説明

放射性標識化カルボキシレートの製造方法

本発明は、放射性標識化カルボキシレートの製造方法に関するものであり、カルボキシレートの少なくとも1種の前駆体分子は導電性塩を含む溶媒中で調製され、放射性標識化二酸化炭素を含む少なくとも1種の反応体が溶媒中に供給され、前駆体分子は放射性標識化二酸化炭素と電気化学的に反応して放射性標識化カルボキシレートを形成し、かつ前駆体分子を反応させる場合に放射性標識化二酸化炭素は溶媒中に完全に溶解されている。本発明は、さらに、放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための放射性標識化二酸化炭素(二酸化炭素は、合成の間、溶媒中に完全に溶解されている)の使用、および放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成する(放射性標識化二酸化炭素を反応させる)ための微小構造体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性標識化炭素化合物の技術分野に関する。特に、本発明は、放射性標識化カルボキシレートの製造方法、および放射性標識化カルボキシレートの電気化学的合成のための放射性標識化二酸化炭素および微小電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放射断層撮影法(PET)は、生体の断面像を作り出す、核医学の方法である。PETの間に、生体中での放射性標識化物質、放射性医薬品(radiopharmakon)の分布が明らかにされ、それによって、構造さらには生物化学的および生理学的過程が図解される。放射性医薬品は、放射性核種、放射性原子または同位元素によって標識化されている。
【0003】
従来のシンチグラフィーと対照的に、PETは、陽電子放射線を発する放射性標識化物質を使用する。陽電子と体内電子との相互作用事象において、2つの高エネルギー光子が反対方向に放射される。PETの原理は、これらの同時に発生する光子を互いに相対する検出器によって記録することにある。これらの記録された崩壊事象の時刻および空間に関する分布を使用して、体内での放射性医薬品の空間的分布が導き出される。
【0004】
PETは、代謝性疾患、とりわけ腫瘍学、神経学および心臓病学で頻繁に応用される。放射性医薬品は、多くの侵襲性腫瘍によって濃縮され、PETは、たとえば、がん性疾患の診断、ステージ決定、および進行観察に適していることになる。同様に、PETは、循環、したがって神経および心臓組織の代謝活性を図解するのに使用することができる。同様に、PETは、心筋内の血管新生の不十分な領域を経時的に検出するのに使用することができる。
【0005】
生体は、放射性医薬品と、対応する非放射性化合物とを区別せず、放射性医薬品が通常通り代謝されることになる。放射性核種の崩壊により放射性医薬品を追跡し可視化することができる。
【0006】
最もしばしば使用される放射性核種は、放射性同位元素である炭素(11C)、フッ素(18F)、窒素(13N)および酸素(15O)である。これらの放射性核種は、サイクロトロン中で粒子の加速によって作り出される。
【0007】
放射性医薬品の有用性は、典型的には2時間未満である放射性核種の短い半減期によって限定される。放射性核種11Cは、わずかにほぼ20分のとりわけ短い半減期を有する。放射能の望ましくない崩壊は、サイクロトロン中での放射性核種の製造中に早くも始まり、放射性医薬品の製造、そのPET現場および最終的には患者への投与段階までの送達、ならびに測定の間中、継続する。
【0008】
最も広い供給可能範囲(供給すべき陽電子放射断層撮影装置はサイクロトロンの周囲に配置される)を達成するには、放射性医薬品の可能な最高放射能が、その製造後に存在すべきである。このことは、放射性核種の放射能崩壊は時間に依存するので、放射性核種から放射性医薬品を可能な最短時間で製造することによって達成することができる。
【0009】
放射性医薬品を製造するための主成分は、生体中で生物化学的または生理学的に活性であり、かつその化学構造中に1つまたは複数の放射性核種が組み込まれている分子である。従来法は、例えば、アミンまたはカルボン酸を11Cで放射性標識化するために、メチル化剤11CH3Iを介する経路を利用する(Denutteら、1983年;VandersteeneおよびSlegers、1996年)。しかし、この方法では、11CH3Iを得るために、サイクロトロン中で製造された11CO2を、LiAlH4およびHIとの2段階法でさらに反応させなければならない。第3ステップで、ようやく、放射性標識化されたメチル化剤を標識される予定の医薬品(pharmakon)に移転することができる。放射性医薬品のこの厄介な合成の結果として、11CO2によって初めに提供された高い放射能比率が失われる。
