の接地された透明導電性酸化物(TCO)で置き換えることもできる。
【0025】
a-Si:H PINフォトダイオードは湾曲した面上でも非常に良好に動作すすることが示されており、膜のコンフォーマル特性も主にプラズマ化学気相成長法(CVD)の堆積圧力が高いために良好である。同様に、CVD及びスパッタリング等のより高い動作圧力プロセスを用いることによって湾曲面上に均一な膜厚の光学フィルタを作製できるだろう。湾曲面をフォトレジストで被覆するには、むしろ従来のスピン・コーティングよりもスプレイ・コーティングが使用されるであろう。コンタクト及び近接等の通常のウェハー露光はマスク・パターンをフォトレジストに転写する。上部湾曲した面上のピンホールは、パターン転写が可能となるようにマスクと充分に密接にできる。他方、検出器及び光学フィルタの外側縁部はマスクから距離があるため(数ミリメートル)、マスク・パターンの解像度は回折効果によって劣化する。しかしながらこの場合、デバイスの特性サイズが大きい(数ミリメートル)ために問題とはならない。
【0026】
以下、本発明に関連もしてくる参考的な構成に就き、更に説明する。図10及び図11は、μCAEデバイスのチャネルへレーザ光を導入する代替的な方法を示している。図10においては、μCAEの基板を直接に通過させるか,または、導波路57を利用して、μCAEデバイスの平面と平行にレーザ光56を導入しチャネル12を照射する。高い屈折率の薄膜材料が、CEチャネル12と交差する導波路として、ガラス基板上或はガラス基板内に堆積される。面内レーザ励起のおかげで、ピンホールを使用することなく、レーザ光がフィルタ32及び検出器ユニット21に直接入射するのを回避する。軸線からある角度でのレーザ励起、特にブルースター角での励起も、図11に示されるように同様な効果をもたらす。ビーム・ブロック58は、レーザ光がフィルタ32及び検出器ユニット21に入射するのを防止するために使用される。代替的にレーザ・ビーム56は、チャネルに向かうようにミラー或はプリズムによって底部から導入することもできる。
【0027】
もし検出器が、2つ或はそれ以上の扇形に分割され、光学フィルターも同様に区分化され、異なる波長に対応するのであれば、多色検出も可能となる。しかし、扇形区分された検出器あたりの光強度は低減する。a-Si:H検出器は、結晶半導体、非晶質半導体にかかわらず、マイクロPMT、アバランシェフォトダイオード(APD)、或は、APDアレイ等のより高感度な検出器に置き換え可能である。図12及び図13を参照すると、区分化されたフィルタ/検出器アセンブリが示されている。このフィルタ/検出器は3つのフィルタ/検出器61,62,63を含む。これらフィルタ/検出器の各々は先に記載されたように製作され、同様な参照番号が同様なパーツに用いられている。
【0028】
検出器は別の配置でも区分化され得る。図14及び図15を参照すると、検出器71,72,73は、それぞれ、2つの区分71a,71b、72a,72b、73a,73bに分割されている。これら2つの区分は、(3つのみがここでは示されている)複数のチャネルを有するμCAEデバイス11内に形成されたキャピラリ−チャネル12a,12b,12cに沿って配置される。各検出器は光検出器及びフィルタを含み、フィルターは隣接する検出器とは異なる波長の放出光を透過する。検出器は先に記載されたように作製され、それ故に同様な参照番号が用いられている。レンズ36は各対と対応している。励起光ビーム76は線77に沿って査走される。多数の集積型多色検出器の他の形態は本発明の教示の範囲内にあることは明白である。
【0029】
本発明において、a−Si:Hフォトダイオードの使用が集積型検出器に対して強調されている。しかしながらここで指摘すべきことは、水素化微晶質Si(μc−Si:H)或は低温成長ポリ−Si等の他のガラス適合性半導体も集積型検出器に対する材料として適していることである。μc−Si:Hはa−Si:Hと異なる条件下で同じ方法により形成される。ポリSiは、プラズマCVD、LPCVD、あるいは大気圧CVDと、アモルファスシリコンのレーザー結晶化または金属誘起結晶化と組み合わされて作製される。このようなSi材料は、a−Si:Hと比べてずっと高い暗導電率を示すものの、赤或は赤外線領域でより高い感度を示し、赤色蛍光の検出にはより適している。赤色光領域でのa−Si:Hの感度はa−Si:HにGeを取り込み、a−SiGe:Hにすることによって向上させることができる。
【0030】
ここに記載されたa−Si:H集積型センサ光学システムは、既掲の非特許文献9で参照されるように、蛍光検出に基づく全てのタイプの微細加工技術により作製された電気泳動デバイスを用いたタンパク質アッセイおよびアレイを含むDNAアッセイに有効である。そうした電気泳動デバイスは、キャピラリー電気泳動、自由ゾーン電気泳動、および等電点電気泳動を含む。可能な用途は、DNA断片分離、DNA塩基配列決定、DNAパイロシークエシング法、多形分析、タンパク質分析、アミノ酸分析、セル・ソーティング、病原菌及び伝染病検出、食物及び水純度テストを含む。特に、大規模に多重化されたアッセイを行う蛍光ベースのデバイスは、製造の容易さや生産コストの低減により、VCSEL技術と結合された集積型a−Si:Hセンサ・システムから利益を得るだろう。
【符号の説明】
【0031】
11 キャピラリー電気泳動チップ(μCAEデバイス)
12 分離チャネル
21 フォトダイオード
32 光学フィルタ
36 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリー電気泳動チップに設けられている分離チャネル内の試料を標識化している発蛍光性の原子団または官能基が励起光により照射されたときに放出する、該励起光の波長とは異なる波長の放出光を検出する放出光検出器システムであって;
前記励起光を拒絶し且つ前記放出光をa−Si:Hフォトダイオードである光検出器へ通過させるように構成された集積型光検出器及び光学フィルタが、前記キャピラリー電気泳動チップとモノリシックに集積形成されていること:
を特徴とする放出光検出器システム。
【請求項2】
請求項1記載の放出光検出器システムであって;
前記キャピラリー電気泳動チップには球面状表面を持つレンズが形成され、該レンズの該表面上に前記集積型光検出器及び光学フィルタがモノリシックに集積形成されていること:
を特徴とする放出光検出器システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−271085(P2009−271085A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188451(P2009−188451)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2004−509391(P2004−509391)の分割
【原出願日】平成15年6月2日(2003.6.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(501269421)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (2)
【出願人】(504407000)パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド (65)
【Fターム(参考)】