【0010】
重要な技術が、いわゆる「クリックケミストリー」によって、18F標識化の分野での新規PET造影剤のために導入された。この方法は、単一ステップでの放射性造影剤の合成を可能にする(Devarajら、2009年;Liら、2007年)。しかし、フッ素で標識された放射性医薬品、例えば、18F-フルオロウラシル、18F-6-フルオロ-DOPAまたは18F-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースは、それらの対応する標識化されていない元々の分子と異なり、それゆえ、それらの元々の分子と化学的に異ならない炭化水素化合物を使用することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0189120号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Denutte et al., J Nucl Med 24, 1185-1187, 1983
【非特許文献2】Abstract for Devaraj et al., Bioconjugate Chem 20(2), 397-401, 2009
【非特許文献3】Abstract for Li et al., Bioconjugate Chem 18(6), 1987-1994, 2007
【非特許文献4】Abstract for Vandersteene and Slegers, Applied Radiation and Isotopes 47(2), 201-205, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、放射性標識化炭化水素化合物を短い製造時間内に高収率で合成することのできる効率的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、
・導電性塩を含む溶媒中でカルボキシレートの少なくとも1種の前駆体分子を準備するステップ;
・放射性標識化二酸化炭素を含む少なくとも1種の反応体を溶媒中に導入するステップ;および
・前駆体分子を放射性標識化二酸化炭素と電気化学的に反応させて、放射性標識化カルボキシレートを得るステップ;
を含み、ここで、放射性標識化二酸化炭素は、前駆体分子の反応の間、溶媒中に完全に溶解されている、放射性標識化カルボキシレートの製造方法によって達成される。
【0015】
さらに、本発明は、放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための、放射性標識化二酸化炭素の使用に関するものであり、ここで、二酸化炭素は、合成の間、溶媒に完全に溶解されている。
【0016】
さらに、本発明は、放射性標識化二酸化炭素を反応させて放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための微小電極の使用に関する。
【0017】
従属請求項は、本発明の有利な実施形態を包含する。
【0018】
本発明は、付属の図面を参照することによって、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】放射性標識化α-11C-アミノ酸を合成するための、11CO2の組込みを伴うケトンの電気化学的還元カルボキシル化を示す図である。
【図2】放射性標識化α-11C-ヒドロキシ酸を合成するための、11CO2の組込みを伴うケトンの電気化学的還元カルボキシル化を示す図である。
【図3】イミンを放射性標識化シアン化物と反応させることによってアミノ酸を製造するための、還元カルボキシル化を示す図である。
【図4】2つの微小電極、カソード1およびアノード3、さらにはそれらの互いの相対的配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、放射性標識化カルボキシレートの製造方法を提供し、該方法は、
・導電性塩を含む溶媒中でカルボキシレートの少なくとも1種の前駆体分子を準備するステップ;
・放射性標識化二酸化炭素を含む少なくとも1種の反応体を溶媒中に導入するステップ;および
・前駆体分子を放射性標識化二酸化炭素と電気化学的に反応させて、放射性標識化カルボキシレートを得るステップ;
を含み、ここで、放射性標識化二酸化炭素は、前駆体分子の反応の間、溶媒に完全に溶解されている。
【0021】
用語「カルボキシレート」は、本明細書中で使用する場合、カルボキシル基を含む例えば実験式R1R2R3C(COO-)の化合物を指す。中心炭素原子に結合された基R1、R2、R3は、同一または異なる、飽和または不飽和の、直鎖、分枝鎖または環状の、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族基、あるいはこれらの混合形態でよい。それらの基は、本発明によるカルボキシル化の条件下においてそれら自体で反応性である基を含まないことを前提とする。カルボキシレートとしては、とりわけ、カルボキシレートアミド、イミド、無水物、カルボン酸エステル、カルボン酸ハライド、アルデヒド、ケトン、アミノ酸塩、ヒドロキシ酸塩、ウレタン、およびカルボン酸が挙げられる。
【0022】
用語「前駆体分子」は、本明細書中で使用する場合、例えば、イミンまたはカルボニル化合物などの、カルボキシレート合成の出発物質および出発化合物を指す(図1〜3参照)。
【0023】
用語「導電性塩」は、本明細書中で使用する場合、溶媒中に溶解されて電流を運搬する電解質を指す。
【0024】
用語「反応体」は、本明細書中で使用する場合、二酸化炭素、シアン化物、水、およびアンモニアなどの化学分子、さらにはプロトンおよび電子を包含する。溶媒中への反応体の導入は、1つまたは複数のステップで行うことができ、反応体を、一部重複して同時に、または引き続いて導入することができることになる。
【0025】
用語「電気化学的に」は、本明細書中で使用する場合、電気分解による化学反応を指す。
【0026】
用語「溶解された二酸化炭素」は、物理的に溶解された二酸化炭素および炭酸水素塩の双方を指す。用語「完全に溶解された」は、本明細書中で使用する場合、溶媒中に気相が発生しないことを意味する。該用語は、同様に、溶媒の二酸化炭素による完全な飽和を指す。完全溶解は、反応開始に先立って極めて高い圧力下で二酸化炭素を溶媒中に事前溶解することによって行うことができる。
【0027】
放射性標識化カルボキシレートを製造するための本発明による方法において、短い反応時間およびそれによる短い製造時間、さらにはカルボキシレートの高い収率は、放射性標識化二酸化炭素を完全に溶解することによって達成される。
【0028】
二酸化炭素を完全に溶解させることの結果として、溶媒中のその濃度は増加する。未溶解気相による濃度勾配は回避される。二酸化炭素の完全溶解は、溶媒中での二酸化炭素のより良好な混合および均一な濃度につながる。すなわち全体として、反応時間および製造時間が短縮され、収率が増大する。
【0029】
短い反応時間および製造時間の結果として、今度は、放射性核種の時間の関数としての自然崩壊による放射化学収率(radiochemical yield)の損失が低下する。
【0030】
これまで、放射性11Cの急速な放射性崩壊のため、カルボキシレート放射性医薬品を合成するには、極端に高線量の放射性出発物質を使用することが必要になった。本発明による方法によって反応時間を短縮することにより、カルボキシレートの合成中に使用される放射性炭素の線量を低減することができる。このことは、コストを節減し、放射性標識化カルボキシレートの製造中の放射化学者の放射能被曝量(radioactive burden)が軽減される。
【0031】
前駆体分子と放射性標識化二酸化炭素との本発明による反応は、極めて単純であり、低い装置費用で実施することができる。中間体を単離または精製する必要がない。本発明による方法は、したがって、臨床または放射線外科でそのまま使用することができる。
【0032】
前駆体分子と放射性標識化二酸化炭素との本発明による反応は、短くて迅速な合成経路を介する還元的な電気化学的カルボキシル化によって行われる。放射性標識化二酸化炭素は、本発明によるカルボキシレート合成の最終ステップ、すなわち最終カルボキシレート生成物の前のただ1つの合成ステップの間に、前駆体分子中に組み込まれる(図1および2参照)。カルボキシル化さらには標識化も、他のいかなる合成ステップも続くことのない単一のステップで行われる。
【0033】
二酸化炭素を用いるカルボキシレート合成は、欧州特許出願公開第0189120号中に記載されているが、そこでは放射性標識化二酸化炭素は使用されていない。同様に、そこでは完全に溶解された二酸化炭素ではなく、気体状二酸化炭素が使用され、欧州特許出願公開第0189120号では、収率はより低く、反応時間はより長いことになる。欧州特許出願公開第0189120号は、放射性標識化カルボキシレートの製造に関するものではなく、これらの不都合は、非放射性カルボキシレートが時間の関数として崩壊せず安定であるので、それほど深刻ではない。さらに、欧州特許出願公開第0189120号中で使用される出発物質の量は、放射能被曝が発生しないので、決定的因子ではない。
【0034】
好ましい実施形態において、カルボキシレートは、α-ヒドロキシ酸塩および/またはα-アミノ酸塩である。接頭辞「α-」は、ヒドロキシル基またはアミノ基がやはり結合しているα-炭素原子上のカルボキシル基の位置を指す。
【0035】
α-ヒドロキシ酸塩は、ケトンまたはアルデヒドから直接的に、放射性標識化二酸化炭素の組込みを伴う単一段階の反応で合成される(図1)。したがって、それは、自然崩壊による放射化学収率の低い損失を伴う極めて急速で単純な反応である。したがって、使用される放射性二酸化炭素の線量を低減すること、およびそのため放射能被曝量を軽減することが可能である。
【0036】
α-アミノ酸塩を製造するための前駆体分子は、確立されたStrecker反応の最初の部分によって合成される(図1および3)。α-アミノ酸塩は、本発明による方法により、α-ヒドロキシ酸塩よりも高い収率で合成することができる。α-アミノ酸塩は、α-ヒドロキシ酸塩およびその酸とまったく同様に、代謝中に広範に存在する生理学的に重要な分子であり、それらは、多様な用途を有する慣行的なPETバイオマーカーであることになる。
【0037】
さらなる実施形態において、前駆体分子は、ケチミン、アルジミン、ケトン、アルデヒド、および/またはこれらのイオンを含む。アルジミンは式R1HCNR2を、ケチミンは式R1R2CNR3を、ケトンは式R1R2COを、アルデヒドは式R1HCOを有する。ケチミンイオンの一例がイミニウムカチオンである(図3)。基R1、R2およびR3は、同一または異なる、芳香族、ヘテロ芳香族および脂肪族基でよい。脂肪族基は、非環式の分枝および非分枝の、環式および脂環式の、飽和および不飽和の炭素化合物を包含する。該基は、カルボキシル化の条件下でそれ自体反応性である基を含まないことが前提である。これらの前駆体分子は、費用効果が高く、商業的に入手可能であり、かつ標準的方法を使用して簡単に製造することができる。
【0038】
好ましい実施形態において、導電性塩は、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アンモニウム、アルキル、シクロアルキル、アリールアンモニウム塩、または第四級アンモニウム塩、とりわけ、テトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウムテトラフルオロボレートまたはテトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートを含む。第四級アンモニウム塩の窒素に結合された基は、同一または異なる、脂肪族、環状脂肪族または芳香族基である。塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、およびビス(トリフルオロメチルスルホンイミド)は、第四級アンモニウム塩の好ましいアニオンである。テトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウムテトラフルオロボレートまたはヘキサフルオロホスフェートは、例えば、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどの好ましい導電性塩である。
【0039】
さらなる実施形態において、溶媒は、有機溶媒である。好ましい溶媒は、アミド、ニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、および/または開鎖もしくは環状エーテルである。
【0040】
さらなる実施形態において、反応体は、前駆体分子と1ステップで反応してカルボキシレートを与える。結果として、反応時間は短く、かつその時間中の放射能収率(radioactive yield)の損失は少ない。
【0041】
さらなる実施形態において、放射性標識化二酸化炭素は、11CO2である。
【0042】
さらなる実施形態において、二酸化炭素は、2バールを超える、好ましくは5バール、または5バールを超える圧力下で溶媒中に導入される。この高い圧力の結果として、二酸化炭素は、前駆体分子の反応の間、溶媒中に完全に溶解されている。
【0043】
さらなる好ましい実施形態において、反応は、連続フローリアクター中で行われる。連続フローリアクターは、連続的処理で操作され、その結果として、反応の平衡は、合成方向に移行される。このことが、高収率、高選択性、さらには望ましくない副生物の低い濃度につながる。
【0044】
さらなる実施形態において、反応は、微小構造体上で行われる。用語「微小構造体」は、本明細書中で使用する場合、双方ともマイクロメートル、さらにはナノメートル領域の小型化されたユニットおよびシステム、例えば、微小容器、微小混合機、微小電極、および微小撹拌機などを指す。
【0045】
微小構造体の使用は、反応空間の改善された表面/体積比率を確実にする。改善された表面/体積比率は、溶媒、さらにはその中に存在する物質の急速混合、効果的な熱および電流伝達、ならびに短く制御可能な滞留時間につながる。微小構造体を利用する方法は、したがって、より効率的に操作することができ、短い反応時間および高い収率につながる。
【0046】
微小構造体上での合成の極めて良好な制御可能性、およびその中に存在する健康を危険にさらす溶媒さらには毒性反応体、とりわけ放射性医薬品の量が少ないことは、高い操作安全性につながる。本発明の過程中に使用される微小構造体は、したがって、放射線被曝量(radiation burden)、さらには健康を危険にさらす物質による放射性標識化カルボキシレートの合成中の放射化学者の被曝量(burden)を軽減する。
【0047】
放射性標識化カルボキシレートを製造するための本発明による方法の中で、短い反応時間したがって短い製造時間、さらにはカルボキシレートの高い収率は、微小構造体上で行われるカルボキシル化によって達成される。短い反応および製造時間の結果として、放射性炭素核種の時間の関数としての自然崩壊による放射化学収率の損失が低減される。したがって、放射性標識化カルボキシレートの合成中に使用される放射性炭素核種の量を低減することができ、その結果として、コストが節減され、合成中の放射化学者の被曝量が軽減される。
【0048】
さらなる実施形態において、微小構造体は、少なくとも1つの微小電極を含む。
【0049】
二酸化炭素を用いるカルボキシル化中に、還元は、微小電極の助けを借りて電気化学的に行われる。この方法では、犠牲アノードが電子供与体として役立ち、毒性シアン化物またはシアン化水素の電子供与体としての使用を免除することになる。電気化学的触媒作用の結果として、該方法を、高収率および高選択性で操作することができる。アルデヒドまたはケトンなどの容易に利用できる化合物が、前駆体として役立つ。
【0050】
微小電極は、微小アノードまたは微小カソードを含む。アノード材料は、可溶性金属、とりわけ、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、銅またはこれらの合金であり、アルミニウムおよびマグネシウムが最も好ましい。好ましいカソード材料は、導電性炭素材料などの導電性材料、例えば、グラファイト、炭素繊維のウェブ、およびガラス状炭素、さらにはニッケルおよびマグネシウムであり、マグネシウムが最も好ましい。アノードとカソードのとりわけ好ましい組合せは、マグネシウム-マグネシウム、およびマグネシウム-炭素の組合せである。
【0051】
それらの幾何学的形状のため、微小電極は、互いに近接して配置することができる。空間的近接の結果として、電界強度は、同一電圧に対して増大し、同一電界強度に対してより低い電圧で作用することが可能であることになる。
【0052】
微小電極間の電位差は、反応する分子に依存し、分析的方法によって実験的に確かめられる。電気分解は、微小電極間で定電流的に操作することができるが、定電位法が、溶媒、導電性塩、反応体、および前駆体分子の量および体積が小さいため、好ましい。
【0053】
さらなる実施形態において、微小構造体は、分割されていない空間中に配置された2つの微小電極を含む。分割されていない電極空間は、溶解している犠牲アノードのカチオンとの塩形成の結果として、生成物の選択性が増大するという利点を有する。塩形成は、望ましくない二次反応、例えば、前駆体分子を還元してピナコール誘導体を与えることから保護する。さらに、分割されていない空間中で、分離膜の結果としてオーム抵抗を増大することがない。
【0054】
さらなる好ましい実施形態において、微小電極は、コーティング、管状モジュール、例えば、微小毛細管、線状素子、例えば、ワイヤ、二次元格子、二次元表面または三次元メッシュを含む。これらの電極の変形体の結果として、表面/体積比率がさらに改善される。
【0055】
とりわけ好ましい実施形態において、管状モジュールはカソード1であり、線状素子はアノード3である。アノード3は、カソード1の内側中央に配置される。カソード1およびアノード3は、カソード1の縦方向およびアノード3の縦方向が互いに平行に走るように、互いに相対して配置される(図4)。
【0056】
とりわけ好ましい実施形態において、二次元表面は、それぞれの場合、長方形の微小構造体の対向壁上に配置されたアノードおよびカソードである。平坦な長方形の微小構造体の対向壁上の二次元のアノードおよびカソードの配置は、反応体の好ましい流動比率を有する電極空間中での均一電界を有利に組み合わせ、その結果として、電気化学反応はより効率的に構成され、反応時間は短縮される。さらに、収率は、この微小構造体中での均一な滞留時間による二次反応の同時的最小化を伴って増大する。
【0057】
とりわけ好ましい実施形態において、反応温度は20℃〜30℃である。さらなる実施形態において、前駆体分子の溶媒中濃度は、0.1Mである。
【0058】
さらなる実施形態において、方法は、カルボキシレートの少なくとも1つのカルボキシル基を酸性で加水分解するステップをさらに含む。たとえば、塩酸による酸性での加水分解の結果として、カルボキシレートからプロトンの付加を伴って、対応するカルボン酸が得られ、アミノ酸塩から対応するアミノ酸が得られ、ヒドロキシ酸塩から対応するヒドロキシ酸が得られる。
【0059】
さらに、本発明による方法は、溶媒からカルボン酸を単離するステップを含む。単離は、好ましくは、沈殿、濾過、蒸発、分取クロマトグラフィー、および/またはデカンテーションによって行われ、かつ同様に、導電性塩ならびに所望のおよび望ましくない副生物からの分離を含む。沈殿は、例えば、低極性溶媒を使用して行われる。さらなるステップにおいて、カルボン酸の酸官能基を、例えばメタノールおよび硫酸を用いて誘導体化することができる。さらなるステップにおいて、カルボン酸を、例えばクロマトグラフィー、とりわけガスクロマトグラフィーで分析することもできる。
【0060】
さらに、本発明は、放射性標識化カルボキシレートの製造方法に関するものであり、該方法は、
・溶媒中で少なくとも1種の前駆体分子を準備するステップ;
・溶媒に放射性標識化シアン化物を含む少なくとも1種の反応体を添加するステップ;および
・前駆体分子を反応体と反応させて、放射性標識化カルボキシレートを得るステップ;
を含み、ここで、反応は微小構造体上で行われる。
【0061】
図3は、例として、シアン化物を使用する還元カルボキシル化を示す。
【0062】
さらに、本発明は、放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための、放射性標識化二酸化炭素の使用に関するものであり、ここで、二酸化炭素は、合成の間、溶媒中に完全に溶解されている。
【0063】
さらに、本発明は、放射性標識化二酸化炭素を反応させて放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための、微小電極の使用に関する。
【0064】
本発明の第1主題に関する前記の変形形態および実施形態も、本発明の他の主題に関連する。
【0065】
図1〜4中の式略図は、本発明によるカルボキシル化の選ばれた例を示す。
【0066】
図1は、還元的な電気化学的カルボキシル化によるα-アミノ酸の合成を示す。前駆体分子、式(R1R2C(NH2))+のイミニウムカチオンは、例えば、ケトンR1R2COからのアンモニアおよび水素を用い、水の除去を伴うStrecker合成によって合成される。イミニウムカチオンを、2つの電子を取り込むことによって還元し、かつ放射性標識化二酸化炭素を添加することによって反応させて、アミノ酸塩R1R2(H2N)11C(COO-)を得て、その結果として、カルボキシル基の炭素原子は、放射性標識化されたものになる。カルボキシル基は、プロトンの添加でさらに加水分解され、アミノ酸塩が反応して、アミノ酸が得られることになる。この合成の場合、酸性プロトンを保護することを省くことが可能である。
【0067】
図2は、還元的な電気化学的カルボキシル化によるα-ヒドロキシ酸の合成を示す。前駆体分子は、ケトンR1R2COであり、ケトンは、2つの電子を取り込むことによって還元され、放射性標識化二酸化炭素を添加することによって反応させて、α-ヒドロキシ酸塩R1R2HO11C(COO-)が得られる。α-ヒドロキシ酸塩は、プロトンを添加することによってα-ヒドロキシ酸へ加水分解される。
【0068】
図3は、イミンからの、プロトンさらには放射性標識化シアン化物11CN-の組込を伴う放射性標識化ニトリルの合成を示す。放射性標識化ニトリルを加水分解して、さらにアミノ酸を得ることができる。
【0069】
図4は、毛細管を有する電気化学的微小連続フローリアクターの実施形態を示し、その毛細管の内壁がカソード1を構成する。さらに、微小連続フローリアクターは、毛細管中の中心に配置されたアノード3(ワイヤ)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性標識化カルボキシレートの製造方法であって、
・導電性塩を含む溶媒中でカルボキシレートの少なくとも1種の前駆体分子を準備するステップ;
・放射性標識化二酸化炭素を含む少なくとも1種の反応体を溶媒中に導入するステップ;および
・放射性標識化カルボキシレートを得るために、前駆体分子を放射性標識化二酸化炭素と電気化学的に反応させるステップ;
を含む、放射性標識化二酸化炭素が、前駆体分子の反応の間、溶媒に完全に溶解されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
カルボキシレートが、α-ヒドロキシル酸塩および/またはα-アミノ酸塩であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前駆体分子が、ケチミン、アルジミン、ケトン、アルデヒド、およびこれらのイオンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
導電性塩が、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アンモニウム、アルキル-、シクロアルキル-、アリールアンモニウム塩、および第四級アンモニウム塩、とりわけ、テトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウムテトラフルオロボレートおよびテトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶媒が、アミド、ニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、および開鎖さらには環状エーテルからなる群からとりわけ選択される有機溶媒であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
カルボキシレートを得るために、反応体を、前駆体分子と1ステップで反応させることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
放射性標識化二酸化炭素が11CO2であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素が、2バールを超える、好ましくは5バールまたは5バールを超える圧力下で溶媒中に導入されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応が、連続フローリアクター中で行われることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
反応が、微小構造体上で行われることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
微小構造体が、少なくとも1つの微小電極を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
微小構造体が、分割されていない空間中に配置された2つの微小電極を含むことを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
微小構造体が、コーティング、管状モジュール、線状素子、二次元格子、二次元表面、および三次元メッシュからなる群から選択されることを特徴とする、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
管状モジュールがカソード(1)であり、線状素子が、カソード(1)の内部の中心に配置されたアノード(3)であり、かつカソード(1)およびアノード(3)が、カソード(1)の縦方向およびアノード(3)の縦方向が互いに平行に延びているように互いに相対して配置されていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
二次元表面が、それぞれの場合に、長方形の微小構造体の対向壁上に配置されているアノードおよびカソードであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
カルボキシレートの少なくとも1つのカルボキシル基を酸性で加水分解するステップをさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
溶媒からカルボン酸を単離するステップをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
二酸化炭素が、合成の間、溶媒に完全に溶解されていることを特徴とする、放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための放射性標識化二酸化炭素の使用。
【請求項19】
放射性標識化二酸化炭素を反応させることを特徴とする、放射性標識化カルボキシレートを電気化学的に合成するための微小電極の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−500294(P2013−500294A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522070(P2012−522070)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059726
【国際公開番号】WO2011/012413
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】